PandoraPartyProject

シナリオ詳細

#春のPコレクション開催!或いは、僕の、私の先鋭的ファッション… 。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●唐突なPコレクション・春
「ねぇ知ってる? この港には今、大勢の人が集まってるんだって!」
 海洋。
 とある静かで暖かな海。
 小さな港町・パル―の外れで、エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)はそう言った。
「鮫の着ぐるみを着て競争するっていう企画で集めた人たちなんだけど、まだ帰らないみたいなんだよね。そこで、私は考えたわけよ!」
 どやぁ、と胸を張っている。エントマ、得意気である。
 なお、鮫レースの第2回は港の有権者により禁止された。着ぐるみを着たまま海に入り、溺れかけた者が大勢いたからだ。死者が出なかったのが幸いと言える。
「こんな時期に、こんな寂れた港に長居する人たちだよ? そりゃ、お金も持ってると思うわけよ? そして、お金があると人はどうすると思う?」
 暴飲暴食、ギャンブル、遊興、娯楽と贅沢三昧である。
 そして“着飾る”という行為も、娯楽・贅沢に含まれる。
「というわけで、ファッションショーを開催します。名付けてパルー・コレクション。既に新進気鋭のファッションブランドには声をかけているんで、皆にはモデルを務めてほしいの」
 要するに、ファッションブランドの新作発表会(ファッション・ウィーク)である。
 参加するファッションブランドは、エントマがエントマ基準で海洋全土から集めたものだ。
 ギャング御用達、紳士服の“青山羊”。
 ロリィタ服の本家“BERRY, THE SUPER STAR BRIGHT”。
 着るを楽しむ、奇抜にして先鋭されたらぎゅじゅアリーブランド“CHANNEL”。
 そして、大衆向けの量販店“縞村”。
 その他、幾つものファッションブランドが既に参加を表明している。
 中には、あまりにも先鋭的過ぎていっそ奇抜と言える衣服を考案しそうなブランドもあるが、エントマはそう言うの気にしない。
 楽しければ、人が集まる。
 人が集まれば、楽しい。
 そして、お金になる。
 エントマChannelの独占放送ともなれば、登録者数もうなぎ上り間違いなしである。
「あれを見て。沖に泊まっている貨物船が待機所になるの」
 エントマが沖を指さした。
 停泊している貨物船から、港まで、浮き橋がかけられている。
「貨物船の中で着替えてもらって、浮き橋を歩いて港にやってくるわけよ。そして、観客たちはそれを見物するってわけ」
 当然、ファッションショー当日はエントマが観客を盛り上げる予定だ。
 場合によっては、イレギュラーズの中からコメンテーターを募るかも知れないが……。
 それはともかく……。
「さぁ、見せてちょうだい! イレギュラーズのおしゃれ力ってやつをさぁ!」

GMコメント

●目的
エントマ主催のファッションショーを成功させる

●概要
ファッションブランドの用意した服を纏い、ランウェイ(浮橋)を歩きます。
沖の貨物船から、港までおよそ100メートルほどの距離があります。
要するにパ〇コレです。
そのため、必ずしも実用的な衣装が用意されるとも限りません。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】エントマに雇われた
エントマに雇われました。あなたの肩を叩き、エントマは言います。「企画が盛り上がらなかったら、チャンネル登録者数減っちゃうから」。エントマのためにも頑張りましょう。

【2】ファッションブランドに雇われた
「君、ファッションショーに興味ない?」。港町で声をかけられ、ファッションショーに参加しました。楽しみながらも、最大限、がんばるつもりです。

【3】祭りと聞いちゃ黙ってられねぇ
人が集まっているところは楽しいところです。あなたは、今回イベントの趣旨を理解していませんが、楽しそうなので参加しています。とりあえずノっておけば、割と何とかなるものです。


Pコレクション開幕
あっという間にPコレクション当日になりました。当日の過ごし方です。

【1】クールorスタイリッシュな衣装で参加します
クール系、スタイリッシュ系の衣装に身を包み、ランウェイを歩きます。

【2】ゴシックorロリィタ系の衣装で参加します
ゴシックorロリィタ系の衣装に身を包み、ランウェイを歩きます。

【3】奇抜orパンキッシュな衣装で参加します
奇抜な衣装(生肉ドレスとか猫の着ぐるみみたいなの)や、パンキッシュな衣装に身を包みランウェイを歩きます。

【4】コメンテーターor撮影補助としてファッションショーを盛り上げます
コメンテーターや、撮影補助といったエントマの手伝いを行います。なお、スタッフは鮫の着ぐるみを身に纏うことになっています。

  • #春のPコレクション開催!或いは、僕の、私の先鋭的ファッション… 。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月08日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー
尹 瑠藍(p3p010402)
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ

●10分前
 海にずらりと船が並ぶ。
 並んだ船と船の間に、1本の浮橋がかけられている。
 船の上には、大勢の人、人、人、人の群れ。誰もが手に飲み物とポップコーンを携えて、興奮した様子で近くの者と何事かを語り合っている。
 これから始まるのは、パルー・コレクション・春。
 海洋各地で名を轟かせるファッションブランドが、新作衣装を一般にお披露目する祭典だ。なお、今回が初開催である。
「ふふ……客の入りは上々。席が取れず、港は元より立ち泳ぎ見の客まで出ている! これは、成功の予感がするね!」
 海上に建設された物見櫓の上で、エントマはくっくと笑みをこぼした。
「どんな服着るんだろ……楽しみ……」
 エントマの隣には、カメラを手にした『玉響』レイン・レイン(p3p010586)の姿もある。ホオジロザメの着ぐるみを纏ったレインは、わくわくとした様子で沖に停泊した貨物船に目を向けている。
 今頃、貨物船の中ではファッションショーに参加する各ブランドおよびモデルたちが出番を待っているころだ。
「レインちゃん! 今の内に貨物船内の様子を撮って来て! 動画公開時には映像特典として、準備中の様子を流すから!」
「……わかった」
「返事は“イエス・シャーク”だよ!」
「いえす、しゃーく」
 レインは右手(ヒレ)を顔の横へまっすぐ突き上げ、どこかぼんやりと返事をした。

 暗がりに立つ細長い影。
 青い髪をアップに纏めた『蛟』尹 瑠藍(p3p010402)だ。
 窓の外に目を向けて、沸き立つオーディエンスを眺めている。
Q:どうしてこのイベントに参加を?
A「この時期はイベントが多くて美味しいものも沢山売っているから遊びに来たの。だけど、これは予想外だったわ。港で声をかけられて、そのままモデルをすることになるなんてね」
 口元を手で隠し瑠藍はくすりと笑った。
 朗らかながらも、彼女の纏う凛とした雰囲気は微塵も損なわれていない。まるでこれから散歩にでもでかけるかのような、ごく自然体で瑠藍は出番を待っている。
 彼女にとっては、百や二百を悠に超えるオーディエンスなど、緊張の原因にはならない。

 次にレインが向かったのは、モデル控室の最奥。
 黒いカーテンに仕切られた、闇より暗い一角である。
Q:今日のコンセプトは?
A:「黒。見た者の恐怖を植え付ける圧倒的な黒。それが我が衣装」
 顔を手で覆い隠した『タナトス』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は低く囁くような声音で答えた。
「この腐った世界に素晴らしい提案をしよう。お前も黒に染まらないか?」
 レインは少し思案する。
 それから、ふと思い出したかのように言葉を返した。
「いえす、しゃーく」
「赦悪……なるほど。貴様も“こちら側”というわけだ」
「……えぇと、はい」
 ブランシュは何を言っているのか。
 レインには微塵も理解できない。

 モデルたちも、各ブランドのデザイナーたちも、そのほとんどは緊張した面持ちだ。それも当然、これから行われるのはファッションショー。観客にとっては、単なる衣装のお披露目会に過ぎないだろうが、ブランド各社にとっては少々事情が異なる。
 自社の威信とデザイナーのプライドをかけた、大勝負。
 当然、負けは許されない。
 だが、そんな白熱した空気を意にも返さず、あくまでマイペースに過ごす者たちもいた。
Q:今のお気m……
A:「わー! 鮫の着ぐるみ、可愛いねー! 今のお気持ち? モデルをお願いされてね!嬉し過ぎて二つ返事で肯いちゃった!」
Q:今日のコン……
A:「コンセプト? コケティッシュかつ危険を孕んだ女の子……? だって! どういうことだろうね!? 楽しみっ!」
『無尽虎爪』ソア(p3p007025)は元気いっぱいのようである。

 甲板で海の風を浴びているのは、明らかにカタギでは無さそうな2人組である。
 もしかすると、船に紛れ込んだギャングか何かかも知れない。
と……そんなことを考えたのも、ほんの一瞬。カタギでは無さそうな2人は、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)と『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)……つまり、ローレットの仲間であった。
「取材、です」
 カメラを手にしたレイン(ホオジロザメ)を一瞥し、縁とキドーは目を剥いた。
 一体、何が来たのかと、少し驚いたのである。
Q:どうしてこのイベントに参加を?
A:「堅苦しい格好は苦手なんだがねぇ。昔世話になった店の頼みなら断る訳にもいかねぇ」
 やれやれ、と頭を掻いて縁は笑う。
 仕方が無い、と言いながらも真白いスーツは十全に着こなしている様子だ。まるで、着慣れた服装であるかのように。
 次にレインは、キドーの方へカメラを向けた。
Q:今のお気持ちは?
A:「最高」
 至ってシンプルな、けれど“たった1つの冴えた答え”だ。デザイナーにとっては、百や千の美辞麗句を並べ立てられるよりも、嬉しい言葉に違いない。
「かぶいたデザインを遊び心を持ちつつ真剣に考案するし、俺の体格でもピッタリ仕立てるし、何より生地がいい」
「駆け出しのころは“青山羊”のスーツに袖を通すのに憧れたもんだ。“青山羊”を着てる兄貴たちが、えらく大人に見えてよ」
「分かるぜ。俺もその口だ。俺らの世代は、皆そうだった」
 笑い合う2人の様子をカメラに収めると、レインは何度か頷いた。
 なるほど確かに、スーツを纏う2人の姿は、ひどく“様”になっている。
 なお、キドーは別に海洋の出身ではない。

 甲板の一角に人だかりが出来ている。
「……?」
 何事だろう? とレインはそちらへ近づいて行った。
 人だかりが近くなるにつれて、交わされる会話も漏れ聞こえて来た。
「あれは、なんだ?」
「なんだって、見たまんまだろ。プリンだ」
「プリンが何だって甲板にある……いや、いるんだ?」
「っていうか、本当にプリンか? プリンに擬態したマッチョな鎧じゃないのか?」
「プリンに擬態したマッチョな鎧ってなんだよ。擬態出来てねぇよ」
「どこのブランドだ?」
「いや、まだ着替えてねぇんじゃねぇか?」
「着替えてない!? プリン被ってんぞ?」
 見なくても分かる。
 否、分かってしまった。
 理解してしまった。
 そこにいるのは『アイアムプリン』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)だ。

 万雷の拍手と大喝采。
 かくして、春のP・コレクションは開催された。

●P・コレクション開幕!
 青空に花火が打ち上がる。
 割れんばかりの拍手喝采が、雨あられと降り注ぐ。
『幸せいっぱい春の海! 自信と誇りで胸いっぱい! 衣装という名の戦闘服に身を包み、選び抜かれた勇士が集う! 春のパルーにプライド渦巻く! 負けたお前がダサいのかッ! 勝ったオイラがイケイケなのかッッ! 春のP・コレクションッ! 開幕だぁぁああああああああ!!!』
 エントマの口上が空に轟く。
 貨物船からタラップが降りると、それを伝ってモデルたちが次々と観客の前に姿を現した。
 まっすぐに前だけを見て歩く者。
 観客たちに手を振る者。
 パフォーマンスで魅せる者。
 何人かが浮き橋へ進んだところで、観客の誰かが「あっ!」と驚いた声をあげた。
 蝙蝠だ。
 膨大な量の蝙蝠が、タラップを埋め尽くしたのだ。
『おーっと! これはハプニング……っではない! これはッ! タナトス! “GEORGE AKIYAMA”モデル、ブランシュ=エルフレーム=リアルトだぁぁ!』
 蝙蝠たちが散ると同時に、ブランシュはそこに立っていた。
 ブーツからパンツ、インナー、そして袖や胴に都合7本ものベルトを撒いたコートまでの全てが黒色。まるで夜闇の体現者。
 黒一色の衣装に対し、その長い髪は1点の曇りもない純白。
 潮風に髪を靡かせながら、1歩ずつ踏み締めるように浮き橋を進む。
 誰もが声を出せないでいた。
 うっかり声を零してしまえば、闇はたちまち消え去ってしまいそうに思えたからである。
 浮き橋の中央ほどで足を止め、ブランシュは顔を手で覆う。
 白い指には、薔薇を模した指輪が嵌められていた。それもただの指輪ではない。指の中ほどから先までを包む爪のようなアーマーリングだ。
「そうだ。俺はタナトス。遂に向かえた終わりの時を示す為、今此処に参加しよう」
 ブランシュが手を払う。
 青い瞳が顕わになった。その青空より澄んだ“碧”に誰もが目を奪われる。
「おぉー……」
 浮き橋の横、海水に半身を漬けたレインが思わずと言った様子で溜め息を零す。
 レインだけではない。
 会場の各所から、堪えきれない風な吐息が零れて聞こえる。そのほとんどは、どうやら若い女性のものだ。
「ふん」
 海風に闇のオーラを揺蕩わせ、ブランシュは再び歩き始める。
 その胸元で、惑星を模したペンダントが揺れていた。

 空気が変わった。
 その瞬間を目にした者は、誰もがそう感じたことだろう。
 流れるような青い髪。
 長くうねる竜の尾。
 細いながらも、決して華奢と感じさせない立ち姿。
 きっと体幹がしっかりしているのだろう。178cmの長身に纏うのは、白と黒の丈の長いスカートと大胆に肩から背中を露出させたタンクトップだ。
 肩にかけた黒のジャケットが、海の風に揺れている。
 背中から肩、首にかけては竜を模したタトゥーが覗く。彼女……瑠藍をイメージしてデザインされたタトゥーシールであり、会場の隅の物販ブースで購入できる。
『誰もがッ! 目をッ! 奪われているッ!』
 瑠藍は完璧で、究極のモデルであった。
 エントマは、それ以上の言葉を告げない。
 彼女は決して多くを語ることはしない。余裕さの現れか、口元に薄く笑みを浮かべ、浮き橋を進む。
 観客たちの視線など、一切、意に介していない。
 彼女が歩を進める度に、ほっそりとした脚線美が覗く。スカートのデザインによるものだ。黒い右側はパンプスを隠すほどに長く、白い左側は腰の位置までスリットが入っている。
 ラグジュアリーブランド“CHANNEL”、この春のイチオシである。
 男性からは尊敬の。
 女性からは憧憬の。
 種類の違う視線2つが降り注ぐ。
 瑠藍が浮き橋を歩む数分間……間違いなく、この日一番の“静寂”だった。

 次いで、オーディエンスの注目を集めたのはソアだった。
 身に纏うのは“TUNAMAYO”のミニスカートと半袖シャツ、そしてパーカーである。
 フリルと安全ピンが飾られたミニスカートから、細く、けれど健康的な脚が伸びていた。黒と白のストライプが目を引く左右で長さの違うソックスが、コケティッシュな魅力をこれでもかと引き立てていた。
 毒々しい紫色のシャツには、ファイティングポーズを決めたパンダのプリント。“TUNAMAYO”のマスコットキャラクター“ドロップさん(真)”である。
 黒を基調としたパーカーには、猫の耳としっぽの飾り。袖口は爪を模して、ギザギザに仕上げられていた。当然、パーカーの背中には猫のシルエットがデザインされている。
「ふふんっ!」
 得意気に胸を逸らし、ソアは被ったキャスケットを持ち上げた。
 ちゃりん、とキャスケットにぶら下げられたチェーンが揺れる。キャスケットの上部にも、猫の耳を模した飾りが付いている。
 観客席の各方向から耳朶を擽る「可愛い!」という声援が気持ちいい。
「可愛いって言われちゃった!」
 歩を進める度、厚底ブーツがカッコカッコと小気味の良い音を鳴らす。
 歓声の雨が降り注ぐ中、ソアは上機嫌に浮き橋を歩いていくのであった。

 “WILD CHICKEN”
 本物の“侠”が飲む酒だ。
 最高級の原料を用い、最高の腕を持つ職人が仕上げたバーボン。長期熟成による芳醇な味と香り特徴の高級酒を、キドーは片手に携えている。
 身に纏うは縦ストライプの黒いスーツに、黒いシャツ。ネクタイの色は血のような光沢のある赤だ。
 緑の肌に、わざと道化のようなメイクを施して悠々と浮き橋を進む。その瞳は、黄色い丸サングラスに隠されていて窺えない。
 そんなキドーのすぐ隣には、白のスーツを纏った縁が立っていた。紫のシャツは、ボタンを3つほど外し、鍛えられた胸筋を惜しげもなく晒している。
 首からかけたマフラーに、頭に被るボルサリーノハット。
 片手に刀を携えて、海の風にマフラーを躍らせる。
 オールドスタイルのギャングファッションが、彼ほどに似合う男も他にいないだろう。
 2人の履いている靴は、その光沢と質感からみて鮫の本革に違いない。
『お次は紳士服の“青山羊”! 送り込まれた2人の刺客! 男たちの憧憬の目や歓声になど興味がないというように、危ない2人が海を行く! レインちゃん! アップで撮って! ブロマイドにして売るから!』
「いえす、しゃーく」
 縁とキドーのすぐ傍を、カメラを構えたホオジロザメ(レイン)が泳ぐ。カメラは2人の向いていた。右から左から、時には真下からも2人の姿をカメラに収める。
「おい、縁。ファンサしてやれよ」
「ん? あぁ」
 キドーが、空へ酒瓶を投げた。
 刹那、一閃。
 縁が刀を虚空に走らす。
 鞘鳴りの音に、一拍遅れて風が吹いた。
 直後、海面が激しく波打つ。
 その衝撃は、観客席にも届いただろう。所々で悲鳴があがる。
「わぁ、すごい」
 両のヒレを打ち鳴らし、レインは感嘆の声を零した。
 落ちて来た酒瓶をキドーがキャッチ。酒瓶の上部は、すっぱりと切断されている。溢れる酒を喉の奥へと流し込み、キドーはいかにも好戦的な笑みを浮かべた。
「服、ちっとも傷んだり、破れたりしないん……だね」
「ギャングは荒事も多いからな」
「防弾防刃でも色・柄共にバリエ豊富。だってタダの戦闘服じゃねェ」
 そう言って笑うキドーの手から、縁は“WILD CHICKEN”を受け取ると、残りを一気に飲み干した。
「こいつぁ、死地の晴れ着だ」
 そう言い残し歩き去っていく2人の背中に、レインは確かに“侠”を見た。

 20人は下らないと言われる自称キドーの一の子分、サスカッチ(33)はこの日のことを以下のように語ったという。
「ゴブリンだから。ちいせぇから。キドーの頭を侮る奴ぁ、山ほどいるがな……あの日、あの人は確かに一等星の輝きを放ってた。俺ぁ確かに、あの人の背中に光を見たね!」

●フィナーレ!
 長いようで、あっという間の半日だった。
 春のP・コレクションも大詰め。西の空に夕日が落ちる頃になって、エントマは最後のモデルの名を呼ぶ。
『最後は“KARAMEL”代表、マッチョ☆プリン! そしてなんとッ! マッチョ☆プリンからファンの皆様へ、サプライズの申し出がありましたぁぁぁ!』
 絶叫と共にエントマは空を指さした。
 直後、貨物船から1羽の巨鳥が飛びあがる。どうやら、ひときわに大きな体躯を持ったアホウドリであるようだ。
『皆さま、空をご覧ください! アホウドリをご覧ください! なお、あちらのアホウドリは派遣会社ルンペルシュティルツよりお借りしています!』
 観客たちが空を見上げる。
 レインがカメラを空へと向ける。
 アホウドリの脚が大きな箱を持っている。

 エントマは数時間ほど前の出来事を思い出す。
「“P”uddingコレクションだと? 出るに決まってるいるだろう」
 開幕直前、運営本部へ乗り込んで来たマッチョ☆プリンはそう言った。イベントの名前を間違えている。そもそも、何のイベントなのかさえ理解していない節がある。
 だが、彼が胸に抱く闘志は、誰よりも熱いものだった。
 
 アホウドリが下げた木箱が、内側から撃ち砕かれた。
 飛び出して来たのは、鋼の巨躯。頭部にプリンの被り物をしたマッチョであった。
「オレが……プリンだ!」
 重力に引かれ、マッチョ☆プリンが降って来る。落ちて来る。
 そのまま海に落ちるのか。
 否!
 マッチョ☆プリンの背から、膨大な量の布が広がる。
 パラシュートだ。
 それも、ただのパラシュートではない。黄色と黒のツートンカラー。プリンを模したパラシュートが、風を孕んでばさりと広がる。
「そして……」
 ゆっくりと。
 マッチョ☆プリンが降って来る。
 浮き橋に着地したマッチョ☆プリンの頭上に、パラシュートがかぶさった。
 その姿が、観客たちの前から消える……。
 その直前に、マッチョ☆プリンは空を指さし、こう言った。
「お前たちもまた、プリンだ」
 
 マッチョ☆プリンが、頭上で腕をぐるぐる回した。
 覆いかぶさるパラシュートを巻き取っているのだ。
 そして、プリンはその巨躯にパラシュートを巻き付ける。
 否、もはやそれはパラシュートではない。
 黄色と黒……プリンカラーの原始的なドレスである。
「アイ、アム、プリン」
 民衆を導く聖女のように、夕日を背負ったプリンの威容。
 それは、翌日の海洋新聞の一面を飾った。

 その日の夜のことである。
 すっかり人気の失せた会場に、レインは1人、佇んでいた。
 胸に抱えるエントマのカメラ。
 撮影した写真を眺めながら、レインはくすりと微笑んだ。
「こういうのも……楽しいかも……」

 上機嫌に鼻歌を奏でるレインの姿を、貨物船の甲板からじぃと眺める影がある。
 瑠藍とソアだ。
 打ち上げパーティーを抜け出して、姿の見えないレインを迎えに来たのである。
「もう少しだけ、あのままにしておこうか」
 なんて。
 そう言って、瑠藍とソアはそっとグラスを打ち合わせた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
春のP・コレクションは無事に成功を収めました。
売上は上々、エントマChannelの登録者数も増えました。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

なお、次回P・コレクションは未定です。

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