PandoraPartyProject

シナリオ詳細

●エントマChannel/都市伝説編。或いは、眠らぬ夜のスレンダーマン…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●練達の都市伝説
 練達。
 夜でも明るい、とある都市。
 赤に青に緑に黄色。目にも眩しい、色彩豊かな夜景をバックにエントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)がポーズを決めた。
 右手はピースで顔の横に添え、左手のハンドスピーカーは口元へ。
『 Opa! エントマ・ヴィーヴィーの~! エントマ! チャンネル~!!』
 ギャラリーからの喝采があがる。
『エントマ・ヴィーヴィーのエントマChannel』の視聴者たちだ。他の国では、奇妙な女でしかないエントマではあるが、練達では知る人ぞ知る動画配信者なのである。
『さて! 今日、やって来たのは電脳都市・レパルダス! 今回は、レパルダスでここ最近、噂になってる都市伝説の真相に迫っていきたいと思います!』
 じゃじゃーん♪ とばかりに、右手を広げて前へと差し出す。手の平の辺りには、編集時にタイトルが挿入される予定である。
『知らない人もいると思うんで、簡単に説明しておくね! 都市伝説の名は“バネ足、スレンダーマン”! レパルダスで目撃される怪人だよ!』
 エントマの横にホログラムが投影される。エントマの連れている自立型移動式カメラに搭載されている機能の1つだ。
 目撃情報を元に描かれた“バネ足、スレンダーマン”の姿予想図。長い手足に皺だらけの白い肌。頭から被ったローブのせいで、男女の区別さえつかない。
『スレンダーマンは“バネ足”の名前の通り、めちゃくちゃに高く、長い距離を跳躍するんだって。これまで多くの人が捕まえようとしたけど、ことごとく失敗してるそうだよ』
 まるで空に道でもあるかのように、自由自在にスレンダーマンは都市の夜を駆け抜ける。
 子供を攫う。
 女性ばかりを襲って命を奪う。
 食糧や金品を強奪する。
 何かを探しているみたいに、夜の街を走り続ける。
 そんな都市伝説である。
『というわけで、今から早速、スレンダーマンを探しに行きたいと思いまっす! なに、心配はいらないよ! 配信者は足とトークで稼ぐもの! このエントマちゃん、こう見えて脚力に自信があるからね!』
 なんて。
 カメラの前でくるりと回るエントマの背後で、月を背負って細い体の何かが跳んだ。

●スレンダーマン、捕縛指令
 練達のとある病院だ。
 白いベッドに腰かけて、エントマが肩を落としている。
「……アレ、人じゃないんじゃない?」
 頭に巻かれた包帯を弄りながら、エントマは唇を尖らせる。ベッドの脇に置かれた眼鏡はレンズに罅が入っていた。
「脚は速いし、めちゃくちゃ跳ぶし……それに、やたらと運がいい」
 そう言ってエントマは、編集前の動画を再生してみせた。
 映っているのは、建物の屋根を伝って夜を駆けるエントマの後ろ姿である。
 屋根から屋根へ。パーカーの裾を靡かせながら、疾走するエントマの遥か前方にはスレンダーマンらしき人影。エントマの走る速度もなかなかだが、一行に追いつく気配は無い。
「問題はここからでして……」
 エントマが屋根に着地した。
 足場が崩れて姿勢を崩す。
 体勢を立て直し追跡を再開。だが、突風にあおられエントマはビルの壁に背中をぶつけて、落下する。落下先には案内標識。風に煽られ、支柱が歪んだのだろう。大きく傾いた標識に、頭部を強打し、エントマは意識を失った。
 立て続けにエントマの身に起きた不運。
 そして、突風に背中を押されたスレンダーマンはあっという間に夜闇の中へと消え去った。
「調べたところ、これまでスレンダーマンを捕縛しようしていた人たちも似たような目に遭っていたそうで……単なる注意力散漫だと思っていたんだけど、違うね、これ」
 1度なら単なる偶然だ。
 2度続けて、ということもあるだろう。
 だが、3度、4度と同じ事例が続くとなれば何か裏があるのは確実と言える。
「例えば【魔凶】や【重圧】の類かな。どういう条件でそれが付与されるのかは分からないけど……少なくとも私は、スレンダーマンに触れてない」
 頭部に巻かれた包帯に手を触れ、エントマは大きなため息を零した。
 それから、呼集したイレギュラーズたちの顔を見回し、言葉を続ける。
「私の手に負える相手じゃないんで、お任せします。カメラを預けるから、ちゃんと正体を撮影して来てね? そうじゃないと、エントマChannelの企画がおじゃんになっちゃうから」

GMコメント

●ミッション
“バネ足、スレンダーマン”を追跡し、正体を確認する

●ターゲット
・バネ足、スレンダーマン
練達の都市、レパルダスで目撃される都市伝説。
長い手足に皺だらけの白い肌、性別は不明。
脚力に優れるようで、脚が速く、跳躍力が高い。
子供を攫う。
女性ばかりを襲って命を奪う。
食糧や金品を強奪する。
何かを探しているみたいに、夜の街を走り続ける。
以上の噂のうち、どこまでが本当かは不明瞭。
非常に幸運。そして、方法は不明だが【魔凶】や【重圧】を付与する能力を持つようだ。

●アイテム
・自立型移動式カメラ×1
エントマから預かった浮遊するカメラ。
スレンダーマンを撮影して来るよう依頼されている。

●フィールド
電脳都市、レパルダス。
夜でもなお明るい練達の都市。
比較的、背の高い建物が立ち並んでいる。
高い位置に案内標識や、電灯ドローンが配置されているため、屋根の上を移動する場合や、飛行を用いて移動する場合は、多少の制限がかかる。


●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • ●エントマChannel/都市伝説編。或いは、眠らぬ夜のスレンダーマン…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年04月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
玄野 壱和(p3p010806)
ねこ
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ
瀬能・詩織(p3p010861)
死澱
マリオン・エイム(p3p010866)
晴夜の魔法(砲)戦士

リプレイ

●エントマChannel撮影班
 モニターに蒼い目が映る。
 じぃ、とまばたきの1つもせずに、それはカメラを通して、その先にある何かを覗き込んでいるかのようだった。
「『エントマちゃんねる』? 成程、エントマ殿のかわら版ですか。得心しました」
 蒼い瞳は『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)のものである。
 コツン、と自立型移動式カメラを拳で叩いて、支佐手はにぃと口角をあげた。
「要は、これを使こうて材料を集めりゃええんですの」
 カメラに映るのは、月を背にしたイレギュラーズたちの姿だ。
「謎のスレンダーマンですか...土地柄的に、やはり夜妖なのでしょうか?」
「そうなんじゃないのかな? 不運を付与するみたいだし、所謂、疫病神かな? かも??」
 言葉を交わす2人の名前は『恋(故意)のお呪い』瀬能・詩織(p3p010861)と『双影の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)だ。
 今回のターゲット……撮影対象である怪人“スレンダーマン”の正体について考察を巡らせているのだ。
「うん、よく解らないね!」
 結局、答えは見つからないが。

 同時刻、ビルの屋上。
「とりあえずどういう人が襲われるか、ですけどもー、まずは、子供を攫うってことは子供ですよ。次に、女性ばっかり狙ってくるみたいです。そして最後に、お金になりそうなものとか食べ物、とかを……」
 手元の資料に目を落とし『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)がスレンダーマンの特徴について読み上げる。
 なお、外見としては肌が白く、手足が長く、そして跳躍力に優れることが挙げられていた。
 と、そこまで読み上げルシアは「はっ!?」と目を見開く。
「ちょ、ちょっと待つのですよ! もしかして、これ……ルシアは条件全て満たしちゃってるってことでして!?」
 それゆえの囮役である。
「スレンダーマンネェ。怪異の割にはやる事がこすい気もするガ……」
『惑わす怪猫』玄野 壱和(p3p010806)は顎に手を触れ、首を傾げた。
 今回の仕事は不明点が多すぎるのだ。
「まぁ、エントマの仇ダ! ボッコボコにしてやんヨ!」
 考えるより、まずは行動するべきだ。
 そう結論をつけた壱和が、視線を隣のビルへと向けた。ビルの屋上に設けられた展望台には『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)がいた。
 しばらく前に、華蓮は都市の上空へ3羽の小鳥を飛ばしたはずだ。
 小鳥の目を通して、華蓮は広い範囲を監視している。
 だが、華蓮は首を横へと振った。
「不自然に寄ってくる者はいないのだわ。それらしい姿も無いし、少し場所を移動した方がいいかも」
 華蓮の言葉は壱話と、それから肩に掴まる1鼠に向けられたものだ。

 鼠の目を通して視るのは、地上に広がる光の海だ。
 家々の明かりと、その中を蠢く人の群れ。そのほとんどは、空を舞う華蓮の姿を捉えない。なぜなら人は、滅多なことで空を見上げはしないからだ。
「何かいいことわかった?」
 ただ1人、空を見上げる『剣閃飛鳥』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)がaphoneを通して華蓮たちB班へと言葉を投げる。
『それっぽいのは見当たらないのだわ。空を跳んでいたら、流石に見えると思うのだけど』
 風音の混じる華蓮の声が、aphone越しに返って来た。
 ミルヴィが空を見回せば、はらりと白い羽根が降って来るのが見えた。今頃、華蓮たちは高い場所を移動しながら、スレンダーマンの姿を探しているのだろう。
「スレンダーマン、魔物の類……ではないのですよね? 都市伝説というのはよくわかりませんが練達には不思議がいっぱいです」
 華蓮の姿を追いながら、『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)はそう呟いた。
 つい先日にも、人工的に造られた人間なんてものの存在を知ったばかりだ。
 そう言えば、それも確か皺だらけの白い肌をしていたなんて話を聞いたが……。
 と、トールの思考が脇へと逸れたその時だ。
『あ!? 待つのだ……わっ!!??』
 ガン!
 なんて、大きな音がaphone越しにミルヴィの鼓膜を震わせて、それっきり華蓮との連絡が途絶えた。

●バネ足スレンダーマン
 視界が暗い。
 否、視界一杯に夜空が広がっているせいだ。
 痛む鼻を両手で押さえ、華蓮は即座に自分が落ちていることを把握した。何かに……おそらく、高い位置に設置されていた看板にぶつかったようである。
「……痛いのだわ」
 翼を広げ、即座に体勢を立て直す。
 だが、再び華蓮の身体を衝撃が襲った。
「でしてっ!?」
 衝撃。次いで、ルシアの悲鳴。
 すぐ傍を飛んでいたルシアの身体と、広げた翼がぶつかったのだ。
 もつれるように、華蓮とルシアは重力に引かれて再び落下し始める。
 2人の視界に、長い手足をした人影が写り込むのは、その直後のことだった。

 時刻は少し巻き戻る。
 ビルの上から夜景を見下ろし、ルシアはドーナツを頬張っていた。
 ルシアのギフトで生み出したものだ。
 眠らぬ夜の景色を肴に食べる甘味も乙なものだと、ルシアはくすりと微笑んだ。
「気ぃ抜きすぎじゃねぇノ?」
 と、そんなルシアの背後に立って壱和がそんな言葉を告げた。
 壱和の方を振り返り、ルシアはドーナツを差し出し笑う。
「後はみなさんが警戒とか撮影とか、後は救助とかをやってくれるのですよ!」
 今回の仕事において、ルシアの役割は“囮”。
 スレンダーマンを誘き出すための餌である。
 で、あれば。
 そうであれば、いつも通りに過ごしていればいいはずだ。
 スレンダーマンが、本当に噂の通りの性質を持つというのなら、きっと向こうからルシアのことを見つけてくれる。
「だから、のんびりしているのでして」
 なんて。
 ドーナツの残りを口の中へと放り込んだ、その直後。
「み……eた」
 カツン、と。
 ルシアの背後で足音がして、しゃがれた声が耳を擽る。

「っ!?」
 ルシアが背後を振り返る。
 だが、ルシアの視界に写るのは黒色。
 大きく広げられた手だ。五指でルシアの顔面を掴み、力任せに持ち上げる。
 ルシアの細い首が軋む。
「何なのでしてー!?」
 ふわり、とルシアの足が地面を離れる。
 重力から解放された浮遊感。ルシアを掴んだまま、スレンダーマンが空へと跳んだのである。
「たっ助けて……!」
 壱和の声だ。
 スレンダーマンの手は、壱和にも伸びているのだろう。なるほど、たしかに今日の壱和はミルヴィセレクションの清楚な衣服を身に纏っているはずだ。
 一見するだけなら、少女のようにも見えるだろう。
 けれど、しかし……。
「……なんて言うと思ったカ? 甘ぇんだヨ。バーカ」
 夜の闇を白い閃光が引き裂いた。
 「にゃぁぁお」と猫の鳴く声がして、激しい衝撃波がルシアとスレンダーマンを飲み込んだ。衝撃波に押され、スレンダーマンが姿勢を崩す。
 踏鞴を踏んで、屋上の縁から滑り落ちる。
 その長い手から、ルシアが離れた。
 落ちていく。
 暗い夜へ、ルシアの身体が落ちていく。

 そして時間は“今”へと戻る。
 夜闇を斬り裂く魔力の剣を、スレンダーマンは体を捻ることで回避してみせた。
「チッ! 速いナ!」
 壱和の舌打ち。
 回避と同時に壁を蹴り付け、スレンダーマンは下方へ……ルシアと華蓮の方へと跳んだ。
「今日は、今日はついてないのでしてー!」
 落下しながら悲鳴を上げた。
 スレンダーマンとの距離が詰まる。
 速度はスレンダーマンの方が上だ。迎撃しようにも、きっと詠唱が間に合わない。
「……でも、でも! 無理矢理寄せる不運ならば緩和出来るのです!」
「あなたの幸運とうちの神様の加護、どっちがよりツイてるか確かめてあげるのだわよ!」
 ルシアの腕を華蓮が掴む。
 それからぐるりと振り回す。
 ルシアをビルの壁面へ向けて放り投げると、華蓮は反動で逆方向へ移動する。
 2人の間を、スレンダーマンの細い体が通過する。
 まっすぐ、地上へ。
 地上で待つ、トールのもとへ。
「あなたには私の実験に付き合っていただきます」
 身に纏うは輝光。
 その手には結晶の刃を持つ剣が握られている。
「不幸しかもたらさない私のギフトが戦いが激化する混沌において、この先武器になるか否か」
 勝負!
 威勢と共に踏み込んだ。
 落下するスレンダーマン目掛け、斬撃を放つ。
 夜の闇に白い剣閃。
 斬撃は吸い込まれるように、スレンダーマンの腕から肩にかけてを斬り裂いた。

 腕を斬り裂かれながら、スレンダーマンは着地と同時に地面を蹴った。
 血飛沫を撒き散らしながら、スレンダーマンは上方へと跳んだ。
 その拍子に、長い指がトールの衣服に引っかかる。
 布の破れる音がした。白い布が闇夜に舞った。
「おま……え、は」
 しゃがれた声だ。
「っ……私の不幸と貴方の幸運、どちらが勝るか勝負です!」
 胸元を押さえ、トールが叫ぶ。
 スレンダーマンの姿が遠ざかるが、しかし……その動きは、先ほどまでより幾分か鈍い。
「?」
 首を傾げた。
 自分の身に何が起きているかどうかが理解できないでいるようだ。
 と、その時だ。
 ガラスの砕ける音がした。
 少し前にルシアがぶつかった衝撃で、ビルのガラスが割れたのだ。
 スレンダーマンの頭上から。
 見上げるトールの頭上へと。
 ガラスの破片が降り注ぐ。

 降り注いだガラスの破片が、スレンダーマンの腕や背中に裂傷を刻む。
 白い肌を血に濡らし、スレンダーマンは血走った目でトールを睨んだ。
「おぉ……」
 唸り声を零す。
 壁を蹴って、身体を反転。
 ガラス片に埋もれるようにして呻くトールへ向かって、襲い掛かった。
 しかし、伸ばしたその腕を横から蹴り抜く者がいる。
「残念! も一人いるんだよネ?」
 弾んだ声だ。
 褐色の肌を汗で濡らしたミルヴィが、跳ねるようにステップを踏んだ。
 閃く2本の曲刀は、まるで意思を持つ蛇のようでさえあった。
 右から、左から。
 襲い掛かる曲刀を、身体を捻じって回避しながらスレンダーマンは後方へ跳ぶ。
 その後を追って、ミルヴィーは疾んだ。
 姿勢を低くし、地面を這う風のように。
「アンタが幸運の女神に愛されてるってんならアタシの剣でその運命を断ってあげる!」
 一瞬で、ミルヴィはスレンダーマンの懐へと潜り込む。
 タイミングは完璧だ。
 低い位置から、頭上へ跳ね上げるように、ミルヴィは刀を一閃させる。
 
 ガコン、と。
 奇妙な音がミルヴィの耳朶を擽った。
「はへ?」
 踏み込んだ拍子に、足元にあったマンホールの蓋が抜けたのだ。
 つんのめるように姿勢を崩す。
 その顔面を、スレンダーマンの掌打が強く打ち据えた。

「撮影班!!」
 鼻から血を噴き上げながら、ミルヴィは夜空へと叫ぶ。
 スレンダーマンが向かう先には、夜空を舞うルシアと華蓮の姿があった。
「いくら運に自信があっても、幸運は何度も起きないから幸運でして!」
「【魔凶】【重圧】……この凶悪な組み合わせには破り方があるのだわよ。そう……最初からFBが-15あれば良いのだわよそんなのは!」
 ルシアの鼻からは血が流れている。
 どこかで壁か何かに顔をぶつけたのだろう。
 少しずつ、高度を落としながらルシアと華蓮は大通りへと飛んでいく。
 その後を追って、スレンダーマンも道路を跳んだ。
 そうして、3人が大通りへと飛び出した。
 その瞬間だ。
「タイミングばっちりです!」
「正体の確認が目的だから、確認前に倒しちゃだめだよ!」
 モスグレーの装甲車が、スレンダーマンを撥ねたのは。

 少しだけ、時間は遡る。
「撮影班!!」
 ミルヴィの声が夜空に響く。
「敵を追い詰めちまいましょう」
 Go! と支佐手は大通りを指さした。
 支佐手の隣にはカメラが浮かぶ。
 カメラのレンズに映っているのは、エンジンを噴かすモスグレーの装甲車だ。
 運転席には詩織が座る。
「シートベルトは締めましたか? 対衝撃防御と、コーナーリングのGに耐える準備はOK?」
「ま、待って待って!」
 アクセルを踏み込み、ハンドルをきつく握りしめた詩織の視線は、ただまっすぐに目の前の大通りへと向いていた。
 助手席に座るマリオンは慌ててシートベルトを締める。
 だが、間に合わない。
「できました? まだですか? どちらにしても発車しますね!」
「あとすこ……んぃっ!?」
 大通りに、ルシアと華蓮の姿が見えた。
 瞬間、詩織は装甲車を急発進させる。
 猛スピードで走り始めた装甲車は、華蓮の白い翼を掠め、スレンダーマンを撥ねたのだった。

「皆を呼んで来るのだわ」
 そう言って、華蓮が空高くへと飛んでいく。
「あーあー、こりゃえらいことになりましたな」
 なんて。
 道路に転がるスレンダーマンを一瞥し、支佐手はそう呟いた。
 呟きながらも、小刀を投擲。
 召喚された水銀の女神が、たちまち周囲の地面を真紅の沼へと変えていく。
 じわじわと、現実が上書きされるみたいに。辺りには亜硫酸ガスと水銀蒸気が発生し、住人たちが逃げて行く。
吸い込めばたちまち、皮膚や目、呼吸器の腐食を伴う急性中毒症状を引き起こす猛毒の煙だ。
「うわー、何事でして……あ、カメラでして? もしもーし! このカメラって生中継だったりするのですー?」
「いやぁ、撮影だけのようです。まぁ、この様子を生中継は……すこぉし、難しいでしょうな」
 煙の中では、皮膚を焼かれたスレンダーマンがもがき苦しんでいる。
 だが、その眼差しはまっすぐルシアへ向いていた。口の端から血の泡を吐きながら、それでもルシアのことを諦めていないのだ。
「取り逃がしはしないでしょうが」
 支佐手はそっとルシアの手へとカメラを渡し、代わりに腰から剣を抜く。
「話し合い……は、できそうかな?」
「無理そうでしてー」
 スレンダーマンが疾駆する。
 その手がルシアの首を掴んだ。
「っ……速いですな」
 ルシアを盾にするようにして、支佐手の横を駆け抜けていく。剣を振るおうにも、ルシアが邪魔で敵わない。
「追いかけましょう!」
 再び、詩織がアクセルを噴かした。
 装甲車の屋根に支佐手が跳び乗るのを確認して、詩織は車を発進させる。

●練達怪談
「さあいきますよ、スレンダーマンさん? 貴方と私、どちらがこの夜の疾風の伝説となるか勝負です!」
 装甲車が速度を上げる。
 傷を負ったスレンダーマンでは、きっと逃げ切ることは出来ない。
「あれ、明らかに危険な存在ですよね! 倒してしまってはまずいでしょうか?」
 視線を前へと固定したまま、詩織は問うた。
「意思疎通不可だけど……倒すしかないなら、それは仕方ないけれど!」
 窓から身を乗り出して、マリオンが叫んだ。
 スレンダーマンの正体は依然として不明なままである。
 今のところ、会話も成立していない。
「事情のある相手かもだし、悪い噂は全部デマかもだし! 何か困ってるなら、皆で助けてあげられるかもしれないでしょ!」
 なんの事情も知らないまま、その命を奪うことにマリオンは躊躇しているようだ。
 それはマリオンの信条ゆえか、それとも性根の善良さゆえか。
「とにかく今は追いついて!」
 マリオンが叫んだ。
 詩織は車のギアを上げる。
 エンジンが唸った。
 タイヤがアスファルトを削る。
 けれど、しかし……。
「あ」
 詩織の声が、ポツリと零れた。
 装甲車の目の前に、電柱が倒れ込んで来たからだ。

 華蓮の案内に従って、壱和、ミルヴィ、トールの3人は装甲車へと追いついた。
 もっとも、装甲車は半壊していたが。
「うわっ! い、生きてる?」
 運転席には、額から血を流す詩織の姿がある。追いついてきたミルヴィは慌ててドアを斬り落とすと、詩織の肩に手をかけた。
 ミルヴィに助け出されながらも、詩織は何かを呟いている。
「呪います。呪います。重ねて呪い、呪いを重ね、貴方を死の澱みへと沈めましょう」
 ブツブツと、囁くように詩織は呪詛を口にした。
「その意気ダ」
 壱和はそれを賞賛した。
「怖いってぇ」
「不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちゃったんですね」
 ミルヴィとトールは、少し引いていた。

 電柱が装甲車を潰した瞬間、支佐手とマリオンは車両から飛び出していた。
 それから2人は、自分の足でスレンダーマンの後を追いかけている。
 だが、それももうすぐ終わるだろう。
「曲がった! あの先に逃げ道になり得るルートはありません!」
 道を塞ぎます。
 そう言い残して、支佐手は民家の壁をよじ登っていく。
 1人、残されたマリオンは全速力でスレンダーマンの後を追った。
 曲がり角を曲がった先は行き止まり。
 スレンダーマンは“空”へ逃げるべく視線を上へ。
 けれど、先回りした支佐手がそこにいる。
「撮影もできとるようですな」
 ルシアに渡したカメラを視認し、支佐手は1つ、頷いた。
 スレンダーマンの手に力が籠る。
 ルシアの細い首が軋んだ音を鳴らした。
 その音が鼓膜に届いた瞬間、マリオンは駆けた。
 右へ、左へ、上へ、下へ。
 両手に構えた魔力刃が、暗闇に青白い軌跡を描く。
「ごめんなさい」
 急接近。
 からの、斬撃。
 その刃がスレンダーマンの首を切り裂き、絶命させる。
 フードが千切れて、その顔が顕わになった。
 大人のようにも、子供のようにも見える奇妙な顔だった。
 悲しそうな目でマリオンを見ている。
 けれど、すぐに、その瞳から生命の光は立ち消えた……。

成否

成功

MVP

ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

状態異常

ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)[重傷]
開幕を告げる星
瀬能・詩織(p3p010861)[重傷]
死澱

あとがき

お疲れ様です。
スレンダーマンの様子は、かなりの至近距離から撮影されました。
どうやら、モンスターではないようです。
おそらく、何らかの改造を加えられた人……のようなものでしょう。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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