PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<蠢く蠍>義賊と貴族

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 幻想の辺境、そこには幻想蜂起でもあまり激しい騒動が起こらなかった比較的安定した地域があった。
「――で、アンタは何しに来たんだ」
 蠍のタトゥーを刻み、酷薄な表情を浮かべた青年にそう問いかけたのは大柄な男だった。
 体は歴戦の証か刃傷が多く、眼光は静かで力強い。
「分かってんだろ?」
「キングとやらには協力せん。俺達は、あんなのと一緒に動く気はない」
「そうかい? これを見てもそう言えるか? 俺達はいつだってやっていいんだぜ?」
 そう言って青年は男に向けて写真を放り投げる。
「ふん。俺達はとっくの昔に覚悟を決めてる。妻子だ……て……」
 言いつつ、写真を見た男はそれを拾い上げ、くしゃくしゃにそれを握りしめた。
「……何を、すればいい」
 ぎりぎりと奥歯を食いしばり、憤りながら殺気さえ込めて青年を見上げた。
「あははっ、いいね。いいねえ、その顔。そう、それでいいんだ! ほら、もひとつ証拠を用意したよ!」
 言って、青年が取り出したそれは、小さな小さなロケット付きのペンダント。銀色で、ロケット部分以外はどこかの紋章を模したように見える。
「そ、そいつは!! 止めろ!! なんだっていうことは聞いてやる。だから――だからあの人やあいつに危害を加えるな」
「くけけけ! いいねえ。いいねえ! その表情! 怒りに揺れ、理性で抑えるその表情。そうこなくちゃなぁ!! それじゃあ、いつも通り兵を上げなよ。んでもって――略奪しな。領内に住まう天下の義賊、仁義を尊ぶ民衆の味方様が、民衆を苦しめるさまを見せてほしくてねぇ!!」
「――ッ!! ゲスが」
 手を振り上げ、写真を投げつけ――るのを耐えて、そのまま机にたたきつける。バギッと音を立て、机が真っ二つに割れた。


 戦火の火が砦を囲っていた。
「やはり、どう考えても負ける、か」
 城壁の上、兵士達の雄叫びと悲鳴に揺れる中で、壮年の男は手を顎に置き、そろりと撫でながらそう苦悶する。
「……足りんな」
「足りん、とは?」
 そばに来た若い士官の問いに、男は何も答えない。
 飛んできた魔法を体裁きでそろりと躱して、じろりと城壁の下、敵の総指揮を務めているであろう男の居場所を見つめる。
「アネル、敵が破城槌で突撃をかけてこよう。城門の前に油を入れた木桶を用意しておけ」
「了解いたしました」
 士官に適当なことを命じて下げ、もう一度、溜息と共に足りない、と声を漏らす。
「あと保って十日か……さて、ヨルク、お前なら次は……」
 ぶつぶつと呟きながら、目を閉じる。奇策も、常道も、いく通りも考えては消していく。相手が、自分が、互いを知りすぎている事が本気になるとこうも面倒とは思わなかった。
「どうするにせよ、決定打が足りないのは事実……ここが死地か」
 やれやれと、笑うしかなくなって男は笑い声をあげた。
「だがなぁ、友よ……最後まで足掻かせてくれや」
  眼下にてこちらを食らいつくさんと攻め立てるかつての親友に告げる別れの言葉にしては、あまりにも軽かった。


 瞬く間に勢力を拡大する『新生・砂蠍』の脅威は、この辺境にある小さな貴族領にまで伝播しつつあった。
 その領地は、貴族と義賊の二勢力に割れていた。とはいえ、貴族も圧政を敷くわけではなく、良くも悪くも平凡な政治を行い、義賊たちは連携を取り、犯罪者たちを掌握する。毒を以って毒を制すとでもいうべき必要悪として利用しあって生きてきた。
「そんな義賊が、今回も領内で騒動を起こしたんだが、今回はこれまでと全然違う」
 襲った土地では乱暴狼藉を起こし、焼き討ちし、みだりに虐殺を起こす。あまりにも義賊などとは程遠い悪逆非道を繰り広げながら、彼らは真っすぐに領内における中心都市へと進撃を開始したという。
 件の中心都市へ招かれた君達は、そこにいた青年貴族と壮年女性の貴族と向かい合っている。
「親父はさ、どう考えてもおかしいってよ。そんでさ、最近は砂蠍? ってのが騒いでんじゃん? それ関連な気がしてさ。あんたらに相談なんだ」
 若い青年貴族はイレギュラーズへと身を乗り出した。
「お願いだ。助けてほしい。うちの全兵力は防衛用の戦力と……父ちゃんが負けた時の備えを残してここにある砦に籠城してる。あんた達には包囲してる賊軍を追い払って砦を開放してほしい」
 街道沿い、ここを取らずに進むことなどまず不可能といった立地に建てられた城塞のようだ。
「敵の大将の義賊ヨルクは、父ちゃんと叔母ちゃんの学生時代からの友達でよ。その頃から英才を讃えられてて。父ちゃんはいっつも言ってた。俺が生きてあいつと共に戦場に立ってられるのは、あいつが常に手を抜いて、俺達を殺さないようにしてくれてるからだって」
 あくまで義賊となれば、たとえ貴族領全土を平定しようとその後に待つのは幻想貴族による平定地域の争奪戦であろう。
 それが起こらないように、良い時期に出征し、良い時期に退却するということをこのヨルクは繰り返していたようだ。
「だから、本気で俺達を殺すために進撃してきたら、負けちまうかもしれねえ。いや、負ける。ただでさえ俺達とヨルクは長年の戦友だ。どっちも相手のことを分かってる。決めたら手を抜けるほど、不真面目になれねぇ男だ……ってよ。父ちゃん笑ってやがった」
 声を震わせ、青年は君たちに告げる。
「砂蠍が関係している証拠はあるのか?」
「あぁ、義賊軍の中から脱落してきたやつを捕まえたら言ってたんだ。数日前、頭の元に蠍のタトゥーした餓鬼が仲間連れて合流したいつってから、頭は何か悩んでたみてぇだってよ」
「お願いします。兄と彼をーー助けてください」
 必死に懇願するような青年に対して、ある程度の平静さを保ちながらも、女性は悲鳴にも似た声を上げる。
 顔を上げた女性は首元あたりに触れると共に、どこか寂しそうな表情を見せた後、すぐに目を閉じてしまう。

「火事場泥棒より堂々と姿を見せてきたって事は『何か』があるかもな」
 どこかこれまでの『新生・砂蠍』関連と似て非なる何かを感じる中、この町へ訪れる前、ローレットにて君達へそう言ったレオンの言葉が、ふと頭をよぎる。彼の言う『何か』とも違う、けれど何か狡猾な思惑の感じる戦場へ、君達は足を進めていった。

GMコメント

ーーーーーーーーーー
こんにちはこんばんは、あるいは初めまして。春野紅葉と申します。
さて、早速ですが今回の情報のまとめと補足に参りましょう。

●成功条件
第1条件:城塞を包囲する義賊軍を追い払い、籠城する貴族及びその軍勢を救出する。
追い払え、であり、完全な殲滅までは出来なくても構いません。
第2条件:義賊ヨルクの生存及び捕縛。
第1条件は絶対に達成しなくてはならないもの、第2条件は出来うる限り目指すべきものとなります。

方法に関しては戦闘に乱入して追い散らすもよし、忍び込んで説得するもよし、ご自由にお任せいたします。


【義賊ヨルク】
義賊軍の総大将です。進退の判断が非常に上手く、(お互いに手を抜いてきた)領主との戦いはもちろん、領主を不甲斐ないと評した貴族の軍勢を相手にも上手く逃げてきました。
とはいえ、今回はオープニング上の非道さに加え、手を抜いていると言うのとも違う、精彩を欠いた戦いをしています。

性格は冷静でありながら豪胆な人で、当初は砂蠍の勧誘すら退けましたが、今は従わざるを得ない様子。

【義賊軍】
夫や妻の借金で首が回らなくなり、思わず取り立て屋を殺してしまっただとか、早くに父母を失い、食うものに困って盗みを働いた子供だとか、自分ではどうしようもない、しかし法規上は悪と呼ぶしかない人たちを庇護し、はっきりとした悪意を持って悪を為しながら法の抜け穴を使ってのさばる悪人には徹底的な報復をこなしてきたヨルク率いる精鋭の軍勢です。
ただし、今回はオープニング上の非道さにより脱落者が出ているほか、非常に士気が低い状況にあります。

【『悪辣な空巣』デニス】
蠍のタトゥーをした青年です。
手練れの空巣でしたが、どうやら今はキング・スコルピオの配下となっている様子。彼が盗んできたネックレスは何やらヨルクにとっても大切なもののようですが……?
組織立った空巣の犯行が常であり、その手下はどこに潜んでいるかわかりません。
彼が何を考えているのかは今のところ不明です。ご注意ください

【領主】
城塞防衛側の総大将です。
今は豪放磊落といわんばかりの軽い調子でいますが、はっきり言って将兵のためのパフォーマンスであり、彼の精神が折れていないことが籠城側の将兵の命綱であるといえます。

【領主の妹】
2歳違いの兄とその学友であったヨルクとは仲が良かったようですが、卒業と共に他家に嫁ぎました。現在は夫を失い、前夫の家で空巣にあったらしく、身一つで出戻りしてきました。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <蠢く蠍>義賊と貴族完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年10月14日 21時55分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)
ナンセンス
アラン・アークライト(p3p000365)
勇者の使命
郷田 貴道(p3p000401)
人類最古の兵器
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
希望の聖星
ダークネス クイーン(p3p002874)
悪の秘密結社『XXX』総統
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
Ende-r-Kindheit
ガーベラ・キルロード(p3p006172)
noblesse oblige
コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)
信仰者

リプレイ


「……首元を触っていたようだが、近日、何か大切な物を盗まれていないだろうか?」
 『KnowlEdge』シグ・ローデッド(p3p000483)は依頼に出発するよりも前に、淑女といった雰囲気の貴族へそう問いかける。
 依頼してきた側であるということと、同じく貴族である『農家系女騎士令嬢様』ガーベラ・キルロード(p3p006172)の口添えもあって、女性はすぐに答えを口に出す。
「……実はヨルクに貰ったネックレスがあったんです。あれは、学生の頃に彼が特注で作って貰ったもの。この家の紋章をイメージして作ってくれた物だったんです。でも、嫁いだ先で空き巣に入られて一緒に盗まれてしまって」
 切なげに目を細めて女性が言う。
「ヨルクさんとは親しかったのですか?」
 『信仰者』コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)が問うと、女性は静かに頷いた。
「ええ、彼は元々、私達に代々仕えてきた家系の出だったのです。私はもう一人の兄のように……いえ、それ以上にお慕いしておりました」
「では、彼に伝える言葉はありませんか。些細な事でも構いません。私が届けてみせましょう」
 コーデリアの続けた言葉に、女性は少しだけ考える様子を見せて――やがて口を開いた。コーデリアはそれをリピートサウンドで記録する。
「分かりました。お伝えしましょう」
 全てを取り終えて、コーデリアは言うと踵を返す。
 残った『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)はその場にいる青年へ相談を持ちかけていた。
「ヨルクさんがそういう人なら、裏にきっと何かあるはず。警備の中から特に信用を置ける人をかしてもらえないかな?」
 出来る限り小声で相談すると、青年は深くうなずいた。
「なら、ウチに代々仕えてる人から何人かを選んでつけとこう」
 頷いている青年から顔を上げながらミルヴィは感情探知を続けていた。しかし、悪意のような物はない。他に何かあるのではないか。裏切り者が他に覚えそうな感情を探っていく。そんな中でふと、引っかかった。
 悪意じゃない。これは、罪悪感だ。向けられている感情の方向に一瞬だけ視線を向けて誰かを確認した後、素知らぬ顔で領主の妹の下へと近づいていく。


「ローレットからの領主側の援軍出来た!」
「……なるほど、イレギュラーズか」
 城塞の中へ訪れた『ナンセンス』オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)は兵士から聞き出して城壁の上で軍勢を見下ろしていた壮年の男の下に辿り着いていた。
「いくらか兵を貸してくれたら俺が城門の外で戦うぞ?」
「良いだろう」
 オーカーは領主から指揮権委任状を受け取ると、兵を選んで城壁の外へと躍り出る。
「進め」
 及び腰の兵士達を叱咤して、オーカーは兵を前に進める。義賊軍の兵と同程度かやや士気が高いぐらいか。ざっと見た限りどの兵士も疲弊しているのだ。それでもオーカーの兵隊指揮に従って城壁の外へ打って出たのは、後ろに守るべき主君や家族がいるからか。
「死にたくなかったら隊列を整えろ! 踏ん張れ! お前らが倒れたら次には後ろの家族がやられるんだ
 兵士たちが雄叫びを上げ、気合いを入れる。その様子を見ながら、オーカー自身も手に持つハンドアックスを義賊兵に振り下ろした。

「如何なる理由があろうとも、行動には責任が付き纏う物である。それなりの落とし前は覚悟して貰わねばな」
 飛び道具と魔法が飛び交う中、そんな声と共に『悪の秘密結社『XXX』女総統』ダークネス クイーン(p3p002874)は戦場を冷たく見下ろした。
「我こそは悪の秘密結社「XXX」が総等!ダークネスクイーンである! 悪には悪のルールがある! それ無くしては貴様等は只の獣の群れ同然である! 大人しく逃げ遂せるならばよし! 歯向かうならば……このダークネスクイーン、容赦せぬ!」
 口上と共に世界征服砲を城壁に群がろうと進む義賊軍に向けて打ち込んだ。極限にまで高められた暗黒のオーラを凄まじい太さのビームとなって義賊軍を焼き払わんと進む。
 直撃を受けた義賊の複数を中心に、混乱と動揺が敵軍に伝播していく。
 シグは己を剣に変えていた。剣身に炎を象ったエネルギーを練り上げ、収束。紅蓮の焔として破壊力のままに振り下ろした。広範囲を巻き込んだ炎の一撃が、敵兵たちを焼き払っていく。
 征服砲と偽・烈陽剣の炎が敵陣を払うのとほぼ同時、ソレは現れた。蒼に煌めく軌跡は流星の如く。星の力を秘めた大剣は義賊の一人を貫いた。
「俺達は虐殺に来たんじゃない。死にたくなけりゃ下がってろ」
 傷を負った義賊兵を見ながら、『星を追う者』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は胸糞悪さを吐き出すように敵兵へと告げながら、少しばかり心を痛ませながら、次の敵へ狙いを定めながら、五感共有でミルヴィからの罪悪感を持っている少し挙動が不審な給仕の情報を受け取ってから情報を味方へと伝達する。
 その一方で傷の深い敵兵を見つけては気絶していることを確かめてから、傷を癒すためにハイ・ヒールをかけてやる。

「まあ、やるせないが……ミーが来た以上、運が悪かったと思って諦めな」
 敵陣へ殴り込みをかけた『ボクサー崩れ』郷田 貴道(p3p000401)が撃ち込んだ拳は凄まじい威力を持って兵士の鎧を貫き、その肉体さえ貫いた。
 なぜ死なないのか分からないその一撃を受けてうめいた兵士からすぐに離れていく。
「HAHAHA、悪いことは言わねえ! 今のうちに逃げとくか、降参するのがベターだぜ?」
 敵陣に向けて声を上げて告げる。敵兵たちが怯んだのを確かに感じ、貴道は次の兵士に向けて走り出した。

 『太陽の勇者様』アラン・アークライト(p3p000365)は右手に集中させた自らの力を爆ぜさせる。爆発は混戦の開始に動揺する義賊兵たちを更に深い混乱に落とし、爆風でその身体を吹き飛ばした。
「うおおおオォォ!!」
 ド派手な一撃に怯んだ兵士達に対して一喝。太陽の勇者の雄叫びが戦場に響いた。
 傍若無人な勇者は戦場を疾駆しながら、向かってくる兵士を巨大剣で打ち据え、しかし瀕死の状態で倒れている兵士を見つけたら応急処置を施していく。
「アランさまの事、命を奪うだけの勇者かと思っておりましたが、改めたほうがいいですか?」
 『銀凛の騎士』アマリリス(p3p004731)はアランの様子を見とめるやそんなことを言ってみせる。
「てっめぇ……誰が人殺しばっかの勇者だコラァ!?」
 キレ気味に言うアランに太陽を落とされてはたまらないと、アマリリスも慈悲の帯びた一撃で兵士を昏倒させる。
 その一方で、アランは自分が攻撃しては殺しかねない相手についてはアマリリスに任せて殴りかかっていく。
「しかしアマリリスよ。本当に見つかんのか?」
「可能性の話はしません、行動あるのみ、です!」
 二人が見据えるのは、この義賊軍を退けた先、これを仕掛けた男へ一矢でも報いること。指揮の低い雑兵よりも、裏に潜む悪意への報復の方が、二人を突き動かしていた。

 ガーベラは義賊兵が打ち込んできた攻撃に添えるようにしてドラグヴァンディルを打ち込んだ。その近くではコーデリアが至近距離にいる義賊兵を蹴り倒している。
 イレギュラーズ達の参戦による混乱と、オーカーが連れてきた城塞の兵士達の攻撃により、義賊軍の前線は徐々に、しかし明らかに後退している。
 そんな中で、コーデリアはふと義賊軍全体に比べて後退に違和感を覚える集団を見た。
「あれが――」
 近くにいた兵士を昏倒させホーリーオーダーを向け――狙い澄ませた一撃をその集団で指示を出す者へ撃ち込んだ。
 弾丸は吸い込まれるかのように指示を出す敵を打ち抜く。致命傷とは言えない場所に当たったのか、そいつがこちらに振り向いた。
 顔に刻まれた蠍のタトゥー。ばっちりと視線が合った途端、その一団は一気に戦場を離れて後退していく。追おうにも周りにいる義賊兵が壁になって追いすがるにはやや遠い。
 ギラリと睨んだまま、狙いを近くの義賊兵へと切り替えた。 


 ミルヴィは城塞の中、領主の隣に辿り着いていた。
「そうか。裏切者か」
 ミルヴィが告げた可能性に、領主は淡々とそう告げる。
「まぁ、いるだろうな」
 組んでいた腕を外して、髭をゆるりと撫でる。
「その様子、だいたい誰だか分かってるのカナ?」
「あぁ、アネル。若い士官だ。そいつを探せ。そちらの言う通りなら、時期に砦を抜けて敵と合流するんじゃないか?」
「貴方の護衛は……」
「いらん。そも、これから先、俺は勝負を決めに行く。適材適所、俺よりもフットワークの軽い君達があいつを追ってくれた方がいい。違うか?」
「それは、たしかに……」
 領主はミルヴィから離れて、兵士たちに指示を飛ばし始めた。
「騎兵を集めろ。そんなに多くなくていい。目指すは一つ――あいつの本陣だ」
 壮年領主の双眸は、勝敗を決する策を見出したのか、楽し気にぎらついていた。


「見えた……誰か出てきたか」
 シグは戦場の中、義賊軍のほぼ中央にある場所から一人の男が姿を現わしたのを見つけた。周囲の様子を伺うような動作をした後、男はそそくさと兵士に紛れてどこかへ消えていく。
 恐らくは本陣。何となく推察し、事前に決めていたダークネスとコーデリアへ伝える。敵陣の中で味方が射線から居なくなったのを確かめると、本陣目掛けて偽・烈陽剣をぶっ放した。
 人々と地面を焼き払いながら開いた道へ、シグや他のイレギュラーズ達は走りこんでいく。
「将の命令に疑問を覚えているのなら、武器を向ける相手を違えるな! 悲しみを知る、貴方たちのような存在が新たな悲しみを生んではいけない。戦いをやめて!!」
「貴方達は義賊なのでしょう!悪と言われようとも誇りがあったのでしょう!
未だそれが一片でも残っているのならよく見るのです!『悪』は『誰』なのか!」
 腰砕けになりながらも邪魔をしようと道をふさぐように立ちふさがる兵士達にそう声をかけたアマリリスの姿に続くようにコーデリアが告げれば、ほんの一瞬、兵士たちの得物の穂先が下がった。
 それだけで十分だった。イレギュラーズ達は敵兵を半ば強引に突破して、遂にそこへと足を踏み入れた。
 陣の中には男が一人。
「イレギュラーズか」
 護衛も参謀のような存在の姿もなしに、たった一人、男はそこで座っていた。
「ヨルクさんですね?」
「あぁ」
「聞き逃さないでくださいよ。大切な者の声を!」
 叫ぶように告げたコーデリアは保存しておいた音声を再生する。
『お久し振りです。ヨルク様……私は無事です。何があったのかは存じ上げません。ですが何かあったことぐらいは分かります。私は今、貴方が攻め立てる城塞の向こう、私達の故郷にいます』
 その声を聴いた瞬間から、ヨルクが優しい表情を浮かべている。
『私は、兄と貴方が戦うところを見たくありません。どうか降伏してください。ここで城を落としても何もならないことなんて、貴方も分かっていたのではないですか?』
 利を以ってそう伝えた女性の言葉にも、ヨルクは常に優しい表情を隠さない。
『あの時はごめんなさい。お父様を振り切る勇気がなくて。でも、今はそんなことはどうでもいいのです。私には貴方を』
「そこから先はよせ。気持ちは伝わった。だが――まだ駄目だ」
 ヨルクから返されたには、否定の意だった。
「命を懸けた抵抗は止めてほしい」
「オーホッホッホ! このガーベラ・キルロードの名において義賊軍に不当な扱いをさせないことを約束しますわ」
「あぁ、分かってる。そっちがやろうと思えば俺を殺せることも、不当に扱わないであろうことも。だが、駄目だ。斬り捨てた命のためにだとか、そんなんじゃない」
 シグとガーベラの言葉に返すと、イレギュラーズ達へくしゃくしゃに丸めた写真を二枚、放り投げる。
「見ろ。そして言いたいことが分かったら――あいつらを捕まえてくれ」
 くしゃくしゃに丸められたそれを広げみる。
 一枚は領主を向かいに写した写真、もう一つは部屋の中で着替えを手伝ってもらっている領主の妹の写真。
「これがどうだというのだ」
「待ってください、これ部屋の内側から撮ってるんですか?」
「こっちは軍議の真っただ中……か?」
 軍議の最中――軍の行動を決定するような重要な位置にまで間者が潜んでいる。領主の妹を直接世話をする者達かその様子を見ていて何の違和感が無い者に間者がいる。
 それは、貴族の家臣団の中で中枢に比較的近いところに裏切者の毒牙が潜んでいることに他ならない。
「こいつらを含めて、デニスの配下を潰してくれ。俺は逃げない。どうせあと少しであいつもここに来るだろう」
 そう言ってヨルクがイレギュラーズを追い立てる。その時、本陣に一人の男が駆け込んできた。
「兄貴!! 領主が打って出てきました!! 真っすぐこの本陣に向けて突っ込んできます!! お逃げくださ――」
「逃げん。今更逃げたところであいつは俺を捕まえるだろう。兵士達に決めておいた合図を出せ」
「承知しました……」
 おびえた様子も見せず男は出ていった。コーデリアのエネミーサーチでもその男が引っかかることはなかった。
「もう一度言うぞイレギュラーズ。追え。あれを捕まえられるかどうか、それがうちの領地の明暗を分けるだろう。恐らく、あいつらは俺達よりさらに南、すぐ近くにあるこの村にいる」
 ヨルクは目を閉じた。本陣を後にしたその直後、道を開けた義賊兵の只中を突破して、十人ほどの騎兵が本陣へと突撃していった。


「イレギュラーズ……なるほど、イレギュラーねぇ」
 軽薄そうな顔でしみじみとそいつは笑っていた。肩には蠍のタトゥーが刻まれている。
 城塞からやや南、義賊軍の退路にも相当しうる場所にある小さな村。そこは村人などでは決してない、数人の男女がいた。
「お見事。それにありがたいこって。これで――腑抜けた盗賊どもは俺らのもんだ」
 顔に蠍のタトゥーをした男から伝え聞いた情報に対して、そんな感想さえ述べる。
「あなたがデニスですね?」
「あぁ?」
 肩にタトゥーを刻んだ男の視線が、アマリリスを見た。
「見つかるとはありがてぇ……一発食らわせられんだな?」
 にやりと笑んだアランがそれに続く。
「かはははっ、アンタらがイレギュラーズか?」
「腑抜けた盗賊どもってなんのことカナ? これまで盗賊とかを抑えていたヨルクが消えたから、その後釜に自分達がつこう……とか?」
「ご明察だねぇ! 天下のイレギュラーズ様は!」
 ゲラゲラと癇に障る笑い方をして答えたデニスに対して、ミルヴィは妖剣を抜いた。
「胸糞悪いな……ぶっ潰してやるさ、その悪巧み」
 ウィリアムが言えば、ダークネスも悪のルールを踏みにじるようなデニス達に特大の一撃を見舞わんと構えを取る。
「私が撃ちぬいたのはデニスではなかったのですね」
 コーデリアはじっと自分が撃ちぬいた男を見つめ、拳銃を向ける。
「オーッホッホッホ! キルロード男爵家の名において、ここで捕まえて見せましょう」
 高笑いを終えるとガーベラは家宝たるドラグヴァンディルを構える。
 貴道もファイティングポーズを取り、一人の砂蠍の前へと移動する。
 シグはその様子を見ながら味方を巻き込まないように射線を調節する。
 ダークネスの征服砲と位置取りを気を付けたシグの偽・烈陽剣が周囲の砂蠍を焼き払う。
 ミルヴィの暁の饗宴により命中精度の引き揚げられた一撃は、多くの砂蠍を巻き込んで通過していく。
 ウィリアムがマリオネットダンスで一人の砂蠍を絡めとる。動きを封じられた一人に向け、貴道の拳がめり込んだ。
 ガーベラが華麗な連撃を見舞い、コーデリアは容赦ない精密射撃を打ち込んでいく。
 猛攻を受けたデニスの反撃は、アマリリスへとむけられる。強烈な一撃を受けながらもそれを防ぎ切り、ぐっとデニスを見る。
「どれだけ無様で、力足りずとも、今、この場で膝をつく理由なんて何一つ無いのよ」
 静かに気丈な声を上げるアマリリスに、デニスが愉悦にほおを緩ませる。しかし、その頬の緩みは、直ぐに硬直に変わる。
 力を込められたアランの一撃が、デニスの脳天めがけて振り下ろされたのだ。

 士気が低くそれほどの力を使わずとも勝てたとはいえ、連戦となったイレギュラーズだったが、砂蠍を順調に倒し、残りはデニス一人となっていた。
 顔を引きつらせ、逃げの一手と踵を返したデニスは、そのまま固まった。
「どこへ行く?」
 オーカーは、デニスらの退路を塞ぐようにして布陣していた。
「時期に貴族軍も辿り着く。終わりだ」
「くけけ……そりゃ拙い……参りました、降参します――なんてなぁ!!」
 膝をついて首を垂れかけたデニスはカッと目を見開き、そのままどこから取り出したかわからないナイフでミルヴィへと走る。
「とうに気づいていたヨ! アンタの醜い心には!」
 奇襲に合わせるように舞い、その剣舞がデニスの方を大きく裂いた。
「ぎゃぁぁあああ!?!?」
 そんな叫びと共に上を見上げたかと思えば、そのままウィリアムに向けて突貫する。ウィリアムは静かに星の剣を呼ぶと、まっすぐにデニスの足を貫いて杭のようにその動きを止めた。
 その後、追いついてきた貴族軍の手でデニスや砂蠍は回収され、後日、ローレットへと引き渡されることになる。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。

PAGETOPPAGEBOTTOM