シナリオ詳細
<カマルへの道程>月下闘争
オープニング
夜天に浮かぶ満ちた月。
闇と光が共存するかのような明かりの中、砂漠の大地を水月・鏡禍(p3p008354)は歩いていた。
(少し、進み過ぎたかな?)
鏡禍は、月の王国の探索依頼を受け、いま1人で進んでいる。
戦闘では無く、あくまでも周囲の状況把握を目的とした依頼であるので戦う必要はないが、いつ襲われるか分からない。
視点を遠くに向ければ、晶獣を始めとした危険な相手が見えるが、この距離を保っていれば近付かれる前に転移陣に戻り帰還できるだろう。
探索依頼としては十分に成果を果たしているので、もう戻っても良い所だが、少し気になることがあり切り上げるかどうか迷っていた。
(吸血鬼……僕独りで成るんじゃなければ……)
少し前、晶獣を率いた吸血鬼と仲間と共に戦ったのだが、その時に吸血鬼と話し、恋人と共に吸血鬼になるのもいいのではないか? と少し思っていた。
だから、その時に出会った吸血鬼と再び話をするべく、より奥地へと向かっていると――
(……いた)
見知った吸血鬼の姿を鏡禍は捉える。
それは男装の麗人吸血鬼、カーラ。
周囲に晶獣などの余計な戦力がいないことを確認し、鏡禍は近付いて声を掛けた。
「こんばんは」
「あーっ! 貴様ー!」
気付いたカーラが声を返す。
「あの時のリベンジをしてやるからなー!」
以前の戦闘で痛い目に遭わされた仕返しをするつもりなのか、びしっとポーズをつけ宣言するカーラ。
そんなカーラを見た鏡禍は、少し困惑するように言った。
「その眼帯、どうかしたんですか?」
どういうわけか、カーラは以前は付けてなかった眼帯を右目にしていた。
色は黒を基調としており、なにやら魔法陣っぽい物が描かれている。
(何かの魔導具なんだろうか?)
鏡禍が警戒していると――
「く、くくっ、ははははっ、気付いたか貴様!」
「気付くも何も、見たままですし」
冷静に突っ込みを入れる鏡禍に、ハイテンションで応えるカーラ。
「カッコ好いだろう!」
「……え?」
「貴様にやられ復讐を誓った私が新たにこしらえたものだ!」
「自分で作ったんですか?」
「徹夜したぞ! 材料はバレルに用意させたがな!」
「……あの、それ何か意味あるんですか?」
「気分が上がる!」
「……それだけですか?」
「そうだ!」
「……そうですか」
思わず生暖かい視線を向ける鏡禍。それに気付かないカーラは、びしっと鏡禍を指さし言った。
「あの時のリベンジ、今ここで叩きつけてやる!」
カーラは自身を紅い輝きで包み強化すると、目にも止まらぬ高速移動で鏡禍の周囲を駆けまわる。
「はははっ! 素の私の戦闘力はクソザコナメクジだが! 強化すればこのザマよ!」
「……えぇと」
どう突っ込みを入れた物かと思いつつ、捉え切れないほどの速さで動くカーラに警戒していると――
「――くっ」
突然カーラは動きを止め蹲り、
「ぎもぢわるい」
慣れない眼帯をつけて高速移動をしたせいで酔っていた。
「うぇぇ……」
吐くの? というぐらい弱っているカーラ。
「……えぇと」
どうしたものかと困惑する鏡禍。そこに――
「なにやってんだカーラ」
突如霧が流れて来たかと思えば、それが吸血鬼の姿を取る。
「……バレルさん」
現れた吸血鬼に、鏡禍が呼び掛けると、
「おっ、あん時の1人だな。どうした? 吸血鬼になりに来たか?」
笑顔で返すバレル。これに鏡禍は応える。
「興味はあります」
「へぇ、そうかい」
「でも、成るとしたら僕独りじゃなく、恋人も一緒の方が良いです」
「……そいつは、よく考えた方が良い」
どこか気に掛けるようにバレルは言った。
「もし同じになるためだってなら、先にもっと言葉を重ねてやりな。その積み重ねが絆になるから。そうでなけりゃ……」
どこか歪んだ笑顔を浮かべるバレル。そこに――
「何を言う」
カーラが怒るように言った。
「吸血鬼になれば偉大なる純血種と姫様のために働けるのだ。それを愛する者と共有できるなら、この上もない幸せだぞ」
何ひとつ疑うことなく、自分の言葉は真実だというように言い切るカーラ。
そこには狂気は無く、酷く純粋であり、だからこそ余計に薄ら寒かった。
「……カーラさん?」
不穏なものを感じ鏡禍は呼び掛けるが、それを遮る様にバレルが言った。
「今日の所は仕切り直しだ」
カーラの腰に腕を回し、彼女も霧と化しながら続ける。
「興味があるなら、また来な。出来るだけ大勢を連れてな。晶獣で出迎えて、烙印を刻んでやるよ」
どこか疲れたような笑みを浮かべバレルは言うと、風と共に消え失せた。
その後、鏡禍の探索情報を元に、新たな依頼がローレットで出される。
内容は、月の王国進攻のための、敵戦力の事前削減。
本格的に進攻する前に、少しずつ月の王国の守りを削っておこうということらしい。
この依頼を引き受けたイレギュラーズは、転移陣を使い月の王国へと渡ることにした。
- <カマルへの道程>月下闘争完了
- GM名春夏秋冬
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年04月06日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
イレギュラーズは転移陣を使い、月の王国に訪れた。
「月の王国、また来れたわ」
転移の違和感に、『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)は小さく呟いた。
(何回目でも、転移陣っていうのから飛ぶの、不思議な感じ)
奇妙だと思える物は他にもある。
「そっくりな世界ってほんっとへんなのー」
実際、常に夜であることを除けば、ラサの砂漠によく似ている。
写し鏡のような場所を一行は進む。
空には満月が浮かび、柔らかく闇夜を照らしていた。
「こういう月と夜の世界、砂漠の容赦のない太陽と違って好きだな)
警戒は怠らず進みながら、『剣閃飛鳥』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は思う。
(汚いものを隠して、優しく冷たく照らしてくれて綺麗だし)
少しだけ満月を見上げる。
(だから吸血鬼も悪くない。吸血鬼、旅人の人達にもそんな存在は何人かいたし……ってこないだまで思ってたんだけど……)
少し前、相対した吸血鬼の様子を見て、違うのでは? という気持ちも浮かんでいる。
(色々あるんだろうな……知らないことも多いし……でも――)
イレギュラーズとして意識を切り替える。
(さて、ラサにちょっかい出すってんなら相手になるけど、カーラって人は話が通じるのかも知れない。なら、アタシがやる事は決まってるね!)
自分が出来ることを悔いなくするため皆は進む。
そんな中、静かに思案しているのは、『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)。
(本格戦闘の前の戦力のそぎ落としが今回の依頼の目的だけど……)
少し前、同じような依頼で吸血鬼と相対したヴェルグリーズは色々と考える。
(多くの人達の人生を狂わせた吸血鬼達は許されないことをした……そう思うのは変わらない。けれど――何も知らないまま皆殺しにすればというものでもないのも分かってる。少しでも、話せるなら……)
戦いだけでは、どちらかが滅ぶまで続く。
それはいつか自分達にも返ってくるかもしれない。
とはいえ戦わなければ何も進まないことも事実。
何事も単純に進めるのは難しい。
そうした難しさを、『君の盾』水月・鏡禍(p3p008354)と『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)も抱いていた。
「……あの、ルチアさん」
「……」
返す言葉を考えているのか、すぐに応えは返ってこない。
2人は、戦闘になればすぐさま対応できる位置取りをしつつ、話し声が聞こえない程度に一行から少し離れている。
「……」
無言のままのルチアを気にするように見詰めながら鏡禍は思う。
(僕は結局、ルチアさんに置いていかれたくないだけで、それで同じ種族になるって道を考えてました)
それは少し前、吸血鬼と対峙し、苦悩する様子を知ってからは考え直している。
(あの時のバレルさんの態度は、まるで同じになって後悔したみたいじゃないですか……だから、僕は……)
想いをルチアに伝えよう。そう思っていた時だった。
「鏡禍の思いは理解できなくもないわ」
言葉なくとも察してくれているというように、ルチアが先に応えてくれた。
「人と妖、寿命の違う存在の婚姻譚は、大体が悲しい結末に終わるもの。彼らの手を取れば、それを覆せるのかもしれない。でも、ね。鏡禍」
視線を合わせ、真っ直ぐに見つめながらルチアは想いを告げた。
「幸せな結末(エンディング)は、自分の手で掴み取るものだわ。与えられた施しに縋るなんて、願い下げよ」
「ルチアさん……」
感極まったかのように見つめる鏡禍に、ルチアは魅力的な笑顔で応えた。
「もちろん、メーデイアとイアーソーンの轍を踏むつもりはない。私がプシュケーなのだとしたら、ウェヌスの試練くらい独力で越えなきゃ、ね?」
これに鏡禍が応えようとした時だった。
「気をつけて。群れでやって来るわ」
精霊達の助力を借り、周囲を警戒してくれていた『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)が注意を促す。
視線を向ければ、砂埃を上げ突進してくる数多の晶獣の群れと――
「はははっ! 来たな貴様らー!」
テンション上がり過ぎたのか晶獣の群れを追い越して駆けて来る吸血鬼カーラ。
「見た顔もいるが見ないのもいるな。名乗れー!」
これに『おチビの理解者』ヨハン=レーム(p3p001117)が返す。
「どーも、ヴァンパイアハンターです」
「なっ、そんな職業が」
「最近キミたち吸血鬼をはりたおすお仕事多いからやって来たよ」
「ふっ、調子に乗るなよ。けちょんけちょんにして無職にしてくれる」
「ならこっちはぶっ飛ばして吸血鬼廃業させるよ。あ、人生も終わるかもだけど」
「なに!」
「そうなる前に吸血鬼自主廃業したら? 異世界では献血する事で菓子が貰えるみたいだけど、どう? 文化に取り入れてみない? 烙印だの王国だの物騒な事やめてさあ、ドーナツでも配ってりゃ良いんだよ」
「貴様っ、配るならドーナツ以外にも色々あるだろ! ラムレーズンクッキーとか!」
そういう問題ではない。
などとツッコミを入れるより前にカーラは襲い掛かって来ようとしたが――
「うぎゃ!」
後方からやって来た晶獣の群れに踏まれるカーラ。
そのままイレギュラーズに襲い掛かってくる晶獣。
ぐだぐだであったが戦いは始まった。
●月下闘争
襲い来る無数の晶獣。
連携なき数の暴力が、襲い掛かってくる。
無秩序な暴力の群れ。
それは一つの美しき剣舞に惹き寄せられていった。
天へ捧げる舞いの如き優美な動きで、ミルヴィは晶獣達と斬り結ぶ。
斬り砕かれ、赤き結晶が舞い散る。
晶獣達は追い付くことが出来ず――しかし赤き輝きに包まれ加速した。
急激に強くなる。
カーラによる強化。
気付いたミルヴィは、飛ぶような勢いでカーラの間合いに入ると、無数の刃を従え斬り裂いた。
「貴様っ……」
斬られたカーラは怒りと共に感嘆するような響きを声に滲ませる。
ミルヴィは、目を惹くほどの剣舞でカーラの注意を引きながら、同時に言葉で意識を引き付ける。
「ずいぶん気が散っている様子だけどアタシに追いつける?」
「なんだとー!」
挑発に乗るカーラ。
結果、晶獣への強化は疎かになる。
その隙を逃さず、『破竜一番槍』観音打 至東(p3p008495)が勢い良く粉砕する。
(常在戦場の理、業を持って示すとしましょう)
サムライとして戦場を駆ける。
暴威たる晶獣の群れを、恐れなく駆け抜けると、爆発炎上。
衣服の内側よりバラ撒いた自律自走式の爆弾が次々晶獣に取り憑き爆破したのだ。
憤怒の叫びをあげ突進してくる生き残りの晶獣。
その数は数多。
空を、砂漠を。
数の暴力で至東を圧倒しようとするが、時に飛剣で落し、時にするりと間合いを侵し斬り裂いた。
修羅の如き暴力を駆使しながら、至東は戦場を把握する。
(このいくさ、思うに血と骨のやり取りではありませんネ)
仲間がカーラとの会話にも重きを置いているのを確認し思考する。
(敵方の要は言の葉。というのも、ただ不利になったから撤退する、というわけでもないでしょうから)
三位一体の惨殺極意を振いながら、揺るがぬ心根で見極める。
(こちらの攻勢と敵方の撤退、その間に何があるのか、そこに何をしてくるのか。この一瞬に重点を置きたいからして、半端な小競り合いは手早く終わらせたいところです)
邪魔な晶獣を次々蹴散らす。
(跳ねる獣は大人しく、跳ねさせるけものも温順に。カンバセーションマジ大事という敵方の態度には、私としてもマジそれなの一言に尽きますし、ネ♪)
至東の考えのように、イレギュラーズとしてはカーラたちの思惑を知る事にも重きを置いていた。
だから邪魔な晶獣には消えて貰う必要がある。
実現するため、メリーノは最前線で駆けまわる。
(いっぱいいるねー。カタバミちゃんブンブンしたらぼとぼと落とせそう)
文字通り、大太刀回りで無数の晶獣を斬り砕く。
仲間との間合いを意識して動き、奏でるように振るう猪鹿蝶の三連撃。
飛び散る赤い結晶。
砂漠を駆ける晶獣は距離を取り、代わりに空翔ける猛禽型の晶獣が襲い掛かってくる。
(鳥ちゃんの爪とか嫌だなあ。怪我したらちょっと困るもの)
空からの突貫を避けながら、先に始末をつけようと集中攻撃。
(他は巻き込まれてくれるでしょ)
斬撃の威力を飛ばし羽を斬り、落ちて来た所で乱撃を叩き込み斬り砕く。
イレギュラーズは攻撃の手を休めず勢いを増し、迎え撃つ晶獣はさらに猛る。
双方傷が多くなるが、そこに両陣営から癒しの輝きが広がった。
「治癒比べもこちらの勝利だ!」
「なにを!」
空から光輪を降らせながら勝ち誇るヨハンに、カーラが猛反発。
「他はともかく回復なら負けんぞ!」
真紅の輝きを広げ晶獣を癒すカーラ。
「どうだ!」
「まだまだだな!」
対抗するヨハン。
双方魔力をガスガス消費するが尽きる様子は無い。
「まぁ、僕も吸血鬼とまではいかないけど? 結構人外的な魔力持ってンだよね」
「ぐぬぬっ」
「とはいえ治癒比べは疲れるのでここは互角という事で良いかな? カーラ様?」
「むっ」
「いや。やっぱり僕の方が上だなあ」
さらに癒しを重ね、ヨハンは力を見せつける。
「僕は血は飲まないが肉でも野菜でもレーズンでも食うからな、僕の方が強いのは当然だ」
「レーズンなら私だって食べる! 食べ比べするなら受けて立つぞ!」
「レーズンはちょっと待ってくれ。やっぱりそれはナシ」
「前言撤回が速いぞ貴様!」
「それはそれこれはこれ! とにかくな、もっと栄養のあるモノ食ってる方が強いんだよ!」
奇跡の癒しをヨハンは全力解放。
「行くぜ! 尽きる事のない絶大なる魔力! メイデンハート!」
大きく回復していくイレギュラーズ。
支援を受け、さらに攻勢を強めていく。
「さあ、おいで」
ギフトの影響もあり、集まってくる敵をジルーシャは、さらに招くように誘導する。
襲い来る敵を、澄み渡る思考で見極め回避する内に、いつの間にか周囲に晶獣が集まっていた。
(この距離なら、大丈夫ね)
仲間に影響が出ない位置であることを確認し、冷たき香りを広げた。
晶獣達に届き吸いこんだ瞬間、肺を、あるいは喉を、それどころか吐息すら凍てつかせる。
反射的に晶獣は逃げようとするが、空から降り注ぐ堕天の輝きが足を石化。
動きを止めた所で火焔の花弁を散らし、焼き砕いていった。
一連の戦闘で晶獣の数が減り、カーラへ集中し易くなる。
そこに鏡禍が近付き声を掛けた。
「カーラさん、お話しましょう」
ルチアが背中を守ってくれるように晶獣を抑えてくれることに感謝しながら、鏡禍は声を掛けていく。
「カーラさんは、姫様や純血種の方のために働けることを喜んでいましたけれど、お会いしたことあるのでしょうか?」
「むっ、なんでそんなことを知りたがる?」
「せっかくですから、どんな方なのか知りたいです」
問い掛けながらも、良い返事が来るとは考えてはいない。
(きっとお会いしたことないんでしょうけど……)
駒のように扱われているのでは? と思いながら問い掛けると――
「私のような新参者が御会い出来るわけが無かろう。だがいつかお目通り叶うよう頑張るのだ!」
無邪気に目を輝かせ応えるカーラ。
不穏な物を感じさせるカーラに、さらに鏡禍は問い掛けた。
「僕結構長生きなのですけど、カーラさんはいつぐらいからこちらへ?」
「二か月前からは居る筈だぞ」
不明瞭に答えるカーラ。
それを耳にしたヴェルグリーズは、晶獣の群れに一斉掃射を叩き込み一時的に遠ざけたあと、カーラに近寄り尋ねた。
「カーラ殿、キミはどういった経緯で吸血鬼になったのかな」
それは知る事自体に意味があると思っているからだ。
「魔種と同じように何らかの理由や経緯があって吸血鬼になったのなら、それを知ることに意味があると俺は思っている。よければキミの話を聞かせてほしい」
これにカーラは平然とした口調で応えた。
「そんな物覚えてないぞ」
「……それは、どういう」
「? そのままの意味だ。吸血鬼になる前の事なぞ覚えておらん」
それが何か大ごとなのか? というように不思議がるカーラ。
「昔の事など覚えておらぬが、そんなことより吸血鬼としてどう生きるかが大事だぞ!」
前向きに応えるカーラ。
あまりに不穏なので、さらに問い掛けようとした時だった。
「うぉっ、大分数減らされてんな」
カーラとは離れた場所に、吸血鬼バレルが霧から実体化し現れる。
ちょうど周囲の晶獣全てを斬り砕いた至東は、近くに現れたバレルに切っ先を突きつけながら問い掛けた。
「吸血鬼、貴方はバレルという名でしょうか?」
「ああ」
「ならば聞き及んでいます。此度のいくさ、共に在る仲間の意向を汲み、ただ会話するだけならば、それは聞き逃しましょう。ただ撤退するだけならば、それは見逃しましょう。ですが敵意を向けるなら――」
「敵意より、俺は聞きたいだけさ。あんたは吸血鬼にならないか?」
「なんたる不埒。『傷物』の乙女をさらに傷つけようとは、悪趣味にもほどがありましょうや」
「悪趣味ね。そりゃそうだ。これはこっちの不手際だ。悪趣味は謝るぜ、お嬢ちゃん」
そう言うと霧と化しカーラの傍に現れる。
「逃げるぜカーラ。勝てねぇからよ」
「むっ、まだ勝負は――」
宥めるようにバレルがカーラに話し掛けていると――
「待ちなさい!」
制御不能なブリンクスターで、天までカっとぶ程の瞬間加速したメリーノが突っ込んで来ると、2人の口に手を突っ込もうとしたが――
「危ねぇな! 弾みで噛んじまう所だったぞ!」
ギリギリ手で受け止めるバレル。
そんなことはお構いなしといわんばかりに、メリーノは啖呵を切るように勢い良く言った。
「あなたたちが何を知ってても知らなくてもどうでもいいの」
「ん?」
「あのねえ、帰ったらあなた達の大ボスに伝えてほしいのよぉ」
「何をだ?」
「わたしの可愛い銀色に、勝手にお花を咲かせてくれてありがとう。後でお礼をしに行くから、首はきれいに洗っておいてねえ」
バレルをぶん投げるメリーノ。
「早く帰って伝えてねぇ。ばいばい!」
晶獣の駆除に戻るメリーノ。
「うぁ、恨み飼ってんなぁ姫さん……まっ、当然か」
投げられたバレルは霧と化し再びカーラの横に現れる。そこに――
「バレルさん」
ルチアと共に前に現れた鏡禍が、ルチアさんを示しながら言った。
「この場に恋人も来てくれました。でも、やっぱり吸血鬼になる話、無しでお願いします。代わりに――」
手首を切り血を見せながら言った。
「どうにもならなくなるまでお友達になってください」
「友達はともかく血はダメよ」
鏡禍が変なことを言わないか横にいたルチアは言った。
「烙印が欲しいなんて言い出すつもりなら、平手の一つでも繰り出すつもりだったのだけれど、友達は止めないわ。でも鏡禍の血はダメ。それは私のよ」
傷を癒しながら告げるルチアに、バレルは穏やかな笑みを浮かべ応えた。
「熱いねぇ、火傷しそうだ。熱すぎて飲めねぇよ」
そう言うと自分の手を斬り血の結晶を咲かすと、握り砕き撒く。すると晶獣達が荒れ狂う。
その隙に乗じて逃げようとするバレル達に、ミルヴィが呼び掛けるように問い掛けた。
「改めて聞くけれどアンタ達は何が目的なの? 何故こんな事をしなくちゃならないの?」
「決まっている。偉大なる純血種と姫様のためだ!」
無邪気に答えるカーラと、苦悩するように歪んだ笑みを浮かべるバレル。
そこにジルーシャが声を掛けた。
「……カーラちゃんは、吸血鬼でいることが幸せなのね」
それを否定するつもりはない。けれど――
(吸血鬼になってしまったことで傷ついて、苦しんでいる人も確かにいるわ)
だからこそ問わずにいられない。
「……ね、アンタたちには、夢ってないの? 吸血鬼じゃなければやってみたいこととか」
「あいにくと、そんな余裕はねぇな」
歪んだ笑みを浮かべバレルは応えた。
「悪ぃな……夢を考えられるほど余裕はねぇんだ」
「それは――」
さらにジルーシャは呼び掛けようとしたが、暴走する晶獣のせいで離される。
その隙に逃げようとしたバレルに――
「また会ったね」
晶獣から傷を受けるのも構わず近付いたヴェルグリーズが言った。
「キミの目的がカーラ殿にあるのはよくわかったよ」
カーラを守るように立つバレルを見詰め、ヴェルグリーズは賭け告げるように提案する。
「キミとは目指すところを同じに出来ると思うんだけれど……どうだろうか」
「……それを信用しろってのか?」
「何なら烙印を刻んでも構わない、それでキミの信用が得られるならね」
「……そうかい」
止められる者も、止めようとする者も周囲には居ない。
ゆえに、烙印は刻まれた。
「……悪ぃな」
呟きながらカーラと共に消え去るバレル。
残った晶獣を皆で全て倒し、ジルーシャは遠くに見える月の王宮に視線を向け決意するように想う。
(皆につけられた『烙印』を消す方法があそこに――月の王国にあるかもしれないなら、アタシたちは進まなくちゃ)
その決意に返すように、一陣の砂塵がイレギュラーズの間を流れるのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした!
皆さまの労力のお蔭で、周囲一帯の晶獣は一掃されています。
お蔭様で、王宮へと続く道の邪魔となる障害は着々と減っているようです。
そして吸血鬼は勝てないと見て逃げたようです。
それでは、最後に重ねまして。
皆さま、お疲れ様でした。ご参加、ありがとうございました!
●運営による追記
※ヴェルグリーズ (p3p008566)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
現時点で判明しているのは、
・傷口から溢れる血は花弁に変化している
・涙は水晶に変化する
・吸血衝動を有する
・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています
GMコメント
おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
今回は、アフターアクションを元にしたシナリオになっています。
プロローグの時間軸は、同時期に出していますもう一本のシナリオ「月下偽闘争」と
同じ時間軸ですが、そのあとの時間軸はズレています。
こちらのエピソードは敵側の思惑が戦闘なので「月下闘争」となっています。
以下が詳細になります。
●成功条件
転移先の月の王国で、敵となるモンスターを可能な限り倒す。
●状況
以下の流れで進みます。
1 古宮カーマルーマ内部の転移陣から月の王国へと転移する。
複数存在する転移陣のひとつから、月の王国へと転移します。
2 月の王国に転移後、しばらく砂漠を進み、待ち構えていた敵と戦闘する。
転移陣から先に進むと、吸血鬼であるカーラが晶獣と一緒に待ち構えています。
戦って下さい。
3 戦闘に勝利する。
晶獣をある程度倒す、あるいはカーラにある程度ダメージを与えると
新たな吸血鬼バレルが現れ、カーラを連れて逃走します。
その後、残った晶獣を全滅させれば依頼達成です。
●敵
サン・エクラ×?
小動物や小精霊などが、紅血晶に影響されて変貌してしまった小型の晶獣です。
鋭い水晶部分による物理至~近距離戦闘を行うことが多いです。
いわゆる雑魚敵です。
アマ・デトワール×?
生物が晶獣に変質する際、副産物的に生まれる小型の晶獣です。
神秘術式による神秘中距離~遠距離攻撃を多用します。
サン・ラパース×?
ラサに多く生息する大型の猛禽類が変貌したものです。
飛行しており、すばしっこく連携してきます。
くちばしやつめによる攻撃は物理属性のダメージや
出血系列などを付与してきます。
今回出てくる敵は全て、いわゆる雑魚敵ですが数が多く出てきます。
また、吸血鬼であるカーラの強化を受けることで一気に強さが跳ね上がります。
吸血鬼
カーラ・アストレイ。
男装の麗人の姿をした吸血鬼。基本、アホの子です。
強力なバッファー&ヒーラー。現状攻撃能力は、ほぼありません。
自身を強化することは出来ますが、根本的に戦闘に向いてない模様。
会話をすることは可能ですが、詳しいことは何も知りません。
バレル・バレット。
昼行灯っぽいオッサン吸血鬼。
晶獣がある程度倒されるか、カーラがある程度ダメージを受ける
あるいはカーラとの会話内容によっては現れます。
基本戦闘はせず、カーラを連れて逃げ去ります。
同時期に出していますシナリオ「月下偽闘争」で死亡していた場合は
現れません。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
あくまでも付与される場合があるだけで、確実にされる訳ではありません。
場合によっては、誰も付与されない場合もあります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
説明は以上になります。
それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。
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