PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<月だけが見ている>傍観するアルキドゥ。或いは、地雷撤去指令…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●月光下のアルキドゥ
 空には月。
 前に広がる広大な砂漠。
 背後には月の王宮。
 そこはまるで、絵画の中の世界であるかのように美しい。
「あぁ、だって言うのに、アレは邪魔だな。この美しい世界に、アレは邪魔だ。邪魔で邪魔で仕方が無い。邪魔ならどうする? 決まっているよな。片付けなきゃいけない。足元に落ちてる本は、拾って本棚に入れるよな? 床に散らばったゴミは、搔き集めてゴミ箱にポイだ。当然だろう?」
 砂の上に腰を下ろして、1人の少年がそう呟いた。
 『吸血鬼(ヴァンピーア)』アルキドゥ。
 それが彼の名前である。
 種族はきっと獣種だろう。細い体の少年だが、頭部には猫科の動物に似た耳がある。
 彼は大きなため息を零すと、視線を背後へと向ける。
「なぁ? 片付けなきゃ、駄目だよなぁ」
 そこにいたのは、虚ろな目をした男たちだ。
 首には鉄の輪をはめられている他、身体の一部が不自然に肥大化したり、延びたりしている。
 烙印強化兵(ルべリウス・ソーン)。
 烙印を付与され、強化・狂暴化した元人間の馴れの果て……自我の無い怪物たちである。
 アルキドゥの問いかけに、男たちは答えない。
「出来損ないが20体。全部使い切って構わないって話だ。ってわけで、お前ら、行っておいでよ」
 ほら、と。
 アルキドゥが指差した先には、砂漠をこちらへ向かって来る幾つかの人影。
 イレギュラーズだ。
 
●月の光の降る砂漠
 月の王国掃討作戦。
 「紅血晶」の市場流通に端を発した一連の事件も、いよいよ終幕が近い。
「主戦場となるのは月の王宮の内部っす。ただ、やはりというか、当然というか……王宮の外にも敵の防衛網が敷かれているようで」
 難しい顔をして、イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は顎に手を触れる。
 ちら、と顔を月の王宮へと向けて、イフタフは小さな吐息を零した。
 イフタフが示した先にいるのは、砂漠の中に突っ立っている20の人影。
 烙印強化兵(ルべリウス・ソーン)という、元人間の怪物たちである。
「ある程度まで近づくと、彼らは襲って来るんっすよ。指揮しているのは後方に控えた少年っすね」
 烙印強化兵(ルべリウス・ソーン)の戦闘力自体は、さほどに高いものではない。
 また、アルキドゥが指揮をしているとはいえ、細かな命令に従うだけの理性は残っていないように見える。
「とはいえ、軽視できるものでもないっす。あいつらが首に輪っかを嵌めているのが見えるッすかね? あれって、どうにも爆弾らしくて起爆すると【飛】【ブレイク】【紅焔】を撒き散らすんっすよね」
 そして、どうやら彼らの近くの砂漠には同じものが幾つも埋め込まれているらしい。
 要するに地雷というやつだ。
 踏めば、爆弾が起爆する。
「当然、烙印強化兵の方も強い衝撃を与えると爆発します。たぶんアルキドゥが制御装置のようなものを持っていると思うんで、安全確保のためにもそれを破壊してくださいっす」
 現在、イフタフが発見した地雷は、アルキドゥの周辺にあるものだけだ。
 だが、この広い砂漠のどこか他の場所にも、それが設置されていないとは限らない。
「危険の芽は、片っ端から摘んでおかなきゃいけないっすからね」

GMコメント

●ミッション
アルキドゥの持つ“地雷制御装置”を破壊する

●ターゲット
・アルキドゥ×1
吸血鬼(ヴァンピーア)。
獣種の少年。
視力が良く、機敏であるようだ。
爆弾の制御装置を持っている他、烙印強化兵(ルべリウス・ソーン)の指揮官役も担う。

・烙印強化兵(ルべリウス・ソーン)×20
烙印を付与され、強化・狂暴化した元人間の馴れの果て。
手足や体の一部が、歪に肥大化していたり、延びたりしている他は人と大差ない姿をしている。
どうやら、烙印強化兵の中ではあまり協力で無い個体のようだ。
人間以上の身体能力を持つが、理性などは残っていない。
首には爆発する輪を嵌められている。
強い衝撃を受けると爆弾は起爆し、【飛】【ブレイク】【紅焔】を広範囲に撒き散らす。

●フィールド
月の王国(砂漠)。
王宮の手前にある砂漠地帯。
時刻は夜だが、満月のおかげで明るい。
視界を遮るものや、身を隠す障害物は存在しない。
砂の下に、烙印強化兵の付けているのと同じ爆弾が多数設置されている。
強い衝撃を受けると爆弾は起爆し、【飛】【ブレイク】【紅焔】を広範囲に撒き散らす。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●特殊判定『烙印』
 当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
 

  • <月だけが見ている>傍観するアルキドゥ。或いは、地雷撤去指令…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ

リプレイ

●爆ぜる砂漠
 夜の砂漠だ。
 王宮を背に、ずらりと並ぶ人影がある。
 人に似た形。けれど、不自然に腕や足が長く、その瞳に意思は無い。
 烙印強化兵(ルべリウス・ソーン)。
 烙印を付与され、強化・狂暴化した元人間の馴れの果てであり、首には爆弾が巻かれている。つまりは、使い捨ての兵士だ。動く爆弾として扱われている、哀れな人の成れの果てだ。
「ひでぇもんだ。アルキドゥはあいつらを使い潰すつもりだろうから、自爆特攻される可能性は高い」
 砂漠を見渡し『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)はそう呟いた。
 等間隔に並ぶ強化兵たち。
 その後方には、指揮官である吸血鬼(ヴァンピーア)・アルキドゥが控えている。
 強化兵の数は20ほどと、さほど多いわけでは無い。
 だが、強化兵の正面、砂の下にも地雷が埋められているはずだ。
「地雷とは良い手段であるな。攻め手には使えぬが防衛側だとこの上なく強い。吾も昔やられた事がある」
 強化兵までの距離は数十メートル。『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は腕組をしたまま、それを見ている。
「自我を失った元人間の馴れの果てとはいえ、使い捨ての爆弾にするだなんて……まったくイイ趣味してるわね!!」
「地雷原ってやつですか、それに自分の兵にも渡すあたり人の心がないですねぇ」
『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)と『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)が百合子に並んだ。
 開戦の時は近い。
 だが、強化兵たちはきっと積極的に攻め込んでは来ないだろう。
 地雷原を活用しての足止めや、誘き寄せての一斉起爆。アルキドゥの考えは、きっとそんなところであろう。
「うむ……吾の趣味ではない」
 つまらなそうに鼻を鳴らして、百合子はそう呟いた。

「おやおや、獣種なのにお肉より血が好みになったの? 周りも手遅れかぁ……さっさと終わらせたいね」
「えぇ。人間爆弾とは聞いた事がありますが、あまりにも身勝手な……」
『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)と『温かな季節』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)の視界には、茫然と立ち尽くす強化兵たちが並んでいる。
 アルキドゥの命令に従い、ただ目の前の敵を襲うだけの存在。
 場合によっては、首に付けられた爆弾を起爆させられる。
「烙印だけでは飽き足らず、爆弾にまでするとは……! その非人道的な目論見、烙印の負の連鎖と一緒にここで断ち切ります!」
『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)が剣を構えて前へ出た。
 1人、2人とその後に続く。
 砂漠を進むイレギュラーズたちを見据えて、アルキドゥは笑っただろう。

空を舞う『ささやかな祈り』Lily Aileen Lane(p3p002187)は、まるで航空兵器のようだった。
「何処にあるか、解らないなら、関係なく弾を降らせるの、です!」
 背に担いだ武装を展開。
 狙う先は、ただそこに広がる大地だ。
「発射なのでしt……です!」
 一瞬、Lilyの背後に別の誰かの姿がダブったような気がした。
 否、それはきっと気のせいなのでして。
「ファイア!」
 撃ち出されたのは、数えきれないほどに大量の実弾だ。
 それが地上に降り注げば、砂中の爆弾が起爆する。
 爆弾さえなくなれば、イレギュラーズの進行を遮る者は何もなくなる。

●爆破するアルキドゥ
 大爆発が連鎖する。
 砂埃が舞い上がり、数メートル先の景色さえもが見えなくなった。
 焦げた大地に義弘が降り立つ。
「思った以上に火力が高ぇな。巻き込まれると、無傷じゃすまねぇ」
 腰を低くし、握った拳を大地に向けて叩き込む。
「なるべくこちらに近づかれる前に殲滅できれば一番だがよ」
 砂が波打ち、砂塵を裂いた。
 衝撃波が強化兵の腹部を撃ち抜く。
 虚ろな瞳が、義弘を向いた。
「ちっ……仕留めきれねぇか」
 強化兵が拳を構えた。
 その拳が義弘を狙う。
 けれど、しかし……。
「あぁ?」
 その首に取り付けられた爆弾が点滅しているのを義弘は見た。
 点滅の速度は、徐々にだが早くなっている。
 起爆の準備だ。
 強化兵の拳が義弘に届くより先に、首の爆弾が起爆する。
「最後まで戦うことさえ許さんとはな」
 義弘の頭上に影が落ちた。
 急降下してきた百合子だ。
 百合子は、強化兵の肩を掴むと、力任せにその体を空へ向かって投げ飛ばした。
 2人の頭上で爆発が起きる。
 爆風と、肉片、そして血飛沫が降り注ぐ。
「……服が汚れる」
 爆風に髪を躍らせながら、百合子は跳んだ。
「おい、どこ行く!?」
「やる事は一つ! 爆弾を起爆させ、敵を倒す。これのみよ!」
 跳んで、そのまま爆風に乗って飛び去って行く。
 その様はまさに一陣の風。
 あっという間に見えなくなった百合子の背中を、義弘は黙って見送った。

 アルテミアと鏡禍が砂漠を走る。
 否。飛んでいるのだ。
 2人の足は、地面から数十センチほど浮いている。
「ここで制御装置含めて潰しきるわよ!!」
 その背後を追うのは数体の強化兵だ。
 身体能力が高いこともあり、強化兵たちは少しずつだが確実に2人に追いつきかけている。足元の爆弾は既に起爆しているが、きっと全てでは無いだろう。
 うっかり、残りの爆弾を踏むこともある。
「わっ!?」
 鏡禍が短い悲鳴を上げる。
 背後で爆発。強化兵が、地雷を踏みつけたのだろう。
 強化兵の1体が巻き込まれ、血と肉片が飛び散った。
 爆風に煽られ、鏡禍が転倒。
 倒れた鏡禍のもとへ強化兵が殺到する。 
 餌に群がる野犬のようだ。鏡禍を囲んで、打ち殺すつもりだ。
 だが、そうはならない。
「あっ……ぶないわね!」
 振り下ろされた強化兵の拳を、割り込んだアルテミアが剣で弾いた。
「先に行って!」
「すいません!」
 鏡禍は即座に、背負っていた制御装置を起動。
 弾丸のような急加速で、目的地……つまりは、敵勢力の隊列中心部へと駆けていく。
 
 アルキドゥの視界の隅で、砂に埋めた地雷が爆ぜた。
 地雷を爆破させているのは、ユイユである。
「んん? なんだぁ?」
 強化兵のいない位置で、ユイユが地面を撃っているのだ。
 砂中の地雷を起爆させ、安全地帯を増やすことが目的か。
 アルキドゥは、一目でユイユの目的を見抜いた。にぃ、と口角を吊り上げると、懐から爆弾の起爆装置を取り出す。
「僕が気付いていないとでも思ったかなぁ」
 装置を起動し、爆弾を起爆させる。
 
 地面が爆ぜて、ユイユの身体が爆炎に飲まれた。
 焼け焦げ、倒れるユイユの姿を地面に伏せた“ユイユ”が見ていた。
 爆発に飲まれたのは、ユイユの作った幻影だ。本体はこうして地面に伏して、遠距離からの狙撃でもって地雷を起爆しているのである。
 その事実にアルキドゥは気づいていない。
「嫌でも視界に入れて集中力と指揮の精度が下がれば充分さ!」
 新たな幻影を召喚しながら、ユイユはくっくと肩を揺らした。

 骨の軋んだ音がした。
 Lilyの足首を、強化兵が掴んでいるのだ。
 尋常では無い怪力で、Lilyの骨を軋ませる。罅ぐらいは入っただろうし、このままではそのうち足首の骨がへし折れるだろう。Lilyを自由にさせないつもりだ。
 先の一斉掃射を見ていたアルキドゥの差し金だろう。
 アルキドゥの考えは間違えていない。
 間違えていないが、しかしいかにも“当然”過ぎた。
「“私に気を向けた”事が成功したら御の字です!」
 足を掴む強化兵の頭部へ、ガトリングの銃口を突き付ける。
 ゆっくりと砲身が回転を始める。
 砲身の回転速度が増していく。
「後は任せました!」
 銃弾が、強化兵の頭部を砕いた。
 それと同時にLilyが叫ぶ。
 直後、敵陣営の中央で大規模な爆発が巻き起こる。

 爆発が連鎖する。
 地面に埋まった地雷が爆ぜる。
 強化兵に取り付けられた爆弾が爆ぜる。
 火炎と、砂とが飛び散った。焼けて熱くなった砂が、辺り一面に降り注ぐ。
「あっつ!? 熱いし、痛い!? ちょ……トールさん、平気なんですか?」
「……平常心です。この程度の苦行、なんと言うこともありません」
 砂の中から這い出したのは、ジョシュアとトールだ。
 仲間たちが一ヶ所に集めた強化兵を、地面に埋もれた地雷ごと吹き飛ばしたのだ。
「トールさん……苦労して来たんですね」
「いえ、そう言うのではなくてですね」
 度重なる不運に見舞われたことで、トールの心が摩耗している……わけでは無い。
 スキルを駆使しているだけだ。
「ですが、とりあえずこの辺りは安全地帯になりました」
 地面に短剣を突き立てて、トールは額の汗を拭った。
 辺りには砂塵が舞い散っている。
 強化兵も、仲間たちも、どこにいるのかが分からない。
「これ、僕たちも迂闊に動け……っ!?」
 ジョシュアの言葉が途中で止まる。
 トールが背後を振り向けば、そこには地面に蹲っているジョシュアの姿。
 ジョシュアの前には、片腕を失った強化兵が立っている。
「ジョシュアさん。立てますか?」
 抜いた剣を、トールは正眼に構えた。
 虚ろな強化兵の目が、トールへと向く。
 立っているだけでも、ぼたぼたと血が零れ続けている。放っていても、そのうち息絶えるだろうが、今すぐというわけにはいかない。
 それまで、強化兵の残党はひたすら暴れ続けるだろう。
「もちろん。だいぶ吹き飛びましたが、やはりまだ残敵がいましたね。急いで片を付けましょう」
 構えた弓に矢を番え、ジョシュアはそれを強化兵の眉間に向けた。

 爆発に巻き込まれたのは、何も強化兵だけではない。
 連鎖した爆発に巻き込まれ、Lilyが地面に落ちていた。爆風と衝撃に打ちのめされて、全身が強い痛みを発している。
 意識を失うことは無かったが、果たしてそれが幸運なのか、不運なのか。
「い……ったぁ」
 砂塵に隠れて周囲の様子は窺えないが、作戦は成功したのだろう。
 額から流れる血を拭い、Lilyは僅かに微笑んだ。
 だが、その直後にLilyの表情が固まる。
 砂塵の中に、人の影が見えたからだ。
 歪に長い脚をした人影……生き残りの強化兵に違いない。
「……や、っば」
 Lilyはまだ戦える。
 戦えるが、しかし体力は減っている。
 身体能力の高い強化兵と、接近戦を繰り広げるのは不利だろう。
 地面を蹴って、強化兵が駆け出した。
 振り上げた拳が、Lilyの頭部を狙っている。
 衝撃を覚悟し、Lilyは強く目を閉じた。
 けれど、しかし……。
「間に……合いました!」
 強化兵の拳がLilyの頭部を打つことは無い。
 浮遊する鏡が、拳を受け止めたからだ。
 それは薄紫の霧。
 霧を纏った鏡禍である。
 何度も、何度も、強化兵が殴打を放つ。殴打の全てを、鏡禍の操る鏡が受け止めた。鏡面に傷は入らない。鏡面が砕けることも無い。
 鏡が砕けない限り、鏡禍は決して倒れない。

 砂塵の中に人影が見える。
 その数が1つ、2つと増えていく。
「やっと着いた! 随分と趣味の悪い作戦じゃないか、元獣種サン!」
 砂に汚れたアルキドゥを睥睨し、ユイユは嘲るように笑った。
「趣味が悪い? どこがだい? この美しい世界を守るために、命を捧げられるんだから、これほど素敵な役割も無いと思うけどね?」
「美しい世界? 見た目だけではないか。血を食らう化け物共の巣窟の何が美しいものか」
「その美しい世界も、直に終わりを迎えるけれどね」
 次に現れたのは、百合子とアルテミアの2人だ。
 身体は砂に塗れているし、顔や腕には血が滲んでいる。しかし、その立ち姿は威風堂々としたもので、アルキドゥは思わず1歩、後ろに下がった。
 だが、何もアルキドゥの元に集まって来たのはイレギュラーズだけではない。
「最後までこちらを爆破しようと地雷に誘導かけてくるかもしれねえから、十分に注意しなけりゃいけねえがよ」
 鼻を鳴らして、義弘は硬く拳を握る。
 砂煙の中から、都合2体の強化兵が現れた。元々、アルキドゥの護衛のために前線から少し引いた位置にいたのだろう。
 損傷は軽微。
 そして、その首には当然だが爆弾が付けられている。アルキドゥを巻き込んで起爆することは無いだろうが、追い詰められればそれもどうか分からない。
 警戒を強めるように、義弘は僅かに腰を落とした。

●アルキドゥ
 拳が霧を引き裂いた。
 鏡を盾にするようにして、鏡禍が強化兵の懐へ潜り込む。
 超至近距離から放たれる殴打が、強化兵の腹部を射貫いた。骨は砕けて、内臓は押し潰されただろう。吐いた血が、鏡禍の顔を汚す。
「っ……まだ動きますか」
 強化兵とて痛みを感じないわけでは無い。激痛に苛まれ、苦悶の声を零している。だが、止まらない。止まれない。止まるような命令は受けていないからだ。
「ごめんなさい」
 だから、止めてやらなければいけない。
 強化兵の胸部にLilyが銃口を押し付けた。
「安らかに……お眠り下さい」
 回転する砲身。
 連射される銃弾が、強化兵の胸部に風穴を開ける。
 肉を穿たれ、強化兵の首が地面へと落ちた。

 アルキドゥの足元へ向け、ジョシュアが1本の矢を放つ。
 矢から噴き出すのは、甘い香りの毒粉だ。アルキドゥは慌てて口を押えるが、幾らかの毒粉は吸い込んだだろう。
「水仙は猫にも当然毒です。あなたもここも直に終わります」
 アルキドゥとジョシュアの視線が交差した。
 だが、アルキドゥはジョシュアを攻撃することは無い。今のアルキドゥに、ジョシュアを狙う余裕はない。
「さて……向こうは皆さんにお任せして、僕たちは生き残りの強化兵を探したり、爆弾の撤去をしたりしましょう」
 弓を下げたジョシュアが周囲を見回す。
 焼け焦げた砂漠に、動く影は見当たらない。
 だが、全部の爆弾を撤去出来た保証は無いし、強化兵の生命力を思えば、まだ生きている個体がいても不思議ではない。
「ずっと埋めて置くのは不安ですし、いっそのこと派手に全部起爆させてしまうのもアリでは?」
 輝く剣を鞘に納めて、トールはそう呟いた。
 その視線はアルキドゥに向いているが……今から助けに向かう必要も無いだろう。
 なぜなら、既にアルキドゥに後は無い。
 アルキドゥの側頭部を百合子の拳が殴打した。
 砂埃を上げながらアルキドゥが地面を転がる。体勢を立て直す暇はない。なぜなら、アルキドゥの転がる先には、あっという間に百合子が回り込んだからだ。
 逃げることは出来ないし、きっと彼では百合子に勝てない。
「はぁ……強いですね、流石」
 血と砂に塗れ、焼け焦げたまま暴れる百合子を眺めながら、トールはそう呟いた。

 2体の強化兵は、1歩も前へ進めなかった。
 義弘の拳が、殴打のラッシュが、強化兵の顔面を、胸を、腹を打ち抜いた。血を吐く。骨が折れる。肉が潰れる。
 素早く、そして確実に。
 取り付けられた爆弾だけは打たないように気を付けながら、殴って殴って、殴り続けた。
「爆発させるにしても、周囲に影響がないように気を付けなきゃいけねぇのが面倒だな」
 義弘が舌打ちを零す。
 爆発は連鎖する。
 強化兵2体程度ならともかく、もしも残っている地雷があれば、それまで巻き込んで大爆発を起こしかねない。
 大爆発に紛れて、アルキドゥを逃がすわけにはいかないのだ。
「最後に派手な花火でもあげちゃう?」
 義弘の背後で、ユイユは言った。
 カチャリ、と銃に弾丸を装填する音がした。
「あ? あぁ……なるほど、そりゃいい考えだ」
 義弘の手が、強化兵の首に伸びる。
 2体の強化兵を纏めて掴み上げると、義弘はそれを力任せに頭上へ投げた。
「じゃぁ、まぁ……ご苦労様」
 銃声は2回。
 ユイユの撃った針の弾丸は、狙いすましたかのように強化兵の首に取り付けられた爆弾を貫いた。

 百合子の拳が、アルキドゥの腹部を打った。
 血と胃液を吐き散らし、アルキドゥが地面を転がる。その首を掴んで起き上がらせて、百合子は何度目かの拳を叩き込む。
「ほら! どうした!? 死力を尽くせ! 守りたいものがあるのだろう!?」
「ひっ……やめ」
 アルキドゥの言葉は最後まで続かない。
 百合子の殴打が、顔面を叩き潰したからだ。
「ん?」
 顔面を叩き潰されながら、アルキドゥは百合子の腕を掴んだ。
 その顔は、泣いているようにも、笑っているようにも見える。
「や、って、……やる、よぉ」
 アルキドゥの左手には、爆弾の起爆装置が握られている。
 百合子の目は、アルキドゥが衣服の下に隠し持っている爆弾を捉えた。
 密着状態からの起爆。
 爆発すれば、百合子もアルキドゥも無事では済まない。
 爆発すれば……だ。
「少し以外だったけど、そう言うことすると思ったわ」
 一閃。
 蒼い短剣がアルキドゥの左手を切断する。
 地面に落ちた起爆装置を遠くへ蹴り飛ばしたのはアルテミアだ。長い銀の髪が流れるのをアルキドゥは見た。
 アルテミアが、身体を回転させる。
 最初の斬撃は、アルテミアの狙い通り、制御装置ごと手首を落とした。
 回転しながら、放たれる2発目の斬撃。
 その狙いは、アルキドゥの首だ。
「ち、くしょ……」
 アルキドゥが左手を上げた。
 失った左手で、制御装置を押そうとしたのだ。
「本当に吾の趣味ではないな」
 百合子はそう呟いて、アルキドゥの首から手を離す。
 アルテミアの斬撃が、アルキドゥの首を斬り裂く。



成否

成功

MVP

Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点

状態異常

亘理 義弘(p3p000398)[重傷]
侠骨の拳
咲花・百合子(p3p001385)[重傷]
白百合清楚殺戮拳
Lily Aileen Lane(p3p002187)[重傷]
100点満点
鏡禍・A・水月(p3p008354)[重傷]
鏡花の盾

あとがき

お疲れ様です。
アルキドゥは討伐され、王宮前の地雷は撤去されました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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