PandoraPartyProject

シナリオ詳細

運輸ギルド設立のお手伝い

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 ラサ。
 混沌大陸中央部の砂漠地帯を根城とし、傭兵と商人が結び付く事で共同体を形成した連合国家。
 様々な国からの来訪が多く、どの様な人物でも受け入れる土壌を有した、強かな地である。
 そんな場所ではあるが、最近では吸血鬼にまつわる事件が起こっていることもあり、色々と物騒な問題を抱えていた。
 その内のひとつが、『紅血晶』にまつわるものだ。
 吸血鬼達にまつわる何かしらの『実験』の一環としてバラ撒かれたようだが、持ち続けていると化け物に変わってしまうという危険な物。
 その部分だけ聞けば欲しいとは全く思わないが、厄介なのは美しさ。
 魅了されているのでは? と思えるほど、大金を積んででも手に入れたいと思う者は後を絶たなかった。
 とはいえ、持ち続けていると化け物になることが知れ渡るようになった今では、どれほど魅力的だろうと危険物。
 ローレットも回収に回っているので、手放す者は少なく無い。
 けれど、それで皆が手放したかといえば、そんなことはなく。
 大金を費やして手に入れたなら、タダで手放したくないと思うのは人情だ。
 それ以前に、大金を費やして回収できないとなれば完全に大損。
 どうにかして誰かに押し付けてしまいたいというのは分からなくもない。
 それが出来なければ、損を抱えて路頭に迷い、場合によっては悪事に手を出す者も出るだろう。
 悪に転げ落ちるのは、切っ掛けひとつで事足りる。
 そんな瀬戸際に立たされていたラサの商人を、ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は説得していた。

◆  ◆  ◆

「心配しなくても大丈夫! 紅血晶を渡してくれれば、損した分を取り戻せるよう仕事を回すから」
「……本当かね?」 
 期待半分、疑い半分といった様子で商人は聞き返す。
「嘘じゃないなら……まずは当面の運転資金を用意して貰いたいんだが……」
「それぐらいなら問題ないよ――でしょ?」
 ミルヴィに話を向けられたのは、三十代の男。
 手配師と呼ばれている彼は、笑みを浮かべながら応える。
「任せろ任せろ。鉄帝で稼いだ分があるから心配すんな」
「……鉄帝でって、村とかから奪った物じゃないよね?」
「新時代英雄隊が貯めこんでた物資をパクっただけさ。放っときゃ、戦後のどさくさに紛れて小悪党に横領されてた物だから、別に俺らが貰っても問題ねぇよ」
「……あんた、そういうのは今後は控えなさいよ」
 呆れたようにミルヴィは言った。
 目の前の手配師を含め、今いる貸し切り状態の酒場には悪党が三人ほどいる。
 少し前の依頼で、幾つかの『約束』を悪党達と交わしたのだが、それを実現させるためミルヴィは、監視も兼ねて手配師の新事業を手伝っていた。
 それは運輸ギルドの設立。
 国を跨いであらゆるものを届けられるギルドを目指していた。
 その第一歩として必要としたのが人員の確保。
 目をつけたのが、紅血晶の流通に関わっていた商人達だ。手配師達が言うには――

「紅血晶で損出して足元ガタガタになってるのが狙い目」

 ということらしい。
 損を出すような商人を抱えて大丈夫かとも思ったが、むしろそこが良いらしい。

「出所が分からねぇ上に、取引も難しいシロモン、実際に手を出せた実行力と意欲は価値がある」

 とも応えていた。
 能力以前に、伸るか反るかの博打に手を出せる胆力を買ってるらしい。
 もちろん、一歩間違えれば無茶をして自滅する可能性も高いが、そこは手綱を握る自信があるようだ。
 それを実現するため、まずは目の前の商人を口説き落としているミルヴィと手配師を、少し離れた席で眺めているのは、夢野 幸潮(p3p010573)。
 幸潮は、酒瓶の蓋を開けている目の前の悪党、モリアーティに言った。
「これは、あの時の『約束』の一環かねぇ?」
「そうだよ」
 モリアーティは応える。
「悪を束ね管理する。紅血晶の危険性が知れ渡った後も手放さずにいる者は、大なり小なり悪党さ。手配師の結んだ約束を果たさせることにも繋がるからね。一石二鳥というわけだ」
 言いながら、ショットグラスを幸潮と自分の前に置く。
「アブサンたぁ、詩的な酒を持って来るじゃぁないか」
「数多の芸術家を沈めた酒だ。幻想の綴り手には悪くないかと思ってね」
 トクトクと、翡翠色の酒を注ぐ。
「濁ってないってこたぁ、混ぜ物は無いやな」
「その分度数は高いが、別に良いだろう?」
「胃には悪そうだぁねぇ」
「だったら、はい。おつまみ」
 小皿に乗せたチーズを数種、幸潮とモリアーティの前に置いたのは、幻想の商人リリス。
「交渉にはもう少し掛かりそうだから、その間、それを摘まんで時間を潰しといて。終わったら、今後のことを話し合うから」
 リリスは、共同経営者であるヴァンと共に、ミルヴィ達の席に向かう。
 悪党のもう1人、ジャックも加わって、ラサの商人が紅血晶を手放した後のことを詰めていた。
 それを眺めながら、幸潮は口を開く。
「それで、この後どうするつもりだぁね?」
「何をかね? ご同類」
「それも含めて語るは汝さ。我は綴り手。語り合うは本分じゃぁ無いねぇ」
「別に構わんと思うがね、ご同類。酒の席で語られるは与太話。一夜の夢の如く消えゆく虚ろ。虚ろ同士が語り合うには、悪くないと思うがね」
「……さよか」
 カチリ、とグラスを打ち合わせ、くいっと飲み干す。
 焼け爛れるような熱さを胃の腑に感じながら、モリアーティが口を開いた。
「まずはラサを含めて、紅血晶に手を出した商人を引き込むつもりだよ。さっきも言ったが、大なり小なり悪党が多い。今回損を出した分、余計な悪事に手を出す可能性は高い。それを未然に防ぎつつ、手配師の運輸ギルドのネットワークを成り立たせるための人員として組み込む。それとは別に、鉄帝で作ろうとしていた裏ギルドや、主に幻想で増殖させていた犯罪ネットワークの手綱を握るよ」
「おぉ、汝の名、其は黒幕なり」
「そこまで面倒を見る気はないがね。せいぜいオブザーバーだよ。でなければ、私が居なくなった後に自立して動けないからね」
「ツンデレ?」
「そのキャラクターも、構成情報に入っているけどね」
「……あぁ、なるほど」
 くいっと手酌の二杯目を煽ったあと、幸潮は言った。
「単独キャラクターで作られてないのか、汝は」
「ああ。私の世界では、空想が実在として具現化する。最初から『完成』した状態で発生するが、元となる空想はひとつとは限らない」
「汝の場合は、『モリアーティ』というカテゴリーで集合した設定情報を元にしているというわけか」
「そうだよ。私の場合は、28種類の『モリアーティ』という設定情報が合わさって出来ている。まぁ遺伝子のような物だ」
「……それ、オカシクならないか?」
「発狂するね」
 さらっとモリアーティは言った。
「作り手の異なる、不特定多数の空想だ。整合性は取れず矛盾し反発する。発生して時間が経ち自我が明確になればなるほど耐えられなくなり発狂するよ。私の世界の住人に、生物的な寿命は無いが、発狂した後に自分で自分を殺すか、あるいは誰かに殺される。それが私達の『寿命』だ」
「……この世界でも変わらないのかね?」
「変わらないはずだよ。だからその前に、昔馴染みに弄って貰った」
 額を突いたあと、モリアーティは続ける。
「他人の記憶に干渉できる魔種と、それとつるんでいる三文芝居という昔馴染みが居てね。今の私を固定し続けられるよう、余計な記憶は削除させている」
 モリアーティが自分の来歴を話していると――
「終わったよー」
 商人との話し合いを終わらせたミルヴィが声を掛けた。
「協力してくれるって。それで、この後どうするの?」
「同じことを続けるよ」
 モリアーティは説明する。
「紅血晶を流通させていた商人を取り込む。必要な物は金と暴力。商人としても、紅血晶で出した損失を埋めることが出来るから悪い話じゃない。同時に、運ぶ『商品』の確保が必要だね。そちらの伝手は、任せたい所だが」
「そこはウチが噛ませて貰うわ」
 リリスが話に加わる。
「色々と繋ぎをつけたいわ。もしよければ、何か伝手があればお願いしても良いかしら?」
 ミルヴィ達に頼み込むと応えが返ってくる。
「あたしの領地は食料生産多めだから、それなら手伝えるかも」
「好いわね! 鉄帝に持って行きたいわ。あとは――」
「可能なら、輸血パックを確保できるようにしておいてくれないかね」
 モリアーティが要望を告げる。
「昔馴染みに届ける輸血パックを安定確保したいのもあるが、ラサの吸血鬼騒動の顛末次第で安定供給が必要になるかもしれないからね」
「どういうこと?」
 多少警戒するように尋ねるミルヴィに、モリアーティは応えた。
「吸血鬼を皆殺しにするような手段を取らない限り、生き残る吸血鬼は出て来るだろうからね。そうなった時に何かしら動けるようにしておきたいだけさ。無用になる可能性は大だが、その時はすぐに事業として閉鎖すればいい。ひとまずは、そんなところだね。そのために人手が欲しいのだが――」
「こっちでローレットに頼んでおくわ。というわけで、もし依頼が出された時に都合が合ったら力を貸して」
 リリスの言葉に頷く、ミルヴィと幸潮だった。

GMコメント

おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
今回は、アフターアクションを元にしたシナリオになっています。

以下が詳細になります。

●成功条件
 紅血晶を流通させていた商人をボコって手配師の運輸ギルドの構成員として勧誘する。

●状況

以下の3種類のどれかを選んで対応してください。

1 危険度・小
  紅血晶の危険性を知らず、売り抜くタイミングを逃した商人の対応。
  タダで手放すと大損なので、渡してくれと言っても抵抗します。
  ただし話し合いで解決する可能性もあるので、ある程度力を見せてから
  説得する流れに繋げ易いです。
  戦闘する商人は、素人に毛が生えた程度の強さです。
  戦闘、あるいは商人と接触する場所は、ラサのとあるバザールの中です。
  バザールで商品を広げている所に接触することになります。

2 危険度・中
  紅血晶の危険性を知っていたが、儲け話に目がくらんだ商人の対応。
  他人にババを押し付けようと紅血晶を集めていたが売り逃げに失敗した。
  タダで手放すと大損なので、渡してくれと言っても盛大に抵抗します。 
  ボコったあとの話し合いでは、少しでも自分に有利になるようグイグイ来ます。
  こいつは舐めても良い相手だと判断すると足元を見てきます。
  なので、最初にある程度心をへし折る勢いでボコった方が良いかもしれません。
  戦闘、あるいは商人と接触する場所は、ラサのとある商会です。
  紅血晶を多数抱えこんでいる商会の情報を得て踏み込むことになります。
  商人と従業員10名ほどと戦うことになります。強さは、それなりです。
  商人は欲深いですが、従業員や取引先には情もあるし仁義も通すタイプです。

3 危険度・大
  紅血晶の危険性を知っており、拡散させることを目的としていた商人の対応。
  紅血晶が拡散されることで被害者が発生するように動いていた。
  生き残りがいれば、『三文芝居』という人物に指示されていたことを知れます。
  戦闘、あるいは商人と接触する場所は、人気のない場所にある
  ラサのとある商会です。人気が無いので派手に動いても余計な被害は出ません。
  紅血晶を多数抱えこんでいる商会の情報を得て踏み込むことになります。
  商人と従業員10名ほどと戦うことになります。そこそこ強いです。
  倒すと、余計な情報を喋らないよう、魔種が商人や従業員を殺しに来ます。
  ある程度しのぐ、あるいは一定のダメージを与えると撤退します。

上記三つの選択肢の内、どれかひとつ、あるいは全てを選んで参加出来ます。
参加者全員が同じ選択肢を選ぶ必要はありません。
別々の選択肢を選んで、それぞれ行動することも出来ます。
三つの選択肢の内、どれかひとつでも成功条件を達成していれば
失敗にはなりません。
なので、選ばれない選択肢が出でも、それだけで失敗にはなりません。
選ばれなかった選択肢は、NPCだけで向ったことになります。

●説得
 商人と従業員は、戦闘勝利後に手配師の運輸ギルドの構成員として勧誘できます。
 依頼人のリリス&ヴァン、そして手配師により、資金提供と仕事の伝手が
 保証されます。それを元に、説得してください。
 ただし相手は商人なので、与し易いと思われると要求がエスカレートする
 可能性があります。上手い具合に説得してください。

●NPC
 リリス&ヴァン
 依頼人です。必要な物があれば用意してくれます。
 PCに同行します。
 運輸ギルドに1枚噛むことになっています。
 フレーバー的な物になりますが、PCの領地からの産出物を取引する
 場合もあります。

 手配師&モリアーティ&ジャック
 とある理由で協力関係になっている悪党3人組。
 現状、裏切るとかは絶対にありません。
 約束の履行のため、運輸ギルドを設立したり、悪党の統制を始めています。
 PCに同行します。
 運輸ギルドに1枚噛むことになっています。
 フレーバー的な物になりますが、PCの領地からの産出物を取引する
 場合もあります。

 三文芝居
 邪悪。
 モリアーティの昔馴染みですが、現在は連絡等一切が途切れてます。
 紅血晶の流通に関わっていた一人のようですが、そのことを
 モリアーティは知りません。
 今回のシナリオで直接出て来ることはありません。

●その他
 回収した紅血晶は、ローレットに引き渡すことになります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 説明は以上になります。
 それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。

  • 運輸ギルド設立のお手伝い完了
  • GM名春夏秋冬
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月01日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
ファニー(p3p010255)
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ

 ラサのバザール。
 商いが賑わう中、何処か暗い面持ちの商人が1人。
 そこに、『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は仲間と共に訪れた。
「こんにちは。ローレットより紅血晶の回収に伺わせていただきました」
 警戒を露わにする商人に、ヴェルーリアは刺激しないよう笑顔を浮かべ声を掛ける。
「紅血晶は危険性が高く、専門性がないと廃棄するにも問題が発生する可能性が高いということでこの度なんと無償で回収させていただいております」
 そこまで聞いて、商人は布に包まれた何かを手に逃げようとする。だがそれより早く、
「命は大事にしたほうがいいぜ?」
 事前に、周囲に保護結界を張っていた『Stargazer』ファニー(p3p010255)が、商人の逃げ道に流れ星を落とす。
「っ!」
 商人は怯えた表情を見せるも、紅血晶は渡さないと言わんばかりに、魔法で作り出した石を飛ばすが、
「ここは任せろ!」
 いきなり躍り出る『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)。
 ガヅン!
 良い音をさせ石は命中すると、輝ける『Miss!』の文字が後光に浮かぶ。
「いくら攻撃しようとも『無駄』である事を教えてやる」
 にじり寄る幸潮。
「ひっ!」
 怯えた声を上げ石を何度も飛ばす商人。
 1Miss! 2Miss! 3Miss! ――wow! Perfect!
 結構まともに食らうが、その度に後光で文字が浮かぶ幸潮。
「頑丈だね、ご同類」
「此度の我が身は必殺の意志を齎さねば滅することなどできぬが故に」
 モリアーティに返しながら、幸潮は商人に言った。
「さぁ、我らが庇護下に入るがいい。そう警戒をするな。私は『商談』をしに来たのだからな」
「信じれるか!」
 商人は走って逃げようとするが、『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)が全力のフルルーンブラスターを商人の真横に叩きつける。
「……」
 思わず固まる商人。
 そこにベルナルドは、静かな声で言った。
「……で。何をすべきか分かってるよな?」
 最後通牒だと言わんばかりのベルナルドの圧力に、商人は様子見をするように押し黙る。
 圧力を懸け続け、ようやく話を聞く態勢を整えた所で、『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が優しく諭すように声を掛けていく。
「持っていれば持っている程リスクがある、そして危険性が知られて価値はどんどん落ちていくのだわよ?」
「それは……」
 商業知識も絡め諭していく瑞稀に、商人も同意する所があったのか言葉に詰まる。
 そんな商人の手を取って、『剣閃飛鳥』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は人好きのする魅力的な笑顔を浮かべ言った。
「お互いが得をするように協力し合いたいんだ」
「……協力?」
「そうだよ。鉄帝とラサを介して幻想とも交易ルートを結べる一大交易ルートを作りたい。大変だけれどこれができたら飢える人は更に少なくなる筈だもの。その助けになって欲しいんだ」
「魅力的な提案だと思うぞ」
 合いの手を入れるように、『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)も話に加わる。
「私も、協力者を求めてキミに会いに来てるんだ」
「……どういうことだ?」
「運輸ギルドの設立は、飲食業を営む私にとってもラサ産食材などの仕入れで使えそうで役に立つ話だ。お互い、損の無い取引をしたいと思っている。それに加えて、紅血晶の大掃除もしておきたかったから、一挙両得を掴みに来たんだ」
「損の無い……それは、こいつも含めてか?」
 包んでいた布を捲り紅血晶を見せた商人に、モカは応える。
「商談してくれるのか? なら、先に名刺を渡そう」
 受け取って凝視する商人に、モカは言った。
「紅血晶を直接買い取る事はできないが、私の店で使えそうな食材や、店内に飾る絵画・彫刻などの調度品は品質次第で少々高くても買おう。おまけで紅血晶を付けてくれるとありがたいなぁ」
「……紅血晶は渡す。その代り、取引相手は増やしてくれないか?」
 商人としてギアが上がって来たのか、食らいつこうとして来る。
 そこに、『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)は名刺を差し出しながら言った。
「俺は、混沌に広く支部を持つ巨大商人ギルド『サヨナキドリ』の名代、クウハだ」
「……あんたが、あそこの」
「ああ。こっちは食料品や雫花石の準備が出来てる。それに頭領の意向として、仕事の斡旋と資金融資の準備がある」
「そいつは」
「ただし」
 釘を刺すようにクウハは言った。
「俺は頭領である主人の眷属であり直轄として『躾のなっていない者への殺害を含めた武力制裁』を与える役割を担っている。最大限の助力はしてやるが、舐めた真似をした場合……分かるよな?」
「もちろん。今でも十分、実感させられてるからな。だから――」
 商人は良い商談だと思ったのか素直に紅血晶を渡し、代わりにグイグイ交渉してきた。

 一つ目の交渉は終わり、次は強欲な商家に向かう。
 道中、ファニーはモリアーティから情報を引き出すように話し掛けた。
「昔馴染みの名前と特徴かね?」
「ああ。幸潮から聞いたが、記憶に干渉できる魔種と、三文芝居という奴がいるそうだな」
「ふむ……魔種の方は、名前は三文文士。三文芝居と同じく、三十代ほどのカオスシードのような見た目をしているよ。それと――」
 ファニーと話し終えると、入れ替わる様にミルヴィが言った。
「アンタは別かも知れないけれど。悪には悪の理由ってものがある」
「否定しないよ」
「でしょうね。だから、ただの心地いい正論は届かないのは理解してる」
「ふむ……それを理解した上で、要望があるのかね?」
「あるよ。実現して貰うために、必要な情報があれば集める」
「出来るのかね?」
「出来るよ。元々アタシハニートラップ専門だったんだよね。もうする気なかったけど飢える人を一人でも少なくできるなら……」
「そこまでして、私に何をさせたいのかね?」
「正義からあぶれた人達の受け皿になって。絶対に必要なの」
「あら、それなら私達も一枚噛ませてちょうだい」
 リリスも話に加わって、モリアーティも同意した。
 そのまま進む中、考え込むように黙していたベルナルドにリリスが声を掛ける。
「何か気になることあるの?」
「今は耐え時だと思ってたんだよ」
 ため息をつくように内心で思う。
(……俺ァただの画家なんだがな。何で最近、詐欺師だの取り立て屋だの物騒な役が多いんだ?)
 好き好んでしているわけではないが、天義の聖女・アネモネが亡命する時の為の助け手をひとつでも多く揃えるために必要だと割り切ってもいる。
(隣国の運輸ギルドにコネクションが出来るのはデカい。ここは耐える時だ)
 黙するベルナルドにリリスと、近付いて来たモリアーティが言った。
「時と場合によるけど、可能な限り力を貸すわ」
「物によっては綿密な計画がいるだろうが、可能であれば力を貸そう」
 先のことも見越して話している内に、一行は商家に到着。
 中に人がいないか声を掛けたが誰もいない。
「ふむ」
 確認した幸潮は、商家の隣にある倉庫に視線を向ける。
「こういうときは――」
 倉庫に向かって全力疾走。
「ちわーっすわかめ屋でーっす! テメェらの廃品を回収しに参ったーっ!」
 壁をぶち破って突入する。
「ダイナミックエントリーだね、ご同類」
 気のせいか、ツッコミ役っぽくなるモリアーティ。それはさておき――
「誰じゃお前!」
 ブチ切れる強欲商人。
「オラァッ! 出せオラァッ! 紅結晶を置いていけ!」
「げふぅ!」
 とりあえず幸潮はシバくと、
「貴様らは完全に包囲されている! カモン皆の衆! 制圧の時間だ!」
 皆に応援要請。というわけで、皆でボコる。割と容赦ない。
「なんなんじゃ!」
 どうにもならないと強欲商人は逃げ出そうとするが、
「悪いけど逃がさないよ!」
 ミルヴィが退路を塞ぐように立ちはだかる。
 それを助けようと従業員が襲い掛かろうとするが、ベルナルドが死なない程度にボコって捕えた。
「商人。アンタが逃げようとするなら、アンタの身内から潰させて貰うぜ?」
「ぐぬぬっ」
 割と身内には甘いのか逃げるのを止める強欲商人。
 そこに幸潮が声を掛けた。
「さて。これで汝らは全てを失った。しかしこれで終わりではない。何故ならば汝らはまだ、『命』という物種を残しているからだ」
「なんやと!」
「これからの『商談』に応じてくれぬのなら、なぁ?」
「どうするつもりや」
「クウハ、やれ」
「よっしゃー」
「げふう!」
 ボコった所で、幸潮は笑顔で言う。
「安心しろ、死にかけたのならもう一度『癒やして』やるのみよ」
「治療費は払へんぞ!」
 ズレたことを言う強欲商人。金に執着するあまり脅しが効き辛い。
 なので正攻法の交渉をするヴェルーリア。
「紅血晶をタダで渡しては大損と渋る気持ちも理解できますが、知らないうちに持っていた爆弾を無償で回収される得と、ローレットとの伝手を得られること、更には今の段階ならその損を補填する仕事の用意もこちらにはあります」
「補填やと?」
 グイグイくる強欲商人。
「全部買い取るっちゅうんか」
「はい。なので素直に頷いていただいた方が互いにとって得なのではないかと……。力の差を確かめたいということであれば、こちらとしては構いませんが、その結果そちらの不利益になったとしても文句は言われませんよね?」
「それやったら――」
 明らかに吹っかけて来る強欲商人。
 そこに柔らかな声で、華蓮が提案した。
「一時のあぶく銭より、継続したお金の方が良いと思うのだわ」
「どういうこっちゃ?」
「警戒しなくても大丈夫なのだわ。私達の領地と取引できるようにするのだわよ。ローレットにもうちの神社(領土)にもお仕事はあるから、最悪な事にはならないのだわ」
 皆も同様に勧め、素早く損得勘定をする強欲商人。
 そんな彼に、ファニーは最後通牒を告げるように言った。
「紅結晶と長い取引、どっちを取るかよぉく考えろよ、ミイラ取りがミイラになりたかねぇだろ?」
「んぬぬ」
 迷いを見せる強欲商人の背中を押すように、モカが言った。
「――の商人さんは、快く紅血晶を渡してくれたよ」
「あそこがか? 嘘やろ」
 断言するように強欲商人は言うと、にっと笑みを浮かべ続ける。
「これからあいつらのとこ行くっちゅうわけやな。やったら紹介状書いたる。そん代わり、取引はホンマにして貰うで」
「もちろん。私の店の買い付けも含めて約束する」

 多少の荒事はあったが、強欲商人から山盛りの紅血晶を手に入れた。
 しかも紹介状を書いてくれたお蔭で、最後の最も性質の悪い商人にまずは話し合いから入ることが出来た。

「――というわけで、紅血晶への補填も十分考えています」
 ヴェルーリアの話を黙って聞いていた商人は、ボソリと言った。
「物好きだな。どこの誰がどうなろうと知ったことでは無いだろうに」
 これにモカは静かに言った。
「へぇ、その口振りだと……紅血晶が危険な品物だと、甚大な被害者が出ると知ってて取引してたんだ~」
「問題があるか?」
「あるよ! 商売は儲けが大事だが、それ以上に人としての良心が大事だ!」
「なら話は終わりだな」
 商人が言うなり、武装した従業員達が襲い掛かって来た。
「やっぱり敬語は良くなかったかな? 叩きのめさせてもらうよ!」
 ヴェルーリアが声を上げると同時に、皆は一斉に動く。
 予想は付けていたので、初手から速い。
 冷静に迎撃するイレギュラーズに、傷を受けながらも従業員達は変わらず襲い掛かってくる。
「命が惜しけりゃおとなしく紅血晶を渡すんだな」
 ファニーは不殺を意識しながら、同時に容赦せず叩きのめし問い掛ける。
「随分と肝が据わっているようだが、誰の指示だ?」
「……」
 訓練されているのか、従業員は無言のまま。
(商人ってより傭兵みたいだな……気になる奴はいないみたいだが)
 確認しつつ皆と連携し、全員を戦闘不能になるまで叩きのめした。
「死なない程度に回復しとこう」 
 どこか疲れた様子で幸潮は、商人達を訊問できる程度には回復する。
「お疲れだね、ご同類」
「前半飛ばし過ぎて紙幅が足らない。あとは頼んだ!」
 我関せず、とばかりに丸投げする幸潮。
 残った皆で、尋問も兼ねて交渉をしようとした時だった。
「危ないのだわ!」
 オラクルにより未来予知をした華蓮が、商人達を庇うように、飛んで来た魔力の前に立ちはだかる。
 爆発。
 爆風が周囲に撒き散らされるが、祝詞を捧げ稀久理媛神の加護を得ていた華蓮に目立った傷は無い。
「避難するのだわ!」
 次の攻撃も予知した華蓮が声を上げ、商人達は下がろうとする。それを見て――
「面倒くせぇ。余計なことすんなよ」
 大柄な幻想種に見える魔種の男が、気怠げに言った。
「お前らも自分で死ねよ。手間かけさせんな。死なねぇから、余計なこと喋らないようにわざわざ殺しに来なくちゃならねぇ。あぁ、めんどくせー」
(こいつ……モリアーティ、見たことは無いか?)
(……いや無いね)
 ハイテレパスでファニーが確認している間に、ヴェルーリアが魔種の迎撃に走る。
「口封じをしたい? それは私を倒してからにしてもらうよ!」
 幸潮と適度な距離を保ちながら、皆を回復しつつ攻撃を叩き込む。
「あぁ~、めんどくせー」
 やる気のない声を上げながら、魔種は皆の攻撃を素手で捌く。
 なんらかの魔法で強化しているのか、皆の攻撃を受け止めながら、商人達に向け魔力弾を放とうとし――
『今だ! やってくれ!』
 オラクルとエネミーサーチを併用し、魔種の動きを予見していたクウハがベルナルドに指示を飛ばす。
『任せろ』
 魔種と商人達の間にドリームシアターで煙を発現。
「邪魔くせぇ」
 お構いなしに魔種は魔力弾を放つが、幻煙のせいで当たらない。
「めんどくせー」
「なら、諦めて帰りなよ!」
 魔種が攻撃した後の隙を突き、ミルヴィが接敵。
 飛ぶような勢いで間合いを詰め、無防備な脇腹を切り裂くと、すぐさま距離を取る。
「あぁ~、テメェ」
「余所見し過ぎ!」
 ミルヴィに魔種が気を取られた瞬間、間髪入れずモカが間合いに入り、呪詛を込めた連続攻撃。
 そのあとも続けて、皆は連携して攻撃を叩き込み――
「あぁ、もういい。めんどくせー」
 やる気のない声を上げながら、魔種は逃走した。
 商人達が居るので後を追うわけにはいかない皆は、この場に残る。
「怪我は無いのだわ?」
 気に掛けるように問い掛ける華蓮に、渋面になる商人達。
 クウハが言った。
「アイツは何れ又口封じの為にオマエ達を殺しにくるだろう。命が惜しけりゃ素直に俺の提案に乗って、お喋りする方が賢明だと思うぜ?」
「……」
「どうしても嫌だっつーなら、代わりに俺が今此処でオマエらをブチ殺しちまっても構わねェんだがな? どうする?」
「……代償はなんだ?」
 観念したのか、少しでも有利に話を進めようとする商人に、ファニーが言った。
「おまえらに仕事をくれてやろう。少しでも命の恩義を感じるなら……分かるよな?」
「……身の安全と、相応の金を用意できるなら……応じよう」
 観念したように返す商人だった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

皆さま、お疲れ様でした!
無事、紅血晶は回収され、商人達を取り込み、輸送ギルドの基礎が作られました。
ここから手綱を握りつつ、発展させていくようです。

それでは最後に重ねまして、御参加ありがとうございました!

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