シナリオ詳細
<月だけが見ている>『M』は亡者を狂わせる
オープニング
●
ラサ国内で人気のある美しい宝石、紅血晶。
入手は困難ではあるが、怪しい輝きに見入られて手にした者は若干ではあるが存在する。
しかし、それを手にした者は、化け物になり果てるという不吉な噂も……。
月の王宮。
その一室に宝石商を営んでいた男がいた。
サンドバザールから姿を消し、失踪したともいわれていたゲドレ。
そいつはひょんなことから大金を手にし、手を出した商売が軌道に乗り始める。
大金は人を狂わせる。ゲドレもその限りでなく、金の為ならば何でもするようになった。
敵対する商人を秘密裏に処理し、人身売買に手を染めるなど、人道に外れる行いに手を染め、外道へと堕ちていった。
失踪直前までは紅血石に執心し、自らもできる限りその流通に携わっていた彼は今……。
「ふははははは……!!」
自らの右腕に埋め込まれた赤い宝石を時折うっとりと見つめるゲドレは、すこぶる上機嫌だ。
その体はすでに人外になり果て、さながら大柄なゴリラを思わせる風貌になり果てている。
晶獣と呼ばれる存在となったゲドレだが、全く気にする素振りすらなく、むしろ人外の力を得たことに歓喜していた。
「女王は素晴らしい。人であることなど馬鹿馬鹿しくなってくるな!」
女王のいるこの月の王宮がそうさせるのか、ゲドレは女王を賛美する言葉を連呼する。
また、鼻息荒く叫ぶゲドレは有り余る力を持て余していたようだ。
煌びやかな意匠が凝らされたこの王宮に、自らの財も少しずつ持ち込んでいたゲドレ。
詰めていた傭兵が主人を化け物と叫んで斬りかかってきたとき、反撃で食らわせた一撃でたやすく潰れたのは実に傑作だった。
残っていた手下どもは平伏してゲドレについてきたのだが。
その体にはみな烙印が刻まれていて。
グアアアア、アアアア……。
ガウウウ、ウオオオオオ……。
さながら巨躯のサルを思わせる姿となり果てたそれらは烙印強化兵となり、そのままゲドレの指揮下に置かれた。
「これだけの力があって、女王はなぜイレギュラーズなぞ警戒するのか、わからぬわ」
女王から晶獣を与えられていたゲドレは部屋の外を見上げる。
空に浮かぶ月に照らされ、微笑みを湛えるゲドレ。
すでに彼はその月によって人生を狂わされていることに、まるで気づいていなかった。
●
ラサ、ネフェルスト。
ついに始まる『月の王宮』攻略作戦を受け、集まるイレギュラーズの姿に『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が少しだけ笑みを浮かべるが、状況もあってすぐに真顔へと戻る。
「もう時間がありません」
メンバーの中にも、烙印を付与されてしまった者がいる。
「こちらから打って出られるのなら、願ってもない」
イズマ・トーティス(p3p009471)はこの機を逃さず、駆けつけていた。
彼を含めてカウントダウンは着実に進んでおり、その残り日数を考えれば早期に進んで解決せねばならない。
すでに、イレギュラーズの活躍もあり、市場に出回った紅血晶は回収済み。
「このまま突入して攻略したいな」
囲 飛呂(p3p010030)が望んでいるが、状況はあと王宮を攻略するだけ。
内部に手紅血晶の大元を断ちきり、吸血鬼と名乗る者達を一斉掃討。加えて『烙印』の解除を行いたい。
「ここで『呪縛の物語』を終わらせましょう」
アクアベルは決行される『月の王国』攻略作戦について話す。
王宮内への突入は他チームの援護もあって問題なくできるだろう。
ただ、女王の力もあり、烙印状態のメンバーはリミットが近ければ近いほど内部では悪影響を受けやすくなってしまう。それを踏まえた戦略をとる必要があるだろう。
王宮に入ると、内部は華美な装飾に彩られているが、『夜の祭祀』に綻びが産まれたため、崩れかけている場所もあるという。
あちらこちらに女王『リリスティーネ』を敬う吸血鬼や紅血晶によって変異した存在が配置されている。
女王を守るべく、それらは全力でイレギュラーズの排除にあたることだろう。
「その一人、ゲドレという男性を皆さんの手で掃討してほしいのです」
紅血晶によって、全身がゴリラを思わせる姿へと変貌した悪徳商人ゲドレ。
そいつは手下や晶獣を従え、王宮内の通路脇の小部屋に控えている。
手下は全て、烙印強化兵(ルべリウス・ソーン)に……烙印を押されて晶獣に近しい存在となり果てており、自我を失って狂ったように襲い掛かってくるはずだ。
残念だが、元に戻すことができず、倒すしかない。
また、ゲドレは女王に与えられた晶獣を使役する。
こちらはこれまでにも出現したものばかりで、対処もしやすい相手だろう。
「近づけば、向こうから出迎えてくるはずです。こちらも万全の状態で当たりましょう」
ゲドレは何をしてくるかわからない不気味さがある。
何をしてきてもいいように備えておくといいだろう。
「ああ、確実に進んでいこう」
アルトゥライネル(p3p008166)の言葉に同意し、皆頷く。
「はい。私は皆さんのご武運を祈ってますね」
アクアベルは決意を漲らせるメンバー達1人1人に声をかけ、戦地へと送り出すのである。
- <月だけが見ている>『M』は亡者を狂わせる完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
(サポートPC2人)参加者一覧(8人)
リプレイ
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『月の王宮』へと至ったイレギュラーズ。
吸血鬼が潜むためか、内部は薄暗い。
その為、砂漠の民である『一つ一つ確実に』アルトゥライネル(p3p008166)は暗視を使っていたし、多数のドラネコを連れた『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)は適宜発光して気になる場所を照らす。
また、ユーフォニーは感覚を研ぎ澄まして敵の居場所を探り、加えて召喚したドラネコのリーちゃんと互換共有して奇襲を警戒する。
とある通路に差し掛かっところで、ユーフォニーが敵の存在に勘づく。
装飾こそ華美だが、戦いに利用できるものはないと踏んだスラム出身、年齢不詳の『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は通路にマキビシを巻く。
相手もこちらの接近を察してか、脇のドアから姿を現して。
「来おったな、脆弱な人間ども」
現れたのは、ゴリラのような晶獣へと変貌した宝石商人ゲドレだ。
そいつは一度マキビシを踏んでから砂ブレスを吐きかけて吹き飛ばす。
「年貢の納め時だぜ!」
それを見ながら啖呵を切るサンディが、年貢など納めた経験など一切ないのはさておき。
「幻想種たちを捕まえていた奴らの末路がこれか」
泥人形を自称する『消えない泥』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)は以前の依頼で出会えなかった首領とこんな形で出遭ったことに、奇縁すら感じる。
「ゲドレはこんな姿に成り果ててたのか」
金に狂い、月に狂わされ、獣に堕ちた男。
報いに相応しい……いや、過ぎる程の末路だと音楽家である『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は皮肉を言わずにはいられない。
「金に目が眩み、力に酔った悪党か……」
「他人の尻馬に乗る阿呆はどこにでもおるものじゃ。それを自分の力と勘違いする阿呆もな」
紅血晶によって、無理矢理に形を歪められたものばかりを相手にしていたというアルトゥライネルは悪らしい悪は何だか久し振りとのこと。
オルカの海種である『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)もこうした思考の持ち主に呆れてしまう。
「執心の挙句呑まれてしまったんですね。その先は自身の滅亡しかないのに」
ユーフォニーが言うように、物欲から過剰な力を得た男の姿が目の前の晶獣である。
「仕事だ。しっかり働け!」
わらわらと扉の奥から現れるゲドレの手下。だが……。
グアアアア、アアアア……。
烙印を刻まれたそれらは狂暴化し、猿のように変貌していた。
「烙印強化兵……なるほど……このように見た目に変化も出てくるんですね……」
狐耳を持つ旅人の『愛し人が為』水天宮 妙見子(p3p010644)とイズマの身にも烙印が刻まれており、人に仇名すモノになり果てる可能性があると強く自覚する。
なぜなら、胸の奥から女王に焦がれる気持ちが湧き出し、止められずにいるのだ。
早めに何とかせねばならない。これは烙印解除の足掛かりなのだ。
「皆さん頑張りましょうね」
「俺の烙印に限界が来る前に、終わらせてやる」
妙見子の呼びかけに、同じ境遇のイズマが応じる。
紅血晶とアンガラカに手を出し、幻想種を虐げた男を強く敵視して。
「今までやってきたその所業のせいで、お前は死ぬんだ」
再現性東京出身『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)は晶獣化を哀れとは思うが、情けをかける気など一片もない。
「ふはは、雑魚がぬかすなああ!」
「清算の時だゲドレ、お代は月の砂で許してやる」
「やることもやれることも変わらない。止まる気も無い。女王までの道、開かせてもらうぞ」
猛り吠えるゲドレに、マッダラー、アルトゥライネルが返し、両者がぶつかり始める。
●
煌びやかな王宮内だが、『夜の祭祀』の綻びによって所々崩れかけている。
「ふははははは!」
沸き立つ力を抑えられぬゲドレは剛腕を振り上げる。
だが、それよりも飛呂が少しだけ速い。
自らを最適化、さらに突撃戦術を仕掛ける飛呂はその頭を狙って引き金を引く。
「できる限り止めるつもりだけど、絶対はない。守りはよろしく頼む」
ただ、それを振り上げた腕で止めたゲドレは飛呂へと振り下ろす。
その前に、マッダラーが出て、敵の剛腕をその身で受け止める。
「任された、泥人形の意地に懸けて守り抜こう」
協奏馬とストリートビートによって名乗り向上を響かせることで、マッダラーはゲドレの気を引く。
(金目のものに目が無い男には、協奏馬は良いものに見えることだろうさ)
「ふははははは!!」
相手はただ笑いながら、マッダラーを力でねじ伏せようとする。
通路端に追いやられたマキビシを見て、罠など仕掛けても強引に破壊されていたかもしれないと考えるサンディ。
(今回の俺の方針は、『盾役がまとめてきた敵の可能な限りの素早い殲滅』!)
彼は敵の多さを見て、効率よくいかないと最後まで持たないと踏む。
遠隔技を主力とするサンディは乱戦を避けるべく後衛気味に位置取り、敵陣に無数のナイフを飛ばす。
それらは敵陣へと降り注ぎ、敵の足を止める。
相手が一時でも完全に動きを止めれば、サンディとしてもしめたものだ。
そんな敵、とりわけゴーレムを動きを把握しながら、アルトゥライネルは戦場を動き続ける。
敵味方の数が多いこともあって通路は広いとは言えないが、アルトゥライネルは状況を活かしてゴーレムを中心に熱砂の嵐を浴びせかけていく。
近距離特化で素早い敵も多い為、その足止めがアルトゥライネルの狙いでもある。
加えて、ゴーレムは万全な状態だと威力ある一撃を繰り出してくる。
クレマァダはそのゴーレムを危険視して立ち回っていた。
抑えとなるメンバーがまだ態勢を整えていたこともあり、烙印強化兵となった部下達が刃を手に接近してくるのを察して。
ウウウ、ウアアアアア!!
「……お主らもまた歪められたモノか! 生きものの在り方を歪める存在の、何と多きことよ」
クレマァダはダークネスイリュージョンで逃れつつ暗黒の力を使って攻撃と同時に距離をとる。
仲間達が動き始めたことで、イズマも立ち回り出すが、烙印による症状が進んでおり、見た目も反転した状況に近くなってきている。
(喉が渇く……が)
内なる衝動を強い精神と戦意で抑え込み、イズマは目の前の敵だけでなく、壁の向こう……ゲドレに与えられた部屋まで見通し、数人の部下がなお控えているのを確認する。
ともあれ、今は目の前の敵。その配置を把握したイズマはシュトルム・リッターで攻撃力を高めて。
「どこへも逃げてやるものか。全て砕いて前に進むのみ!」
前進する彼は敵陣へと冷たい旋律を歌い聞かせ、敵数体を魅了していた。
ウオオオオオ……。
砂狼1体と配下である強化兵1体が仲間に牙や刃を突き立てていたが、ゴーレム含めていずれの攻撃手段も近距離。
ゲドレを抑える2人が頑張ってい間に妙見子はそれ以外を片付けようと意気込む。
ゲドレの手勢をできるだけ捉えてから誘導しつつ名乗りを上げて引き付けに当たって。
「できるだけ一か所にまとめて叩いた方が効率いいですし」
増援は出てくるだろうと踏んでいた妙見子だ。できるだけ攻撃役となる仲間の邪魔にならぬよう誘導する。
とはいえ、烙印の影響が強くなっていた妙見子はユーフォニーとペアとなって行動していて。
「……私に何かあるようでしたら、殴ってでも止めてくださいましね?」
強化兵の刃で傷つけられた妙見子だが、傷口から流れる血は花弁と化している。
「な、殴りはしませんけど……!」
そんな彼女と自身に、ユーフォニーは熾天宝冠を降らせる。
ただ、妙見子がふとした時に呆けた顔をしてしまうのにユーフォニーは気づいて。
「妙見子さんもだいすきなひとがいるんでしょう? 女王さん博士さんによそ見してていいんですか!」
「えぇ……そりゃあもう! 大好きな方のために烙印なんかには負けないですとも!」
妙見子もユーフォニーに煽られて我に戻るが、烙印の影響を自覚する。
目もだんだんかすみ、自分が自分でなくなるような……。
「いえ……いいえ! こんなところで負けてられません……絶対に生きて帰らなければならない事情がたくさんできてしまったのです……!」
おもひいろを携え、妙見子は全員を守ってみせる……絶対にと強く意気込んだのだった。
●
人間を辞めたゲドレは湧き出す力を恐ろしいほどの剛腕でぶつけてくる。
それを抑えるのは飛呂とマッダラーだ。
ふはははははははははは!!
笑い続けるゲドレは砂ブレスを吹きかけようとしてくるゲドレだが、飛呂もそうはさせじと魔弾で牽制する。
すると、何かを感じた敵の笑いが止まって。
「ならば、直接潰すのみよ!」
力の一部を封じられたことを察したゲドレは、直接殴り掛かろうとする。
(悪辣なタイプの敵だ)
マッダラーは相手がいつ策を弄するか注意しつつも、飛呂を庇う態勢をとったまま、衝術を撃ち込んで吹き飛ばす。
遠距離攻撃は使えず、接近すれば弾き飛ばされる。それが幾度か続いて。
「思うように動けないの、さぞ不快だろうな?」
「ふん、これで勝ったつもりか?」
多少力を削がれても、ゲドレには全く負ける気など内容である。
その2人とゲドレが離れた場所で交戦する間、通路での戦いが激しさを増す。
クレマァダは仲間がいないタイミングを見て、得意とする波濤魔術でゴーレムもろとも発した消波で貫く。
ゴーレムはすでに全身に亀裂が走り、全力が出せぬ様子だ。
その最中、烙印持ちの2人にも注意を払うクレマァダ。
その片方、多数の強化兵や晶獣を引き付けていた妙見子はまれに自傷してしまう。
「血液って排泄物と同じくらい汚いらしいですよ!!」
唐突なユーフォニーの叫びに、我を取り戻した妙見子は多数の傷口から花弁を舞わせながらも気を強く持つ。
「……ユーフォニー、その言い方は血を使って戦う私に刺さるんですが」
「だ、大丈夫よ、マリエッタ。きっとマリエッタが使う血は魔術で綺麗になってるわ!」
そこに駆けつけた2人の人影が呼びかけてくる。
サポートにと参じた『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)、『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)だ。
片や魔女のように。片や妙齢の女性のように変貌しており、いずれも烙印の影響が濃い2人。だが……。
「こっちの事は気にしないでこんなのに負けたりしないから」
烙印強化兵を相手取り、セレナは黒紫の光で敵陣を照らし、狂気に誘う
「こほん。援護しますよ」
お守りとおもひいろでその対策するマリエッタは感覚を研ぎ澄まし、幻想を纏って連続魔法を発して援護攻撃を行う。
頼もしい援軍を得て、イレギュラーズは一気に敵の排除にかかる。
素早い相手が多い敵だが、アルトゥライネルが硬いゴーレムと合わせてそれらに紫色の帳を下ろしたことで、強化兵2名の意識を奪う。
敵との距離を維持するサンディもナイフと合わせ、崩れた王宮の壁の欠片なども併せて投げつける。
頭に命中した強化兵が1人、また1人と沈む。また、サンディの攻撃によって動きを止める敵へ、同士討ちする砂狼が牙を突き立てて仕留めてしまっていたようだ。
(後に引けないこの戦い、力を振り絞らねば生き残ったとて後悔する)
さらに、気力を満たして戦うイズマは、仲間を巻き込む可能性があるとみて、敵だけを堕天の輝きに包み込む。
軽やかに刃を振るっていた強化兵はぱたり、ぱたりと倒れ伏す。
気づけば深まっていた傷を見て、イズマはすぐさま星々の瞬きによってそれを塞ぎにかかっていた。
そんな仲間を横目で見るクレマァダは、残る砂狼を追い込むように動き、崩れかけたゴーレムともども捉える。
タイミング的に抑えるメンバーを巻き込むとみたクレマァダはゴーレムのみに重ね当てによって流し込んだ波濤によって、ゴーレムの体を粉砕する。
少しして、サンディも大きな拳を振り上げるもう1体のゴーレムに闇と呪いが帯びた刃を埋め込む。
その穴から亀裂が走り、大きな音を立ててゴーレムは崩れ去った。
砂狼はしぶとく動き回るが、ユーフォニーや妙見子がうまく引き付ける。
飛び掛かるべく身を引こうとした砂狼目掛け、アルトゥライネルが長布を翻してその体を切り裂いてしまう。
数が減ればイレギュラーズのペース。
敵の怒りを絶やさず、怒りを振りまくユーフォニーは、跳躍した砂狼が空中を薙ぎ払って着地したところで幾多の音を発し、相手を痛みなく仕留めて見せる。
「対ゲドレ様には万全の状態で挑みたいですからね!」
妙見子がここまで抑え役となっていた仲間達の傷を光輪で癒し、メンバーは残るゲドレとの戦いに臨む。
●
ここまでゲドレの動きを制していた飛呂とマッダラー。
飛呂を庇うマッダラーが焔によるカウンターを、ゲドレの剛腕に食らわせる。
「泥人形を舐めるなよ」
「…………」
腕を焦がし、完全に笑みが消えたゲドレがぼそぼそと小声で呟いていた内容を、マッダラーは聞き逃さない。
「手下を呼ぶ。警戒を怠るな」
飛呂もゲドレがいた部屋からさらに現れる烙印強化兵。
その数は10体ほどおり、ゲドレも再び口元を釣り上げて。
「奴らは消耗している。一気にぶちのめせ!」
アアウウ、アオオオオ!!
ただ、すでにその存在はアルトゥライネル、ユーフォニーが発見。飛呂のハイテレパスなどもあって皆に周知済みだ。
「そこか!」
控えていた強化兵全員が部屋から出てしまう前に、クレマァダが魔力を放出して部屋側の壁に風穴を開ける。
その不意打ちでイニシアチブをとったイレギュラーズ。続けてサンディが荒れ狂う不可視の刃で破壊する。
「これで全部か?」
煽るように手招きするサンディ。強化兵たちは丁度壁際へと寄っていたマキビシを踏んでしまう。
狂暴化していても、予期せぬ痛みに身体を硬直させる。
その間に、集まるイレギュラーズが一気に攻撃を畳みかけて。
飛び交う刃に風。戦場に舞う花弁は圧倒的に敵の者が多い。
グウウウ、グアアアアアアアア!!
爛々と目を輝かせるゲドレの手下。
烙印によって、それらはもう思考することはなく、ただ力を振り回す獣となり果てている。
「命を奪うのは、致し方のないこともある。じゃが……」
僅かに憐れみを、そして、すぐにゲドレや女王らに対する底知れぬ怒りをぶちまける。
「誇りを奪うことは許されん!」
再び、多数相手にせねばならなくなった強化兵へ、精神統一したクレマァダはまたも消波を発する。
その一撃に貫かれた強化兵2体が白目を剥いて倒れる。
叫び、吠える強化兵の刃は、イズマにも及んで新たな花弁を舞わす。
霞かけた視界を、パンドラの力も相まって強く気を保ったイズマ。
痛み以上に内なる衝動を堪え、彼はゲドレ共々光に包み込んでさらに2体を消し去ってしまう。
これ以上、仲間に被害を及ばせないと、ユーフォニーが慈愛の息吹を仲間へと吹き込みつつ砕かれた水晶の如き光の破片となした音の数々で強化へを弱らせる。
ただ、ゲドレの思惑通り、メンバーが消耗するのを見たセレナとマリエッタが残りの敵を受け持つ。
「こっちは任せて、遠慮なく戦って!」
「大物は任せましたよ、皆さん!」
名乗りを上げるセレナに群がる敵に、マリエッタが熱砂の嵐を浴びせかけるのを見ながら、メンバーはゲドレへと攻め入る。
「チッ、最後まで使えん奴らめ」
悪態づくゲドレはやはり己の力で戦うしかないと悟ったのか、右腕に仕込んだ刀を伸ばして斬りかかってきた。
烙印の2人が苦しむが、サンディは前線の妙見子が巨大な鉄扇で相手の刀を受け止めたのを見て、SSB……スーパー・サンディ・ボールを投げつける。
凝縮された球状の風が襲い掛かるゲドレに、アルトゥライネルが飛び込む。
「悪党に似合いのつまらない最期で、アンタの物語を終わらせよう」
剣術と魔術の合わせ技。ゲドレもアルトゥライネルの持つ最大の攻撃を力で食い止めようとする。
晶獣となった上、多少の荒事には慣れていたゲドレはパワーで相殺するようにアルトゥライネルの攻撃を防いでいた。
だが、戦闘経験の差が出たのか、続くイレギュラーズの攻撃には徐々に対処できなくなっていたようだ。
「絶海拳――消波!!」
クレマァダが放つ幾度目かの一打。
完全に態勢を崩した敵に、イズマが距離を詰める。狙うは右手の紅血晶だ。
「どれほど女王が素晴らしかろうが、俺は自分自身を生きねば満たされないけどな」
すでに人としての尊厳が残っておらず、既に死んだも同然だとイズマは言い捨てて。
「だから、もう塵に還れ!」
右手の甲にある烙印に動きを覚えながらも、イズマはその右手で敵の右手に極撃を叩き込む。
目に見える亀裂がゲドレの紅血晶へと入ったが、相手はなおも倒れない。
「フン、人の分際でええええ!!」
全身から花弁を飛び散らせ、ゲドレは吠えながらも砂ブレスをイレギュラーズへと浴びせかける。
「ここにいるみんな全員、きっと絶対支え切ります!」
すぐさまユーフォニーが仲間達へと陽光で照らして支え、その光の中で妙見子がゲドレを押さえつけた。
「商人は儲けてなんぼ……とは言いますが……。人道に反するような商売をするのはいかがなものかと?」
流通させるに飽き足らず、己の体に紅血石を埋め込んだゲドレのようにはなりたくないと、渾身の魔力を振り絞った妙見子は神滅の魔剣を創造して一閃させる。
だが、敵も渾身の力で刃を振るい、妙見子に埋め込んだ刃で一矢報いた。
パンドラに縋る彼女へとゲドレは高笑いして。
「ふはは、女王になぜ抗う。こんなにも素晴らしい力だというのに!」
女王の為に生きられない、得た金も死ねば無意味。
両腕に力を漲らせるゲドレに、飛呂は愛想をつかしてかぶりを振る。
「まだ意識があるってんなら、しっかり後悔してくれよ」
狙撃銃を握る飛呂はその脳天に弾丸を撃ちこむと、ゲドレが刹那動きを止める。
そこで、マッダラーがこれまで受けたダメージを力に変えて。
「罪を償うことなど許さん、欲望の悪夢に沈みながら地獄で続けるんだな」
強い力でゲドレの内より発動した夢想。
それが瞬く間に生み出した本人を飲み込んでいく。
「ぐおおおお、まだ、まだだあああ……」
だが、右手の紅血晶が砕けると、途端にゲドレの表情が固まる。
「うああ、ああああああああああ……」
「誇りを奪うことは許されぬが。誇りを奪う者は、また誰かに奪われる。それもまた定めじゃ」
クレマァダが世の理を語るが、体を崩していくゲドレにはもはや届いてはいなかった。
●
ゲドレ相当後、残る強化兵全てを殲滅した後、メンバー達はゲドレのいた部屋を捜索する。
そこにあったゲドレの財宝の一部を、飛呂が持ち帰ろうと提案して。
「被害にあった人に少しでも……。難しいのも、足りないのもわかってるけど」
倒したとしても、もう奪われないというだけ。
何も取り戻せないままなんて、悔しいだろと、飛呂は仲間に同意を求める。
「お金で命は、傷つけられた心は……癒やせないけれども」
ユーフォニーがそれに同意し、財宝の運び出しを手伝う。
調べた範囲ではこの部屋以外の置き場は確認できなかったものの。彼の経営していた店などを含め、メンバー達は事後処理に動くことにしたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開中です。
MVPはゲドレの抑えを担当し、とどめを刺した貴方へ。
今回もご参加ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
<月だけが見ている>のシナリオをお届けします。
こちらのシナリオは、アルトゥライネル(p3p008166)さん、囲 飛呂(p3p010030)さん、イズマ・トーティス(p3p009471)さんのアフターアクションによるシナリオも兼ねております。
●概要
『月の王宮』攻略作戦に臨みます。
王宮内、ゲドレ一味は通路の脇にある部屋で待ち構えており、イレギュラーズの来訪を察して通路に現れます。
通路は比較的広い場所ですが、片側はゲドレに与えられた部屋、片側は庭となっており、壁を破壊して立ち回ることも可能です。
●敵:ゲドレ一味
◎晶獣:悪徳商人ゲドレ
元人間種40代男性。全長2.5mほど。その体はゴリラのような見た目をした晶獣となり果てています。
人間時は紅血石の流通を積極的に行っており、合わせて奴隷売買も手掛け、金の為なら人命をも軽視する外道でした。
晶獣となり果てた彼は力を与えてくれた女王に心酔し、嬉々として襲い掛かってきます。
剛腕で殴りつけてくる他、砂ブレスを吐きかけたり、右腕に仕込んだ刀で斬りかかってきます。
◎烙印強化兵(ルべリウス・ソーン)×8体(初期数)
ゲドレの手下である盗賊、傭兵達が烙印を押された上で強化、狂暴化しています。
全てが晶獣の如く変化し、サルのような見た目と俊敏さで剣、曲刀、斧、メイスといった片手武器を扱います。
◎晶獣(キレスファルゥ)
女王によってゲドレに与えられた晶獣です。
〇シャグラン・プーペ(ゴーレム)×2体
紅血晶が、ラサの遺跡に眠っていたゴーレムに反応し、変質して生まれた存在。
遺跡を守っていたはずのゴーレムが無差別に暴れる破壊の使途となり果てています。
強力な物理近距離攻撃を行うマッチョタイプなアタッカー。
『渾身』を持つ攻撃を多用することがわかっています。
〇サン・ルブトー(砂狼)×2体
ラサに多く生息する砂狼が晶獣に変貌した存在です。
群れをなすことが多いですが、吸血鬼に飼いならされた個体のようです。
血のようなクリスタルに侵食されたオオカミは、皆正気を失っており、非常に素早く、手数を使って牙や爪による攻撃を仕掛けてきます。
●フィールド特殊効果
月の王宮内部では『烙印』による影響を色濃く受けやすくなります。
烙印の付与日数が残80以下である場合は『女王へと思い焦がれ、彼女にどうしようもなく本能的に惹かれる』感覚を味わいます。
烙印の付与日数が残60以下である場合は『10%の確率で自分を通常攻撃する。この時の命中度は必ずクリーンヒットとなり、防御技術判定は行わない』状態となります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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