PandoraPartyProject

シナリオ詳細

案山子はこねて飛ばす

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●麦の開花と憂い
 青々とした、広大な麦畑。そこにごく小さな白い花がいくつもついて、朝露のような瑞々しい景色を作り出していた。風が渡る度、麦の花はまるで銀色の波のように輝く。
 間もなく穂が出て黄金色へと変わっていき、あとふた月もすれば、収穫の季節となるだろう。

 しかし集落の者たちは麦畑に背を向けて、遠くの山並み、その霞んだ麓あたりを難しい表情で見つめていた。
「……今年は、かなり多そうですね」
 青年の硬い声に、傍らの老婆が重々しく頷く。
 彼らが見ていたもの。それは麦を狙う病気や害虫、害鳥の兆しであった。

●ソオズ石
「こうしてまたご足労いただきまして、誠にありがとうございます」
 以前、イレギュラーズたちが巨大なイモムシを退治し、イベントを無事成功へと導いた、あの集落の広場にて。
 集まったイレギュラーズたちに、現部落長である老婆――クローイは語りかけた。

「こちらでは毎年この時季になりますと、こういった石が、集落のあちこちから生えてくるのです」
 クローイが示したのは、水色がかった透明な石。指の先程度の物から両腕で抱えるほどの物まで、大きさは様々。しかしどれも角がなく、つるりとしていた。皆で拾い集めたのだろう、石は荷車に高く積まれている。
「これはソオズ石と言いまして、名の通り、案山子の代わりをしてくれる石なのです。これ自体、虫の嫌うにおいがあるのですが。……ロビィ」
 手本をお見せしなさい、とクローイは呼ぶ。呼ばれた娘、ロビィは少しどぎまぎしながら進み出た。

「えっと、じゃあ、蝶々にしようかな。うんと…… ほら、こうして手で触っていると、だんだんやわらかくなってくるんです。で、これをこうして」
 触るうち、粘土のように変化したソオズ石を、ロビィはこねる。そして小さな蝶の形に整えると、手のひらに乗せてふっと息を吹きかけた。
 すると水色の蝶は翅を瞬かせ、ひらひらと飛び立った。そのまま、麦畑のほうへと去っていく。
「ね? これであの子は畑の上を飛び回って、ずっと守ってくれるはずなんです。……おばあちゃん、これでいい?」
 ロビィはそそくさと下がっていった。

「今年は虫も鳥も、普段の年よりずっと多くなりそうなのです。どうかこの案山子作りに、皆様もご協力いただけないでしょうか」
 クローイはイレギュラーズたちにそう言って、頭を下げた。

GMコメント

 こんにちは、キャッサバです。
 アフターアクションありがとうございます! 元になったシナリオ「花は褒めて育てる」も読んでいただけると嬉しいです。

●目的
 ソオズ石をこねて飛ばして、麦畑を守る案山子を作ってあげてください。

●ソオズ石
 水色がかった透明な石。触っていると、粘土のようにやわらかくなり、形を変えられるようになります。そのままでも虫避けの効果があり、うまく成形すれば麦畑の上を飛び回り、鳥避けの効果も発揮してくれます。
 大きさは様々なので、作りたい物に合わせてお選びください。

●案山子作り
 ソオズ石をこねて形を作りながら、これは何で、どのように動くのか、くわしくイメージしてください。うまくイメージできないと、麦畑から外れてどこかへ行ってしまったり、鳥や虫を追い払わなかったり、そもそも飛ばなかったりします。
 イメージする物は何でも大丈夫です。猫でもお皿でも、本来飛ばない物でもイメージさえできればちゃんと飛びます。ソオズ石はたくさんあるので、複数作ることもできます。

 また前回のシナリオで大変素敵な花を咲かせたため、住民たちはイレギュラーズたちの作る物にとても期待し、楽しみにしています。
 作業の合間にお菓子や飲み物を差し入れつつ、めっちゃ見てきます。

●フィールド
 集落~麦畑が主な舞台となります。とくに変わった点はありませんが、麦畑には鳥がすでに集まってきています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 案山子はこねて飛ばす完了
  • GM名キャッサバ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年04月30日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
空木 大海(p3p010052)
海の底で愛に笑う
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
ピリア(p3p010939)
欠けない月
ジャンヌ・フォン・ジョルダン(p3p010994)
夢見る薔薇

リプレイ

●祭り開催
「おおー! おっきな麦畑!」
 イメージしやすいよう、麦畑へと移動したイレギュラーズたち。『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)は予想外に広く大きな畑を前に、感嘆の声を上げた。これだけの畑を維持できているのは、今回依頼された案山子の効果だろうか。

「ピリアね、小さなおさかなさんを、いっぱいつくりたいの!」
 波打つ麦を見て故郷を思い出したのか、『欠けない月』ピリア(p3p010939)は楽しそうに提案した。小さくてかわいいお魚が、たくさん集まって仲良く泳いで、まるで1匹の大きなお魚のようになったら。
「なるほど… 群れを つくる 魚といえば イワシの 仲間でしょうか…?」
 透き通った尾びれを振りながら、『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)はピリアの案を引き受ける。ノリアはイワシたちと間近に触れ合ったことはなかったが、遠目に見て可愛らしいと思っていたという。
(…地上のかたは 木のうえの リスの群れを 見あげるときに おなじように おもうのでしょうか?)
 ふむふむ、とノリアは考えつつ。2人はイメージを一致させ、さっそくイワシの群れ作りに取りかかることにした。
(おお、魚群。魚、魚か~)
 そして2人の話を聞いて、ユイユは麦畑の上を泳ぐ魚たちの姿を思い浮かべた。それなら何か、その光景に似合いそうなものを…… とユイユは思案していた。

 一人の少女がソオズ石を抱えていく。土手で拾ったカボチャでも扱うように、少しの警戒もなく。
『おチビの理解者』ヨハン=レーム(p3p001117)はその光景をこそ、やや疑わしげに見ていた。便利で、しかも勝手に生えてくるという、石。不気味である。一体どこからやってくるのか。しかしこの集落では毎年毎年ずっと利用してきたらしいし、誰も心配する様子はない。少なくとも、安全ではあるのだろうか……?
(まぁ、僕もこねますか。こねるのが仕事だしね)
 うむ。とひとつ頷いて考えを打ち切ると、ヨハンもソオズ石をこね始めた。

『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は手本を見せてくれた少女、ロビィとともに麦畑へ移動していた。手には休憩用の飲み物やおやつを、たくさん持って。持参した日傘があるとはいえ、ここはとても日当たりのいい畑で。レインとしては、こまめな休憩は必須だろう。ついでに皆の分も、と集落の人に頼んでもらってきたのである。
「レインさんは、どんなのを作るんですか?」
「うんと…何個かに分けて…作る予定…」
 ロビィに訊ねられ、レインはゆっくりとした口調で答える。それなら、とロビィは適当なソオズ石を取ってきてくれた。2人は一緒に作るつもりのようだ。

「で、なるべくたくさんの人に教えてほしいんだけど……」
 一方『剣閃飛鳥』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は広場に留まり、これから別の集落へ向かうという住民に声をかけていた。せっかくなので人を集め、案山子の披露を兼ねた祭りにしたいようだ。宣伝役を頼まれた住民とともに、ミルヴィは簡単なチラシを作っていく。
「よし、それじゃあ行ってくるぜ!」
「うん、気をつけてね!」
 そして出発した住民を見送ると、ミルヴィはハトのファミリアにチラシを持たせて放った。近隣の村々に向けて。

「石これで足りるかー?」
「おまつり??」
「大変、人が来るならお料理たくさん作らなきゃ……!」
「おーい、手の空いてるやつはみんな来てくれー!」
『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は集落の人々に祭りの計画を伝え、協力を仰いでいた。もともとイレギュラーズたちに興味津々だった住民たちは、その話に飛びついた。そしてにぎやかに準備が始まる。
「よければ案山子も一緒に作りませんかー?」
 手を振って呼びかけたフォルトゥナリアの声に、さらに人が集まる。

(展覧会か。良いアイデアだな)
『彼岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)は人々の輪から少し離れ、ソオズ石をこねていた。作る物は決まっている。というかモデルがここにいる。
「…………」
「ええと……」
 そして大地のそばにはもう一人、集落の少年が張りついていた。じいーっと、少年は大地の手元を見つめている。

(どこを見ても、大変興味深いのです……!)
 集落全体から麦畑まで熱心に見回って、『小さな花』ジャンヌ・フォン・ジョルダン(p3p010994)は人々の暮らしぶりに感心していた。貴族として様々な事柄を勉強中であるというジャンヌは、農村への理解を深めるべく、今回の依頼に参加していた。小規模ながら、豊かな集落。生活に余裕があるのだろう、人々の表情は生き生きとして明るく、皆楽しげである。
 ジャンヌは祭りの準備に参加する人々をしばらく観察した後、自らもその輪の中へと入っていった。

 ごそごそごそ。『海の底で愛に笑う』空木 大海(p3p010052)は山と積まれたソオズ石のなかから、目当ての石を探していた。
「ねぇねぇ、クローイさん。このくらいの身長の案山子を、2つ作りたいんだけど。いいかな?」
 大柄な大海の、肩か胸あたりだろうか。やけに具体的な大きさを指定して、大海はクローイに訊ねた。
「……? そうですね、こねて人型にのばすことを考えると、このあたりの石ならば、そのくらいの身長になるでしょうか」
 クローイは若干疑問を抱きつつ、けれど快く大海の石選びを手伝った。適当な石を2つ、大海に示す。
「ただこれだけ大きいものですと、手でさわるだけではなかなか柔らかくならないかもしれません。しばらくの間、こう、抱きかかえるように持ってみてください」
 そうアドバイスをし、クローイは去っていった。言われた通り、大海はソオズ石を温めるようにそっと抱きかかえる。
(大地君大地君大地君大地君大地君……)
 ひええっ。

●案山子作り
 つるりとして角がなく、水色がかったソオズ石。そして触ってみると、ひんやりしていて気持ちがいい。
(海を…固めたみたい…)
 レインは僅かに口元を綻ばせ、ソオズ石をこねていた。
「ロビィ、上手…」
「そ、そう? カエルなら見慣れてるからね」
 そうしてレインとロビィが今作っているのは、カエルであるらしかった。ロビィが作るカエルを真似て、レインも形を整えていく。出来上がったカエルをそれぞれ手のひらに乗せて、息を吹きかける。
「ん…」
「うーん……」
 脚を伸ばし、水中を泳ぐようになめらかに動き出したロビィのカエルに対し、レインのカエルはだいぶぎこちない。ぴょこり、ぴょこりと、緩慢にジャンプをするが、前へは進まない。
「次…僕がよく知ってるの…作る…」
 ジュースを飲んでちょっと休憩し、レインは再びソオズ石をこね始めた。

「イワシたちは せまいところは きらいですので きっと 麦には 手を だしませんの
 にもかかわらず 麦畑は ひろくて ねらう虫も おおいでしょう
 きっと とどまるのに ふさわしい場所ですの」
 イワシを見たことがないという住民たちに、ノリアは説明する。そしてイワシを1匹作ると、麦畑の上を泳がせてみせた。姿形、そして泳ぎ方を見せて、皆がイメージしやすいように。
「いっぱいいっぱいつくりたいから、みんなにも手伝ってほしいの!」
 せっせせっせと作りながら、ピリアも住民たちに呼びかける。彼女の近くではカラクサフロシキウサギの「うみちゃん」が、住民たちからもらった野菜をぱりぽり食べつつソオズ石を転がして運びながら、子供たちにもふもふされていた。

 フォルトゥナリアは人型の案山子を作ることに決め、まずはその手に持つ鎌を作っていた。収穫や実りを象徴する、鎌。それでいて命を刈る、鳥や虫を断ち切るという、鋭利さも持った鎌。フォルトゥナリアはそこに豊作への祈りを込め、丁寧に成形していった。
 きっとこの鎌は麦畑を守護し、豊かな実りを約束してくれるだろう。
(鳥や虫の首を刃の部分でペシペシと切るように動いて追い払ったり守ったり、もしくは首と胴を泣き別れさせてくれるかな)
 動きをイメージし、フォルトゥナリアは鎌を仕上げる。畑を害する存在に、情けは無用である。

 ミルヴィとヨハンも人型の案山子を作っていたが、2人の作るそれは対照的であった。
 ミルヴィの案山子は細くしなやかな手足がついているのに対し、ヨハンの案山子は巨大かつゴツい。筋肉ムキムキであった。しかしまだ足りぬとばかりに、ヨハンは筋肉をこねる。こねまくる。
(もっとムキムキかつ、均整の取れたぼでーにしなくては)
 謎の使命感を抱くヨハンにより、逆三角形の美しいマッチョマンが生み出される。スキンヘッドの筋肉巨人、その名もジャイアントソオズマンである。

 かわいくかわいく。ジャンヌはねこさんとわんちゃんを作っていた。実際の猫や犬をなでるように指を滑らせ、耳や尻尾を作っていく。かわいい彼らをイメージして、ジャンヌは微笑んだ。
 そしてジャンヌのすぐ近くで、ユイユも四つ足の生き物をこねていた。こちらはかなり手慣れた様子だ。すぐに完成させ、出来栄えを確かめる。
「よーし、行ってこーい!」
 ふわふわ毛皮の丸い背中に丸いおしりに丸い尻尾。そしてぽんぽこぽんぽこ走る姿は、見間違えようもなくタヌキであった。
「おお!?」
 やがて麦畑を走るタヌキを見た人々から、驚きの声が上がる。はっきりとイメージできたためか、水色だったタヌキに色がつき始めたのである。これはもう本当にタヌキ。宙を走るタヌキであった。
 そうしてジャンヌのねこさんとわんちゃんがタヌキに合流したとき、ユイユは無機疎通越しに声を聞いた。
(ありがとう。今年も豊作でありますように)
 ソオズ石からはっきり聞こえたその声に、ユイユは驚いた。

「……これは?」
「こいつは陸鮫のティブロン。海が苦手な、不思議な鮫だ。
 けれどこのゆるさに騙されちゃいけない。彼は陸を悠々と泳げるし、なんと空だって飛べる」
 大地をじーっと見ていた少年は、大地の案山子とそのモデルを見比べて、ひとつひとつ説明を求めてきた。その都度、大地は丁寧に解説する。少年はそれを聞きながら、ゆるかわいいティブロン案山子をフニフニしている。
「……これは?」
「こいつはウルタール。鱗と二本の尻尾があるけれど、愛情を持って接すれば、普通の猫と変わりはない。勿論猫だもの、鼠や虫の相手なんてお手の物さ」
「じゃあ、これは?」
「こいつはドラネコ。これは……えっと……ただ只管にかわいい亜竜だよ」
 まあ猫は愛されるのが仕事だからな! と若干どぎまぎした大地に、少年は「ふうん」とだけ言って、ティブロン案山子の背中でごろごろ。しかしやがて身体を起こすと、
「俺もドラネコ作りたい」
 だから教えろ、と大地に要求するのであった。

 大海はとても丁寧に細やかに、隅々まで忠実に、座って読書をしている案山子を作っていた。
(読書をしながら、表情がコロコロ変わるんだよね。正に自分自身が本の世界に入っているかのように)
 何時間眺めていても見飽きない、大好きなその姿。思い浮かべて案山子をこねながら、大海は幸せそうに微笑んでいた。
 イメージが強烈……いや鮮明すぎたためか、完成前から案山子には色がつき始めていた。

 *

 ピリアとノリアの指揮の下、集まった人々がイワシを作る。2人は出来上がったイワシを受け取って、軽く形を整えながら鮮明なイメージを付与していった。それからそっと空へと放す。見上げれば、イワシたちはなかなかの大群になってきていた。

 ドラネコを作る少年を手伝いつつ、大地はさらに案山子を作っていた。ウサギっぽいマスコットの「リコリス」と、カラクサフロシキウサギの「茜」をモデルにして。
「! うさぎっ」
 そうして完成した案山子ごと、ウサギたちは少年にさらわれていった。リコリスはやわらかい腕でぺしぺしと、茜はフロシキでぽむぽむと、少年を叩いて抵抗している。
「これ、このうさぎ、何!?」
 しかし少年は意に介さず、頬を紅潮させて大地に問いかけた。大地はウサギたちを解放してもらい、それからそれぞれについて説明を始めた。

 透き通った傘をふわりと広げ、大きなクラゲが宙を漂う。繊細な触手に日が透けて、雨だれのようにきらめく。
「きれい……ねえ見てレイン、さっきのカエルちゃんが!」
 すっかり打ち解けた様子のロビィが、レインに指し示す。見ると先ほどレインが作ったカエルが、クラゲの傘に跳び乗って一緒に漂っていた。
「ん…今度はこの子も大丈夫…な、はず…」
 そしてレインは、カエルをもう1匹放す。こちらのカエルは軽快に跳ね、麦畑のなかへと紛れていった。これなら無事、土や葉についた虫を退治してくれるだろう。
(陸では…後から産まれたら…『きょうだい』や『しまい』になるっていう…よね…)
 麦畑を守るように傘を広げた大クラゲを見ながら、レインは考える。
「それとも…僕…母親…? 母親なの、かな…」
「???」
 悩むレインの隣で、ロビィも首を傾げた。

 大海は2作目に取りかかっていた。見た目は先ほどの物と瓜二つだが、纏う雰囲気は違っていた。表情が、仕草が、佇まいが。しかしそれでいて同一。なおかつ二者。
 日頃の観察の成果か、涸れることのない情熱によってか。大海は見事にそれを表現していた。
(うん、笑う赤羽ママも可愛いよね)
 大海はとても楽しそうである。

 ジャイアントソオズマンは、間もなく完成しようとしていた。
(デカいは正義、だけど顔が怖いと、みんなを怖がらせてしまうよね)
 ということで、ヨハンはジャイアントソオズマンの顔をこねていた。こねて、切れ込みを入れて、歯を作って……
(ジャイアントソオズマンは毎日の歯磨きをかかさないので、このように虫歯のない素敵な歯。そして魅惑のハンサムフェイスを……)
 こねこねこねこねこねこね。そうして出来上がったジャイアントソオズマン。つるりとした美しい形の頭に、輝く笑顔。口元から覗く歯はチャーミングかつ清潔感に溢れ、太い首はなんとも頼もしく、そして全身を覆うおびただしい筋肉からは、麦畑を守り抜くという使命感がビシビシと伝わってくるようだ。
「……」
 ヨハンはしばし、無言のままジャイアントソオズマンを見つめていた。

 フォルトゥナリアは鎌を持った案山子を、さらにパワーアップさせようとしていた。左腕に細工をして、篭手を作っていく。これはかつてフォルトゥナリアがいた世界にて、ともに旅をした勇者が使っていた篭手だという。敵を打ち払い、幾度も仲間を守ったこれで、今度はこの麦畑が守るように。
 鮮明な記憶と丁寧な細工のためか、篭手には色がつき、
「!?」
「何?!」
「雷っ!?」
 飛ばす前から光線が発射された。鳥たちは逃げ、人々はどよめいた。

●案山子はこねて飛ばす
 そうして皆の案山子作りが終わった頃、近隣からの客人たちが到着し始めた。
「ようこそおいでくださいましたっ!」
 続々とやってくる彼らを、ジャンヌが出迎える。「お祭りをひらくのもまた領地を得たものの義務」と父君から教わったという彼女は、祭りと聞いて大変にはりきっていた。
 集落の人々が用意してくれた料理や菓子を配りながら、ジャンヌは挨拶し、皆を案内する。
 そして集落へと足を踏み入れた客人たちは、妖艶に踊るミルヴィに誘われ、麦畑へと向かった。
「どうも! こちらをどうぞ!」
 麦畑へ着くと、ユイユが一人に一本ずつ、成形したソオズ石を手渡した。綿毛のついたタンポポのような、あるいはネギ坊主のようなそれに、他所からの客人だけでなく、集落の人々も首を傾げた。

 人々の眼前に広がる麦畑。その上空を、ピリアとノリア、そして集落の人々が作ったイワシの群れが泳ぐ。イワシたちは大小にばらつきがあり、少し歪な形の物も混ざっていたが、決して互いにぶつかることなく泳いでいく。
「イワシさん、がおー! なの!」
 そしてピリアのかけ声に合わせるように、イワシたちは隊形を変化させる。ボール状だったイワシたちが素早く整列し、まるで大きな大きな1匹の魚のように――
「か、かわいいっ……」
 人々が口元を押さえ、巨大魚に見入る。紙のようにのっぺりとした、平面の魚。そして1匹だけ黒く作られたイワシが小さな目になっているところが、またなんとも言えず。
「大きなおさかなさん、かわいいね!」
 いかにも凶悪そうな牙を見せるように、口をがおがおさせる魚。鳥にとっては間違いなく脅威だが、人々にはむしろほのぼのとして見えた。
(気ままに およいで 皆さんと なかよく してください ですの)
 海の中と違い、この子たちが食べられてしまう心配はないのだから。ノリアは巨大魚を見上げ、尾びれをふるりと揺らした。

 他方ではジャイアントソオズマンが、ついに発進(?)していた。ジャイアントソオズマンは心優しい巨人。鳥も虫も、きっと優しく追い払ってくれるだろう。
 そして麦畑を何よりも愛している彼には、なんと本名があった。さあ、みんなで一緒に呼んでみよう!
「「「「だにえーる!!」」」」
 子供たちに呼ばれたジャイアントソオズマン・ダニエルは、さわやかな笑顔で皆を振り返る。美しい筋肉を見せつけるように、ポーズを決めながら。
 歓声を上げたり悲鳴を上げたりして、子供たちは大盛り上がりであった。
「おお……」
 ジャイアントソオズマンを見上げ、なんとも言えない表情の大地。彼は皆の作品を見て回っていた。片腕には、すっかり懐いた少年が引っついている。
「……そういえバ、大海のヤロー、変なの作ってねぇだろうナ……?」
 赤羽の懸念を受け、大地と少年は大海のほうへと向かった。
 
 大海の作った2体の案山子の近くには、人だかりができていた。
 愛情たっぷりに作られ、本物と見紛うばかりのそれらは、本を読みながらぷかぷかと浮いている大地と、鳥を脅かして遊んでいる赤羽であった。
「すごいなぁ」
「かっこいいわね~」
 他所からの客人たちにとっては「誰?」であったが、大地は以前にもこの集落からの依頼を受け、そして大活躍したイレギュラーズで。
「こんなに頼もしい案山子は他にないかもしれないねぇ」
 うんうん、と頷き合う集落の人々。大地たちはこそこそとその場から避難した。
 遠くではフォルトゥナリアの案山子がビームを放ち、鳥たちをなぎ払っていた。

 *

 麦畑の前で、ミルヴィが踊る。するとその背後で、ミルヴィの作った案山子も踊り始める。メインとサブ。光と影のように。砂漠の民らしい、スピーディーな踊り。傾き始めた日差しが麦畑を黄金色に照らし、ミルヴィの長い手足を際立たせる。
 ミルヴィが踊り終わると、大歓声が沸き起こった。

 すると突然、ずばばばーん! という派手な音が鳴り響き、ジャンヌが発光し始めた。そしてジャンヌの作ったねこさんとわんちゃんが麦畑を疾走する。ずばばばーん! 音は何度も鳴り響き、それに合わせてねこさんとわんちゃんが跳ぶ。
 なかなか突飛なパフォーマンスであったが、こちらも大盛況。人々は大いに盛り上がった。

「さあ皆さん一斉に! ポワワ~!」
 そして皆の熱気が最高潮に達したところで、ユイユが呼びかける。手には全員に配った、あの綿毛のタンポポっぽい形のソオズ石。皆がそれに息を吹きかけると、ソオズ石は散り、無数のシャボン玉となって空に飛んだ。そしてイワシたちの周りを巡る。海の中の泡のように。
「さあタヌにもご褒美だよ、ポワワ~」
 ついでにタヌキもシャボン玉のなかに入り、ひっくり返ってもだもだしている。そして人々が見上げる先では、イワシの巨大魚が夕日を受けて赤く輝いていた。
 ピリアが歌い、空の海原を七色の光で彩った。

「ほんとに…海…みたい…だね…」
 ロビィに子ウサギの案山子をプレゼントしながら、レインは目を細めていた。

成否

成功

MVP

ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございます。

たくさんの個性的な案山子が出来上がり、麦畑の全景は一体どんな具合になったでしょうか…… どきどきしますね。
お疲れ様でした。

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