シナリオ詳細
<月だけが見ている>月に抗う金緑石
オープニング
●
月が輝いていた。
満天の夜空に輝く星々と、それの輝きを覆いつくす妖しき月の色は祭祀の停止した空間に未だ輝きを魅せている。
夜に輝く王宮だってその影響は色濃く映り、煌びやかに見える王宮は外から見ても崩れつつあった。
ざぁと木々が揺れる。
月の夜、王宮に見下ろされた砂漠の中に、小さなオアシスが広がっている。
小さな湖のほとり、夜明けのような橙色の髪が風に揺れていた。
尖った耳と丸みを帯びた肉体は彼女が幻想種の女性に近しいことを教えてくれようか。
腹部を抑えた女性は不意にその手から閃光を放った。
炸裂する光は当然の如く彼女の腹部を焼いて――
「が、あ、あぁ!!」
美しいかんばせを苦悶に歪めて倒れこんだ吸血鬼は湖面に映る自分の顔に益々不快感を魅せる。
ザラと呼ばれる彼女は、月の国に潜伏していた幻想種だった。
同胞を救い出すために、餌にされて殺されぬために、吸血鬼を選ばざるを得なかった。
湖面に映るルビーのような紅とエメラルドのような翠の瞳が、相反する感情に揺れている。
(死ね、死んでしまえ。奴隷に弄られ、再生を繰り返した汚らしいお前は、化け物だ。
こんなにも痛いのに、お前はどうせ元通り。アイツらが喜ぶそんな体ごと、死ねばいいんだ。
嫌だ、否だ、イヤだ、まだ、まだ死ぬわけにはいかない。
見苦しくても、悍ましくても、私は、生きて、生き残ってみせる、んだ。
もう一度、あの子に会いたいから)
揺らぐ感情が1つになっていく。
それは170年の奴隷生活で生き残るために選んだ選択肢。
くそったれな奴隷商や趣味の悪い買い手どもに『私』を殺されては再生する身体に生まれた、もう一人の『僕』。
自己防衛のために産んだ2つの自分が、1つになる。
(どうか、どうかもう少し、待って――)
半分の意識を塗りつぶすように、翠の瞳が映る顔を抑え込んだ。
●
開かれた城門。『烙印』の残り日数を思えば、早期に進み解決をしなくてはならない。
博士と名乗る男は『烙印の治し方? さあ、死の間際に教えるのではないかな』とはぐらかすばかり。
あの寒々しい冬に、市場に回った紅血晶はイレギュラーズの尽力のお陰もあり全て回収しきったとファレン・アル・パレストから伝達も入った。
残るはこの王宮を攻略し、紅血晶の『大元』を断つこと。そして、吸血鬼と名乗った者達の一斉掃討。
コレより行なわれるのは月の王国掃討作戦。戦力を集結させ、此処で『呪縛の物語』を終えようではないか。
こうして始まったローレットによる王宮の攻略戦――だが、その一方で吸血鬼たちの動きはそれだけにとどまらなかった。
王宮の内部には女王『リリスティーネ』がいる。
烙印を持つ『吸血鬼』達は、彼女への崇拝、あるいは帰属本能のようなものに焦がれる。
だが、それそのものを拒む者達は、当然のように『王宮の内部』へ至ることはない。
「こんばんは、英雄さん。あぁ、早く来てくれてよかったよ」
くすりと笑う幻想種。
ザラと名乗る彼女は、200年ほど前に奴隷商に攫われ、奴隷として170年ほど各地を転々としたという。
生存を願った彼女の妹は今もネフェルストにて姉の生還を願っているだろう。
「――僕を、殺してほしい/私は、まだ死にたくないの。
狂った身体はもうこりごりだ」
ノイズがかったように、まるで正反対の言葉を紡ぎ、けれどザラはその手に光を帯びる。
「同胞を傷つける女王陛下のために、生きるなんてのは嫌だ」
「まだ、私が生きているって信じてくれてるあの子の為に、生きてここを出たいのです」
「それは私達への依頼ってことでいいな?」
ラダ・ジグリ(p3p000271)が静かに問えば、ザラはその両眼を驚きに見開かせた。
「……まあ、乗りかかった船だ。最後まで付き合うさ」
「そうね、一旦関わってしまったからには、最後まで付き合うってのが人情というものよ」
そう語る天之空・ミーナ(p3p005003)や、ルチア・アフラニア(p3p006865)が言えば。
「気を強く持ちなさい。あなたが正気であるうちに月の王宮を踏破してみせるわ」
そう静かに告げたアルテミア・フィルティス(p3p001981)も剣を抜くか。
「良かった――どうにもこの身体が、好き勝手に動くんだ。
生き延びてみせますから、全力できてください」
紅の瞳がルビーの、翠の瞳がエメラルドのような輝きを見せる水晶を零していた。
烙印の花は咲き誇る。
刻まれた花が魂を絡め取るより前に、目の前の女性を生きたまま鎮めるしか道はない。
- <月だけが見ている>月に抗う金緑石完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
穏やかな砂漠のオアシス。
歪なれど満天の望月を映すその地で、イレギュラーズと吸血鬼の戦いは始まっていた。
「望みも、願いも。自由であるべきだ。それがレディのものであるなら、なおさらさ」
そう語った『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)の予告状はザラの手に収められている。
「そういうことだから、レディ。一曲躍ってもらえるかな」
「僕なんかで良ければ 舞踊の1つや2つならやらされたこともありますから」
そう語ったザラの踊るような閃光魔術はどこか性的だった。
元奴隷らしいという情報からすれば、その踊りが何を意味する物か、想像に難くない。
(虫唾が走るな……どこで誰に学ばされたのか言われなくともわかる)
苛立ちは隠してサンディはザラの猛攻に1つ1つ対処していった。
(貴女の苦しみは……憤りは、痛い程に分かる。
わたしも烙印を受けているから……だからこそ、貴女を救ってみせる)
紅色の瞳でザラを見る『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は心の内に溢れる闇を抑え静かに思う。
放った魔弾はミーに当たることはなくともその周囲に炸裂し、獣の咆哮を呼ぶ。
「貴方の友達を助けるためにも、時間はかけられないわ」
神雷の如き速度で斬撃を打ち、『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は返す刃でそのまま連撃を刻んでいく。
その一方で視線は常にザラへ。
(同胞たちの為にここまで頑張って来てたなら、ちゃんと生きて再会しなさい!)
叱咤するアルテミアのハイテレパスに反応したザラは薄っすらと笑った。
ミーから銃口を外すことなく『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は改めて周辺の環境を見た。
(これは……外の世界の影響か、それともザラの記憶でも干渉しているのだろうか?)
思考の合間、銃口から放たれる弾丸はその圧倒的なる制圧力をただの1匹へと集約させる。
「お前にも、最後に穏やかな時があってもいいだろうよ。それに加減は弁えている」
壮絶なる狙撃能力から放たれる砂嵐の如き弾幕は堅牢な守りを持つ猛獣の守りを奪い去った。
「安心しろ、ザラ、ミー。私達は、私は、イレギュラーズ。可能性の獣だ。必ず助ける。だから、お前達も最後まで希望を捨てるな!」
そう励ました『やがてくる死』天之空・ミーナ(p3p005003)の連撃はたしかにミーの身体へと撃ち込まれていく。
連続する斬撃は鮮やかに軌跡を紡ぎ、猛獣の身体から多量の花弁を噴き零す。
その身に刻まれた印が呼ぶ声から自分を守るためにも、ミーナは強く、強くその姿勢を押し出している。
「私も、私でなくなりそう……だけど。諦めたくない、から……だから、ザラさん達も、全力で止めさせていただきます!」
決意表明を告げる『華奢なる原石』フローラ・フローライト(p3p009875)は水晶化しつつある手脚を少しばかり見やり、顔を上げる。
宣言に答えるように、展開されたタロットカードが魔力を帯びて魔弾を放つ。
「ここまで来て、いまだ烙印に抗っている人の心からの願い、聞き届けない訳にはいかないものね」
そう語る『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)は熾天の宝冠を戦場に降ろす。
それはザラによる猛攻で傷を増やすサンディの傷を癒す温かな光。
「ならぬぞ、そう易易と阻ませぬし、阻ませよ」
ヴァイオリンを弾き奏でる『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)の言葉には静かにミーへと注がれる。
奏でられる旋律はその音色とは対照的な呪いの歌、魔性の響きを放つ悲しき亡霊の慟哭である。
齎す呪いは猛獣に刻まれた数多の拘束を呪いに変えて押し付ける。
●
傷だらけの獣は、その巨体を以ってザラの前に立ちふさがるようにして立っている。
(まだだ、まだ。両方が助かる未来を選ぶための時間を……!)
サンディは目を焼きつけんばかりの閃光を浴びながら息を吐く。
その身に抱く風を柔らかなものに変えて、癒風とすれば、受けた傷を瞬く間に修復していく。
クラウジアの演奏は戦場に響く魔力の音色、聞くだけで人の状況を変質させる柔らかな音色である。
「さぁて、いっちょやってやろうかのう」
一曲を終えたクラウジアはそのまま再び演奏を開始する。
美しくも烈しい旋律は瞬く火花の如くミーへと降り注いだ。
(……もうそろそろ)
アルテミアは愛剣を握りなおして振り抜いた。
銀青の軌跡は斬影を打ち、猛獣の動きを更に落としていく。
攻撃に揺れた刹那、アルテミアは一気にその横を駆け抜けた。
「よくぞここまで主人を守り切った。あとは我々が引き受けるから、少し休んでいろ」
変わってラダは唸り声をあげる獣へと一気に肉薄していく。
背中に隠したナイフをそのままに走らせる。
月光に輝く白刃は確殺自負の殺人術、壮絶極まる邪道の斬撃。
それは巨大なる獣の首を刈り取らんばかりに撃ち込まれていく。
フローラはミーの様子をつぶさに確かめていた。
傷だらけで明らかな疲弊を感じさせるミーの様子はそれでもまだ元気なもの。
(……それなら)
フローラはタロットカードに魔力を籠め、術式を発動させた。
それは至高と光輝の魔術、暴れる獣の猛攻を阻害するための封印術。
そこへと降り注ぐはルチアの祈り。
それは祈りというよりも宣言とでもいうべき色があった。
導く輝きを言葉に変えて、ルチアは祈りの歌を紡ぐ。
それは仲間の傷を癒す柔らかな歌である。
(晶獣を生かしたまま助けられるかは分からないけど、彼女の相棒のような存在なら……ザラがミーの生存を望むなら)
セレナは手を伸ばす。
可能な限りの事はしたいのだと、魔女はその手に神聖なる光を帯びた。
瞬く輝きは命を刈り取ることのない優しい光。
聖なる光は猛獣の意識を惑わせる。
●
ミーを退けたイレギュラーズはいよいよと本命のザラの前に向かっていた。
「……お休み、ミーちゃん」
ぽつり、ザラが小さく呟く声がした。
戦いは長く続いている。
ザラの持つ堅牢さと自己防御の一種であろう再生力は戦闘時間を長引かせている。
「まー、なんじゃ、儂、こういうの、ハッピーエンドしか好かぬのよな。
生きたいと願っているものを死なせる愚を犯すわけにはいかぬわけじゃ。やるからには全力じゃ」
そう言ったのはクラウジアである。
「ハッピーエンド、僕達に……そんなものはあるんだろうか」
そう呟くザラがクラウジアに反応するように顔を上げる。
「なに、いつからでもなれるものじゃ」
クラウジアは再び音色を奏でる。
優しくも真っすぐな音色は静かにザラの耳を打つ。
「大丈夫、次はアンタを助ける番だ」
サンディは軽口を吐きつつザラの猛攻により受けた傷を強烈に修復していく。
「もう少しだけ、付き合ってくれるか?
この泣く子も黙る大怪盗、サンディ・カルタ様にさ!」
「……えぇ、分かりました」
緩く頷いたザラの猛攻はその一方で緩まることはない。
「僕を、助ける……番?」
サンディの言葉に驚いた様子を見せたザラへ、ラダは一気に駆け抜けた。
「ここまできてミーを置いていくのはナシだろう? 家族だろ、一緒に帰ってやれ」
肉薄するままに告げた言葉に、ザラが目を瞠る。
あまりある隙へと、ラダはナイフを振り抜いた。
腹部をぶち抜いて見せればそれは連撃の始まり。
「……まーったく。ようやく本音聞き出せたな」
そう短く呟いたミーナは一気に肉薄する。
烙印の花は咲き誇り、ミーナの身体に嘗ての姿を映し出していた。
「君のその姿は……僕のせい、だね……」
「違う、私が選んだ結果だ」
目を瞠り、伏せるようにして告げたザラへとそう答えれば、ミーナはそのまま一気に肉薄して斬撃を叩きつけた。
夥しい流血はオアシスに花弁を舞い散らし、ザラの身体を切り刻んでいく。
(……ザラさんの烙印。心まで侵されきっていないにしても……きっと限界は近い。
私の身体も、宝石みたいになってきている、けれど……これはちがう。
あのひとの輝きは、こんなものじゃないし、こんなことで屈するものじゃない)
ザラを見据えたフローラの瞳には、彼女の様子がつぶさに記録されつつあった。
交戦が続き、ザラの身体に傷は増え続けている。
「私は……最後の最後まで、抗います!
ザラさんも、がんばって、ください! 私もがんばります、から!」
手脚の水晶化も変質し始めた瞳の色も関係ないと、フローラは勇気を振り絞る。
前へ進み出るようにして、タロットカードを通して魔力を戦場へ伸ばす。
広域へと展開された領域はある種の結界となって仲間達を強烈に支援する陣を構成するものだ。
「最後の最後まで……そうだね。私も――頑張ります」
フローラに応じるザラは、少しずつ、確実に言葉を話す時間が短くなっている。
その代わりに、どこか安堵するような、苦しそうな顔を浮かべる頻度が増している。
「本当……苦しいわよね」
同じくその身に烙印を刻まれたセレナが言う。
本来の年齢よりも随分と大人びて見えるセレナは静かに視線を交えた。
「こんなの刻み込まれて、女王なんかを崇めたくなるような、身も心も、魂までも上書きされそうになる気持ち。
いっそ……そう、いっそ死んでしまいたいくらい」
「そうだよ、僕はあの方を……崇めたくなんてない、絶対に……」
「でも、それよりも大切な事がある。その為に生きたいと、願ってるのよね」
「えぇ、私の穢れた命なんてどうでもいい。
あの子と、もう一度会いたい、せめて、せめて1度くらいは」
水晶の涙を流すザラへと、セレナは手を伸ばす。
その手に抱いた光が、彼女の命を守ってくれるようにと願いながら。
「なに、生きる理由などそもそも死にたくないだけで十二分。
そこに、再会を願う妹御と手を差し伸べる縁がある、それで十五分」
そう笑ってみせたのはクラウジアである。
目を瞠ったザラに、クラウジアは更に笑みを浮かべてみせる。
「まだ足りぬのであれば、居合わせたような縁の儂が死ぬなと願おう
もはや、お主には救われるしか道は無かろう。さっさと諦めて救われるんじゃ、くくっ」
魔女らしく堂々といっそ強気に言って見せ、奏でる音色は穏やかなもの。
柔らかな音色は他者を殺すための物ではなく、ザラの動揺を誘った。
「もう少しよ。ザラさんも、ミーも、そして私たちも。全員で生き残って、月の女王を見返してやろうじゃない」
ルチアの言葉は堂々としたものだ。
目を瞠るザラの目の前で温かな光は戦場の祝福に満ちた詩を下ろす。
「レディに風をぶつけるのも悪いが、我慢してくれよ」
サンディの手には1本のナイフが握られている。
それはサンディの内側に湧き上がる無限の風にして、大いなる嵐。
踏み込むまでもなく振り抜いた一閃は鮮やかにザラの肉体を打つ。
刹那、嵐はその理不尽なる怒りを暴風に変えてザラを地に伏せんと暴れ出す。
「意識が混濁しているとはいえ、『生きたい』と口に出来ているならまだ間に合うわ。
大丈夫、囚われている幻想種たちも、貴女自身も助けるわ、だって、約束したのだからね?」
アルテミアはその手に焔を纏う。
極限まで研ぎ澄まされた銀青なる炎剣はアルテミア自身さえ焼く諸刃の剣。
いっそ澄み渡るが如き意思と共に、一閃が振り抜かれる。
それはザラの肉体を断たず、その意識のみを刈り取る不殺の絶技。
「顧客の要望に可能な限り応えるのが我々商人というものだ。
その代わり、銃床でぶん殴られるのはキツイだろうが堪えてくれ」
ラダはそれだけ言うと、思いっきり愛銃の銃床を振り抜いた。
鳩尾付近へと突き立った銃床へ、ザラの体重が圧し掛かる。
●
戦いは終わった。
砂漠の中に倒れたザラに近づき、アルテミアはその身体をそっと抱き起こす。
まだ、息はある。酷い疲労感を滲ませる幻想種の表情は土気色。
今にも死にそうな理由は、イレギュラーズの猛攻による物――ではなさそうだった。
「ぁ、ありが……とぅ……でも、離れ――」
視線を彷徨わせ、けれど決してアルテミアを見ないように視線を外している。
ルチアはその様子を確かめながら、彼女の容態を医療技術の限りを尽くそうと診察を試みていた。
(外傷はある、内臓を傷つけてる可能性もあるけど……そう言った感じでもない)
その様子にミーナはキュっと胸元で手を握る。奇跡へと願いを繋ぐ覚悟すらあった。
「絶対に妹に会わせるって私が決めたんだ。お前の我儘に私は付き合ったんだから、私の我儘にも付き合えよ!」
「そう、そうだね……あの子のためにも……」
薄っすらと笑いながらも、ザラの表情は芳しくない。
暫く診療を続けていたルチアは、ふと、最初に会った時のことを思い起こす。
『最後にもう1つ、教えてください。いままで人の血を吸って生きてきましたか?』
あの時いたイレギュラーズがそう問いかけた時、ザラは何といったか。
『まだ人の血を吸った事はないはずだよ。
まあ、寝てる間に吸わされてたこととかあったら分からないけど』
ふと視線を下げれば砂漠に散らばる数多の花弁、それは彼女の身体から失われた血の量を示していた。
「……貴女、まだ血を吸ってないのね」
ルチアの呟きに、ザラが少しばかり目を背ける。
強烈な吸血衝動を抑え込み戦ったザラは、だからこそ『生存に必要なエネルギーすら』使い果たしているのだと。
「なら、私のを飲みなさい!」
アルテミアはそう言ってザラを深く抱き寄せた。
ザラが息を呑むのを感じながら、首筋を見せる。
「貴女を生きさせる為ならこの程度安いものだし、幻想種達を助けるついでに博士も潰すのだから問題ないわ!」
「……ごめ、ごめん……」
小さな宝石がアルテミアの肩に落ちて、ある種の多幸感が沸き起こる。
じんわりと身体に熱を帯びて、視線を下げれば烙印の花が咲いていた。
ザラの喉が動き、目が見開かれる。
「呑まれるな、大丈夫だ。妹に会うんだろ!」
ミーナはその手を取った。
「わたしが――わたし達が、必ず、博士をぶっ飛ばして、烙印なんて消してやるんだから。
安心して、少し休んでなさい、あなたも負けちゃダメよ!」
セレナもザラへと改めて宣言する。
「私、ぼ、く。は――大丈夫、ありがとう……」
ザラは小さく言って、目を伏せた。穏やかな寝息が聞こえ始めていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
ザラは生き残り、全てが終わったとでローレットにて妹との再会を果たすことでしょう。
●運営による追記
※アルテミア・フィルティス(p3p001981)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
現時点で判明しているのは、
・傷口から溢れる血は花弁に変化している
・涙は水晶に変化する
・吸血衝動を有する
・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
●オーダー
【1】『吸血鬼』ザラを生存の上で撃破する
【2】『サン・ブレット』ミーの撃破
●フィールドデータ
『月の王宮』の外周、輝く王宮に照らされた砂漠地帯……ですが、何故か辺りには穏やかなオアシスが広がっています。
月の王国を御していた祭祀が停止されたことで干渉できるようになった結果、風景が変質しているようです。
主戦場である月の王宮の内部にイレギュラーズを入れないためにと外周で戦っています。
内部ではリリスティーネへの崇拝が高まるため、それを拒絶した者が外で戦っているようです。
●エネミーデータ
・『吸血鬼』ザラ
200年ほど前に攫われ、奴隷として各国を転々とした後、30年ほど前に解放された幻想種です。
夜明けのような橙の髪にエメラルドのような翠とルビーのような仄暗い紅の瞳のオッドアイが特徴的。
両手には烙印の華が咲いており、腕にまで伸びているのが見えます。
烙印は発生していますが、正確には完全な吸血鬼ではないようです。
イレギュラーズよりも深刻な状態のカウントの段階にいます。
堅牢な守り(防技)と脅威的な再生力を有します。
閃光を操る魔術師であり、高いEXAと反応を駆使して戦闘行動をとります。
反面、生存執着力(EXF)、機動力、抵抗力はやや低め。
射程は近接を主体としますが、中~遠へも対応できる様子。
中距離~遠距離の攻撃には主に【痺れ】系列、【乱れ】系列、【足止め】系列、【呪い】のBS
近接戦闘には【火炎】系列、【痺れ】系列、【恍惚】、【呪い】のBSを与える効果がある他、
【追撃】、【防無】属性の効果を持つものがあります。
烙印により、解除不可能な【狂気】状態にあります。
狂気の効果は『10%の確率で自分を通常攻撃する。この時の命中度は必ずクリーンヒットとなり、防御技術判定は行わない』となります。
・『サン・ブレット』ミー
イタチを思わせる晶獣ですが、サイズ感はどちらかというと熊の類。
獰猛かつ果敢、ザラと非常に高度な連携を取ります。
非常にタフな事に加えて物理戦闘力にも長け、敏捷性も悪くありません。
基本的にザラを守るタンク的な立ち位置を取ります。
至近~近距離を主な射程とします。
独特な咆哮による【足止め】系列、【飛】、【怒り】を付与する効果があります。
その爪による攻撃には【出血】系列や【毒】系列のBSを与える効果があります。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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