シナリオ詳細
後ろ暗いのはみんな同じ
オープニング
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幻想の夜は、秋の月明かりを散らされ、白んだ暗闇だった。
「と、少し詩的に表現してみたけれど」
そう呟いて、部屋の窓から空を見上げた貴族の青年は、椅子の背もたれに体重を預けている。
「いやはやどうしてダメだな、うん。僕にはどうやらそういった才能は皆無のようだね。まあ他の部分では才能満ち溢れる天才だからこれくらいの不備はむしろ可愛らしい部分であるのだけれど」
ずいぶんと自己評価の高い事だ。
その場に他人がいれば、きっとそう突っ込んだことだろう。
だが生憎、その部屋にいるのは彼一人。屋敷に同居人はいるものの、この時間ならば夢の中だろう。
一人言が自画自賛とは痛いのだが、そこは彼の性格が為せるところ。
「さて、最近は、しかし……随分平和だ」
厳密に言えば、あれこれと異変は各地で起こっていて、それを彼は知っている。
それゆえにギルドの各員は、他国からの多岐に渡る依頼をこなして、経験を積み、力を着けている事もだ。
戦闘力、発言力、コネ。
そういう力だ。
「ーーなにを、考えていらっしゃるのですか?」
深い思考に陥っていた彼は、開いた扉から掛けられた声に顔を向ける。
栗色の髪に、大きな白い花弁の花を挿した、可愛らしい女性だ。
「やあ愛しの君起きていたのかい、いくら可憐という言葉すら霞む可愛さを持つ君といえど夜更かしはいけないよ、月が昇り太陽が沈めば安らかな微睡みに包まれ朝を願って」
「お話が長いです、誤魔化されませんよ?」
「おっと……」
クスクスと笑う女性に、両手をわざとらしくあげた青年は笑う。
そうして、降参降参と言いながら、
「何を考えているかって……決まっているさ。僕が考えるのは、この世界をいかに良くするのか、ということだよ?」
大仰な身振り手振りでそう告げた。
静かに女性の前へと歩み寄り、手を取って、一息。
「そして、君の幸せを考えるのさ」
「まあ、嬉しい」
歯の浮くような台詞を投げた。
言われ慣れました、という女性も満更ではないと言う風に微笑み、しかし。
「しかし、貴方は誤解されやすいですから。最近は、貴族を狙った暗殺とかも起きているそうですし、私は心配なのです」
被害の数は多くないが、そういった報告が上がっている。
狙われるのは、あまりよくない噂をもった貴族。主に、民を虐げるだとか、裏で悪いことをしているだとか、そういった事情がある貴族だと言う。
「仕方ないさ。僕が消えると、割りと状況が良くなる部分があるのは事実だし。それにーー」
それに、と、彼は女性を部屋の外へ優しく押し出す。
「えーー?」
驚く彼女の目の前。
「もう手遅れみたいだ」
部屋の窓ガラスを割り、凶刃が閃いた。
●
「と、そんな事が昨晩あったそうだ」
幻想国、ギルドローレット内の一角。
カウンター越しにそんな話をした『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、集めたイレギュラーズに言う。
ここ最近、それも合わせて、貴族を襲う事件がある、と。
「そうなんだよ全く困ったものだよね! 死ぬかと思ったよ!」
「って生きてるのかよ!」
カウンターに向けた椅子、それに腰かけた青年の言葉に、イレギュラーズのツッコミが入った。
あちこちに包帯を巻いた痛々しい姿ではあるが、どうやら元気の有り余った健在らしい。
「死んだと思った? 残念ご健勝でーす!」
ムカつくので包帯の上から蹴った。
「あいったぁー!」
「……さて、話はここからだ。問題はその暗殺者なんだが、どうやら単独で襲撃を続けているらしい」
独りでの暗殺であるがゆえに、潜入は易く、しかし大規模には動けない。
だから被害者の数そのものは多くない。
「だが貴族からすれば目の上のタンコブだ。被害も出ているから、面目としても放置はしておけないだろう」
「じゃあ依頼って、その暗殺者をどうにかすることか?」
「ところがぎっちょん!」
ぎっちょんってなんだ。
痛みから復帰した青年にツッコミを抑えながら、続く言葉に耳を傾ける。
「討伐隊はもう組まれちゃってるんだよね、貴族様方の私兵で組まれてさー、暗殺者を暗殺しようってんだよね、ウケる」
なにもウケない。
「でもさ、だけどだよ。暗殺者君だって悪い貴族を倒して市民を助けようとしただけなんだよ? それを問答無用でリンチ掛けて殺すだなんてあんまりにも酷いと思わないかい私は思うね、僕は暴力反対だよ!」
だから。
と、イレギュラーズを見回した彼は言う。
「助けてあげてくれない?」
「助ける、って……」
それはつまり、貴族が差し向けた兵をぶちのめし、暗殺者を保護してくれ、という事だ。
それが、今回の依頼。
「調べたところ、貴族の私兵達の練度は高くない。約20人程で、その中に指揮者が二人いる」
つまりはそれがリーダー格だ。
強さもその二人だけ突出している、と、そう予測されている。
「そしてここからが重要だ。ただ兵を倒して追い返すだけでは、次は数を増やして来るだけだろう。だから、相手のリーダー格二人と、それ以外の約15人程を始末してくれ。そして」
そして。
「残る者も戦闘不能に追いやって、この件から手を引けと言付けてほしい。問題はこちらで始末をつけるから、と」
壊滅させるが全滅はさせない。
そんなつもりで挑まなければならないのだ。
「……面倒な仕事だな」
「なぁに後ろ暗いのはこっちもあっちもそっちもどっちも一緒さ、事態が収まるなら好んで被害を拡大させたいなんて気概のある奴はいないよ、安心だね!」
なにをどう安心なのかはよくわからないが、依頼としてはそういうことらしい。
「まあ多分介入できるのは、私兵達が暗殺者君を襲った直後くらいだ。ちょうど良いから事が終わるまで暗殺者君には気絶して転がっていてもらおう、ファイトだ諸君!」
そんな事を好き勝手に宣った青年は、満面の笑みで言葉を締めた。
- 後ろ暗いのはみんな同じ完了
- GM名ユズキ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年10月09日 21時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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廃屋から約10m離れた位置で、建物の影から様子を窺う『特異運命座標』シラス(p3p004421)がいた。
中の敵に気取られない様に、慎重に見る彼の目は、壁を透過して内部を観れる。
「レイチェル、あの窓」
「ああ、確認した」
シラスの指した窓を、短く応じた『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が観る。
普通の窓。
通常、レイチェル達のいる位置から中をはっきり捉えることは不可能だ。
しかし、彼女の目にその距離は障害ではない。
「全員あそこに集まってるみてぇだな」
だから観た。
暗がり、人の密集で精確な数は少し難しいが、およそ20人は居るだろうと判断する。
「恐らくね。……じゃあ、ロレイン、いいか?」
短い確認を終え、ロレイン(p3p006293)を手招きして呼んだシラスは壁の一点を指差す。
「あそこですか?」
と、彼女は静かに手をそちらに向ける。
淡く体を光らせながら、その先に魔力を集中させ、砲撃の準備に入った。
「天満、レイチェル、部屋のど真ん中でいい。計画通りにやってくれ」
「うむ、任されたであるな」
頷く『アマツカミ』高千穂 天満(p3p001909)、それに片手を上げて答えたレイチェルも、軽く左右へ離れながら廃屋へ近づいていく。
更にその後ろを、他の仲間が付き、そして。
「罪滅の一撃をここに」
静かな言葉と共に、閃光による一撃が建物を貫通した。
「よォ、混ぜてくれよ」
吹き飛んだ外壁の崩れた瓦礫。そこに片足を踏み込み、言葉と同時にレイチェルが魔術を放つ。
そこに、右倣えで横に立った天満がいる。
「ーーうむ、ど真ん中である」
天逆鉾と名を得たそれを両手で天に掲げ、発生地点に向けて振り下ろす。
そうして出現するのは、広範囲に降る氷の礫だ。
「暗殺者を暗殺する暗殺者達よ。暗殺者を守らせてもらうである」
自分で言っていてよくわからぬがそういうことである。
とは心の中で頷き、不意を打たれた暗殺者達を、レイチェルの術と共に大量に巻き込んだ。
「よし、突入であるぞ!」
その収まりを待たず、『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)が二人の隣を通って室内へ飛び込む。
見る先、重ねられた範囲攻撃を受けた暗殺者達がいる。
が、
「流石に、そうそう思い通りには行かぬであるか……!」
被害にあった数は多くない。
最初、ロレインの貫通する一撃を受けた者はそれなりの数ではあるが、その時点で恐らく、彼らの思考は迎撃に切り替わったのだろう。
間髪も無かったその後二つの攻撃に対して、防御と回避をきちんと行えている。
そうして、向かうボルカノに、敵意と殺意のある視線が集まった。
「まあお互い、お仕事はお仕事であるから……」
赤く、太く、鍛えられた拳を握り締め、
「後ろ暗いのはみんな同じ!」
最もダメージを受けていそうな敵に殴りかかった。
それはボルカノから見て真正面。三連魔術から逃げ切れなかった男だ。
見た目で焦げや肌の裂けが著しい。
殴る。
腕をクロスさせ、受ける姿勢を見せるのも構わず打ち込んだ。
「!」
その攻防に、左右から他の暗殺者がナイフを突き出して迫っていた。
刺さる。
両の脇腹に刃が埋まり、ボルカノが一歩を後退。その隙に、
「貴方は寝て頂戴ね?」
反撃の構えを許さず、すかさず『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)が割って入った。
ボルカノの肩に手を付いて飛び越える様に前へ。そうして眼下に捉える男に、踵落としを頭にぶちこんで昏倒させる。
「ぬぅっ」
そして倒れる男を、踏みこらえたボルカノが掴み、後方へと投げ飛ばした。
「怪我、平気かしら?」
「見た目ほど、である。ただ、連携は厄介であるな」
既にナイフの二人は間合いを取っている。
そして空いた距離には別の二人が居て、警戒態勢だ。
「ちょっと変だね」
不意打ちの隙を狙って、別の敵をターゲットに納めた『PSIcho』狩金・玖累(p3p001743)は言う。
狙ったのは、立て直しの遅かった敵だ。
腹に一撃、足刀をぶちこまれ膝を折った敵を、『アイのミカエラ』ナーガ(p3p000225)がこめかみに膝を入れて気絶させる。
「へんなの?」
意識を無くした男の腕を無造作に掴み、ボルカノが投げ飛ばした方へとぶん投げながらナーガが首を傾げる。
「だって、強い弱いは置いておくにしてもさ。この人数の中、言葉も無く誰がどの役割をするのか、決められる?」
意思疏通は、集団になればなるほど必須だ。その最たる手段として、声に出しての確認がある。
言葉を組み替え遊ぶ玖累には、それが無いのは違和感だった。
●
ぶおんと飛ぶ、気絶した暗殺者の身体は、壁に激突して床に落ちる。
「うわっ、危ないなぁ」
それは、シラスの隣だ。
正確には、襲われて気絶している暗殺者君の側、という方が正しい。
突入前シラスは、暗殺者君と殲滅対象の間に距離があるのを透視で見ている。
だから入って直ぐ、保護の為に近づいていたのだ。
もしもに備え、ロープで縛るのも忘れず、周りの敵がこちらを襲ってきても反応出来るように注意しながら、だ。
「まあ、敵集のど真ん中で呑気に拘束してられないよな」
少し、確保後の段取りが悪かったかもしれない。
「反省は後でしましょう」
と、ロレインは静かに言う。
チラリと振り返ると暗殺者君がいて、被害者であり依頼者の心情を少し思う。
「……赦されている、のでしょうか」
いえ、それも後にしましょう。
そう思い、聞こえた玖累の疑問に彼女は思う。
「言葉にせず意思を伝える。そういうスキルがありましたね」
「なるほどねぇ、暗殺の最中に音を立てないための手段として有り得る、わ!」
二本のナイフを両手に、敵の攻撃を防御しながらリノが頷く。
囲まれないように、孤立しないようにと立ち回るイレギュラーズが狙うのは、あと一人。メッセンジャーとして使う奴だ。
「サイレントキリングとはよく言ったものだよ。無音と言うか無言だけどね!」
「いやまあお喋りしながら暗殺とかそれはそれで怖いであるが!」
と、18人の連携攻撃をいなしつつ、間隙を塗って天満が動く。
鉾の石突きを床に立て、刃の腹を向け反射するように放つ光で敵を撃つ。
そうして眩んだ所を、玖累が有刺鉄線で身体を巻き付け、振り回すようにしてシラスの方へぶん回して投げた。
「棘危ないんだけど!」
「てへ」
不満には真顔にお茶目した。
「これで必要人数は抑えたわね。後は」
「アイしてあげるね!」
飛び出す前にナーガは、一度敵の集まりを見る。
彼女が狙うのは、目標を狙う敵か、回復役だ。
だが、一体誰が回復役なのか。
そもそもリーダーは?
その辺りの判断が今はまだ出来ない。
出来ないので、
「一先ず倒しやすそうなのから、攻めるであるな!」
ボルカノが、手にした剣の柄を敵に向ける。
そうして放つ光は、自身の闘気を具現化させたものだ。直線的な軌道で放ち、敵の一人を撃つ。
元々傷が深かったのもあったのだろう。
その一撃で前のめりに倒れるそれを、ナーガは踏み潰して越えていく。
とりあえず目の前の敵だ。
左の足を踏み込みに、振り子の様に後ろから前へと振りきった右拳を、敵の腹へとぶちこむ。
「ごぇっ」
漏れる声は、内臓の潰れる音だ。
「ヒトをアイするってことはね、アイされることもあるんだよ?」
捩じ込んだ拳を引くと同時に逆の拳を追撃に叩き込んで止めを刺し、ナーガは「ああ」と声を漏らして笑い、
「まさに、ソウシソウアイ!」
高らかにアイを謳う。
そこに、攻撃が来た。
それは今倒した敵の後ろ。死体となったそれを隠れ簑に、貫通して飛んでくるのは魔力の弾丸だ。
「!」
息を飲むナーガの体に、10の傷が付く。その内の一発は運悪く、脇腹を深く抉る様になった。
「チッ……少し退がりな」
致命傷に至らない会心の一撃だろう。
そう判断し、退がるナーガの動きに合わせてレイチェルが魔術を放つ。
右の腕を真っ直ぐに伸ばして手を広げ、握る。
緋い魔力光の残滓で発動した霧が、敵群を包んで攻撃した。
「ーー見つけたぜ」
そしてそれは、ただ攻撃しただけではない。
ある程度の範囲を攻撃することによって、敵がどう反応するのか、その差違を見ていたのだ。
「リノ! ど真ん中だ!」
「ふふ、頼りになるわ」
言葉に従いリノが動いた。
散る霧の中へ入り、敵の間を縫う様にスルリと抜け、女神の名を冠した二本のナイフを握って行く。
「はぁい、ご機嫌よう」
見据える先に、サーベルを持った男がいる。
レイチェルの見つけたリーダーだ。
確かにそいつだけ、ほぼ無傷で、立ち振舞いに余裕がある。これを倒せば、敵の統率はかなり乱れるはずだ。
だから、行く。
「!」
二つの刃を突き立てる様にしたリノが見たのは、強引に引かれ盾代わりにされた暗殺者だ。
深く刺さるナイフはその敵に飲まれ、
「くっ、コイツ……!」
敵の体から、リーダーのサーベルが生えた。
それが、リノの胸に刺さる。
流れ出る血液の感覚にふらつきを覚えるが、ただの喪失ではないことに彼女は気づく。
「これは、毒ね……!」
かなり強めの毒だ。
盾にされている死体を気力で蹴り飛ばして距離を開けながら、リノはそう理解する。そうして、一拍の後に地面へ体を落とした。
「こっちも、ただじゃ終わりません。ですよね」
その瞬間に、リノの上をロレインの一撃が通過する。
「ふふ、本当に頼りになる仲間だわ」
放たれた魔力の奔流に焼かれたリーダーの男へ、二人は追撃を開始した。
●
戦場に、雹が降り落ちる。
敵を中心に半径10mの円内を撃つそれは、いい意味でも悪い意味でも割りと見境がない。
回避や防御に集中する敵は動きをその間は止めるのは良い点だ。敵に深く切り込んだ仲間も少しそのあおりを受けるのはちょっとだけ悪い点。
さておき、しかし。
「敵の数も、半分には減ったようであるな」
降られる雹に撃ち抜かれ、三人は倒れただろうか。
それでも健在な敵が範囲を抜け、向かう先がある。
シラスの保護する暗殺者君の所だ。
「そっちに向かったであるぞ!」
「見たらわかるよ、っと!」
来るのは四人。壁と暗殺者君を背にしたシラスへ、囲うように迫る動きだ。
手にはそれぞれ両刃の剣。
それが、シラス一人に向けて振るわれる。
「ぐ、ぅ」
魔力を高め、纏い、斬撃を和らげる。
だが、それを長く続けるのはかなり厳しいと言わざるをえない。
なぜなら、付けられた傷口から溢れる出血が止まらないからだ。
「これは、不味いね」
明らかに、スキルによる傷だ。ただの回復では対応できない。
そしてそれを解除する力を、この場の誰も所持してはいない。
リーダーの一人と相対をこなすリノも、その影響で今ギリギリのところだ。
「毒に出血……いえ、ランク的に、その上位かしら」
膝を着くリノが顔を上げて見る先。
リーダーの左右に、付き従う様にいる男が一人ずつ居る。
さっき焼かれた肌を、二人がかりで回復しているのだ。
「手厚いですね」
せっかくのダメージが回復される。
それに、ロレインが少し渋い顔をしながら思い、しかし、まあいいでしょう、とも思う。
なぜなら。
「ようやく狙いが絞れました。ですよね?」
狙うなら回復役からだと、事前に共通した認識を持った者達が、それを潰しにいくからだ。
「ヒーラーなんてヘイト集中が当然だよね? むしろheelって奴さ!」
「うむ、それは悪役であるな? それに大体ここに居る理由を考えたら、我輩らもそこそこ悪役であるし!」
そんなやり取りで玖累とボルカノが、それぞれ左右のヒーラーに迫る。
それはどちらも、至近距離だ。
オーラソードの二刀流を主軸にしたボルカノは、踏み込む足を敵の足の間に滑り込ませ、大きく引いていた腕を突き出して刃を立てる。
「これで、バッサリ、である」
押し出して浮いたその体を、ソードを左右に引き抜いて両断。
「君、範囲攻撃にあまり当たらなかったのかな」
対して玖累は、敵の背後に回って言葉を作っていた。
彼のスキルはかなり特殊で、触れた箇所から対象の因果を狂わせる物だ。
「もしかしたら」
雹に穿たれ側に転がった死体は。
「君の肢体こそそうなっていたかもしれないのに」
言葉のイメージが、敵の身体に浮き出る。
それから逃れる様に玖累を振りほどき、前へと進む男に、
「逃げてもいいけど、いいのかな? そっちには」
飛び出したリノのナイフが、首と心臓に突き刺さる。
「もっと怖い奇襲があるよ。もう遅いけど」
リーダーの周りで戦況が傾く中、暗殺者君を守るシラスの側も動いていた。
まず、一人が死んだ。
シラスを攻撃した直後の隙を、ナーガが襲ったからだ。
背後から、決して細くない男の胴を左右から掴んで圧す。
「っ、ぎ、ぃい!」
メリ、メキ、と、軋む骨の音を聞きながら、ナーガは笑って力を強め、そして。
「アイだよ。アイをあげる。これで、始まるね」
グシャリと潰して、嬉しそうに言う。
その間に。
「すまない、代わってくれ」
「あぁ、こいつは死なさん。オーダーだしな」
シラスの位置を、レイチェルが引き受ける。
一人では庇いきれないと判断したからだ。
レイチェルが庇う間はシラスが回復に回る。そういう作戦だ。
だからシラスは、一度場を離れる。それを見送りながら、ふと、レイチェルは気付いた。
「……一人足りない」
倒したのは12人。残りは8人のはずだ。
3人は目の前に、リーダーと、その周りには3人で、あと一人は、
「しまっーー」
一人離れたシラスを襲った。
一気に距離を詰めて突撃し、勢いのままに両刃剣を腹に突き立てて壁に縫い付ける。
「が、ハッ!」
込み上げる血が、口から噴き溢れる。
その瞬間、シラスの意識は飛んだ。
●
流れが変わり始める。
ロレインがリーダーと相対をする。
常に身体に魔力を纏い、いつでも一撃を放てる状態を維持しつつ、付かず離れずを保っていた。なぜなら、
「リノさんは、限界です」
毒で体力を削られ、取り巻き三人に狙われている状況だ。
減り続ける余力を、天満の癒しが支えるが、その回復も微量だった。
だから、リノの気力はそこで一度尽きる。
打開するには、連携を断つために指揮系統を無くすしかない。
「行きます」
もう一人のリーダーは、シラスの方にいるのが、動きでわかった。
だから、今はコイツを狙う。その為に。
「行くであるな……!」
ボルカノが、握る拳を振り上げて走る。
リーダーのサーベルを、掲げた腕で防御し、毒が回る前に握った拳を広げた。
「どっかーん!」
そこに小さな気弾を作り、叩き付ける。
爆裂した。
「これで、終わりです」
怯むそこへ、ロレインが魔力をぶちこむ。
眩い光の一撃だ。
それが今度こそ、リーダーを焼き殺した。
その様を見ていたシラスは震い立つ。レイチェルに回復を飛ばしつつ、迫ってくるリーダーの攻撃を掻い潜りながらだ。
ナーガの豪腕が残る敵を屠るまで、二人は動けない。
「やれやれだね」
しかし、シラスは慌てなかった。
突き出される剣を魔書で受け止め、一瞬の疑似的な拘束を与えると、
「リーダーさんったら二人ともお強いのねぇ」
復帰したリノが強襲した。
ナイフを背中に突き立て、両手に握り直した二つ目のナイフを横に一閃。
背中のナイフを握り直して、そのまま下に引き裂いた。
「死ぬほど満足、出来たでしょう……?」
「よし、統率は乱した……後は殲滅だ!」
頭を無くした群れはただ、蹂躙されていった。
「じゃあ説得しておくからみんな、首とか耳、詰めておいてね」
殲滅後、生き残らせた兵へ玖累の伝言が始まる。
派兵の察知した貴族からの依頼、それを壊滅させられる戦力を用意出来ること、そしてこの件はこちらでケリを付けるから、不干渉を求める事。
ざっくりと言えばそういうことだ。
「要は首を突っ込むなって事だよ。じゃないとさ」
放り投げる血塗れのプレゼントボックスは、リーダー達の首詰めだ。
「今度突っ込む首は、そこになるよ」
彼の言刃は恐怖の心に深く刺さり、逃げ帰る背中は、小さく消えていった。
「君も、もういいよ」
掛けるのは、拘束の解かれた暗殺者君だ。
不審な目で、警戒しつつ下がる動きは素早い。
「まあ……今度は貴族を本気にさせないよう、上手く立ち回ってくださいね」
「……ありがとう」
その礼を最後に、これも小さくなるまで見送って。
「……帰るか」
イレギュラーズは帰路に着いた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
暗殺者君は生存、伝言も上手く伝わったかと思います。
またの参加をお待ちしています。
GMコメント
ユズキです。
暗殺者を暗殺する奴等を暗殺するぞ、という依頼です。
ややこしいですね。
以下補足。
●情報精度B
敵のスキル構成は不明です。
●現場
暗殺者君の隠れ家である廃屋。
●依頼達成条件
暗殺者君を生存させる。
敵の私兵をリーダー二人を含めて20人中17人殺す。
手を引くように脅す。
●私兵について
戦闘力については、リーダー二人以外は対した脅威ではないでしょう。
しかしリーダーの指揮によっては厄介な壁となったり、面倒なダメージソース足り得ます。
どう相対するのかある程度の考えは必要でしょう。
簡単な魔法、技によるBS付与、回復を使用してきます。
●その他
現場に到着時点で、暗殺者君は気絶していると思われます。
隙あらば止めを刺そうとしてくるかもしれません。
でもだからと回復して目を覚ましたら、逃げようとするかもしれません。
ちょっとだけそちらの方も意識してみてくださいね。
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