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シナリオ詳細

<帰らずの森>己を知ることは、怖れを知ること

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●golden heart
 恐怖の色を知っているかい
 君の胸を切り裂いて開く、その色は
 絶望の色をしっているかい
 君の未来を踏みつけ潰す、その色は
 黄金の心臓なんだよ

●アノマリー
 己を知ることは、怖れを知ることだ。
 何を恐れ、畏れ、そして溺れているかを知ることが、そのまま己を知る近道となるのだと。
「ならば私は、一体何者なのでしょうか。私は何を怖れている? 何を恐れればいい? もしかしたらそれすらも、黄金の心臓と共に失われてしまったのでしょうか……」
 苦悩するヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)。己を知ることが出来たとおもって手を伸ばした暗黒の塔には、確かに己のルーツがあった。ルーツを知る者と、その歴史と、そして誰かの死があった。
 しかし理解できたとは……言いがたい。
 己を知ることは、怖れを知ることだ。
 だから怖れの根源を、『あの女』が己を通してみた怖れの景色の象徴を、今こそ追わねばなるまい。

「『黄金の心臓』か。確か、あんたの胸の中に収められてたアノマリーオブジェクト(異常物体)だったな。ビクトリアさんはそいつを自分の手元には持っておかなかった。ブラックアイズを通じてピシュニオンの森へと持ち込まれたらしい。
 最近、それに関して気になる報告もあがってるんだ。ホレ」
 かつてビクトリアという女の下に使えていた亜竜種が、ピシュニオンの森の報告書をヴィクトールへと手渡した。
 彼らはクリスタラードの支配を受けていたアルティマ集落群の元住人であり、解放された今はローレットに協力している。ピシュニオンの森の偵察などをやってくれているが、何分危険な土地なので浅いエリアをやんわりと偵察するのがせいぜいだ。ヴィクトールたちとて、なにも偵察のために死んでこいなどとは思わないのだから。以上、閑話休題。
 彼の出してきた報告書には、『黄金の心臓らしき物体をめぐり、亜竜たちが森内で激しい争いを起こしている』というものだった。
「争い? 取り合っているんのですか?」
「最初はそうだと思われてたんだが、様子を観察してるとどうもおかしい。心臓を保有したヤツが狂ったように周りの連中を殺しまくり、周りは逃げ惑うっつー様子だった。
 中には勇敢に撃退するヤツもいたが、心臓を取り上げた途端そいつもまた周りの連中を襲い始めた。意味が分からねえ。本当にその『黄金の心臓』とやらは大丈夫なモノなんだろうな。コンクリで固めてどこか海の底にでも沈めたほうがいいシロモノなんじゃねえだろうな?」
「…………かも、しれませんね。
 それでも、僕は行くことにします」
 何かが分かる気がするから。何かが、見える気がするから。
 それが狂気や恐怖や、未知なる異常であったとしても。

●シンプル
 状況をシンプルに纏める必要がある。
 まずローレットは、フリアノン里長よりピシュニオンの森探索を依頼されていた。というのも、フリアノンの相談役として長らく信頼を受けていたベルゼーが冠位魔種であったことがわかり、その行方がピシュニオンの森の奥にあるとわかったためだ。
 ローレットは早速探索を進め、その一環としてヴィクトールは『黄金の心臓』にかんする情報を発見した。
 これがなんであるのかという根本的な問いに答えられる人間は、実のところいない。最も関わりが深いヴィクトールであってさえもだ。
 だからこの依頼はピシュニオンの森探索を目的としつつも、異常物体である『黄金の心臓』の特性を探る依頼でもあるのだった。
 あなたは未知なる危険の森の奥深くへと入り込み、そして新たな未知と異常に遭遇するだろう。

GMコメント

●オーダー
・成功条件:『黄金の心臓』の発見
 発見までが成功条件です。仮に手に入らなくても成功扱いとなります。
・オプション:『黄金の心臓』の特性を調べる
 ゆっくり調べる時間があるかどうかも不明です。かなりドサクサ紛れになる可能性があります。

●状況
 『黄金の心臓』が発見されたエリアでは、亜竜が激しい殺し合いを行っています。
 心臓をもった亜竜が他の亜竜を殺し回っているというのが正しく、その牙がこちらに向く可能性も勿論あるでしょう。
 また、周囲の亜竜たちはこちらに対して敵対的です。入り込んだ段階で戦闘になる覚悟はしておきましょう。

●エネミー
・亜竜
 どのような亜竜が敵として現れるかわかりません。
 こういうときはメタ張りをあえて意識せず、得意な戦術を叩きつける気持ちで作戦を備えておくのがよいでしょう。

●補足
・『黄金の心臓』
 正体不明のアノマリーオブジェクト(異常物体)です。
 黄金色の心臓に似た形状をしており、手触りは金属のそれに近いそうです。
 ピシュニオンの森のへんな場所にぽんと放り込まれるように置かれており、これの所有を廻って異常な争いが起きています。
※この異常物体に触れる、調べる、ないしは同調する際は充分に注意を払ってください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

  • <帰らずの森>己を知ることは、怖れを知ること完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月31日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
アルフィオーネ・エクリプス・ブランエトワル(p3p010486)
ライブキッチン
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ

●more and more、もっと破壊を
 その場所は、奇妙な洞窟を抜けた先にあるという。
 飽きるほど同じような景色の先に、アノマリーによる以上な戦場があるのだとなれば、道中はやはり奇妙な気分になるものである。
「そもそも、『黄金の心臓』ってなんなのかしら」
 『青薔薇救護隊』アルフィオーネ・エクリプス・ブランエトワル(p3p010486)はおそらく誰もが抱くであろう疑問を、反響する洞窟の中で呟いた。
 声が奇妙に反響したからではない。誰もが内心に同じものを抱いたがゆえ、反応したのだ。
 『魔女の騎士』散々・未散(p3p008200)の反応は特に顕著であった。
 華のように整った睫を僅かに伏せ、目だけは隣の彼へと向ける。
 思い出すのはいつかの言葉。
(あなたさまは記憶が戻った時、ぼくにこう云った
 『何もわからないほうが屹度幸せな気がしますよ、チル様』
 実際そうなのでしょう
 訳の分からない物に脅かされる事も、怖れる事も無い)
 その視線を受けているとわかっているのだろう。
 けれど『毀金』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)はなにも言わなかった。
(私は、知りたい。
 私の、心残りはもはや少ない。
 私は、知りたい。私とは何だったのか。
 その黄金は一体何で出来ているのか)
 無論、材質を問うているのではない。
 かの黄金はもしかしたら、己の恐怖でできているのかもしれない。
 もしかしたら、己の衝動でできているのかもしれない。
 もしかしたら、己の罪でできているのかもしれない。
 黄金とは得てして、誰かの心でできているものなのだから。
 ましてそれが、己の内から出でたのであればなおのこと。
「興味深い……ですね」
 どう言葉を差し伸べたものか考えつつも、『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はぽつりとそんな風に言った。
 一度ヴィクトールの顔色を見てみれば、どうという反応はしていない。
 であればと、アノマリーとしての心臓について言及することにした。
「心臓そのものに所持者に悪影響を与えるのでしょうか。
 未開の地に敵対的な亜竜たち……面白く」
 コホンと、咳払いをする。つい紅い考えが出てしまいそうになった。
「じゃなくて、気を付けて進みましょうか」
「話しをそのまま聞くなら、持ち主が凶暴化するアノマリーだものな」
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が腕組みをし、ううむと難しそうに唸る。
 しかしヴィクトールが凶暴化したという話しは聞いたことがない。彼の胸から取り出されたものだからなのか、だとすれば特別なのは彼なのか。それとももっと別の『何か』が特別だったのか。
「いずれにせよ、そのビクトリアという女はアノマリーをピシュニオンの森にぽんと放ったわけか。一体何故そんなことを?」
「理由はいくつか考えられる」
 『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)が手袋をはめなおし、眼鏡の奥で怜悧に目を光らせた。
「まずひとつが実験。危険な生物が大量にわいているこの場所に放り込むことで何かの反応を期待したというところだ。これはありうるが、現状を見るに異なるだろう。なぜなら、今現状俺たちは『モンスターが争っている』以上の情報を得ていない。もし反応が大きいものであるなら、特別な現象として俺たちの耳にも入るはずだ。
 次に投棄したということ。この場所は危険であるがゆえに人が立ち入らない。投棄するには丁度良い森だろう。当人にとって忌まわしいものなら、なおのこと海や街でなく人目につかないところに捨てるはずだ。
 もう一つ考えられるのは、罠だな」
「罠?」
 その言葉に真っ先に反応したのが、最初に疑問を呈したアルフィオーネだった。
「爆発でもするってことかしら?」
「意味合いとしては、間違っていないな」
 だろう? とジョージが視線で同意を求めると、汰磨羈が肩をすくめて返した。
「触れれば異常を起こすアノマリーだ。ピシュニオンの森への探索をいずれするであろう我々が無視するとも考えづらい。必ず接近するだろうし、十中八九触れることになる。その時何かが起こる……とかだな」
「何か、ですか」
 ヴィクトールは静かにつぶやき、それを未散が黙して流す。
「あ。若し暴れたり様子がおかしかったら死なない程度にボコして無理やり引っ張ってください。確保後に手放す気はあまりないですがそこは『正常な判断ができる方』におまかせします」
「正常な……」
 まるで自分は正常な判断ができないと言っているようではないか。
 未散はその言葉に、しかし否定は返さなかった。
(薄々勘付いてはいるんです。
 何処か遠い眸をしてる時に悟ったのです。
 此の御人は、躬らの『死』を畏れて居ないに違いない、と)
 そしてもし、どうしてもという時ならば。手にする役目はぼくが。と。
「皆さん、そろそろ現場に到着しますよ」
 洞窟を抜ける頃。マリエッタが皆に声をかけた。
 外では荒々しい声と音が響いている。
 誰も声に出さず気付いていた。
 ああ、争いの音だ。

●暴食の君、黄金の王
 惨状、と表現してよい。
 あたりには無数の亜竜の死体が転がり、今なお殺し合いが起こっている。
 褐色の鱗を持ったワイバーンが狼型のドレイクの首に食らいつき、激しい鮮血を散らしたかと思うと振り回し、地面へと投げ捨てる。
 血にまみれたその牙を露わに、ワイバーンはこちらへと気付いたようだ。
「我が名はブレノスアイレス。我が手にかかり滅びる者は幸いなり」
 血走った目でそう呟くと、亜竜ブレノスアイレスはぶわりと空へと舞い上がる。立ち去るためでは当然無い。こちらへ襲いかかるためだ
「早速か」
 ジョージは腕を広げ飛行状態をとると、ブレノスアイレスと同じ高さまで舞い上がる。
 木々を抜け空に至った両者はにらみ合い、そして真正面から衝突する。
 ブレノスアイレスの牙による食らいつきを紙一重でかわしたジョージは、カミソリのように鋭いキックで相手の頬を削る。
 すれ違いを起こしたその直後、アルフィオーネとマリエッタもまた空へ舞い上がっていた。
「大人しくなさい! 暴れる悪い子はおしりぺんぺんよ!」
 アルフィオーネは風邪のドラゴンロアを操り空を舞うと、ブレノスアイレスの放つ風のブレスに真っ向から対抗する。
 人呼んで『教導奥伝・オシリスの審判』。
 風の刃が次々と迫る中、それらを無理矢理に回避し突っ切り、相手の後方に回ったかと思うとアッパースイングによって臀部を殴りつける。
 そこへ、血の翼を広げたマリエッタが血の大鎌を振りかざした。
 『隠影血華』と呼ばれるその魔術は、死血の魔女の編み出した『死をもたらす血の魔術』である。ワイバーンの翼部分にガリッとかみあった鎌が、そのまま骨の部分を削り始める。
 競り勝ったのはマリエッタのほうだった。切り裂いた翼によってワイバーンは墜落を始め、木々をクッションにしつつ地面へと不時着する。
 その際に、ブレノスアイレスが保持していたとおぼしき黄金の心臓が地面へと転げ落ちた。
「亜竜はこちらで対処する。そちらは任せた!」
 接近戦となれば汰磨羈の得意。妖刀『愛染童子餓慈郎』を抜くと、限界まで断熱圧縮した空気を纏う刀身にて斬りかかる。
 ブレノスアイレスも負けじと空気を圧縮させ刃を作り、両者はいっそつばぜり合いを起こすのだった。
 幾度となく斬り合う二人の激闘をよそに、ヴィクトールと未散は黄金の神像へと駆け寄る。
 いっそ滑稽な風景であった。
 草の生えた地面にごろんと転がった、心臓を象った黄金。
 ヴィクトールは思わず自らの胸に手を当てて、とくんとくんと心臓の鼓動があることに奇妙な感覚を覚える。
 これは彼の胸から抜き出されたものであったが、臓腑はまた別にあるということなのだろうか。
 血をポンプし循環させる心臓という臓器は己が胸にちゃんとしまってある。
 ならばこれは、『何を循環させるものだったのだろうか』と。
「ヴィクトールさま。お側に」
 未散が呼びかけると、ヴィクトールは武器を彼女に預け徒手の状態でこくんと頷いた。
「いざとなったらぶん殴ってでも連れ帰りますのでご勘弁を」
「是非、そうしてください」

 心臓に手を伸ばす。
 触れた、その瞬間。
 ドクンと何かが身体を突き抜けたように思えた。
 何かが。
 そう、何かが。
 愛のような何かが流れ込み。
 破壊が吸い出されていくような。
 愛と破壊が、循環していったような。
 そして。きっとそうなると決まっていたのだろう。あるいは、そう望まれたのだろう。
 ヴィクトールから『何か』が残らず吸い出され、心臓は彼を拒絶した。

 バチンという電撃にもにた衝撃が走ったかと思うと、ヴィクトールは衝撃によって吹き飛ばされる。
 思わず手を伸ばしキャッチした未散と共に地面を転がり、顔を上げると……。
 心臓は宙にふわりと浮いていた。丁度、ヴィクトールが立っていたら胸があるであろう高さまで。
 そして心臓は空気中に何かを循環させ、何かを形作っていく。
 血管が。毛細血管が。骨が。肉が。筋繊維が。皮膚が、眼球が。頭髪が、そして黒い衣が。
 その姿はひどくひどくヴィクトールに似ていて、そして決定的に異なっていた。
 『ああ、思い出したとしたらそれは――』
「……時が来た」
 ヴィクトールに似ていてそして決定的に異なるそれに名を付けるなら。
「人はボクをこう呼んだ。悪魔喰。砂の都の民。迷宮に眠るもの。第八世界終焉シナリオ発動要員。絶望の向こうから来た者。絶対破壊対象。森を食らうもの――」
 黄金の杖を手に、憂うようにこちらを見た。
「だがこう呼んでほしい――『黄金の王』と」

●黄金の王
 これを説明するのに、多くの言葉は必要ない。
 『不明な怪物』、あるいはアノマリー。
 魔種でもなければ竜でもない。滅びのアークとは無関係ながら、それは滅びそのであった。
 古代の遺物。滅びの代名詞。
 一言で説明するなら、そう。
 黄金の王。
「ボクは世界を愛していた。愛していたから、壊してしまった」
 杖をスッとヴィクトールへ向け――それを、未散へと移す。
「――!」
 咄嗟にヴィクトールは未散をかばうように前へ出て、そして胸を貫かれたような衝撃を覚えた。ぱっと胸元に血の花が咲き、意識が一瞬とんでいく。
「破壊。それがボクの力だった。触れることはすなわち壊すことだった。
 望んだわけじゃないんだ。壊したかったわけじゃない。
 けれどボクは、愛するように作られた。故に、手を伸ばさざるを得ない」
 再びこちらへと歩み寄ろうとするそれに、未散は最大の警戒を示す。
「皆さん、撤退しましょう」
 役目は終えました。そう言い切って未散はヴィクトールへと手を貸す。そして持参していたブリンクスターを起動させる。
 ゴウッと魔力の噴射をかけ、ヴィクトールと共にその場を離れようと走り出す未散。
 それを、『黄金の王』は尋常ではない速度で追尾した。
 逃げ切れないかと思われたその時、マリエッタが上空から斬りかかる。
 振り下ろした血紅の大鎌が、翳した黄金の王の杖によって砕かれる。
 が、砕けた破片が全て血に溶け再びナイフへと成形され、黄金の王へと次々に突き刺さった。
 常人であれば全身から血を吹き出し死んでいてもおかしくないような状態にありながら、しかし黄金の王は石膏でできた美しい人間彫刻のごく平然とこちらを見つめ、まして微笑んですらいる。
 その微笑みが、一歩だけ踏み出す足が、破壊をもたらした。
「つうっ――!」
 マリエッタは全身に走った痛みに思わず呻き、そして自身がガラスになって砕け散るさまを想像した。
 そのまま立ち塞がっていては本当に砕けてしまうと想像し、マリエッタは大きくその場から飛び退く。遅れて、全身のあちこちからぶしゅんと血が吹き出た。
「マトモに戦ったらダメになりそうね」
 アルフィオーネがマリエッタを抱え、治癒の祈りを唱えながら地面すれすれを飛行する。
 そして、直感とでもいうべき何かで次なる衝撃を『回避』した。
 奇跡のような回避である。というのも、ついさきほどブレノスアイレスを屠ったばかりの汰磨羈が間に割り込み、飛来する衝撃の殆どを受け持ったからだ。
 不可視のそれは全身の腕をへし折るような力があり、肉を引きちぎるような強引さがあった。
 それでも汰磨羈が屈しなかったのは彼女の高い生存能力、あるいは自己防衛能力のたまものだろう。
 腕の骨がバラバラに砕けたその瞬間にマナを廻らせ骨を強制修復。皮膚へ強引にマナコーティングし腕の形を保たせると、防御の姿勢で次なる衝撃を身に受ける。
「逃げろ、マトモに戦うのはまた今度でいい!」
「なら、時間を稼がねばな」
 ジョージが海獣闘装《黒鯱》を拳に纏い、はるか上空から弾丸のごとく飛来し殴りつける。
 黄金の王の頭部を粉砕するだけのパワーがそれにはあったし、実際に粉砕すらしたが、表情はバラバラになったまま崩れない。
 うっすらと微笑んだような表情のまま、再構成が始まる。
 首から上がないまま腕が伸ばされ、ジョージの腕を掴む。それだけでジョージの腕が骨から砕け、ジョージは思わず顔を引きつらせた。
 あまりに圧倒的で、あまりに理不尽だ。
 この力を誰かが欲したというのなら、それは頷ける話である。
「考えは大方当たっていたな。『投棄』であり、『罠』だ」
 力を求めて手にしたものの、扱いきれずに捨てたのだ。
 そして捨てたそれを探し当て、黄金の王を目覚めさせると踏んだのだろう。ヴィクトールやその仲間たちへぶつける『破壊の力そのもの』として。
 ジョージはダメになった腕を庇いながら、仲間と共に撤退を始める。
 逃げ出す彼らを……しかし黄金の王は追わなかった。
 微笑みか、あるいは憎しみのような、どちらともつかぬ表情を浮かべたまま、洞窟の入り口に立ったまま。

●かくして物語のページはめくられて
 洞窟を必死に走り、逃げて、逃げて……そして出口へとたどり着いたところで、アルフィオーネははあと息をついて座り込んだ。汗だくの額を拭い、仲間たちが全員いることを確認する。
「みんな無事ね? よかったわ……」
 一次はどうなるかとおもったわ、とため息をつくアルフィオーネに、マリエッタは自らあの腕を確かめる。
 全身がバラバラになるのではと思えるようなあの予感は、そうそう外れたものではなかっただろう。
 あのまま一人で立ち向かっていれば、バラバラにちぎれてピシュニオンの森の生命の循環に加わっていたかもわからない。
「黄金の心臓の発見……というタスクは果たしましたね。より恐ろしいものも一緒に見つけてしまいましたけれど」
「あれを放置するのは危険よね……」
 マリエッタの言葉に、アルフィオーネが苦笑交じりに返す。
「私が立ち向かって防戦一方になったのだ。よほどの強敵ということだな」
 汰磨羈が自らの腕を軽く振って嫌そうな顔をする。
 実際汰磨羈のスペックは凄まじく良い。相手によっては完封が可能だし、彼女を殺すことは非常に難しい。
 攻防整いすぎていてどうしようもないというのが彼女の強さなのだ。
 そんな彼女が防戦一方になり、あまつさえ強烈に削られかけたというのは、それだけ格上の相手であるということだ。
「作戦を練り直す必要がある……か」
 ジョージがため息をつき、そしてヴィクトールたちへと視線を移す。
「チル様」
 手をだすヴィクトール。預けていた武器を返してほしいのだと察した未散がそれに応じると、ヴィクトールは呆然とした表情で空を見上げた。
「あの黄金は、愛と破壊でできていました」
「…………」
「あれを壊さなければなりません」
 なにをもってそう決めたのか、未散は問わない。
 自身がどうなろうとも。
 どう歪み、どう壊れようとも許容しようとした。
 しかし生まれたのは歪な『もう一つの自分』であった。
 彼は皆を愛し、世界を愛し、そして壊すのだという。
 ならば、決別しなければならない。
 知らなかった自分を、知らなかった過去を、知らなかった……愛と破壊の循環を。
「次こそは、必ず」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――黄金の心臓の発見に成功しました。
 ――『黄金の王』が目覚めました。早急な対処、あるいは破壊が必要です。

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