シナリオ詳細
<黄昏の園>黄金の王
オープニング
●かくして物語のページはめくられて
――ボクは世界を愛していた。愛していたから、壊してしまった。
――破壊。それがボクの力だった。触れることはすなわち壊すことだった。
――望んだわけじゃないんだ。壊したかったわけじゃない。
――けれどボクは、愛するように作られた。故に、手を伸ばさざるを得ない。
●あれを壊さなければなりません
……まずは背景を語らせてもらいたい。
覇竜領域への到達を実現したローレット・イレギュラーズは、そこに住まう亜竜種たちを仲間に加えその勢いを増していた。
そんな中、恐るべき六竜が一つクリスタラードに支配された亜竜種たちの集落を解放するというミッションがローレットへと依頼された。ヴィクトールもその一人として事案に関わったが、そんな中で遭遇したのが『黄金の王』という彼のルーツにも関わる重要な存在であった。
「『黄金の王』とは、すなわち破壊の力そのものです。長らく私の中にありましたが、亜竜集落ブラックブライアを解放する戦いの中で抜き取られ、今ではピシュニオンの森へと投下されていました」
その背景もまた、複雑怪奇なものだ。
はるか古代に存在した『黄金の王』はヴィクトールなる亜竜種の男性と出会い、そして友になった。しかし黄金の王の力は破壊そのもの。愛するほどに近づき、近づくほどに壊してしまう。
いくつもの文化を破壊した黄金の王は、己の欲望にあらがえずかつてのヴィクトールへ手を伸ばし、そして壊してしまった。
黄金の王は悲しみに暮れ、自らの全てを捨て去り代わりに友ヴィクトールの墓標よりそのネームプレートを奪ったのだった。
それから永き年月が経った今、どこにでもいるごく普通のオールドワンとして目覚めた男は持っていたネームプレートからヴィクトールを名乗り、今に至る。
それが黄金の王と同一固体であるのか、はたまた黄金の王たる心臓を埋め込まれたただの青年に過ぎないのかはわからない。
いずれにせよ、今を生きる青年ヴィクトールの精神は破壊と愛に彩られ、どうしようもないほど歪んでしまったのは事実であった。
「ヴィクトールさま。心臓のご様子は?」
散々・未散(p3p008200)が問いかけると、ゆっくりとヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)は己の胸に手を当てた。
とくんとくんと鼓動を感じる。どうやら、臓器としての心臓はこうして再生されたようだ。というより、『黄金の心臓』なるものと別に存在し、今までなりを潜めていたのかもしれない。
自分が人間になれたような、あるいは人間に落とされてしまったような感覚に、ヴィクトールは目を瞑る。
「ありますよ。ちゃんとここに」
「まあ、無ければ死んでいるだろうしな……当然と言えば当然なんだが、言われなければ意識できないのもわかる」
ジョージ・キングマン(p3p007332)が煙草をくわえ、そして隣ではマリエッタ・エーレイン(p3p010534)が頷く。
「それより、あの『黄金の王』です。私の方でも情報を集めていますが――」
「ああ、俺もだ。それらしい情報がいくつか発見できた。まずはそのすりあわせと行こうか」
●黄金の王、愛と破壊
仲間達の情報をすりあわせていくことで、ある事実が浮かび上がった。
それは、黄金の王はいま『ヘスペリデス』にいるという事実である。
ピシュニオンの森よりもさらに奥。『ラドンの罪域』を越えた先に存在している風光明媚な空間である。花々が咲き乱れるこの場所にひっそりと洞窟が存在し、そこに『黄金の王』は身を潜めているというのだ。
「奴の力は破壊そのものだ。触れただけで腕をへし折られたのは記憶に新しい」
ジョージが苦々しい表情で自分の腕に手を触れる。
マリエッタも同じような表情で頷いた。
「放置していては危険です。一刻も早く排除すべきでしょう」
「……そうですね」
ヴィクトールもその提案に同意しつつ、黙って目を伏せていた未散に視線を移した。
「どうしました、未散様?」
「――いいえ」
なんでも、と首を振る。少し怪訝に思いながらも、本人が何も言い出さないならと話を続けた。
「黄金の王への襲撃は一斉に行いましょう。ここで、決着をつけなくては……」
- <黄昏の園>黄金の王完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月09日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「このような形ですが、あえてこう言いましょう」
椅子に腰掛け、亜竜たちに囲まれ、いつでも殺されるような状態にありながら。
『魔女の騎士』散々・未散(p3p008200)は目の前に建つ『黄金の王』を見た。
「あなたさまにお逢いしとう御座いました」
黄金の王がこの地にあるという情報を聞きつけてからすぐに、未散は単独で行動を開始していた。
というより、行動を開始した未散を察知するという形で、黄金の王は彼女をヘスペリデスの洞窟前へと浚ったのであった。
名前もわからなぬ花々が咲く園の中央。歩くその姿はヴィクトールによく似ているのに、決定的に何かが違うように見える。
それはすなわち、かつて黄金の王だったものが捨てたものの全てであり、破壊と愛の化身であった。
遥か古代よりの遺物。黄金の心臓。
彼はもう一脚の椅子を置くと、そこにゆっくりと腰掛けた。
「ボクに、話があったんだってね」
「ええ――ぼくが一番興味深いのは」
目を細め、未散は想う。
「『ヴィクトールさま』……彼れは、首を跳ねれば、心臓を穿てば、手足を捥いで転がして置けば――死にますか?」
何を言わんとしているのかを察してか、黄金の王は足を組む。そして数秒の沈黙の間未散の瞳をのぞき込み、言った。
「死ぬさ。今の彼は、ぼくの理想だ。ただの人間。弱くて小さくて、きっと何も壊せやしない。生きて死ぬ存在。ねえ、そんな存在って――素晴らしいと思わないかい?」
「…………」
未散は目を閉じた。
「彼を看取るつもりだったのかい?」
「それも一興かと」
「冷たいんだね。愛していないのかな」
「さあ――世界は、愛の有無では別てませんから」
「そうなのかな。ボクには、その二つしかなかったけれど。要するに、壊れるか、壊れないかだ」
ぴくり、と未散の指が動く。それよりも早く『察知』していたのだろう。黄金の王は椅子から立ち上がった。
「きみを今ここで壊しても良かった」
「そうはなりません。ほら、あなたさまを壊さんとする足音が聴こえる」
血によって生まれた刃と闇の刃が交差し、回転し、飛来する。
花園へと突き刺さったそれは花弁を派手に舞い上げる。
刃こそは、黄金の王によってはねのけられた。
「自らそう望んだわけでもなく、そう有れかしと定められたか? なんつーか、やるせねーな」
舞い散る花弁の向こうから、『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)が歩いてくる。手にした大鎌をくるりと回すと、彼は漆黒の刃を鈍く光らせた。
「黄金の王。存在そのものが破壊、在るだけで周囲を破壊し尽くし命を奪う。
愛ゆえに……と。全く、とんでもない。悲しみがあるなら加減を…いえ、加減さえ加減にならないと」
一方で、血で出来た大鎌をくるりと回して『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は歩いてくる。
「ならば、私があなたに出来ることはその力を奪うこと。
黄金の王。死血の魔女が貴方からその力を血と命と共に奪ってあげましょう」
その左右には、イレギュラーズ達がずらりと並んでいる。
(愛したいのであって壊したくないのに、愛すると壊してしまう……という事か。
それは意図された性質なのか、それとも事故なのか。
もし黄金の王の作者が存在するならば、作られた彼を見て何を思うのか。
そんな業を背負ってしまえば先に壊れるのは彼の心ではないか?)
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は色々なことを考えてから、ぎゅっと拳を握りしめた。
彼にとってはすべてが楽器だ。ザッと土を踏みしめた足が高く奏でた美しい音色へと変わる。
「彼の前に立てる人間はそう多くはなさそうだ。故に俺達が行くしかないのだろう」
「まあ、そういうことだな。なにせ冗談みたいな存在だ」
『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)は以前へし折られた骨のことを思い出してため息をついた。
「だがそれでも、対応できる範囲の怪物。
この程度で止まる訳にはいかないな。
そういう、怪物に相対するために磨き続けた力だ。今度こそ、ここで止める!」
(破壊を司るが故に、その宿業から逃れる事が出来ない。
まるで、己が司るモノに縛られる神のソレだな。
――同情はすれども、だからといって見逃すつもりは無い)
『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)も彼らの横に並び、妖刀『愛染童子餓慈郎』を抜刀。刀身が怪しく光る。
「さて。それでは、死力を尽くして"手伝う"としようか」
「その通りですね。死力を尽くした『お手伝い』……」
『愛し人が為』水天宮 妙見子(p3p010644)は微笑み、そして自らの力のフィールドを拡大していく。仲間に炎の狐耳や尾が生まれていく。
「このような美しい場所を戦場にするのは心苦しいですが…そうも言ってられませんね。
黄金の王、私と同じ破壊を司るものですか。本当に、妙見子と同じ……なんと哀れなんでしょう。
そういう星の下に生まれてしまったのですからお気持ちはとってもわかりますよ♡ お互い苦労致しますね♡」
握った鉄扇を開き、身構える。
「でも同情はしません、貴方はここで潰します」
「私は、思い出しました――いえ、初めから『私』は無かったのかもしれません。
ヴィクトールという人間は、存在しなかった。黄金の王と、『ヴィクトール』がいて」
花園を踏んで歩く。
彼の名は、『毀金』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)。
奪った名前。奪われた躰。
そんな偽物だらけの自分でも。
いま、確かにここに立っている。
「……ずっと睡っていたかった、目覚めるつもりなどなかったのでしょう?
ならば、その願いを叶えましょう。ならば、その眠りを与えましょう」
あの日引きずり出されることさえなければ、きっと出会うことだってなかった。
「それが本来、睡っているはずの貴方を起こしてしまった、私の償いです」
「それが叶うなら。止めてほしい――ぼくが愛することさえも」
ヴィクトールが走り出す。
黄金の王が走り出す。
二人はそして、激突する。
●
黄金の槍を握りしめ、相手の足を払いにかかるヴィクトール。黄金の王はそれを跳躍によって交わし、開いた手のひらをヴィクトールの顔面へと翳す。
「同じ手は食わさん」
がしり、とジョージがその手首を横から掴みとり黄金の王を投げ飛ばした。
「気をつけろ。腕や足を掴まれただけでへし折られる。顔面などどうなるかわからんぞ」
「感謝します。追撃を」
ヴィクトールが更なる攻撃をしかけようと地面を槍でつくと、黄金の王は素早く転がりそれを回避。花を散らしながら滑り、ヴィクトールたちへと微笑んだ。
「――ッ!」
両腕をクロスさせ、ジョージは黄金の王から向けられた愛情(衝撃)を防御した。
びきびきと全身を軋ませる感覚を、歯を食いしばってこらえる。
「壊したいなら、俺を壊してみろ。今度は、そう簡単には崩れないからな」
そう呟くジョージには青い炎でできた狐の尻尾が生えていた。そう、妙見子による支援である。
「今回盾役のお二人には苦労をおかけすると思いますので少しでもご支援を……!」
鉄扇で大きく風を起こすように舞う妙見子。
舞いによって完成した術式によって、ジョージの軋む身体は徐々に痛みを和らげていった。
イズマがその様子を観察し、表情を険しくする。
「二人だけで抑え込めそうか?」
「であれば八人も投入しませんよ」
「だな、その通りだ!」
二人は苦笑し合い、そして妙見子は更なる回復を、イズマは支援攻撃に集中する。
「黄金の王を破壊する。相手の破壊力は凄まじいが、俺達とて負けはしない。やられる前にやる……!」
キキキンッと小気味よい効果音が彼の足音を変換して鳴り響き、空を穿つ拳の音が轟音のように鳴り響く。
「この距離なら――!」
振り抜いた拳から黄金の王までは40m近い距離がある。にも関わらず、遠隔で『炸裂』した音楽が黄金の王を包み込んだ。
振り向こうとした黄金の王。その首がびきりと石膏のように固まり、一瞬だが動きを阻む。すぐに硬化状態は解かれたが、一瞬の硬直はこちらが猛攻を浴びせるに充分な隙であった。
「破壊の力を止める為に、破壊の力を行使する。何とも皮肉なものだな……!」
汰磨羈は突進すると『破禳・無影刋月』を繰り出した。
火行と金行のマナを極限まで高め、身体のリミットを一時的に外して放つという鋭利瞬撃の技である。
溶けた鉄のような香りと共に繰り出された斬撃が、咄嗟に翳した黄金の王の腕へと刺さる。ざくりと指の間を通り腕を切り裂いて行く刀。反撃にと突き出された手のひらから、しかし汰磨羈は素早く飛び退いた。
「ご安心を、此の美しい花園に、あなたさまは埋まるのです」
未散の魔術が解き放たれ、黄金の王を一瞬ノックバックさせる。
マリエッタとクウハが飛び込んだのはそのタイミングだ。
「ここまでやってやり切れるかも分かりませんが、とにかく攻撃をぶつけて行きましょう!」
「それしかない、か!」
血によって作られた大鎌が黄金の王へと引っかけられ、クウハの放つ漆黒の大鎌もまた逆向きからひっかけられる。
二人の力で刈り取られたのは黄金の王の上半身であった。
ざくんと途中から切断され、くるくると回って地面へ落ちる。断面には奇妙なことに、深い闇だけがあった。
(自身で力の制御も出来ず、あたり構わず暴威を振るう。存在自体が災害だ。
一生引きこもっててくれるんならいいが、そうでもないなら殺すしかない。
だが、だからといって悪とも言い難い。
自ら望んだわけでも無く、愛した者を害しちまうのは苦しかろう。
まあ、俺自身の感想でしかないが……)
やっただろうか。そんな風に感じながら、クウハはその断面を覗き込んでいた。
『俺のせいで周りの奴らを死なせるぐらいならいっそ死んだ方がマシだ』。そんな考えを彼はずっと持っている。
「なあ、黄金の王。オマエはどうだ?」
「さあ、もう忘れてしまったよ」
どこか嘘吐きめいた口調で、上半身が語る。そして次の瞬間、周囲を黄金の光が薙いだ。
死んだか? クウハは一瞬だけ思ったが、事実はそうではなかった。
紙一重のところでかわしきり、吹き飛ばされ、花咲く地面を転がっていた。
「って、おい! 身体を上下に切り取ったらさすがに死んどけ!」
「人の形をしているだけの怪物……なのでしょうね」
マリエッタがまるでよくわかっていますよとでも言うような口調で、自らの切れた腹を押さえた。だくだくと流れる血が全て剣へと変わっていく。
一方で、上下をくっつけ直した黄金の王は自らの背後に無数の剣を作り出していた。
「貴方の苦痛…これで最期になるといいですね。
魂まで奪うのは私ではない。貴方はその軛から解放され、愛するものと……どうか、共に」
マリエッタはそう唱えると、黄金の王が放つ剣に対抗するように大量の剣を自らの血と共に解き放った。
その多くは空中で激突し、クウハは漆黒の鎌を振りかざす。
強烈に、かつ瞬時にため込んだエネルギーが爆発し黄金の王へと発射され、大量の剣をへし折りながら迫る。
翳した手はその衝撃をつかみ取り、右手と共に吹き飛んでいった。
「ここから一気に畳みかけます!」
妙見子は鉄扇をぎゅっと畳むと突進。
放たれた剣がいくつも刺さるが、構わないとばかりに距離を詰めて至近距離から青い炎を解き放った。
愛と破壊の力。その共感を、叫ぶかのように。
炎は黄金の王を貫くが、しかし彼の視線が妙見子へと向き、そして微笑みが向けられる。
愛情(衝撃)が走り地面がえぐれ、妙見子はその身体もろとも吹き飛ばされる。
空中を回転する彼女をフォロしようと振り返るイズマだが、彼女から向けられた視線は『行け』だ。
「――分かった! ジョージ、汰磨羈! 押さえ込むぞ!」
イズマはダメージ覚悟で突っ込むと、開いた手のひらに魔力を溜め込み黄金の王の首を掴む。そのまま強引に押し倒すと、汰磨羈がすかさず刀を黄金の王の腕に突き刺した。地面にピン留めするような形でだ。
「お前が何であろうと関係ない。壊し合うことすら、お前には楽しいかもしれないが――!」
ジョージのスタンピングがもう一方の腕を襲う。
押さえ込みは充分すぎるほどに充分だ。
駆け寄る未散。振りかざした刀に魔力を込めると、思い切り黄金の王の足へと突き立てる。
「ぼくが『お姫様』だったなら、屹度ぼく等はお似合いだった。
けれど、……――王とは、孤独な生き物に御座います。
そして、『王さま』はふたりは要らないのですよ」
次の瞬間、黄金の光が再び周囲を薙ぎ、汰磨羈たちが吹き飛ばされる。
だが、地面を片手で突いて器用に回転し、すたんと両足から着地した汰磨羈の表情には余裕があった。
「ヴィクトール、後は御主に託す」
「ああ、奴を踏みつけた感覚でわかった。奴は……もう限界だ」
「それは、一体?」
小首をかしげるヴィクトールに、汰磨羈は苦笑を交えて答えた。
「こう表現したら伝わるか? 奴は『自分自身も愛していた』んだよ」
「…………」
それに同意するように、黙って眼鏡のブリッジを指で押すジョージ。
未散を振り返ると、こくんと深く頷いた。
「ヴィクトールさん。言い方は変だが……これもあなたの身から出たものだ。俺たちは、ここで見守る」
イズマがゆっくりと立ち上がり、ヴィクトールの背をトンと叩いた。
「私は、貴方の願いを叶えに来ました」
槍をあえて手放して、ヴィクトールは手をかざす。
一方で、黄金の王はゆっくりと立ち上がった。
「今度こそ目覚めることのない眠りを、朽ちることのない黄金に与えましょう――」
器だったものは言う。
「おやすみなさい――ボク」
力だったものは言う。
「できるものなら――私」
踏み込む一瞬は同じ。
突き出す腕も、また同じだった。
ヴィクトールの手刀は黄金の王の胸を貫き、ひんやりとした心臓の形をした何かに触れる。
一方で黄金の王の手はヴィクトールの腹を貫き、そのやわらかい臓腑に触れた。
その一瞬、確かに『噛み合った』気がした。ヴィクトールの器の中に確かにあった、あるいは残っていた、もしくは少しだけ貸し与えられた力が、黄金の輝きを持って爆発したのだ。
「キミは、これからただの人間として生きていくんだね。
人を愛したり、憎んだり、怒りや悲しみに苛まれ。
老いて、怪我をして、病に苦しみ。
人として、いつか死んでいくんだ」
黄金の王が、目を細める。
「嗚呼、なんて――羨ましい」
黄金の雨がぱらぱらと降り注ぐ。
花の散った、花園の真ん中。
ヴィクトールは手をかざし、自分の中にほんのかすかに力があることを実感した。
けれど、きっと『彼』は望まないだろう。全てを愛してしまうことも、故に壊してしまう運命も。
だって、彼はそのために捨てたのだから。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――『黄金の王』は消滅しました
GMコメント
ヘスペリデスへと突入し、とある洞窟に潜んでいるという『黄金の王』へ挑みましょう。
相手は愛と破壊の権化。おそらく苛烈な戦いになることでしょう。充分に準備して挑んでください。
●黄金の王と花咲く園
洞窟のすぐそばがおそらく戦場になるでしょう。
そこには美しい花が咲き乱れ、青い空が広がっています。
木々もまばらに立っており、黄金の王はその中で悠然と存在しています。
戦闘力は凄まじく、ただ微笑みかけただけで破壊の衝撃が走ったり、触れただけで骨をへし折ったりという異常な強さが報告されています。
ですが能力は破壊に偏っており、こちらからも強力な攻撃を連発することで戦いを短縮することができるのではないかと言われています。
●特殊判定:散々未散
このシナリオに散々・未散(p3p008200)が参加した場合、特殊なプレイングをかけることができます。
プレイング冒頭で『黄金の王に対話する』と記載した場合、単独で洞窟へと赴き、その過程で黄金の王に信奉する亜竜に浚われるという形で黄金の王と一対一で対話することができます。
その後仲間の到着によって救出され通常通り戦闘に加わることになるでしょう。(依頼の成否への影響はないものとします)
また、対話を選択しなかった場合や参加しなかった場合はこのイベントは発生しません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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