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シナリオ詳細

<カマルへの道程>侵食する『紅』

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●エーニュについて
「えーと、エーニュについては知ってるかな」
 そう、あなた達にいうのは、レライム・ミライム・スライマル(p3n000069)だ。ラサの、ローレットの支部の一室。喧騒冷めやらぬその一角で、あなたたちイレギュラーズは、今回の調査依頼の確認を行っていた。
 エーニュ。確か深緑のテロリストたちだったはずだ。先の、冠位魔種による深緑への攻撃に際し、漁夫の利を得ようとする形でアンテローゼ大聖堂を襲撃――撃退されていた。
 その後、今度はラサに現れ、再びこちらの混乱を突く形で商人連合の拠点の一つを襲撃――これもまた、ローレットによって阻止された。
 あなたが知っている限りの上記のことを告げると、レライムはうなづいた。
「そう。で、どうもエーニュは今回の紅血晶の事件にかかわっているみたい」
 深緑のテロリストがなぜ――。あなたがそう尋ねるのへ、レライムは「どうにも」というと、
「もともとは、エーニュに流れていた資金と、そのスポンサーについて調べていたみたい。
 その流れで紅血晶の事件に巻き込まれる感じになったの。
 エーニュを巻き込んだのは、ラーガ・カンパニーだって予想されてる。
 ラーガ・カンパニー。どうも、今幻想種をさらっている、いうなれば、ザントマンの後継者だね」
 ラーガ・カンパニーにはいまだに謎が多いが、どうも紅血晶の事件を起こした連中とかかわっているのは確かだろう。ラーガ・カンパニーの拠点の一つには、敵拠点である『古宮カーマルーマ』に続く転送陣が残されていた……
「ラーガ・カンパニーのことも問題だけど、あたしたちの問題は、こっち。エーニュの方」
 レライムが言うのへ、あなたの仲間がうなづいた。
「俺たちがやるのは、エーニュの方の調査だな?」
「うん。というのも、エーニュは深緑を追われる形でラサに移動してきたみたいで。
 彼らが潜伏しているのも、カーマルーマ付近みたい」
「妙な流れだな。それもラーガの目論見か?」
「半分半分だと思う。ラーガは狙ったけど、たぶん、今はエーニュを制御しきれてない。
 当然だよね。エーニュはエーニュで、爆発寸前の爆弾みたいな連中なので」
 もとより、危険思想の危険人物たちなのだ。それを完全に御するというのは、難しいだろう。
「だから、あたしたちはあたしたちで、エーニュを止めないといけない。
 ある意味巻き込まれた被害者だけど、同時にこれからは加害者になる可能性もあるし、もうなってる可能性もある」
「向こうの陣営に取り込まれる、みたいな感じかな?」
 仲間の一人がそういうのへ、レライムはうなづいた。
「というより、厄介な第三勢力になりかねないかも」

●まぎれる『紅』
「いつまで同志レンダルを放っておくつもりなのだ……?」
 声が聞こえる、とレンダルは思った。遠い砂漠の地、カーマルーマにて見つけた、小さな拠点の一つ。
 エーニュの分隊は、そこに潜伏していた。本部からの連絡を待ちつつ、ザントマンの遺産や、その後継者たちを見つけ、叩く――その崇高な目的は、しかし今は達成されぬまま、この地に封ぜられる形となっていた。
 というのも、状況がおかしいのだ……まるで何かにもてあそばれるように、この地にいる……いや、それはいい。それよりも、異様に喉が渇いていた。血が欲しい。血が飲みたいのだ、とレンダルは思う。そのためになら、この粗末な檻などは破壊してやってもいいと思う。いや、ダメだ。同志の血を飲むなど、あってはならないのだ……。
「レンダルは、烙印を押されたのだろう?」
 声が聞こえる。
「ならば、吸血鬼とやらになるはずだ。今のうちに殺さなければ」
「本部はなんといっている?」
「応答がない……パーマランベは何とかするといっていたが、どれだけ時間がかかるんだ……?」
 どれだけ時間がかかるのだろう。どれだけ耐えればいいのだろう。
 そもそも耐えるべきなのだろうか。吸血鬼。この素晴らしい力があれば、我々の理想も叶えられるのではないだろうか。
 レンダルはそう思う。それは都合のいい理論のすり替えでもあった。魔の力を手にしてまで、理想をかなえるべきか――そういう議論は、頭の中にはすっかりなくなっていた。結局の所、レンダルは喉が渇いていて、血が吸いたいのだ……。
 だめだ、だめだ、喉が渇いた――それだけが、レンダルの頭の中に浮かぶ。もう、もう、我慢できなかった。レンダルは、ひ、ひ、と笑うと、ゆっくりと、鉄格子に手をかけた――。

「ラウリーナって人の情報によると、この辺にアジトの一つがあるみたい」
 カーマルーマの存在するエリアの一角。薄汚れた廃墟に、あなたたちイレギュラーズはやってきていた。ちなみにラウリーナとは、元々エーニュに所属していた人間の一人で、先般、思想の違いから『袂を分かった』人物だ。彼は現エーニュにスパイを送り込んでおり、一部の情報を得ることができるというのだが――。
「信用できるのか?」
「まぁ、イルナスさんがお話ししたらしいし、あの人に睨まれてたら嘘もつけないと思うよ。
 それに、情報が正しいかを調べるのも、あたしたちの仕事で――」
 そう、レライムが言った刹那。廃墟にて、何が銃声のようなものが響いた。あなたは、すぐに仲間たちに目配せする。仲間たちは構えると、すぐに廃墟へと飛び込んだ。
「た、たすけて!」
 廃墟に入った瞬間、転げるように幻想種の男が飛び込んできた。ケガを負っているようだが、生命に支障はなさそうだ。だが、その顔は恐怖に彩られている。
「な、仲間が吸血鬼(ヴァンピーア)になったんだ! ほ、ほかの仲間の血を吸って……!」
「まずいね」
 仲間の一人がそういうのへ、あなたはうなづいた――すると、かつん、かつん、と、床を踏みしめる音が響いた。
「ああ、お客さんですか」
 靴音の主が言う。にぃ、と、血に濡れた口元をてらてらと光らせて。
「ああ、ローレットですね。隊長~、ローレットに助けを求めたんですか?
 それは、我らが同志リッセへの裏切りではないですか。
 ですから、そうですね。そんな奴らは、血をのまれても仕方がない。血をのまれても仕方がない!!」
 ぼう、と、吸血鬼――レンダルの体に、異様な気配が膨れ上がった。ひ、と足元の男が体を丸める。
 あたりを見てみれば、隠れている幻想種たちの姿が見えた。どれも、エーニュの兵士なのだろう。
「エーニュの人を助ける義理はないって思うかもだけど」
 レライムが言った。
「一応、助けてあげてね。気持ちの面では寝覚めが悪いだろうし、利益の面では情報源になるかもだし」
 いずれにせよ、この場はあの吸血鬼を倒さなければ収まらなさそうだ。
 あなたは武器を抜き放ち、構えた。
 吸血鬼との戦いが、始まろうとしていた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 エーニュのアジトにて、吸血鬼と接触しました――これの撃破を!

●成功条件
 吸血鬼・レンダルの撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●特殊判定『烙印』
 当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●状況
 皆さんは、エーニュというテロリストたちの情報を得るために、カーマルーマに存在する彼らのアジトの一つへと向かいました。
 しかし、向かった皆さんを出迎えたのは、テロリストの襲撃――ではなく、烙印に侵され吸血鬼と化した、エーニュの兵士、レンダルだったのです。
 彼は敵味方を問わず、無差別に血を飲もうとしています。彼をこのまま野放しにするわけにはいきません。速やかに撃破を。
 作戦結構エリアは、廃墟のロビー。十分広く、戦闘ペナルティは発生しないものとします。
 また、あちこちにテーブルや棚などの残骸が転がっていて、そこにはエーニュの兵士が総勢5名、隠れています。
 彼らはケガをしてるため、戦闘能力はありません。

●エネミーデータ
 吸血鬼・レンダル ×1
  レンダルという幻想種の男が烙印を付与され、吸血鬼へと転じた姿のようです。
  これまで吸血を我慢していたため強烈な飢えに襲われており、今は血を吸うことのみを考える状態になっています。
  まぁ、仮に正気に戻ったとしても、人類の敵ですので、ここで倒すしかないのは確実です。
  非常に強力な物理攻撃を使用してきます。その攻撃は『渾身』の属性を持ちます。
  遠距離面での攻撃も多彩ですが、やはり得手とするのは上記の渾身の物理攻撃です。それを封じれるように、一気に体力を減らしたいところですが、いくつか問題点もあります。
  まず、彼はEXAが高く、確実に複数回の行動を行ってくることが予想されます。
  また、周囲には5名のエーニュ兵士が隠れていると前述しましたが、彼はHPが減った場合、エーニュ兵士から吸血を行い、HPを回復します。
  これを阻止するためには、エーニュ兵士を助け出すか、殺すしかありません。
  エーニュ兵士を自力で動けないほど消耗していますので、何らかの手段で運搬してやったり、隣接して、主行動を使用することで『担いで移動』することでうごかしてやるしかありません。この時の移動量は、通常の機動力に準じます。
  エーニュ兵士を殺してしまうか、助け出し、レンダルから距離を取ってHPの回復を阻害するか、あるいは回復されても気にならないほどの飽和攻撃を与えるか……皆さんの作戦次第です。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <カマルへの道程>侵食する『紅』完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月29日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

リプレイ

●暴走
「ああ、ああ、喉が渇いた……喉が渇いているんですよ、隊長」
 ぐ、と、その男――吸血鬼レンダルは足下に倒れこんでいた男の胸ぐらをつかんだ。どちらも華奢な体格ではあったが、しかし、片手で持ち上げるとしたら相当に困難な体重だろう。だが、レンダルは苦も無く、男を片手で持ち上げてみせた。
「血をください……ずっと、ずっと我慢してたんですからねぇ!」
 ぐしゃり、と、レンダルは男を首筋にかみついた。びしゃびしゃと音を立てて、鮮血が飛び散る。レンダルは、その血を嬉しそうにがぶがぶと飲み干した。そのたびに、彼の肉体の傷や疲労が癒えていく様を、イレギュラーズたちは確認した――。
「なんてやつだ……!」
 『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)が、思わず声を上げた。レンダルが男たちに向けていた眼は、かつては同じ思想を共にした仲間へのそれではなく、もはや皿に盛られたステーキを見つめる飢えた人間のそれと変わりない。
「お腹がすいた獣は怖いっていうけど、まさにそういう感じだ。
 きっと、ここにいるものは、皆食べ物にしか思えてないんだね……!」
「加えて、まずいな」
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が目を細める。
「さっきの状況を見たな? あやつ、血を吸えば傷をいやせるらしい。
 ここには、まだ逃げられていないものが……五人はいるな。
 彼らを守りながら戦わねば、奴に回復手段を与えることになりかねん」
「それ以上に、レライムも言っていたが、寝覚めが悪いし、情報収集にもなる」
 『老いぼれ』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が声を上げる。
「総合して、助ける――って方向で問題ないか?」
「賛成するわ」
 『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)が、ゆっくりとうなづいた。
「昨日の敵は……まあ今日も敵なんだけど。
 打算込みでも情けは人の為ならずってね、やったりましょ」
「ふふん、美咲さんがそういうなら、ボクも手伝うよ!」
 『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が合わせて頷く。
「この戦いの結果として、エーニュの人達から情報取れたり、手を貸してもらえるようになれるとしたらさぁ。
 あの吸血鬼のおかげ、ってことなのかな?
 それじゃぁせいぜい感謝の気持ちを込めて、懇切丁寧に殺してあげないとだね!」
「そうね。随分とお優しい吸血鬼だわ」
 ヒィロの言葉に、美咲が笑ってうなづいて見せる。レンダルは狂ったように笑った。
「なんだ隊長! やっぱり奴らに味方する気だったんですね! じゃあ、こうなっちゃうのもしょうがないじゃないですかぁ!」
 すっかり血を吸われた『隊長』の死体を、レンダルは床に叩きつける。ふん、と汰磨羈は鼻を鳴らした。
「そういう御主は、ここで滅されても仕方がないよな。吸血鬼!」
 構える――合わせるように、仲間たちも、各々に構えを取った。
「ついて早々いきなりこれとは……!
 戦闘は覚悟してましたけれど、まさかこの状況になるとは、ですね」
 『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が、刃を握りながらそうつぶやく。
「藪をつついて蛇を出す……というより、藪をつついたら吸血鬼だ」
 汰磨羈が軽口の様にそう返すのへ、ルーキスは苦笑した。
「勘弁してほしいですね……まったく」
「やれるか?」
 『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が声を上げた。
「プランとしては、こうだ。
 汰磨羈、ヒィロ、美咲の3人で、レンダルを抑えてもらう。
 その隙に、残りのメンバーで五人の要救助者を戦線から離脱させる。
 俺は特に、機動力には自信があるから、担いで一気に距離を稼げる。そこは任せてほしい」
「俺たちが担いで移動するよりは安全だろうな」
 バクルドがそういうのへ、咲良がうなづく。
「アタシが皆を引っ張るから、合わせて動いて。一気に連鎖行動できると思う」
「ええ、お願いね」
 静かに、表情を変えることなく、『デザート・プリンセス』エルス・ティーネ(p3p007325)はそううなづいた。
(嗚呼……ここでも血に狂う吸血鬼が一人ってところかしら。
 こうなる未来は予測出来なかったのかしら?
 それとも……未知なる生物への好奇心と言うものはそれ程までに強いと言う事?
 ただただ苦しいだけなのに、ね……?

 まぁ少しの間だけでも我慢してた事は褒めてあげてもいいけれど)
 胸中でレンダルへの憐れみを抱きつつ、エルスは、ふぅ、とその美しい唇から吐息を漏らした。
「始めましょう。断罪の時よ――愚かな吸血鬼さん」
 ゆっくりと、その手にした鎌を振るう。戦場に月を描くように。
「お前の血は、一等美味そうだなぁ!」
 飢餓に狂えるレンダルは、エルスの血の匂いをかぎ取ったように笑った。
「……お腹のすいた動物っていうか。下手に変なこと言う分、気持ち悪いかもね」
 咲良があきれたように苦笑しつつ、すぐにその表情を引き締めた。
「やるよ――みんな!」
 その言葉に、仲間たちはうなづいた――。

●救出と迎撃
「みんな! 自分の持ち場を精一杯でよろしく! 落ち着いたら吸血鬼の方にも行くから!」
 宣言通り――咲良は真っ先に動いた。咲良に追いつけるものなど、この戦場には存在しない!
「奥の棚の下に一人、右手のテーブルの裏に二人!」
 ルーキスが叫ぶ。あたりを透視しながら、隠れた要救助者を探す。
「左手奥! テーブルの裏手! 手前、棚の裏! 一人ずつ! 計五人です!」
「了解――!」
 エルスが戦場を走った。たん、たん、とリズムよく跳躍。石畳のそれを蹴り上げて、右手奥の棚の裏に着地。
「状況はわかっているわね?」
 静かに、エルスが、傷ついた女に告げる。
「大人しくしてもらえる?
 あなた方が特異運命座標に助けられたくない事はわかったわ。
 でもこちらも仕事だからね、邪魔されるのは中々に面倒なわけよ」
「そ、それは」
 女が一瞬口ごもった。理想と、命。今この瞬間にどちらが大事なのか、理解できぬほど愚かではなかった。
「指示に従います……」
「OK。じゃあ、その言葉通りにしていてね?」
 エルスが視線で仲間に合図を送る――あたりを見てみれば、既に仲間たちはそれぞれのポイントに到着していた。レンダルがようやくイレギュラーズたちの行動に対応できたのは、この時。
「何をする! 私の、私の血だぞ!」
 多少の礼節すらかなぐり捨てて、レンダルは叫ぶ。もはや、飢えと食欲に支配されてしまったその頭に、かつての仲間への憐憫などは存在しないようだった。
「随分と、腹が減っているようだな!」
 汰磨羈が叫び、その背後から一撃を加える。鋭利・瞬撃。振るわれた渾身の一斬が、レンダルの背部――その薄皮を切り裂いた。寸前の回避。レンダルも、既に人外の怪物。その動きは素早い。
「あた、らん!」
 レンダルが叫ぶ。
「だ、ろうさ。別に御主の力を甘く見ているわけではないよ」
 汰磨羈が凄絶に笑った。
「集団での狩りのやり方を思い出させてやろう、猛獣め」
 その言葉通り――。ローレットは個ではない。群れだ。
 レンダルの眼前に飛び込んでいたのは、ヒィロである。
「やぁ、やぁ! 吸血鬼さん! どんな気持ち?」
 いやに明るく――どこか好戦的な笑みを浮かべながら、ヒィロは言葉を続ける。
「ようやくお腹いっぱいになれると思ったときにさぁ……こうやって邪魔されちゃうのは!」
「貴様――!」
 レンダルが、ヒィロに狙いを定めた。挑発。誘導。その先――。
「顛朦界壊――断斬らせてもらうわ」
 美咲だ! その『魔眼』が世界を視る――世界の境界。あるいは、個と世の境界。そういったものを。
 断斬!
 ずるり、と刹那、世界がずれた感覚がした。それは本当の刹那。世界は瞬く間に問題なく修復される。されるのは、世界だけ。その断切の間にいた、レンダルは。
 ずるり、とその肉がそげた。肉がそげる程度で済んだのは、やはり魔の一味たるその力故か。いずれにせよ、致命打には至らなかったが、そのえぐれた傷口は赤々と、しかし血ではなく花弁を散らせた。
「く、おのれぇっ!」
 レンダルは雄たけびとともに、その手を振るった。渾身の一撃は、強烈な斬風となって、美咲を襲う。ヒィロが慌てて飛び込んで、星天を構えた。ぐわおうん、と強烈な圧力が、ヒィロを吹き飛ばすのを、後ろにいた美咲が抱きかかえる形で受け止める!
「大丈夫?」
「まだまだ! でも、おなか減ってる割にはあいつも元気そうだね!」
 美咲の言葉に、ヒィロが苦笑する。
「血を吸ったばかりなのだろう。まだまだガス欠までは遠そうだ」
 汰磨羈がそういいつつ、周囲に目配せをした。ヘイトコントロールは上手いことできているといえる。ヒィロ、美咲、汰磨羈が間断なく攻撃を繰り出し、ついでに怒りを付与するならば、充分につり出せているといえるだろう。
 ただ、それは三人への重い負担と引き換えであるといえた。それに、今のところは体力を温存できている吸血鬼が、追い込まれたが故に要救助者へと意識を向けないとはもちろん言い切れないのだ。
「さて、少し重いが……大丈夫か?」
「勿論」
 美咲がうなづいた。
「相対するならちょうどいいわ。烙印、吸血鬼、全部ここで解剖してあげる」
「ボクも手伝うよ、美咲さん!」
 ヒィロが笑った。
「教えてもらえることはぜーんぶ教えてもらってから、ちゃんと殺してあげる!」
 その言葉に、美咲は頼もしそうに笑ってみせる。汰磨羈は、不敵に笑ってみせた。
「頼りになるよ――では、一仕事行くか!」

 中央での戦いが撃破していく中、傷ついた要救助者は、その激しい剣戟にたまらず頭を抱えて悲鳴を上げた。
「おいおい、根性入れろとは言わねぇが……」
 バクルドが彼をかばいながら、そうぼやく。まぁ、ここで血気盛んに攻撃されたところで困るので、このくらいに怯えてもらっていた方がやりやすいというのは事実だ。
 イレギュラーズたちは、前述したとおりに敵の攻撃を三人に任せ、その隙に要救助者を戦線から離脱させる――という作戦をとっている。状況的にその作戦はつつがなく進行しており、囮約三人への負担と引き換えに、こうして要救助者の救出は成功していた。先ほども、エルスが救助した女を、エーレンが抱えてアジトから離脱したところだ。
「ここは奥の方だからな。順番的には最後の方になるだろう。
 ま、それでも守ってはやるからよ。安心……しろってのは無理かもだかが、少しは落ち着いてくれ。
 お前さんには生きて話すこと話してもらわにゃならん、今はただ生きることだけ考えてろ」
 そう落ち着かせながらも、油断なく瞳は戦場を俯瞰していた。見れば、戦場をはさんで正面のルーキスの姿が見える。ルーキスが、視線で合図を送った。
「こちらは大丈夫」
 だろう。バクルドがうなづく。さてルーキスに視点を映そう。ルーキスが守っているのは女性の構成員で、酷く傷ついていたが命に別条はなかった。そして、血が流れている、ということは、烙印を付与されているわけではない、ということもわかる。
「落ち着いてくださいね。できれば、こちらを攻撃したりもしないでほしいですが」
 ルーキスが言う。
「あなた達は、なぜこんなところに?」
「ラーガ・カンパニーってやつらに騙されたらしいの」
 女が言った。
「もともとは、ラサに『ザントマンの遺産』があって……ラサの商人がそれを使って、私たちを操ってるんだって聞いた……それを止めるために来たのに……」
「やはり、ラーガ・カンパニーですか」
 ふむ、とルーキスはうなづく。おそらく、この場で情報収集を試みた全員が、それを聴いているだろう。ラーガ・カンパニー。これが、エーニュたちをこの地に導いた存在であることは間違いなさそうだ。
「それじゃ本当に、ザントマンの再来みたいじゃない……」
 咲良は、些か忌々しげにそうつぶやいた。ラーガ・カンパニーは、確か幻想種の誘拐にも一枚かんでいたはずだ……そうなれば、深緑をも巻き込んだ今回の事件は、まさにザントマンの再来ともいえる。もちろん、あの時に比べれば規模は小さい。が、それでも看過出来るものでもあるまい。
「それに、今はこうして、彼らはもっと大きなものにつながっているみたいだものね」
 月の王国。そして吸血鬼。そういった、もっと大きなものに、物語は接続されているような気がした。そしてそれは事実だろう。ラーガ・カンパニーは月の王国へとつながっている。エーニュもまた、協力体制ではないが、その勢力圏の中に存在するものとして取り込まれている可能性はあった。
 エーニュが月の王国に協力しているわけではないだろうが、それでも、ローレットに敵対する可能性は十分にあった。エーニュは狂犬のようなものである。
「咲良、またせた」
 エーレンの声が響いて、咲良は思考を中断した。彼が運ぶ『木馬』には、要救助者たちがのせられている。
「ここで最後だ。後はいったん、離脱する」
「わかった。さ、ここに乗って」
 咲良が要救助者の男を木馬へと促した。
「ありがとう……すまない……」
 そういう彼の瞳には、確かに感謝の色が見えたから、咲良は笑ってみせた。
「こういう時はね。当然だよ。
 エーレン、あとをお願い」
「任された」
 エーレンはうなづき、木馬とともに戦場の外へと駆けだした。そこにはレライムがいて、
「レライム、一応の護衛を任せられるか?」
「うん、大丈夫。気を付けてね」
 そういってくれたから、エーレンは要救助者をレライムに預けて、すぐに戦場へと引き換えした。
 そこでは、残る仲間たちが最後の戦いを繰り広げていた。徐々に追い詰められつつあるレンダルは、飢餓と怒り、痛みと狂想に駆られているかのように見えた。
「直に、終幕だな」
 エーレンがつぶやいた。その言葉の通り、今この場の戦いには、幕が下りるだろう。だが、この戦いの、原因となるものとの戦いは、まだまだ始まったばかりなのだ。
 まだ終わらぬ戦いの気配を感じながら、エーレンは静かに刃を構えた。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮。
 もう血は吸えんぞ、吸血鬼」

●決着
 レンダルにとって、今は人生の最絶頂期であり、最低期でもある。それはそうだろう。人外の力を手に入れた今は、彼の人生にとっては最もピークであっただろうし、人外の力を植え付けられてしまった彼の末路を考えれば、不幸以外の言葉は出てこない。
 そして彼にとって最も不幸というか、しかし世界にとって幸運だったといえるのは、彼の誕生のその間際に、こうして優秀なローレット・イレギュラーズ達が居合わせたことである。
「く、う、うううっ!」
 レンダルがうめいた。すでにその腕は萎え、渾身の一撃を放つことはできなかった。
「そこまでよ、レンダル!」
 エルスが、その大鎌による紅の一撃を解き放つ! 強烈な斬撃が、レンダルの体を切り裂いた。ぐは、と悲鳴を上げて、レンダルが片膝をつく。切り裂かれたからだから、無数の花弁が零れ落ちていた……。
「くそ……くそ……なんでだ? なんで、なんで、こんなことに……!?」
「あなたが、弱かったから……とは言わないわ。吸血の衝動にあらがえるものなんて……」
 憐れむように、エルスが言った。戦いの趨勢はすでに決していた。だが、吸血鬼を見逃すわけにはいかなかった。ここで確実に滅さなければ、さらなる被害が頻発してしまう。
「あなたに烙印を与えたのは、誰なの?」
 エルスが尋ねるのへ、レンダルは頭を振った。
「わからない……わからないんだ。気が付いたら……こんな、こんなことに。
 どうして、どうしてこんなことになってしまったんだ。本当は、隊長だって、殺したくなんてなかった。くそ、森を、深緑を出なければ、こんなことにはならなかったんだ。
 血が、血が欲しくなるなんて、喉が渇くなんて、こんなことには、こんなことにはならなかった。くそ、血が、血が欲しい、血が、喉が、喉が渇いて、くそくそくそ、血を、血を!」
 レンダルが、突然飛び上がった。末期の力、蝋燭が燃え尽きる刹那のそれ。エルスに組み付こうとするそれに、しかし立ちはだかったのは、汰磨羈だった。
「馬鹿野郎が……!」
 斬撃が、レンダルを切り裂いた。その切り裂かれたからだから、ばつり、と花弁が飛び散り、その体が結晶へと変化していく。
「ああ、ああ……」
 レンダルがうめいた。刹那、体は結晶に砕けて飛び散り、消え去った。
「……彼も、葛藤の末に狂ったのかもね。
 そうならば、ろくでもない呪だわ」
 美咲がそういうのへ、ヒィロは静かにうなづいた。結晶は砕け、もう後には何も残らない。
「汰磨羈、大丈夫か?」
 エーレンが尋ねるのへ、汰磨羈は笑った。
「ああ、大丈夫だ。それより、エーニュの構成員たちを安全なところへ」
「そうだな」
 バクルドがうなづいた。
「これ以上の情報は得られそうもないですが」
 ルーキスが言った。
「……人命が最優先ですからね」
「うん。さぁ、彼らを連れて帰ろう!」
 咲良がそう、声を上げるのへ、皆はうなづいた。
「……無理はするなよ」
「さぁて?」
 バクルドが静かにそういうのへ、汰磨羈は肩をすくめた。
 汰磨羈の腕につけられた傷口から、花弁がゆっくりと、零れ落ちていた――。

成否

成功

MVP

皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 エーニュの構成員たちは、助けられるものはすべて救助完了。
 情報もしっかりとえられたようです。

●運営による追記
※仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
 時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
 現時点で判明しているのは、
 ・傷口から溢れる血は花弁に変化している
 ・涙は水晶に変化する
 ・吸血衝動を有する
 ・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
 またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています

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