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シナリオ詳細

<悪性ゲノム>ローレットの方から来ました

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●アリだー!
 いつものようにベッドの上で目を覚ましたホージェ村の農民は、目の前に広がる青空を見つめることとなった。
 なんだかひどく寒く、そして、まぶしい。
 昇る朝日が美しい。忙しい日々の中、このような景色を見るのは久しぶりかもしれない。しかし、起きるのには早すぎる時間だろう。
 寝返りを打ち、目を閉じて二度寝にうつることにする。
 何か違和感がある。ん? 朝日?
 そうだ、屋根がない!
 悪い夢でも見ているのだろうか。
 慌てて起き上がろうとする。ミシミシとベッドがきしんだ。シーツを引きはがすと、通常より大きな無数のシロアリが、ベッドを食い散らかしていた。
「う、うわあああ!!!」

●ローレットの方から来ました
 幻想での治安の悪化は著しいことこの上ない。盗賊団の出現により、魔物退治まで手が回らないのだ。
 幻想の辺境、ホージェ村の村人たちは、幸いにも盗賊団の被害は受けていなかったが、代わりに様子のおかしいシロアリに悩まされていた。
 シロアリといってもただのシロアリではない。一晩で家を跡形もなく食い尽くしてしまうような奴だ。
「はあ、どうしたものか……」
 このアリの出現により、一部の村人が避難生活を強いられている。
 退治を頼むにしても、ローレットのものたちは出払ってしまっているのである。

 とある男たちが、ホージェ村の村長を訪ねる。バンダナで顔を覆った男たちだった。
「ローレットの方から来た」
「ええ? ローレットの!?」
 ローレットの名前を出されて、農民たちはほっとする。
「なんでも変わった魔物にお困りだとか」
「ええ! ええ、そうなのです。これがやっかいなシロアリで……。なんとかしていただけないでしょうか?」
「俺たちにお任せあれ、だ」
 男はにやりと笑った。
「ママ、おじさんたち、怖い……」
「こら、そんなこと言わないの! 私たちのために来てくださったのよ!」
 ホージェ村の村人たちは、男が連れている犬を、どうしても好きにはなれなかった。
 どこかうつろな目をして、よだれを垂らしている……。

●真・ローレット
「詐欺です、詐欺なのです!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、ぱたぱたと翼をはためかせる。
「ホージェ村に、巨大な白アリが大量発生しているのです。そこで、ローレットを騙る何者かが、ホージェ村で魔物退治を請け負ったのです。
たしかに、退治するそぶりはあったようで、一時的には被害が収まったようではあるのですが……完全に退治はされていなかったのです。それで、事態は出発地点に……。というどころか、不完全な対処のせいで、悪化してすらいるのです!」
 農民たちがあれが詐欺だと気がついたのは、事が終わってからだった。ローレットに苦情を申し入れると、ローレットから派遣されたものたちではない、という返事が返ってきたのである。
 もちろん、きちんと確認しなかった農民たちに非があると言えなくもない。しかし……。
「なけなしのお金をかき集め、再度、ローレットに依頼なのです。こんどこそ、本物のローレットの力、見せつけてやるのです!」

GMコメント

●目標
 変異した<ホワイトアント>、その中でも女王個体の討伐。

●登場
 ホワイトアント×数十匹(およそ30程度)
  体長30cmほど。
  毒のある牙で噛みつく。毒液を吐きかける、などの行動を行う。
  無数にいるが、一体一体はそれほど強くはない。

 ホージェ村の林の中に潜んでいる、突然変異したシロアリ。
 牙には毒を持っている。

 夜になると巣のほとんどのアリで徒党を組み、女王の指揮の下、木造の民家を一軒食らい尽くしていく。

 家を食い尽くして満足した後巣に戻る。もしくは群れが半壊すると、ホワイトアントは列をなして巣へ逃げ戻ろうとする。

 巣は、村の近くの林にある。
 アリの巣にしては大きいが、人の入るにしては小さい巣穴。情報を集め、こちらから巣穴を攻めることも可能。
 巣を破壊するそぶりを見せれば、ホワイトアントたちが出てくる。ただし、巣穴で戦うと相手取る個体数が若干増える。

 徒党を組んでいる時に倒しても、巣で倒してもかまわない。
 巣を破壊しても、女王が生存していると依頼の解決にはならない。逆に、女王さえ倒してしまえば依頼は解決。

(PL情報)
 どうやら湿気を好み、特定の種類の木を好むようだ。
 知能は単純で、罠を警戒するほど高くはないが、集団行動が厄介。
 群れの中には女王個体が混じっている。

ホワイトアント(女王)×1
  体長30cmほどの白アリ。
  外見上、ホワイトアントと区別できない。
  戦闘には加わるが、後方では闘わず、身を隠す。

  女王個体を倒すと、ホワイトアントは無力化される。
 村の襲撃中に女王個体が倒された場合、他の仲間や、巣に待機しているほうのわずかな仲間も長くは生きない。数日のうちに死滅するだろう。
 心配だったら残党狩りをしましょう。

●「ローレットの方から来た」といっていた男たち
・男たちは複数名。
・なにやら怪しげな犬を連れていた。
・解決方法は、ホワイトアントが群がる家に火を放ち、「すべて燃やし尽くした」というもの。散った残党を犬で追い回していた。
・ずさんなやり方で、倒し切れていなかった。具体的には女王を倒していなかったため、再びこのようなことが起こってしまった。
・村人が不安を訴えても大丈夫だと言うばかりだった。
・相場より多い報奨金をふっかけていた。

男たちは今はもうホージェ村を離れており、姿も見えない。
イレギュラーズの行動次第で、さらなる被害の拡大を防ぐことはできるだろう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <悪性ゲノム>ローレットの方から来ました完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年10月10日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
パティ・ポップ(p3p001367)
ドブネズミ行進曲
陰陽 の 朱鷺(p3p001808)
ずれた感性
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
蓮乃 蛍(p3p005430)
鬼を宿す巫女
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫

リプレイ

●来たる、本物イレギュラーズ
「偽物ですか。意気込みは良かったのですが、中途半端は良くないですね」
『ずれた感性』陰陽 の 朱鷺(p3p001808)は、偽物のイレギュラーズたちが焼き払った家の跡を一瞥し、わずかに眉をひそめた。
「ちゅー、やっぱり、いじゅれ、出てくると思っていたでち。偽ローレット」
『ドブネズミ行進曲』パティ・ポップ(p3p001367)は、偽ローレットの残したかすかな匂いを嗅いでいた。
「なりすまして権威を借りるには、ローレットほどやりやすい集団もあまり無いだろうね。構成人員が多様過ぎるし、それでいて活動範囲・内容は極めて広範だから」
『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537) は淡々と事実を述べる。
「……早めに対処しないと、似たような事件が増えるかもしれない」
「ルアナ知ってる。こういうの『悪徳業者』て言うんでしょ? まったくもー。いつか見つけ出してお仕置きしなくちゃ!」
『遠き光』ルアナ・テルフォード(p3p000291)はえい、と武器を振り上げる。幼い少女に見えるが、握っている武器はしっかりした本物だ。
「でちね、そういう連中を止めないといけないでち」
 パティは素早く焼け落ちた家屋の周りを移動する。さっといなくなったかと思うと、すぐに反対側から顔を出した。
「でも、ちょの前に白アリを何とかちないとでち」
「ええ。機会があれば、本物を教えてあげましょう。まずは、偽物の尻拭いですね」
 朱鷺の言葉に、イレギュラーズたちは頷く。
 今回のターゲットはアリだ。
(……何となく嫌な思い出があった気がするな。まぁ覚えていないが)
 とりあえず、『聖剣使い』ハロルド(p3p004465) は、これは巣をふさげば解決する問題ではないような予感がした。
「随分とー、大食らいなアリですことー」
『特異運命座標』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は不思議そうに跡を眺める。
「流石は混沌。シロアリさんの大きさも、被害も桁違いですね……」
『鬼を宿す巫女』蓮乃 蛍(p3p005430) は目を丸くする。
「ちょっと怖い……です」
「敵を怖がるのは悪いことじゃない」
『海抜ゼロメートル地帯』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072) は朗らかに笑う。
「だな。侮ってケガをするよりはずっといい」
 ミニュイが言った。ぶっきらぼうではあるが、気遣いを感じる。二人の言葉に、蛍はおずおずと微笑んだ。
「えっと……まずは村でアリさん達の情報を集めましょうか」
「よし、行くか!」

●敵を見定めろ!
「アリは夜に来るのですね。では、迎撃準備を昼間のうちに終わらせましょう」
 とりあえず、昼の間は猶予というわけだ。
「ああ、そうだな」
「こっちのお家はー、無事みたいですー」
 メリルナートはコンコンと木材をたたく。
「不自然だよねー」
 ルアナは木材を眺める。
「こっちのほうが近くて、齧りやすそうなのに」
「なるほどな……マツか」
 建物の材質が違うことに、ハロルドはいち早く気が付いた。
 どうやら、アリの食べ物には好みがあるらしい。無事な方にも多少歯形がついているから、食べられないということではなさそうだが……。
「……この性質を利用すれば、さらなる被害を防げるかもしれませんね」
 蛍が頷く。
「あとは弱点かなんか、知れればいいところだな」
 食べ残された家がきしみ、ぐらりと倒れ掛かる。エイヴァンが柱を軽々と押さえ、安全なようにゆっくりと倒す。
「シロアリは光が苦手だ。この世界のシロアリもそうとは限らんが……」
「たしかにー、夜に出てくるのですからー、ありえますねー」
「白アリって、どんな生き物だったかな?」
 パティは記憶をたどる。
「この幻想って、前にもアリの被害があったようでちけどね。でも、たちか、白アリって、ゴキ……」
 何らかの嫌な思い出が頭をよぎり、パティは「ちゅー!!」と声をあげた。
 と、そこへ、蛍が練達上位式で呼び出した式神が戻ってきた。
「なるほど、式神ですか」
 朱鷺は興味深げに式神を眺めている。
「ずいぶんデカいな」
 蛍の式神は、エイヴァンと同程度の身長の和装の鬼だ。
「はい。目撃者を見つけた……みたいです」

 村人たちのイレギュラーズへの反応は、実はあまりよくはなかった。
 決して敵対的ではないが、彼らは一度騙されている。……不安なのだろう。だが、ハロルドが根気よく接すると、村人たちは徐々に口を開いていった。
「ええと……あっちの方から来たんだ、と思う」
「なるほどな、林の方か」
「ボクも見たよ! おっきいアリだよ!」
 少年が話に割り込んできた。
「詳しく聞かせてくれるか?」
 幼い少年の言葉にも、ハロルドは真剣に耳を傾ける。
「あっちの方か?」
 エイヴァンが少年を抱き上げると、少年はきゃっきゃと笑った。
「怪ちいでち」
 パティは素早く、ちょろちょろと足跡をたどった。林の前までははっきりと痕跡があった。どうやらこっちの方角であることは間違いがない。
「あっちのほうでち! でも、巣のありどころを探すより、まじゅは来る連中を減らちてからにちゅるでち」
「ああ、それがいいだろうな」
 ハロルドが同意する。

 村人の話を一通り聞き終えて、ルアナは奇妙な違和感を覚える。
 目撃報告を漏れ聞くに、アリたち一匹一匹の知能はそう高くなさそうだ。だが、家は見事な手際で食いつくされている。1軒を食らいつくして、的確に撤退するのも不自然だ。
 ルアナのモンスターに対する知識が、一つの仮説をもたらした。
「リーダー、がいるのかも」
 こういった場合は、頭目を倒せれば事は楽に済むことが多い。
「女王アリか……見分け方が分かれば万々歳だけどね」
 ミニュイは頷き、心に留めておく。
 一筋縄ではいかないかも知れない。
「まー、女王がいれば、速攻でちゅぶちゅでちけど」
 パティが漣のナイフをくるくると器用に回す。

●シロアリホイホイ
 蛍らイレギュラーズたちは村長の家を訪れ、材木の調達を依頼していた。
「お願いできる……でしょうか?」
「ご用意いたします。しかし何に使うのです?」
「わなを仕掛けるんだよー、おっきいやつ!」
 ルアナが両手を広げる。
 簡易的な家を作って、アリたちをそこにおびき寄せる算段だ。
「なんと、村に被害が及ばないように?」
「ああ、できればマツがいい」
 ハロルドが抜け目なく言った。
「用意できるか?」
「ええ、もちろんです」
 罠をしかける場所は、村とこちらの中間地点だ。
「とりあえず最低限囮になれば良いかな」
 ミニュイは組みあがった罠を見上げる。
「だな。村に到達しないよう足止めになればいいな」
「そこ、気を付けてくださいね。とりもちが仕掛けてありますから」
 朱鷺はその周囲にまた別の罠を張っていた。とりもちと鳴子のトラップだ。
 朱鷺が出来栄えを確かめるためにぴんと糸をはじくと、鳴子が軽やかな音を立てた。

 わなを組み立てている最中に一息つくと、村人が寄ってきてぶっきらぼうに飲み物をくれる。
「おお、ありがとう」
 エイヴァンが気持ちよく笑う。
 聞き込みのときにはどこかよそよそしかった村人たちも、イレギュラーズたちの調査の間に、ずいぶんと友好的になっていた。
「依頼しておいてなんだが、無理はしなくてもいいからな。無理そうだったら幸い、人的な被害もないし……」
「あちしたちはローレットでちよ」
 パティがふんと胸を張る。
「まかせておくでち」
「そうか、ありがとう」
「さて、そろそろ夜です」
 朱鷺がくるりと仲間たちを振り返った。
「準備はよろしいですか?」

●待ち伏せ
「ルアナたちが近くにいたら警戒するかも?」
 ルアナの提案で、イレギュラーズたちは身を隠すことになった。幸いにして林が近く、身を隠す場所は豊富にある。
「巣のありどころを探すより、まじゅは来る連中を減らちてからにちゅるでち」
 それに、方向には大体の見当はついている。
 暗闇の中、鳴子の鳴る音が響く。
「……来たな」
 エイヴァンがつぶやいた。
 暗闇で、シロアリの眼が光っている。

 アリたちは行儀よく列をなして進み、わなに向かってぴたりと止まった。そして、同じタイミングで木をかじり始める。
 ハロルドが聖剣リーゼロットを握り、加護をまとう。血意変換によって生じる傷は、加護により瞬く間にふさがった。
「行くぞぉ!」
 エイヴァンの豪鬼喝が轟き、アリたちの多くが動きを止めた。イレギュラーズたちを認識したアリは、標的を変えてこちらへと向かってくる。
 パティが飛び出した。素早かった。
 アリたちの群れに構わず、攻撃に集中すると、ナイフの刃先を超えた長さの、紫電がアリたちを薙ぎ払う。
 落とし穴が崩れて、何匹かがとりもちに引っ掛かる。身動きが取れなくなったようだ。
「かかりましたね」
 朱鷺は魔性惨華を鮮やかに翻し、容赦なく魔弾を放つ。
「こっちだな」
 ミニュイの衝撃の青は、あえて群れの端を狙う。アリを吹き飛ばす。
 まだ群れを半壊させるべきではない。……女王がいるのなら、見抜かなくてはならない。
「いきますよー」
 メリルナートの振るう氷水晶の騎兵槍は、あまりにも透き通っていた。灯りに照らされ、わずかな屈折のみがその外形を知らせる。
 クイックアップで加速をつけて、一撃。優雅な動作から素早く繰り出されたフロストチェインがアリを地面にはり付ける。
「手加減しません……!」
 蛍が呪術を用いて、メリルナートが抑えたアリを見事に葬り去った。
「さて、女王アリは……やはり見た目では分かりませんね。なら兵隊アリが守ろうとする個体を探りましょう」
 朱鷺はアリの攻撃をくるりとかわし、呪符をを起動させる。
「それでは第1幕の始まりです」
 アリの群れは、動きひしめいて差がなかった。
「伝説の『勇者さま』は、擬態したものの正体も見抜けたらしい。ルアナにも、何故かちょっとだけ備わってる力。お願い働いて?」
 ルアナのギフトは、瞳に映りし幻想。勇者だけが持ち得る、真実を見通す力。
 だが……。
 敵は見えなかった。
 仮説が間違っていた、ということなのか?
(勇者か……)
 ハロルドは、アリの攻撃に構わず、聖剣リーゼロットをより一層凶悪に振るう。この世界で働く『不在証明』。加護は弱まった。だが……。
 ルアナは、ハロルドは、たしかに勇者であったのだ。
 元の世界で。

●見抜く目、二人の勇者
「っと、離れてな!」
 ルアナへの攻撃を、エイヴァンが庇う。続け様に、エイヴァンのゴルゴダから放たれるクロスボウの矢がアリへと降り注ぐ。
 アリは狂ったように跳ね、エイヴァンに食らい付く。
「! 噛まれちまったか」
 エイヴァンは傷口を押さえたが、朱鷺の治癒符が毒を和らげる。
「毒の治療はお任せください」
「すまねえな」
 女王を判別する方法はないのだろうか。
「大丈夫です! きっと、方法はあります」
 蛍が声を張り上げ、式符・黒鴉を掲げた。冥闇の黒鴉が闇夜に紛れて、鋭いくちばしでアリを穿つ。
「落ち着いて……」
 ミニュイがアリの一匹を倒す。ミニュイの目は梟の瞳。暗闇に潜むアリたちの一匹一匹を見通している。
「きっと、巧妙に隠れてる」
「一旦ひくぞ!」
 仲間たちを庇っていたエイヴァンが後ろに下がる。即座に朱鷺が治癒符を走らせる。前衛にできた空白を、ハロルドが塞ぎ、ルアナとパティが埋めた。
「行くぜ!」
 ハロルドの聖剣を、アリは明らかに恐れている。その光を避けるように身を縮める。
「負けないでちよ!」
 パティとルアナが、ほぼ同時に紫電一閃を走らせる。交錯し、群れを4つに分けた。
「……!」
 4つの群れ。
 その1角。
 ハロルドが聖剣での攻撃を加える。
 すると、不意に、ルアナには”見えた”。
 ほとんど変わり映えのしないアリたち。
 だけれど、アレだけが違う。
 身を縮めて、保身に走った。光におびえるアリたちの中で、一匹だけ動きが違った。
「見えたか!?」
 ハロルドが叫ぶ。
 ルアナの赤い瞳が、しっかりと一匹をとらえている。
「……あれだ。アレが、女王」
 外見上の違いはない。アリの違いは、その性質、行動。
 勇ましくブラッディスピアを突き付ける。
 だが、すぐに群れに紛れてしまう。
 しかし。
「見えました……! わかりました……!」
 ルアナに答えるように、蛍の焔式が女王を焦がした。
「恐らくあのアリさん……です!」
 腹を覆うように隠れたが、もう逃がしはしない。
 ルアナのブレイブラッシュが、女王の触角を切り落とす。
「見つけましたわー」
「観念するでち!」
 タネは割れた。
 群れが、波が引くようにざわめき、女王を隠そうとする。だが……。
「本気で行くよ!」
 ミニュイのディスペアー・ブルーがあたりに響き渡る。絶望の海を歌う、声。アリたちはその場にうずくまり動けなくなる。
「逃がさない!」
 ルアナは名乗り口上をあげ、群れを引き付ける。アリたちは単純だ。たとえ、女王の指揮下といえども。
「いくぞ、食らえ!」
 前線に復帰したエイヴァンが使い慣れた重盾『海洋』でアリを殴りつける。
「よし! もう手加減する必要はねぇな!」
 ハロルドが聖剣を掲げた。闇夜を照らし、魔を討つ光が、一点に集中する。突きによって解放された光が、銀色の衝撃波をまとって敵を切り刻む。
 ハロルドは今まで抑えていた力を発揮する。
 その技の名を、月霜という。
「今だ!」
 ルアナが攻撃集中からの一刀両断で、女王への道を切り開く。ハロルドが再び、聖剣を掲げる。光から逃れようとあがくアリたちの群れ。
 女王と、取り巻きの数匹が真っ二つとなった。

●終幕
「ふぅ。第1幕はそろそろ幕引きですね」
 敗走するアリに、朱鷺は札を突き付ける。
「次の幕へ移行しましょう」
 読み通り、頭を失ったアリは逃げ帰ってゆく。
 付かず離れずについていけば必ず巣に戻る筈だ。
「後は、巣の破壊と残党狩ですね。頑張りましょう」
「俺は大丈夫だ。みんな、行けるか?」
 エイヴァンが振り返ると、ルアナは頷いた。
「巣を壊そう。二度とお家が被害に遭わないように」
 しばらく進むと、アリの巣にしては大きな巣穴が見つかった。
「ここが巣ですか?」
 イレギュラーズたちは一息つき、呼吸を整える。アリたちが襲ってくる様子はない。
「そろそろですか。第2幕を始めましょう」
「2回戦ですー」
「ここで、シロアリを全滅させるのです。ここで逃げられたら面倒ですからね」
「ちゅー、いくでち」
「はははっ! おら、掛かってこいよ! 皆殺しにしてやるぜ!」
 ハロルドが振るう聖剣に、アリたちは構える様子もなく突っ込んでいき、いとも単純に破れる。
 巣の掃討は呆気なく終わった。女王アリを倒したあとのアリたちは、姿は大きかろうが、まるでただのアリだ。
「一応、巣も壊しておきましょう」
 蛍は余った木材を用いて火をおこし、煙でおびき出した残党をしとめる。
「多少数が増えても、女王がいなければ、あっけないものですわー」
「こうも弱いと少し物足りないな」
 ハロルドの聖剣が、最後の一匹を切り伏せた。
「まあ、これで全部だろう」
「ちゅー、ちゅー、ちゅううう!!」
 パティは呼び声をあげると、ネズミやリスを集める。シロアリを恐れていた仲間たちも、ようやく安心して戻ってきたようだ。

●のちの話
 先ほどの戦闘の後、戻ってきた仲間たちに安全を伝えた後、パティは質問していた。
「ちょっとでちね。この蟻の巣って、前々から、こんなだったでちか??」
「ちゅー、ちゅー」
「なるほどでち……急に、でちか」

 こうして、ホージェ村を恐怖に陥れたシロアリ事件は、真の意味で解決した。
 突如として現れた突然変異体と思しき魔物。そして、イレギュラーズたちの偽物。
「これで、一件落着でしょうか?」
 朱鷺は崩れた巣穴を眺める。
「村人さん達を騙した方々も放ってはおけません」
 蛍は偽物たちの人相や服装、特徴等をまとめて、ローレットに報告することにした。
「男たちは顔は隠していたらしいけど、連れている犬が特徴的なんだっけ。糸口になるとすれば、そっちかなあ」
「まぁ、偽ローレットは、後でどうにかちゅるちかないでちね」
 ミニュイの言葉に、パティは頷く。
「犬。犬もおそらくは、突然変異かもしれないでちね」
「手配書だ。それと、注意喚起のビラだ」
 ハロルドが村人に手渡す。
「口で説明するよりは、役に立つんじゃないか?」
「ありがとうございます」
「俺達だけでは手が足りないので周辺の他の集落等への伝達を村人にも頼みたいところだな」
 エイヴァンの言葉に村民は頷いた。

「終わりましたわー」
 丘で歌っていたメリルナートが、一節を終えてゆっくりと降りてきた。探し人は独り歌う(ダウジング=アリエッタ)。男たちを思い浮かべて、かすかな気配を探っていた。
「はっきりはしませんがー、どうやらー大きな町の方ですねー」
「また何かたくらんでいるなら、厄介そうでちね」

 ところで、注意喚起と共に語られたイレギュラーズたちの活躍は、広まるにつれてちょっぴり尾ひれがついたらしい。
 のちほどイレギュラーズたちが、人ほどの大きさのアリの群れを退治した話をせがまれて困惑したのは、また別の話である。

成否

成功

MVP

ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者

状態異常

なし

あとがき

ニセモノイレギュラーズ退治、お疲れ様でした!
イレギュラーズたちの周知活動により、さらなる村人たちの二次被害を防ぐことができました。
本物のイレギュラーズたちの活躍を目の当たりにした村人たちには、温かい信頼が戻っていました。

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