シナリオ詳細
マザーフォーユー
オープニング
●あらあらうふふ
「ごきげんよう、皆さん。わたくしはシスターイザベラ。名もなき孤児院の院長です」
黒い肌の女は、あなたへ優雅に一礼した。
「などという前置きはどうでもいいことですわ。じつはわたくし、今日、とってもうれしいことがありましたの」
シスターは、ほんのりと甘く微笑む。
「わたくしがお世話をしている、むずかしくもかわいい子どもたち。その子たちがわたくしへ、メッセージカードを添えて、プレゼントを贈ってくれたのですわ」
そして彼女は、明るいカーネーションの花束を取り出した。瑞々しいそれは美しく、あなたはためいきをついた。シスターは自慢気に、ニンマリ。
「なんでもウォーカーである『暦』の方々から聞いた習慣だそうで、今日は『母の日』といって、世話になっている人を労い、感謝を伝える日だそうですよ」
ですから皆さんも、と、シスターは言葉を区切った。
「大切な誰かへ、日頃の感謝を込めて、なにか贈り物をしてみてはいかがかしら?」
ちょうど練達の通販カタログがございますのよ、うふふ。
などとシスターはニコニコとあなたへ笑いかけた。
あなたは分厚いカタログを開いてみた。
スイーツ、コスメ、ジュエリー、フラワーギフト、さらに家電からちょっとしたプレゼントまで。
カラフルかつ華やかな紙面はサヨナキドリ練達支部協賛らしい。最新鋭な美顔器と、素朴なクッキーが並んでいるごたまぜ感は、あえて狙ったものだろう。
まるで紙面を旅するように、大事な人と一緒にページをくるのも、楽しいかもしれない。きっとその時間は、豊かで平和なものになるはずだから。
●いろんな「母」
母といっても、血が繋がっているわけじゃない。
そんなこと、この混沌ではよくあること。
かけがえのない出会いを経て、積み重ねた時間によって、数多の思い出と、深い結び付きを、得ているのだから、血の繋がりなど正直言って、どうでもよろしい。
母といったら、あなたは誰を思い浮かべるだろうか。抱きしめてくれるおかーさん、いつもやさしいママ、頼りになる母上、遠く離れたお母さま。千差万別。十人十色。そこがいい、それがいい。たくさんの愛と相手を、今日という日へ焼き付けよう。
だからお花畑へ、今日はピクニック。
カーネーションお持ち帰りOK。ここはそういうところ。
気になるカタログなんかを小脇に、風が心地良い場所でお弁当を広げたら、あなたへ渡そうか、胸いっぱいのありがとう。
- マザーフォーユー完了
- GM名赤白みどり
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2023年05月24日 22時05分
- 参加人数16/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 16 人
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参加者一覧(16人)
リプレイ
ワタシにママはふたりいる。
フラーゴラは花畑へ座っていた。花々を見るともなく見る。
産みのママと……義母。パパと呼ぶことすらなかった義父グラーノさんの妻。フラーゴラは彼女の姿を思い浮かべようとして徒労を悟った。見たこともないのに、思い出せるわけがないと自嘲して。
名前だけはかすかに、たしか、マルガレータ。
産みの母の名前も知らないのに、義母は知っているなんて。愁いを帯びた瞳に赤を映す。
だけど……なんとなく覚えてる、ワタシはママが大好きだった……ような。あやふやな思いを抱いて彼女は立ち上がる。
カーネーションを摘もう。ふたりの母へ思いを馳せよう。ワタシもそのうちママになるかもしれないのだし。
「ごきげんようメイメイさん」
「お久しぶりです、ね。シスターイザベラ。ここは、いろんな、カーネーションが、咲いています、ね」
フリルのリボンを束ねたかのような花冠。メイメイは目を細める。その目を彼女はしばたかせた。今日は母の日だと聞いて。
そおっと、草花へ負担がないように、赤や桃のカーネーションを摘み取っていく。
「ご母堂へお渡しするのですか?」
「ええ、押し花にして、いつか……いつかきっと、渡せるように」
メイメイは空を仰ぎ見た。紺碧のドームはくっきりと遠い。
(大好きな、やさしい母さま。メイメイは、遠くとも同じ空の下で、健やかな日々を、過ごせています、よ……)
微笑む彼女は胸の内でつぶやく。ありがとう。
「私、お母様がいないのだわ。母の日なのに、お母様が居ないことに気づいちゃった……」
悲しげな章姫。隣で霜月がわたわたしている。妻を抱き上げ、鬼灯は頬ずりをした。
「章殿、何も血のつながった実母でなくとも構わないんだぞ?」
「そうなの鬼灯くん?」
「イザベラ殿をご覧。子供たちからカーネーションを貰っていただろう? 彼らにとってイザベラ殿は母親なんだよ」
「鬼灯くんの言うとおりね」
「ああ、やはり章殿は笑顔がいいな。章殿が悲しいと俺も悲しい。というわけで、霜月」
「はい?」
「カタログギフトをやろう」
「へ?」
「金なら心配するな。睦月は催事用の予算を組んでくれている」
「しかし……」
「貴殿が居なければ暦は回らない、受け取ってくれ」
けど睦月の胃痛を思うと、しぶる霜月へ章姫がとてとてと。
「私からはお花の冠と似顔絵をあげるのだわ! いつもありがとう、霜月さん!」
「頭領、奥方……! 俺、俺ェっ!」
「泣かずともいいだろう」
私、べつに母じゃないんだけど。実の母とも死に別れてずいぶんになる。だから今日という日はなんの関係もない日だと……鏡禍の腕の中で、ルチアはなかば溶けながら思考を遊ばせていた。
にっこにこしている鏡禍に、ルチアは小さなためいき。この禍々しいはずの鏡の怪は、じつに陽性。ソールみたいねと、ルチアは青空へ顔を向けた。この人がいつもやさしく自分を照らしてくれるのは、本性である鏡に太陽神を映しているからかも。鏡禍はルチアを膝枕する。
「男の膝ですみません。硬いかなと、クッションを用意してきました」
「いらない」
「あれー!?」
だってそんなものがあったら、このぬくもりを感じ取れないじゃない。ルチアはもぞもぞと身じろぎ。心地いい角度を見つけて、目の前のサンドイッチとにらめっこ。バスケットいっぱいのそれは、今日のためにルチアが作ってきたもの。
「いつもありがとうございます、ルチアさん。ルチアさんは母ではなく、妻で、あ! 結婚しました!」
おめでとうございます。
「感謝されるようなことはしてないわ」
「日々の幸福そのものの貴女へ感謝してます。後はルチアさんの代わりに何かできたらいいんですけどね」
「……ならこの中で、貴方が一番綺麗だと思うカーネーションを一輪、私にくださらないかしら」
自分の膝からクッションへルチアの頭を移し、鏡禍が立ち上がる。
「わかりました!」
走っていく、その姿こそ、喜びの種だと、ルチアは微笑む。
リリオ・イ・ロサとナランジャ・デ・ソル。手土産は万全を期した。いざ行かん!
「母ちゃ……いえ、お母様! お久しぶりです!」
け、結婚しました。
おめでとうございます。
望乃の母は一瞬驚いて、それから涙を流して喜んだ。
そんな母に抱きかかえられながら、望乃は賢明に言葉を選ぶ。母を傷つけたくない、でも自分の精一杯の思い、うけとってほしい。夫のフーガが、がんばれと手を握ってくれる。それで安心できる。
「……こどもの頃は『丈夫に産んであげられなくてごめんね』と、よく言っていたよね。わたし、それがつらかった。生まれないほうが良かったのかなって、思った」
短く空気を吸う母を押し留め、望乃はあらんかぎりの声を振り絞る。
「今は心から、産まれてきてよかった。あなたの娘でよかった。そう思う。お母さん……!」
望乃もまた、涙をこぼしていた。真珠のようないとけない涙を。
「私を産んでくれて、育ててくれてありがとう!」
泣き崩れる母を、フーガと望乃が両方から支える。ふたりは顔を見合わせ、微苦笑を浮かべた。
「母ちゃん、望乃へ優しくて温かい命と愛情を注いでくれて、ありがとう」
ウォーカーである彼の世界は遠い。でも、もしかしたら、だけど、いつの日か。
「おいらの母ちゃんや故郷も会えるように鳴ったら、花束を贈りながらお互いのことを紹介させてくれ」
「彼ね、わたしの故郷へ身を置きたいとまで、言ってくれたの。この人と出会えたのは、お母さんのおかげ」
感謝の声が臨床のように連なる。喜びの涙がとめどなくこぼれる。
船旅はすこし大変だった。
アニエスは愛娘ジャンヌを見つめる。特異運命座標となった彼女を。
お母様お母様と、娘は母の耳元へ口を寄せる。
今日は婚約者様もいないし、たまにはお母様に甘えてもいいでしょうかっ? アニエスは笑顔を返した。娘は照れながらもしっかり口にした。
「……ふふ、ママ! 今日は母の日なんですって! カーネーションを贈るのが流行りみたいなのです!」
「あらあらありがとうジャンヌ。ママもジャンヌが楽しそうでよかったわ。また予定が開いてる時にここに来ましょうね」
子供の頃みたいに手を繋ぎ、花畑を散策しながら近況を報告し合う。
「貴族、とっても大変ですが、新しいお勉強は好きです。婚約者様に恥じない立派な当主になる為に……出来ることを増やしたいのです!」
そしたらきっとと、夢見る瞳へ、アニエスは笑みを深くする。
(進んで重荷を背負おうとする貴女が、すこし心配よ。でもきっと貴女なら……)
今日がなんの日か知っている、リクエ。今日がなんの日か知っていて、気恥ずかしいのが飛呂。
「いやーいいところだねえ飛呂。『帳』がどうのなんてニュース、どうでもよくなるね」
「あぁ、まぁ、な」
「ところで、なんか話したくて呼んだんじゃない?」
飛呂手作りのサンドイッチを頬張りながら、さりげなく助け舟。うめいていた飛呂が覚悟を決める。
「……俺さ」
「うん」
「外に出ていやなこともあったけど、やっぱ良かったなって思うことの方が多いんだ。……大学までは、練達にいるつもり。でもその後は、外に出ようかと思ってる」
眼差しに嘘はない。いい男になったねとリクエは笑う。
「アタシたちはね、飛呂に幸せになってほしい。その為に飛呂が頑張るって言うなら、応援するだけ。飛呂を愛して応援してる、アタシたち親がいることを忘れないでね」
喉でつかえてる言葉を、飛呂は吐き出した。
「……ありがとうな」
「今日はなんと」
「なんと?」
蜻蛉が首をひねって見せると、キルシェはぱあっと笑う。
「ママの日なのよ! サンドイッチ用意してきたのよ! 中身は手伝ってもらったけど、挟むのはルシェが全部やったのよ!」
「うん、うれしなあ」
蜻蛉は笑み崩れた。
「あ、あとね、クッキーは全部ルシェが作ったの。味は悪くない! はず!」
「食べてなくても分かります、絶対美味しいわ」
「……ちゃんと食べてほしいの!」
「そないしょげた顔せんでもええて、もちろんいただきます、楽しみやわ♪」
蜻蛉は手を合わせる。まずはたまごサンドから。
「んんっ……! 今まで食べたサンドイッチの中で一番美味しいわ」
「ほんとっ?」
「お弁当のあとのおやつまで。至れり尽くせり」
おなかがふくれたら、クッキーをサクリ。
「ん~、おいし。また上手になったんちゃう?」
「えへへー、よかったのよ」
安心したキルシェは、花へ話しかけだした。
「ねぇお花さん。ルシェの大好きなママのお家に行ってくれないかしら?」
手を延べるように、花はキルシェの元へ。
「いいの? ありがとうお花さん」
がんばって花を摘み、がんばって花束づくり。大きすぎる花束はまだ小さなキルシェの手に余ったけれども、娘の意地でやり通す。
「蜻蛉ママ、いつも沢山の愛情ありがとう! 大好き!」
ぎゅーっと抱きついてくるかわいい娘から花束を受け取り、蜻蛉は薄い背をやさしく叩く。
「こちらこそ、いつもありがとう」
「グリねえの方からオレのこと誘ってくれるなんて、初めてのことだし……すげー嬉しいなあ」
あの不器用なグリねえが。エドワードは大きく息を吐いた。グリゼルダ答えて曰く。
「かたろぐ、見ないか?」
「カタログ!」
「エドワード少年には色々と心配をかけさせてしまったからな……礼だ」
「礼!」
「そうだ。かたろぐだが。くっきーも買っておいた。食べながら一緒に見よう」
「あの、グリねえが! 礼!」
「強調するところか、そこ?」
混沌へ召喚されたエドワードを、拾ってくれたのがグリゼルダ。つまり、恩人だ。
「お弁当作ってきたんだっ。この卵焼き、美味しくできてると思うんだけど、試しに食べてみてくんね?」
「いいぞ」
「はい、あーん!」
「あ、あーん?」
ぽかんとしたグリゼルダの口内へ、やわらかぷりぷりの卵焼きが押し込まれる。お弁当のおかずにちょうどいい、ほのかな塩味。隣へ並ぶはタコさんウィンナー。まっかなそれみたいな顔したグリゼルダ。
「ははっ、グリねえ、照れてるっ!」
「か、からかうんじゃない。かたろぐを見よう。そうしよう」
「OK! 見終わったら一緒に昼寝しよ?」
「かまわない」
「やった!」
ふたりであれがいいこれもいいなんて頁を捲る。
「……少年、心配をかけたな」
「いいって」
「そうか」
ふっと笑う横顔へ、少年は語りかけた。
「グリねえ、今日のことも、出会えたことも、ほんとに嬉しかった。グリねえは、オレの大好きな家族だ。いつも、ありがと」
「……IVRSYNGLSH、熱よ保て」
「ほー、やるじゃねェの」
猫と弟子の様子を見ていれば、自然と武器商人も笑顔になる。クウハが用意したスコーンへ、クロテッドクリームをたっぷり、塩をぱらり。さくりとかじれば芳醇な味わい。
武器商人が作った今日のサンドイッチは、シンプルにハムとチーズ。そのぶんいい素材を使っている。おかずはたらこポテトサラダにSサイズの豆腐ハンバーグ。デザートはもちろん、カスタード入りのアップルパイ。
リリコのいれたお茶は、まあ飲める味。自分で淹れたほうがいいに決まっているけれど、そこは弟子にやらせる親心。
「……紅茶、久しぶり」
「そりゃよかったな」
ぶっきらぼうに言いつつ、クウハは目を伏せる。
(難儀なもんだな。『言葉を発することで不幸を呼ぶ』か、ただの思いこみだろう? そうだよな?)
自分の言葉を呪いに思う必要なんかない、リリコの周囲にとってそれは、祝福ですらあるのに。
それは慈雨もだ。
クウハは武器商人を見やる。そのモノは苦く微笑みながらふたりを抱きしめる。苹果の香が漂った。
「プレゼントを用意してきたんだよ、我(アタシ)のおまえたち。クウハへはこれだ」
錨草モチーフのチャームがきらめいた。「離さない」。かまわねェよとクウハは思う。
慈雨は何を負い目に思うんだ? 特に俺は自ら捕らわれることを望んだ身なのに。
なのにその強欲は悲しげに笑う。
「愛しているよ、可愛いコたち。どうか末永く健やかに、おまえ達を愛させてちょうだいね」
リリコへはピンクのアイシャドウ。クウハからは花を閉じ込めた透明なティントリップ。同じ物を武器商人の唇へ。淡く色づく薄い唇は、桃。
「この私を母と呼ぶんだね、アーマデル」
「……俺にとっての父的存在が師兄だから、母的存在はあんたかも、と」
「彼と同列? 御免被るね」
ラウラン殿を呼ぶべきか迷ったなんて言ったら、この技官はすねそうだ。
アーマデルはあたりを見回した。色とりどりの花、カーネーションとかいうもの。故郷には、彼の知る場所には、存在しない瑞々しさ。アーマデルは花束を作り、いつも見守ってくれるイシュミルへ渡す。
「カーネーションは悪酔いを防ぐと信じられているが……」
「口を開くな、せっかく似合ってるんだから」
「オイゲノールの薬効は……」
「口を開くな」
「フェニルエチル……」
「開くな」
「ありがとう」
アーマデルは目を丸くし、イシュミルは笑顔の裏で顔をしかめた。
(本気で私のことを、こうだと思っているのかい? だとしたらアーマデル、キミの目は節穴が過ぎるよ)
カーネーションの花言葉は、無垢で深い愛。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
おつかれさまでしたー!
母の日、これから混沌へ広がりそうですね。
皆さんそれぞれにピクニックを楽しんでおられて、私も楽しかったです。
MVPは不器用なりに精一杯を示そうと努力した貴女へ。
GMコメント
みどりです。
今年の母の日は、薔薇の香りのハンドクリームを渡しました。「あ、ども」って反応でした。
さておき、とっときのプレゼントを用意して、お世話になってるあの人とともにピクニックへいきましょう。
何を渡すかはあなたしだい。喜ばれるといいですね。
場所はカーネーションが揺れる花畑です。ネモフィラや、チューリップなんかも揺れている、緑の絨毯です。時間帯は風薫るうららかなお昼ごろ。絶好のピクニック日和でしょう。
名声は「豊穣」へ入ります。
みどりのNPCは、プレ指定で呼び出し可能です。
みどりのNPCってだれ、いきなり出てきたこのシスターは何者? という方は、お時間のあるときに、みどりのGMページをご覧ください。フレーバーが載っています。
同行者指定
同行者の有無を問うものです。
【1】有
同行者がいらっしゃるPCさんは、この選択肢を利用したうえで、プレイングへ【専用タグ】を記入してください。また、NPCと絡みたい方は、描写希望NPCの名前をプレイングへお願いします。
【2】無
おひとりさまも歓迎します。NPC絡みOKの方は、該当NPCを指定、あるいは絡み希望とご記入ください。
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