PandoraPartyProject

シナリオ詳細

掘った芋に食われるな

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●美味しいお芋
「やったぜ!」
 幻想の西方、こぢんまりとした村の外れにある雑木林の中で、十五歳の少年が快哉を叫ぶ。
 隣に立つ彼の弟は、九歳らしからぬ冷静な顔で兄の服の裾を引いた。
「やっぱりやめた方がいいと思うよ、絶対にろくなことにならないよ」
「んなことねぇよ。苦労して作った芋なんだ、ぜってぇにうまい! 例の肥料と薬も入れたしな!」
「その肥料と薬が心配なんだよ……」
 がっくりと弟は肩を落とした。

 二人が住む村は、芋を特産物としている。甘くておいしいと評判で、幻想の大都会でもちょっとだけ売られていたりするのだ。
 秋を迎えた今、スァツマイモと名づけられた村特産の芋は、まさに収穫期にあった。
 そこまではいい。毎年のことだ。収穫の手伝いに行かないと母さんに怒られるな、くらいのことでしかない。
 問題は、兄の頭が悪かったことだ。

「俺たちだけで芋を育てよう。村の芋よりうめぇ芋を育てて、大人たちをぎゃふんと言わせるんだ!」
 そんなことを、今年の春に兄が言い出した。
 弟は手伝いを強要され、一緒にこっそり林の一角を開拓し、種芋を埋めることになった。
 いいかげん両親に密告した方がいいかと考え始めたころ、兄が通りすがりのどう考えても怪しい行商人から、なけなしの小遣いで「芋がめちゃくちゃおいしくなる」という怪しさ満点の肥料と農薬を買ったのだ。
 呆れて言葉を失った弟は、密告のタイミングを逃し、収穫期を迎えてしまった。

 林の中では、芋が育っている。わさわさと地中から葉が生えていた。
 兄が意気揚々とひとつ引き抜く。ほとんど生まれたときから、秋になれば芋掘りをさせられていたので、さすがに慣れた手つきだ。
「お、でけぇ!」
「……大きいね」
「うまそうじゃん! どんどん抜いてくぞ! 手伝え、アラン!」
 すぽんすぽんと兄は芋を引き抜く。ずいぶん簡単に抜けるんだなぁと、弟はそれを見守る。
 すぽんすぽん。普通のスァツマイモより大ぶりの芋が、地面に転がされていく。積み上げられていく。
「なんか多くない? 兄さん」
「そうか? こんなもんじゃね?」
 額に汗を浮かべながら、兄は芋掘りに精を出す。
 すぽんすぽん。
「……掘った芋、大きくなってない?」
「気のせいだろ。つーか手伝えよ」
「……掘った芋、合体してない?」
「そんなわけねぇだろ。つーかもう芋掘り終わりそうなんだけど?」
「……合体した芋、立ち上がってない? 頭みたいなところで光ってる石、肥料じゃない?」
「ラスイチー! は? なに言ってんだおま……え……?」
 弟は青ざめる。異変に気ついた兄は凍りつく。
「オオオオオオオ!」
 巨大スァツマイモの集合体である巨人が、口もないのに吼える。

●掘った芋に襲われる
「お芋なのです!」
 赤い丸が一点に描かれた地図と、依頼の詳細を記した紙をテーブルに置いた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が、開口一番にそう言った。
 集まっていた特異運命座標たちは、秋だもんなぁ、と頷きあう。
 秋。芋が美味しい季節だ。
「この村の外れの林で、お芋の巨人が複数出現したのです。村の方々は避難を開始しているのです」
 そっとユリーカは机上に二冊の本を追加する。「初心者でも作れる! お芋のお菓子」と「秋の食卓! お芋のおかず三十五選」だった。
「通りすがりの商隊の護衛さんたちが、一体だけ倒してくれたのです。それによると、お芋の巨人は倒すと大きなお芋に戻るそうなのです。皆さん、食べたいですよね?」
 ボクはとっても食べたいです、とユリーカの顔にはかかれている。
「といっても護衛さんたちでは歯が立たず、握りつぶされかけていた兄弟を助けるのが精一杯だったようなのです。お芋の巨人たちは現在、林の中にいるとのことなのです」
 それでもいつ、村にやってくるか分からない。
「皆さん! お芋の巨人を倒して、お芋パーティを開くのです!」
 美味しいご飯の気配に、ユリーカは興奮気味だった。

GMコメント

 はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 
 芋が襲ってくることもあるでしょう。秋ですから。

●目標
 芋巨人たちの討伐。
 倒した芋巨人は大きめの芋十個ほどに変わります。
 蒸しても焼いても甘くておいしいお芋です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 現場に到着するのは昼頃です。

 お芋の巨人たちは現在、雑木林をうろついています。集合しているのではなく、散らばった状態です。
 雑木林から村までの距離はだいたい百メートル。特に村を目指して移動しているわけでもないようですが、いつ雑木林を抜けて村に至ってもおかしくはありません。
 住人の避難は完了しておらず、スァツマイモも残されたままです。
 商隊の護衛たちが一体、芋巨人を雑木林と村の間で倒しましたので、そこには芋が転がっています。

 雑木林の木々はだいたい五メートル。広さは三百メートル四方くらいです。
 芋巨人が動くたびに木々がなぎ倒されているため、視界は嫌でも徐々に開けていっています。足場は悪くありません。

 芋巨人たちは攻撃されるか、敵意を向けられるか、仲間が交戦状態に入ると攻撃してきます。

●芋巨人
 全長二メートル。芋にしては大きすぎることと、その外見から、芋巨人と命名。
 頭部と胴体と二本ずつの手足で構成されている。すべて芋が集まってできたもので、外見としてはゴーレムに近い。
 頭部には兄が怪しい商人から「肥料だよ~」と説明された青色の宝石が埋まっている。だいたい成人男性のこぶしほどの大きさ。
 それが芋巨人の核であり、核が破壊された芋巨人は芋に戻る。

 全個体の共通として、動きが鈍く頑丈。

『近距離型芋巨人』…八体。遠距離型に比べて体格がいい。
 パンチ(物・至・単)…こぶしで殴ってくる。
 踏みつけ(物・至・単)…踏みつけてくる。
 こぶしを振り下ろす(物・近・単)…冗談ではすまないくらい痛い。
 深呼吸(物・自・単)…少し回復する。

『遠距離型芋巨人』…四体。近距離型より一回り細い。
 芋の蔓(物・遠・単)…芋の蔓を操って拘束してくる。足止になる可能性がある。
 芋の鞭(物・中・単)…芋の蔓を鞭のように振るって攻撃してくる。

●その他
 商隊とその護衛はすでに退散しています。兄弟ももちろん避難ずみです。

 お芋を倒しお芋を確保し、おいしいお芋料理を召し上がってください。
 よろしくお願いします!

  • 掘った芋に食われるな完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月28日 23時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
ワーブ・シートン(p3p001966)
とんでも田舎系灰色熊
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
葛城 リゲル(p3p005729)
竜爪黒狼
ガーベラ・キルロード(p3p006172)
noblesse oblige
陽・サン(p3p006440)
平和への祈り
柴山さん(p3p006603)
紛うことなき

リプレイ

●対決、芋巨人
 雑木林の外縁を、一同はひっそりと進む。
 しばらくして『農家系女騎士令嬢様』ガーベラ・キルロード(p3p006172)が片手をあげた。
「見つけましたわ」
 指さす先には、芋で形成された二メートルの巨人。頭にあたる部分に、青色の宝石が埋まっている。
『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が仲間たちを見回した。全員が首肯を返す。――準備万端。
 ディフェンドオーダーをかけ、ゴリョウは芋巨人に突撃した。
「オオオオ!」
 接近する敵意に気づいた芋巨人が吼える。その足元から急速に芋の蔓が伸び、ゴリョウを拘束しようとした。
「芋食べたい。柴山さんは芋食べたい」
 ぼんやりとした声で『紛うことなき』柴山さん(p3p006603)が言い、指先で虚空に術式を刻む。
 直後、ゴリョウに届きかけていた蔓が鮮やかな火花に襲われて燃えた。
「オオオ!」
「吼えんな、芋」
 後退する柴山さんの方を向いた芋巨人に、『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)の魔弾が直撃。仰け反った敵に、『とんでも田舎系灰色熊』ワーブ・シートン(p3p001966)が突進した。
「とーぅ!」
 倒れた芋巨人はそれでも蔓で攻撃を試みる。
「ここが弱点なんだってな?」
 一撃を受けながらも『急がば突っ切れ』葛城 リゲル(p3p005729)が連続で打撃を叩きこみ、青色の宝石を破壊した。
 芋巨人は複数の大きめの芋に変わる。
「次、きました!」
 伝達するが早いか、『静かに咲く太陽』陽・サン(p3p006440)は木々をなぎ倒して接近してきた芋巨人にヴェノムクラウドを見舞った。
 戦闘音を聞きつけたのか、それとも偶然、通りかかったのか。どちらでもいいことだ。
「オラァ! 食材ども! 食ってやるからかかってきやがれェ!」
 ゴリョウが叫び、先ほどの個体よりも少し大きな芋巨人に向かう。
「オオオ!」
 吼えた芋の集合体が、こぶしをゴリョウに振り下ろした。
「ぐ……っ!」
「あんな痛そうな攻撃に、自ら飛びこんでいくなんて……」
 無茶しやがって、と心の中で敬礼した『ペリドット・グリーンの決意』藤野 蛍(p3p003861)は、それどころではないと我に返る。
 かつて教科書だった本が神々しいオーラをまとった。ゴリョウの負傷が癒されていく。
「美味しいスァツマイモを食べるのですわ!」
 高らかに叫んだガーベラが、芋巨人に鋤を連続で叩きこんだ。皮の部分が削れ、中の白さが垣間見える。
「美味しそうですわ!」
 歓喜の声に柴山さんは深く頷いて、魔力放出を行う。
「オオオ!」
「動くんじゃねぇよ」
 後衛を狙おうとした芋巨人の足がとまった。キドーが生成した不可視の糸が絡まっているのだ。
「オオオ……!」
「効かねぇなぁ!」
 ならばと芋巨人がゴリョウを殴る。男は耐えた。蛍が回復のタイミングをうかがう。
「ハァッ!」
「さらにどうぞ?」
 リゲルの打撃が芋巨人をいっそう破壊していく。サンが毒撃を放った。
 苦しむ芋巨人を、ワーブが襲う。
「とにかくぅ、動く原因をとり除いてからですよぉ!」
 前足による攻撃が青い宝石を破壊、核を失った芋巨人は、芋に戻った。

「テメェらの相手は俺だ! 俺をノしてから他のヤツを殴るこったな! できるモンならなァ!」
 二体の近距離型芋巨人を相手に、ゴリョウが叫ぶ。
「急ぎますわよ。近くに遠距離型が一体、いましたわ」
 嫌な予感を覚えて戦線を一時的に離脱していたガーベラが鋤を握り締める。軽く顎を引いたリゲルが駆け、ゴリョウに攻撃しようとしていた芋巨人たちに大喝を叩きこんだ。
「さあ、咲き乱れなさい毒の華よ。あの者たちを糧に、綺麗に、残酷に」
 サンのロベリアの花がリゲルの豪鬼喝により退いた芋巨人たちを包む。
「オオオ!」
「遠ざかってねぇか?」
 魔弾を放ったキドーが舌を打った。左手で木々がなぎ倒される音がする。しかし破壊の音は徐々に遠のいているようだった。
「とにかく二体、仕留めますわよ!」
 がつん、とガーベラの鋤が芋巨人を殴った。
「ぬるい攻撃、してんじゃねぇぞォ……!」
「ゴリョウさん、頑張って! 一体はもう倒れそうよ!」
 防御に集中するゴリョウを、蛍がひたすら援護する。ゴリョウが倒れ、敵が標的を分散させれば、戦況は悪化するだろう。
 力をあわせ、二体の芋巨人を追いつめていく。
 不意に。
「お……?」
 柴山さんが真横に吹き飛ばされ、木に激突する。一番近くにいたサンが反射的に彼女を見て、目を見開いた。
「柴山さん!」
「させませんわ!」
 偶然にも遠回りする形で接近していた遠距離型の芋巨人の蔓が、柴山さんを殴ったのだ。すぐさま駆けつけたガーベラが次の蔓を盾で防いだ。
「おい!」
「こちらはお任せください!」
「加勢するよぉ!」
 ゴリョウの声にガーベラが応える。四足で走ってきたワーブが、遠距離型芋巨人と柴山さんの間に割って入った。
「こっちさっさと終わらせんぞ!」
 動揺が混ざった空気をキドーの怒声が叱咤する。
「しっかりしてください、柴山さん」
 SPDを柴山さんに与えるサンを見て、蛍は心を決めた。近距離型の二体が倒れるまで、自分がしっかりとゴリョウを守る。ここを崩されるわけにはいかない。
「すぐに行く」
 リゲルは対象を一体に絞って、攻撃を加えて行く。キドーも同じ敵を狙った。

 目を覚ました柴山さんが、倒れたまま空中に術式を刻んだ。
「柴山さぁん!」
 安堵の声をワーブが上げる。柴山さんは起き上がって、頷いて見せた。
「咲け」
 仲間たちが一度、芋巨人から距離をとった隙にサンがロベリアの花で凶悪な霧を生じさせる。
「大丈夫、そうですわね!」
 ガーベラは肩で息をしていたが、鋤を手放すことも、苦鳴をもらすこともしなかった。
「オオオ!」
 疾駆するガーベラを芋巨人の蔓が捕らえようとする。
「オーッホッホッホ! その程度で私はとまりませんわ!」
 絡みつこうとする蔓を踏みつけて跳躍した。
「さぁ、美味しいスァツマイモたち! 私の華麗なる一撃で耕されなさい!」
 鋤が刺さり、雄熊の前足が芋巨人の脇腹を破壊し、魔力の塊が叩きこまれ、さらに毒がその巨体を蝕む。

 もう一組はどうやら順調。しかし安心などできるはずもない。
 なにせ、報告された芋巨人の数に、対峙した芋巨人の数はまだ及ばないのだ。
「潰れろ」
 芋巨人に狙われないよう、常に移動を心がけているキドーの魔弾が、青い宝石を打ち砕く。
「しまいだ!」
 高く舞い上がったリゲルが空中で一回転し、急降下とともに鋭角の蹴りをもう一体の核に叩きこんだ。
「ああもう、次が見えてるわ!」
「休憩の暇はねぇってか!」
 悲鳴じみた蛍の声に、全員の状況をざっと確認してからゴリョウが走る。不意打ちの一撃を狙うため、リゲルが彼に並走した。
「遠距離型だな」
「数は一。さっさと落とすぞ」
 いつの間にか並んでいたキドーが言うが早いか、魔弾を放出。敵意を感知するより先に攻撃を食らった芋巨人がわずかによろめき、一同の方を見る。
「背後からもう一体、近距離型ですわ!」
 木々をなぎ倒して出てきた芋巨人が、まだ走っている面々を見つけてしまった。
「柴山さんは頑張る」
「毒の華よ!」
「うおーっ!」
 急停止して身を反転させたワーブが、近距離型の芋巨人に迫る。
「ゴリョウ様!」
「おう!」
 芋巨人が蔓を用いて攻撃を仕掛けてくると知ったとき、盾役を務められるガーベラとゴリョウでひとつ、決めていたことがある。
 蔓による足止を食らわないガーベラが、できるだけ遠距離型の相手をすること。
 盾役としてより頑丈なゴリョウが、近距離型を受け持つこと。
 前進していたゴリョウが向きを変え、後ろに向かって走る。ガーベラはそのまま、全力で前進する。
 二人がすれ違い、何度目かの芋巨人戦が始まった。

「数だけは揃えやがって」
 舌を打ちながらキドーは魔弾を撃つ。遠距離型芋巨人がキドーに顔を向けた。直後、毒の霧が巨体を蝕む。
「オオオ……!」
「私も手伝います」
 攻撃力が高いのは近距離型であり、回復力は蛍のメガ・ヒールの方が高い。蛍と数秒だけ相談し、SPDを扱えるサンはこちらの援護を選んだ。
「はぁっ!」
 鋤を振り上げ、ガーベラが迫る。芋巨人が叫んだ。伸びた蔓がガーベラを襲う。盾で防いだ。
「食らえ!」
 リゲルによる拳の一撃。芋巨人がふらつく。これはさっさと終わりそうだと、キドーが魔弾を放ちかけたところで。
「くぅ……っ!」
 鞭のようにしなった蔓が、ガーベラを打ち据えた。
 誰が油断していたわけでもない。ただ、後退した芋巨人の怒りの一撃が、早く鋭かったのだ。
「ガーベラさん!」
 膝をついたガーベラにサンがSPDを用意して近づく。芋巨人は二人を見据えている。
「大丈夫ですか? もうひと頑張り、いきましょう」
「クソ!」
 一発撃つ、全力で離れる、回復したらあいつらに任せる。
 作戦を瞬時に立てたキドーが魔弾を放とうとして、
「オオ……」
 ごん、と芋巨人の宝石部分になにかがあたった。地面に落ちて転がったのは、芋だ。
「役に立ったな」
 あらかじめひとつだけ拾っておいた、芋巨人を構成している芋。リゲルがそれを全力で投げて気を引いたのだ。
「援護、頼んだぜ?」
「面倒くせぇな」
 凶悪に笑いながら、キドーは芋巨人に魔弾を命中させた。

 攻撃を受ける。痛みがないわけではない。というかむしろめちゃくちゃ痛い。
 しかし打撲も骨折も出血も癒される。なにより仲間たちも戦ってくれる。おかげで、倒れずにすんでいる。
「オラオラオラァッ! その程度か食材ども!」
 攻撃を受けてなおゴリョウは吼える。
「無事に全部退治てきたら、せめて美味しいお芋をたくさん食べてもらおう……」
 自分が痛みを受けているような表情で、蛍はゴリョウを回復する。
「ぬおーっ!」
「オオオ……!」
 ワーブの爪が芋巨人の身を抉った。
「柴山さんは空腹、先ほどより激しく」
 虚ろな目で敵を見据える柴山さんは、虚空に文字を書いて魔力を放出。芋巨人の顔面にあたったが、宝石からは外れていた。
「勝って、お芋を食べるんだから!」
「柴山さんもたくさん食べる」
 自らを激励するように叫んだ蛍に、柴山さんはうんうんと頷く。
 近くでは仲間たちが遠距離型の芋巨人を芋に戻していた。こちらももう終わる。
 切ない声を今にも上げそうなおなかを片手で撫で、柴山さんが幾度目かの魔力放出。ゴリョウにこぶしを振り下ろした直後だった芋巨人がよろめく。ワーブが地を蹴った。
 厚いガラスを割ったときにも似た音。
「大丈夫そうだな」
 安堵を含んだリゲルの声にゴリョウは親指を立てて見せ、蛍は青ざめながらガーベラにメガ・ヒールをかけた。

「あと何体だ!?」
「これが最後!」
 少し移動するだけで、雑木林を木材が転がる平野に変えようとしている芋巨人に遭遇する。できるだけ単独で行動している個体を狙って撃破するうちに、敵の数は眼前の二体だけになっていた。
 それも、近距離型だけだ。
 各々が軽重様々な負傷をした。しかし、動けない者はいない。治療は行き届いている。敵を前にして、恐れもふらつきもしない。
 負ける要素など、少しも見あたらなかった。
「こい! 全員、食ってやる!」
 これまでの作戦と同様、ゴリョウが先陣を切る。芋巨人たちが彼の方を向いた。
「さっさと芋に戻れ」
 キドーのマリオネットダンスが、芋巨人の一体を呪縛する。
 深呼吸を繰り返し、サンは目を閉じる。自然会話により、もとは植物である芋巨人との対話を試みた。
「その青い石を作り、売りさばいたのはどなたですか?」
 返ってくるのは回答ではなく、敵意。目を開く。今回はだめらしい。
「仕方ありません」
 製造元と販売元を突きとめてローレットに報告し、捕縛できれば次の災いは防げたかもしれない。だが、それができなのなら、眼前の脅威を退けるだけだ。
「毒よ」
 放たれた毒撃が芋巨人を苦しめる。苦悶しつつも振り下ろされた太い芋製の腕は、ゴリョウがしっかりと防いだ。
「柴山さんは焼き芋から始める」
 どの順番で調理し、食べて行くかを考えながら、柴山さんは今日だけですでに数えるのも面倒なほど放った魔力放出を行う。疲労を覚えていたが、この後のことを思えば平気だった。
「美味しくいただきますわ!」
 鋤が芋巨人の皮を削り、
「かたいよぉ……!」
 食べられるのではないかと考えたワーブが芋の腕に食らいついて、少し落ちこむ。
「この状態だと、うまそうには見えねぇな」
 ショットガンブロウを叩きこんだリゲルが口の端を微かに上げた。
「あと少し!」
 かつて国語の教科書だった魔導書を持つ蛍の手に、力が入る。
「砕けろ!」
 魔弾がついに一体の芋巨人の核を粉砕した。残りは一体。ゴリョウの口角が吊り上がる。
「ウオオオ!」
「オオオ!」
 咆哮。芋巨人も返してきた。ワーブが豪胆に敵の間あいに踏みこむ。リゲルとガーベラが攻撃、キドーも魔弾を放つ。柴山さんも力を振り絞って魔力放出、サンは最後の毒撃。蛍が勝利を確信した。
 バリン、と破砕音。
 ばらばらと、芋巨人が少し大きなスァツマイモになる。

●掘った芋を食べよう!
 それぞれ芋を抱えた特異運命座標たちは、村に到着するや否や、調理の用意を始め出した。
 村に残っていた人々が何事かと顔を見あわせ、もう安心らしいと言いあって、避難している者たちを呼びに数名が走る。
 それを、横目に。
「皆様、なにがいいですか? 一通りはできると思いますけど」
 どこからともなく調理器具を出してきたサンが、遠巻きにしている村人たちに首を傾けた。
「おーい、村で一番でっかい鍋、持ってこい!」
 芋と最初から持っていた大袋を置いたゴリョウが声を張る。
「焼き芋。柴山さんは空腹」
 てきぱきと調理の支度を整えた柴山さんは、マジックフラワーで着火した。
「柴山さん、こちらにも火をお願いします。それとどなたか、いいお肉をお持ちじゃないですか? ねぇ、ゴリョウさん?」
「おう、持ってけ持ってけ!」
 大袋から猪肉の味噌漬けをとり出したゴリョウが、サンを手招く。素早く調理し、片端から食べて行っている柴山さんが静かに指定の場所に火をおこした。
「あの、ボクも手伝うよ。料理、あんまり得意じゃないけど」
「あん? おめぇさん、なんか落ちこんでねぇか?」
「う……」
 村人から寸胴を三つ受けとったゴリョウが片眉を跳ね上げる。蛍は目を泳がせてから、観念して肩を落とした。
「ボクはヒーラーなのに、ゴリョウさんに傷を負わせてしまって」
「気にすんな。おめぇさんがいなかったら今ごろ、こんな風に料理なんかできてねぇかもしれねぇだろ?」
 猪肉の味噌漬けと適当に切った芋と水を豪快に鍋にぶちこみ、ゴリョウは笑う。蛍は小さく頷いた。
「よし。手伝うなら村のやつらから、食材もらえねぇか聞いてこい。すげぇ芋煮を作るぞ! 坊主どもは怒られてしかるべきだが、美味い芋を作ったことは褒めてやんなきゃあな!」
「……うん、そうだね!」
 大きく首を縦に振り、蛍は走り出す。
 それをまぶしく見守るゴリョウのすぐ近くで、ワーブが生のままの芋を食べていた。
「アンタ、めちゃくちゃ食うな」
「やっぱりぃ、冬近くなるとぉ、こういうのをたらふく食ってぇ、冬に備えるんですよぉ」
 キドーの言葉にのんびりと応えつつ、ワーブはいくつめかの芋を手にとる。キドーは雄熊の隣に積み上げられた芋のうちのひとつを掴んでみた。
「普通の芋か?」
「美味しいお芋ですねぇ」
 加熱調理せずにもりもりと食べても平気なのだから、本当に普通の芋なのだろう。
「あっちの食いっぷりもやべぇな」
 視線の先にいる柴山さんの芋の消費速度も尋常ではない。
「調理済みのもぉ、きっと美味しいんですよぉ。いいお芋なんですよぉ。でもやっぱりぃ、なるべくならぁ、肥料とかはぁ、変なところから買わないようにしてほしいんですよぉ」
 その通りだと首を振ったキドーが、ゴリョウに呼ばれる。
「火ぃつけてくれ!」
「はいよ」
 パイロキネシスで着火。「火力押さえろ!」という注文に、キドーは面倒くせぇと空を仰いだ。

「見つけましたわ」
 村の隅でしょんぼりしていた兄弟を発見し、ガーベラは仁王立ちになる。
「私、同じ農業をやる者として、一言注意をしにきましたの」
「注意……?」
 もう散々叱られたのだろう、頬に涙の痕を残す二人が、同時に呟く。ガーベラ首肯した。
「美味しい物を作るのには、根気のいる努力が必要ですわ。安易な道を選ぼうとすれば、今回のようにしっぺ返しを食らうこともあるのです。注意なさい」
「はい……」
「ごめんなさい……」
「ですが! そのチャレンジ精神は買いましょう。これからも精進して、美味しい物を作りなさいな。オーホッホッホ!」
 高笑いをするガーベラに、兄弟は互いの顔を見た。
 どうやら彼女は怖い女性ではないらしい。それどころか、村の者たちよりもおいしい芋を作りたい、という心意気を評価してくれたのだ。
「あ、あの。肥料の作り方とか、教えてもらっていいですか?」
「もちろんですわ」
 弟の申し出を、ガーベラは当然のように受けた。
「勉強の前に腹ごしらえしねぇか?」
 陰からやりとりを見守っていたリゲルが、片手で皿を持って姿を見せる。
「俺も、よりいいもんを作ろうって気持ちは、間違ってねぇと思うぜ。今回はまぁ、手段がよくなかったがな。ってことでほら、アンタたちが作った芋だ」
「……おいしい」
 皿にのせられた焼き芋をつまんで食べた兄弟が、目を輝かせる。
「おいしいですわ! 甘くてほくほくしていて! 流通しているスァツマイモにも負けない美味しさですわ!」
「ユリーカにも持って帰ってやらねぇとな。あと、あっちで芋煮やらなんやらが出来上がってるぞ」
「行きますわよ、二人とも。美味しいお芋を食べつくすのですわ!」
 元気に歩き出したガーベラを、兄弟たちが追いかける。
 村をあげてのお芋パーティが始まっていた。

成否

成功

MVP

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
無事にお芋巨人を倒し、お芋パーティを開くことができました!
この兄弟はこの先、怪しい道具に頼ることなくおいしいスァツマイモを作ってくれることでしょう。
ぜひ食べてあげてくださいね。
食べすぎないよう、食欲の秋をお楽しみください。

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