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シナリオ詳細

<ラドンの罪域>マハイイムの調べ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――ピュニシオンの森。
 そこに足を踏み入れる亜竜種はいない。
 何故か? 答えは簡単なことだ。踏み入れたら最後、決して戻ってはこれないからだ。
 しかし、そのピュニシオンの森の調査をせねばならない事態となった。
 原因は『冠位暴食』ベルゼーの存在だ。覇竜領域を拠点とする冠位魔種である以上、覇竜領域の何処かにいるはずなのだ。亜竜種たちの今後のためにも、『フリアノン里長』である珱・琉珂はピュニシオンの森の調査を行い、そうして『ピュニシオンの森の先にベルゼーは退避している』ことを掴んだ。
 それだけではない。ベルゼーの周囲には竜種たちが人の文明を真似て竜種の里『ヘスペリデス』を築いていることも――。
 真意を知るためにも、イレギュラーズたちは暗き森を邁進することとなった。

「何とか路の確保をしたいと思っての」
 そう口にした子どもサイズの亜竜種――瑛・天籟(p3n000247)はぷかぷかと浮かびながら尾をくゆらせた。
 亜竜種ならば誰もがそこへ踏み入れることの無かったビュニシオンの森へ、今後の憂いを晴らすためにも行かねばならなくなった。毎回命を賭けて赴き、その先に待ち受ける危険で死にそうな目にあってもまた危険な場所を通って逃げ帰る訳にもいかない。撤退中で命を落とすこととなるだろう。
 確実な安全の確保――というものは到底無理だが、それでも『他の道よりも少しばかり安全』の確保ならばできるはずだと天籟は考えた。
「天籟のことだ、既に候補はあるのだろう?」
 指先でふわもこ羊のジークの顎をくすぐりながらゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が問えば、「うむ!」と明るい声が返ってくる。ペイトや知人から『老師』と呼ばれるこのちびっこ亜竜種は、割りと心配性な面も持ち合わせておる。
「生きる上で欠かせぬものといえば……わしは水じゃと思う」
 傷を洗うための水、命を繋ぐための水――様々な用途での水は要る。
 それでのと天籟が続けるには、森の中にも泉があるとのことだった。
「泉の確保と、入り口からそこまでの道中。可能ならば出口まで――と言いたいところじゃが、それは難しかろう」
「泉の確保には水質チェックも含まれるのよね?」
「察しがいいの」
「こないだ、いつつぼし島でも調べたもの」
 天籟よりも少し小さいオデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)がふふんと胸を張った。えらいのーっと天籟が黄金色の飴ちゃんを渡す。甘いやつだ。
「それからの、こやつも連れて行っとくれ」
 天籟が尾を振れば、彼の斜め後ろに控えていた眼鏡の男が一歩前へと出た。
「小生は劉・飛龍。亜竜集落ペイトを守る一人の戦士です」
 本当は天籟が同行したいところなのだろうが、天籟はペイト里長を守る立場にある身。多くの者たちがピュニシオンの森攻略へと向かう今、里を空ける訳にはいかない。
「飛龍は若いが、伸び代がある。主等と行っても足手纏いにはならんじゃろ」
 の? とバクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)へと視線が向けられれば、バクルドは顎を撫でてニヤリと笑った。
「それではみなのため、頼むのじゃ」
 準備はしっかりとしていくといい。しっかりと帰って来られるだけの準備を。
 どういった状況になったら撤退するか、それも決めておいたほうがいいだろうと天籟は口にして。
 それから「あ」っと飛龍を見た。
「眼鏡は外さぬようにの!」
「勿論です、老師」
 飛龍は眼鏡を外すと暴れてしまうから、そうなっては同行する者たちにも害が及ぶ。本当にほんとーーーーにしっかり頼むぞと言いつける天籟に、飛龍と拳を交わしたことのあるバクルドは確りと顎を引くのだった。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 今回は覇竜です。冒険にいきましょう!

●目的
 安全な道の確保

●成功条件
 戦闘不能者を出さずに帰還すること

●シナリオについて
 当シナリオは『ラドンの罪域』までは至りません。ですが、出来ればラドンの罪域まで進みたい……という気持ちを持って進んで頂けると冒険感があるかと思います。
 安全な道の確保をしましょう。それは今後、何度も此処を通ることになるかもしれないので、とても大切なことです。出来るだけ安全な道を確保するということは進行の面においても、またその先で傷付いた仲間たちが撤退するためにも必要です。そしてここは『ピュニシオンの森』。確保することだけでも大変なことです。
 未知の領域で冒険をしましょう。

●フィールド:ピュニシオンの森
 覇竜領域に存在する広大な森です。前人未踏の地とも呼ばれており、イレギュラーズはR.O.Oで一度進軍したことがありますが、かなりのデスカウントを稼いだ場所です。
 方向感覚を狂わすような代わり映えのない風景に、悍ましい程に多いモンスター。生い茂った草木や存在する植物は名前も知らぬようなものが多く生態系も覇竜領域特有です。
 今回は道中に泉がある道を通ります。大体進行の2/3くらいの位置に泉があります。そこまでにしてもいいし、進めるだけ進んでも良いです。が、道の確保となりうる行動を忘れずに。先に進んで、戻れない可能性もあります。

●エネミー
 ワイバーンが木々よりも高いところを飛び、ワーム系だったり足の早い小型亜竜たち、巨大な蜥蜴めいた亜竜が闊歩しています。
 天籟は『比較的安全』と選んでおりますが、当然森の外の方が安全です。出来るだけ戦闘を避けられる行動を取った方が安全でしょう。
 戦闘を避ける場合はエネミーサーチ以外の方法が良いでしょう。既に亜竜側から敵として認知されている状態では追いかけられて戦闘となる確率が高いです。

●『???』
 終盤、誰も倒れていなければ、何かに会うかもしれません。
 それが現れた時、周囲の生物は恐れることでしょう。
 しかし、植物たちは恐れません。一部の下級精霊たちも恐れません。

●劉・飛龍(リュウ・フェイロン)
 ペイト出身の戦士、飛龍が同行します。
 理性の防波堤として伊達眼鏡をかけています。彼の眼鏡が外れた場合、手負いの獣が増えたと思ってください。イレギュラーズに対しても攻撃します。眼鏡を守りましょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。
(今回は関係者さん同行を選択されても描写されません)

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <ラドンの罪域>マハイイムの調べ完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年04月23日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う

リプレイ


 ピュニシオンの森は前人未踏の地。というのも、生きて帰る者が居ないからだ。亜竜種であればそこに踏み込まないのは当然のことで、いくら脳筋の多いペイトの民であろうとも行けと言われて喜ぶものは居ないはずなのだが――
「此処がピュニシオンの森ですか」
 極力平坦な声を心掛けて居るが、恒よりも飛龍が浮足立っているのが『老兵の咆哮』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)には感ぜられた。
 湿気があるのか、もしくは当人の体温が(興奮状態で)高いのか、眼鏡が既に曇っている。眼鏡の縁がキラーンな状態だ。
「おっと」
 くもりを取り除きたいのだろう。飛龍が眼鏡を外そうとする。他意はない。
「プリン!」
「まかせろー!」
 素早く予備の眼鏡を手にした『アイアムプリン』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)が横から飛龍に装着させ、眼鏡を拭き終えた飛龍が再装着するに合わせてパッと取り除く。ナニコr……完璧な連携だ。
「これなら万が一があったとしても大丈夫そうだな」
「ええ、そうね」
 大きな手で顎を撫ぜた『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)に、『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)がしっかりと頷き返す。天籟に頼まれたのだ、オデットはしっかりと飛龍の行動も見守るつもりだ。
「先行しているオディールは大丈夫そうかな?」
 白い砂を零しながら『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は『凍狼の子犬』に索敵させているオデットへ問うた。オデットが顎を引くのへ「危なそうだったら早めに退避してな」と告げ、また砂を零した。帰る時用の道標だ。沢山のデメリットと仲間たちの意向と外れるために装甲蒸気車両は諦めたが、持てるだけの荷物を持って砂を零し歩いていた。……あっという間に砂は目減りするため、砂が一等重いだろう。
「此方の方が歩きやすいだろう」
「ありがとうございます、ゲオルグ様」
 ぬかるんだ地面や、亜竜たちの足跡。元気に自由に育つ木々の枝や根。そういった物にできるだけ足を取られない道を『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は選び、どう見ても森を歩く格好ではない『その想い焔が如く』澄恋(p3p009412)へと声を掛ける。多少迂回したとしても、超方向感覚を持つゲオルグには進むべき方角が解るゆえに出来る選択だ。
「バクルド様、曲がりますので色の付いた縄を括りますね」
「おうよ」
「右の方は亜竜がいるみたい」
 澄恋やオデットの声を聞いて、バクルドが地図を作成しながら書き込んでいく。
 樹海でくたばるようではプロ花嫁失格だ。しっかりと沢山の縄を用意してきた澄恋は見た目の可憐さと反してよく動き回る。
 けれど、警戒を忘れている訳でもない。ギャアギャアと上空から聞こえるワイバーンの声には気を使っているし、ゲオルグの選ぶ道も木々の密集した枝葉に覆われた道を選んでいる。仲間たちも大きな声は出さず、常に小声。亜竜の鳴き声が近ければハンドサインで対処する。
「あの子たちはあの果実が好みなのかしら?」
 亜竜たちから草葉でイレギュラーズたちが気付かれていないということは、イレギュラーズたちからも亜竜の姿は捉えにくい。けれども小さな葉と葉の隙間から超視力をもってしてその姿を捉えた『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)はその果実の見た目も仲間たちへ伝えておく。その果実が実るところには来るかもしれないから。
「確かに……」
 超視力で同じ果実を確認したエイヴァンが顎を撫でる。先刻、齧られた果実を見たことを思い出し、地図をつけているバクルドへ見かけた場所を伝えておいた。
 幾度も通ることになるかもしれない道だ。安全に安全を重ね、慎重すぎる方が良いに決まっている。
 勿論、此方の痕跡も残さないほうがいいだろうと、ゲオルグがオルド・クロニクルが行路の保護も行っている。此方が亜竜の足跡や食む草木を見るように、亜竜とてひとの香りや音、新しく出来た靴跡や折れた枝、踏まれた草葉をみるはずだ。今日大丈夫だとしても、次回はそうとは限らなくなる。この地に住まう者たちは異変に気付くはずだ。
 ――何よりゲオルグは、自然を破壊したくない。ちょっとした人の手の介入で『自然な状態』が崩れることも多い。生態系が狂うこととてある。それなりに強さのある食物連鎖の上の方の亜竜ならば良いかもしれないが、そうではない小さな亜竜や――もっと力のない小さな動物たちには些細とは言えない変化が齎されることだろう。
「忌避してるものを見つけるのって難しいわよね……」
 初めて見る植物を見下ろして、ジルーシャが小さくぼやく。好むものならば、簡単なのだ。食べられていたりとか、身体を何度も擦りつけたような痕があったりだとか。
「あなたたち、知らない?」
 辺りにいる精霊たちは下級精霊ばかりなようで、感情くらいしか伝わってこない。けれども精霊たちに好かれやすいジルーシャをこの森の下級精霊たちも好むようで、純粋な喜びを伝えてくれるので悪い気もしなかった。
「うーん、そうね……あなたたちの好きな場所への行き方は解る?」
 翼を淡く光らせたオデットも精霊に問うてみる。何が安全で何が危険かは、精霊たちとイレギュラーズたちでは異なるはずだ。
「……精霊たちが示すのは」
 矢張り、というべきだろうか。
 天籟が「泉がある」と目星をつけていた方角だと、ゲオルグが双眸を細めた。

「ふう、なんとかついたな」
 道中、できる限りの戦闘は避けたが、ゼロではなかった。
 顎へと垂れた汗を手の甲で拭ったサンディはぐっと上半身を持ち上げ、前方を見た。
 イレギュラーズたちの正面には、キラキラと光を反射する泉があった。泉の周囲には座るのに良さそうな大きめの石がいくつか。特におかしなところはない、『森の中の泉』という風情だ。
「戦闘があると冷や冷やしちまうな……」
「小生はなかなかに楽しい経験をさせて頂きました」
「オレもけっこう楽しかったぞ!」
 勿論、眼鏡の話だ。
 隠密性に優れた小さな亜竜たちに見つかった時は、正直かなり驚いた。聴力もだが、地面から伝わる振動に敏感なのだろう。大きな獲物を十匹程で仕留めて回るのか一斉に群がられ、逃げようにも足が非常に早く、そして長引けば他の亜竜に嗅ぎつけられるときた。
 次第にテンションを押さえきれなくなった飛龍が眼鏡に手を掛けるものだから、バクルドはハラハラし、自身にターゲットを集中していたエイヴァンも背後から狙われるような万が一が起こらないようにと立ち回り、マッチョはいつでも予備の眼鏡を出せるようにと構えていた。
 まあ、なんとか大事には至らなかったが、主にバクルドの疲弊は大きい。
 最終的にはマッチョとエイヴァンが殿を務めて撒くこととなったのだが――不思議と水の気配がしだした頃から小型亜竜たちの追跡は無くなった。
「綺麗な泉ね」
「そうね、透明度が高いわ」
 泉へと近寄って覗き込むジルーシャにオデットが続く。
 オデットは最近、浮遊島でも水質を調べたばかりだ。透き通った水を覗き込み、小さな魚が元気に游いでいる姿を確認し、精霊疎通で水精霊たちの気持ちも感じてみた。どの精霊たちも楽しげだ。
「ひとまず採取しておくか」
 検査キット等を持ち込んでいるわけではないからすぐに化学で調べることは出来ないが、何度か来るのなら調べておくにこしたことはない。
「臭いは……ないな」
「オディールでも変な臭いは感じないわ」
「……死んでいる生き物も周囲には見当たりませんね」
 死んでいる生物は居ないが、生命体によって毒となり得るものは違うから、それだけでは判断は出来ない。けれど、色も臭いもクリアだ。
「精霊たちの機嫌もいい。大丈夫そうか?」
 ゲオルグが思慮深く水面を見つめた。
 後調べられることと言えば――
「では、飲んでみましょう」
 わたし、お腹は強い方なのです。
 笑顔で澄恋がそう言えば、マッチョもそうだなーと頷いて、澄恋のアシストへ回ろうとする。
「おいおいおいおいおいおい」
 精霊たちの機嫌も良いしとゲオルグやジルーシャ、オデットたちも反対をしなかったため、バクルドは少々慌てた。因みにサンディは泉の回りをぐるっと歩いてから掘った土を集めて簡易的な壁を作ろうとしているからノータッチだ。
「お前さんたち、寄生虫って知ってるか?」
「寄生虫、ですか」
「目に見えないくらい小さいのが腹の中で悪さするんだ。多くは即効性のない遅効性のものだ。何日も置いてから死に至るものまであるんだぞ」
 謎の流行り病だと思っていたら飲水からの寄生虫だった……という話は、きっとこの混沌世界にもあるだろう。多くは原因不明のまま、解明されていないだけで。
「そのようなものもあるのですね」
「そういうのだと解毒に引っかからないかもしれないわね」
 澄恋は目を丸くし、一口飲もうと思っていたジルーシャも泉から一歩引く。
「此処に限った話じゃないぞ。生水は危険なんだ」
 火を起こす準備を始めたバクルドを飛龍が手伝う。
「加熱しても死なない菌もいるが――」
 泉の水ならば火を通せば大丈夫だろう。
 野宿に慣れた男が手際よく煮沸すると、熱い湯を少し冷ましてから澄恋が口にする。
「流石はバクルド様、博識ですね! ……ん。味は問題ないように思えます」
 舌が痺れることも無ければ、すぐに腹が痛くなることもない。
 ひとまずは大丈夫そう? 首を傾げる澄恋がいつ体調が悪くなっても対処出来るように、ジルーシャとオデットは泉の周囲で薬草を摘んだ。
「水は保留として……どうする?」
「先に進むか、帰るか?」
 サンディがエイヴァンの言葉を引き継げば、ああと頷きが返る。
 余力としてはまだあるから、少し先を見てきてもいいし、戻ってもいい。
 バクルドがちらりと飛龍を見る。当然と言うか何と言うか、彼は進みたそうにはしている。
 だが。
「無理は禁物だ」
 此処はホームでも何でも無い、未知の領域。
 そして亜竜種たちでさえ生きて戻れない未踏の地。
 余力は残しておかねばならない。
 いつ何時、全力疾走で逃げねばならない展開になるとも知れぬのだから。
「そうだな。そして休める時に休んでおくといい」
 道中でも全員の気力と体力とを気にかけていたゲオルグも同意を示す。特に殿を務めたマッチョとエイヴァンはそうした方がいいだろう、と視線が告げていた。
「そうね。此処は安全なようだし、少し休んでから戻る、でいいと思うわ」
 オデットの言葉に異を唱えるものは居なかった。
 そうしてイレギュラーズたちは、煮沸した泉の水を口にした澄恋の経過観察も兼ね、暫しの休憩を取ることとなった。
 勿論、『どうして安全なのか』を探ることも忘れず、周囲の調査をしながら。

 携帯していた食料を口にし、マッチョがプリン愛を大いに語り、プリン丼もあるぞなんて勧めだした、そんな頃。
「みんな」
 声を落としたジルーシャが手のひらを仲間たちへと向けた。静止の合図だ。
 ジルーシャの耳が何かを拾ったのだと察し、会話をやめたイレギュラーズたちの間に静寂が降りた。
 次いで、オデットとゲオルグが異変に気が付いた。一部の精霊たちがはしゃぎ――集っているようだ。と言うよりも、新たに近付いてきている気配がする。
 そうして、深い緑の中から女が現れた。
 透明感のある水色の髪持つ、美しい女だ。
 造形は不自然なほどに完璧で、ひと目で『人』ではないと解る。されど精霊か、と問えばそうでもない。『存在感』が違いすぎる。
 誰かの喉がゴクリと鳴った。
 誰もが――言葉を発することすらできずにいた。金縛りにあったかのように、動けずにいた。
 それもそのはずだ。動ける生命はそこに存在しない。この危険な森に住まう生物たちは危険を察知する能力に優れているのだろう。そうでなければ生き残れないため、声の届く範囲でザワついていた亜竜ですら既に逃げている。
 生物の声がひとつも聞こえない不自然さの中、女の『声』だけが辺りに響く。
 女は、声と言うよりは『旋律』と呼べる其れを口遊みながら、ゆっくりと歩んできた。
 女が一歩歩を進める度に、植物が歓喜する。
 女が一歩歩を進める度に、精霊が歓喜する。
 生物の囀りも聞こえない空間で、オデットとジルーシャとゲオルグには下級精霊たちの喜びが伝わってきている。そのせいか、三人には女が悪い存在には思えなかった。
「――?」
 まるでイレギュラーズたちがそこに居ることへ気づいていないかのように一瞥もくれなかった女がピタリと足を止めた。サンディの作りかけていた土壁へと視線を向ける――と、それはボロリと崩れ落ちる。
 そうして初めて、イレギュラーズたちへと女の視線が向けられた。
「勝手を許した覚えはない」
 空気がビリビリと震えた。
 精霊たちも驚いている。続く気配は案じるものだ。
 イレギュラーズたちは、声を発せずに居た。女が現れてからというもの、『全てが重い』。まるで水の中に居るような息苦しさすら覚えていた。
「…………」
 女の唇が動き、何かを呟いた。膜を通したようなその声を拾えたのはジルーシャだけだ。
 ――人の子か。ベルゼーの……。
(ベルゼー!?)
 冠位魔種を知っているのかという驚きよりも、『矢張り』という気持ちが大きい。
 きっとジルーシャの仲間たちにも予想はついているはずだ。彼女は竜種だ、と。
 視界にイレギュラーズたちが入っていようと気にする素振りを見せなかったのもそのせいだろう。人が歩む時に蟻の存在に気付かないように、竜種にとって蟻――ではないにしろ小さくか弱い存在を気に留めていなかったのだ。
「人の子」
「っ!」
 リーディングを使用しかけたサンディが息を飲み、他のイレギュラーズたちも息を飲み込む。先程よりも強く空気が震えた。竜の顎(あぎと)の前に居ることを思い出させるには充分過ぎた。その一瞬で全滅させられなかったのは、ただひとえに『運が良かった』に尽きる。
 ただ、眼前の女の興味が寸前で別へと向いたから。理由はそれだけだろう。
「其と其」
 女の視線がゲオルグとオデットへと向かう。
「吾と会うたことがあるのか?」
 オデットとゲオルグは声を発せない。重くて、息苦しくて。
 返答が無いことでようやく気付いたのだろう、女が嗚呼と零すと新鮮な空気が入ってきたように呼吸が楽になる。
「すまぬな。人の子の扱いは識らぬ」
 意図して苦しめようとした訳では無い。人のか弱さが女には解らないようだ。
 イレギュラーズたちは静かに視線を交わし合う。この場で発言が許されているのは、恐らくオデットとゲオルグのみだろう。元より何かに会った際は敬意を払うつもりで此処へ訪っているゲオルグが顎を引くと、オデットは彼に任せる。下級精霊たちが始終女に対して喜んでいる以上、悪い存在ではないと確信めいた気持ちを抱いていた。
「まずは突然の来訪を詑びさせてほしい」
「よい」
 女が、遮る。
 それよりも、問いへの答えを。
「……会ったことはない、と認識している」
「そうか」
 女が瞳を閉ざす。何かを探っているのか、考えているのか。そのどちらにも思えて待つと、女は「吾の気配がしたが……まあ良い」と口にした。
「子等よ、縁ひとつ分、助言をやろう」
 静かに口を開いた女の姿が水へと変わっていく。
「――吾等に会おうとするな」
 それがきっと互いのためなのだろう。
 住処を隔てていることへの意味は何であるのかを考えたほうが良い。
 そしてこの森の先に向かうのならば、きっと竜種の多くは――。
 女の姿は水となり、水はぐるんと球へとなっていく。
「っ、待って!」
「此処を使う許可を貰えないだろうか!」
 オデットが呼び止め、マッチョが言葉を繋いだ。『ヌシ』が居るかもしれないと、マッチョとゲオルグは土産を持ってきている。ゲオルグの元からクッキー、マッチョの元からプリンが水の膜に包まれ――消える。
 球体になった水が膨らみ、弾けた。
 慈雨が如く辺りへ降り注ぐ清らかな水に、精霊と植物たちが喜んでいる。

 ――吾の居ぬ時なら。

 その声は姿が消えた後、取り残されるように遅れて届いた。
「居ない時は好きにして良い、と言うことでよいのか?」
「わたしにもそう聞こえました」
 ゲオルグの声に「とても強そうな方でしたね! か弱いわたしとは大違いです」で微笑む澄恋は微かに頬を上気させていた。これは埜智への土産話になりそうだ。
「あれが竜ってやつか……」
「ROOの時は森に微睡竜……オルドネウムがいたんだったか」
 ピュニシオンの森には想像よりも多くの竜種がいるのかもしれない。
「俺達を進ませたくはない様子だったな」
 エイヴァンたちの命があるのは『運が良かった』だけだ。何が『悪』であり何が『善』であるかを問えば、縄張りへと足を踏み入れたイレギュラーズたちが『悪』であろう。勝手に手を加えられても、竜は許した。温厚ではない竜と会っていた場合、問答無用で全滅させられる可能性とてあったのだ。
 吾等に会おうとするなと告げた竜は、自らの意思ではこれ以上会うつもりはないのだろう。
 けれどオデットは――
「また、会いたいわね」
 会えたらいいな。そう、思う。
 下級精霊たちがあんなにも喜んでいたのだ。人にとって悪い存在ではないと思う気持ちは一層強くなった。
 それに。
「ねえ、ちょっと、皆見て。もっと綺麗になっていない?」
 泉の水は輝くような美しさとなっていた。
 定期的に女が訪れ、小動物や精霊たちの憩いの場を作っているのかもしれない。
「正しく秘境の泉のお水な感じですね! すごい加護が得られたり、お肌が綺麗になったりするかもしれません!」
「アラ、美肌の水!? いいわね!」
 澄恋の直感も、先刻までの水よりも澄んでいると告げている。
「ああ、これなら美味い呈茶が淹れられそうだ」
 サンディが淹れた呈茶で一息ついてから、イレギュラーズたちは帰路へとつくのだった。

成否

成功

MVP

ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲

状態異常

なし

あとがき

竜種の女性が名乗るところまではいきませんでしたが、彼女の名は『メファイル・ハマイイム』と言う名です。苗字等の区別はありません。
再度会うことがあり、彼女の機嫌を損ねなければ、名前くらいは聞けば教えてくれることでしょう。

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

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