シナリオ詳細
<帰らずの森>翠月の暴風よ
オープニング
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「危ないのよ? ここから先は、死んじゃうのよ?」
少女の声だ。心配そうに、悲しそうに問いかけてくる、幼ささえも感じさせる少女の声だ。
その声は森へと足を踏み入れる前から、フリアノンの集落を出てから少ししてから聞こえ始めた声だった。
聞き覚えのない、けれど警戒を抱かせもしない柔らかな声に導かれるように、森の方へと進み行く。
鬱蒼とした木々に覆われた森を進めば、ふと空から鳴き声がして、すぐ隣で木を圧し折る音が鳴る。
警戒しながらそちらを見れば、ワイバーンが降りていく。
魔物の断末魔が聞こえてくれば、先程の音は空からワイバーンに落とされた魔物が木を圧し折ったのだろうと理解できた。
覇竜領域――その中でも明確に危険性の違う帰らずの森『ピュニシオンの森』、その調査が始まった。
練達の超技術、激しいバグの影響で圧倒的な成長速度のあったR.O.Oでさえ、デスカウントが飛ぶように増えていった森だ。
現実も『そこ』は同じだと語ったフリアノンの里長――珱・琉珂は、それでもイレギュラーズに調査を願った。
その森の向こう、『冠位暴食』ベルゼーはそこにいるのではないかと推測して。
●
さて、話を戻そう。
幼い声は静止を求め、撤退を望み、『ピュニシオンの森』へと進むイレギュラーズに声をかけ続けてくる。
「君は……誰だ?」
それでは意味がないのだと、森の奥を目指して進むイレギュラーズは何度目かになる声にそう問いかけた。
それは誰の問いかけであったか。幼き声は、いつ頃から聞こえたか。
自然と、いつの間にか調査するイレギュラーズに混ざっていたその声は。
退却を乞い願う声は『敵意を持たない』。
しかし――それでも、おかしな話であった。
不自然な話であった。
「君が戻ってと願う森にもう着いている。
……どこからこちらを見ているのだろうか」
亜竜種は各集落から出ることなどほとんどない。
それどころかこの森へと足を踏み入れることなんて――ごく一部の自殺願望者でなければ有り得ない。
「どうして、踏み入れてしまうの? 恐ろしいことなのよ?
それは、危ないことなのよ? 私がこの身で知ったことなのよ?」
姿を見せぬ幼き声は重ねて問いかける。
それでも行かねばならないのだと君達が告げれば、しばしの沈黙があった。
「どうしても行かなくてはならないのね?
それは悲しみような、嘆くような、呑み込むような時間だった。
「……なら」
「……それなら、『教えて欲しい』の。どうしてこの先に行きたいのか」
ふと目の前の草陰から少女が姿を見せる。
「貴方達の力がどれくらいなのか、力の足らぬ私に、教えて欲しいの。
ねぇ、教えて? 知りたいわ、知りたいの。どうしても、どうしてもどうしてもどうしても!」
先程までの幼い声は確かにその口元の動きに合っていた。
好奇心だけでは、止めたいという気持ちだけでは説明の出来ぬ声、癇癪をあげる幼子のように彼女は問いかけてくる。
「教えて欲しいの貴方達の力。私は貴方達の力を知らないわ。
貴女達もこの先に待つ者達の力を知っている人は少ないでしょう?
だから教えてほしいの、この先に待つ彼――彼らに『出会って』……少なくとも逃げられるかを」
それは『亜竜種の少女』であった。
けれど『亜竜種の少女』が目の前の草陰から姿を見せることなどあろうか。
「君は、魔種だね」
そう、この森で『ただの少女(ヒト)』と出会えるはずなどないのだから。
「そうなのかしら? そうなのね。あぁ、折角だわ。それも教えて欲しいの。私のようなモノの終わりを」
切なそうに目を伏せながら、少女の姿をした魔種は言う。
「……あぁ――あの子達もきてしまうのよ……そうね、それなら――」
少女は目を瞠り――直後、左右の草陰を揺らす音がして亜竜が顔を出す。
顔だけ見せたそいつらはこちらを視認して、ぎゃわぎゃわと声をあげて姿を見せる。
それとどちらが速かったか、空からもワイバーンの鳴き声が聞こえてくるではないか。
「……教えてちょうだい、貴方達の力。この子達や、私に勝ってみせて」
泣きそうな顔で、そう魔種は言い放つ。
- <帰らずの森>翠月の暴風よ完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年03月27日 23時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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(魔種の自覚がない魔種……かしら。
元々そうなのか、それとも……この先にいる存在に牙を抜かれたのか)
少女の様子を見つめた『剣の麗姫』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は静かに推測を立てる。
「まあ……何が待っていても、冠位魔種へ挑まんとする私達が怖気づくわけにいかないわ」
「なんだか変わった魔種が来たね」
同じく『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)もその様子を不思議に思いつつ拳を構えるもの。
「でもまあ、力を見せろと言われれば断る理由はないかな!」
豪快に笑ったイグナートは拳を作り構えを取る。
「『教えて欲しい』のが『力』だけっていうのが、実に魔種らしいというか……まぁいいけど。
ボク達の『力』を、その力の『源』が何なのかを、その目と身で『学ぶ』といいわ!」
剣と手甲を構成しながら『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)はそう呟きを漏らす。
「『力だけでいい』んじゃない、『力も示せない』なら帰れと言ってるのよ。
どうせ、私に負けるようでは竜種と対しても餌になるだけなのだから」
ふるふると首を振ったかと思えば翠璃の全身から高密度の魔力が溢れだす。
「どうしてこの先に行きたいのか。
それは、貴女ご自身が仰るのと同じなのです……『知りたい』のですよ」
続けて『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)が言えば翠璃は「そう……悲しい事ね」と嘆いて目を伏せた。
「知りたいってなら教えてやるよ。まずは力を示してな」
愛剣をぐるりと回して担いでみせた『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)を見て、翠璃は悲哀を載せた笑みをこぼす。
「えぇ、そうしてほしいのよ」
「魔種、か。その割には俺達を心配して止めようとしているように見えるけど……
この先に行きたいのはもちろんだけれど、キミに興味が出てきたよ」
そう語る『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)に少女の方も不思議そうに首をかしげる。
「私のこと? そう、そうなのね。それなら自己紹介から始めるのよ。私の名前は翠璃なのよ」
「そうか、俺はヴェルグリーズというよ」
「我 フリック。我 フリークライ。我 墓守。
進ム理由 我 主 墓標タル世界護ル為」
続け『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)も自身の名前を告げれば。
「ヴェルグリーズさん、フリークライさん、覚えたのよ」
2人をみてその名を呟いて翠璃がこくりと頷いた。
「翠璃 事情不明。デモ 心カラノ心配 感謝スル。
心乱シテ申シ訳ナイ。ケレド 先 進マセテモラウ」
「言葉で言って退いてくれないのなら、もう仕方ないのね」
ふるふると小さく頭を振って翠璃は小さく嘆くように言う。
(魔種ですら恐れる本物の竜種。
どんな存在なのか……どんな力を持っているのか……!)
胸に宿る焔を闘志のように滾らせ『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は思う。
「力を示せと言うのであれば! まずは自分、宇宙保安官ムサシ・セルブライトが相手となるであります!」
2人に続けて名乗りを上げたムサシに翠璃は切なく瞳を揺らす。
「ムサシさんというのね。覚えたのよ。それなら、耐えられるかどうか、確かめるのよ」
顔と名前を一致させるように呟いた翠璃が手を振るった刹那、旋風がムサシの身体を斬り裂いた。
「さぁ、貴方達の餌はこっちよ!
……少々ウェルダンで辛口かもしれないけどね」
蛍は燃える炎を桜吹雪の如くラプトルめがけて撃ち込んでいく。
美しくも恐ろしき桜のひとひらひとひらがラプトルを惑わし、その注意は蛍へと向いた。
「倒す強さだけが『力』じゃない、倒れない強さだって『力』なのよ! それを見せてあげるわ!」
「そうね、それも力ね」
頷いた翠璃は静かに蛍の様子を観察しているようだった。
「まずはあなた達を使って生存能力の証明をするとしましょう。つまらない攻撃は要らないわよ?」
笑いかけるような気軽さで言いながらアンナは空へと舞い上がった。
木々の枝を支えに飛びあがったその姿を見つけたワイバーンが咆哮を上げて獲物とばかりに襲い掛かってくるのが確かに見える。
「相手が強者であり、こちらの力を測ろうというのであれば。
堅実に全力で勝ちの目をつかみ取りにいくべきでしょう……則ち、王道にて」
珠緒はワイバーンとラプトルの双方を観察するように後退しつつ、視線を巡らせる。
踏み込むと同時に振り払った斬撃は美しき藤桜の閃光を描いてラプトルを刻む。
「まあ、やることはシンプルだよね!」
イグナートは盾役となる3人の動きに合わせて駆けだした。
獲物を見て舌なめずりするラプトルめがけて拳を叩きつけ、一気に連撃へと移行する。
栄光をつかみ取るべく打ち出した拳の軌跡がラプトルの顎を強かに打ち据える。
そのままの勢いで構えたるはスパーク爆ぜる呪腕。
本命たる覇竜の穿撃が無様に開いた口を貫いた。
「お前らに時間を掛けてるのももったいねえ!」
ルカは愛剣を振り上げ、力任せに振り回していく。
亜竜たちの巨体を物ともせずに吹き飛ばさんばかりの斬撃は宛らラサの砂嵐を思わせる。
血風を生み、砂粒の如き血しぶきが森の中に散らばっていく。
●
ラプトル達を倒したイレギュラーズは続けざまにワイバーンとの交戦へと移行しつつあった。
「珠緒さん、なるべく速く倒そう」
「えぇ、時間を掛けすぎても彼女の目にはかなわないでしょう」
優れた五感を駆使して戦況を把握する珠緒は蛍への合意と共に刀を払う。
美しき軌跡は藤の花を思わせる鮮やかな紫の斬光を描き、ワイバーンの腹部に鮮烈なる傷を刻む。
ソレを見届けるや、蛍は握りしめた愛剣と共に飛び掛かる。
桜色のオーラを纏う聖剣がその身に宿る熱意に応じるようにして勢いを増していく。
神聖なる桜花の聖剣が一閃はワイバーンの中でも傷の深い個体へと脅威的な斬撃を刻んでいく。
それを横目に見つつ、ムサシは翠璃との交戦を続けている。
「……次は自分も力を示させてもらうであります! これが、自分の全力の一撃!」
崩れそうになる身体を支え、ムサシはその手に二振りの剣を握り締める。
「……二天一流・宙の技! お借りします! 焔閃抜刀・宙ッ!」
十字に描いた炎と光の斬撃を翠璃めがけて降り降ろした。
芯に当てるには翠璃の守りは堅く、けれど魔力の出力が僅かに下がっているのは見て取れた。
「待たせたなお嬢ちゃん。それじゃあ試して貰うとするぜ!」
続けるようにルカは飛び込んだ。
「次はお兄さんなのね?」
「あぁ、受けてみろよ……竜と渡り合う為に鍛えたこの俺の力を!!」
全身に闘志を溢れさせ、竜にも負けぬとばかりの全力に斬撃を見舞う。
邪道極まる斬撃は漆黒の軌跡を描いて凄絶なる斬撃の連鎖を描く。
風を切る斬撃は竜の咆哮とも近しいか。
「何で竜種に会おうとしてるかって言われたら、強くなれるキッカケになるかもシレナイからだよ?」
翠璃へと肉薄したイグナートは戦闘前に少女の告げた問いかけに着いて答えるものだ。
刹那の内に、少女の表情が険しい者へと変わる。
「強いヤツには会えば成長出来るでしょ? そのタメに命を賭けるヒツヨウがあるなら賭けるのはトウゼンの話だよね?」
「理解できないわ、理解できないわ。恐ろしいことよ? 貴方のそれは竜にも勝る傲慢なのよ……」
何かフシギな話かな?と、イグナートが逆に問うように言えば、翠璃は信じられないものでも見るように言う。
「そうかな? でもオトコならそういうものだと思うよ」
イグナートは拳を作る。
それは峻厳たる正義の騎士の矜持、ネメシスの栄光の証たる絶対の騎士の剣を思わせる鋭き拳。
真っすぐに打ち出した拳が翠璃の纏う魔力とぶつかれば、少女が驚いた様子を見せる。
「俺達がこの先へ向かいたいのはこの先に俺達の宿敵の一人がいるかもしれないからだよ。
多くの被害をもたらしたあの人物を俺達は倒さなくてはいけない。
その為にもこの森を調査したい、それがこの先に進む理由だよ」
ヴェルグリーズは肉薄したままに翠璃へと告げる。
「それは、里おじ様のことなのよね? ううん、言わずともわかるのよ」
ふるふると少女は首を振る。
「里おじ様は私を深緑に連れてってくれなかったのよ。
きっと私が苦しむと思ったからなのよ……」
落ち込んだように翠璃は言う。
「冠位魔種を倒して世界を救わねえといけねえって理由もあるが……俺個人としちゃあもっと単純だ」
そこに入って告げるのはルカである。
「確かに死ぬかも知れねえ。怖くねえって言ったら嘘になるし、命を無駄に捨てたい訳じゃねえ」
その剣身に闘志を籠め、集中しながら真っすぐに見据えるは少女の瞳。
「なら! なら! 絶対にやめるべきなのよ!」
引き攣るように叫ぶ翠璃めがけ、ルカは剣を振り払う。
「でもな、俺は竜に会いたい。ガキの頃からずっと持ち続けてる夢なんだよ。
竜と会って戦いたい。戦って認められたいってな!」
鮮やかな黒き閃光を描いた斬撃が目を瞠った翠璃が纏う魔力を喰らっていく。
「それが夢なのね……それは仕方のない事なのよ……
理解できないけれど……夢を追う人はどうしようもないのよ」
「フリック交戦経験有リ。固有名称 ジャバーウォック メテオスラーク。
フリック 生存。安心 材料ナル?」
亜竜との交戦を続ける盾役たちへのヒールを撃ち込みながらフリークライが問えば、翠璃は目を見開いて動きを止めた。
「ン 竜種 名前 怯エサセタラ 謝罪スル」
「うぅん、違うのよ。でもそれは本当なのかしら? だとしたらすごいのよ。
天帝種『バシレウス』を相手にそんなことできる人なんて、本当にいるのね……」
「翠璃 竜種 種別 知ッテル?」
「里おじ様が教えてくれたのよ。えぇ、私がこんなところで立ち入る人を遮ってるのも、そんな理由なのよ」
そう言ってから、翠璃は口元に手を置いた。
「あっ、でも、里おじ様の考えは私には分からないことだから、これ以上は聞かないでほしいのよ?」
そう言って翠は首をかしげた。
●
蛍は真っすぐに翠璃を見据えていた。
「ボク達イレギュラーズの『連携の力』――『絆の力』、見せてあげるよ!」
心臓の鼓動が高鳴り、応じるように魔力は出力を増していく。
可視化するほど濃密なる魔力はやがて桜吹雪を思わせる輝きを抱いて戦場を包み込む。
それは宛ら桜の檻の如く翠璃を内側に取り残す。
続けざまに動くのはもちろん珠緒だ。
「えぇ、お見せしましょうとも――広く周囲を見る『静』と二人で一気に攻める『動』、これが比翼連理たる珠緒の力です」
桜吹雪の中に飛び込み、内側に立つ翠璃へと肉薄する。
握る術式刀へと多重に展開された術式は刀身をプラズマカッターへと作り変える。
紅焔を抱いた斬撃は鮮やかな軌跡を描く。
「すごいのよ、すごいのよ」
その刃は魔力を帯びてそれそのものが装甲の如くなった翠璃の拳に握られていた。
「でも、これじゃあまだ、まだ竜には届かないのよ。
きっと、鱗に傷をつけるでしょう、肉にも到達するのよ。
それで終わってしまうのよ……」
悲し気に言って、少女は首を振ってそのまま視線を別の者に向けた。
「すごいのよ、ムサシさん、すごいのよ?」
「はぁッ……はぁッ……な、何がでありますか?」
自らの身体を奮い立たせ、ムサシは視線をあげた。
心底感心したという表情を浮かべた翠璃は初めて『嬉しそうに』笑った。
「だって、もう、3回は殺したのよ?」
「……自分の取り柄でありますから」
目にかかる汗を拭って、ムサシは答えた。
必殺の一撃を受けなかったこともあって、まだムサシは立っている。
それが必殺を持たないからかまではまだ分からないが。
「すごいことなのよ。貴方なら、竜を相手でももしかしたら何度でも立ち上がれるのかも。すごいことなのよ!」
「お褒めに預かり光栄であります」
「もう充分なのよ。もう充分、貴女達の力は分かったのよ。
だから次は、どれだけ守り切れるか、教えて貰うのよ」
そう言った刹那、翠璃の纏う魔力が竜の爪を描いて一閃を払う。
それまでと比較にならぬ一撃がムサシにパンドラの加護を開かせた。
「誰に何を言われようと、私達はこの森の先に行かないといけないの。
……と言っても、引際を誤るつもりも死ぬつもりもないわ。通してくれないかしら」
ムサシと入れ替わるようにアンナは翠璃へと肉薄する。
「本当に? 私が殺すつもりだったら、いつのタイミングで退いてたの?」
翠は不思議そうに首をかしげる。
「最初から殺す気だったのなら、それ相応の対策は取ったわ」
アンナの答えに翠璃は少しだけ考えた様子を見せる。
「でも、そうよね。貴方達がすごく強いことは分かったのよ。
多分……竜種と戦っても即死しない程度には耐えられるのよ」
悲しそうに翠璃がアンナを見て竜爪を一閃する。
持ち前の回避能力を以ってそれをギリギリで避け切ったアンナは自分の動きがつぶさに見られていることを感じ取る。
真っすぐに剣を紡ぎながら、ヴェルグリーズは翠璃へ再び声をかける。
「キミに恨みはないけれど本来であればキミも俺達は倒さないといけない。
ただ魔種にも様々な事情があるのを俺は知っている。
こうして警告してくれたキミを問答無用で討伐というのは俺も後味が悪い。
俺達にもキミのことを聞かせてほしい」
「教えてあげられることなんて殆どないのよ?
森の中に彷徨いこんで、うっかり竜の棲み処に踏み入れてしまった。
……それで、虫や植物を気づかず踏みつぶしてしまうみたいに死ぬのは嫌なのよ」
「……キミは彼の指示でここにいたんだよね?」
ヴェルグリーズの問いかけに翠璃は改めて頷いた。
「おじ様……説得は失敗なのよ。
だからもう、自分で感じてみればいいの。
彼女に、花麟竜ディアントゥスに会ってみれば、竜に会うのがどういうことか分かるのよ」
そう言って少女はそのままどこかへと消えて行った。
(ン。翠璃 自身 終ワリ 知リタガッテイル。 ナノニ死 恐レテル。
矛盾? ウウン。終ワリ 死 知リタイ翠璃デサエモ恐レル程ニ 竜種 怖イトイウコトカ。
コンナ死ハ嫌ダ ソウ思ワセル程ダッタノダロウ)
フリークライは道を開けた翠璃の行く先をぼんやりと見ながら思う。
悲痛に語った少女の言葉を思い出して、或いは練達の時を思い出す。
(ン。アノ時 フリック 皆 守ルタメ 戦ッタ)
あの時は、練達を守らねば、深緑を守らねばならなかった。
そのための戦いで、六竜は、ジャバーウォックは明確な『敵』だった。
だが、もしも彼女の言う通りの死が待つのが竜との『普通』なら。
対等の対話を望むのは随分と難しいのかもしれなかった。
●
翠璃の撤退に伴い、イレギュラーズは更に奥へと進んでいた。
どれくらい歩いたか、不意に森の奥から陽の光が見えた。
暖かな光に導かれるように前に進めば、開けた空間が見えてくる。
他の場所であれば鬱蒼とした木々に覆いつくされた空が何故かその場所だけ避けるように開いている。
大地には木々の類はなく、花々が咲き誇る。
そうして――その場所の中央に『それ』はあった。
岩を思わせるそれは、よくよく見やれば微かに動いていて、更によく見れば顔がある。
(……竜種。あれがきっとディアントゥス。眠っている……ようね?)
アンナは傷一つない竜の鱗を見て固唾を呑む。
「……挨拶だけでもしとくか? 眠ってるみてえだし、このまま帰る方が良いのか……?」
ルカはあまり音を立てぬように心掛けながら小さく周囲へと問うた。
「翠璃 信頼 裏切リハシナイ。生還シテ次 備エル」
そう言うフリークライの呟きも正しいだろう。
それは誰からの一歩であったか。あるいは、一歩ですらない、本の僅かな脚の動きか。
「――――」
刹那、瞬く間に空気が重くなる。
下手に動けば、次には死が待っている――そんな圧迫感が全身に襲い掛かってきた。
「……見られてる」
そう呟いたのは蛍だ。
その視線の先、眠っていると思っていた竜は視線だけでこちらを見ていた。
何をするというでもなく、ただ自らの縄張りに踏み入らんという気配を視認する。
あちらから動かないのは単純に『動くまでもない』という種としての傲慢さか。
「私達はベルゼーがいるという情報を確かめる為に来たわ。決して森を無駄に荒らすつもりはないの」
奮い立たせるようにアンナが言えど、竜の返答はない。
ただ、一歩でも近づけば殺される――そう思わせるだけのプレッシャーが襲い掛かる。
(自己紹介、丁重に接する、接点を持つ……駄目だ。
これ以上に近づいたら消し飛ばされる、話しかけても、きっと同じだ)
事前に考えていた対応その全てを蛍は否定する。
(これは対話どころの話ではありませんね。
礼を失せずとは言いますが、そもそも近づくことさえ許されてないようです)
珠緒も同じ結論に至っていた。
「いつまで、そこに立っているつもりだ、小さき者よ。それ以上その場に立って竜の眠りを妨げるか……死ぬか?」
少しばかり口を開いた竜の口腔に瞬く間に光が集まっていくのを見やり、イレギュラーズは一気に後退していく。
走り去る中後ろを見やれば、竜が再び首を回して眠り始めているのが見えていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
翠璃とは近々再び会うかもしれませんし、会わないかもしれませんね。
MVPは彼女に張り付き一番『退いてもいいかな』と思わせた貴方へ。
GMコメント
始まりましたね、ピュニシオン調査シナリオ。
こんばんは春野紅葉です。
●オーダー
【1】翠璃を納得させる。
【2】亜竜の撃破
●フィールドデータ
覇竜領域に存在する広大な森です。
前人未踏の地とも呼ばれており、イレギュラーズはR.O.Oで一度進軍したことがありますが、かなりのデスカウントを稼ぎました。
風景に、悍ましい程に多いモンスター。生い茂った草木や存在する植物は名前も知らぬようなものが多く生態系も覇竜領域特有です。
●エネミーデータ
・『???』翠璃
魔種です。属性は暴食。
10代前半と思しき緑髪碧眼、緑の鱗を持つ女の子の亜竜種風。
優しく穏やかな性格のように見えます。本心から皆さんに警告しているようにも見えます。
もしかするといるのかもしれません、彼女の向こう側、この奥にこの少女が本気で恐れるもの――『本物の竜種』が。
多少は離れているのだとしても『竜種』の近くで行動している存在です。
少なくとも『竜種と遭遇して五体満足で逃げおおせる程度』には、非常に強力な魔種であると思われます。
当シナリオでは全力を出してきません。
侮っているというよりも推し量るため、あるいは『学ぶ』ためのようです。
彼女の中で十分と判断した段階で撤退するでしょう。
・ラプトル×8
ラプトルという単語で想像しそうな小型の亜竜です。
舌なめずりしているところを見るに、皆さんを今日のご飯と判断していそうです。
突進や尻尾牙、足などを用いる物理戦闘の他、口から【毒】系列のBSを吹きだします。
・ワイバーン×4
所謂ワイバーンです。
木々に覆われた頭上の更に上を旋回しているようです。
強靭な脚や牙を用いた物理戦闘の他、口から【火炎】系列のBSを与える炎を吐きます。
●竜種について
イレギュラーズ陣営が翠璃に認められた場合、皆さんが求めれば森の奥にいる竜種と出会うことが可能……かもしれません。
その先にいるのが果たしてどのような竜なのかは不明です。
実力に個体差があるという将星種『レグルス』なのか、はたまた比較的若い個体の多いという明星種『アリオス』なのか。
どちらにせよ、六竜やジャバーウォックには劣れど竜種です。一般的な魔種よりもなお強力であろう彼らを下手な刺激をすると大変なことになりかねません。ご注意を……
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
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