シナリオ詳細
<ラドンの罪域>吹き荒ぶは氷雪の女王
オープニング
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「相変わらず、辛気臭い場所だ」
黒き霧に包まれたるは『ラドンの罪域』――その名の通り、ラドンと呼ばれる竜の住まう場所。
そんな黒い霧の中にあって、美しき氷の結晶を思わせる翼がはためき、鞭のように尻尾が跳ねる。
それは女だった。冷たい霧氷の如き無の貌には翼のそれにも似た色の髪と瞳が乗っていた。
纏わりつくような重苦しい黒い霧と靄をまるで気にも留めず、黒風は彼女を避けるように吹いている。
「さて、ベルゼーが言うから来たが……ラドンの領域でラドンの為に戦ってやるのも癪だな」
傲慢不遜を絵に描いたような口ぶりで語る女の名をヒュノスティエラという。
透き通るような麗しき美貌と華奢な女性の亜竜種を思わせる装い。
だが、亜竜種がピュニシオンの森の奥地――出口にも近しいこんな場所にいるはずもない。
ヒュノスティエラ――雪麗竜ヒュノスティエラ、れっきとした竜種の一角である。
「そもそも、わたしが直接手を出してやる筋合いもないだろう……ならば」
小さな独り言の後、ヒュノスティエラは静かに飛翔する。
木々を抜けたその上に抜け出せば、気付いた亜竜たちが視認し、怯えながら飛び去っていく。
それに目もくれず、ヒュノスティエラはパチンと指を鳴らせば、浮かび上がったのは青白い魔法陣だった。
美しき輝きを放った陣の向こうから『落ちてきた』のは純白を思わせる鱗をした綺麗な亜竜たち。
叩きつけられた地面に驚きながら起き上がった亜竜たちはきょろきょろと周囲を見て、ヒュノスティエラを視認する。
たったそれだけで、亜竜たちは震えあがるように悲鳴を上げた。
椅子にでも腰掛けるような姿勢で睥睨したヒュノスティエラは、亜竜たちへと命を下す。
「じきに人間がこの地を踏むだろう。貴方達に命知らずな人間どもを相手にするのだ。
棲む場所をくれてやっているのだ。それぐらいの仕事は出来るだろう?」
それは命令だった。
当然の如く、拒否など許されるはずのない絶対の命令だった。
静かに冷たく下された女王の命令に屈するように、亜竜たちは頭を垂れてそれを受け入れた。
●
ローレットは幾重もの戦いを経て一つの真実に辿り着く。『冠位暴食』と呼ばれた男の正体だ。
『冠位暴食』ベルゼーは亜竜集落で一番に巨大である『フリアノン』の相談役として出入りしていた。
覇竜領域を拠点とする彼は良き隣人であった亜竜種達を害さぬためにと練達を、深緑を襲撃した。
しかしその両方の目論みの潰えた今、その矛先を覇竜領域に向けるしかなくなった。
幾つか行われた『ピュニシオンの森』の調査のうち、『フリアノン里長』である珱・琉珂を中心に行なわれた物は1つの結果を齎した。
即ち――ピュニシオンの森の先にベルゼーは退避している。
彼の周囲には竜種達が存在し、人の文明を真似て作られた竜種の里が存在している、と。
その地の名を『ヘスペリデス』と言う。
黄昏の似合う、最果ての地に彼等は居る。何を目論んでいるか、その真意も知らされずに――
目的地が知れたのなら、最早向かうだけ。
ピュニシオンの森を突破せんとするイレギュラーズを待ち受けていたのは『ラドンの罪域』と呼ばれる地であった。
鬱蒼とした木々に覆われ、ただでさえ重苦しい空気のピュニシオンの森はその地に至って更に凶悪なる牙を剥いていた。
黒き靄、霧に満たされた黒風が吹き荒れるラドンの罪域は、一歩踏み外せばあっという間に迷子になりかねない。
そうして、たった1人で迷子になったが最後、死が口を開けて待っているのが肌で実感させられるほどだ。
「こうも暗いと嫌になるねえ」
そう呟いたルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)はちらりとルナール・グリムゲルデ(p3p002562)をみやる。
「気を付けろ、ふらふらと迷子になってもしらんぞ」
「その時は見つけてくれるでしょ、ルナール先生?」
いつものように揶揄うルーキスとそれを柔らかく笑むルナールが答え――ふいに景色が一転する。
「さむっ!」
「――雪?」
ふるると身を震わせたルーキスに続け、ルナールは警戒を露わにする。
周囲を吹きつける黒風が一転、黒交じりに吹き付けたのは純白の雪風。
「来たようだな」
声は上から降ってきた。
吹雪の如き雪の向こう側、透き通るような翼が見えた気がする。
「――誰だ」
瞬く間に警戒を強めるイレギュラーズ達。
「本来なら、塵芥に名乗るなど有り得ないことだが、問われたのであれば答えてやるのが竜という物だ。
わたしの名はヒュノスティエラ。ベルゼーの願いだ、貴様らを足止めすることとする。
だが何もわたしが手を下してやる必要はない、良かったな、勝機はあるぞ」
酷く尊大に――冷気の如き冷たさと共に竜が言って、亜竜の咆哮が轟いた。
吹雪より姿を見せたのは、純白の亜竜たち。
- <ラドンの罪域>吹き荒ぶは氷雪の女王完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年04月24日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「雪麗竜様、こんにちは。竜種にも個で性格上の相性があるのですか」
そう声をかけた『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)に対して、竜が静かにこちらを見下ろしてくる。
「わたしに問うていいとは言った覚えはないが?」
冷たい視線には明確な不機嫌さがある。
各々が最強と自負している節さえある竜種、言い方を変えれば『極限に我の強い生物』ともいえるか。
それを考えれば性格上の相性の良しあしというのもあっておかしくはないのだろう。
「初手から竜種直々の歓迎かぁ。
いやはや流石というべきかな容赦がないね。よほど森の奥へ進ませたくないと見た」
此方を睥睨する竜種を見やり、『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)はそう言いつつも余裕を見せて笑う。
「うーん、何度でも言うが我ら夫婦は厄介ごとに巻き込まれる何かがあるのか」
一方の『片翼の守護者』ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)はそう呟いている。
(……うちのルーキスは興味があれば何にでも首を突っ込むのが仕様だからなぁ。
まぁ、妻が絡んだ時点……内容が何であれ夫である俺の仕事でもある、やれる限りのことはするとしよう)
「名乗りを受けたのなら、こちらも返すのが礼儀だろう。
ご機嫌よう。俺はキングマン。ジョージ・キングマンだ」
グローブの調子を整えながら」『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)が言えば、竜は少しばかりこちらを見下ろした。
こちらを個体として認識したのかまでは分からないが――
「やれ、竜種ってのはどうしてこう傲慢かな。
圧倒的な強さも伴うのだろうがその舐めプ、後悔させてやるよ!」
そう啖呵を切ってみせたのは『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)である。
「良く吼えるな、青いの」
短く言った竜はそれだけでその場から動きもしない。
「わざわざご苦労なことだけど、要するにアタシらに動かれると困るわけね?」
腰に手を当てて『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)は首をかしげる。
「じゃあ決まり、三十六計なんとやら! 逃げるが勝ちって話みたいね!」
からりと笑い飛ばして、京は動き出す。
「……ベルゼーさんの願い、か。
その結末が覇竜領域の破壊なのは知ってるんだよな?
冠位暴食は覇竜領域の全てを喰い尽くすだろう。それが存在意義だからな」
竜に向き合い問うのは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)だ。
「だがそれはハッピーエンドか?
信頼した者達を喰わねばならないなんて、ベルゼーさんはさぞ辛いだろうな。
貴女も棲む場所を失う。残念だが、塵芥だらけの外は静かに暮らせるようにできてない。
それでもそれが最善か?」
「長々と語っているが、一帯が滅びる? だからどうした。
奴が全てを喰らうから、わたしが住む場所を失う。だからどうした。
――そもそも、わたしが貴様ら塵芥がどうなるか関知するとでも? 笑わせるな。
貴様らが死に絶えたところだろうと生きていられるのが我々だ。
奴がどうしようと関係なく、竜の邪魔をするのなら死ぬのは貴様らだ、塵芥」
絶対零度の如き視線にどうしようもない生物としての隔たりを見せつけて竜は冷やかに言う。
「……今回は帰ってやるよ。でも、貴女にも考えてほしい。それだけだ」
愛剣を握り締め、イズマは亜竜めがけて剣を構えた。
「突如吹き始めた吹雪は彼女の権能でしょうか……だとしたら、竜種というのは本当にとんでもないです」
此方を見下ろす竜の視線を受けて『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)は小さく呟いた。
視線だけでも感じる迫力は尋常なものではない。
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「航空猟兵の名に懸けて、空の敵は俺がぶっ潰す!」
そんな言葉と共に飛び出したアルヴァは空へと翔ける。
威風激魂、魂より放たれし咆哮は啖呵となって口を切る。
飛び出してきたアルヴァを警戒するように唸り声をあげるワイヴァーンたちがそれを受けて亜竜達の咆哮をあげた。
それに続くように飛びあがった影は京のもの。
「あっはっはー、落ちろ落ちろー、飛べば落ちるは世の常よー!
偉そうに空なんて飛んでんじゃねーわよバッキャロー、あっはっはー!」
蹴撃が空気を穿てば、硬質化した空気そのものが弾丸のように駆け抜け、ワイヴァーンへと跳ねまわる跳弾のごとく食らいついていく。
「2人とも、そこで動くなよ!」
ジョージは先行する2人を巻き込まぬように半身を引いた。
複数の亜竜を巻き込む範囲へと放つ拳打は次元を穿ち、空間諸共に破砕してみせる。
そのまま踏み込み、第二撃となる蹴撃が弧を描いて空間を斬り払い、亜竜に追撃を叩き込む。
「支援は任せてください!」
その様子を見たトールは輝剣を立てるようにして握り、魔力を束ねる。
結晶刃が淡くオーロラの輝きを抱いた頃合いで天へと掲げれば、鮮やかな閃光が迸る。
ジョージへと降り注いだオーロラの輝きはその身に抗う力を与える。
「さて。それでは一番の大物であるヒュドラは私が向かいましょう」
そう言ったフルールの身体は蒼白く静かに燃える炎を纏っている。
それでいてどこか遥か遠くに燃える炎の如く揺らめく様は異質ですらあった。
刹那、放たれた一条の炎は真っすぐにヒュドラを貫いた。
強かに撃ち抜いた天の威を放つフルールへ、ヒュドラが憎悪と畏怖に満ちた視線を向ける。
怒りを露わにした蛇は冷気を帯びたブレスを吐きつけてくる。
フルールはそれを涼しい顔で受け、炎を以って焼き払う。
「やれやれ、今回は随分とデカイ竜を相手にすることになったな」
そういうルナールはフルールの隣を抜けてヒュドラへと肉薄する。
祝福と祈りの白銃へと弾丸を込め、零距離で撃鉄を起こす。
打ち出された弾丸は勇気と覚悟を載せた弾丸となってヒュドラの肉体へと風穴を開ける。
「さぁて今の実力で何処まで通用するか、試してみようか」
ルーキスは小さく笑い、術式を起動する。
空間より零れ落ちたケイオスタイドが多数の亜竜達を纏めてその泥に沈めていく。
多数の亜竜の多くが足を泥に取られて動きを鈍らせていく。
「吹けば飛ぶ矮小な存在でも成し遂げねばならない事があるんだ!」
愛剣を空気に叩きつけたイズマが放つジャミル・タクティールは鉛が奏でる恐怖の音色。
●
「俺が獲物に見えるか。食えるもんなら、喰ってみろよ!」
アルヴァは迫りくるワイヴァーンへと啖呵を切ってみせる。
その身に降ろした加護は大いなる可能性の塊、あるいは人の夢。
残響する黄金の輝きを纏えば、叩きつけられる数多の猛攻など大した痛みにならぬ。
「あらやだ、もしかしてサシでやろうっての? アタシもそっちの方が好きよ、シンプルだし!」
アルヴァを迂回するようにして降りてきたワイヴァーンを見上げ、京は笑む。
突っ込んでくるのに合わせて跳躍すれば、首筋を掴んでぐるんと回り、その背中に着地。
そのまま瓦割でもするが如く真下へ殴りつける。
そのまま、呼吸を整え、手刀の要領で首筋を叩けば、ワイヴァーンが声をあげて落下し始めた。
「よくもまあ、ちょこまかと動くものだ」
空から降ってきたのはそんな声だった。
「俺達は止まらない。ここでは退くことを選ぶのだとしても! 絶対に、諦めたりはせん。
そのために、なんとしても足掻き続けるのだ!」
ジョージは竜の言葉に答えるようにそう啖呵を切った。
振り抜いた拳は真っすぐにワイヴァーン目掛けて伸びていく。
全霊の連打は夥しい量の傷を生み、多量の血が零れ落ちる。
「ドレイクは私が受け持ちます。
空中にばかり目が行って足元がお留守……帰り道が塞がれていたとなってはシャレになりませんからね」
ドレイクたちに向けてトールは愛剣を振り払う。
オーロラの煌きが瞬き、ドレイクたちの注意を惹きつけてみせる。
「ふふ、私に向けられるその憎悪、滾り……ゾクゾクするわ」
微笑すら浮かべる余裕を見せるフルールにヒュドラが飛び掛かる。
強靭な牙を剥いたその一撃はしかしてフルールを捉えることはない。
陽炎を撃ったかのように揺らめくフルールは静かにその様子を観察していく。
そんなフルールの眼前でヒュドラがぐるりと身を翻す。
しなりを上げた尻尾がルナールとフルールを纏めて薙ぎ払う。
「これでは当初の予定と逆だな」
ルナールは自らの傷を治癒しながら小さく苦笑する。
高く整えられたステータスも相まって致命的ではないものの、ルナールは傷が増えつつある。、
フルールの方は多重の加護もあって傷一つない分、対称的に傷は多い。
「深淵は何時も隣にある。資格ある者よ、宿縁よ。彼方からの呼び声を聞け――クラウストラ」
ルーキスは星灯の書を紐解き術式を起こす。
広域に紐解かれるは魔術の深淵、迸る魔術は捕捉された者達の運命を捻じ曲げる。
抵抗の余地をなくし、身動きを封じられた亜竜達の声が響く。
「俺達も……負けられないんだ」
再び振るうイズマの鉛の楽団が続き、ワイヴァーンの身体へと複数の風穴を開いていく。
●
戦いは続いている。
異常にタフな亜竜達を相手取るイレギュラーズの傷は少なくない。
それでも、ワイヴァーンの数は順調に減りつつあった。
「まだまだこんなもんじゃねえ。もっと速く、強く」
アルヴァは自らに術式を付与すると、そのままワイヴァーン目掛けて銃床を殴りつけた。
大いなる神性を抱いたただの殴打は、壮絶なる一撃となってワイヴァーンの頭部を穿ち、頭蓋骨を圧し折ってみせる。
「グゥルガァ!!」
激情、人間なら即死の怪我を受けた亜竜の咆哮と牙がアルヴァの身を打った。
「確実に仕留める」
ジョージは力強く踏み込むとワイヴァーンの頭部を思いっきり殴りつけた。
ガクンと頭を落としたワイヴァーンへ向けて横薙ぎに打ち込む追撃の拳は最優の防御力を以って痛撃と為してその頭部を吹き飛ばす。
くるくるとすっ飛んでいったワイヴァーンは樹に叩きつけられ、圧し折れる音が響いた。
「あと1体……みたいだね」
木に叩きつけられたワイヴァーンが動かなくなっているのを確かめると、京は視線を巡らせる。
「グゥルル」
低く唸るワイヴァーンに腰を落として構えれば――咆哮。
「あっはっはー、君もアタシとタイマンするってわけ?」
京の言葉に挑発されるように突っ込んできたワイヴァーンに合わせて拳を叩きつける。
ただの刻み突きでは済まされぬ連打を受けて怯んだところへ炎雷の如き蹴撃を撃ち込んでいく。
トールは5匹のドレイクを相手取っていた。
複数の個体が一斉に突っ込んできて、その強靭な顎で食らいついてくる。
「いつ――っ」
思わず声に漏らす。
高い精神性を駆使して攻撃を落ち着いて受ければ傷は深くならずに済んでいる。
血を失うことを避けながら、トールは視線をワイヴァーンの方へ向ける。
少しでも早く、撤退の為の障害を潰すために。
振るう結晶刃が鮮やかなオーロラの斬撃を走らせ、戦場を駆け抜ける。
ワイヴァーンへ齎される斬撃は鮮やかな光の演奏を魅せて紡ぎ出されていく。
「どうやらブレイクの類はなさそうですね」
フルールは小さく呟くと、その手に炎で出来たスモモの花弁を抱き、くるりと身を翻す。
ふわりと舞った無数の花弁は戦場に舞い散り、仲間達の身体に触れて熱を与えていく。
「もうそろそろワイヴァーンの方も片付きそうだな。頃合いか」
ルナールはヒュドラの猛攻を受け流すと同時に小さく呟いた。
視線の先のワイヴァーンは既に残り1匹だ。
「あんまりうちの旦那様を虐めないで欲しいね」
同時、ルーキスは黒銃の引き金を弾いた。
放たれた魔弾は戦場を走りヒュドラの足元に着弾、瞬く間に陣を描き術式が発動する。
それはヒュドラを包み込み、内側に封じ込めてみせる。
「頃合いだ!」
最後の1匹が倒れた刹那、アルヴァは声をあげる。
「やれやれ、隠し玉を此処で打つことになるとはね。ルナール先生には回復よりも声援のほうが良い?」
ルーキスは軽く笑って見せながら空に術式を描けば響き渡るは幻想福音。
美しく鮮やかな音色が降り注ぐ。
「ルーキスが回復とは珍しいが、回復も声援もあると頑張り甲斐がある気がする……!」
「あっはっは、冗談だよ!」
自らの治癒に加える形でその輝きを受けたルナールが言えば、そんな笑い声が響いた。
「今度は此方が足止めさせてもらう!」
イズマは愛剣を振り抜いた。
戦場に叩きつけた魔力は精神を打つグラツィオーソ。優美に紡がれるメロディ。
魅入られた亜竜の残りが立ち止まる。
●
「退くか、そうか。拍子抜けだな」
イレギュラーズの動きにヒュノスティエラが小さく呟いた。
そのまま、手がイレギュラーズに伸び、埃でも払うように動いた。
「――させるかよっ!!」
アルヴァは咄嗟の判断で前に出た。
アトラスの守護が輝いた刹那、アルヴァの身体を壮絶な冷気が包み込む。
「――へ、どうだ、糞蜥蜴。今は退いてやるが、次会った時は覚えてろ!」
崩れ落ちる身体が支えられる感覚を受けながら、アルヴァが言い放てば。
「ふん、拍子抜けのあまりに適当に殺そうと思ったが、受けきったか」
アルヴァを見たヒュノスティエラの瞳は先程よりは微かに興味のようなものが見えた気がした。
「無茶するね、後は任せて!」
京はそのまま気絶したアルヴァを抱えあげ、事前の予定通りに撤退を開始する。
ジョージは警戒をしながら後退していく。
(……これ以上攻められることはないだろうが、ヒュドラのブレスはまだ警戒を絶やすわけにはいかないか)
射程圏外まで油断せぬようにしながら、下がっていく。
「竜種……噂以上にとんでもない強さです。
必要以上に荒立てず無事に踏破が叶えばいいのですが……」
撤退に移るトールは思わず呟いた。
「本当は雪麗竜様の能力ももう少し知りたいところですが、無茶振りはやめておきましょう。
その代わり、私の本気もまだ見せてません。また会いましょうね」
「だろうな。会いたければ会いにくれば相手にしてやろう」
「いやぁーしんどいこと、対竜種なんて夢のまた夢になりそうだね。
おっと、完全に姿が見えなくなる前に!」
ルーキスは魔術を叩きつけながら顔を竜の方へ向けて手を振った。
「ヒュノスティエラ! また遊ぼう!」
「ルーキス? また本当にきたらどうする気だ……?」
そんな彼女に思わずルナールは溜息と苦笑を零す。
あっけらかんと笑って見せる妻にルナールは思わず肩を竦めれば、竜が短く笑う声がした。
「――その時は精々、わたしを失望させてくれるなよ」
どうやら、興味を持たれるぐらいは出来たようだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
早速始めましょう。
●オーダー
【1】亜竜の撃破
【2】戦場から無事に撤退する
【1】か【2】のどちらか一方を成立させる。
●フィールドデータ
『ピュニシオンの森』の出口付近、『ラドンの罪域』と呼称される一帯の一角です。
本来であれば辺り一帯を黒い霧ないし靄が立ち込め、黒い風が吹きつけて周囲を見渡すことが困難です。
このシナリオ中ではヒュノスティエラの権能も交じり、それに加えた猛吹雪が吹きつけています。
猛吹雪か黒い霧のどちらによるものか、
ターン開始時にランダムで【窒息】系列のBSが付与される可能性があります。
●『雪麗竜』ヒュノスティエラ
氷のように透き通った翼とそれとも似た髪と瞳の色をした女性――の姿をした竜種。
人間体を取っていることから将星種『レグルス』であることは確実です。
ベルゼーの願いということで皆さんの邪魔をしに来ました。
とはいえ、ラドンが気に食わないのか、他人の場所で戦うのが嫌なのか、やる気はまるでありません。
基本的には自分の眷属たる亜竜たちに任せて静かにイレギュラーズを見下ろしています。
皆さんが余程強者であると感じればちょっかい出してくるかもしれません。
特に思うところが無ければ亜竜の撃破後に仕事はしたとばかりに撤退します。
なお、現時点でのご機嫌は斜めであろうと思われます。
イレギュラーズ側から喧嘩を仕掛けるのは止めておいた方が良いかもしれません。
●亜竜
・共通項
雪に紛れるような白ないし銀のような皮膚をしています。
よほど極限の環境に棲息しているのか、非常にタフな個体ばかりです。
HP、防技などはかなり高く、攻撃能力もたしかです。
・シルヴァーヒュドラ×1
15メートルほどの、手足も翼もない巨大な蛇に似た亜竜です。
尻尾での薙ぎ払い攻撃や牙による攻撃、遠距離までを射程に広範囲に届くブレス攻撃などを行います。
尻尾での薙ぎ払いには【飛】の効果を持ち、
牙による攻撃には【毒】系列のBSを引き起こす可能性があります。
ブレスには【凍結】系列、【足止】系列のBSを引き起こす効果があります。
また、体表には【反】にも似た効果があるようです。
他の亜竜よりも強力です。
ヒュノスティエラを例外とすれば、当シナリオにおける実質上のボスエネミーとなります。
・アヴェルスワイヴァーン×5
飛行可能な翼と脚を持つ10メートルほどの亜竜、所謂ワイヴァーンといった雰囲気です。
強靭な顎や脚を使った物理戦闘の他、中距離までの扇状に冷気と雷電を帯びたブレスを吐きます。
顎や脚による攻撃は【乱れ】系列を、
ブレスによる攻撃は【凍結】系列と【痺れ】系列を引き起こす可能性がありそうです。
・フロストドレイク×5
翼を持たず四足獣のように移動する亜竜です。
頭頂部に鋭利な角と強靱な顎をもち、堅い鱗に覆われています。
強靭な顎は防御を砕く効果があり、【邪道】攻撃として判定されます。
他にも遠距離まで貫通する冷気のブレスを放ちます。
角と顎による攻撃は【出血】系列や【致命】の、
ブレスによる攻撃は【凍結】系列のBSを引き起こす可能性がありそうです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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