PandoraPartyProject

シナリオ詳細

「それ」と呼ばれたフェアリーテイル

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●依頼
「かわいそうに……」
 依頼書をフーガ・リリオ (p3p010595)の視線が一撫でする。そして、内容を拒むように陶器のカップへ手をかける。薄い白磁は花びらのよう、だが手の中のぬくもりへ、フーガはさらに憂鬱な顔になった。
まっしろなテーブルクロスの奥、向かいの椅子ではフルール プリュニエ (p3p002501)とルミエール・ローズブレイド (p3p002902)が咲き誇っている。
全身に花を飾ったフルールは美しかった。
「今日も」を付けるべきだろうか。乙女は常に心を奪う。
 そんな彼女に魅了されたルミエール。彼女はフルールの頬へ接吻した。間近でくすくすと笑いあう乙女たちには理解できない。この依頼の、なにがどうして、かわいそうなのか。
「思うがままに愛して、思うがままに愛されて」
「それだけでしょう? 心のままに生きてくたばるだけではないかしら」
「不満など入るスキもないわね」
「何の話だ?」
横からひょいとクッキーをつまんだクウハ (p3p010695)が、音を立ててそれをかじりながら依頼書を斜め読みする。
「あー、そういう依頼。はいはい」
「どういう依頼だい、我(アタシ)の猫」
 窓際の花瓶へネモフィラを活けていた武器商人 (p3p001107)がゆるりと声をかける。クウハは依頼書を取り上げ、読み上げようとしたところを夢野 幸潮 (p3p010573)に奪われた。
「おお、哀れなるかな、狂気に陥った精霊たちよ! 生まれた育った泉を捨て、共に遊んだ森を捨て、村へゆらゆらと前進中だとさ。犠牲者がすでにひとり、アーネストという若い男らしいぜ。嫁のマチルダが、亭主がなぶり殺されていくのを見捨てて、村へ逃げ込み、村長へ惨状を訴えたらしいわー」
「アーネスト、アーネスト、正直者のアーネスト、ッテカ?」
 赤羽が歌うようにつぶやき、大地が無愛想に首肯する。彼はテーブルへ手を伸ばし、依頼書の補足を取った。
「死亡したのは純朴な木こりの青年といったところだな。精霊たちによって殺されたらしい。死体を発見した村人が、大慌てでこの依頼書を作ったようだな」
赤羽・大地 (p3p004151)はふたりでひとり。体はひとつ、魂は2つ。つながるは首。つながったは魂。
 ふむと武器商人は火野・彩陽 (p3p010663)を見た。
「どう思う?」
「依頼書っつうもんは、依頼人の視点から書かれてることが多いですやろ。じっさいのところは違うかもしれへんですわ」
 まあなにはともあれと、彩陽は続ける。
「せやけど、俺らはイレギュラーズなわけやし、ハイルールに従って目的を達成せにゃならん、すなわち」
 指をパチンと弾き、彩陽は芝居がかった口調で断言した。
「精霊たちを全滅させ、村を守ることや」

●「それ」たちの言い分
 遠い遠い昔日。
 私たちは尊敬され、大事にされていた。泉は清く、森は豊かで広かった。私達だって、もっと数がいた。森へやってくる人々と、おしゃべりをしながら朝露を飲み、霧を口にして生きてきた。
 だけれど、いつからだろう。人々が私たちを敬わなくなってきたのは。森を切り取りだしたのは。泉の水を盗むようになったのは。千を越す樹齢の木々は倒され、都というとこへ運ばれていった。大杉の断末魔を昨日のことのように覚えている。
 それでも私たちはニンゲンを信じた。彼彼女らは、いつの日か、また私たちへの慈しみを思い出してくれると信じた。動物たちへ、植物たちへ、昆虫たちへ、そう伝えてまわり、我慢するよう説得した。
 けれど、村は際限なく膨張していった。森とともに生きていた日々は遠く、今ではすっかりニンゲンにとって、ただの資源でしかなくなった。
 私たちの神秘性は損なわれ、力ないただのおんなとして狩られた。鹿のように追いまわされ、羽虫のように殺された。それでも私たちは信じていた。信じていたのよ、アーネスト、あなたがいてくれたから。
 ぼろぼろになった私たちを、あなただけが助けてくれた。あなただけが愛してくれた。もはやそんなことをしてくれる人はどこにもいなくなって久しかったけれど、素肌のぬくもりを思い出せたのはあなたのおかげ。
 私たち、端女のようにあなたへ尽くしたわ。
 私たち、恋人みたいにあなたへ微笑んだわ。
 私たち、そして、捨てられたのだわ。
 あなたは私たちをさしおいて、ニンゲンの女を娶った。
 村で一番の器量よしのマチルダ。ええ、知っているわ。彼女がまだ小さかった頃は、いっしょに花かんむりを作ったのですもの。とっておきのクローバー畑を、教えてあげたりなんかしなきゃよかった。よりによって、そこで、アーネスト、あなたはマチルダへ告白したわね。
 許せないわ、許せないの、ああ、なにもかもがよ。
 アーネスト、私たちの最後の良心。結婚後も変わらぬ忠誠を尽くす私たちを、あなたは表面だけとりつくろって、裏ではマチルダへ愚痴をこぼしていたわね。私たちはしつこいって、私たちは用済みだって。
 聞いてしまったのよ、私たち。
 すべてが色あせた。絶望の味を知った。苦いのね、痛いのね、いやなものね。もう戻れないのよ私たち。あなたたちニンゲンを愛していたあの頃へは。
 さあいきましょう、姉妹たち。ニンゲンたちを滅ぼしましょう。森を壊し、泉を汚し、私たちを売り飛ばす、ニンゲンたちを。

GMコメント

みどりです。ご指名ありがとうございました!
ニンゲンからの迫害へ耐えに耐えてきた精霊たちがブチ切れ、狂気へ身を任せましたとさ。心情付き純戦です。敵の数は多いものも、みなさんが力を合わせればどうってことありません。

やること
1)精霊たちの全滅
 ニンゲンから迫害を受け、心の拠り所にしてきた青年に裏切られたと感じ、SATSUGAIマシーンと化した精霊たちです。狂ってしまうくらいなら、森を捨てることだってできたはずなのに、そうしなかったのは、ひとえにニンゲンたちへの執着したからでしょう。
現在は村を目指して行進していますが、あなたたちの姿を認めると排除に夢中になることでしょう。

●エネミー
森の精霊✕12
 いわゆる幻想種のような姿をした、美しい乙女の姿をしています。白目がなく、目は緑に覆われています。識別付きの神自範攻撃を持ち、【流血】【苦鳴】【不運】【麻痺】などのBSを付与してきます。攻撃力、命中はほどほど、HPよりはAPのほうが高いです。
泉の精霊✕5
 森の精霊よりもさらに強力な個体です。意外とパワー系で、【防無】【必殺】【移】の乗った物中単攻撃を仕掛けてきます。また、抵抗がなかなか高く、怒りが効きにくいのが特徴です。HPAPはバランス型です。

●戦場
 村のニンゲンが森を切り開いて作った空き地です。やがて開墾され、田畑となる予定です。曇天で、ぬるい風が吹いています。雨がふって泥んこになるかもしれませんが、フレーバーであり、ペナルティはありません。

●EX 開放しておきます。字数が足らなくなった、あるいは関係者を起用したい時、お使いください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 「それ」と呼ばれたフェアリーテイル完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年05月11日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
永遠の少女
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手
フーガ・リリオ(p3p010595)
君を護る黄金百合
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ


●「それ」と呼んでたベイビーブルー
 村が燃えていた。ごうごうと音を上げて。
 焔に追われた人々が家から飛び出ては、水と空気を求めながら悲鳴をあげる。
「なんでだよう、なんでだよお、おまえら、俺たちを助けに来たんじゃないのかよお!」
 倒れた男が這いずり、『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)の細い足首をつかもうとする。その手へ、『永遠の少女』ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)のつま先がかろやかに置かれた。
「ご機嫌よう、こんにちは! 精霊達はいなくなったわ! 本当に本当に良かったわね!」
 心の底からの笑みを浮かべるルミエールの靴が、男の手の骨を砕く。男は、うめいて泥の上を転がりまわった。幸福のうめきだったのだろう。そうに違いない。乙女からこんなにも笑みを向けられて、心浮き立たない者がいるはずもないのだ。
「うれしそうですね、ルミエールおねーさん」
「ええ、ええ、もちろんよ、私のあなた。フルール、この景色、胸がすくようだわ!」
 乙女たちは戯れながら燃え落ちる村の通りを駆けていく。神気がひらめくたびに、触手がうごめくたびに、苦悶が響きわたる。それすらも歓びの種。だって、そうしているのは、そうさせているのは、かの乙女たちなのだから。蝶のはねをもぐように、ルミエールとフルールは恋に落ちる。老人の肌が焼けただれていくのも、赤子が異界の神へと捧げられていくのも、乙女たちにとっては、鈴のような笑い声のきっかけでしかない。
「この人達、今日から住むところも着るものも食べるものもないですね、ああ、でも何故でしょうか。ちっとも同情する気が起きないのは」
「泣いてすがって、醜くわめきなさいな。私たちは、蹴倒していくけれど。ねえ痛い? 苦しい? あの子達はもっと痛かった筈よ」
 ルミエールは愛くるしくこくびをかしげた。
「死なないだけ、ずっと良いのではなくて?」
 お互いのお互いの手を取りあい、フルールとルミエールは走っていく。
『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)と、『彼岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)が歩いていく。
「いやー、轟轟と燃えているな、噛合とかみあわなかったな、剛強とふるまってきたのだよ、かような仕打ちも、しかたがないわえ」
 けらけら笑いながら進む幸潮のとなりで、赤羽は鼻を鳴らし、大地は視線を伏せた。
「アーネスト、アーネスト、正直者のアーネスト。やれやレ、素直さはナ、ときに悪徳なんだゼ」
 苹果の香が鼻をくすぐり、赤羽と大地は振り返った。ゆったりとゆっくりと、『闇之雲』武器商人(p3p001107)がやってくる。こんなにも惨劇の鳴りわたる場で、こんなにも悲劇が泣きわめく所で、ソレはあくまで優雅だった。赤羽と大地は道を譲る。武器商人は通りすがりに彼らの顎をくすぐった。
「赤羽の旦那、大地の旦那。今日のことをどうするね?」
「……どうもしない。日記へ書く気も起きないやつらばかりだ。結局この村は、敬虔さを忘れ、森を食らうことで肥え太っていた。肝心の森の精霊から見放されれば、そこまでだな」
「同感、ってことにしとク」
「もちろん語り継ぐのだよ!」
 幸潮がとつぜん振り返った。
「今の我は人であるが故に、人としての話を書いてやろう。ありがたく思うがいい。この村の醜聞を、この村の悪徳を、未来永劫語り継いでやる。汝らの子孫が天を仰げぬよう……なーんてなー。ひひっ。さすがのわしもそこまではしないんじゃよ。だって、めんどくせーしー、俺が。というわけで、赤羽、大地、あとよろ」
「……いや、よろしくされねーシ」
「同感」
 赤羽と大地が苦笑する。
「まー、精霊と森を踏み台にして築き上げた砂上の楼閣やわ。崩れるもやむなしやね」
『放逐されし頭首候補』火野・彩陽(p3p010663)が武器商人の影を踏む。影から伸び上がった小さな手が彼の足にからみついた。彩陽が破顔してしゃがみこむ。
「お、かまってほしいんか? よしよし、かわえーなー、自分ら。ここらの村人と違って」
 一転、鋭い視線を周囲へやる。足を折ったらしい老婆を抱えて、一家四人が彩陽へ手を伸ばす。
「た、たすけてくれ。たのむ……たすけて」
 彩陽はかすかに唇の端をあげた。うすらさむく。
「ほんまごめんて。アンタらに罪はない、言いたいねんな。せやろなあ。アンタらにとっちゃ、精霊たちは鹿や兎みたいなもんで、狩って当たり前の存在やったんやろ。それならそれで、べつにええんとちゃう? そも人とそれ以外はそうそうたやすく相容れるもんやない。せやから俺は何もせぇへん。がんばっていきや」
 なんもかんもすべては、無駄なんやし。
 飄々とそういう彩陽へ、武器商人は優しい視線を向ける。
「精霊が狂った原因は、なんだったんだろうねぇ」
 わざとらしくつぶやいた武器商人。村人たちの喉から短い悲鳴がこぼれる。
「どうしたんだい? 我(アタシ)はただ知りたいだけなんだよ。いくらニンゲンが放っておけばどこまでもつけあがるとはいえ、ここまでひどいことはできないだろうと、もしかしたら魔種が関わっているのかもしれないと、ねぇ?」
 きれいなきれいな笑みが村人へ迫っていく。錯乱したかのように声を上げる村人。悲痛な顔をした青年が間に入った。『ふもふも』フーガ・リリオ(p3p010595)だ。
「……早くこちらへ。ここは煙に巻かれる!」
 村人たちが、天の助けとばかりにフーガへすり寄っていく。
「おい、あんまもたれかかんなよ。目の前に救いの手がありゃすがりたくもなるだろうが、もとはと言えばオマエらが原因じゃねえか」
 容赦なく現実を叩きつけるのは、『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)。
「正直なところ、オマエら村人がどうなろうと、俺様はどうでもいい」
 だがな、とクウハはあきれたように首を振った。
「ルミエールとフーガの精神状態が心配だ。それだけだ」
 村人たちが絶望を漏らす。クウハは透明な視線で彼彼女らをみやり、肩をそびやかした。
「これまでさんざん精霊共を殺してきたんだろ? たかが村人ひとりが殺されて、死なない程度に痛めつけられたぐらいで喚くんじゃねーよ。おのぞみどおり!」
 クウハはいったん言葉を区切った。
「精霊共はくたばった。……次は動物や虫共が村を滅ぼしに来るかもな? 安息の地なんてねーよ。身の振り方、考えたほうがいいんじゃね?」
「クウハ……」
「おうフーガ、ひしゃげた風船みたいなツラすんな」
「……そんなに、おいら、ひどい顔をしてる?」
「そうだな。からっぽのゴミ箱みてーだな。こう、横倒しになった感じの」
 フーガが苦笑した。ようやっとこぼれた笑みに、クウハは安心する。その顔を見たフーガは、このへそまがりで天邪鬼な友人の想いを知ったのだ。「……クウハ、気を使ってくれてありがとう。おいらは大丈夫だ。伊達に衛兵を勤めちゃいない」
 フーガは顔を上げた。胸の前で握った拳の中には、ひとひらの若葉がある。精霊たちが残した痕跡と呼ぶには、あまりに脆く儚いそれ。フーガは潤む目元を拳で拭った。
「おいらもニンゲンだ。もしかしたら、なんて、考えても詮無いことだけど、それでも思ってしまう。おいらも、この村の人達と同じようになっていたかもしれねえ。その戒めのために、そしてこれ以上精霊達を傷つけないように、おいらは絶対、今回の依頼のこと、目を背けず、忘れねえから」
「その意気だ」
 クウハはとんとフーガの胸を叩く。
「慈雨」
「あァ、わかっているとも、我(アタシ)の猫。丘の上がいい。森の新緑がよぅく見える。傷ついても傷ついても、立ち直る森の様子が、見て取れる」
 クウハがフーガへ顔を向けた。フーガは深くうなずく。
「犠牲になった精霊たちの為に、”標”を作ろう。丘の上に、さみしくないように、いつでも森を、感じられるように」
 そしてフーガは、たなごころの若葉をそっと両手で包んだ。
 武器商人が空を見上げる。
「……雨が来るよ。泪雨が」

●「それ」と呼ばれたリベンジャー
 なぜ村が燃えたのか。
 それを明かすためには、すこし映写機を巻き戻さねばなるまい。
 依頼を受けたイレギュラーズたちは、ゆらゆらと歩く彼女らを前に、陣をかまえた。
「なあ、教えてくれよ。なんだってそんなに血まみれてんだ。なんだってそんなに、殺気を隠そうともしねェんだ。なにがオマエらをそうさせた? なにがあった?」
 森の精霊がゆらりと一歩前へ出る。絹糸のようだった髪は、べっとりと血化粧をしている。
「く、くくっ」
 精霊は体を揺らした。他の精霊たちへも、ふるえは伝播していく。
「あははっ、あっははははっ! 愚かだったのよ、私たち。愛されてなどいなかったの! 時はただ流れゆき、もとへは戻らない! 黄金の時代は過ぎ去った! なのに、それでもと……思ってしまったのよ」
 思ってしまったの。しまったのよ。精霊達の間へ、波紋のようにささやきが広がっていく。支離滅裂な激白はしかし、たしかに精霊達の心の叫びだっった。
(感情を共有してやがる。同じ場所で生まれた精霊共だけあって、ねっこで繋がってんのか)
 ならば、一度怒りが効けば、他の個体もつられるはずだ。クウハの舌が火蓋を切る。
「同情はするが、これも仕事だ。仕方ねェ……」
 クウハはまずい菓子を食った直後のように顔を歪めた。
「恨みたければ、恨むがいいさ!」
 森の精霊の何人かが、きっと緑の目をクウハへ向けた。
「何がわかるものか! おまえに、おまえたちに! わかってほしいとも思わない!」
 涙を流す精霊たちに、まるで心動かされたように、それでいて本心は、ソノモノにすらわからないのに、武器商人は手をのべた。
(我(アタシ)の眷属達は優しいから、なるべく我(アタシ)が殺すことが望ましいか)
 クウハの隣に立つ武器商人は、超然として泰然自若に見える。
「さすがは私の父様ね」
 甘えてくるムスメを守るようにかきいだき、武器商人はうすく微笑む。
「正直にいってごらん、かわいいムスメ。おまえの本音はどこにあるんだい?」
「……あの可愛そうな精霊達を、父様なら」
「いいや。できないね。少なくともおまえが望むようなことはね」
 いじわる、とぽつりとつぶやいたルミエールは、一歩武器商人から離れると、心の靄を晴らすようにくるくるとターンした。美しい髪が流れ、衣装のすそが踊る。
「痛いのね、苦しいのね。憎らしくて許せないのね。私が貴女たちなら許せるかしら。いいえ、決して許しはしない」
 彼女の大粒の瞳は、痛々しいまでに純粋。
「……本当に、本当に、こんな事はしたくないのだけれど。それでも私くらいは、貴女達の狂気を肯定しましょう。心のままに暴れ、殺すといいわ」 くるり。最後のターンを終えた彼女は、ひたと精霊達を見据えた。
「それができるものならね?」
 夢の劇場が開幕のベルを鳴らす。嘲笑うニンゲンたちの姿は、精霊達の心をひび割れさせた。
「あああ! 憎い、にくい、悪(にく)い、難(にく)い! 度し難い、それでもなお! 私たち、あなた達を愛してた!」
 泣き叫ぶ精霊達へ、フルールが両手を広げる。
「可愛い可愛い精霊さん。こんなに起こるなんて、きっと酷いことをされたのでしょう。気持ちはわかります」
 フルールの瞳が憂いを帯びる。
「……好きな人に裏切られると、すっごく胸が苦しくなって、何もかもを壊したくなるのでしょう。わかります。嗚呼」
 艶やかに燃えて、赤をまとって、紅をまとって、朱をまとって、……けれどそれは緑と水の精霊たちとはあまりにかけ離れた威厳。悲しみの中、乙女たる女王は判決をくだす。
「私達がここへ来る前に、ニンゲンたちを鏖殺してしまえば、きっと私も、憂いなく殺せたでしょうね。けれど、村はまだ遠く、私達は到着してしまった……!」
 止まりなさい。
 大いなる乙女の力ある命令。けれども、精霊達の歩みは止まらない。血の涙を流し、前進する。
「来るがいい愚神よ。許しましょう。赦しましょう。釈しましょう。我が名において、この世界をすこし、侵略することを」
 ぞわりと触手が精霊達を絡め取っていく。どこか官能的なあえぎを浴びながら、フルールは己の心の命ずるままに動く。すなわち、目標の不殺。
(こんな私を愛してくれて、ありがとう皆さん、壊れてくれてありがとう、ルミエールおねーさん。私もまた、私自身の狂気を肯定しましょう)
 その後ろから、フーガの癒やしが飛ぶ。黄金の光は、森の精霊たちを引き受けるクウハまで届いた。
「至難正方八海世界、万物に優れる宝ここにあり。我は願う、其の者の安泰を。我は叶う、其の者の勝利を。いとけなきまでに信じるがゆえに」
 仲間の受けた傷は、フーガがすべて癒やしていく。特に泉の精霊を相手にする武器商人へは念入りに、フーガは回復を施した。黄金のトランペットが告げる勝利まで、あと一歩。精霊たちはボロボロになっていく。胸を痛めつつも、心を鬼にしてフーガは戦場へ立つ。
 できるならば彼女たちへもこの恩寵を分け与えたい。
 できないとわかっていても、そう考えてしまうところが、フーガの甘さであり、優しさであり、呪句にあるが如くの万物に優れる宝であった。
 武器商人はほうと吐息をこぼした。広域俯瞰での戦場の様子は確認済みだ。死力を尽くしあえば、ニンゲンたちにさんざんにいたぶられ、力を失った精霊達に、勝ち目などない。
(かわいそうにねぇ……)
 目を血走らせた泉の精霊の一撃。武器商人の腹へ大穴があく。しかし次の瞬間には、穴はふさがっているのだ。影が傷口へ流れ込み、そのモノをそのモノたらしめていく。祝福のように、呪いのように。
「愛する人達にだって、我慢せず怒ったってよかったんだ。こんな事になってしまう前に、さ」
 流れを、少し寄せる。ほんの少しだけで良かった。武器商人の莫大な権能が泉の精霊を破壊していく。半身を吹き飛ばされ、痙攣する泉の精霊。最後まで涙光るその目元を袖で拭ってやると、武器商人は彼女を抱きしめた。
「さようなら。愛してるよ、気の毒な隣人達」
「おうおう、余裕やな。さすがやでえ」
 彩陽は矢をつがえた。
「さすがの俺もほだされてまうで。死んだもんは戻れへんし、そうじゃないもんも戻るわけでもないし。それでもお仕事やし思うてた俺がなあ」
 喉で笑う彩陽は、そのままおしまいの一矢を解き放った。断末魔があがる。
「……きばってや? 俺が倒れても、まあ、まあ、そういうこともあらあな。けど、アンタらが倒れたら総崩れや」
 どこか、遠くから自分を眺めてしまう癖が、彩陽にはあった。心の何処かで陽炎のように存在する、自分などいなくても、大丈夫、そんな後ろ向きな安心感。それが生い立ちのせいなのかは知らねど。
 だがしかし彩陽は知らなかった。戦場において、まっさきに命を捨てる者ほど、強力無比だということを。己を、未来を、何も惜しまず、かえりみないがゆえの一撃が、確実に命を刈り取っていく。
 そんな彩陽を、赤羽と大地が支える。
(コイツ、ほっとくと死ぬナ)
(……同感だ)
 頭の中でささやきを交わし、大地は大きく手を広げた。
「美しかれ、森よ。楽しかれ、杜よ。歓喜をば捧げよう、時は来た、救済の時は来た……」
 大地の祝福が、癒やしが、仲間の不調をとりのぞいた。黄金の鳥が舞い、ほとばしる赤が消え去る。
「フィナーレの時間だぁ!」
 幸潮がとびはねた。
「血脂は拭ったか? 愛する人へ別れは? 森に引きこもってガタガタ震えてりゃ、ある意味幸せだった汝らへ、『最悪』をプレゼントだ」
 精霊たちは最初ポカンとした。さっきこの手で引き裂いたはずのその人が、赤羽と大地、そして幸潮から挟まれるように立っていたからだ。
 うろたえているのは、その人――アーネストも同じだった。
 黄泉路へと旅立ったはずが、突然召喚された。生きていたときと同じ姿で、同じ体温を持って。幸潮のギフトと、赤羽と大地の地獄花のあわせ技だった。
「なァ、俺には『正直』に聞かせてくれヨ。お前は精霊ヲ、どう思ってタ?」
「ひ、あ、ひぃ……」
 震えるばかりのアーネストを幸潮が煽る。
「おいおいおい、とっととしゃべんねーと、また黄泉路へ蹴落とすぞ?」
「あ、あ、そ、そんな、俺は、ただ、罠にかかってた精霊をひとり、なんの気なしに助けてやっただけで。……それだけであいつらが股を開くもんだから。だから、調子に乗って……それで……」
 赤羽が鼻白み、大地はうなだれた。
「場がしらけちまったなア」
「……そうだな。こんな、こんなクズに、すこしでも期待した俺が、馬鹿だったとも」
 拳を握りしめる赤羽と大地のとなりで、真っ青になるアーネストの姿がふっとかき消えた。幸潮が消したのだ。
「物語はエンドロールに突入! 不埒な男に惚れこんだ、愚痴蒙昧な精霊は、ここで倒され、原初へ還れ。蛍の光を流してやんよ」
 精霊達はもはや言葉もない。はらはらと涙を流し、立ちすくんでいる。
「いいんだって、泣いたって、俺様が許可してやらァ」
 クウハが呆然と立っている精霊へ引導を渡す。とびっきりの火力で、苦しむ暇もないように。
「あばよ」
 精霊は待ち望んでいた時が来たかのように、儚く微笑んだ。

●「それ」と思しきエンドロール
「さて」
 最後の精霊を倒した彩陽は、皆の顔を見回した。
「もうここまで来たら止めへん。好きにしなっせ」
「そうさせていただくわ。いきましょう、ルミエールおねーさん」
「そうね、そうしましょう。私のあなた。私今、とっても機嫌がいいの!」
 ふたりは歓声を上げると、村へ向けて走り出した。
「我(アタシ)もついていこうかァ。言質もとっておきたいところだし」
「なんのだ? 慈雨」
「この事件が魔種によるものじゃないって言質をさ、我(アタシ)の猫」
 一匹とソレは寄り添い、歩いていく。そのあとを追いかけたフーガが、顔をあげた。
「村が!」
「はい、我なのだぜ。まーあのふたり、派手にやってんなー。ま、ちょっとくらいオイタしても許されるんじゃん?」
 火の手が上がる。竜のようなそれが村を飲み尽くしていく。
「避難誘導は任せた、フーガ」
「わかった、クウハ!」
 大急ぎで走っていくフーガを見送り、クウハと武器商人も歩きだす。
 最後尾にいた赤羽と大地が、ぼそりとこぼした。
「精霊達は、純朴故に、アーネストの気まぐれも見抜けず、最後まで食い物にされたのか……」
「はァ……結局どちらに転んでモ、救いのない御伽噺サ」

成否

成功

MVP

フーガ・リリオ(p3p010595)
君を護る黄金百合

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

皆さん熱いプレを送ってくださって嬉しかったです。
MVPは精霊と人間、両方を助けようと奮闘していたあなたへ。

またのご利用をお待ちしております。

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