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シナリオ詳細

<天使の梯子>絶対的良い子の国

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『正義の学園』
 カプセルホテルめいた二段並列構造の集合寝室からぞろりと身体を出し、ハシゴを使って自室兼寝室から出る。
 出てくるのは皆子供で、性別も年齢も種族もバラバラだ。
 しかし全員が全く同じ服をきて、綺麗に通路へと整列していた。
 彼らはくるりと壁際に向き直ると、一斉にロッカーを開いて服を取り出しその場で素早く着替え始める。
 彼らの所作に恥じらいや躊躇と言った物はなく、まるでそうすることがプログラムされた機械のように正確な動きだった。
 そして全員が着替えを終えると、統一された学生服姿で行列を成し進んでいく。
 彼らの向かう先は『教室』だ。
 チェス盤のように縦横綺麗に整備された道路と区画の中に設置された窓のないキューブ状の建造物群へ、それこそプログラムされた工場機械のようにふりわけられ歩いて行く子供達。
 彼らはそれぞれ教室へと入り決まった席へと座ると、それらが済んだ頃に始業のチャイムが鳴り響く。
 壁に掲示されている授業項目は、18時限目まであった。

●勤勉なる天秤
「『神の国』についてはもう聞いているかな?」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)はそんな風に説明を切り出してきた。
 神の国とは、昨今天義にて問題となっているリンバス・シティの類型である。異言都市(リンバス・シティ)が現実に定着してしまった街であるなら、この『神の国』は定着していない街だ。
 現実への侵食率が低く現時点では専用の『梯』を用いなければ至ることの出来ない特殊な領域、あるいは異空間をさす。
「これが出来ているってことは、放置すればこのままリンバス・シティが生まれるってこと。事前に潜入して、核となるものを破壊し除去しないといけない」
 たとえリンバス・シティの奪還方法が分かっていたとしても。罹患してから治す病と予防できる病とではワケが違うのである。

「今回侵入してもらうのは『正義の学園』という領域だ」
 ショウが資料として提示したのは、狂気的なほど統制された学校教育が行き届いた都市だ。
 子供達は6時間の睡眠と最低限の飲食を除き一日の全てを学校での勉強に費やす。沢山勉強して良い子になる国、というわけだ。
「一応、騎士が調査のために侵入して生徒達に核となるもののありかを尋ねるなどしたんだけれど……」
 ショウは表情を曇らせ、ゆっくりと首を横に振った。
「この街の生徒は『悪い子』を見つけると集団で『処分』しようとするんだ。全員の聖なる祈りを集合させた力をぶつけ、とてつもない破壊力で殺してしまおうとする。
 調査員はギリギリ逃げ出して一命を取り留めたけれど、同じように質問して回るのは危険だと忠告してくれたよ」
 つまりは、この『正義の学園都市』に『良い子』に扮して潜入し、そのなかで核となる聖遺物を発見しなければならないということだ。
 力尽くで解決しづらい問題だけに、なかなかに手強そうだ。
「核となる聖遺物は分かってる。街から奪われた『勤勉なる天秤』というアイテムだ。文字通り天秤の形をしていて、誠実な心を象徴している。
 あるとされる学園棟はひとつまで絞れているけど、その学園のどこにあるのかはわからない。特別な部屋にあるのかもしれないし、何気ない教室の片隅に置かれている可能性だってある。慎重に、学園の中を調査してほしい。
 くれぐれも、気をつけてね」

GMコメント

 学園の生徒に扮し、異常な学園のどこかにあるという聖遺物を見つけ出し奪還しましょう。

●潜入
 この領域『正義の学園』へ侵入すると、誰でも自動的に学生のような背丈や見た目になれます。学生服も精巧に作ったものが貸し出されるので、ぱっと見だけは充分この環境に溶け込むことができるでしょう。
 ですが振る舞いをミスると周囲から攻撃を食らう可能性がありますのでご注意ください。
 ちなみに。わざと『悪い子』を作って注意を引いている間に侵入しづらいところへ入ってみるという作戦も一応アリです。検討材料にしてもいいでしょう。

 調査するのは学園棟ひとつぶん。なんとなくよくある高等学校ひとむねを想像してもらえるとよいと思います。形こそ違いますが、内容は大体一緒です。
 ないのは窓と喜びと青春だけです。

●戦闘
 核となる聖遺物『勤勉なる天秤』を発見すると、学校全体に警報が鳴り響きそれを守っていたワールドイーターとの戦闘になります。
 聖遺物は奪還することが天義の都市からの依頼内容に含まれているので、破壊してしまうことはできません。必ず、手に入れてから領域よりの脱出を行ってください。
 脱出時は思い切り身バレするのでワールドイーターからの追撃や周囲の生徒からの激しい魔術砲撃をしのぎながら逃げることになるでしょう。
※この領域内で戦闘不能になった場合、命からがら外に逃げ出してきたという判定にします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <天使の梯子>絶対的良い子の国完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年04月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
一条 夢心地(p3p008344)
殿
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
ピリア(p3p010939)
欠けない月

リプレイ

●梯
「ここからその『王国』にいけるの?」
 『欠けない月』ピリア(p3p010939)が異空間へと繋がる『梯』を指さし、不思議そうに小首をかしげた。幼い背丈と表情に、その仕草はいたく似合っている。
「『がっこう』があるんだよね。ピリア、がっこういくのはじめてなの~♪」
「ああ、それは分かりますね」
 『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が柔らかく表情を崩し、横に並ぶ。
「俺も学校には通ったことがないので。学校生活がどんなものか興味はあるんです。『普通』の学校生活は体験できそうにないのが残念ですが……」
「はい。希望ヶ浜学園の様な場所ではなさそうですね」
 『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)たちにとっての『現代日本』のお手本は殆どが希望ヶ浜などの再現性東京にある。学校という環境もそこにこそ見いだしている部分があるらしい。
 さりとてこの世界に学校がない訳では勿論ないので、いわゆるひとつの『別世界感』でくくられているのである。
「千年に一人の良い子と呼ばれたこの一条夢心地」
 『殿』一条 夢心地(p3p008344)が眼鏡を突然着用した。瓶底のように分厚くぐるぐると何重にも円が入った、むしろ逆に令和っ子が見たことないような眼鏡を着用し学ラン姿で前髪を七三に分けていた。
 四角四面の真面目男子が役満してるような格好だが、いっそ逆に見たことない人間と成り果てていた。こういうウォーカーいそうでいないな、くらいの。
「『良い子』の理想像とは、このような……まさか……?」
 『愛し人が為』水天宮 妙見子(p3p010644)が困惑するのも無理からぬことである。
 それを『まあ夢心地のやることだし』で流してくれる『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)がどれほど貴重なことか。
「それにしても。規律、定刻、基準、単調……どこを向いても無機質で完璧で、なんて仕事が楽な場所なのだろうな」
 そしてこんな皮肉を言って空気を元に戻してくれるのである。
 妙見子も妙見子で『カルト宗教のようですね』と皮肉をもう一段盛って返した。
 ちなみにここでいうカルトとは言葉通りの小規模宗教の意味ではない。俗語としてのカルト。つまりは頭のおかしい集団の代名詞である。
 天義とい国全体がイレギュラーズからそんな風に見られていた数年前を思えば、なかなか新鮮な意見とすら言えた。
(こういうの、あの子(いもうと)なら上手くやれそうね)
 アーリアは学園に交じってにこやかに過ごす妹の姿を想像し、フフッと笑って髪を耳にかけた。昔の自分だったら居心地の悪さに退散してしまったことだろう。
 『いい子すぎて悪い女』になった妹と、『悪い子すぎていい女』になってしまったアーリアの対比がなんともいえない話である。
「懐かしいわ、神学校で朝お祈りをして聖書を読んで……」
「それはいいッスけど、無事に帰るまでが依頼ッスからね?」
 『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)がぱちんと手を合わせる。
「それじゃ、頑張るッスよ〜!」
 イルミナを先頭に、仲間達が順に『梯』に手をかける。
 行く先は学校。
 絶対的良い子の国。
 正義の行き着く、果ての果て。

●絶対的良い子の国
「ペストレーリャ、今日もあなたは『良い子』かしら」
 頬に伸ばしたアーリアの手が、ぬくもりをもって肩へと滑る。
 甘い背徳を喉の奥に覚えて、呼ばれた少女は頬を赤らめる。
 目を二度そらして、やっと壁掛け時計へと至った。
「お勉強の時間ですわ。アーリアお姉様」
「そうだったわね」
 次の教室へ行きましょうと歩き出すアーリアたちの耳に、美しいピアノの旋律が届いた。
 いや、旋律だけではない。
 開いたままの扉から、オパールのような煌めきがぽわぽわと漏れ出ている。
 同時に、歌声。
 それらが誰から発せられたものかアーリアは知っている。思わず立ち止まったという風に、アーリアは音楽室の扉の前に立った。
 部屋ではピアノ伴奏に従ってピリアが賛美歌を歌っている所だった。
 天に召します我等が主よ。慈しみ深く、我等の弱きを知りて。
 幼かったピリアの、まるで未来を見たかのような成長した姿。しかしその屈託のない表情は10才の少女そのものであった。
 アーリアの姿をみとめ、ぱたぱたと手を振る。
 そのチャーミングな仕草にアーリアも手を振って、そして教室を離れるのだった。

(どんな場所であれ人の性質に大差はない。
 誰しも真白なカンバスがあれば自分好みの染みを落としたいと願ってしまう
 人はそれを誘惑と呼び。
 ペテンとは望む染みを落とさせる行為だ)
 セレマにとって美しくあることは呼吸をすることに等しい。あるいは、心臓を動かすことに。
(瀟洒に、優雅に、夜花の如く美しく、後光の如く心を惹く所作で――)
 良い子であることは、その延長にあるようなものだとセレマはとらえていた。
「ジェフェリー、タイが乱れているね」
 美しく微笑み、セレマは学友のネクタイを直してやる。甘い香りに、学友はつい頬を朱に染めて目をそらした。
(多感なガキには刺激的すぎたかな)
 こうしてセレマが環境に溶け込む一方で、妙見子もまた持ち前の演技力でこの環境に溶け込んでいた。
「授業とは一体何を学ぶのか……立派な騎士になりたいので、教えてください先輩」
「知らぬことはよろしくないが、先達を敬い学ぶことは実に勤勉だ」
 眼鏡をかけなおし、妙見子の先輩にあたるカランドレアナという女性がハスキーな声で応えてくれた。
 勤勉を口癖とする彼女の心を掴むのは、妙見子にとってそう難しくない。学習の場を一通り見せて貰い、技や勉強を教わる。その過程で見た部屋を観察し、逐一記憶し……。
「カランドレアナ先輩。特別な『天秤』を見ませんでしたか?」
「天秤? さあ、見たことはないな。授業に使うものならばあの部屋に――」
「そうですか……」
 学内の生徒は知らない? で、あるならば……。

 情報は集まっている。
 白く澄んだ学生服の少女アッシュは、本棚から啓発的な洋書をひとつ選ぶと胸に抱いた。
 隠した片目から見ているのは、仲間達がこっそりと伝える情報だ。小さなネズミを学内に走らせ、仲間との連絡に用いているのである。
「貸し出しを」
 司書へ本を差し出し、処理が行われている間アッシュは部屋の中を観察した。
 まず目につくのはシンボルマーク。
 校章を初め様々な部分に天秤をモチーフにしたマークがあり、学内の至る所でそれを見るけることができた。
 しかしその一方で、『勤勉なる天秤』を見かけた仲間は今のところいない。
 であれば……。

「ハイ! 壱拾六進法であります!」
 夢心地がぴーんと手を上げ、教師に応える。その通りと教師は手を叩き、回答の速さに教室内がざわめいた。
 一方の夢心地は当然という風に眼鏡に手をやりすました表情を浮かべている。
 ではと次の話へ移ろうとしたところで、終業のチャイムが鳴り響いた。
 教師は『今回の授業はここまで』と行って速やかに教室を出、生徒達も次の教室へ移るべく移動を開始する。
 夢心地はつかつかと教卓へ歩み寄ると、取り出した雑巾でその机面を吹き始めた。
「学友はなんと勤勉なのだろう」
「夢心地氏は生徒の鏡であるな」
 学友達の尊敬のまなざしが集まる。夢心地は壁掛け時計を磨きながら、教室内に視線を走らせた。
 この部屋も違う。どこも同じような内装をしているが、『勤勉なる天秤』のような特別なものがあれば必ず目を引くはず。それがないということは……。

「大体、絞れてきたッスね」
「問題はどう『そこ』へ入るかなんですがね」
 イルミナとルーキスは教室を移動するふりをしながら、目的の場所を目指して歩いていた。
 ルーキスは懐から魔法のキーピックを取り出し、手の中でくるりと回す。
「ここの錠前は普通のものだった。『校長室』の鍵も見たところそうだったが……無断で侵入して咎められないわけがない」
「そうッスねえ」
 特別なアイテムは特別な場所に。そういったイルミナの直感は正しく、観察した限り通常の教室や学校の外部、展示用の棚などには『勤勉なる天秤』は置かれていなかった。
 透視能力をもつルーキスが観察してみたところ、やはりというべきかそれは施錠された校長室にあるガラス張りの棚に置かれていた。
 校長とおぼしき人物は机について常に何かしらの仕事をこなしており、隙を突くのは難しい。
「どうしますか?」
 ルーキスが問いかけると、イルミナは肩をすくめてかえした。
「アレしかないでしょう」
 仲間を通じて間接的に放たれたGOサイン。
 その結果――。
 アーリアが教室の真ん中で缶ビールのプルタブを開けた。

「良い子には疲れちゃった。教育的指導? 全年齢版でよろしくねぇ」
 胸元のボタンを外し酒をあおるという極端なほどの悪逆に、教室内の全ての生徒が唖然とし、そして咄嗟に聖なる詠唱を始めた。
 教室内に満ちた光が破裂するように襲いかかるも、そばにいたセレマがそれを受け止める。
「セレマ、君は怠惰なる彼女をかばうのか!?」
「愛しいキミ。ここで別れなんてあんまりだ」
 唖然とする学友にセレマはそう言うと。怒りと困惑のまま詠唱を始める彼に手を突きだした。
「必ず迎えに来るからボクを助けてくれ」
(――なんてね)
 この世界は聖遺物の力によって生み出された虚構。ここにいる人物達もまた虚構の産物だ。であるにも関わらず、セレマがこれまで植え付けてきた印象は学友たちを混乱させるに充分であったらしい。
 アーリアとセレマは揃って教室から飛び出す。
 廊下からは生徒達が走ってかけつけ、聖なる詠唱によって光の槍を乱射してくる。
 対抗するのはピリアと妙見子である。
「こっちこないで~!」
 魔力の籠もった歌を唱えると、オパールの煌めきが実質的な力を持って生徒たちを包み込んでいく。
 煌めきの中に沈む彼らは錯乱し、味方同士で聖なる槍を打ち合って同士討ちを始めた。
「今のうちに!」
「と言っても、無理に突破するしかなさそうですけれど」
 妙見子が振り返ると、カランドレアナ先輩が剣を抜いて走ってくるのが見えた。巨大鉄扇を棍棒のように握った妙見子が対抗するように駆け寄り、大上段から撃ち込まれた剣を鉄扇で受け止め、孤月を描くように受け流す。
「立派な騎士になりたいのは、嘘ではなかったのですよ。半分ほどは」
 そして警報が鳴り響く。

●王国の崩壊
 『勤勉なる天秤』を抱えて走るイルミナたちの前に、ワールドイーターが立ちはだかる。
 巨大な光の巨人めいたその姿は、迂回することはおろか通り抜けることも許してはくれそうにない。
 大きく腕を振り上げた巨人に伴って聖なる槍が大量に天に生まれ、降り注ぐ。生徒達が合唱する賛美歌が響き、大地に次々に槍が突き刺さった。
「息が詰まってしまいそうな場所、でしたね」
 降り注ぐ槍の中をジグザグに走り抜け、アッシュは銀の弓を構える。
 放った一本の矢は不思議な軌道を描いて巨人の足を貫いた。
「其れこそが此の造られた学園の歪みなのでしょうけれど……わたしは、もっと楽しいところであって欲しいです」
 アッシュはそう呟き、首にかけていたタイを解いて放り投げた。
 宙を泳ぐように風に舞うタイ。
 一方でピリアは新たな歌をうたいはじめた。オパールの煌めきが氷塊の群れとなって浮きあがり、その全てが合わさり巨大な氷塊の矢尻となった。
「さようなら。がっこう、きらいじゃなかったの。大きくなれて、うれしかったの」
 ピリアはありがとうの気持ちを込めて、巨大な矢尻を巨人めがけて発射する。
 直撃を受けた巨人がアッシュに射貫かれた足から順にがくりと崩れ片膝をつく。
 その隙を逃すことなくアーリアたちは動き出した。
「良い子はとっくに卒業したの。私もう、悪い子なんだから」
 アーリアは胸元に垂らした酒を指で掬うとそれをスッと唇をなぞるように塗った。
 囁きは魔法となり、魔法は力となる。
 巨人は頭をふらりと揺らし、頭を抑え空いた手でアーリアを排除するべく巨大な剣を作り出す。
 光が集まり束ねられ作られた剣は人を容易く破壊できそうだったが――そこへ割り込んだのはセレマと妙見子。
「単純な暴力じゃ、ボクは死なないんだよ」
 セレマは自らを一瞬で破壊されながらも一瞬で再生をはたし、その一方で妙見子が剣を上から押さえつけるようにして地面に固定する。
 引き抜こうとする力とそれは、不思議なことに拮抗した。
「勉強ばかりしておると、麿のような真面目しか取り柄のない大人になってしまうぞえ! なーーーっはっはっは!」
 剣を抜き、そして衣装を一瞬で脱ぎ捨て早き替えをした夢心地。
 同じく剣を抜きバンダナを額に巻くルーキス。
 二人は押さえつけた剣へと飛び乗ると、そのまま巨人の腕をも駆け上がっていく。
「悪くない体験でした。次は『普通の学生』になってみたいものですね」
 巨人の顔面へと飛びかかるルーキスの、華麗かつ強力な斬撃。通称『鬼百合』。
 と同時に夢心地の『秘剣・大丈夫』が繰り出され四つの斬撃は巨人の顔面を切り裂いた。
 とはいえ相手は恐るべき怪物。
 顔面を切り裂かれても暴れるだけの体力があるらしい。
 夢心地とルーキスを手で掴み、そして地面へと放り投げる。
 二人はくるりと回転して、それぞれセレマと妙見子にキャッチされた。
「トドメは……お譲りしましょうか?」
 弓を構えていたアッシュが、ちらりとイルミナを見る。
「じゃあお言葉にあまえて」
 パスするように放り投げた『勤勉なる天秤』。それをアッシュがキャッチし、イルミナはその場で光となった。
 否、光と見まがうほど高速で走り出し、自らを弾丸とするかのように巨人へと突進。
 そしてその巨体の腹を突き破るように――いや、実際に突き破って腹に大穴を開けたのだった。
「短い間でしたが――イルミナたちは卒業、ッス」

●日常にこそ帰依せよ
 誰かの描いた楽園は崩壊し、残されたのは聖遺物のみ。
 『勤勉なる天秤』を抱え、アッシュははあとため息をついた。
 イルミナのように希望ヶ浜学園に通ってみるのも、ここを知った今ではなかなか悪くないのかもしれない。
「歪んだ学園、でしたね」
「ッスねえ。生徒の皆さんもまるで生きてるみたいでしたし、壊しちゃうのはちょっと罪悪感ッスね」
「今更」
 ルーキスがハハッと軽快に笑う。
「ともかく、これで依頼は終了です。依頼人に聖遺物を届けておきましょう」
 アッシュから聖遺物を受け取り、歩き出すルーキス。
 その背を見送ってから、夢心地がぽんぽんと自分の肩をたたいた。
「しかし『良い子』というのは肩が凝る。やはり羽目を外してこその青春じゃな」
「それは同意」
 アーリアがどう保存していたのか、プルタブをあけた缶ビールに今になって口をつけた。
 ぐびぐびと飲み干し、そして一気にからにした缶をぎゅっと握りつぶす。
「でも、たまには良かったんじゃないかしらぁ?」
「たまには? フフ――そうかもしれないね」
 セレマが意味深につぶやき、そして『仕事は終わったから』ときびすを返して帰って行く。
 ピリアも充分働いたからか、うーんと背伸びとあくびをした。
「ねむくなっちゃった。帰ってお昼寝しよ~」
「そうですね。では、帰りましょうか」
 妙見子が振り返ると、そこはいつもの天義の町。日常がそこにあった。
 良い子も悪い子も入り乱れた、日常が。

成否

成功

MVP

アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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