シナリオ詳細
<ラドンの罪域>黒霧に笑むは碧緑の慈母なりて
オープニング
●
黒い靄に覆われたる『ピュニシオンの森』の出口付近、『ラドンの罪域』とも称される場所。
濃霧の如き黒の霧や、行く先を塞ぐように吹き付ける漆黒の風はただでさえ方向感覚を狂わされるピュニシオンの森において、最悪であった。
そんな中を、イレギュラーズは進む。
それは『冠位暴食』ベルゼー・グラトニオスへと至る道。
幾度か行われたピュニシオン調査の中で珱・琉珂が中心となって行われた調査は、ある結果を齎した。
それこそがベルゼーの居場所に関するヒント――即ち、冠位暴食はピュニシオンの向こう側へと退避していることであった。
前人未踏の森の向こう側、そこには『ヘスペリデス』というらしき竜種の里が存在するという。
黄昏の似合う最果ての地に人の文明を真似て作られた里に彼らはいるのだと。
目的地が定まったのならば、最早躊躇などいらない。
ローレットは『冠位暴食』を目指して進むだけなのだから。
どれくらい黒の靄を進んでいただろうか。
雰囲気だけでなく、実際に呼吸が浅くなってきていた。
意識して深く呼吸を続けながら、イレギュラーズは歩いている。
「何かにぶつかった? 岩や壁のような……」
先を行く1人が小さく声をあげる。
跳ね返されるようにして数歩下がった1人は『壁』と解釈したそれに触れる。
「――龍の身体を安易に触れるべきではないわ? 良かったわね、我に貴方達を殺す気がなくて」
それは声だった。
『天から降ってきた』声は――穏やか女性の物だ。
目が慣れて、霧の向こう側が視認できるようになっていく。
それは木々の間に立ちふさがる『壁』の如き――けれど、そうであった方が遥かに幸運だった。
木々の間を蜷局を巻くようにしてそこにいた龍の顔が、黒霧の上から姿を見せた。
目の前に立つ巨壁の如く、龍は笑う。
「ベルゼーの言うとおりね。本当に、小さな命。押せば殺してしまえそうな……ふふふふ」
小さな笑みと共に告げたかと思えば、壁が一瞬で消えた。
代わり、イレギュラーズの前に立っていたのは、長身の女性だった。
頭頂部に伸びる角と、蛇を思わせる縦筋の瞳孔、亜竜種を思わせる鱗と尻尾。
「こんにちは。こういう時、小さな子らはこういうのだったわね?」
柔らかく笑む、好意的に見える女――龍は、穏やかなに立っている。
「ベルゼーが言っていたわ。貴方達は無謀にも、こうと決めたからには突き進んでくるはずだと。
ふふふ、彼の愛し子を殊更に虐めてあげるつもりはないけれど……本当に無謀なのね」
頬に手を当てて、微笑む龍からは敵意が感じられない。
「――ねえ、今、貴方達は何を考えているの?
貴方達は、どれぐらいの力で抱き留めれば死んでしまうの?」
小首をかしげ、龍は問う。
いっそ慈母の如き柔らかな笑みと声で――値踏みするように。
「見せてもらえるかしら、貴方達の力。そのために、わざわざ余所の縄張りまで出張ったのだから」
柔らかい笑みはどこか母のようだった。
「……とはいえ、余所の領域で我が戦うのも違うでしょうから、この子達と、だけれど」
微笑むや、龍は指を鳴らす。
刹那、どこからともなく亜竜の咆哮が轟いた。
●
(人の子、ね)
一度だけ、彼らの集落にこっそりと顔を見せてみたことがある。
黙って、こっそりとだ。たったの1度である。
その時の彼らは押せばそれで死んでしまう印象しかなかった。
(ベルゼーが嘆き、慈しみ、可能な限り戦いを避けることを望む小さな命、ね)
土台存在の違う自分は、きっと抱きしめれば殺してしまうだろう。
囁けば脳髄を揺らして殺してしまうだろう。
哀れでか弱い、貧弱な子ら。
(そんな小さな子達を、貴方はどこまでも慈しむのね、ベルゼー)
龍は自身の権能が何たるかを知っている。
「ふふふ、それなら――貴方がそこまで想う子達に、少しだけ顔を見せようかしら」
棲み処を舞い上がり、龍は冠位暴食の願いを汲むようにそこへと降り立った。
彼らが来るしばしの間に適度に摘まんだ亜竜を牢に閉ざして、訪れるその時を待っていた。
子の帰りを待つ母のように――
- <ラドンの罪域>黒霧に笑むは碧緑の慈母なりて完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年04月24日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「竜種といえど問答無用で襲いかかって来るばかりではないんだね。
とはいえ、力試しはされるみたいだけど……」
小さく呟いた『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はセラフィムの出力を上げて魔力の残滓を散らせていく。
「余裕がない子も多いみたいね。でも、多少は仕方のない事よ」
そう言って龍が首をかしげる。
「これまで、それにこれからも。多くの竜が貴女達を不快としても仕方ないと思うわ。それは貴方達の尺度で見ても、ね。
この森を進み、我らの領域に足を踏み入れる、これって自分の家の庭先や家の中に土足で踏み込んで勝手されるようなものよ?」
そう語る龍の瞳が静かにイレギュラーズを見る。
「たしかに、そう言われてしまえばその通りですね」
穏やかに笑む龍へと肯定するのは『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)だ。
「どーも、こんにちは。それとごめんなさいね。
壁と勘違いしていたとはいえ、勝手に身体に触れるのは私ら(にんげん)の基準でもちょっとアレでした」
「ふふふ、構わないわ。元より貴女達を止める為にああして道を塞いでいたのだから。
もちろん、触らずに気づけるのが一番でしょうけれど」
謝辞を示した美咲に龍は再びそう言って微笑んだ。
「……それでも、無謀とも言われても行かねばならない理由がありましてね。
ウチの職場なんかは練達襲撃以来竜種の動きに敏感になっていまして」
言いつつ美咲の上げた左腕、義手がブーストからブーストを吹かせて臨戦態勢が整っていく。
「ああ、ベルゼーが天帝種を連れてったっていうあれかしら。
ふふふ、それを乗り越えたのなら――猶更、その力を見せてもらおうかしら」
「試されるのは良い気分では無いが、ここまで来て逃げ帰る訳にはいかない。この試練、受けて立つ!」
たおやかに笑う龍へ『導きの双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)は双刀を抜いて啖呵を切る。
「せっかくの機会だし、そんなに弱い存在ではないってことを証明してみせるよ!」
「ふふふ、それはとても興味があるわ?」
続くようなスティアの言葉に微笑みのままに答えた龍は頬に手を当ててリラックスした様子さえ見せた。
「コャー、確かにこの混沌で最も強大な種族という印象もあったのだけれども、竜種というのも色々な方がいるのねぇ」
そんな感想を抱く『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)である。
(ただ、今まで遭遇した竜種と、我々をか弱き存在と見下しているのは、同様のような気がするの)
そう、同じく抱いた想いを胡桃が口に出すまでもなく、龍は言う。
「それに、龍が殊更に貴方達を虐めるのも、ねえ。
貴方達の尺度で言うのなら、大人が子供に躍起になるようなものよね?」
慈悲に満ちた微笑みから放たれるのは穏やかなれど確かな自負。
敵意を見せられた方がまだ『相手にされている』と言わんばかりの台詞だった。
「こんにちは。ご丁寧に、痛み入ります。
様々されている気遣いを無用と言えない無力さがもどかしくありますが」
落ち着くままに魔力を高める『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)が龍へと告げれば、それに応じるは『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)であろう。
「力を示せと言われたなら、ボクの全力を尽くすのみよ。
無謀? 不足は勇気で補うわ! 珠緒さん、いきましょう!」
眼前に立ち微笑む龍に宣言すれば、その手には手甲、握りしめた聖剣が淡く輝いた。
「そう言う事ですので……無謀と言われようとも、ふたりで歩むと決めた道なのです。
桜咲珠緒。藤桜の術と剣にて、参ります」
応じるように珠緒は静かに手を払えば、淡く輝く魔力が日本刀の如き術式刀を顕現せしめた。
「ふふふ。たしか、貴女達のようなものを想い人、というのよね?」
変わることなく、龍は笑っていた。
「覚悟はしていたが、こうも竜種と遭遇するとはな。敵意すら持たれないなら好都合。その余裕に乗らせてもらおう」
黒鯱の強固なる牙を外骨格としたグローブに包んだ拳を握り締め、『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)は静かに闘志を燃やす。
事前に飲んでおいた携行品より得た過酷な環境への耐性さえも握り潰すような息苦しさは、これが『ただの環境ゆえ』の者ではない事の証明。
(この息苦しさも何らかの権能……ということか?)
果たしてそれは、この先に待つという『狂黒竜』の物か、あるいは眼前に立つ龍のそれかまでは分からないが。
(あの竜には手出ししたくはない)
穏やかに笑うままにそこに立つ龍を見る『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)のように、イレギュラーズ達は警戒こそすれど手を出すつもりはない。
(そのままそこで笑っていてくれるならいいんだけど……)
轟く咆哮、木々をへし折り地響きを奏でる亜竜達が戦場に姿を見せる。
それらは脅威から視線を逸らすようにこちらに向けた敵意を見せた。
「そう容易く折れると思うなよ、容易く死ぬと思うな。
此の身朽ち果てるまで進み続ける事をこの身に誓う。その覚悟こそ我が力」
ジョージはホーンケラプスの眼前に立つや静かに告げる。
巨大な角のやや下に位置する亜竜の瞳がこちらを向いていた。
揺らめく闘志は炎となってホーンケラプスの周囲を取り巻き、戦意を逆なでする。
「厳しい戦場ではあるが、死地にはまだ程遠い……この程度で止められると思うなよ!」
ルーキスは爆ぜるように走り出す。
圧倒的な速度で飛び出し、近くにいた亜竜達を巻き込み双刀を振り払う。
さながらハンターが獲物を狩り取るが如き斬撃を多数の亜竜に斬り結び、収束の一閃を跳ねてもう一度斬撃を見舞う。
「混沌揺蕩う星空の海よ」
ホーンケラプスを視界に収め、ヨゾラは静かに詠唱を紡ぐ。
「――空に瞬く星海よ、塗り潰せ」
星空のように煌く根源の力が広域にその力を押し広げ、それに合わせてヨゾラの背中が淡い光を帯びて行く。
「――飲み込め、泥よ」
顕現した星空の魔術は泥のように戦場を包み込み、広域に在るモノの運命に触れ、漆黒へと塗り潰す。
「コャー」
小さな呟きを漏らしつつ、胡桃はその身に纏う蒼炎を一点に集めていく。
(これだと狙いづらいの。位置取りを考えないといけないの)
少しばかり考えて、燃え盛る蒼炎を振り払う。
放たれた蒼き炎は尾を引いて黒霧を裂き、ファイアドレイクへを数度に渡って焼きつける。
「こう見えても竜種とは何回か戦ったこともあるからね。負けないよ!」
セラフィムの出力を上げたスティアは静かに旋律を刻む。
溢れるばかりの福音の音色は亜竜達をも魅せ、スティアへと数多の咆哮が向けられる。
「――いささかに 思ひて来しを多古の浦に 咲ける藤見て 一夜経ぬべし」
刹那、珠緒は周辺環境の把握に務めながら藤桜剣を振り払う。
貴美たる花蔓の描く軌跡は数多の亜竜達を絡め取り、忘我に誘われし亜竜達が大きな隙を作り出す。
「お、大きさの差が強さの差じゃないって、理解らせてあげる!」
その隙を縫うようにして走り抜けた蛍が亜竜を見上げて啖呵を切ってみせたのはその直後だった。
震える自分の声を奮い立たせるように、戦意を煽るような言葉と共に闘志は熱を帯びてダギュラスを引き付ける。
亜竜の咆哮がその証左だった。
そして亜竜達が動き出す。
ファイアドレイクたちが一斉にスティアへと飛び掛かり、それに続いたヒュドラ達も動き出す。
それらの終わる頃、ゆっくりと動き出したダギュラスの脚が大地を踏みしめ、周囲に強烈な衝撃と震動を生む。
「くっ――このっ!」
体勢を崩すことこそなくとも、受ける衝撃は蛍の堅牢なる防御力をしてなお強烈だった。
それとほぼ同時、ホーンケラプスがジョージ目掛けて突っ込んでくる。
軌道を見極め、十分に引きつけてから横へ向けて大きく跳躍すれば、突っ込んできた亜竜はそのまま地面に突っ伏する。
「小さいからと、なめるなよデカブツ」
そんな言葉と共に、ジョージはホーンケラプスの腹部を殴りつけた。
●
小型の亜竜達との戦闘を迅速に片付けたイレギュラーズは大型の亜竜達との戦闘に移行しつつあった。
「立ちふさがるなら、押し通るまで!」
ジョージはホーンケラプスめがけて握りしめた拳を叩きつけた。
そのまま硬化ブーツでの蹴撃を加え、己が肉体を武器として連撃を叩きつける。
それはさながら闘志でもって亜竜を絡め取り、削り落とすが如き連撃。
ヨゾラはホーンケラプスへと肉薄していた。
「これが僕の全力だ――!」
本体たる魔術紋を励起させ、鮮やかな光を放ちながらそれら全てをその手に集束。
ヨゾラの重ねた星海の泥がホーンケラプスの守りを阻害すれば、防御姿勢を取る暇さえない。
零距離で放つ星空の極撃があまり火力の全てでもって亜竜へと突き刺さる。
星が生まれる刻に生まれるエネルギーの如き極限まで高められた魔力は防御姿勢を取れずして耐えられるはずもなく、ホーンケラプスの悲鳴にも似た咆哮が戦場を劈いた。
ルーキスはダギュラスの側面に回り込むようにして一気に肉薄する。
「――鬼百合!」
双刀より打ち出す斬撃は師より学んだ破砕の斬光。
鬼の如く苛烈に、鬼の如く壮烈に。
花弁を散らすが如く相手の命を削り潰す斬撃は、諸刃の剣。
斬撃は連続し、亜竜の傷を瞬く間に増やしていく。
「コャー」
胡桃はダギュラスの足元まで移動していた。
(2人が抑えてるうちにこっちを片付けるの)
直立する亜竜は背後見回りこんだ胡桃の事を気づいていないのか、こちらへは攻撃をしてきていない。
その手に抱いた蒼炎を一気にダギュラスめがけて撃ち込んでいく。
(例え耐性があってもこれは痛いはず)
展開する術式へとその身に抱く炎が集束されていく。
赫奕たる蒼火が燃え上がり、直立たる亜竜を穿つように打ち出された。
(蛍さん、お願いします)
珠緒はテレパスを繋いだ先にいる蛍へと声をかけ、術式刀の魔力密度を高めていく。
(任せて、珠緒さん!)
ダギュラスと向かい合う蛍は手甲を輝かせ魔力障壁を構築、守りを固めて後、直ぐにそれに応じるべく動き出した。
狂い咲くは桜吹雪。
鮮やかなる色を以って紡いだ結界は大型亜竜2体を包み込んでその内側に捕捉する。
珠緒が握る愛刀に術式を並行励起させ、多重術式を構築する。
そのまま珠緒は目を閉じた。
極限の集中と共に呼吸を整えれば打ち出す斬撃は天地を揺るがす雷光の如き一閃となる。
桜花の彩りを描いた剣光は遥か遠くまで鮮烈に斬り裂き、一時的とはいえ黒霧を払ってみせる。
壮絶極まる一撃は2体の亜竜に破滅的な傷を刻む。
物理的な攻撃だけでも守るべく取った選択をダギュラスが気づいているわけではなかろうが――その口元に光を見た。
口腔に白光が集束し、胸を張るような動作の刹那――戦場を席巻するは白き閃光。
戦場そのものすらも破壊せんばかりの光線がイレギュラーズを焼きつけるように放射される。
その火力は蛍がこれまで受けてきた踏みつけや薙ぎ払いの比ではない。
(こちらを脅威と見てより効率よく殺せる方法で攻めてきましたね)
光線を受けた珠緒は冷静さを失うことなく観察する。
(あんなもの何度も受けるわけにはいきませんね……)
美咲は打ち出された光線の射程外で冷静に分析しつつ、義手に仕込んでおいた術式を起動する。
鳴り響くコーパス・C・キャロルの音色が受けたばかりの傷を治癒していく。
●
戦いは続いた。
脅威そのものであったダギュラスは倒れ、残るはホーンケラプス1体。
最早、敗走はない。後は油断せず打ち倒すのみ。
「――これで終わりだ! 夜の星の破撃(ナハトスターブラスター)!!」
星の光が瞬くかのように魔術紋を輝かせ、ヨゾラは再びホーンケラプスめがけて渾身の魔力を叩き込む。
多数の傷を受けつつあった亜竜へ突き立つ星の極撃は正しく極限の一撃。
戦場をホーンケラプスの絶叫の如き咆哮が劈いた。
「あと一息、だね!」
スティアはセラフィムの魔力をあげていく。
魔力の残滓が花弁を象り、森の中を埋め尽くしていく。
舞い踊る花弁の温かな光が傷を癒してみせる。
「どれだけ硬くても、わたしには関係ないの」
胡桃はその手に蒼炎を抱きホーンケラプスめがけて叩き込んでいく。
美しくも苛烈なる焔が抱く数多の力が呪いとなり亜竜を焼き潰す。
「これがボク達イレギュラーズの、人間の力――絆の力よ!」
蛍は拳を握り締め、数多の傷を受けなお立つ亜竜へと、その後ろに感じる龍へと啖呵を切ってみせる。
放つは艶然壮絶に咲き誇る桜吹雪。
刹那に舞い散るそれは亜竜を包み込み、押し寄せる結界を警戒すればそれは大いなる隙以外の何物でもない。
それを珠緒は待っていた。
「お見せしましょう、ふたりで紡ぐ比翼連理を」
振り払う愛刀、壮絶極まる術式操作センスにより紡がれる鮮やかなる斬撃の一閃。
眩むような閃光の一閃が美しき軌跡を紡ぎ、プラズマカッターと化した刀身による斬撃は亜竜の身体に大きな傷を刻む。
「これが俺達『ヒトの力』だ。龍よ、傍観者よ、その目にとくと焼き付けておくがいい!」
パンドラの輝きを放ちながら、ルーキスは啖呵を切ってみせる。
そのまま身を低くして肉薄。
鬼の力を宿し振り払う斬撃の軌跡は変幻にして苛烈。
亜竜の持つ堅牢なる防御力は鬼の膂力にも似た破砕の斬撃を用いてもなお硬く。
けれど、2度にわたり結ぶ斬撃は確かに傷を増やしていく。
その最中、常に背後に感じる視線は龍のものだろう。
亜竜との戦いは続く。
けれど、その行く末が既にイレギュラーズの勝利へと完全に傾いているのは明らかだった。
●
「ふふふ、面白い子達ね」
龍が微笑みを浮かべたまま埃でも払うような仕草をした。
刹那、それまで感じていた山頂にいるが如き息苦しさが嘘のように呼吸のしやすさが平地のそれに戻る。
「少しは私達の印象は変わったかなぁ? 後、質問しても良い?」
ほっと一息を吐いて、スティアは改めて龍へと問いかけた。
「そうね。我の見た弱き子らよりは随分と腕があるみたいね。
その力に免じて、少しぐらいなら答えるわ」
「どうして私達に興味を持ったの?」
「ふふふ、気になるでしょう? あの寂しい子が逃げに逃げて、耐えに耐え続けてる理由。
食べてしまえばいいのに、それをしないでいられるように抑え込み続けるあの子がその目論みを2度も打ち破られた相手。
見てみたいと思うのは駄目かしら」
「それって、ベルゼーさんのこと?」
「ええ。我よりも遥かに長い年を生きた彼の孤独や力への思いは知らないけれど。
その寂寥に我が性質は愛おしさを覚えているの」
「……貴方は人間に何を求めてるんスか?」
続けて問うたのは美咲である。
静かに微笑していた龍が初めて表情を微笑から変える。
「――強さを。あの哀れで悲しい、生まれ落ちての暴食を……それから解き放つだけの強さを求めます。
貴方達はその力を尽くして彼と同格を4つ滅ぼした、と我が庭に住まう小さな命から聞きました。
ならば、それを彼にも為してみせなさい」
(我が庭に住まう小さな命……亜竜種とは思えませんし、眷属ということでしょうかね)
龍の言葉に目を瞠りながら、美咲は素早く推測する。
「我が名はトレランシア。『碧岳龍』トレランシア――山の恵みと畏怖と共にあるモノ。
小さき子らへ容易く恩恵や加護を与えることは出来ませんが、その活躍を見せてもらいましょう」
そう言うや、龍は少しばかり後退して―― 一瞬でその姿を消した。
遥かな頭上、巨大な影がどこかへと消えていくのが見えた。
(トレランシア……また会う事もあるのかも、ね)
その行く末を見上げて、ヨゾラは独り想う。
果たして、それは予感かそれ以外か。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
●オーダー
【1】亜竜の撃破
【2】『碧岳龍』トレランシアの撤退
●フィールドデータ
ピュニシオンの森の出口付近、『ラドンの罪域』と呼ばれる場所です。
黒き靄、霧、風が吹き荒れ先を見通すことが出来ません。
見通しが酷く悪く、黒い風は重苦しい空気を纏っています。
非常に息苦しく、空気が薄い印象を受けます。
例えるのなら、山頂のような場所で呼吸しているような感覚です。
ターン開始時にランダムで【窒息】系列のBSを付与される可能性があります。
●エネミーデータ
・『碧岳龍』トレランシア
将星種『レグルス』の一角。
長く艶のある美しい碧の髪と瞳をしたスタイルの良い長身の女性を思わせます。
翼はなく、長い尻尾と頭頂部に角が生えています。
本来の姿は翼と足を持たない蛇のように長い、いわゆる東洋龍のような姿です。
慈母のような柔らかな雰囲気を持ちながらもやってることは土台存在からして違う龍らしく苛烈です。
本人曰く、ベルゼーが愛する『小さな人の子』とやらを見たいために姿を見せたとのこと。
基本的には戦場の後方で穏やかに笑っています。
亜竜の撃破後は撤退すると思われます。
戦闘能力は一切不明、突如として姿を見せた亜竜たちは彼女の権能の類によるものでしょうか……。
ひとまず向こうから攻撃してくることはなさそうです。
相手が興に乗るようなことをしたり、イレギュラーズ陣営側から攻撃すれば別です。
戦闘になってしまう場合は何が何でも逃げのびるよう心掛けてください。
・ダギュラス×1
翼を持たず、12メートルほどの直立型で怪獣のような亜竜です。
トレランシアを除けば当シナリオのボスエネミーといえます。
尾のよるなぎ払い、足で踏みつける近接範囲攻撃の他、破壊光線を持ちます。
破壊光線は遠距離まで直線を吹き飛ばすもの、円形上にぶちまける2種。
また背中に生えたトゲからの放電は自域相当への攻撃となります。
踏みつけ攻撃には【乱れ】系列のBSを付与する可能性があります。
破壊光線には【多重影】【邪道】が着き、【火炎】系列のBSが付与される可能性があります。
放電には【必殺】が着いており、【痺れ】系列、【麻痺】を付与される可能性があります。
・ホーンケラプス×1
巨大な角と盾のようなえりまきを持つ、10メートルほどで四足歩行の亜竜です。
図体に見合った堅牢な防御性能を持つ一方、鈍重です。
突進力が凄まじく、遠距離まで【移】付きのの【貫通】攻撃を行います。
巻き込まれれば【恍惚】、【乱れ】系列のBSを受ける可能性があります。
独特な泣き声には【怒り】、【混乱】、【泥沼】のBSを受ける可能性があります。
・ファイアドレイク×4
翼を持たず四足獣のように移動する亜竜です。
鋭い爪と強靱な顎をもち、堅い鱗に覆われています。
【必中】効果をもち、【火炎】系列のBSを与える効果のある魔法ブレスを吐きます。
強靭な顎に噛みつかれても【火炎】系列のBSを受ける可能性があります。
鋭い爪に引っかかれれば【出血】系列のBSを受ける可能性もあるでしょう。
・ヒュドラ×2
手足も翼もない巨大な蛇に似た亜竜です。
地上を這うように移動し、強力な【毒】系列のBSと【鬼道】効果をもったブレスを吐きます。
ブレスは遠距離まで届く範囲攻撃と単体への攻撃があります。
加えて牙からの【毒】系列BSを付与する噛みつきも存在します。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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