シナリオ詳細
<天使の梯子>みんなみんな、ずっとずっといっしょだよ
オープニング
●みんなみんな、ずっとずっといっしょだよ
ケリーが死んだ。アルジャイルが死んだ。ベランドネリアが死んだ、アスターが死んだ。ベティーが死んだ。ロルチが死んだ。リリーが死んだ。マックスが死んだ。オリビムが死んだ。グレースが死んだ。コナーが死んだ。レイケルが死んだ。ザックが死んだ。シェリーが死んだ。ペイジが死んだ。ブライルが死んだ。アブリエルが死んだ。マシュが死んだ。メリッコが死んだ。シドニーが死んだ。アックレスが死んだ。レイナレイナが死んだ。デビッドが死んだ。リンジーが死んだ。オリバスが死んだ。ケイラが死んだ。
みんなみんな、帰ってこなかった。
私を残して戦いに行って、それきりだった。
だけど今。
「アンバー、もう大丈夫よ。泣かないで」
ケリーが私の目の前にいて、そっと涙を拭ってくれた。
はっとして振り返れば、みんながいた。
アルジャイルもベランドネリアもアスターもベティーも、みんなみんな、ここにいた。
「なんだ……夢だったんだ」
肩を落として涙をぐしぐしと拭う私を、皆笑ってみている。
「ほら、訓練の時間だぞ。またサボったら、わかってるよな?」
あえて厳しい口調で言ってみせるアルジャイルに、『うん』と言って立ち上がる。
そうだ。
ここが、ほんとうの世界なんだ。
●お別れのしかたを教えて
「アンバー・キリードーン。天義に属する騎士の一人で、星光教会聖騎士団に所属する女性です。彼女は教会に納められていた聖遺物『夢見る桂冠』と共に浚われ、今まで行方が分かっていませんでした」
無人となった星光教会の聖堂にて、神父エリンケは振り返った。
その場に集められたのは八人のイレギュラーズたち。
彼らの役目は、これから説明されるところだ。
だが……。
「『今まで』ということは、今は?」
「はい。行方が分かりました。彼女は今、『神の国』に捕らわれています」
聖遺物『夢見る桂冠』は装着者をもって初めて効果を発揮するといわれている。
つまるところアンバーは聖遺物の装着者として浚われ、『神の国』の核にされているということだろう。
『神の国』とは何か? もしあなたが天義の事情に詳しければ、いま天義を騒がせるリンバスシティ事件の一部であると分かるだろう。
「ルスト陣営はエル・トゥルルにおける聖遺物の汚染。そして天義の巨大都市テセラ・ニバスを侵食した『リンバス・シティ』の顕現を行いました。
我々はそれらを調査する果てに一つの新たな領域を発見したのです。それが『神の国』。
街に帳をおろし変異させてしまうリンバス・シティとは異なり、神の国は『まだ現実に定着していない領域』……つまりは夢幻のような異空間なのです。
しかしこれが時間をかけて定着すれば、第二第三のリンバス・シティができあがってしまうでしょう」
神父エリンケが適切な手順を踏むと、聖堂の空中に入り口のようなものが発生した。
この先に、彼の語る『神の国』のひとつがあるということだ。
「皆さんにはこの中へと侵入し、核となる『夢見る桂冠』を破壊してほしいのです」
●騎士団として
アンバーは星光教会聖騎士団の中で唯一生き残ってしまった騎士である。
かつてベアトリーチェとの戦いで出陣した多くの騎士団の中で、枢機卿アストリアの陰謀に巻き込まれ命を落とした騎士達がいた。
ひとり教会の留守を任されていたアンバーを除き星光教会聖騎士団は全滅。誰一人として生きて帰ることは無かったという。
「この『神の国』では、アンバーにとって『仲間達全員が生きて帰ってきた世界』が展開されています。
アンバーがこの世界に居続けたいと思う限り、核は世界の中に隠れ見つけ出すことはできないでしょう。
まずはこの空間に入り込み、騎士団の一人として共に生活を送って下さい。アンバーと仲良くなり、信頼を得るのです。
そして、告げるのです。仲間達はもう死んでしまったことを。彼女はその現実を受け入れられずに苦しむかも知れませんが……事実から目を背けることはもはやできません。
そうなれば、この空間内を維持している『影の天使』たちは本性を現し、あなた方を排除しようとするでしょう。これを撃退し、姿を現した聖遺物を破壊するのです」
死はどんな形であれ、誰にでも訪れるものだ。
しかし別れ方を知らぬまま、受け入れぬまま生きていくことはできない。
だから、アンバーに教えてあげよう。
大切な人たちとの、別れ方を。
- <天使の梯子>みんなみんな、ずっとずっといっしょだよ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年05月22日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●幸せは幻に似ていて
「ピリアもね、だいじなおともだちがいたの! とってもきれいなヒレの、かわいい子♪
でもね、おともだちとね、ちゃんとおわかれができなかったの。うみの上にいっちゃったおともだち」
そう語る『欠けない月』ピリア(p3p010939)と共に、アンバーは部屋の掃除をしていた。
「そうなんだ――あっ、ケリーまた忘れ物してる!」
ベッドを整えていたアンバーが枕元から小物をとりあげると、ピリアに翳してみせる。
「ケリーっていつも一つは忘れていくんだよね。私と同期だから、こうやって届けてるの。ちょっと行ってくるね」
ぱたぱたと手を降るアンバー。ピリアは手を振り替えして、そして目を細めた。
ケリーという騎士は、もういない。
アルジャイルもベランドネリアも、みんなもういない。
ここは彼女の作り出した、幻の世界なのだから。
「普通の女の子なら、幸せな夢に浸っていたいって思っても仕方ないよねぇ。
それでも、残酷なようだけど生きているなら現実を歩んでいかなきゃならないし。
騎士団の名を冠する集団に属するなら精神も鍛えるべきだった。
普通の感性でいたいなら普通の生活をするべきだった。
まぁ私が言っても何の重みもないけどね」
星光教会聖騎士団の制服を着て、『乱れ裂く退魔の刃』問夜・蜜葉(p3p008210)は訓練場の風景をぼうっと眺めていた。
アンバーの戦友であり家族でもあった騎士達が訓練をしている、日常的な風景が広がっていた。
「ケリー、忘れ物!」
アンバーが駆けてくる。蜜葉が手を振ってみせると、アンバーは笑顔で手を振り替えしてくれた。
騎士の日常は単純で豊かだ。
訓練をして、見回りをして、勉強をして、話し合って、そして生活をする。
ひとつの場所に集まって暮らす彼らはまさに家族そのもので、アンバーが何か悩みをもてばそれを察して皆が集まってくる。
これがアンバーでない誰かでも同じ事だ。
蜜葉も共に訓練をしながらも、そんな風にアンバーによりそって過ごしてきた。
「一手お手合わせを願おうかな」
剣を抜き、『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が手招きをする。
アンバーは「よろしくお願いします!」と笑って彼の前に立った。
剣をぶつけ合う。最初はゆるやかに、そして徐々に激しさを増して。
(仲間……いや、家族と死に分かれた辛さを利用された……か。
別れの属性を持つものとして見過ごせない案件だね。
こんなにも卑劣な手段を使った傲慢陣営は全力で叩くとして。
アンバー殿、彼女が一歩を踏み出せるように、助力は惜しまないよ)
心の中でそう呟き、ヴェルグリーズはアンバーの剣を受け止めた。
「そろそろ休憩の時間ですよ」
『温かな季節』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)が大きな水筒とパンのはいった箱を持って食道の方へと歩いて行く。ピリアたちと一緒に掃除を終えて、今度は皆の食事の支度を終えたところのようだ。
「ありがとうジョシュア! 今行くね!」
笑顔で食道へ駆けていくアンバー。その背中を、ジョシュアは静かに見つめていた。
(アンバー様にとって騎士団が第一の家族だったのですね。
……孤独の中で得た光がどれだけ大切だったのかは想像ができます。
それでも内に籠もってばかりではいられない状況ですから……)
「どうだ、オレの料理は美味いだろ?」
食道のキッチンスペースから出てきた『巨星の娘』紅花 牡丹(p3p010983)がニッと笑う。
(大切なヒトとの別れ方、ね。
こっちが教えて欲しい位だぜ。
あー、クソが。見てられねえ)
くしゃっと歪みそうになった表情を隠すように、牡丹は背を向ける。アンバーは首をかしげ、そして『おいしいです!』と満面の笑みを返すのだった。
ピリアさんもジョシュアさんも、私の大事な家族です。
牡丹さんはちょっと乱暴だけど、頼りになるおねえさんです。今日も私に料理をふるまってくれました。
ヴェルグリーズさんや蜜葉さんとの訓練も、厳しいけどやっぱり楽しいです。
「あれ? ゼファーさん、まだこんなところでサボって」
アンバーが川辺に出てみると、『猛き者の意志』ゼファー(p3p007625)が芝生の上に寝転がっていた。
「なあに。こんな、ヒトのなんでもない時間を守ってくれてるのが正義ってヤツですもの。
なら、其の正義が齎してくれた時間を感謝して享受するのが正義に対する礼儀ってヤツよ」
あなたもいらっしゃい、と手招きしてくるゼファー。アンバーは仕方なくと言った様子で隣に座った。
風がゆっくりと流れ、彼女の頬を撫でていく。
ゼファーはそんな彼女の横顔を見つめていた。
(ずっとずっと、永い夢を見ているのね。
でも、気を付けなさいな。
お酒と夢ってヤツは、浸かるほどに溺れるものでもありますからね)
すると。
「おおいヒヨッコ、見回りの時間だぞ!」
『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が剣を担いでやってきた。隣には『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)がナイフをさげて歩いている。
「嫌ってほど連れ回してボロ雑巾にしてやろうぜェ。なあ山賊ゥ!」
「だなゴブリン」
ヒッヒッヒと悪い笑いを浮かべる二人。ゼファーがそんな二人に呆れた様子で肩をすくめた。
「あんまりいじめるんじゃないのよ」
「俺ぁいつも後輩連中を可愛がってるぜ。なあ?」
「ははっ! 可愛がるって、おめぇが?」
ギシギシと笑うキドー。アンバーは剣を手に取るとすくっと立ち上がった。
「今行きます、先輩! 今日もよろしくお願いします!」
深々と頭を下げるアンバーに、グドルフとキドーは顔を見合わせた。
「いいか? こいつはごっこ遊びじゃねえんだぜ。
昨日肩ァ組み合って酒を飲み交わした奴が、明日にゃ冷てえ土ン中、なんざよくある話だ。
てめえが守りてえモンは家族だけか? 仲間だけか?
違ェだろ。国と民だろうが。
仲間が目の前で死んでも、戦えない民を守る為に戦え。
それが騎士ってモンだろ!」
グドルフとキドーの付き添いのもと、アンバーは魔物退治に精を出していた。
「はい、先輩!」
アンバーは聞き分けのいい後輩だった。心配になってしまうくらいに真面目で、感受性が豊かで、そして……脆そうな娘だった。
(けどなあ――女子供だろうとなんだろうとよ、そもそも聖騎士サマってのはテキトーな覚悟でなれるモンじゃあねェだろ)
キドーは心を鬼ならぬ子鬼にして、アンバーを見つめる。
これから残酷な真実を伝えることになるのだと。
●bye-bye
夢みたいな時間だった。
みんながいて。
みんなが……みんなって?
「あまり時間をかけたい気分でもないの。長居しすぎると、私達まで溺れてしまいそうだもの」
食堂の真ん中で、ゼファーはそう言い捨てた。
きょとんとするアンバーの左右で、キドーとグドルフが立ち上がる。
「ごっこ遊びはもうしめえだ。とっとと起きな。
全く騎士になる覚悟もねェガキが、手間かけさせやがる。
……それにしても、笑えるよな。山賊が騎士に説教なんてよ!」
「なにを……言ってるんですか、先輩……?」
笑顔を浮かべようとするアンバー。その表情は引きつっている。
「大切に思うなら、猶更。
ちゃんとお別れしないと、死者が浮かばれない。
どこにも行けず、アンバーちゃんのことも分からず、彷徨ったままだ。
でも成仏すれば、あの世から見守ってくれるものだ。
なら君は一人であっても決して独りにはならない。
みんなみんな、ずっとずっといっしょだよ」
蜜葉の言葉に反応するように、周囲で食事をしていた騎士達が動きを止めこちらを見ている。
「アンバー殿、俺達はキミの本当の仲間ではないんだ。
俺達はキミを助けに来たイレギュラーズでしかない。
キミの仲間たちは以前の強欲との戦いですでに全員帰らぬ人となっている。
辛いだろうけれど、これが現実だ」
ヴェルグリーズがまるで別れを宣告するように言い切ると、周囲の騎士達がそれぞれの武器に手をかける。
「あのね、みんな、もういなくなっちゃったの。
だからおわかれ、しよ? さみしいし、つらくてくるしいけど……でも、ひとりぼっちのまま、夢をみたままの方が『みんな』にはかなしいことなの」
助けを求めるようにアンバーが振り返ると、ピリアがそう囁いた。ジョシュアも頷き、周囲に警戒の視線を向ける。
「どうだ、オレの料理は美味いだろ?
大切なヒトに習った大切な味だ。
アイツが死んでも遺る味だ。
てめえには何もないのか?
悲しみしか遺ってねえのか?
嘆くなとは言わねえし、言えねえ。
だがな思い出を全部悲劇にしてんじゃねえ」
牡丹が力強くテーブルを殴りつけた。
「てめえは大切な奴らを全部ゴミにしてやがる。
そうだろ?
そんな偽者共を本物と重ねるっつうことが侮辱以外のなんだってんだ」
「「それ以上は言うな」」
ケリーが、アルジャイルが、ベランドネリアが、食堂で何気なく食事をしていたはずの騎士達が武器を手にこちらをにらみ付けている。表情はなく、声も皆平淡だった。
困惑するアンバーを余所に、かれらはその姿を露わとする。影に沈んだような姿と、歪な羽根。影の天使たちだ。
「くだらねえまねをしやがって!」
牡丹は片翼をばさりと広げ、吠えた。
●大切な人たちとの、別れ方
「嘘……」
現状を否定しようと首を横に振るアンバー。しかし仲間の騎士達が影の天使へと変貌する事実がそうさせてくれない。立ちすくむアンバーを囲むように、牡丹たちは円陣を組みそれぞれの騎士へと身構えた。
放たれた矢がジョシュアの腕や脚をかする。テーブルに飛び乗ったジョシュアはそのまま跳躍し影の天使へと矢を放った。
影の天使の腕へと着弾した矢。たった一発かと思いきや、それは何発もの矢に分散して周囲の天使達へと突き刺さっていく。
「初めて大切にしてくれたひとが死んで、家や街から追い出されて、
生きるのも辛かったけれど僕が耐えなかったら彼女の想いも願いも消えてしまうから……。
僕はただそうやって耐えただけです。
あなたにだって貰った想いがあるのではないですか?
一人で耐えろとは言いませんから、ここから出て大切なひとの事や色々な話しをしましょう?」
矢を放つその背中越しに語りかける。ジョシュアの言葉が届いたのか、アンバーは自らの胸に我知らず手を当てていた。
一方剣を手に斬りかかってくる天使たち。ヴェルグリーズは鞘で斬撃を受け止めると、そこから抜いた『神々廻剱・写し』によって反撃の回転斬りを繰り出した。
かかってこいとばかりに剣を構えるヴェルグリーズに、一斉に斬りかかっていく天使たちの猛攻。その全てをヴェルグリーズは華麗な剣さばきによって撃ち払っていく。
「彼らが本当にキミの家族ならキミのこれからの幸せをきっと祈っている。
どうか、この別れを悪しきものにしないで。そうなるかはキミにかかっている。
彼らの死を無駄にせぬように、この別れから目を背けないで。
キミの幸せはきっとその別れの先にあるのだから」
それだけではない。ピリアが両手を合わせ小さく祈ると、オパールの煌めきが生まれヴェルグリーズたちのおった傷を治癒していく。
「お別れするみんなと、これから前に行くアンバーさんへのお花なの!」
煌めきは花びらのように散って、アンバーの周囲を覆っていく。
別れは誰にだって訪れる。しかし受け入れることと訪れることは別だ。心だけが取り残されて、世界の回転に追いつけないことだってあるだろう。
けれど今からだって遅くない。ピリアの祝福はそう告げているかのようだった。
蜜葉がここぞとばかりに前へ出ると、鎧の騎士と剣をぶつけ合った。
脇差し『夢幻珊瑚』で相手の剣を受けると、本命の太刀『碧玉雪華』で斬りかかる。
飛び退く相手の回避は、僅かに間に合っていない。
「アンバーちゃん。お墓は作った? もうあるなら、一緒にお墓参りをしようか」
別れは人の数だけ訪れ、そして別れ方もまた人の数だけある。蜜葉なりの別れ方はなんだっただろう。蜜葉は自分の胸に尋ねながら、アンバーにもそう尋ねてみた。
大きく踏み込み、天使の鎧の隙間を突くように剣を差し込む。吹き上がる血は、影のように黒かった。
そこへ豪快に斬り込むゼファー。
「優しい夢は、今日で御終い。
今すぐ前に進めって話じゃないわ。
ただ、いつまでも其処にいてはいけないってだけ。
其れだけは、貴女のお友達も同じように想ってくれるとは思うかな」
槍で天使を貫いてから、ゼファーは振り返りそう言った。彼女もまた、独特の『別れ』を持っていた。
人は二度死ぬという。一度目は肉体が朽ちたとき。二度目は他者に忘れられたとき。ゼファーはある意味、二度目の死を幾度もくり返してきた。
そういう意味で言えば、アンバーの戦友達はまだ死んでいない。ただ、だからといって捕らわれるべきだとは、やはり思わないのだ。
忘れろなんて言わない。けれど、前に進むためには必要なことだってあるのだ。
グドルフの剣が相手の武器を跳ね上げ、更なる豪快な斬撃が相手を切り伏せる。
「これが現実さ。騎士ってのはおめえのような心の弱ェ奴が務まるモンじゃねえ。覚悟もねえならやめちまえ。
それが嫌なら……死んでった奴らの遺志でも継ぎてえのなら、死から逃げず、向き合うこったな。
それが騎士として全うしたあいつらの手向けでもあり──おめえの為にもなるだろうよ」
グドルフにとっても、別れは大きな意味を持っていた。
ある一点においてアンバーと共通点を持つ彼だ。
そして『二度目の死』を拒んだのもまた彼だ。
だからこそだろう。
グドルフはアンバーの気持ちを『わからない』。それは、彼女だけのものだと誰よりも知っているのだから。
キドーがナイフで天使を切り裂き、呼び出した邪霊をけしかける。
「目の前でどうにかなられるのも堪えるけどよ、その時その場所に居られないのも酷く……堪える
実際その場にいて何か変えられたのかは分からない。分からないから一生答えなんて出ないし後悔未満の消化不良にしかならない」
好きな奴ほど死んでいく。この世に残るは思い出ばかり。
でも。
「一つだけ確かな事があるぜ。
俺には分からないが、お前が残されて任された教会ってのはただの建物じゃねェだろ。
そこだけ守りゃいいってもんじゃないし、ここにいたら教会ひとつも守れねェ。
分かってんのか? お前、今この場に、天義に居て、それでぜーんぶ無駄にするつもりかよ」
生きることは残されること。残ることは、守ること。
それを重荷と感じて投げ捨てても、逃げ出してもいい。
けれど思い出を形にしてまどろんでしまうほど大切なら、きっと彼女は逃げないだろう。
大切なモノから逃げたほうが、生きていてもつらいから。
「なぁアンバー。
てめえは死んだことを罪にするのか?
死んじまった奴らを罪人にするのか?
生きてて欲しかった。ああ、分かるよ。嫌になる程な。
みんなを護って死ぬんじゃなくオレのために生きていて欲しかった」
炎で天使達をなぎ払い、翼から黒き羽根を散らす牡丹。
「でもな、もう居ないんだ。てめえの家族も、オレの家族も。もういないんだよ!」
いまこそ直視する時だ。
逃げたっていい。
目をそらしたっていい。
人生ずっと、前向きばかりではいられないだろう。
けれど今は、前をむかなきゃいけない時だ。
牡丹は叫び、天使の一人を炎の拳で殴り飛ばした。
途端、空間にヒビが入り、風景が砕けていく。
オパールの煌めきだけを残して、アンバーは教会の中に立っていた。
一人だけのこされた、教会の中に。
「あ、あああ……」
流れる涙が頬をつたい落ちるのをそのままに、アンバーは膝をがくりと地面につく。
「さようなら、みんな」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――アンバーは救出され、聖遺物の回収が完了しました。
GMコメント
『神の国』へと侵入し、聖遺物を破壊しましょう。
●破壊までの手順
あなたは星光教会聖騎士団の団員のひとりとしてこの空間に侵入します。
装備や身分といったものは完璧に偽装できるものとします。
アンバーと共に訓練をしたり、生活をしたり、モンスター退治をしたりと共に時間を過ごすのです。
そうすることでアンバーの信頼を得て、仲間の一人となりましょう。
そうなった後、皆でアンバーの仲間達はもう死んでしまったことを告げるのです。
影の天使によって作られた『偽物の仲間達』はあなたを排除しようと襲いかかってくるでしょう。
それを撃退し、破壊し尽くすことでアンバーも現実から目を背けられなくなるはずです。
そうして現れた聖遺物を破壊すれば、この依頼は成功となります。
●アンバー
星光教会聖騎士団の中でも一番の新米。尊敬する先輩達と家族同然の暮らしを続ける中で、騎士団を自分の家族と思うようになった。
母から正しく愛されず父の顔も知らない彼女にとって、騎士団は『第一の』家族となったのである。
しかし先の大戦によって騎士団は失われ、彼女はひとり孤独に教会を支えることとなってしまった。
その孤独はルスト陣営の遂行者たちに利用され、聖遺物『夢見る桂冠』の装着者とされてしまった。
今は彼女を中心とした夢のような世界が『神の国』に広がり、彼女は『誰も死ななかった世界』を生きている。
性格は明るく社交的。誰とでも喋ることが出来るが、心の弱さだけは克服できていない。
彼女は騎士であり正義の代弁者だが、しかしまだ一人の女の子でしかないのだ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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