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シナリオ詳細

<カマルへの道程>劇場版に出てくるタイプの井さんと吸血鬼と欲望の烙印

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●井の欲望
「烙印?」
 と、くるくる回転しながら井がそういったのは、ラサのネフェルスト支部である。襲撃の跡はまだあれど、しかしほとんどその機能を回復した支部では、今日もローレットの情報屋や職員たちが、忙しそうに走り回っていた。
 そんな支部の一角、テーブルに座りながらお茶を飲んでいた井は、最近の依頼の資料などを読んでいたわけである。
「ええ。なんか吸血鬼(ヴァンピーア)ってのがいまして」
 そういうのは、情報屋であるファーリナ(p3n000013)だ。彼女は資料整理などをしつつ、井から読み終わった依頼の資料を回収していた。
「ほら、カーマルーマの先に月の王国とかいうのがあったでしょう? そこに敵の本拠地があるらしくて。そこから来てるみたいなんですよね。
 で、吸血鬼っていう連中は、こう、こちらに『烙印』っていうのを付与してくるんです。吸血衝動にかられ、涙は水晶に、血は華に。そしてやがては吸血鬼に変貌するという恐ろしい症状でしてねー。
 すでに何人かが、烙印に侵されているらしいですよ。ほら、レナヴィスカのイルナスさんとかも。
 それから、烙印を付与されたものは、体の一部に文様が浮かび上がるようです。個人差とかあるらしいですが」
「え、それはつまり」
 井が回った。
「吸血鬼と戦うと、えっちなマークを付けられて、耽美な感じの症状に見舞われる?」
「何言ってんだお前」
 ファーリナが言った。
「耽美な症状はともかく、えっちなマークではないでしょうよ」
 あきれたように言うファーリナだが、しかし井はなんか渋い声で言った。
「……しかし、こう、性癖センサーに反応があります。
 何か……性癖……そういうものの気配がするのです……」
「まぁ、こう、デカダンスな気配は感じなくもないですが。いや、実際にやべー状態ですから、あんまりそういうのも不謹慎みが」
 だが、井は「ふむ……」と思慮深そうな顔をして唸りつつ、
「これは……実際に見てみたいところですね。気になります。
 次に吸血鬼討伐の依頼があったら、ぜひ呼んでくださいね! 僕もついていきますんで!」
 ぐるるん、と回る井に、ファーリナは、「はぁ」と嘆息して見せた。
「まぁ、それはいいんですけど……ああ、そういえば、吸血鬼の目撃情報がありましたね。
 ちょうどよさそうです、そこ行ってみたらどうですか?」
 いささか投げやりにそういうファーリナへ、
「おっ、ほんとですか!? 行きます!!!」
 と、井がぐるぐると回った――。

●吸血鬼と戦う
「なるほど、マジで砂漠ですね!!!」
 と、井がぐるぐると回ったので、あなたは不審げな顔をして見せた。
 そこにいたのは、井みたいな形をした生き物である。なんでも、今回の依頼についていきたいといったイレギュラーズなのだそうだが――。
「烙印! 気になりますねぇ!」
 なんとも。お気軽なものである。
 そもそも、この井は戦えるのだろうか……とか。色々と心配な気持ちがわいてくる。あなたは、はぁ、とため息をつきながら、今回の依頼を思い出していた。
 吸血鬼がアジトとしている遺跡が存在するらしい。
 加えてそこには、誘拐されてきた幻想種たちが捕まっている、とも。
 なんともあいまいな依頼であるが、調査も兼ねて、遺跡を探ってほしい、というのが、ラサからの依頼だった。
「井、って言ったか?」
 仲間のイレギュラーズが言うのへ、井が回った。
「はい!」
「えーと、戦えるのか?」
「それなりには!」
 ぎゅるるん、と井が回転したので、仲間はこめかみに手をやった。
「そうか……ただ、危ないので、無理だけはしないでくれ……」
 と。そう告げた刹那。
「助けて――」
 と。か細い悲鳴が響いた。む、とあなたたちは声の方を見る。そうしてみれば、砂漠の丘を滑り降りるように、披露した様子の幻想種の少女が走ってくるところではないか!
「いけません!」
 井がぎゅおん、と回転しながら飛び出す。あなたも後を追った。到着してみれば、幻想種の少女はガタガタと震えながらも、しかし人に出会えた安堵に頬を赤らめていた。
「た、助けてください……! この先に、皆捕まっていて……! 
 吸血鬼(ヴァンピーア)、と名乗った人が、私たちを捕まえて、一緒にさらわれてきた子の血を吸って……!」
「どうやら、さらわれた幻想種たちは、吸血鬼に売り渡されていたようですね……!」
 仲間がそういうのへ、あなたもうなづいた。昨今誘拐されていた幻想種たちの一部は、このように吸血鬼の餌にされているようだ……!
「おっと、いけませんね――人の食事に手をだすとは」
 澄んだ声が響いた。同時に、無数の蝙蝠のごとき怪物たちが、自分たちを包囲しているのを感じた。さ、さ、と砂を踏む音がする。その音の方を見てみれば、なるほど、耽美かつ流麗な容姿の青年が一人――。
「ひ……!」
 と、少女が身を竦ませた。井が、あなたが、少女をかばうように立ちはだかる。
「どうやら、下賎のものは人の食事がよほど恋しいと見える。いけませんね。
 紳士的な行いに反しますよ。
 どうしても分けてほしいのなら、跪いて頭を垂れなさい。
 私の『食糧庫』には、まだまだたくさんありますから。少し恵んであげましょう」
 その言葉に、少女が体を震わせた。食糧庫――そこで、ほかの幻想種たちがどのような目にあっているのか、彼女の様子だけで知れるというものだ。
「紳士ですって?」
 井が、吠えた。
「あなたのやっていることのどこが紳士だというのですかッ!
 許せませんッ!」
 ぎゅおん、と井が回転した! その怒りが、あなたにも伝わる。この吸血鬼を赦せないという思いは、あなたも同じだ!
「皆さん! お力をお貸しください! あの吸血鬼に、真の紳士というものを教えてあげましょう!
 僕は今は本気です! 本気で怒っています――そう! 今の僕は! 『劇場版に出てくるタイプの井』だッ!」
「わけのわからないことを――ですが、いいでしょう。
 貴方たち、愚か者の血液も、ひと時の慰めにはなりましょう」
 吸血鬼が笑う――周囲のコウモリたちが幾つかにまとまり、それは巨大な翼をもつ5羽の怪物と化した!
 あなたは、武器を構えた! この卑劣な吸血鬼を、倒さねばならない!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 少女を救いましょう!

●成功条件
 『劇場版に出てくるタイプの井』および『少女』が生存している状態で、すべての敵を撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●特殊判定『烙印』
 当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●状況
 吸血鬼のアジトが存在する。そしてそこには、さらわれた幻想種もいるらしい――。
 そんな情報を得た皆さんは、なぜかついてきた『井』とともに、現地に向かいます。
 能天気な井にあきれながらも進んでいたところ、砂漠の向こうから、一人の幻想種の少女が助けを求めて走ってきたではないですか。
 話を聞けば、誘拐された幻想種たちは、この先に遺跡に存在する吸血鬼に買われ、餌としてひどい仕打ちを受けているとのこと。
 そんな少女を追ってきた吸血鬼、ハイドリアは、皆さんを補足すると、排除すべくこうげきをしかけてきます。
 このような卑劣な吸血鬼を赦すわけにはいきません! 皆さんは、少女と、ついでに井を守りながら、この敵と戦うことになります。
 作戦開始時刻は昼。作戦エリアは砂漠。特に戦闘ペナルティはありません。

●エネミーデータ
 吸血鬼、ハイドリア ×1
  紳士然とした耽美な青年の吸血鬼です。見た目と裏腹に、その性根は傲慢であり、人間はエサとしか思っていません。
  強力な吸血鬼であり、特に神秘属性攻撃を得意とします。
  全距離に対応できますが、特に特異なのは遠距離攻撃。
  下記のコウモリの怪物サン・コシュマールに襲わせ、そのすきを突いた遠距離攻撃による連携を行ってくるようです。
  弱点があるとするならば、近接レンジの攻撃は比較的弱いこと、物理攻撃はほぼ使わないこと、でしょうか。
  また、打たれ弱い傾向にもあります。一気に距離を詰めて攻撃……という手を取るといいかもしれません。

 サン・コシュマール ×5
  複数のコウモリのような晶獣が融合して生まれた、巨大なコウモリのような化け物です。
  タンク+アタッカーといった感じで動きます。高い防御性能と、物理攻撃能力が得手です。
  半面、命中と回避の面で難があることが弱点でしょうか。また、FBもやや高めですので、さらにそれを高めてやると、楽に処理できるかもしれません。

●味方NPC
 『劇場版に出てくるタイプの井』
  井です。今回はちょっと真面目なので、たぶん劇場版に出てくるタイプの井なんだと思います。
  それなりに戦えますが、所詮井なので、守る法に動いた方がいいでしょう。
  EXFが異常に高いのでそうそう死にませんが、必殺などを当てられてしまうとそのまま倒れてしまいますので。

 少女
  クィリア、という名の幻想種の少女です。彼女には戦闘能力がありませんので、守ってあげる必要があります。
  井に任せれば、ひとまず体を張って守ってくれるでしょう。最初に最前線から逃がしてあげるといいかもしれません。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <カマルへの道程>劇場版に出てくるタイプの井さんと吸血鬼と欲望の烙印完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年04月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

リプレイ

●井さん(劇場版)
「あなたのやっていることのどこが紳士だというのですかッ!」
 そう、井が言った瞬間――イレギュラーズたちの脳裏に浮かんだのは『?』であった。
「……ブーメランなのでは……?」
 思わずこぼす、『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)。
「ええと、まあ」
 こほん、と『導きの双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)が咳払い。
「何かおかしいものを食べたり、頭をぶつけたり、反転したとか、そういう異変というわけでは」
「ないです。ただ劇場版なだけです」
「なるほど?」
 ルーキスが首を傾げた。
「大丈夫そうです」
 よくわからないけど、そういうことにした。
「正直、おっぱいが大きくなる迷宮の恨みは忘れていないのですが」
 『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)がジト目で井を見やりつつ、ふぅ、と嘆息一つ。
「真面目で真剣な様子は伝わってきたので、まぁ今はいいです、一緒に頑張りましょう。
 あの、紳士とは程遠い吸血鬼を倒しませんとね」
 そう、構えて前を見やる。その視線の先には吸血鬼たちの姿があった。
「くくく……正直、その井みたいな生き物の言うことはよくわかりませんが、あなた達は愚昧なる人類にしては、なるほど、容姿の整ったものたちのようですね」
 ぺろり、と、吸血鬼――ハイドリアが舌なめずりをする。
「おっと、失礼。これは非紳士的な行いでした。
 ですが、どうも――吸血衝動というものは抑えきれない。
 吸血鬼とは高貴で崇高な生き物なのですが、こればかりはいただけないものですね」
「ふ――よくもぺらぺらとしゃべるものですね」
 『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)が、皮肉気に笑った。
「いやはや紳士たる者として、ですか。耳が痛いですねぇ。
 であれば改めて畏まり、一つだけ欲しい物を頂く事が出来れば私は大人しくしようかと。
 えぇ貴方の命さえ、それさえ頂戴出来れば」
 にぃ、と笑うバルガルの瞳は暗い。されど、その怒りは正義の色に燃えている。
「ふん。どうやら獣も混ざっているようだ」
 小ばかにするように、ハイドリアは鼻を鳴らす。
「以前にもいましたね。ラサからの獣どもが。随分と気勢を上げていましたが、ああ、残らずころしてさしあげましたよ」
「……ラサの傭兵たちも手にかけてるってのか……!」
 『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)が声を上げるのへ、逃げてきた少女、クィリアが震えながらうなづく。
「わ、私たちを助けに来てくれた人たちなんです……でも、でも……!」
 恐怖に身を震わせるその様を見れば、アクセルは彼らのたどった悲惨な運命を想起せずにはいられなかった。
「……なんてことを!」
「おや、賊は討伐されるが世の習わしでしょう。加えてあのような下卑た連中などは、食材とする価値もない」
「……いつ、餌になるかという、おそろしさ。
 わたしは、それを……よくしっていますの」
 『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が、き、と真っすぐに、ハイドリアを見つめた。
「わたしは、たしかに、被食者でしたの。
 だから、クィリアさんが、とても怖い思いをしたことを、理解できますの。
 ……そして、それを無意味におしつけた、あなたがとても、酷い方だということも」
「おや、どうやらあなたは、料理のスパイスというものをご存じでない」
 ハイドリアはからかうように言った。
「恐怖に洗練されたものの血は、よく寝かせた極上のワインにも匹敵するもの。
 人間とて、肉を食う前に塩コショウを振るでしょう? 料理ですよ。我々なりの」
「料理を、侮辱しないで、ほしいですの……!」
 ノリアが、叫んだ。
「あの人にとって、料理は、人を笑顔にするためのもの……!
 同じものを、名乗らないでほしいですの……!」
「なるほど。クィリアさんが逃げたというのに、あせった様子もなく、むしろ楽しんでいるようであったから、最初は狩りのつもりかと思ったが」
 『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が、怒りの表情を見せた。
「料理、のつもりだったとはな。なるほど。希望が摘み取られて絶望した獲物の血が至高とかそういうタイプか。
 つくづく――気に入らないな。お前を見ていると、とても嫌なことを思い出す」
「その白き毛皮、血の匂いがしますが」
 ハイドリアが言った。
「隠しきれませんよ。あなたの業」
「だとしても――今は、違う」
「そうでして! 別に、井さんが紳士とは言いませんけれど――」
 『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)が、びしっ、と指差を刺しつつ、言った。
「あなたが紳士かといえば、絶対にNOでして!
 それっぽい言葉遣いと恰好をしただけの張りぼてにしか見えないのですよ!
 それに、クィリアさんたちの出所から、犯罪者集団に頼らないと自力では満足に食にもありつけないって言い変えると……。
 そこまでして血を吸って生にしがみつくのは、最早惨めにすら思えるのでして!」
「ほう」
 どうやら、ルシアの挑発に、ハイドリアはカチンと来たようだ。今まで穏やかだった顔を、わずかに怒りにひくつかせる。
「お元気なお嬢さんだ――ですがまだまだ子供。大人の魅力というものを理解できないようだ。
 貴方が淑女でないのは惜しいですが、しかし、大人を侮辱したという罪は消えがたい。
 その血、絶望のスパイスで彩ったのちに、美酒としましょう」
「知能指数の足りない頭で、一生懸命それっぽい言葉遣いをしているのが見え見えなのですよ!
 あなたが怒っているのだとしたら、ルシアたちもいっぱい怒っているのでして!」
「そうだね。オイラたちは、あんたを許さない。
 井って人じゃないけどね、本当の紳士ってやつを、おしえてやる!」
 アクセル叫ぶのへ合わせて、仲間たちは構えた。
「お力をお貸しください!」
 井がぎゅるん、と回転するのへ、皆は力強くうなづく。
「では、似非紳士には、この世からご退場願いましょうか」
 バルガルが凄絶に笑ってみせるのを合図に、一同は一気に砂漠を走りだした!

●血を吸う鬼
「うおおお! カチコミだぁぁぁぁ!!」
 ぎゅるるん、と回転する井! だがそれを、バルガルが鎖でガッしてグッした。
「おんぎょっ!?」
 悲鳴を上げて止まる井!
「おっと、井さん。あなたはクィリアさんを守りつつ、戦線から離れてください」
 バルガルがそういうのへ、井がぶーたれる。
「えっ! ですが、僕の怒りはどこにぶつければ!?」
「義憤に燃えるのは結構。ですが紳士ならば、横におわす淑女のエスコートはどうなさるおつもりで?」
 バルガルがそういってみせるのへ、井は回った。
「確かに……怒りに我を忘れるところでした。紳士ポイントマイナス! すみません、皆さん。後はお願いします!」
 井は回転しながら、クィリアの手を取った。
「さぁ、逃げましょう! 僕が守ります!」
「あ、はい。えっと、あの」
 困った様子で視線を向けるクィリアへ、ルーキスがうなづいた。
「とりあえず信用して大丈夫かと……」
「あ、はい。あの、みなさん、お気をつけて……」
 困惑しつつ、ぐるぐる回転する井に誘導されたクィリアが戦線から離れていく。さて、こうなればこちらの本領発揮の時だ。
「ふ――逃げたところで、結果は同じだというのに」
 ハイドリアがそういうのへ、ユーフォニーはきっ、と視線を真っすぐに、ハイドリアへとぶつけた。
「あなたたち、吸血鬼のやり方は、いっぱい学んできたつもりです。
 絶対に、犠牲は出させません。
 ……いきます!」
 ユーフォニーが構える――その瞳に、勇気の色が輝く。
「先にコウモリさんを落としましょう!
 ノリアさん、お願いできますか……!」
「おまかせ、ですの!」
 ノリアが、その両手をぱぁっと広げて、しっぽをゆらゆらと揺らした。
「さあ、ここに……おいしい、のれそれが、ありますの!
 ぞんぶんに、お食べになると、いいですの!」
「コウモリども! なら願い通りに、食らいついてやるといい!」
 ハイドリアがそう叫んだ刹那、コウモリたちがきぃきぃと叫びながら、ノリアへと殺到する――その牙を突きつけた瞬間、だが痛みに悲鳴を上げたのは、コウモリたちの方だ!
「なに……!?」
 ハイドリアが驚きに叫ぶのへ、ノリアは勇敢な表情で、声を上げた。
「どれだけ、あなた達が強くても……。
 わたしは、かんたんには、食べてあげられませんの!
 むしろ、わたしのうちの棘に、刺されてしまいますの!」
「ふ――美しい花には棘があるか……だが!」
 ハイドリアが、その指を力強く鳴らす。それに呼応したかのように、血色の神秘の弾丸が、ノリアを撃ち抜かんと放たれた!
「くっ……!」
 身を守る水鱗がその直撃をさけるが、しかし衝撃はノリアの体を駆ける。ハイドリアは棘の痛みに顔をしかめながら、
「花を手折るのに、棘を恐れてはいられないな……?」
 傲慢にも笑ってみせる。その間にも、コウモリたちの死をも恐れぬ攻撃が、ノリアに襲い掛かった。
「ハイドリアを引きはがします。コウモリたちを」
 チェレンチィがその両手にナイフとダガーを構える。胸の前でそれを交差させた刹那、その体が雷に包まれる!
「さて、紳士さん。躍ってもらいましょうか?」
 チェレンチィが呟きとともに、ステップ――地上を走る雷と化したチェレンチィが、そのままの勢いでハイドリアへと突撃!
「これは……!?」
 さしもの吸血鬼も、地上を駆ける雷の直撃を受けるわけにはいかない! ハイドリアは魔術障壁を全開に展開すると、雷光=チェレンチィを受け止める!
「ぬ、うううっ!?」
 バチバチとはぜる雷光に、ハイドリアが叫ぶ――チェレンチィがくすりと笑った。
「ステップは苦手なようですね。その様子では、ついてこれませんよ」
 交差するように駆け抜け、そのまま方向転換、ナイフを構えてとびかかる。ハイドリアは、近接戦闘は苦手なようだ。ようやくの様子で、チェレンチィのそれを受け止めて見せる。
 一方、五匹のコウモリたちの迎撃も併せて行われていた。
「ぜんぶまとめて、ずどーん、でして!」
 ルシアが声とともに、手にした狙撃中のトリガを引く。魔砲を撃つことだけに特化したい歪な狙撃中。このレンジは、その本分を存分に生かせる距離だ! コウモリたち、その背後にいるハイドリアまで、纏めて貫く、ルシアの閃光!
「そっちの距離っていうことは、こっちの距離でもありまして! 遠距離が、自分だけの得手とは思わないことなのですよ!」
「コウモリども! 俺を守れ!」
 焦りが、偽りの紳士面をはがさせたようだ。同時に、光に巻き込まれたコウモリたちが、痛みと、命令に、右往左往する。
「はぁっ!」
 ルーキスが気合の言葉とともに、一刀! 上段から振り下ろされた刃が、コウモリの水晶の体を真っ二つに立ち割った!
「舐めるなよ――お前を守る盾など、存在しないんだ!」
 怒りに叫ぶルーキスの斬撃が、別のコウモリの翼を裂いた。バタバタと暴れるコウモリ、その額に、アクセルの放った青の魔弾が直撃する! ぎぃ、と悲鳴を上げて、コウモリの頭部が砕けた。そのまま、ばらばらと体もくだけて、地に落ちていく。
「ふん! そうやって、都合が悪くなったら逃げるってのか!?
 オイラは紳士なんてのに詳しくないけど、大人としてはどうなんだ!」
 まったくの正論をぶつけながら、アクセルはさらに攻撃を続ける。コウモリに二発目の青の魔弾をぶつけた刹那、コウモリがぎぃぎぃと悲鳴を上げて上昇した。逃げる心算か。だが、それを許さぬバルガルの鎖刃が、突き刺さり、引きずり下ろすように地面に叩きつける!
「上司が似非紳士なら、眷属もこうなりますか。主を見捨てて逃げるとは――いや、見切りをつけたと考えると」
 そのまま、バルガルが鎖を振るう。衝撃が、コウモリを砕き、抹殺した。
「判断が遅すぎますね。論外です」
「馬鹿な……!」
 追い詰めらえたハイドリアが、完全に仮面をはがされた下郎の顔で呻く。ハイドリアを守り、前線を固めるはずのコウモリたちは、イレギュラーズたちの猛攻で確実に消滅していった。一方で、チェレンチィは多大なダメージを負いつつも、ハイドリアを縫い留めることに成功している。
「ちっ……ちょろちょろとうっとうしい!!!」
 激高したハイドリアが、チェレンチィにその爪を突き立てる。接近戦は不得手とはいえ、人外の膂力である。チェレンチィは、それを回避することができなかった。ぎち、とその腕に、爪が食い込んだ。
「ぐっ……!」
「ならばこの烙印、貴様にも刻んでやろうか……!」
 ハイドリアの目が怪しく光る。ユーフォニーがたまらず叫んだ。
「だ、だめです! チェレンチィさん! 逃げて!」
「いいえ――今逃げたら、こいつを捕まえていられない、でしょう?」
 笑ってみせる。その腕の血が、やがて花弁に変わっても――チェレンチィは、逃げることはないだろう。
「――ッ!」
 鋭く呼気を吐きながら、チェレンチィはそのナイフをハイドリアへと叩きつける。不意を突かれた形のハイドリアが、その腕にナイフを突きつけられた。ばちばちと音を立てて、無数の花弁が散った。
「てめぇッ!」
 ハイドリアが、激高とともにチェレンチィを殴りつける。チェレンチィが吹っ飛ばされると同時に、入れ替わりに飛び込んでいたのは、ウェールだ!
「吸血はしょうがない。誰でも飯を食わなきゃ死ぬからな。
 だが少女をストーカーしてた奴が紳士を説くのは醜穢だぞ。
 涎を我慢してお膳立てしたのに、急な来客と空腹で苛立つのは分かるが――。
 紳士として振る舞うならもっと上手く本性を隠せよ化け者」
 挑発の言葉とともに、放たれた雷のごとき一矢。それが、ハイドリアの花弁舞い散る腕に、追撃の様に突き刺さった。ぎゃあ、とハイドリアが痛みに叫ぶ。
「うるせぇぞ! テメェだって、バケモンなんだろうが!」
「そうだな。だから――もう、俺は同じ道は歩まない」
 再び鼻垂れる雷の一矢が、ハイドリアの腕を斬り飛ばした。ぎいやああ、と下品な叫びをあげたハイドリアが、距離をとる。
「クソが! 全員、血を吸ってやる! この傷の消毒薬にしてやるぞ!」
「ささ、流血サーバーの餌如きにしてやられる気分は如何?」
 バルガルが挑発しつつ、鎖刃を振るった。暗殺の業をのせたそれが、七つの光のごとく直進して突き刺さる――刃が、ハイドリアの胸を貫いた。
「ご、ごふっ」
 食道を走るそれが、花弁となって吐き出される。だが、ハイドリアはにぃ、と笑った。
「この程度では死なない……もう一人、道連れにしてやるか……!」
 ハイドリアが、その手を振るった。花弁を固めた、血のようなとびナイフだった。
「ノリアさん、よけて!」
 ユーフォニーが、発射のその手前で、それに気づけた。だから、声を上げた。
 ノリアが、反応する。宙を泳ぐように、体を揺らした。その間隙を、ナイフが飛んでいく。
「くそ」
 ハイドリアが、顔をゆがませた。外した――。
「自分の身体から血が失われていく感覚はどうだ?
 貴様のような悪鬼には、血の代わりにとっておきの毒を喰らわせてやる!」
 ルーキスが、その叫びともに、鋭い斬撃をお見舞いした! 体を裂くような、強烈な一撃。そして、致死の毒。
「が、く、くそ、畜生! なんでだ、なんで、こんな……!」
 下卑た断末魔をあげながら、その体が水晶へと変化していく。やがて全く、結晶とかしたその体が、ばりん、と砕けて消えていくのに、さほどの時間は必要としなかった――。

●劇場版の終わりに
「チェレンチィさん、だいじょうぶ、ですの……?」
 そういうノリアへ、チェレンチィはうなづいた。その傷口は、今は花弁が零れ落ちている。
「ええ、大丈夫――大丈夫ですよ。だから、気にしないでください。ユーフォニーさん。覚悟の上です」
「ですが……だれも、傷つけさせないって、誓ったのに……」
 ユーフォニーが、辛そうにそういうのへ、チェレンチィは微笑んだ。覚悟の上だ。烙印という、恐ろしい結果を得てしまうことも。
 できれば、避けたかった。でも、避けられないときは、必ずある。
「クィリアさん、疲れてるとこわるいけど、さっきの吸血鬼のアジトに案内してくれないか?」
 アクセルがそういう。
「とらわれている皆を助けなきゃ」
「そうだな。きっと、恐怖に震えているだろう。早く助けてやらなければ」
 ウェールが続けるのへ、クィリアがうなづく。
「じゃあ、ルシアも助けに行きますので!
 バルガルさん、ついてきてほしいのでして!」
「ええ。チェレンチィさんの様子を見るメンバーと、救助に向かうメンバーで別れましょう」
 ルシアの言葉にバルガルはうなづいた。
 そんな仲間たちの様子を見ながら、井はつぶやいた。
「ルーキスさん。僕は実は――。
 烙印はえっちな紋章で、うらやましいとか、そういうふうに思って。
 ……現場を、見ていなかったのですね。
 ……ユーフォニーさんが、あんなにもつらそうな顔をしているのに、僕は」
 少しだけ申し訳なさそうにそういうのへ、ルーキスは笑った。
「いいじゃないですか。そういう気軽な態度が、誰かの心を救うこともあります。
 いまは、劇場版? なのでしょう。
 終わったら、いつもの井さんに戻ってください。そっちの井さんも、楽しいですよ」
 そういって、静かに笑った。

成否

成功

MVP

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚

状態異常

なし

あとがき

 明日からは通常版です。

●運営による追記
※チェレンチィ(p3p008318)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
 時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
 現時点で判明しているのは、
 ・傷口から溢れる血は花弁に変化している
 ・涙は水晶に変化する
 ・吸血衝動を有する
 ・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
 またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています

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