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シナリオ詳細

それは【はく】氷を歩むように

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 あたたかい、という感覚を知ったのは境界案内人になってからだった。
 人の姿をとる前に、私は鏡だったから。ひび割れ続け、人の心を芯まで冷やす悪魔の鏡。
「あ……おや…?」
 薄目を開けると、見慣れた天井。僕の手を優しく握り、ベッドの傍らで静かに私を看ている。
「無理に起き上がらなくて大丈夫だよ」
「でも、ずっと…謝りたくて。僕、ずっと蒼矢を殺そうとしてた。何度も助けてくれたのに、ひどい事ばかり……」
 目頭が熱くなる。一度あふれ出した涙はもう止まらない。ぼろぼろと流れゆくそれを、蒼矢は指先で拭ってくれた。
「大丈夫。ちゃんとわかってるよ。全部聞いてあげるから。黄沙羅が元気になるまで、傍にいるから」
「……っ、…ありがとう…」

―――。

 黄沙羅と蒼矢のやり取りをドア越しに眺めていた赤斗は、そっと部屋の扉を閉めた。
 一息ついた後、足早に歩きだす。
「どこに行くの?」
 その背中に声をかけたのは、同じく境界案内人のロベリアだ。
「野暮用」
 振り返らずぶっきらぼうに返す赤斗に彼女は思わず眉をひそめる。同僚として普段接している赤斗からは想像もできないような無愛想。それほどに怒ってるのだろうと悟り、どう話したものかとため息をつく。
「魔術師グリムを倒しに行くのだとしたら、独りで行くのは危険よ。黄沙羅と蒼矢が襲われたの、報告書で知っているでしょう?」
「だからって大人しくしたままでいられるかよ。身内が死にかけたんだぞ!!」
「……赤斗」
「止めてくれるなよロベリア。誰が何と言おうと俺はグリムってやつの横っツラに一発くれてやる。でなきゃ怒りが収まらねェ!」
「そう。なら早速、特異運命座標を呼びましょう。相談期間は長めにとって、それから――」
 今度は赤斗の方が驚く番だった。ごく当たり前の様に立ち回りを考え始めるロベリアの姿に目を見開く。
「お前さん、どういうつもりだ?」
「ついて行くつもりよ。苗字が神郷じゃないからって、私が身内じゃないと言うなら心外だわ」

――そう。悪辣なる黒の聖女ですらグリムへ静かな怒りを燃やしているのだ。自分のオモチャに手を出す者を、彼女は絶対に許さない。


 魔術師グリムーー表向きはそう名乗っている。グリム=リーパー(死神)なんて不吉な名前で近づいたら、警戒されてしまうから。
 そんなの勿体ないじゃないか。私はただ、物語の世界に暮らす人々に力を与えてあげているというだけなのに!

 物語の登場人物は、いつだって役割が決まっている。シンデレラは継母に虐められるし、ピノキオは嘘をついた罰を受ける。
 弱い立場の子を助けるには、物語の円環を外れた外部要因によって力を与えてあげるしかないんだよ。

……もっとも、私が与えられるのは『滅びの力』のみだけどね。

『やめテ…モウ要らなイ……こんナ、化け物みたいなチカラ……!』
「最初に力を求めたのは君だよ、雪の女王。……さあ、共に殺そう! 特異運命座標を、世界のすべてを!!」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 魔術師グリム戦、開幕となりました。

●あらすじ
 境界世界で境界案内人の神郷 蒼矢と神郷 黄沙羅が命を狙われ、境界図書館で療養しなければならない事態に。
 事件の黒幕は魔術師グリムという男で、それを知った案内人仲間の神郷 赤斗とロベリアは反撃のために特異運命座標を呼び出したようです。

 ライブノベル「信号はずっと【き】色のままで」が前日譚となりますが、読まなくても問題なくお楽しみいただけます。

●目標
 雪の女王と魔術師グリムの撃破

 純戦です。雪の女王はこの境界世界の重要な登場人物となるため、倒すつもりで挑んでも死にはしないだろうというのが境界案内人の見解です。
 物語を歪めた元凶と、暴走状態の登場人物を倒して正常に戻しましょう。

●異世界『異説・雪の女王』について
 境界世界を殺す者グリム・リーパーに魅入られ、滅びの道を辿ろうとしている世界です。戦場は氷の宮殿。天井は高く広さも戦うには充分。柱などの遮蔽物があります。

●エネミー情報
 雪の女王×1
  「寒イ…苦シイ……どうしテ…」
   魔術師グリムに滅びの力を注がれ、暴走状態になっています。皆さんを見つければ、惜しみなく憎悪をぶつけて来る事でしょう。
   神秘系の中~遠範に【氷結】する「吹雪」、物理系の至~近単に【業火】の「青炎の氷矢」を放ちます。
 
 雪の眷属×30
  雪の女王をぐるりと囲むように位置取り、特異運命座標へ牙を剥く狼達。物理・至近の「噛みつき」攻撃をしてきます。
  1匹の攻撃力はそこまで大した事はありませんが、群れる性質があり、標的を4匹程度で囲もうとしてくるため注意が必要です。
  雪の女王が倒れると無力化できます。

 魔術師グリム×1
  「君達には分かるまい。無力な者の苦しみが! 私の行いは、いつだって正しい」
   真名はグリム・リーパー。すらっとした体躯で黒い刃の大鎌を担ぎ、フードで顔を隠した人物。【麻痺】や【呪殺】を扱い近~中距離戦に秀でていると噂されています。
   一定のダメージを受けると逃げる行動をとるようです。

●友軍情報
 『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)
  「俺達は家族みてぇなもんだ。泣かせる奴は泣かせ返す!」
  皆さんに依頼をした境界案内人。近接・物理攻撃に優れ、並の剣士ぐらいの戦闘力はある模様。若干、頭に血がのぼりすぎている様にも見えます。
  グリムを一発ブン殴りに行く予定ですが、指示があれば従います。

 『境界案内人』ロベリア=カーネイジ
  「とりあえず、100回殺してみるところから始めましょう?」
  加勢に来た境界案内人。グリムと蒼矢を繋ぐ呪いを断絶する結界を張り、回復魔法での支援を行います。

●その他
 この依頼の情報精度はBです。依頼人の言葉に嘘はありませんが、不明な点もあります。
 説明は以上となります。それでは、よい旅路を!

  • それは【はく】氷を歩むように完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年05月11日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
杜里 ちぐさ(p3p010035)
明日を希う猫又情報屋

リプレイ


「宮殿の中でも、結局のところ案内役はこいつらなのか」

 自分の周りをぽいんぽいんと人懐っこく跳ね回る掌サイズの雪だるま――虚無達磨たちを見下ろして、なんとも言えない表情をする『陰性』回言 世界(p3p007315)。その理由を知らない『少年猫又』杜里 ちぐさ(p3p010035)は、不思議そうに首を傾げた。

「世界は虚無達磨が嫌いなのにゃ?」
「嫌いというか、見るたびにシャイネンぼっちのトラウマが蘇ってだな」

 依頼だからと、シャイネンナハトにひとりぼっちで延々と雪だるまを作らされたトラウマは未だ癒えきっていない。胃のあたりを押さえる彼の横を、すーっと魔術で浮かんだロベリアが通り過ぎる。

「この扉の先に強い悪意を感じるわ。いるわね……彼が」
「ロベリア殿、さがっていてくれ。扉に罠が仕掛けられているかも分からない」

 壁や柱、室内を彩るシャンデリアに至るまで、全てが雪で構成された女王の住処は、ゾッとするような美しさと溶けて消えそうな儚さを併せ持つ。
 つまるところ、全て"狂わされている女王陛下"が操れても何らおかしくは無い。まるで敵の胃の中にいるような心地だと、『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は警戒しながら扉を開けた。
 開かれた扉の先は王家の者に相応しく、贅を尽くした大広間。だが玉座に座っているのは"この世界の者"ではない。

「魔術師グリム……!」

『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)が名を呼ぶと、フードの男は緩慢な動作で立ち上がった。

「焦がれていたよ、特異運命座標。春を待つ娘の様に! まずは君達が私の元へ辿り着けた奇跡を喜ぼう」
「何が奇跡だ、アンタが追い詰められたのは必然なんだよ」

 売り言葉をキッチリ買って、世界が幻術によって美しき矛を生成する。ウェポン=シタデルに対抗する様に、グリムは虚空から身の丈ほどの大鎌を取り出した。

「挑もうというのかい? 私は正しい行いをしているというのに」
「正しい行い?」

 赤斗が睨むと同時、グリムは大鎌で大気を割く。次元が裂けたように空間へと亀裂が走り、そこから這い出す雪の群れ。誰も彼もがインクを煮詰めた様な黒い液体に塗れ、苦し気な呻き声をあげている。その中でいっとう大きく悍ましい姿があった。――雪の女王だ。

『寒イ…苦シイ……助けテ…』
「こんな…こんな事が『正しい』はずがありません!」

 力強く否定の言葉をぶつける睦月に、グリムは薄ら笑いを止めて真顔になる。

「希望に満ちた君達には理解できない事だ。文句があるなら止めてみせろ」

 玉座の間に殺意が膨れ上がる。お話はここまでだとばかりに、襲い来る雪の眷属達。その先の死神を見据えて彼女は叫ぶ。

「僕は冬宮・寒櫻院・睦月。荒神の祭具であった者。司どるは戦勝――そう、勝利です。
 僕たちが来たからには、あなたには敗北しかないとお考え下さい。いきますよ!」


 かくて戦いの火蓋は切って落とされた。
「まずは雑魚を散らす。合わせられるか?」
「任せてくれ世界殿」

 呪念と鉛が乱れ飛ぶ。世界のネイリング・ディザスターが飛び掛かる雪の眷属を穿ち、その奥に控える者達をアーマデルのジャミル・タクティールが掃討をもって美しき恐怖劇へと誘う。
 辺りへ飛び散る鮮血に、睦月は思わず喉を押さえた。

「――っ!」
「睦月、大丈夫にゃ!?」
「ッ…ありがとうございます、ちぐささん」

 平気ですから、と微笑んでみせる睦月だが、その顔色は優れない。ちぐさは気づいた。彼女は重症をおしてこの戦場に立っている。おまけにその身体には烙印までも刻まれているのだ。飢餓による発作と理性がせめぎあい、その衝動に負けるものかとピューピルシールの印を切る。左腕を封じられ怒り狂う雪の"女王"から、睦月は目を離せない。

(烙印がジクジク痛む。でも、絶対に負けられない!)
(長期戦は危ないにゃ。ここは火力で押し切るにゃ!)

 雪の女王が吹雪を放ち、華奢な身体を攻め立てる。それでもちぐさは歩みを止めない。
 狙うは足元。急所は狙わず動きを止めようと、土壁を現し彼女を四方から取り囲む。

「いくにゃ、ベリアル・インパクト!!」
『ゴメンナサイ…違ウノ、私…私ハ…!』

 ずずぅん! と土が降る。その中から這い出る雪の女王は、狂気の色を瞳に宿して氷の矢を降り注ぐ。

「攻撃、効いてるはずなのに…無茶な戦い方をしてくるにゃ!?」
「雪の女王は確か永遠の命を持ってるんだったか。ありがたいことじゃないか。
 俺なんて常に一つしかない命をやり繰りして何とか生きてきてるんだからよ。できればその命をいくつか分けて欲しいもんだぜ」

 世界が皮肉と共にちぐさを庇った。守護させていた矛が矢を打ち払い、女王へ反撃の棘を撃ち返す!
 十全には矢を裁き切れず、肩を負傷した世界はすぐロベリアの方へとさがる。治療を受ける彼の呻きを背後に、ちぐさとアーマデルは動きの鈍った女王――の先へ踏み込んだ。

「雪の女王、なんだか苦しそうなのにゃ…。グリムがどうしてこんな事をするかは分からないけど、ひとを泣かせたり苦しませたりするのはダメにゃ!」
「嗚呼。ヒトがヒトに与えていいチカラは餅、即ち力うどんの『ちから』くらいだ」
「おうどん美味しそうなのにゃ!?」
「加えて言うなら、それ以外の『力が…欲しいか…』は全て詐欺。そう解して差支えない」
「ためになる豆知識でたにゃ!」

 情報屋志望としては、ぜひ抑えておきたいポイントである。メモしたい誘惑から思いとどまり、バロックディストーションでグリムの鎌を歪ませようと魔力を放つ。

「急所を狙うつもりはないのかい? 小手先だけでは私は倒せないよ。…君達がくれた『挨拶』はなかなかに傷んだがね」

 ローブから覗いた腕に蛇腹剣の切り傷が見える。人魚姫の異世界で、蒼矢が受けた物と同じ傷だ。アーマデルは威嚇するように剣を奮い英霊残響:妄執で霊達をけしかける。

「誰にとっても『正しい』ことなど、ありはしない。ヒトは勿論、神ですら完璧ではない」
「いいや、私は『いつでも正しい』。ヒト如きの価値観では理解できない範疇だろうが」
「随分な慢心だな。いや……」

 黙り込んだアーマデルが跳躍して退く。違和感を感じた睦月は眉を寄せた。

「どうしたんですか、アーマデルさん」
「グリム殿の言葉は、俺達に向けたものではないのかもしれない」

 自我と自我が遭遇すれば、そこには『自分にとって正しくても、相手にとっては正しくないもの』が生じる。誰にとっても『正しい』ことなど、ありはしない――が、この男は理解した上で口にしている。

――Grim Reaper、死神を表すことば。
――それは我が神、死神(ししん)とは似て異なるもの。

「彼は誤りを理解している。その上で自己催眠をかけているんだ」
「じゃあ彼は、自分が間違ってる事を知っていてこんな非道を?」
「開き直ってるだけかよ。タチ悪ぃな」

 睦月がはっとする横で、とうとう最後の雪の眷属へ世界がとどめを刺した。残るはグリムと雪の女王。しかし此方も前のめりの戦法だ。仲間の――特に赤斗の消耗が激しい。

「無理すんなよ赤斗、ロベリアを守って下がっとけよ」
「退けねぇ」

 蒼矢が黄沙羅を助けて境界案内人にした。そんな大事な話も立ち聞きして知る始末だ。家族だと思っていたのに、いつも自分は蚊帳の外。

「確かに俺は、蒼矢の要らねぇ部分を切り離して創られた存在だけどよ。そんなに頼りねぇかよ…!」
「要はやつ当たりにゃ? でも…僕は蒼矢のお兄ちゃんにゃ。つまり、赤斗や黄沙羅のお兄ちゃんでもあるのにゃ!」

 大切な人がそばにいるのに、守れない苦しみ。それは長い年月を生きたちぐさにも理解ができた。雪の女王の吹雪を受けて、身を切る様な痛みの中でも神秘の力を手にため込む。炸裂するベリアルインパクト! 間近に食らった女王が、ズンーーとその場に膝をつく。

「ここはお兄ちゃんに任せるにゃ! 赤斗のやりたい事を、僕は応援するのにゃ!」
「ッ…ありがとう、ちぐさ!」

 駆け出す赤斗。雪の女王は足止めや封印の積み重ねで、動きが鈍りきっている。

(潮時、だな――)

 ひしゃげた鎌で次元を引き裂き別の世界へ渡ろうとするグリム。その足元で封印の一撃が爆ぜた。

「ちぃッ! 戦神の…!」
「グリム、あなたの行いは、たしかに誰かを救うかもしれません。そこは認めましょう。
…だけど同じくらい、その人自身が持つ『幸福になる可能性』を奪っている!」

 身体が震える。"女王の主人に盾突く行為"だ。それでも睦月は譲らない。目の前の男は、自己暗示で責任から逃げている。

「恩寵なんてなくったって、人は立ち上がることができるんです。何度だって。それが僕が混沌で、境界で、得た知見です!」
「黙れ…」
「可能性の否定を僕は許さない。僕は特異運命座標。可能性の道標です!」
「黙れ黙れッ! 可能性?奇跡?そんな物で簡単に絶望は覆らない。死神として…命を奪う事でしか生きれない私を、救えもしない癖に!」

「それがグリム殿の本音か」

 背後から声がかかり、グリムがはっとする。振り向く隙は与えないと英霊達をけしかけるアーマデル。怨嗟が響き姿を捉え、拳を振り上げる赤斗へ叫んだ。

「赤斗殿、今だ!」
「うおおおぉ!」
「おい、待っ――」

 世界が何かに気付き、声をかけようとした頃には遅かった。ガッ! と頬に重めの一撃を受けてのけ反るグリム。その後ろには、いかにも固そうな氷像が飾られていた。
――ガツン!!

「「あっ」」

 何人かの声が重なる。雪の女王とその眷属に纏わりついていた黒いインクが剥がれ落ち、灰と化して消えていく。おぞましさが抜け、元の姿を取り戻していく物語の住民達。頭から血を流して気を失うグリムへ治療を施しながら、ロベリアは仲間達を見まわした。

「それで……どうするのよコレ。とりあえず、縄で縛って境界図書館にでも連れて行く?」

成否

成功

状態異常

なし

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