シナリオ詳細
<月眩ターリク>月に歯向かう金緑石
オープニング
●
太陽の昇らぬ空は昏く、晴々とした空に変わって輝くは満天の望月。
永遠の夜の国、欠けることなき月はこの世あらざる異空間の証明に他ならぬ。
闊歩する異形なりし命は重ねに重ねられた数多の実験の成れの果て。
生んでは捨ててを繰り返した、最悪の光景だ。
そんな月の王国の一角――砂漠に描かれるは血陣、中央に頂くは大きな水晶のような何か。
それはラサに現存する『古宮カーマ・ルーマ』の祭祀場『アル=アラク』と全くの瓜二つ。
月を望む美しき祭祀場に描かれるは大仰な『血』の魔法陣。
儀式は女王へと手向ける花を大いに咲かせるべく執り行われるだろう。
「……」
ザラはそれを遠巻きからじっと見つめていた。
(……ポーラ、ごめんね)
自分が生きていると、どこかで聞いたらしい妹へと言葉にすることなく謝罪する。
きっと、もう会うことなどないだろうから。
(それでも――姉さんは、僕は、こうするしかないんだ)
両手に刻まれた刻印は『仕えるべき女王へ焦れるような感覚』を覚えさせる。
(――違う、ちがう、チガウ、僕は、ザラだ。
何のために、本来の意識を封じてる。なんのために、烙印なんて刻まれた。
思い出せ、何のために、此処にいるのか……)
『キュゥイ』
「……心配してくれるんだね、ミーちゃん」
包み込んでくれた大切な友達に、頬を緩める。
(ミーちゃんも、ごめんね。もうすぐだ。もうすぐ、君とのお別れが――)
もふもふ毛並みに頬ずりしながら、ザラは思う。
(……うん、落ち着いた。大丈夫、僕は僕のままだ)
深呼吸を繰り返す。
もうすぐだ。もうすぐ、儀式は始まるだろう。
――見てろよ、博士。女王陛下。外道商人ども。
僕程度のちっぽけな反攻なんて、きっと何の意味もないんだろうけど。
(それでもいいんだ。僕は、僕と同じように消費されゆく同胞を助ける。
――穢れ切った奴隷の僕だからこそ……お前たちは、僕のことを気にも止めちゃいないだろうから)
ザラは奴隷だった。
盗賊に攫われ、奴隷商に売られて――ラサで、幻想で、天義で、海洋で。
『生きて良く啼くアレキサンドライト』というお宝として消費され続けてきた。
どうにも、再生魔術と相性の良かったこの身体は、売りに出される頃には新品と見紛うほどだったとか、ラサの頃に言われた覚えがある。
ラサでの30年は地獄だった。
幻想での50年は血反吐を吐いた。
海洋での50年は楽しかった。
天義での40年は幻想の頃を思い出したけど、もう慣れ切っていた。
――それでも、今、理不尽な死を迎えようとしている同胞に比べれば、きっと天国だ。
●
月下、砂漠にひしめくは命の形を辛うじて成している無尽蔵の如き偽命体の山。
偽命体すらも成り損なったそれらは無数に存在している。
月に望む魔法陣の周囲には、多数の吸血鬼たちの姿が見える。
「証明、しにきたぜ……というか、城に行けると思ったんだがな」
天之空・ミーナ(p3p005003)は月を背後に立つザラへと告げる。
「あぁ、それはごめんね。でも、こっちも重要だと思うよ――特にその花がある人にとっては、だね」
「……何が起こってるんだ?」
「『夜の祭祀』だよ。今、魔法陣で執り行われている儀式は、『烙印』の『進行』を早める効果があるんだ。
偽命体を無尽蔵に作り出して、『私兵を増やす』ってのも目的だろうね」
「……信じて、いいのか」
「信じてくれても、そうでなくてもいいよ。
儀式には贄がいる。――その贄は何だと思う?」
「……幻想種、か」
こくりと、ザラは頷いた。
「――イレギュラーズ。僕はこれから、君達の邪魔をする。
すごく偶然なんだけど、幻想種達が捕らえられている一角があそこにあるんだ。
そこに行かれちゃあ、困るからね」
そう言ってザラが示した先には、転移陣が浮かび、そこに多数の幻想種達が姿を見せている。
どうやら、アンガラカにより眠らされているようではあるが――
「とっても困るな、もしも幻想種達を救い出されたら、僕は作戦失敗だ」
ルビーに輝く瞳を細め、吸血鬼はそう笑った。
(――だから、今から僕は君達を全力で止める。
そうしないと、僕は無惨に偽命体やらに殺されるだろうから)
脳裏に語り掛けられ、ミーナは目を瞠る。
- <月眩ターリク>月に歯向かう金緑石完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月02日 22時40分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
妖しく輝く月の光の逆光に立つ幻想種がルビーの瞳を向けていた。
(きっかけがラサの者だったのなら詫びの代わりだ。
それにここまでお膳立てしてもらった上でしくじってちゃ商会長の名折れだよ)
その視線を真っ向から受ける『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は愛銃に弾丸を籠めながら戦場を見やる。
(一番厄介そうなのは……あれだろうな)
視線の先にはぼんやり月を見上げる偽命体。
(実は烙印がどういうものなのかよく分かっていないのよね)
ぼんやりと考えているのは『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)だ。
愛剣を抜き放ちつつ、ひとまずの保護結界を張り巡らせておく。
(利害がある程度一致しているとはいえ、状況が表立った協力を阻んでいるのが厄介ね。
まるで彼女の動きを牽制するかのように……まさか、ね。
なんにしても幻想種達の救出の為に、『敵』は排除しないとね!)
愛剣を抜き放つ『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)もまた成り損ないの吸血鬼へと視線を向ける。
(やれやれ…まんまとハメられたか。
いや…悪い意味じゃねぇけどな。それじゃあお仕事といきますか)
語り掛けられた内容に『誰が為に』天之空・ミーナ(p3p005003)は獲物を構えながら内心で苦笑する。
「あれが人の嫁に手を出した泥棒猫。何やら訳ありのようですがそれはそれとして許す訳にはいきませんねぇ……」
そんなミーナの背後、抜き身で愛刀を握る『血吸い蜥蜴』クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)が笑ってみせれば、ザラが少しばかり驚いたように見えた。
(クリム? 何回でも言うが穏便にな? 烙印の件は油断した私が悪いんだからよ)
(ええ、安心してくださいミーナ。今回はザラさんについては穏便に済ませますよ。ただ他の連中に八つ当たりの被害がいくだけです)
物騒な事を言うクリムにミーナがハイテレパスで語り掛ければ、クリムが少しばかり肩を竦めてみせる。
(200年というのが、月の王国じゃなくてザラさんの想いだったってのは読めなかったけれど……。
仲間のため、命を懸ける姿勢は嫌いじゃないわ。いったん関わってしまったからには、最後まで付き合うってのが人情というものよね)
目の前に立つ吸血鬼を見て、『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)は思う。
ロザリオを握る手に力を籠めて、集中する。
(数えるくらいしか吸血鬼には会っていないけれど、それでもそれぞれ事情が異なるのは分かるよ。
吸血鬼は許さない、そう思っていたけれど……その辺りは魔種と似ているかな)
夢弦静鞘から神々廻剱を抜いた『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は吸血鬼への見方も変わってきつつある。
月に照らされる神々廻剱の写しは妖しく輝いているようにも見えるか。
「烙印の進行と偽命体の生産……質と数の両面で戦力を揃えようという目算ですか。
多くの罪のない人々を生贄にする儀式など行わせはしません」
愛銃を構えた『劉の書架守』劉・紫琳(p3p010462)はザラの後ろを見やり、次いで魔方陣の方を見る。
「君達の邪魔で兵が減ったからってことなんだろうね。良く知らないけど」
ザラが肩を竦めてそう答えるのを聞きつつ、柴琳は既に動き出していた。
摂理の座より導きだした狙うべき一点、奇襲と呼んでもおかしくない刹那の銃弾が戦場を迸る。
晶獣を撃ち抜いた魔弾は広域へと反重力を齎して晶獣とザラを一度に吹き飛ばす。
そのまま、第二射の銃弾が再び戦場の重力を変質させる。
「これは……! 不思議な銃弾だね」
圧し掛かる重力にザラが驚いた様子を見せた。
「……悪いが、ここは押し通らせて貰うぜ」
(暫くは私とやり合って貰うぜ。……仲間達が何とかしてくれるはずさ)
(そうしてもらわないと、僕としても困るね)
ミーナは愛剣を手に肉薄すると、軽やかに斬撃を払う。
闇を纏った希望の剣が月夜に溶けるように閃光を打つ。
(あの結界の破り方は? お前にできるか? それとも私達になんとかやれる物なのか?)
(単純に、陣を破壊すれば大丈夫だよ)
縫うように刻む斬撃を障壁を駆使して受け止められながらの問いにはそんな答えが返ってきた。
「貴女が私たちのミーナに烙印を刻んだ吸血鬼ですね?」
「君は……」
ザラへと肉薄したクリムは改めて問う。
「私の吸血種としての誇りとこの翼に賭けて断じて許す訳にはいきません。
まぁ、要するに。人の嫁に手を出しやがって。ここで死ね、泥棒猫が!」
鮮やかに刻む落首山茶花、変幻邪剣が追いすがり、ザラの首筋へとその切っ先が駆け抜ける。
戦場に散る花弁、ザラが目を瞠った。
「なるほど、そういうことか」
(泥棒猫呼ばわりして申し訳ありません。ですが、これも共謀を悟られぬためということで)
(いや、人の嫁に手を出した僕が悪いんだ。知らなかったとはいえ、ね。
この首が欲しいのなら上げても良いんだけど、それも全てが終わった後でだね)
「それじゃあ、始めましょうか」
ルチアはロザリオを包み込むように握り、天へと祈りを捧ぐ。
心に刻むメイデンハート。
「神が其を望まれる――」
(その御心に適うのならば、私は総てを擲つでしょう)
捧ぐ祈り、月の闇を裂くようにして光がクピド・ヤクサへと降り注ぐ。
「――ぁ、ぁぁぁぁああ!?!?!?」
絶叫の直後、ぐるりとクピド・ヤクサがこちらを見る。
人類ではありえない首の動きは尋常の存在ではない事の証拠である。
「敵、敵、敵、敵……!」
クワッと目を見開いた偽命体が喚き散らすような声をあげながら突っ込んでくる。
一足飛びでルチアへと飛び込んだクピド・ヤクサが血槍の二刀流を振るい激しい攻撃を繰り出していく。
それによってこちらに気付いたらしき偽命体たちがわらわらと集まりつつあった。
「これは油断できないわね……」
アルテミアはそう小さく呟き剣を構えた。
緩やかだった鼓動は戦闘開始を自覚するように高鳴り、熱意は質量を以って戦場を揺蕩い殺意へと変質する。
それに釣られた偽命体たちが、アルテミアへと近づいてくる。
(段々と自我を持つ偽命体と遭遇する頻度が増えている気がする。
単に出来のいい奴を温存していただけか、博士の実験が実りつつあるのか……あまり良い予感はしないな)
ラダはクピド・ヤクサに向けながら静かにその時を待っていた。
今のところは知性というより獣のそれに近いか。
敵の動きを見据え、ラダは引き金を弾いた。
放たれた銃声は大嵐の如く。
一度の銃撃で放たれた複数の銃弾が連続してクピド・ヤクサへと炸裂する。
1発目に受けた銃撃でぐらりと身体を仰け反らせたところを2発目が撃ち抜き、それによって再び身体を仰け反らせる。
そこへと迫るはヴェルグリーズの刃。
肉薄の刹那、極限の集中状態から振るわれる斬撃はきっと流星の如き煌きを残すだろう。
「随分と吸血欲求が酷くなってきたからこれ以上烙印を進行されるとすごく困るんだ。
だからこの祭祀を阻止させてもらうよ」
胸元に刻まれた烙印が疼くような感覚があった。
振り払う斬撃は美しき軌跡を描いてナイアガラの瀑布を思わせる夥しい流血を生む。
血液が花弁へと変じる偽命体で繰り広げられる光景はいっそ美しささえみえた。
「あぁ、あぁああ!!」
追撃は影より来る。
(さて、あちらは彼女たちに任せましょうか)
クピド・ヤクサの背後にいつの間にかあった影はレジーナである。
刹那に伸ばした斬撃は避けえぬ凶手、闇に溶ける薔薇黒鳥。
月夜の闇に溶けて放つ一撃を躱すことは出来ず、気付いた時には既に遅い。
背後より穿たれた肉の痛みにクピド・ヤクサが振り返る頃には、レジーナの姿はそこにあろうはずもなく。
(向かってくるなら迎撃せざるを得ないのだわ。ひとまず、警戒だけはしておきましょうか)
影に溶けて帰還すれば、意識の端には常に他の個体を見据えておく。
●
戦いは進んでいる。
「もう少し落ち着いたら?」
レジーナはそんな様子を間合いを開いた位置から見据えていた。
クピド・ヤクサの側面へと放たれた斬撃は究極の一。
射程を調節して打ち出されたそれは戦場駆け抜け、クピド・ヤクサ周辺にいる偽命体もろともに串刺しにしてみせる。
多段に繰り広げられるイレギュラーズの連撃から弾き出されるようにしてクピド・ヤクサがルチアめがけて飛び込んでくる。
壮絶極まる血槍の連撃、成り損ないといえど、その猛攻の火力は侮れぬものではない。
(私が倒れるのだけは何とか避けないと拙いわね)
輝く熾天宝冠、夥しい傷口を強烈に癒し直す柔らかな癒しの光が戦場を照らしていく。
広域を俯瞰して周囲を見る柴琳の瞳には動き出したザラだけではなく、クピド・ヤクサの動きも見えている。
「全く、手を抜けませんね」
息を吐いて呟いた理由はザラ。先手を打って与えた傷が既に癒えつつある。
本来人に打つようなものではない対物ライフルを構えて再び引き金を弾いた。
叩き込む鋼鉄の銃弾は不可避にして全てを撃ち抜く凶弾。
「その銃弾すごいけど、僕も負けられないんだ――」
多段に展開された魔法陣が鋼鉄の銃弾の勢いを殺す刹那、ザラが一気に肉薄してくる。
「相手してやるよ」
ミーナは死神の鎌をザラ目掛けて振り抜いた。
鮮やかな軌跡を描いた斬撃が彼女の身体へと炸裂すれば、浸透した魔力が内側から暴れ狂う。
追撃に振り抜いた希望の剣は残影の連撃を刻む。
クピド・ヤクサの猛攻は激しい。
「それにしても、成り損ないとはいえ『吸血鬼』が祭壇から生まれるなんて厄介ね!」
アルテミアは吸血鬼にしては弱い、けれど強敵と呼ぶにふさわしい敵へ、アルテミアは剣を振るう。
踏み込みと共に打ち出す瞬天三段、銀色の髪を月下に揺らし、連撃を撃つままにアルテミアは剣を振るう。
壮絶に撃ち抜く刺突、剣身が蒼炎と紅焔を纏い、斬り開く斬光。
それを人と呼ぶにはかなり歪な存在へ打ち出す様は、切り取れば絵画にさえみえようか。
「退き際を知っているというわけでもなさそうだ」
ラダは生まれ落ちたばかりが故か、知性があるとはいえどこか子供の癇癪のように暴れるクピド・ヤクサへと肉薄する。
至近距離まで近づけば、そのまま一気に引き金を弾いた。
ほぼ零距離で打ち出された凶弾を邪道と呼ぶものもあろうか。
荒れ狂う確殺自負の凶弾は無茶苦茶な風穴を生み、花弁が戦場に舞い上がる。
(見た限り、幻想種の特徴が多いけれど、なんだか、どこか同類のような感覚もあるのは不思議だね。
……幻想種だけじゃなく、精霊種も交じってることだろうか)
打ち込まれる槍をはじき返したヴェルグリーズは踏み込むと同時に斬撃を撃ち込んでいく。
コンゲーム・イズ・ドクトリン。性質の悪いことこの上ない優れた戦闘教義から繰り出す鮮やかな剣閃がクピド・ヤクサの動きを縫い付けるように封じ込める。
「う、あぁぁあああ!?!?」
ヴェルグリーズはそこから更に一段階、ギアを入れる。
神域にさえ到達する圧倒的な速度で打ち出される斬撃は多重の残像を伴い連撃となって切り刻む。
クピド・ヤクサの猛攻を単身で受け止める、それはほぼ魔種を相手取るにも近い迫力があった。
実際の力量で言えば、強力な魔種達に比べれば数段は格が落ちるような感覚もあるが。
(彼女が仲間の為に命を懸けるというのなら、私が懸けないのは違うわね)
全身を穿つ刃、身体が崩れ落ちる寸前、ルチアはぐっと手を握る。
パンドラの光が放たれる中、クピド・ヤクサの背後へ、仲間達が殺到していくのがルチアには見えていた。
近づく獣の如き成り損ないの吸血鬼とレジーナは視線を交えた。
「少し相手にしましょうか」
剣身が纏うは溢れんばかりの闘気、鮮やかな斬撃は黒き奔流となってクピド・ヤクサの身体を呑みこんでいく。
ルチアは改めて天に祈りを捧げるのだ。
「――Deus Vult。もうひとラウンド、相手してもらうわ」
「がぁぁあああ!!」
絶叫するクピド・ヤクサ、その身体は既にボロボロだ。
●
それからの戦いは最早特筆するまでもなかろう。
「無理だね、それは」
倒れ伏した成り損ないの吸血鬼が血に還る頃、ミーナがザラ問いかけると、彼女は短く笑う。
(例えあれが……クピド・ヤクサが消し飛んだとしても、ここには尋常じゃない数の偽命体がいる。
奴らが僕と君達の連携に気付けば、喜び勇んで僕を殺すだろうから)
自嘲的な笑みで彼女はそう笑い、その手に閃光を抱く。
(……そうか。なら、もう少し付き合ってもらうぞ!)
ミーナは前に向かうと死神の鎌を振るいザラへと連撃を撃ち込んでいく。
影すらも質量を生む連撃が強かにザラの傷を増やしていく。
(ミーナ、後は任せましたよ)
クリムはその様子をちらりと見てから、傭兵達の方へと走り出す。
「厄介な偽命体は撃退できましたし、次は彼らですね……取りこぼしたりしません」
柴琳の視線の先には傭兵達の姿。
気配を押し殺して進み、狙撃に最適な立地へ移動すれば、一気に引き金を弾いた。
離れた弾丸はそれまでと同様の紫晶重力弾。
傭兵の1体へと炸裂した弾丸はそこを起点に反重力を生み出して、周辺を吹き飛ばす。
悲鳴を上げながらすっ飛んだ多数の傭兵達は、砂漠に倒れたまま圧し掛かる重力で動きが取れず唸るばかり。
「あなた達に邪魔をされるわけにはいかないわ!」
アルテミアは愛剣を握りなおし、迫りくる偽命体たちへ向けて白刃を振るう。
着実に、確実に、幻想種達を救うための隙を生むために。
(なるほど、要は消し飛ばせばいいわけだな)
ラダは銃口を傭兵達へと向けながら念のために問えば、ザラから肯定の意思が感じ取れた。
「なら――話は早い、ぐずぐずしてると儀式が始まるからな」
刹那、ラダは引き金を弾いた。
圧倒的なコントロールセンス、壮絶極まる天運を駆使して放たれた凶弾は傭兵達のみに苛烈に食らいつく。
そこへ飛び込んできたのはクリムである。
「犯罪者なら何人いなくなっても大して問題にはなりませんよね?
つまり新鮮な血の滴るハツを大量に手に入れるチャンスと見てよろしいですよね?
安心してください、多少筋張ってようが硬かろうが美味しく食べて差し上げます。なので逃げないでくださいね?」
握られた無銘が鮮やかな軌跡を描いて表情を引きつらせる傭兵を斬り裂いた。
「それじゃあ、解除するとしましょうか」
レジーナは傭兵達を一閃すると、そのまま保護結界を解く。
妖しい輝きを帯びた魔法陣に触れて、陣の幾つかを消し飛ばせば、その輝きが解けていく。
「やれやれ、失敗だね……この辺りで退かせてもらうよ……」
安堵の息を漏らしつつ、ザラは笑う。
「出来れば、私が僕であるうちにまた会いましょう――」
微笑を零して、ザラはその場から去っていった。
「えぇ、そうね。あなたがまだ正気であるうちに捕まっている幻想種達を救出する為にも、ね」
アルテミアが言えば、ザラは確かに声に出さぬままに「ありがとう」と告げていた。
本の刹那、ルビーに輝く瞳はエメラルドに彩られていたように見えたのは気のせいだったのだろうか。
彼女の向かう先を、ラダ、ミーナ、ヴェルグリーズの3人は何となく思い浮かんでいた。
輝く月の王宮はすぐ傍だ――
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
●オーダー
【1】『吸血鬼』ザラの生存
【2】幻想種の救出
【3】『偽命体(ムーンチャイルド)』クピド・ヤクサの撃破または撃退
【4】拉致犯人グループの撃破
【5】『偽命体(ムーンチャイルド)』の可能な限りの撃破または撃退
●フィールドデータ
月の王国内に作り上げられた『古宮カーマルーマ』の祭祀場『アル=アラク』です。
本来のアル=アラクと違わぬ姿で存在しています。屋外であり、月を望む美しい場所です。
大地には大仰な『血』の魔法陣が描かれ、中央には水晶のようなものが存在しています。
●エネミーデータ
・『吸血鬼』ザラ
200年ほど前に攫われ、奴隷として各国を転々とした後、30年ほど前に解放された幻想種です。
現在は月の王国の吸血鬼です。
ルビーのような仄暗い紅の瞳と夜明けのような橙の髪が特徴的。
両手には烙印の華が咲いており、腕にまで伸びているのが見えます。
本当の狙いは『同族を救うこと』だけです。
奴隷として現在まで月の王国に潜伏、タイミングを待っていました。
吸血鬼になったのも『吸血鬼にならなければ餌として殺されて計画が無駄になる』ため。
とはいえ、ここでばれてしまえば何が起こるか分かりません。
自分の目的を完璧に達成するためにも、全力で攻撃してくるでしょう。
堅牢な守りと、脅威的な再生力を有し、近接の神秘アタッカーとして行動してきます。
・『サン・ブレット』ミー
イタチを思わせる晶獣ですが、サイズ感はどちらかというと熊の類。
獰猛かつ果敢、ザラと非常に高度な連携を取ります。
非常にタフな事に加えて物理戦闘力にも長け、敏捷性も悪くありません。
基本的にザラを守るタンク的な立ち位置を取ります。
・『偽命体(ムーンチャイルド)』クピド・ヤクサ×1
『夜の祭祀』により生まれたばかりの偽命体です。
言葉もたどたどしく、知性もぼんやりとした成り損ないの『吸血鬼』です。
血で出来た槍を両手に携え、月を眺めています。
イレギュラーズが幻想種の魔法陣に向かうと本能的にそれを阻むように攻撃してきます。
半端な吸血鬼ではありますが、当シナリオではザラに次ぐ強力なエネミーです。
ザラが何らかの理由でイレギュラーズと通謀していると察知された場合、
彼女を殺して無理矢理『吸血鬼』になろうとします。
HP、APを吸収する術に長け、【邪道】、【致命】、【出血】系列のBSを多用します。
また、一部の吸収スキルには攻勢BS回復が着いています。
自域、自範、近接単体スキルなどを持ちます。
HP、神攻が高く、EXA、反応速度がそれに続きます。
・『偽命体(ムーンチャイルド)』×???
夜の祭祀により誕生した無数に近い偽命体たち。
めちゃくちゃに数が多く、スペックも疎ら。
割と雑魚ばかりですが、必要以上に刺激すると数で押されかねません。ご注意を。
・『拉致犯人グループ』×20
悪徳傭兵や盗賊といった犯罪者からなるグループです
潤沢な武装をしており、装備に金がかかっています。
『夜の祭祀』の贄として用意された幻想種達を守っています。
皆さんの接近に気付けば反応してくるでしょう。
●NPCデータ
・『幻想種』×15
アンガラカによって眠らされている幻想種達です。
半径10m程の魔法陣の中に閉じ込められています。
どうやら、逃亡阻止のための陣のようです。
何らかの方法で解呪しましょう。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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