シナリオ詳細
<月眩ターリク>真白に滲むは烙印の花、月下に刻むは羅刹の刃
オープニング
●
――太陽の昇らぬ国。
満天の月を湛え、妖しき光に照らされた無窮の砂漠。
それこそが『月の王国』――『古宮カーマ・ルーマ』より繋がる異空間である。
大地を闊歩するのは歪なる命。
『偽命体(ムーンチャイルド)』と呼ばれる人造生命体、その失敗作たち。
あるいは、『晶獣(キレスファルゥ)』と呼称した紅血晶の成れの果て。
はたまた――『晶竜(キレスアッライル)』と呼ばれる紅血晶が埋め込まれた巨大なキマイラはそれらよりも脅威となり得ようか。
月光に照らされる砂漠にて、多数の晶獣たちを相手に1人の女が剣を振るっていた。
右の鎖骨の下辺りに刻まれたグラジオラスは烙印の花。
「これで何匹目だっけか」
手に握る野太刀は赤黒き血の色を魅せている。
「まあ、いいや。ほら、もっと来いよ、獣ども。アタシの糧になりな」
紅血晶の埋め込まれた多数のゴーレムたちを、アンデッドたちを徹底的に斬り捨てていく。
それは女にとって久方ぶりの『修練』であった。
確実にやがて来るイレギュラーに対するがための牙を研ぐ修練だった。
●
――『烙印』。
それ即ち、『吸血鬼』へと至る可能性を秘めたる花。
さながら疑似的な反転とも、狂気ともいうべきものだ。
「うぅ……」
ぱたりとネーヴェ(p3p007199)は顔を伏せた。
さすれば、そこには動かぬ脚がある。
水晶の如くなった脚は椿の花に侵されつつある。
(時間が経つほど、身体が何かを欲している、ような……)
気分は最悪に等しい。
心配をしてくれた友人と会うのが躊躇われた。
(ただでさえ、皆様を心配させてしまっているのに)
食欲なんて、夢を見る事なんて、もう随分とない。
取る気も起きない、のに。
(喉が渇いてしまう……どうしても、どうしても)
日に日に、血を吸いたいのだと、その気持ちばかりは大きくなる。
ただでさえない食欲の中、無理矢理に食べて。
ただでさえ眠れないのに、無理矢理に寝て。
そうやって、何とか『それ』から気を逸らしていた。
けれど、そうやって無視しているのさえ、少しずつ難しくなっていて――
(……これも、わたくしの罪……いえ、これは……違うのです)
身体を起こして、ネーヴェはベッドの横に手を伸ばす。
ちりん、音を立てた鈴の音に答えるようにして、使用人が顔を出す。
使用人はネーヴェを注視することを出来ぬのか、そっと目を伏せた。
「お願いします」
小さく言葉にすれば、彼女はそっとネーヴェに近づいて、車いすに乗せてくれた。
(せめて……せめて、吸血衝動だけ、でも)
止めなくてはならない。
脳裏によぎる、知りもしない『女王』と呼ばれる存在に焦れるように。
●
「さあ、はじめちゃん! もう一戦、行きましょう!
もうそろそろ時間ですが、もう一本ぐらいいけますよね!?」
すらりと愛刀を構え、すずな(p3p005307)は同じように双刀を構える少女へ言う。
「当然でしょ、くそワンコ。次こそ、取ってやるわ!」
双刀を構えたはじめもまた、そう叫ぶ。
2人は互いに剣を振るっていた。
半月ほど前にあった、吸血鬼。
「癪だけど、お願い、手を貸して――強くなりたいの」
頭を下げたはじめの願いを入れる形で、2人は訓練をしていた。
決戦へ至る道のりは少しずつ近づいている。
それまでに、一歩でも自分の剣を磨くために。
●
月の王国――その果てに見えるは『月の王宮』
調査を続けてもどうにも至る道の見当たらぬ王宮は、砂漠の向こうに姿を見せ続けている。
烙印に蝕まれる者も増えつつある中で、イレギュラーズの中で幾人かが『王宮へ至る方法』を本能的に分かるようになってきた。
それは、烙印の花が『女王』を求めて咲き誇るが故である。
烙印は、徐々に肉体へと浸透し、あらゆる変化を及ぼしたらしい。その内の一つが『女王への執心』。
「本当に辿り着いてしまえましたね」
すずなは辿り着いた王宮の前でそう言えば。
「……いるわね、あいつ」
そう隣に立つはじめが言った。
視線の先、そこには見覚えのある女がいた。
「……菖蒲さんと申しましたね。やはりここですか」
「よお、元気にしてたみてえだな。はじめ、すずなとやらもよ」
にやりと笑う菖蒲の気迫は以前よりも増している。
「はじめちゃん、気を付けてください……多分、前よりも」
「強く、なってる気がするわね」
「幾年ぶりか、真面目に修練ってのを積んでみたんだよ。
少しばかり、この力も馴染んできた」
そう言って笑う吸血鬼が纏う気迫は充実している。
「わたくしも、おります、よ」
ネーヴェはそれに続けた。
焦れるような感覚はこの王宮を示すと共に、何故かここを示していた。
それはきっと――自分が受けた烙印が菖蒲によるものだから、だったのだろう。
「おお、白兎。いいねえ……なあ、アンタ等、此処を越えてえんだろ?
なら、コイツを壊すことだ。コイツは防護魔法を構築する魔法陣の1つらしくてね。
コイツが破壊されちまうと、大元のコアにもダメージが行くって寸法だ」
「なぜそれをこちらに……?」
すずなが思わず問えば、菖蒲はにやりと笑い。
「教えとかねえと、フェアじゃねえだろ。まあ、壊せるかどうかは、別の話だが?」
戦闘開始を告げるように、菖蒲の闘気が迫力を増していく。
- <月眩ターリク>真白に滲むは烙印の花、月下に刻むは羅刹の刃完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月02日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「過程はどうあれ、やはり貴女も剣士なのですね。
前回に引き続き、与えられた力に驕ったままでは興醒めしてしまう所でした。
いち剣士として嬉しい限り。そして――鍛え直したのは貴女だけではありません」
すらりと愛剣を抜いた『忠犬』すずな(p3p005307)はちらりと初めの方を一瞥しつつ。
「ですが、これのどこがフェア何でしょうか! 正々堂々を謳うならせめて私達と同数、菖蒲さん含めて9体でしょうに!」
「あーそりゃあ悪いね。アタシも好き好んでコイツらを連れてるわけじゃない。
どっちかっていうと殺り損ねた残党ってのが正しいんじゃあねえか」
思わず文句を言ったすずなに、菖蒲が肩を竦めた。
たしかに、改めて周囲を見るに同じような晶獣だったモノが散りばっている。
そうなると、これらの晶獣は群れのボスに従う獣のような物だろうか。
「……こほん。まあ、仕方ありません。先に其方をお掃除しちゃいましょう。
はじめちゃんも菖蒲さんの所に行きたいでしょうが、我慢してくださいね?」
今にも剣を抜こうとする昔馴染みは「うぐぐ」と唸ってから舌打ちしている。
「夜、寝静まった街を歩くのが好き。部屋の窓から見上げる月も好き。
でも、あたしは太陽の光に育まれた、深緑の幻想種だから。
――こんな烙印も、月の王国なんていうのも、打ち破ってみせるよ」
愛杖を握り締めて『ノームの愛娘』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は目を閉じていた。
その身に刻まれた烙印は目の前の吸血鬼の手によるものではないが、この先を越えねば刻まれた烙印を払いようもない。
「幻想種か、どこの誰に刻まれたんだか知らねえが、いいねえ、やる気に満ちてることで」
そんな風にからりと笑う吸血鬼へ、フランは真っすぐに視線を交え。
「真っ向勝負の力比べなら、あたしは皆を支えるのみ!
ひとりぼっちで仲間もいない貴女と、頼れる仲間がいっぱいのこっちだったら負ける要素なんてひとっつもない!
ていうかその髪色と瞳の色ネーヴェさんと被ってますー! めっ!」
「ははっ、そりゃあ、前にそのネーヴェとやらにも言われたっけなぁ?」
「また、会いましたね。菖蒲様」
視線を受けた『星に想いを』ネーヴェ(p3p007199)は静かに答えるものだ。
「この烙印をつけたのは、貴女ですもの。
折角ですから、気になることも、聞いておきましょう」
「おもしれえ、また踊るってなら答えてやろうじゃねえか」
「相当腕に自信があるみたいだが、俺らにその余裕をかましたこと、後悔しても知らねえぜ?」
「是非とも後悔させてもらおうじゃねえか――なぁ?」
そこへ『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が重ねて言えば、静かに闘志を燃やして菖蒲が答える。
「やれやれ、最近アンタみたいな戦闘狂と縁が多くて困るよ」
その有様にアルヴァはそう肩を竦めてみせた。
(どんな手でも使ってでも強さを極める。
そんな刹那的に生きられたら…なんて漠然と憧れる時もあるわ。
でも。強くなったその先に何があるの?)
小さく「やっぱり、わたしに剣の道は向いてない」と自嘲するのは『この手を貴女に』タイム(p3p007854)である。
その視線の先には普段に増して賑やかなすずながいる。
(同じ道を歩む同志だから、きっと気が合うのね。ちょっとだけ羨ましい)
――それを口に出せば「違います!」と否定されるのだろうが。
「ああ、そうだな。当然こういうやつも出るわな。
力の良し悪しを考えず、ただ即席で強くなれればそれでいいと思っている手合い」
そう口にする『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)はいつでも剣を抜けるように整えている。
「力の良し悪しねえ? 人殺す術に良いも悪いもあるかよ。
せいぜいどれくらい悪いかだけだ、即席ってわけでもねえしな」
菖蒲の答えは静かなものだった。
「烙印に吸血鬼、随分と面倒なことになっていたものね。
……で、ソレを何とかする為には王宮まで踏み込んで、大本の女王って奴を何とかすればいいのかしら?」
そう首をかしげるのは『煉獄の剣』朱華(p3p010458)である。
「そういうことなんじゃねえか? アタシも良くは知らねえが」
「どうあれ教えてくれたことには感謝するわ。
そのお礼に今からその自信ごとアンタの持ってるソレを壊させてもらうとしましょうか」
愛剣を燃え上がらせて言えば、菖蒲が眩しそうに眼を細めた後で笑う。
(時間制限付きで進まねばならぬとは、中々に悪辣であることだな。
いや、そもそも紅血晶(このようなもの)自体が尋常の精神で作られたものではない、か……)
状況を考えていた大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)は銃口を動かして照準を定め。
「しかしながら、こちらのすべき事を詳らかにするその姿勢は天晴である。
武蔵のすべきことも一つ、その護りを突破する!!」
「いいねえ、ド派手な武器ってのは良い」
その挙動に愉しそうに吸血鬼が笑う。
「白兎らしく、兎の魅力で、飛び跳ねて魅せましょう! 菖蒲様、またお付き合い頂けるかしら!」
「はっ、前と同じってことか。いいぜ、やってやろうじゃねえか!」
愛らしい兎の魅力と共にネーヴェが言えば、爛々と輝く瞳で菖蒲がこちらへ迫る。
振り下ろされる斬撃を軽やかに躱して見せながら、その太刀筋を見極めんと試みる。
(前も、余裕があったわけでは、ないけれど。心して、かからなければ……)
迫る菖蒲の気迫にひり付く感覚を覚えながら、ネーヴェは菖蒲の猛攻に対応していく。
「けど誠実な奴でよかった。義賊はちょっと狡くてさ?」
アルヴァは菖蒲の後方へ回り込んでいた。
銃床を振り抜いていく。
それは伝説の冒険者が編み出したドクトリン。
敵を封じるべく計算された冴え冴えたる軌跡を描いた打撃が硬質な何かにぶつかった。
そのまま神聖を纏った壮絶のエクス・カリバーを振り下ろせば、同じような硬質な衝撃を受けて弾かれた。
「――そりゃあいい。傭兵ってのも、時には狡猾でなくちゃな!」
刹那、アルヴァの身体を斬撃が撃つ。
「言い忘れてた、俺は守る方が得意なんだ。ほら、墜としてみろよ」
炸裂した剣閃を受け止め、挑発してみせれば、菖蒲の目が輝いているのが見える。
(……とにかく、わたしはわたしの仕事に集中しなきゃ!)
タイムは始まりつつある戦場を見やり、深呼吸。
自らに閉ざされた聖域を構築して、前を見た。
「……! こっちよ!」
自分を奮い立たせるような声色でタイムは声をあげる。
勇猛ではない、勇猛ではないからこその声をあげれば、晶獣たちの視線がタイムを見る。
「痛みに慣れることなんて無いけれど……
誰かが引き受ける必要があるならわたしがやるわ。
だから菖蒲の方もしっかりお願いね。わたし『達』なら、出来るでしょ?」
既に攻防の始まった前線を見やり、言葉に残す。
「ほら、行きますよ、はじめちゃん! タイムさんの負担を減らすためにも」
すずなははじめへと告げながら剣閃を払う。
月下に踊る白刃は数多の斬撃を飛ばし、広域にある晶獣たちを瞬く間に斬り結んでいく。
鋼鉄の蛇が蜷局を巻くが如き斬撃の連鎖を紡いだ直後、続けて肇の放った斬撃が追撃の代わりの一閃を打つ。
「一気に焼き払ってあげるわ!」
朱華は灼炎の剱を振り上げた。
力を解放され、出力を上昇させた炎の剣は切っ先を大幅に延長し、振り抜いた斬撃は鮮烈な輝きを帯びて多数の晶獣を呑みこんでいく。
斬撃に巻き込まれていく晶獣たちは劇場で繰り広げられる恐怖劇の登場人物たちであるが如く踊り狂う。
幾重にも連なる斬撃の螺旋が内側にいる獲物を殺戮せしめて行く。
「あぁ、着実に1体ずつ撃破していこう」
エーレンは傭兵モドキに見えるアンデッドへと肉薄し、剣閃を払う。
鮮やかなる白刃の煌きは雷を纏い晶獣を斬り伏せる。
ふらりと揺れる敵へ、追撃となる一閃を見舞い残心、そのまま視線を次へ向けた。
「どんな砂漠でだって、種は芽吹くんだ!」
フランは両手を包み込むようにして合わせ、その内側にマナを練り上げていく。
淡い光の揺蕩う小さな種は魔力や気力を充実させる小さな種。
フランはそれを朱華へと手渡した。
「武蔵、砲撃支援を開始する!!」
武蔵は音を立てて停止した砲身を晶獣に向けた。
主砲たる九四式四六糎三連装砲改、9門の砲口が戦場に固定され、一斉に砲撃をぶっぱなす。
激しい砲声が連続し、緻密な演算の下に放たれた砲弾は多数の晶獣を貫く鋼の驟雨となって降り注ぐ。
●
「――捉えた」
武蔵はそんな応酬を静かに見定めていた。
菖蒲の動きを冷静に観察し、一点に向けて砲身を向ける。
「ミスタ・デスペラード、一斉掃射!!」
戦場を揺らす砲声、反動が身体を激しく打ち、放たれた砲撃は圧倒的な数を以って戦場を翔ける。
戦艦級の砲撃は菖蒲の身体へと吸い込まれて良き、その肉体を粉砕すべく弾幕を描く。
「で? 結局、何が聞きたいんだよ白兎!」
そんな言葉と共に振り抜かれた斬撃を危うげなく躱してから、ネーヴェは少しばかり間合いを開き。
「それでは、お聞かせください。
わたくしの、体。水晶のようになって、いるけれど、貴女は一見、同じような部位は見つからない。
なにか、違いがあるのかしら」
「なんだ、そんなことか。嬢ちゃんは前にぶつかってきたんじゃなかったか?」
そんな言葉にネーヴェが訝しむ。
(前に……)
「背中、ですか」
振り返り、ふと呟いた。
以前の戦いでネーヴェは戦っている間に背後から攻めかかった。
剣で防がれた時もあったが、改めて思い返すと勢いよく背中を蹴りつけた時もどこか硬質な衝撃を感じたような気がする。
「では、もうひとつ」
雷鳴を爆ぜる義足を走らせ、ネーヴェは肉薄する。
「吸血鬼の血は、美味しいのかしら? 菖蒲様、確かめさせてくださる?」
衝撃を腹部へと突き立てながら、耳元に口を寄せるように問う。
「ぐっ――!」
「吸血鬼の血を飲んで、何か起こるかは、わからないけれど。
仲間を、大事な誰かを傷つけるより……敵である貴女から、血をもらう方が、気にならないわ」
「へぇ、アンタ。存外、生きる気あるんだな?
死にたがりなのかいきたがりなのかはっきりしねえことで」
そのまま首飾りへと手を伸ばせば、そんな言葉が耳を突いた。
微かに止まった手、刹那に腹部へ痛みが走り、身体が後方へ吹き飛ばされた。
「一個聞くけどさ、何でそんな強いのに烙印付けられた?」
アルヴァはそこへ突撃を仕掛けて問いかける。
「知ってるぜ、アンタみたいな奴は自ら望んだんだろ。
自分の純粋な力に頼れねえ奴がフェアを語るなんて烏滸がましいし、そんな奴に俺は負けねえ。
義賊は狡いと言ったが辞めだ、俺は俺の力でてめえをぶちのめす」
アルヴァは激しく追い立てるように肉薄する。
「はっ、笑わせる。『義賊』だなんて単語でてめえに言い訳してるだけじゃねえの?
義だろうが何だろうが、盗賊ってことは変わらねえ。
アタシがフェアを語れないんだとしても、アンタにどうとか言われる筋合いもねえな!」
鮮やかな反撃の剣閃がアルヴァの身体を打つ。
「超かわいいヒーラー二人でミラクルチームワーク決めちゃうんだから!」
そういうタイムは自らの身体に刻まれた傷を晴らすべく熾天の冠を下ろしていた。
晶獣たちの攻撃を受け切ったその傷は深く、自分を心配する2人からのお叱りを受けそうだった。
「……壊せるかどうかは、別の話と仰いましたね?
――見事、私と永倉肇の剣で断ち斬って進ぜましょう!」
そこへ踏み込むはすずなとはじめである。
不退転と共に肉薄し、斬り開くは百花繚乱に咲き誇る鮮やかなる斬撃の連鎖。
「いいねいいねえ! そうじゃなくちゃよ!」
それらの殆どは菖蒲の剣によって防がれ、或いは致命傷にならない一太刀はスルーされながらも斬り結んでいく。
「壊せないとお思いなのでしょう? しっかり守ってくださいね!?」
一歩前に踏み込み、振り下ろした一閃。
「ははっ、そりゃあどうだろうなぁ!」
歓喜とさえ見える笑みと共に白刃が交わった。
それは大きな隙となる。
「――覚悟してもらうわよ、吸血鬼っ!」
そこへと朱華が飛び込んでいく。
踏み込みと同時に一気に炎の剣を振り払った。
紡がれるは邪道の極み、確殺自負の斬撃、燃え上がる紅蓮の輝き。
連なる連撃は死を生む壮烈なる炎の軌跡を生み出していく。
それは隙の生じていた菖蒲の身体に激烈な傷を生み、大量の花弁が戦場を彩った。
「――灼炎剣・烈火!」
集束した勢いをそのままに、朱華はもう一度無理矢理に剣を薙いだ。
真の力を解放せしめた炎の剣はそれその物が口を開いた火竜の如く、或いは火竜の息吹の如く戦場を一閃する。
エーレンは一気に肉薄し、菖蒲の前に踊りこんだ。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。努力もせずに一足飛びで強くしてもらい、喜んでその先兵……虚しくないのか、それで?」
振り払う剣閃は数多く、論理的に、演算し尽くした結果から振り抜かれる斬撃は敵を計算通りに追い詰めるための千手。
鮮やかに斬り開いた斬撃が菖蒲の身体に浅い傷を生み、花弁が戦場に散る。
「別に何とも思わねえな。手に入れた力をどうしようが人の勝手だろ? 別に女王陛下の先兵でもねえし」
「言っていることがちぐはぐだな」
そのまま、エーレンは腰を落とし踏み込み一閃。
壮絶なる一太刀は強烈な摩擦を生み、雷を帯びて奔る。
磨き抜かれた居合抜きが戦場に雷光を放ち、壮絶なる太刀となって菖蒲を穿つ。。
「あたし達は魔法陣を壊して、先に進むよ!」
フランは緑色の魔力を己に降ろして菖蒲へと告げる。
それは自分自身を叱咤するものであり、仲間達への激励である。
優しい緑の魔力を帯びた激励は仲間達に刻まれた異常を吹き飛ばし、気力を充実させる優しい風となって戦場を包み込む。
「伏せた札とはこのように使うのだ」
武蔵は静かに砲身を菖蒲へと定め、再び砲声を響かせる。
だがそれは先程までのそれとは別の砲撃、首飾りを狙い澄まして放たれた砲弾が戦場を駆る。
緩やかな放物線を描いた弾丸は計算され狙いすましたように菖蒲に炸裂する。
●
晶獣たちは倒れ、イレギュラーズは菖蒲との戦いに移行していた。
「あと少し、皆、頑張ろう!」
フランは魔力を充実させ、自らに輝く神聖の宝冠を下ろす。
月夜を暖かく照らすホーリークラウンが齎すは賦活の輝き。
宝冠はやがて輝きを増し、優しく温かな風を生む。
それは幻想的な福音となって深い傷を受ける仲間へ癒しを齎した。
「一人で強くある必要なんてない。
共に戦う仲間、守りたい大切な人、そういうものの為にわたし達は強くなれるの」
タイムは独りで剣を振るう吸血鬼へと宣言するように言葉にする。
増えていく傷を丁寧に癒していきながら、真っすぐに。
「――言いましたよね、断ち斬ってみせると」
そこへかかるのはすずなの一太刀。
首を狙う白刃の軌跡、それを菖蒲が微かに後ろへ仰け反り――プツン、とネックレスが引きちぎれた。
「はぁ……マジか、しくったな。これで終わりかよ」
転がり落ちたネックレスを見下ろし溜め息を吐いた菖蒲が数歩後ずさる。
「ふふん! 貴女の負け!」
「見たいだなぁ……まあいい。折角だ、続きは城の中でやるとしようぜ」
ドヤ顔でフランが言えば菖蒲は愉しそうな笑みを浮かべ大きく跳躍、王宮の方へと消えていく。
ネーヴェはその行く先を見つめていた。
胸を締め付けるような、そこへ早く行かねばならぬような――そんな焦れるような思いが燻っていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
敵の本拠地『月の王国』、いよいよその攻略が始まったようですね。
早速参りましょう
●オーダー
【1】『吸血鬼』菖蒲の撃退
【2】魔法陣の破壊
●フィールドデータ
月の王宮前。
周辺には巨大な魔法陣が展開しています。
どうやらこの魔法陣は防護魔法であり、これがある限り王宮には入れない様子。
『一つが壊れても防護魔法が続くように』と各地にその力を分担しているようです。
大元のコアを破壊するためには各地での戦闘で勝利し、魔法陣に傷を付けなくてはなりません。
戦場自体はただっぴろい砂漠です。
●エネミーデータ
・『吸血鬼』菖蒲
戦闘狂の奇人、ついでにスタイルの良い女性剣士。白い髪に赤い瞳をしています。
異世界から混沌へと転移してきた『旅人』でしたが現在は『吸血鬼』となっています。
右の鎖骨の下辺りにグラジオラスの花が1輪咲いています。烙印でしょう。
武器は刀身が赤黒い血を思わせる野太刀。
すずなさんの関係者がラサで傭兵稼業をしていた頃にお世話になった女性です。
魔種相当の実力を有します。
今回は首飾りを付けています。
どうやらこれが『破壊すべき魔法陣』であるようです。
前段シナリオで傷を受けたことでより高みを目指そうと修練に励んでいます。
前回より攻撃面では強化された一方、傷が癒えてないためHPや防技、回避が少し下がっています。
日本刀を用いる戦闘タイプに例にもれず、【邪道】、【連】などを駆使するアタッカータイプ。
また、斬撃による傷は【致命】傷になりやすく、【出血】系列のBSを伴う可能性があるほか、
縫い付けるような斬撃は【凍結】系列のBSとなって動きを阻害してきます。
・『晶獣』リール・ランキュヌ〔剣〕×5
紅血晶が付近の亡霊と反応し、生まれたアンデッド・モンスターです。
もともと亡霊として強力な怨念を抱えていましたが、紅血晶によってさらに強化されました。
生前が盗賊や悪徳傭兵であったのでしょう。
刀剣類を握る軽戦士を思わせる装いをしています。
汚染され呪いに満ちた剣による神秘斬撃は【毒】や【狂気】系列のBSを齎す可能性があります。
HPこそさほど高くありませんが、非常に身軽で回避性能はかなり高め。
・『晶獣』シャグラン・プーペ〔飛〕×5
紅血晶が、ラサの遺跡に眠っていたゴーレムに反応し、変質して生まれた晶獣です。
元は遺跡を守るガーディアンだったそれは、今は無差別に暴れる破壊の使徒と化しています。
強力な物理近距離攻撃を行ってきます。
飛行種を思わせる装いとハルバードを装備しています。
HPが非常に高く防技も高め。
反応速度が低めですが、【カウンター】を持っています。
【渾身】を持つ攻撃を多用してくるため、
万全の状態ではかなり強力ですが、徐々に息切れを起こしそうです。
●友軍データ
・『吸葛』はじめ
すずな(p3p005307)さんの関係者さんです。
戦闘では二振りの刀を用いてのパワーファイトを繰り広げます。
【飛】や【連】属性の近接攻撃や、遠距離への単体攻撃を行ないます。
すずなさんよりは少しばかり力量不足ですが、誤差の範囲です。
戦力として十分に信用できます。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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