PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<黄昏の園>龍は長閑の営みをまねども、為し方を知らず

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 黄昏の園ヘスペリデスの調査は進んでいる。
 黄昏の方角にある前人未到の領域は少しずつイレギュラーズへその姿を見せている。
 そんな美しき黄昏の園の一角、小さな湖のような場所を見つけたイレギュラーズは、その中心の小島に腰をかける女性の姿を見た。
 邪魔にならないように迂回してみれば、鱗と尻尾を持ち頭頂部に角を生やした風貌は亜竜種のようにも見える。
 だが、このヘスペリデスで釣りなどという人間の趣味じみた事をしている余裕がある時点で、彼女が人のはずもなく。
 彼女の周囲では小型の鳥や小動物を思わせる亜竜たちがのんびりと過ごしているようだ。
 こちらのことをまるで気にもせず、女性はのどかな川辺を見つめている。
 よく見れば彼女の方から川に向けて何かが延びていた。頼りないほどに細長く、緩やかに曲線を描いたそれは。
(釣竿、ですかね?)
 佐藤 美咲(p3p009818)は形状から何となく察しをつけた。黙したまま、あえて声をかけずにいた。
 ふいに女性は釣り竿らしきものを「ついっ」と引っ張りあげる。
 グンと勢いをつけた釣り竿はしなりを上げて反対に放物線を描き、めきりと音を立てて圧し折れた。
「……はぁ、やっぱり駄目ね、人の子というのはこんなものが楽しいの?」
 嘆くようにし溜息を吐いた女性が、そう語り、こちらを振り向いた。
 どうやら、声をかけられていたらしい。
「こんにちは、というのが人の子の挨拶だったわね。我は将星種の一角、『碧岳龍』トレランシア」
 穏やかに、柔らかく女性――トレランシアはイレギュラーズの方を向いた。
 その動きに対して、周囲の亜竜達がそそくさと邪魔にならないように遠巻きに道を開ける。
「トレランシアさん、まさかこんなに早く再会できるなんて!」
 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が言えば、トレランシアは微笑みを浮かべていう。
「それを喜ぶのなら、人の子よ。己の行動を多少なりとも誇ると良いわ。
 我はここと入り口辺りを往復しているだけ、そちらがここまで踏破してきただけなのだから」
 ヘスペリデスの調査が進んでいるが故に、自分がいる場所にまで辿り着いただけだ、と。
 そう語ったトレランシアは微笑のままに首を傾げた。
「そっか……でも、トレランシアさんはここで何をしてるの?」
「何って……何かしらねぇ……我が庭に住まう小さき命が、人の子がこういうことをしていると言っていたわ。
 何がしたいのか分からないから、何となく試してみたのだけど……駄目ね。龍の膂力じゃあ、簡単にへし折れてしまうわ」
 そう言ってトレランシアは小さく溜め息を吐いた。
「そうなんだ……トレランシアさんは私達のことを理解しようとしてくれるんだね」
 スティアが言えば、トレランシアは首を傾げ。
「ふふ、そういうわけでもないわ? そうね……人の子、貴方達の中には動植物や虫の生態を観察する者がいるわよね?
 我の欲求もそういうものと同じと考えればいいわ」
「……人の研究ということですか」
 美咲が言えば、トレランシアは微笑むばかり。
「そうそう、義手の子。貴方、我に成果を報告していたわね。
 たしか……貴方達は女神の欠片が欲しいのね?
 それなら――我の代わりに、さっきまでやっていたアレをやってみるといいわ」
 そう、トレランシアは笑う。
「この湖には、女神の欠片が鱗に挟まってる亜竜がいるわ。
 あれは結構おいしくてね、せっかくだからやってみればいいわ」
 そう言って、龍はその場から数歩後ずさり、それに続けて亜竜達もまた下がっていく。
 やってみろ、ということだろう。
「餌やら釣り竿? とやらが欲しければ、あの樹から取ってくればいいわ」
 そう言ってトレランシアは島の中心に立つ大樹を指し示す。
 樹に実る果実は、よく熟れているようだ。


(……人の子のやることはよく分からないわ)
 春の日差しに照らされた湖面はちりちりと輝いていた。
 湖面に垂れた糸は緩やかに垂れている。
(……こんなに脆いものでどうやって人の子は魚を獲るのかしら)
 眷属たちが人の子の文化圏にて見たという、棒状の道具。
 それを水に垂らして人の子は魚を獲っていたという。
(龍にはこんなもの必要ない。
 見よう見まねでやってみたけれど……何がいいのか分からないわ)
 棒が湖の中から引っ張られたのを感じて、女性は手を少しばかり引っ張った。
 たったそれだけで、しなりを上げた棒がべきりと圧し折れ、引っ張った主であろう亜竜が地上に吹っ飛んでいく。
(本当に……これの何が良いのかしらね)
 唸り声をあげた亜竜がこちらの正体に気付いて、途端に甘えるような声をあげた。
 きらりと鱗の一部が輝いて見えるその亜竜を無造作につかみ、再び湖の中へと放り投げる。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

●オーダー
【1】女神の欠片の確保

●フィールドデータ
 ヘスペリデスの一部、湖のようになっている場所です。
 湖面は透き通っており、覗き込めば魚型の亜竜が泳いでいる姿が見えます。
 その中の一匹の鱗が輝いているのが見えます。
 トレランシア曰く、その亜竜の鱗が女神の欠片になっているとのこと。

●状況
 ヘスペリデスの調査の最中、皆さんは龍種と遭遇しました。
 その龍は見様見真似で釣りをしていたようで、皆さんに亜竜を釣り上げて見せてと要求してきました。
 釣り、ということで釣り竿のようなものの他、様々な方法で釣りないし漁をしてください。
 素潜りでも構いませんが、水棲の亜竜が大量にいる湖の中で素潜りは大変危険です。お気を付けを。
 なお、この亜竜は味も良いらしく、釣果を用いた料理も要求されています。

●エネミーデータ
・『女神の欠片』竜鱗魚×1
 鱗の一部が女神の欠片になってしまった魚型の亜竜です。
 全長4~5m、見ればどの個体か一目瞭然です。
 ヒレが翼のようになっており、陸では空を回遊するでしょう。
 釣り上げた後も油断は禁物です、しっかりと仕留めてしっかりと調理しましょう。

・竜鱗魚×10
 女神の欠片の竜鱗魚に比べると一回りほど小型の魚型亜竜です。
 ヒレが翼のようになっており、陸では空を回遊するでしょう。
 釣り上げた後も油断は禁物です、しっかりと仕留めてしっかりと調理しましょう。

●NPCデータ
・『碧岳龍』トレランシア
 将星種『レグルス』の一角。
 長く艶のある美しい碧の髪と瞳をしたスタイルの良い長身の女性を思わせます。
 翼はなく、長い尻尾と頭頂部に角が生えています。
 本来の姿は翼と足を持たない蛇のように長い、いわゆる東洋龍のような姿です。

 比較的穏やかな印象を受け、慈母のような柔らかな雰囲気を持ちながらも龍らしく誇り高くもあります。
 以前に遭遇した際の『龍が殊更に人の子を虐めるのも、大人が子供に躍起になるようなものよね?』という台詞がその在り方を如実に表しています。

 人の営みに興味もありそうですが、どちらかというと『学者たちがその対象の営みを観察している』といったニュアンスの方が近いです
 明確に敵対こそしていませんが、あくまで『自分の領域外でイレギュラーズが活動しているから』にすぎません。

 味方ではないのでよく見積もっても中立、状況によっては対立もあり得る相手、ぐらいの心持でいましょう。
 釣り上げた魚をイレギュラーズが仕留めきれない場合、イレギュラーズ諸共消し飛ばす可能性もあります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <黄昏の園>龍は長閑の営みをまねども、為し方を知らず完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月08日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
囲 飛呂(p3p010030)
きみのために
ライオリット・ベンダバール(p3p010380)
青の疾風譚
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ


「ホント色んな竜種いるな」
「十人十色……という言葉が適しているかどうかはともかく、レグルスといってもスタンスは様々のようだね」
 トレランシアの方を見やり、『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)や『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はそんな感想を抱く。
 比較的に敵意を見せないとはいえ、油断できぬのはやはり竜というべきか。
「サイズ的に普通の釣り竿だとへしおれる気もするっスね。
 何か強度のあるものか柔軟性があるものを探してみた方が良さそうっス」
 湖の中をちらりと見た『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)もまた同じような感想を抱くものだ。
 そのまま湖の方へと近づいて、そっと手を湖に付けた――その瞬間、湖の奥から竜鱗魚がライオリットめがけて真っすぐに突っ込んでくる。
 思わず手を湖から出したのに合わせ、放物線を描いた竜鱗魚がそのまま湖に返っていった。
「ひとまず、餌には困ら無さそうっスね……」
 亜竜はライオリットの存在を餌とでも認識したのか、少し水面に近いところを遊泳し始めた。
「後は……あの樹が釣り竿にして耐えられるか見てきた方が良いっスかね」
「マグロ並のデカさな上に凶暴性はマグロより上。こりゃまた釣りごたえがありそうな獲物だな」
 ライオリットの様子を見た『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)はそんな感想を抱く。
「あのサイズを釣り竿で釣るのは相当骨が折れそうなのです。
 ……トレランシアさんと言いましたか。貴女は釣り上げるのに成功していたのです?」
 少しだけ湖の中を覗き込んだ『雨宿りのこげねこメイド』クーア・M・サキュバス(p3p003529)は唖然として龍を振り返った。
「そうねえ……1回は?」
「やっぱりやべえのです竜種……」
 事も無げに答えて首を傾げたトレランシアに改めてクーアはその規格外さにおののくものである。
「ま、まぁ……相当な差があるとはいえ、竜にできたことが人に、まして私(ねこ)にできない道理もなし。真っ向勝負で挑むのです!」
「素材探しに協力するので、釣り竿の工面はお願いするのです!」
「おう、任せとけ……お?」
 クーアへと頷いた『ボウズでもかまわんさ』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は大樹の根元に落ちていた枝を拾い上げ、少しばかり振り回してみる。
「この枝は中々良いな。長さも撓りも十分だ。後はこれをこうして……」
 撓りや長さを確かめれば、そのまま枝を即席の釣竿に作り変えていく。
「貴方、手際がいいのね」
 その様子を見ていたトレランシアがバクルドに声をかけてくる。
「俺は本職じゃないが放浪者なんでな、こういうことには慣れてるんだ」
 感嘆したようにも見えるのは人と竜のあまりにも違いすぎる膂力の差か。
(果実を切って……と。うん、結構いい匂いだな。餌代わりになるのも頷ける)
 飛呂は大樹から取ってきた果実をナイフで裂いてみた。ほのかに漂ってきた果実の香りは甘く、これを好む個体がいるというのも頷ける。
「後は……これは潰したら撒き餌に出来るな」
「へえ、敢えて潰すのね? 不思議な事をするのね、小さな子らは」
 匂いに釣られたのだろうか、気付けばトレランシアが隣に立っていた。
「あれだけ元気がいいと共食いとかもしそうっス。傷んだところを餌にしても良いかもしれないっスね」
 ライオリットも更なる試行錯誤を重ねていく。
「あれだけデカいと単純に釣る以外にも試しても良いかもな」
 クウハは大樹へと視線を向けた。
「これとか良さそうだ」
 大樹から垂れた蔦を握ってみれば、思いのほかちぎれそうにない。
(これなら網を作れそうだ)
 なるべく繊維の丈夫そうなものを選んでから網を作っていく。
「バクルド、網はこれぐらいでいいか?」
「そうだな、ついでにここをこうしておくのも良さそうだぞ」
 クウハが網をバクルドに出してみれば、彼はそれをちょちょいと改造してより頑丈に変えてみせる。
「これなら捕まえるため以外にも壁として進行方向の誘導に使うってのもありだな」
「また不思議な物を作っているのねえ……」
 それに気づいたらしいトレランシアが近づいてきて首をかしげていた。
「こういう方法もあるんだ。まぁ、亜竜だとあっさり食い破られる可能性もあるが」
「そうねえ……」
 クウハが使い方を説明すればトレランシアはそう首をかしげるばかり。
(珍しいことに興味を持つ竜もいたもんスねー、身も蓋もない言い方をするなら暇なんでスかね)
 口に出しこそせず、『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)はそんなことを考えていた。
(まぁ、人間でも80年を持て余すやつがいるんでス。それより長い命と優れた能力を持つ竜ならなおさらでしょう。
 あの竜が気にかけていたベルゼーは冠位暴食……これもある意味飢えと言うやつでしょうか)
 一先ずの納得をしつつ、偶然持っていた釣り竿を取り出して近づいていく。
「あんなでかいの、リールがない竿だと人間でも竿を折りまスよ。
 あそこの枝よりは脆いと思いまスが、それでもまだ使いやすいはずでス」
「あら、義手の……」
 驚いた様子を見せていたトレランシアは美咲を見て不思議そうに首をかしげる。
「トレランシア、折角でスからあなたもこれでやってみませんか?
 ……私らが釣りしてる間、あなたも暇でしょう。見本なら、ほら、私らがやりますから」
「ふふ、面白そうね」


「釣りの何が楽しいか、か。釣具を集めたりするのが趣味なやつもいる。
 釣ってる最中の駆け引きが好きなやつもいれば、魚拓っつう記録するためにやってるのもいる」
 そう語るのはバクルドだ。
「人間だってそれぞれかな?
 釣りが好きな人もいれば、生活するためにやってる人だっているよ」
 作ったばかりの釣り竿を片手に『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はトレランシアの近くに座って言う。
「好悪はともかく、生きる為にこれを選ぶのね……」
 不思議そうに首をかしげるトレランシアの隣でスティアは釣り竿を湖へと投げる。
「人間でももっと効率の良い魚の捕り方はあります。
 それでも魚の習性を考え、1対1で命と向き合うのが釣りの醍醐味……って私の先輩が言ってました」
 そこへと美咲も続けるものだ。
「命と向き合うねえ……よく分からないわ」
「私もよくわからなかったんスけどね」
 ぼんやりと釣り竿を垂らすトレランシアに美咲はこくりと応じた。
「俺は釣り趣味ってわけじゃないけど……水中だったら勝てない魚相手でも、釣りでなら勝負に持ち込める。
 出来ないことが出来るようになるのが楽しいかな」
 飛呂はそんなトレランシアに言うものだ。
 如何に自分の実力で勝つか、試行錯誤を繰り返してそれが成功した時の喜びを。
「なるほどねえ……我には理解できないということは分かるわ。
 我は例えこいつらが水の中にいた所で負けないもの」
 その辺りの差が理解を遮っているのだろうか。
「単純に大量の魚を取るだけなら網を使うなり電撃なりと、いくらでも手段はある。
 こうして釣り竿を使うのは、半ば趣味という者が多いんじゃないかな? かくいう私も趣味として嗜む程度でね」
 応じるようにゼフィラもまた頷くものだ。
「冒険の途中、野営しながらのんびりと、魚がかかるまで本でも読んだり景色を眺めたり。
 短い人生の貴重な時間を無駄にしているかもしれないが、そういう時間でこそ得られるものもあるのさ」
「そう……理解できないわね」
「なら、どうして人に興味を持ったんだい?」
「別に貴方達に興味があるわけではないわ。
 ただ彼が人と歩み寄るべきだと言ったからにすぎないわ」
 ゼフィラが重ねればトレランシアは静かにそう答えるものだ。
「退屈な時はこんな感じで話をしながらする人もいるかも?」
「逆に魚がかかるまでの何もない瞬間が好きだっていうやつもいるしな」
 スティアが言えば、バクルドが続けるもの。
「……この退屈な時間が? 人の子の考えというのはわからないわね……貴方の場合はどうなの?」
「俺の楽しみか? そりゃ簡単だ」
 不思議そうに首を傾げたトレランシアにバクルドは少しばかり周囲の景色を見やり。
「こんな景色のいいところで時間を潰して釣ったもんを食う。んで酒がちょぴっとありゃ、それが楽しみってもんだ」
「ふぅん? そういうもの。我も酒は好きよ。でも、ここだとあまり飲めないのがねえ……」
 嘆くような色の含んだ声でトレランシアが言う。
「私はお話しながらの方が好きかな」
「貴方の言っていることの方がまだ納得は出来るわねえ」
 スティアが言えば、ほぅ、とトレランシアが頷いてみせる。
「そういえば、釣った後は食べるんだよね? トレランシアさんはどんな味付けが好きなのかな?
 あとで料理するなら気に入ってもらえる物を作りたいから!」
「味付け……そうね。食べられればなんでもいいけれど、あまり濃い物は苦手かしら」
「それなら好きな食べ物とかは?」
「好きな食べ物……あそこにある木の実とかは好きな方ね。あとは――」
 穏やかなままに答えるトレランシアの話を聞きながら、スティアは何を作ろうかと考え始めた。


「……おっ、掛かったか?」
 ぐい、と引っ張られる感覚、魚影が湖面へと昇ってくる。
「手伝うぜ」
 強烈な力で引っ張る魚影目掛け、クウハは術式を撃ち込んだ。
 放たれた術式は水中に立方体を構成して亜竜の身体へと無数の呪いを撃ち込んでいく。
 それを嫌うように、水の中からそいつは自ら空へと舞い上がった。
 キラキラと輝く女神の欠片を有した竜鱗魚はトレランシアを警戒しながらもイレギュラーズの上を悠々と泳いでいる。
「ギャラリーも見ておられることですし、手こずってはいられませんね」
 クーアはトレランシアの視線を感じながら、一気に飛び掛かる。
 振るうは赤き月を思わす雷光、雷鳴を響かせ、魚を斬り裂いていく。
 そこへ続け、飛呂は愛銃の銃口を亜竜へと向けるものだ。
「狙うなら頭の方がいいよな。胴体が一番食いやすそうだ」
 放たれた弾丸は静かに、真っすぐに空へと翔ける。
 炸裂した弾丸は鋼鉄の驟雨を描いて複数の亜竜を纏めて撃ち抜いた。
「あんまり時間を掛けると新鮮さが失われるかもしれないからな……」
 竜鱗魚の姿を確認したクウハはすぐさま漆黒の大鎌を取り出すと、一気に振り抜いた。
 唯一無二の主人の描くそれにも似た幻罪の呼び声が竜鱗魚たちを捉え、クウハへと視線を誘導させていく。
「食事の前にちょっとした運動だね!」
 セラフィムを起動したスティアに突っ込んできた竜鱗魚は魔術障壁を前に弾かれた。
 静かにそれらを受け止めてみせたスティアの周囲に魔力の羽根が散り、仲間達の傷を癒す祝福の花を咲かせていく。
「流星光底長蛇を逸す……」
 小さく呟いたライオリットの身体が嵐の如き威風を纏い、淡く碧翠に輝いた。
 爆発的な速度で駆けだしたままに竜鱗魚へと肉薄すれば、そのままエラ部分に愛刀を突き立て、空へと打ち上げる。
 それへと追いつくや否や、確実たる死を呼ぶ斬撃が竜鱗魚を地面へ叩きつけた。


「これだけでかいと、捌くのも大変っスね」
 改めて横たえられた竜鱗魚のサイズに驚嘆しつつ、ライオリットは女神の欠片部分をはぎ取っておく。
「トレランシアさんは竜種だからいっぱい食べるよね!?」
 張り切った様子を見せるのはスティアである。
「そうね、貴方達よりは確実に」
「それなら、私に任せて! スティアスペシャルの出番だよ!
 まずはアクアパッツァとか……あと、貝もあればいいんだけど……ないよね」
「ないわね……こういうものならあるけれど」
 トレランシアがどこからともなく差し出したのは山菜の類だった。
「フライに塩焼きに肝吸い、色々食いたいものが浮かぶが……こんなに食いでがあるんだなんでも作って食おうぜ」
 そこへバクルドが提案するままに少しばかりを持って調理を始めた。
「俺も手伝わせてくれ、少しなら出来るし、血抜きとかも手伝えるから」
 そこに飛呂もまたついていくものだ。
「アクアパッツァはお魚を沢山使って……後はお刺身に切り身のステーキに、丼もいいかも!」
 釣り上げた魚たちは8人のイレギュラーズだけでは到底食べきれる量ではない。
 腕が鳴るとばかりにスティアは忙しなく動き始めた。
「火を通すのは私におまかせあれ。『雨宿り』のこげねこメイド、給仕に手は抜けないのです!」
 クーアは2人へ協力すべく近づいていく。
「でも、生とかただ焼くだけならトレランシアさんの方がずっと詳しい可能性もありますね……」
 少しばかり考えたクーアは大樹から取ってきた果実と一緒に煮込み料理を作り始めた。
「山菜があるなら天ぷらもいいな。クーア、頼めるか?」
 そこへ山菜を以ってきたクウハはこえをかけるものだ。


「これは……すごいわね」
「ちょっと張り切っちゃったかも?」
 完成した料理を見たトレランシアが驚いた様子で目を瞠っている。
 量的にも味的にも豪勢なスティアスペシャルの他、多く並ぶ料理は龍には初めてのものであった。
「これだけあれば少しは土産に持って帰れそうだ……いいかい?」
 クウハはその光景に驚きつつ、龍へと問うてみる。
「……これは、全員で食べるのかしら?」
「えぇ、他人と共に食卓を囲むこと、これ自体もまた我々の楽しみなのです。
 これもまたひとの営みの一端と知って頂ければ幸いなのです」
 クーアが場所を整えていると、トレランシアが不思議そうに首をかしげていた。
「ふぅん……不思議な事をするのねえ。でもそうね、幽霊の子、余ったのなら持ち帰ればいいわ」
「ありがたい、うちの連中も喜ぶだろ」
 クウハはそれを受けて頷くものだ。
「私個人としては龍たちがどのような生活を営んでいるかに興味がある。
 この地での生活について良ければ聞かせて貰えないかな?」
「我がここにいるのは気まぐれにすぎないわ。
 ここがもうすぐ消えてしまうのなら、最後に見ておくのも良いでしょうし」
 ゼフィラに答えたトレランシアは感傷に浸るようにヘスペリデスを見渡した。
「趣味を楽しむには楽しむための努力が必要と私の先輩は言ってました。
 楽しいと思えるまで試行錯誤する、そして何より自分が真摯に向き合う、それが大事とも。
 トレランシア、今、あなたが本気で向き合える何かはありますか?」
「絵とか音楽とかも生きる上で必須ではないけど、そういうのを心満たす為にやってるって人も多いし。必要性と楽しさって別物なんだろーな」
 美咲の問いかけに続けるようにして飛呂が言えば、トレランシアはしばしの沈黙の後、ぼんやりと尻尾を揺らす。
「ないわねえ……」
 やがて、ぼんやりとそんな返答が返ってきた。
 本気で何かをする目的が無い。ただ生きているだけなのだ、この龍は。
(トレランシアさんが楽しめるものが増えれば良いんだけど……難しいんだろうか)
 飛呂は思う。きっと、土台存在の違う竜種はそれゆえに絶望的なまでの退屈に満ちているのだろう。
「美味しかったっス……」
 ひと息を吐いてライオリットはお腹を撫でた。
「あっ、そういえば、折角だから今後釣りをしたいときのためにも、簡単に準備できるように材料も教えておくっスよ!」
「そうねえ……」
 ライオリットが言えば、緩やかにトレランシアが笑った。
 どことなく、寂しそうな表情にも見えたのは気のせいだろうか。
「少しいいかい?」
 イレギュラーズがとても食べきれない量をぺろりと食べ尽くしていくトレランシアが小休止を入れたタイミングでクウハは問いかけた。
「何かしら?」
「……ベルゼーの愛した者を食らいたくなる苦しみの一端は、俺も嫌というほど理解してる。
 他の奴らと一緒に共に生きる方法を探してるんだが、あると思うかい?
 返答がもし『NO』だとしても、諦めるつもりはないんだけどな」
「さぁ、どうでしょうね。けれど、これだけは確かよ、人の子。
 龍(われ)はお前達よりも遥かに長い間、それを望んできた。
 あの憐れな、生まれた時からの暴食が、卵の我らを抱き上げ育てたあの男が、どれだけの苦しむのか知っている。
 何百、或いは何千という個体もいるでしょうけれど、そんな方法を探してきた」
 穏やかであった龍の口調は静かに上位種の風格を覗かせた。
 人の子が短期間に見つけ出せるのなら、自分達がとっくに見つけていると。
「諦めろとは言わぬが、お前達がそれを見つけ出すまでの間に奴の腹が保つかは知れぬ」
 龍はやや不機嫌そうに尾をゆらりと揺らす。
「故に。いっそ彼がこれ以上苦しませぬように終わらせてやる方が良い……憐れな暴食めが、その苦しみから解き放たれるようにな」
 そう静かに語り、龍はふらりと立ち上がった。
「……そろそろお開きにしましょうか。帰りなさい、人の子よ。お前たちが思っているよりも時はないわ。
 貴方達の作ってくれた料理、という物はまぁ――美味しかったし面白かったわ」
 そういうとトレランシアは数歩下がり、次の瞬間、その姿はどこにもなかった。

成否

成功

MVP

佐藤 美咲(p3p009818)
無職

状態異常

なし

あとがき

大変お待たせしました、イレギュラーズ。

PAGETOPPAGEBOTTOM