PandoraPartyProject

シナリオ詳細

妙薬のサクリファイス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――轟音響き渡る。
 幻想東部、アルバトラス地区で事故が発生したのだ。
 アルバトラス地区とは貴族エミリジット・ローニャックが所有する鉱山地帯。
 彼女の――より正確にはローニャック家の――財政を支える一つだ。
 その地で事故が発生した。ガス爆発による火災である。
「エミリジット様! 炭鉱の一部が崩落、多数の重傷者が出ています!!」
「――落ち着きなさい。鉱山開発ならばあり得ない事態でもないでしょう」
 然らば凶報が血相変えてエミリジットに齎される。
 が。当のエミリジットは――少なくとも表面上は冷静なものだ。
 鉱山で事故? 元々鉱山の開発はリスク無しでは出来ない。
 地中のガスを掘り当ててしまったり、落盤の被害が出たり。
 そういった事はいつだって起こり得るものだ。
 だから、それ自体は特にエミリジットも問題視していない――のだが。
「し、しかし内部にはまだ取り残された者がおりまして……!
 しかも目撃者の証言によると魔物の出現も見たとか……!」
「正確な報告を。それは確かですか?」
「魔物に襲われて負傷した者がいるのは事実です!
 実際、崩落などではない……咬み傷などの負傷が見られておりまして……!!」
 どうにも妙な出来事が生じているらしい。
 魔物。魔物だと? そんな事がありうるのか?
 情報が錯綜していたが纏めると――どうやら元々のガス爆発の原因は魔物の襲来によるものだとか。鉱山の開発で通じてしまった先に魔物の根城でもあったようで、人間を見つけた連中は一斉に襲い掛かって来た。
 その混乱の最中で地中のガスに引火――そして火災が生じた、という流れらしい。
 ……なんたる惨事だ。ただ単純な火災だけなら消火すればいずれは元に戻ると思ったが。
 魔物が出てきたとなれば話は別。放置していれば事態は収束どころか拡大を見せるだろう。
「……未だ火災も広がっていますね?」
「え、ええ。まぁ、はい」
「ならば兵にはこれ以上被害が広がらぬように隔離の命令を。
 そして――魔物はローレットに依頼を。
 坑道の中に踏み込んでもらいましょう」
「はっ!? しかし爆発や火災が収まっては……」
「だからですよ」
 火と魔が溢れる渦中に飛び込み解決を導く人材というのは――多くない。
 エミリジットが即座に動かせる兵よりも一騎当千たるイレギュラーズ達の方こそが適任だろう。なによりローレットに依頼すれば混迷としている危険度の高い箇所に、子飼いの兵を叩き込まなくて済む面もあるのだ。
 彼女は思考する。何が最善か、何が最適解かを。
 だから。怪物が湧いたというのなら、英雄をぶつけるとしよう。
 きっとそれが一番の手であるから。


「うわああああ――!! ま、待て、止めろ、助け――!!」
 アルバトラス鉱山。その坑道内から、絶叫が響き渡った。
 魔物に襲われたのだ。いやより厳密には――怪王種(アロンゲノム)に、だ。
 滅びのアークを強く宿す者達の一種。
 只人なんぞではとても対抗できまい。追い詰められ喰われるだけ、だ。
『キ、キキキ、キキキ――』
「――おいおい。いつからこの鉱山はこんなに物騒になったんだよ」
「……無力な人に群がっていますね。これが情報にあった魔物ですか」
 だが。渦中に飛び込んだ影があった――イレギュラーズだ。
 その一人がシラス(p3p004421)である。蝙蝠型の怪王種を即座に叩きのめした彼だ、が。襲われていた作業員の息はもうない。喉を食い破られ、大量の血飛沫を挙げた後だ……チェレンチィ(p3p008318)が首を振り皆に伝えれ、ば。
「奥の方でまだ何かが動く音が聞こえるわね……怪王種が相当いるみたいね」
「う、うう。暗いのですよ……でもでもまだ取り残された人達も沢山……!」
 殺意の高さ。感じるとるはアルテミア・フィルティス(p3p001981)にメイ(p3p010703)か――怪王種は滅びのアークにより深い干渉を受けている魔物であり、狂暴性がより高い事もあるが……これほどとは。
 恐らく、奥にはまだ無数に控えている事だろう。
 それに――どことなく強い圧をも感じ得る。
 今先程の蝙蝠は苦労する事もなく倒せた、が。
「ここから先は、より強靭な存在がいると見るべきです、か」
「……火災もまだ続いている。内部はただ敵を打ち倒せばよいという場ではなさそうだ」
 ドラマ・ゲツク(p3p000172)は感じ得る敵性存在に思考を巡らせるものだ。同時に黒星 一晃(p3p004679)も周囲の――特に地形の――様子を見据えよう。
 さすれば、未だガス爆発の影響もあるのか地が微かに揺れている振動を感じる。
 この地一帯が崩落する……と言う事は流石にないだろうが。突然周囲で爆破が生じる事ぐらいはあるかもしれない。そうでなくても火災の影響で有毒なる空気が溜まっている可能性もあろうか――
 此処は狭い坑道であればこそ、危機は数多に。
「それでも依頼だから、ね」
「――行きましょう。私達が成すべき事を、成す為に」
 だが。上等だとばかりにジェック・アーロン(p3p004755)は己が銃を携え星穹(p3p008330)と共に歩みを進めようか。
 目標は可能な限りの人員の救出。そして魔物を統括していると思わしき長の撃滅。
 どれ程の暗闇がこの先に潜んでいるのだとしても。
 その瞳に――迷いの色は一切ないのだから。


 ――ああ恨めしい。煩わしい。死ぬがよい、人間共よ。
 『ソレ』は炭鉱を破壊せんとしていた。
 『ソレ』は歪なる存在。元は鉱山に住まう只の動物であったかもしれぬモノ。
 しかし。今や只の化け物と化した存在。

 ――怪王種『ディトラン』

 一見すれば巨大な白い猪の様に見えようか。
 だがその瞳は濁っている。その瞳はただただ全てを滅ぼす意思しか宿らぬ。
 人間よ死ね。滅べ。ただただ血の華を咲かせるがいい。
 ……ディトランの足元で踏みつぶされる者がいる。
 だが気にも留めぬ。奴の心中には怒りと殺意しかないから。
 ああ――そして奴は生み出す。
 自らに従う、自らの眷属とも言える子らを。
『――■■■』
 呻く様な声。だが怪王種に生み出された怪王種は承知した。
 ――コロセと言われるのならばそうしよう。
 人を殺そう。人を滅そう。
 この地を統治するあの女も八つ裂きにせよ。
 ……雄たけびが挙がる。
 ただただ敵意だけを含んだ――怒号の様な雄たけびであった。

GMコメント

 お待たせしました、リクエストありがとうございます。
 以下詳細となります。

●依頼達成条件
・敵勢力の撃退(ただしディトランさえ倒せれば、残存戦力は全滅させる必要はありません)
・作業員たちを可能な限り救助。

●フィールド
 アルバトラス鉱山地帯です。
 現在、ガス爆発と火災による影響で内部は一部天井が崩落している地もあります――
 基本的には無数の通路が存在していますが、時折広い空間も存在している様です。通路は狭い為、あまり大人数が広がって戦うのは困難ですが広い空間ならばかなり自由に移動して戦う事も可能でしょう。

 先述の通り事故(火災)は続いており非常に危険な地帯となっています。
 ターン開始時、時々『爆発』が生じる事があります。回避判定は入りますが、例えば爆発による影響が至近で生じた場合などは回避が困難の場合もあります。また火災の影響により『有毒ガス』が充満している通路もあったりするかもしれません。
 いずれも、なんらか非戦スキルなどによって回避の可能性は高まるかと思われます。

●敵戦力
・怪王種(アロンゲノム)『ディトラン』×1体
 鉱山内に存在する怪王種であり、その姿は巨大な『白い猪』の様です。
 しかし明らかに生物とは異なる気質を宿しており、怪王種以外の生物に対して激しい敵意を宿しています。
 鉱山内に残っている人間を殺さんと付け狙っている様です。

 奴は『怪王種を生み出す』力を持っているようです。
 奴の周囲では後述する怪王種『ビスト』が次々と生み出されます。
 その為、かなりの数を相手取る事になるかもしれません。

 ディトラン自身の攻撃方法としては巨大な身を活かした突撃――と。自身の内部から『骨』を突き出し敵を攻撃する能力を宿している様です。此方の『骨』こそが奴の攻撃の真髄であり槍の様に突き刺したり(中距離・貫通攻撃)肋骨を開くようにして人間を包み込まんとする攻撃(近距離・麻痺系列のBSを高確率付与)を行ってきます。

 非常に高い耐久力、攻撃力、そしてビストを生み出し盾にしたりイレギュラーズらを抑える駒にしたりと強敵です。
 ……なお。猪から、と言うよりも『骨』から妙な気配を感じえます。
 もしかすると猪の様な身は『鎧』のようなものであり――この『骨』こそが本物のディトラン、本体と言えるのかもしれません。

・怪王種(アロンゲノム)『ビスト』×??体
 無数に存在している魔物です。蝙蝠、猪、ムカデと言った存在
 大小さまざまな個体がいますが、いずれも戦闘能力は自体は高くありません。
 が、数によって物量差で押して来ようとするでしょう。シナリオ開始時は通路各地に散っていると思われますが、ディトランが近くにいる場合ディトランを援護する様に動きます。

●救助対象
・鉱山作業員×6名
 民間人です。戦闘能力はありません。
 まだ内部に生き残りは6名ほどいると思われる様です。怪王種の襲撃を恐れ、一塊となって慎重に移動しているようです。
 依頼人のエミリジットからは可能であれば救助を依頼されています。
 ただし状況が状況なので、犠牲は出てもある程度は許容範囲との事です。

●エミリジット・ローニャック
 依頼人です。幻想貴族の一人で、アルバトラス鉱山の所有者。
 戦場には訪れません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 妙薬のサクリファイス完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年05月20日 23時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
シラス(p3p004421)
超える者
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
星穹(p3p008330)
約束の瓊盾
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ


 ――遠くでまた爆発の音が響いた。
 それは新たなる崩落の兆しか。或いは出現せし魔の暴でも振るわれたか。
「情報によれば怪王種だとか。炭鉱事故だけでも大きな損失でしょうに、正に踏んだり蹴ったりですねぇ……だからこそこれは、ローニャック家には相応の対価を期待したい所ですね!」
「全くだよ。うっかり長居しちゃったら、ミイラ取りがミイラになる――なんてね。
 そうなる前に迅速に動かなくちゃ、ね!」
 吐息零しながらも炭鉱を駆け抜けるのは『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)に『天空の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)だ。ドラマは周囲の崩落を押し留めるべく大地を保護する結界を張り巡らせ、ジェックは素早く周囲に視線を巡らせる――
 爆発は超高熱だ。つまりは温度の高まっている箇所を見抜ければ回避出来るのでは、と。
「よいですか? ちょっとでも危険を感じたら引き返してくるのですよ?
 絶対に無茶はしちゃダメですよ……それじゃ『ごー!』なのです!」
 更に『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)はファミリアーにより使役した鼠に指示を出して周囲を探らせよう。『チュー!』と鼠は敬礼一つして走っていく――鼠さんだって大切な命。無為に散らせない為にも、安全策の指示は出しておこう。
 とは言え、そも鼠さんが危険に思う様な引き返しがあれば。
 その先に『何か』がいるという事。
 それだけでも情報の収集にはなるのだ――特に。危険極まりない存在だと分かればこそ。
「生存者の救出、怪王種の迎撃。どちらも時間が勝負ね……急ぎましょう!」
「炭鉱の崩落、火災……原因は怪王種ですか……!
 一つが引き金となってよくもまぁここまで連鎖したものです……!!」
「とはいえ、やる事はシンプルです。守り、倒す。それだけです。
 ――成していきましょう。それが私達に課せられたものならば」
 続けて『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は感情を探知する術を張り巡らせようか――生存者たちの間には恐怖が広がっている筈であるが故に。そして『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)や『約束の瓊盾』星穹(p3p008330)は逆に『敵意』を感知せんと警戒の力を張ろう。
 怪王種の位置を察知せんとしているのだ。連中が近くにいないか警戒する意味もあるし、人に対して激しい敵意を抱く存在であれば……その近くに生存者がいる可能性も存在していよう。
 故に進む。警戒も捜索も同時に行いながら。
 ――耳には未だ崩落の軋みが聞こえようか。
 然らば思うものだ。『竜剣』シラス(p3p004421)は、まるで『決死隊』だと。
「――俺達でなければ、だがな。頼むぜ、一晃」
「無論だ。成すべき注文は多いが……全て遂げてみせるとしよう」
 それでも恐怖も竦みもなく彼は往く。シラスの優れた聴覚と、音響を捉える力を巧みに用いて。されば『黒一閃』黒星 一晃(p3p004679)は、シラスの音響把握の力を更に高めてみせようか。
 ――此処は死地であればこそ底より全てを絞り出さなければなるまい。
 救助だけであればまだ良し。しかし物の怪の類の討滅も行えとは。
「面白い」
 それだけ力と信を買ってもらったと、そう思っておこうか。
 突貫せよと言われるならばそうしよう。
 あぁご照覧あれ――我々の力と意志の成す道を!


「う、うわああああ――!!」
 そして炭鉱の一角で絶叫が響き渡った――生存者の声だ。
 傍には彼らを追い立てる様に蠢いている怪王種ビストの姿もあろうか……
 蝙蝠やムカデといった姿を持つ彼らから感じるは、ただただ純粋たる殺意。
 生存者たちは食われるだろう。そして命を終えるだろう。
 ――何の救いの手も差し伸べられなかったら、だが。

「ったく……これじゃ、双竜の猟犬ってより救助犬だぜ。役目を鞍替えするつもりはないんだがな」
「なんにせよ間に合ったわ――! 無事ね!? 今助けるわ!!」

 刹那。ビスト達の真横より激しき衝撃が介入する――
 シラスにアルテミアだ。先の一晃の支援もあってか、シラスに与えられた一分間は至高へ達していようか――優れたエコロケーションが敵の位置を割り出したのだ。爆発の振動もあればこそ容易く、とはいかなかったが。それでも欠片に捉えた道筋があれば十分。
 此処に至っていたのは。探し求めていたのは彼一人ではないのだから。
 アルテミアの感情による捜索も功を成し、生存者を見つけるのは叶った。
 後は危害を加えさせぬ為に――敵を薙ぎ掃う!
「鼠さん、大手側なのです……! もう大丈夫。メイが全部治すです!
 そして、アナタ達を外まで連れて行くから安心してほしいのです!」
「お、ぉお……アンタら、救助隊か!?」
「敵は私達が引き付けます。皆さんは外へ! 此処もまだ危険ですから!」
 続け様に姿を見せたのはメイにアルテミアだ。メイは生存者を見つけてくれた鼠さんに御礼を言いながら逃がしてあげて――同時に彼らへと治癒の術を降り注がせようか。彼らの負傷を癒し、歩みの力を宿すのだ。
 ふわりと微笑み、彼らの苦痛も不安も取り除いてみせよう。
 同時にドラマは前へと出でて、敵の注意を引き付ける。
 微細な空気の振動が敵の感情をかき乱すのだ。相手をするのは此方だと。
『ギ、ィィィ、イ――!!』
「――甲高き声だ。物の怪の断末魔など、やはり耳に良いものではないな」
「とにかく、そう数は多くないね。声に気付いて他のが寄ってくる前に片付けよう!」
 さすればビストらの敵意はまず邪魔をしてきたイレギュラーズへと向こうか。
 怒りと痛みを訴える声が響き渡る――故に一晃は時を掛けずに一撃一閃。直後にはジェックの銃撃も敵陣へと襲い掛かろうか。彼女が引き金を絞り上げれば、まるで散弾銃の如く制圧射撃がビスト達を撃ち抜いていく――
 そうすれば生存者を追っていたビスト達の数は次第に減り始めようか。
 数が多くない事が幸いした。これも数多の捜索技能により素早く見つける事は叶ったが故か。
「皆さんはそこの岩陰へ。ひとまず、息を整えましょう」
「はぁ、はぁ。すまねぇ……もうダメかと思った……イレギュラーズなんだな、アンタら!」
「ええ、ええ。イレギュラーズですもの、ご安心ください。必ず守りきってみせますわ。
 ですがまだ緊張の糸は緩めませんように――どうやら悪意がまた迫っているようです」
 然らばチェレンチィはまず要救助者達を岩陰に隠して周囲の警戒を続けるものだ。暗きを見通す目を用いれば、薄暗き地も彼女にとっては昼間も同然……そして彼らを落ち着かせるべく星穹はいつでも守れるように陣を展開しつつ、微笑みと共に言の葉を紡ごう。
 彼女の言はまるで言霊の如し。織り交ぜ話せば他者の心に蕩けるように入り込もうか。
 彼らに安堵の気持ちを湧かすのだ。
 ――生存者を見つけて終わりではない。これからこそが本番なのだから。
 パニック状態のまま彼らを導く訳にはいかない。
 敵の主力は……未だ健在で、どこから襲い来るか分からぬのだから。
「とにかく水も飲んで落ち着いて。私達が来た以上、必ず守ってみせるから――」
「――待って、伏せて! 爆発が来るよ!!」
 と、その時だ。アルテミアが持ってきていた水も生存者に渡そうとすれば……
 爆発の予兆を警戒し視線を巡らせていたジェックが気付いた。
 『ソレ』が生じる、と。高熱の高まりを感じ皆に警告の声を張り上げる。
 ――直後。炸裂の音が響き渡った。
 咄嗟に誰もが身を庇ったが故に大きな負傷は無かったが正に寸での所であった……直撃すれば大きな衝撃がイレギュラーズ達を襲っていただろう。ドラマの保護なる結界が張り巡らされていても、巨大な衝撃が舞い起こればどうなるか分からない。
 ここに留まるのも危険かと移動を考えた――瞬間。
「見ろよ。うじゃうじゃ湧いてきやがった……大した数だぜ。その上デケェのも見えるな」
「アレが怪王種の頭目、ですか……!
 この道の狭間で戦うのは危険ですね、開けた場所が近くにありませんか?」
「あ、ああ。それならこの奥に、ちっとばかしデケェ作業場が……」
 シラスは強大なる殺意を感知する。
 優れた三感も新たなる怪王種の到来を素早く察知し――見据えれば、いた。
 一際多きな存在。ディトランだ。
 傍には配下の様に付き従うビストの群れもいようか。先程の、生存者に襲い掛からんとしていた連中よりも多い数が見える……ならばとドラマは彼らより情報を得るものだ。戦いに適した地へと、迅速に移る為に。

『――■■ヨ、■ネ』

 直後、来る。
 ディトランより、まるで大滝の様な殺意が。
 人間を滅さんとする濁り切った汚濁の様な意志が――其処にあったのだ。


「皆さんは隠れていて下さい。決してこの陰から出ないように……」
「えと。皆さんはそこの岩壁を背にして、ひと固まりになっててくださいです!
 絶対ぜったい、メイ達が皆さんを外に連れて行ってあげるです!」
 そして怪王種らの追撃が届く前に、開けた場所へとチェレンチィ達は到達した。
 これもやはり迅速に生存者たちを見つける事が出来、余裕があったが故だろう。もしもギリギリの発見となり切羽詰まった状況であれば、こう上手くはいかなかった――
 ともあれチェレンチィにメイは再び生存者たちを攻撃の盾になりそうな岩陰へと誘導し。
 再び『必ず守る』という意志を伝え――そして向き直る。
 敵へと。迫りくる悪意の群れへと。
「全く。これほどの数がどうして生じえたのか……解明できればいいのですが。
 ともあれまずは彼らを大人しくさせるのが先決なのでしょうね」
 故に星穹はビスト達を引き付けるべく、誘導の一手を紡ごうか。
 彼女より至るは――血の香り。濃く漂うその気配に、人への悪意の象徴たる怪王種が抗えようか――星穹は生存者達を守る為にも、あえて危険な立ち回りを行ってみせよう。ビストの群れが襲い掛かろうと臆さぬ。
 むしろ返しの一撃たる徒の花を咲き乱れさせよう。
 その命に終焉を。死と死の狭間で、彼女は舞うようにビストらと相対せん。
 同時にメイは自らに神秘を弾く術を展開し、治癒の術を巡らせようか。ビストらは、一体一体は大したことはないが数が多い――油断すれば牙が肉の内へと届きそうだ。生存者たちに流れ弾が跳ばぬ様に立ち位置にも気を付けつつ。
 そしてチェレンチィも雷を帯びた斬撃を注がせよう。
 幾閃も放ちて奔流が如く。だが彼女も前には出すぎない。
 生存者を護るべく、すぐ様に彼らの傍へと戻るのである――さすれば。
「ディトラン。どうやら奴がビストを生み出してるみたいだね。
 なら逆説的に、奴を止めれば被害の拡大も食い止められそうだ」
 生存者たちはメイらに任せ、ジェックはディトランへと攻勢を仕掛けようか。
 見える。ディトランの周囲でビストが生じるのを。
 放置していればどこまでもどこまでも生産しそうだ……故にジェックは狙い定める。まずは生まれたてのビスト達も巻き込めるように掃射。破滅の魔眼が彼女の瞳に宿ってもいれば超越した射撃は、正に針の穴を通すが如く。
 誰が逃れられようか。彼女の見据える世界から。
「なら、やっぱり狙うしかないわね――ドラマさん、行きましょう!」
「ええ。怪王種が怪王種を作るなど、厄介なコトこの上ない……! 今此処で、倒します!」
 直後。ジェックが切り開いた道へとアルテミアとドラマが駆け抜ける。
 無数に増えるビストよりもディトランを潰さねばならぬと――アルテミアは三突一閃。
 が、それだけに留まらぬ。双炎の蒼と紅が載れば『肉』が削ぎ堕ちるが如し。
「痛みを知りなさい。貴方が踏みつぶした人達も……死の痛みに苦しんだのよ!」
 悶える様に身を震わせるディトラン。迎撃なのか奴の身より骨が突き出て襲い来る。
 が、その間隙を突いてドラマが今度は襲い来るものだ。
 ディトランの足元。陰より生み出されし無数の刃が奴の態勢を崩す様に。
 そうして倒れんとした所へと――記録された『痛み』を喚び起こそう。
「陰より生まれ出でる光を知っていただきましょう。憎悪塗れの瞳に映るかは知りませんが」
 ……それにしても、とドラマは思考するものだ。
 もしかしたら生み出す、と言うよりは猪の姿は外殻。その『骨』は一種の檻で……
(多数の怪王種を内包する群体のようなモノだったりするのでしょうか――? それならば)
 殺さねばならない。今の内に、非活性な内に。奴が未だ本領でない内に!
「こんなのがどう湧いたって話だよなぁ、マジでよ」
 同時。シラスもディトランの撃を掻い潜らんとしつつ、思うのは『何故こんなのが』だ。
 ディトランは、強い。奴の骨の一つ一つは鋭利にして超速に襲い掛かってこようか。アルテミアやドラマ、シラスといった至近戦を挑む面々は奴の嵐が如き攻勢に、流石に無傷とはいかない――これほどの怪王種が潜んでいたとは。
 ……或いは、滅びのアークの増大が彼らに力を与えているのだろうか?
 時が過ぎゆくほどにイレギュラーズも力を増していると同時に。
 滅びの因子もまた闇を深く、深く堕ちていく。
 ……神託で告げられた破滅はもうそんなに遠くないのかも知れない。
「あぁ、だけどよ」
 シラスは、踏み込む。滅びの因子などに屈してなるものかと。
 例えどれ程の苦難がこれよりあろうとも。
 俺達は必ずそれを押し退けてみせる。
 ――ならば目の前のこの事件だって。
「解決出来なくちゃ嘘だぜ。なぁ!」
 骨の一閃。されどシラスは跳躍した。
 前へと。そして紡ぐ一撃は――不可視の糸。
 それは奴の動作を妨げるが如く。刹那でも隙があらば、彼は掌底の一閃へと繋げようか。
 特に奴の頭蓋へと、だ。叩き潰し打ち砕く。宿っている魂諸共、消し飛ばさんばかりに!
「戦場とは常に死神が控えるもの。まさに地獄たるこの様相……死すればそのまま土の中。三途へと近しいな。ああ、成程。悪くない戦いだ。『水辺』の音が聞こえる様だ」
 そして――一晃も往こうか。
 目の前に広がるは無数の悪鬼。時折生じる爆破やガスの到来もあらば、地獄の底にも見える。
 が。これこそが真なる戦場の気配であると感じればこそ、彼の魂は――むしろ昂ろう。
 彼は呼吸を留める。今の彼に、呼吸など不要なのだ。
 有毒なる瘴気があろうとも吸わずに済むなら是非もなし。
 彼への障害とはなりえない。
「安心しろ怪王種、終わるのは俺達ではなく貴様だ。
 安心して焼かれ灰になり土へと還るがいい!
 三銭の心配は無用だ。貴様の果てに、安楽なる地などあり得ないのだから!!」
『……■■!!』
 踏み込む。鬱陶しいビストは叩き落とし、彼の刃はただ一点のみを見据え。
「――黒一閃、黒星一晃、一筋の光と成りて、白き魔獣の骨を断つ!」
 穿つのだ。奴の身を。骨に届くまで、深く、深く。
 激しき攻防。ビストらの群れを薙ぐも、数の多さから連中の牙はイレギュラーズに届く。
 溢れる血。はたして身に纏わりついているのは返り血なのか、それとも己の血なのか。
 周囲で爆発が生じんとすればジェックやシラスの声が幾度も響き渡り。
 炸裂する石礫があろうともメイの治癒は止まず。
 星穹はビストらへと雷撃を放ちて、その死力を振り絞ろう。
「倒れませんよ、私は。ええ。どこまでもお相手しましょう」
 微かな笑みと共に星穹は在り続ける。何度でも、何度でも立ってみせよう。
 必ず生かす。死なせない。その為の盾の役目こそ、成すべき事なのだから――!
 潰す。切り裂く。妬き尽くし、滅びを与え。
 ――だがそれも永遠ではない。終わりは訪れる。
 アルテミアやドラマ、一晃らのディトランへ重ねた攻勢が――遂に――
『■ァ――ァァアア!!』
 奴の断末魔を生じさせるに至るのだ。
 それは限界を迎えんとしている証。ディトランの自慢の骨にも、亀裂が生じれば。
 奴の踵が返される――逃げるつもりか。
「させませんよ。この地を物騒にして危険極まりない地にした報い、受けてもらいましょう!」
「一気に攻めるわよッその頭蓋、砕いてみせるッ!!」
 が。チェレンチィが逃がさない。肉が削がれ、むき出しになった骨を狙い。
 彼女は紡ぐ――宝石を、だ。
 それは投擲され彼方へと届く程に。ディトランの歩みを見据えた一撃は、奴を正確に捉えよう。更にはアルテミアも骨が最も多いと思われるディトランの頭蓋を狙いて剣撃一つ――ッ!
 さすれば。
『――ガ、■、ァ、■ァアア――』
 奴の全てを、今砕いた。
 限界を迎えつつあった身……いや『骨』ではもう耐えられぬ。
 一度走った亀裂は全身へと巡り。甲高き音を立てて、崩壊していく。
「――終わった、な。お前らも無事か? よく生き延びたな」
「だけど最後のお仕事が残ってるよ――脱出しないと、ね。
 もし途中が塞がってたら頼むよ? 手伝うからさ、此処で培ったスキル活かしてね?」
「ああ任せろ! 今度はこっちが助ける番、だよな!」
 然らばシラスは一度周囲を確認するものだ。ビストの残存がいないとも限らぬ故に。
 同時に生存者たちが無事だったかも今一度確認しよう。
 後は退避するのみなのだ。崩落に気を付けつつ、ジェックは言の葉も紡ぐ。
 慣れたものだよね? 穴を掘るのはさ――と。
「……全部落ち着いたら、亡くなった方の埋葬も行いたいです、ね」
 そして最後にメイは一度振り返るものだ。
 ディトランは倒したが、犠牲者の遺体は残っている事だろう。
 ……彼らを怪王種の悪意に晒されたままにはさせられない。

 助けてみせると、心に――誓いながら。

成否

成功

MVP

黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃

状態異常

アルテミア・フィルティス(p3p001981)[重傷]
銀青の戦乙女
黒星 一晃(p3p004679)[重傷]
黒一閃
ジェック・アーロン(p3p004755)[重傷]
冠位狙撃者
チェレンチィ(p3p008318)[重傷]
暗殺流儀
星穹(p3p008330)[重傷]
約束の瓊盾

あとがき

 依頼、お疲れ様でしたイレギュラーズ。
 敵の数は多く激戦でしたが、多くのスキルを活用され生存者も多く生き残りました。
 皆さんのお力があってこそだったでしょう――

 ありがとうございました。

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