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シナリオ詳細

脱獄者・サニー・バッドの数奇な人生。或いは、今にも雨の降りそうな夜…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●脱獄者・サニー・バッドの人生
 思えば、酷い人生だった。
 スラムに生まれて、盗みと殺しで生き延びて。
 手下が出来て、やっと子分も増えて来て、スラムの完全支配まであと少しという段階になって、今度は大規模な戦争が始まって。
 戦争の中で手下は全員、死んでしまって。
 どうにか生き延びたかと思えば、兵士に捕まり牢に入れられ。
 このまま二度と陽の光なんて見ることも無く息絶えるのかと思っていれば、今度は他の囚人たちの脱獄騒動に巻き込まれ。
 命からがら、監獄から逃げて。
 さぁ、金も無いし武器も無い、帰る故郷も無い私に残っているのはスラムで鍛えた勘の良さと脚力だけ。
 ほとぼりが冷めるまで……と思って、一緒に脱獄した2人の囚人と一緒に、幻想国へ逃げ込んだ。
 しばらくは、スリや日雇いの仕事でもして身を隠そうと思っていたら、私たちの目の前に傭兵たちが現れた。
 傭兵部隊『緋蠍』。
 幻想を中心に活動するフリーの傭兵部隊で、その残虐性は他の国にまで知られている。生きている間に会いたくなかったが、出会ってしまったものは仕方ない。
 さらに言うなら『緋蠍』の狙いは私たちだった。
「……私たちを捕えに来たのか?」
 リーダーらしき赤毛の女にそう問うた。
 女は、銃火器をぶらぶら揺らしながら、嗜虐的な笑みを浮かべている。
「少し違うな。オレたちの仕事は、テメェらの始末だ。監獄のあちこちがぶち壊されてるとかで、牢屋の数が足りてねぇんだと」
「だったら、放っておいてくれればいいじゃない」
「出来ると思うか、それ? テメェらが野に放たれたまま自由にしてるだけで、市民の皆さんは怖くて夜も眠れねぇんだ。ダメだろ、それ? 何人も、何十人も人を殺めたような連中は、惨めで悲惨な最後を迎えるべきだろう? なぁ?」
 赤毛の女の言葉を聞いて、部下たちが笑う。
 私たちのことを、人とも思っていないのだ。ただの獲物か、玩具のようにしか思っていないのだ。
 正直、野に放っていては駄目なのは『緋蠍』の連中の方だろう。
「最後に名前だけ教えといてやる。カミーラ・レンティーニだ。あの世で『緋蠍』の宣伝、頼むぜ?」
 そう言って、カミーラが銃の引き金を引く。
 連続した銃声。火花が散って、その直後、悲鳴もあげずに仲間の1人が蜂の巣になった。
 鼻から上が吹き飛んでいる。
 万が一にも、彼女は生きていないだろう。
「っ……逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!」
 だから私ともう1人は、死んだ仲間をその場に残して逃げ出した。

●罪人救助依頼
「……というわけで、2人の囚人、サニー・バッドとヴィランハートを安全な場所へ逃がしてほしいの。何から守るかというと傭兵部隊『緋蠍』から……知ってるでしょう?」
 月の無い夜のことだ。
 とある寂れた墓地の真ん中で、ピリム・リオト・エーディ (p3p007348)とクウハ (p3p010695)は、女の話を聞いていた。
 眼鏡をかけた、白い髪の長身女性。カルリーニと名乗った彼女の素性は不明だが、提示された報酬は悪くない。
「はぁー? 『緋蠍』ぃ? カミーラたそが相手ですかー?」
 じっとりとした湿度のある目で、ピリムはカルリーニの顔を見た。カルリーニは、にやにやとした顔をして、ピリムを見返す。
「自信がない? 怖いかしら?」
「まさかー。カミーラたそがいるんなら、引き受けますよー。脚も欲しいですからねー」
「では、交渉成立ね。そっちの方は?」
 次いで、カルリーニはクウハの方へ視線を向けた。
「俺か? 俺も別にいいけどさ。救助対象って犯罪者だろ? 犯罪者たちを逃がすのかよ? なんで?」
「え? クウハたそ、それ重要ですかー?」
「え? 重要じゃねェ? だって、犯罪者に加担するんだろ?」
「そう言う話ですー? カミーラたその脚を獲りに行こうって話じゃないですかー?」
「……えぇ」
 微妙に話が噛み合わない。
 話が合わないが、依頼を達成するだけなら、何の問題も無い。
 何しろ、脱獄者たちを逃がすのなら『緋蠍』との戦闘はどうやったって避けて通れないからだ。極端な話だがピリムの注意が『緋蠍』だけに向いていたとしても構わない。脱獄者たちが、無事に逃げきれれば、それでいい。
「行きましょーよー。脚、獲りに行きましょーよー」
「脚獲りにってわけじゃねェけど、まぁいっか。何だってそんなに脚に執着してんのかは知らねェけどよ」
 と、いうわけで話は決まった。
 こうしてピリムとクウハの2人は、今回の作戦目的地となる造船場へと旅立った。

 幻想。
 とある造船場。造りかけの船や、解体途中の船が並んだその場所は、かつてはとある悪徳貴族の所有地だった。だが、貴族が死んだことにより、現在では誰も立ち入る者はいない。
 使われなくなって早2年ほど。
 夜ということもあって、まるで廃墟のようである。
「空にはどんより厚い雲。今にも雨が降り出しそうで、なかなかの狩り日和ですねー」
 造船場の入り口に立つ幾つかの人影。
 その1つ、ピリムはそんなことを言う。
「視界は悪いし、障害物は多いしー……潜り込む隙間も多いですねー。サニー・バッドたそとヴィランハートたそも隠れていることでしょう」
 そして、きっとカミーラを始めとした『緋蠍』の面々は、造船場を探し回っているはずだ。
 事前に得た情報によれば『緋蠍』の人数は全部で10名。
 【廃滅】【無常】の付与された剣や銃火器などの武器を所持しているらしい。
「救助対象は2人の脱獄者だ。サニーもヴィランハートも女性だな。サニーの方は暗殺者みてぇな戦い方をする連続強盗殺人犯で、ヴィランハートは格闘術に長けた流れの殺し屋って話だぜ」
 資料に目を落としながらクウハは言った。
 特筆事項として書かれたサニーの特徴……行く先々で“自然と仲間を増やしていく”という本人でさえ自覚していない詳細不明の才能が少々引っかかる。
「悪事を良しとする本人の性格もあって、とてもじゃねぇが野放しに出来る相手じゃないと思うんだがなァ」
「まー、依頼ですからねー。2人を船着き場にまで誘導して、脱出用の高速船に乗せるまでがお仕事ですー。頑張りましょー」
 おー、とピリムは空へ拳を突き上げた。
 だが、誰も追随しない。
「……あー」
 気まずそうな顔をして、ピリムはそっと手を下げた。
 それから、こほんと咳払いを1つ。
「カミーラたそはたぶん【連】射性能の高い【失血】付きのガトリングと、【ブレイク】【致命】付きのライフル、【封印】【不運】を付与するスモークグレネード、【業炎】【飛】付きの手榴弾など、多彩な武器を使いこなしますー」
 加えて【怒り】に対しての高い抵抗。
 他の『緋蠍』たちはどうとでもなるだろうが、カミーラには特に注意が必要だ。ピリムの予想では、職務に忠実な方に思える。
「まー……なんとかなるでしょー」

GMコメント

●ミッション
脱獄者・サニー・バッドとヴィランハートの救助

●ターゲット
・サニー・バッド
背の低い痩せた女性。
鉄帝国のスラム出身。連続強盗殺人事件の犯人で、つい少し前まで監獄に囚われていた。
暗殺者に似た技術を習得している。
また、詳細不明ながら「自然と仲間を増やしていく」という稀有な才能を有している。

・ヴィランハート
長身で筋肉質な女性。
出身地などは不明だが、流れの殺し屋だったらしい。
身体能力は高く、近接格闘戦を得意としている。

●エネミー
・カミーラ・レンティーニ
https://rev1.reversion.jp/guild/1/thread/4058?id=1586514
傭兵部隊『緋蠍』のリーダー。
蠍の獣種で、性格は非常に狂暴。
サニー・バッドとヴィランハートの抹殺依頼を受けている。
常にピリムに対して怒りを覚えている為【怒り】が無効。

ガトリング:物中範に大ダメージ、連、失血
ライフル:物遠単に特大ダメージ、ブレイク、致命
スモークグレネード:神中範に封印、不運
手榴弾:神中範に中ダメージ、業炎、飛

・傭兵部隊『緋蠍』団員×9
カミーラ率いる傭兵部隊。
メンバーは殆どがピリムの被害者遺族。
性別や年齢は様々。
主に【廃滅】【無常】の付与された剣や銃火器を得物としている。

●フィールド
幻想。
とある造船場。
時刻は夜、天気は曇り。もうじき雨が降り出しそうだ。
造りかけの船や、解体途中の船が多く残されている。
障害物は多く、視界は悪い。
造船場の奥にある船着き場には、依頼人・カルリーニが派遣した高速船が用意されている。
サニー・バッドとヴィランハートを、高速船に乗せて脱出されるまでがお仕事。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
また、成功した場合は多少Goldが多く貰えます。

  • 脱獄者・サニー・バッドの数奇な人生。或いは、今にも雨の降りそうな夜…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年05月29日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
武器商人(p3p001107)
闇之雲
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
※参加確定済み※
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい
※参加確定済み※

リプレイ

●脱走者たち
 幻想。
 とある造船場。
 そこかしこにある造りかけの船、壊しかけの船。潮風に朽ちた薄汚れた建物に、僅かに混じる硝煙の臭い。それから、幾人もの足跡も見受けられる。
「……これは船ですね? こういったものの多さは逃げ隠れするにはちょうどいいですね」
 時刻は夜。
 もうじき雨が降り出しそうだ。『こそどろ』エマ(p3p000257)は船の基礎……竜骨らしきものに手を触れ、ふむと頷く。
 幸いか、それとも不幸か。障害物は多く、見通しも良くない。隠れるのには向いているが、それは敵……つまりは、今回の敵対勢力である傭兵部隊『緋蠍』たちとて同じこと。
「カミーラたそに始末されたら貴重な脚が蜂の巣にされちまいますからねー、脚を狩るついでに守りましょーか」
 例えば彼女がそうだ。
 潰れた家屋の残骸の下から『夜闇を奔る白』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)が這い出して来た。
 傭兵部隊『緋蠍』とは何かと縁のある女だ。それも当然、『緋蠍』のリーダー、カミラの片足を斬り落としたのはピリムである。
「囮は構わねェけどさ、戦闘を避け、可能な限り安全に囚人を高速船へ送り届けるってのがメインシナリオだってこと、忘れねェでくれよ?」
「用意された高速船……ねぇ。特に後ろ盾も無さそうな囚人達を逃す、か。これはまた不思議な依頼だね」
 呆れた様子の『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)と、顎に手を触れくっくと笑う『闇之雲』武器商人(p3p001107)。首を傾げて周囲を見やるが、近くに敵の姿は見えない。
「へぇん、脱獄。オレも最近やったなァ。つってもオレの場合は冤罪だったが」
 今回、逃がすべき相手はサニー・バッドとヴィランハート。2人組の脱獄犯は、実のところ『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)やピリムがつい最近、放り込まれていた監獄にいた。もっとも、ことほぎたちが居たのは最下層、サニーとヴィランハートはもう少し上の階層にいたので、顔を合わせてはいない。
「まー逃げ出したいってんならイイんじゃね? 金さえもらえりゃ協力するぜ」
「……ピリムさん含め関係者全員牢に入れた方が世の中平和なのではと思わないでもないですが」
 赤い目をじっとり細めて、『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)はそう言った。
 飛ばした梟の視界を通して周囲の様子を見ているが、今のところそれらしい人影は無い。
「関係者の中に、まさか俺は入ってないよね?」
 そう言って『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)が地面を蹴った。
 ふわり、と身体が宙へ浮き史之は近くに転がっていた船の残骸の上に跳び乗る。
「それにしても、敵の姿が見えないね」
「おかしな話ですね。まるで嵐の前の静けさ……とでも言いますか」
 奇妙な話だ。サニーとヴィランハートが隠れているのは分かるが、傭兵たちの姿が見えないのはなぜだ。目を細め、瑠璃は首を傾げて見せた。
 傭兵たちの動きがおかしい。
 数の有利を活かして、派手に狩りをすればいいだけの話だというのに、どうしてこうも静かなのか。
「もしかすると……良くない状況なのかもしれないね」
 例えば、イレギュラーズの参戦を既に察知されている可能性。
 それに思い至ったのか、武器商人は僅かに顔を曇らせた。

●狩りの鉄則
 空にかかった雲が厚い。
 辺りは暗闇。ほんの僅かの光さえない。
 ランプや松明の明かりさえないのだ。そんなことがあり得るだろうか。
「あぁ」
 コンテナの屋根から通路を覗いて、エマは小さく言葉を零した。
 通路の脇に伏せている傭兵らしき人影を見つけたからである。
 松明を消して、ランプも持たず、闇の中に伏して動かず隠れているのだ。
 きっと、イレギュラーズを待ち伏せしている。造船場へと入った時点で、イレギュラーズの接近を感知していたのだろう。
 だが、あまりにおそまつだ。
 にぃ、と口角を上げてエマは肩を揺らして笑う。
「視界も良好、聴覚と嗅覚で匂いや足音、敵も味方も息遣いまでバッチリです」
 傭兵たちの本領は、獲物を見つけて集団で追い込む狩りにおいてこそ発揮される。慣れない夜間行動や、潜伏、待ち伏せなんて真似を突貫で行ったせいで、どうにも“荒”が目立つではないか。
「ひひひ」
 潜伏がバレてしまっていることにさえ気づかない。そんな傭兵を見下ろして、嘲るような笑みを零すとエマは再び闇の中へと姿を消した。

 造船場の入り口付近から、中央広場の辺りまで、一定の間隔をあけて傭兵たちが潜伏している。その数は全部で6人ほど。
 事前に聞いていた数に4人ほど足りない。きっと、サニー・バッドとヴィランハートの狩りに回っているのだろう。
「姿が見えずとも体温で分かるというのに……さて」
 見たところ、待ち伏せしている6人の中にカミーラという傭兵の姿は無いようだ。
 サニーとヴィランの居場所も依然として不明のままと、予定通りには程遠いのだがのんびりしている余裕は無い。
「……」
 瑠璃は、エマの方へ視線を向けた。
 エマは頷き、音も立てずに後方へ……仲間たちの元へと戻っていく。それを見送り、瑠璃はこほんと咳ばらいをひとつ。
 そして……。
「えー……“おやぁ、これはこれは緋蠍の皆さんじゃねーですかー? わざわざ脚を獲られに来たんでごぜーますかー?”」
 夜の静寂にピリムの声が木霊した。
 瑠璃が、ピリムの声を真似ているのだが、当然、そんなことは傭兵たちには分からない。隠れていた6人が、次々と武器を手に取り動き始める。
 声のした方へ……つまり、瑠璃のいる方へ一斉に駆け寄って来た。
「4……5、6人……上出来ですね」
 足音を数え、瑠璃は口角を吊り上げた。
 それから、するりと壁の中へ身を沈めるとその場から立ち去っていく。

 エマの先導に従って、一行は先へ、先へと進む。
 背後から響く怒声。
 謀られた、と潜伏していた傭兵たちも気が付いたのだ。だが、距離は十分に離れている。そう簡単に追いつかれることは無い。
「それでも時間稼ぎぐらいはしておくべきかァ?」
 そう呟いて、クウハは背後へ視線を向けた。
 だが、音もなくクウハの前に降りた瑠璃が待ったをかける。
 それから瑠璃は、通路の左右にある帆船を指さした。
「行き止まりさえ作っていただければ、こちらで引き受けますので」
「……あァ、なるほどなァ」
 瑠璃の指示に従って、クウハは帆船へ向け大鎌を一閃させた。

「向こうに火の光が見えました。傭兵たちは固まって動いているみたいですね」
 エマが指差した先には、なるほど確かに朧げながら光が見える。
 揺らぐ赤色は、松明の火だ。
「……見えてても、障害物があると射線が通らねェんだよなァ」
 傭兵たちが集まっているのは、船の残骸が多い区画のようだった。
 ことほぎの魔術は射程が長いが、障害物に阻まれる。廃材置き場では十分な威力を発揮できないと予想して、脚を止めた。
「護衛にピッタリつくよりゃ、別口で救助対象を狙う敵を狙った方が良さげか。カウンタースナイプ? みたいな?」
 紫煙を燻らし、ことほぎはそっと隊列から離れた。
 サニーとヴィランハートの逃走経路を事前に抑えておくためだ。

 同時刻。
 サニー・バッドとヴィランハートは憔悴していた。
 逃げて、逃げて、逃げ続けて、気力も体力も限界に近付いたところで遂に傭兵たちに追いつかれたせいだ。
「そろそろ年貢の納め時ってやつかしら」
「……まぁ、悪くなかったよ。あのまま監獄で死ぬよりは、だいぶ楽しい時間だった」
 顔を見合わせ、2人は笑う。
 サニーは近くに転がっていた斧を手に取り、ヴィランハートは拳を握る。どうせ死ぬにしても、無抵抗のままというのは性に合わない。最後まで暴れて、1人でも多くの傭兵を道連れにしてやる心算だ。
 けれど、しかし……。
「せっかく覚悟を決めたところ悪いんだけれどね。諦めが悪いのは、良くないことだと思うんだよね」
 2人の頭上から声がした。
 そこにいたのは、長い黒髪の女性である。女性の手には1丁の機関銃。
 その口元には嗜虐的な笑みが浮いていた。
 随分と前から、サニーとヴィランハートの様子を観察していたのだろう。サニーとヴィランハートのやり取りを聞いていたのだろう。
 そして、2人が覚悟を決めたタイミングで声をかけて来たのだ。
「その顔が見たかったんだよね」
 絶望に染まる2人の顔を特等席で見るためだ。

 史之が飛んだ。
 その後に続いて、ピリムが走る。
「来やがった! 撃て! 撃て!」
 いち早く2人の接近に気付いたカミーラが、部下たちに指示を出す。
 銃を構えた傭兵が2人。
 1人は史之を。
 もう1人は、ピリムを狙う。
 銃弾がばら撒かれるのと同時に、傭兵たちの真横から黒い影が現れる。建物の陰に隠れて接近していたエマだ。
 エマの短剣が、傭兵の手首を斬りつける。
「戦闘が一回もなく終わってくれたらそりゃあ最高だったんですけどね」
 銃声が鳴りやみ、弾幕が途絶えた。その隙をついて、史之は急加速。向かう先は、サニーとヴィランハートの元だ。
「おつかれさん、よく生きていたね」
 一閃。
 史之の放った斬撃を、長髪の傭兵は機関銃を盾に防いだ。
 よろけた傭兵の腹部に蹴りを叩き込む。
 地面に転がり落ちる傭兵の跡を追いながら、史之はサニーとヴィランハートへ目を向けた。
「がんばったね、えらいえらい。あとは俺たちに任せて、ひたすら生き延びることだけ考えてよね」
 史之の刺突が、長髪女性の肩を貫いた。
 だが、血は流れない。
「獲物の横取りは良くないと思うんだよね」
 女性の右腕は義手らしい。
 機関銃を左手に持ち変えると、その銃口を史之の腹部に押し付けた。腹を蹴られた異種返しのつもりだろうか。
「くっ……!」
 発生させた斥力が、史之と長髪女性の身体を後方へ弾いた。
 ばら撒かれた銃弾が、史之の脇腹を抉る。
 血を流しながら転がる史之は、傭兵から目を逸らさぬままに叫んだ。
「さっさと逃げろ! そっちのほうが俺たちも楽ができるから!」
 史之の叫びに我を取り戻したのだろう。
 サニーとヴィランは、脱兎のごとく駆け出した。

「隻脚で傭兵なんて、『緋蠍』ってのは余程に不景気らしいねぇ?」
 武器商人が見やるのは、カミーラをはじめとした3人の傭兵たちである。
 カミーラは片足を、残る2人は両の足を欠損していた。鋭い刃物で切り落とされたことは明白。そして、下手人はきっとピリムに違いない。
 チラ、とピリムの方に目を向け武器商人は肩を竦めた。
 銃弾を浴びたピリムの白い肌は、血で赤く濡れている。
「……取り合うな。お前たちは、サニーとヴィランを追いかけろ」
 鬼のような形相を浮かべ、カミーラは部下に指示を出す。
 サニーたちを追いかける傭兵へ、武器商人が手を向けた。だが、数度の銃声が鳴り響き武器商人の行動を阻む。
「おっと」
 血に濡れた手を引っ込めて、武器商人は肩を竦めた。
 流石に『緋蠍』のリーダーともなれば判断が早いし、妨害の仕方も的確だ。
「行かせねぇ。急にしゃしゃり出て来てよ、こっちの仕事を邪魔してんじゃねぇよ」
 両手に銃火器を構えたまま、カミーラはじりじりと後ろに下がる。ピリムと武器商人を牽制しながら、その場から離脱するつもりか。
「あの日私を始末しきれなかったのに、今度は逃げるんですかー? よっぽど腕に自信がねーみたいですねー」
「ちっ……何とでも言え。こっちも仕事で」
「もしかしてぇー? もう1本の脚を獲られるのが怖いんですかー?」
 嘲るようにピリムは言った。
 と、同時にピリムが地面を蹴って上体を前へと投げ出した。身体ごと地面に飛び込むような不自然な姿勢。咄嗟にカミーラがライフルを撃つが、銃弾はピリムの頭上を通過する。
 ピリムは抜いた大太刀を口に咥えた。
「はぁへー、ひきまふよー」
 長い両腕を地面に突くと、這うようにして駆け出した。
 その様はまるでムカデそのもの。
 急加速したピリムを見て、カミーラは驚愕に目を剥いた。
 その隙を武器商人は見逃さない。
「おー、速い速い」
 武器商人は呵々と笑って、カミーラ目掛けて魔弾を撃った。

 逃げるサニーとヴィランハート。
 そんな2人を先導しているのはクウハだ。クウハより十数メートルほど先をエマが走っているのが見える。
「おう、こっちだこっち!」
「本当にそっちでいいの!? 港の方に向かったら、逃げ道が無くなっちゃうのよ!?」
「逃げ道ならある! つーか、何より大事なのはテメェらの命。そうだろう? 命が惜しけりゃ我慢してくれ」
「でも、追いつかれるって!」
「そっちも問題ねェ! おっかねぇ護衛が付いてるからなァ!」
 クウハが片手を上げると同時に、背後で女性の悲鳴が上がる。
 追走していた傭兵が、紫紺色の魔弾に撃ち抜かれたのだ。
「よぉ、チンケな脱獄犯なんて追い回してんなよ」
 続けざまに数発の魔弾が夜闇を裂いた。
 積み上げられた木材の上にことほぎが立っているのが見える。燻る紫煙を身に纏い、ことほぎはいかにも悪辣な笑みを浮かべた。
「名を上げてェならオレとか、ピリムとか。手柄首じゃん?」
 相手は傭兵が2人だけ。
 位置的な有利もある今、ことほぎの敵にはなり得ない。
「任せていいかァ?」
「おう。さっさと行きな。こっちはこっちで、キッチリ引導渡しとくからよ」
 笑みの形に歪めた唇の隙間から、ゆらりと紫煙を吐き出してことほぎはクウハへ向けて手を振った。

●逃走の終わり
 傭兵の怖さは連携にある。
 群れとしての秩序が崩れた傭兵など、瑠璃にとっては恰好の獲物でしかない。
 3人。
 行き止まりを利用し、孤立した傭兵を1人ずつ順番に狩って行った。3人は先に進んだが、サニーたちに追いつくことは出来ないだろう。
「私はあえて止めは刺しませんので引き際は心得て頂きたく」
 腹を抑え、蹲っている傭兵を見下ろし瑠璃は言う。
 淡々と。
 何の感情も籠らぬ声だ。
 傷を負った傭兵は、闇に紛れる瑠璃の姿をまるで死神のようだと思った。

 史之の太刀が、長髪の女の腹を裂いた。
 血が、臓物が零れ、長髪の女は地面に倒れる。
「…………」
 恨めしそうな視線を史之へ送っているが、もはや言葉を発するだけの余力も無いのだ。
 血走った女の視線を真正面から見返して、史之は告げる。
「ここで終わるのも何かの縁さ。すてきなところへいけるといいね」
 女は何も答えない。
 その目から、徐々に光が消えていく。
「死後の冥福とやらを祈っているよ。俺の妻さんは根の国への案内人さ……なんなら話を通しておいてあげるよ?」
 最後まで、史之を睨みつけたまま傭兵の女は息絶えた。

 造船場、港。
 小舟から幌を剥ぎ取って、エマは後方へ手を振った。
「あぁ、これですね。カルリーニさんが用意した高速船」
 安全を確認したという合図だ。
 クウハに連れられたサニーとヴィランハートが恐る恐るといった様子でやって来る。
「誰? カルリーニって。ヴィランハートの知り合い?」
「いや、アタシも知らない名前だな」
 カルリーニ。
 今回、サニーとヴィランハートの救助依頼を出した者の名だ。エマは依頼人の顔を見ていないが、多少の“裏”を感じている。
 もっとも、カルリーニの意図は読めないし、依頼には関係のないことだ。エマのような者の住む世界では、知りたがりから消えていく。
「気にしない方がいいですよ」
「? ま……まぁ、逃げられるのならどうでもいいことだけど」
 優先事項が何かはサニーも理解しているようだ。
 高速船に乗り込むと、クウハとエマへ視線を送る。
「あなたたちは、どうするの?」
「あー……適当なところで撤退するんじゃねェか? この後までは頼まれてねーけど、オマエらも暫く大人しくしといた方がいいんじゃねーの?」
「……元々、そのつもりなんだけどね」
 行く先々で仲間が増えて、結果として大事になるのだ。サニー自身も、自分の生まれ持った才にいい加減辟易しているのである。

 大地が爆ぜた。
 カミーラの投擲した手榴弾だ。爆発に巻き込まれたピリムが地面を転がる。額から血を流しながら、けれどピリムは笑っていた。
 転がりながら太刀を握って、跳ねるように起き上がり、蛇行しながらカミーラへと接近していく。カミーラは後退するが、直後、短い悲鳴を上げた。
「エーディの方が脚を欲しがっている様なのでね」
 武器商人の放った魔弾が、カミーラの大腿部を撃ち抜いたのだ。
「ちっ……相変わらず、クソみてぇな趣味してんなっ!」
 カミーラは、ピリムを迎え討つ。
 足を守るように、ライフルを下げた。
 にぃ、と悪意に染まった笑みをピリムが浮かべて……瞬間、カミーラは己のミスを悟った。
「今回は腕なんですよねー」
 斬撃が、カミーラの手首を斬った。
 切断は免れたものの、刃は骨にまで達しただろう。

「おぉ、こっちも片付いたみたいだな。サニーたちは無事に逃げたみてぇだし、仕事は終わりか?」
 悠々と。
 歩いてきたのは、ことほぎだ。
 武器商人とことほぎの2人は、視線をカミーラの後方へ向けた。そこには、無傷の傭兵が3人。瑠璃の足止めを突破して追いついてきた者たちだ。
「まだやりますかー?」
 ピリムは血塗れだ。既に1度、【パンドラ】を消費しているため、態度ほどに余裕は無い。
「……撤退だ。生き残りを連れて帰るぞ」
 任務の失敗を悟り、カミーラは撤退の指示を出す。

成否

成功

MVP

エマ(p3p000257)
こそどろ

状態異常

寒櫻院・史之(p3p002233)[重傷]
冬結

あとがき

お疲れ様です。
この度は、シナリオのリクエストおよびご参加ありがとうございました。
サニー&ヴィランハートは無事に造船場を脱出。
依頼は成功となります。

縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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