シナリオ詳細
<帰らずの森>あぁ、今年もやつが来た。或いは、涙と鼻水、その名は…。
オープニング
●ピュニシオンの森に広がる悪魔
覇竜領域。ピュニシオンの森。
前人未踏の地であり何が潜んでいるかも分からない。そんな危険な森である。
当然、戦う力のない者は近づくことさえもしない。
「う……うぅぅうう、あぁぁ……ずび」
森の外に設けられた仮拠点にて、イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)が苦悶していた。
涙を零し、鼻水を垂らし、息も絶え絶えといった様子で床に蹲まっている。
顔を押さえて、もがき苦しむイフタフの様子は明らかに異常だ。薬を飲んでも治らない。うがいをしても、顔を洗っても、涙と鼻水が止まらない。
「ぐぅ……あ、頭が痛くなってきたっす。なんっすか、これ……何か、ウィルスとか、病気とか」
よろけた足取りでイフタフは立ったが、すぐに再び床へ倒れた。
イフタフだけではない。
仮拠点の救護ベッドは、同じような症状に悩まされている者たちで埋め尽くされているのだ。
その数は実に12人。
症状の軽重はあれど、誰もが同じ、鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにしているのである。
かと思えば、同じ時間を共に過ごして、同じ食事をとったというのに、一切症状が出ていない者もいるのだ。
「聞けばイレギュラーズの皆さんの中にも、同じような症状の人がいるとか……ずび」
鼻水をすする。
すすった端から、鼻水が零れた。
「こんな状況が続けば……ずび……森の探索どころじゃないっす。原因……原因を突き止めないと」
仮拠点の天幕から、外へとイフタフは這い出した。
そうして彼女は空を仰ぐ。
風が吹いて、樹々の香りが鼻腔に届いた。
瞬間、イフタフは咽た。
「えっきし! くしっ! へぶしっ……! な、んん?」
鼻を押さえたイフタフは気づいた。
何かを吸い込んだことをきっかけに、鼻水と涙がより一層に酷くなったことに。
そして、彼女は思い出す。
「これ……もしかして花粉症っすか?」
●イフタフの手紙
イフタフが意識を失った。
今頃は救護ベッドの上で、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして苦しんでいる頃だろう。
だが、イフタフは意識を失う直前までに、1枚の手紙を書いていた。
以下がその内容だ。
『この手紙を皆さんが呼んでいるということは、私は今頃、涙と鼻水に溺れていることでしょう』
そんな一文から始まった手紙には、イフタフの置かれた状況……つまり、重度の花粉症に似た症状について細かく記されている。
症状は酷いが、紛うことなき花粉症だ。間違いない。
『花粉を撒き散らしている何かは、森の浅い位置を歩き回っています。何かの正体までは調べ切れていませんが、見上げるほどに巨大だったと証言した人がいます』
ピュニシオンの森は危険な場所だ。
変わり映えのしない景色が続き、方向感覚を狂わせる。おまけに危険な魔物が多く生息しており、中にはワイバーンやワームなどデミ・ドラゴンとでも呼ぶべき巨大なものもいる。
イフタフの同僚が見たというのも、きっとその類だろう。
『巨大な何か……仮に“アレジィ・ワーム”と呼称します……を見つけ出して、花弁の採取と討伐をお願いするっす。討伐すればこれ以上、花粉症の被害に逢う人はいなくなります。そして、回収した花弁を調べれば、特効薬を作れるはずです』
それから、イフタフの調べたアレジィ・ワームの花粉の効果が記載されている。
曰く、アレジィ・ワームは広範囲に【懊悩】【崩落】【封印】を付与する花粉をばら撒くと言う。ばら撒かれた花粉は時間の経過と共に効力を失っていくが、それでも今のイフタフたちの様子を見れば、その効力がいかに強力かが分かる。
ましてや、散布されたばかりの花粉を浴びれば多少のダメージは避けられないだろう。
加えて、その巨体も厄介だ。
体が大きく、体重が重たいというのはそれだけで強力な武器となるのだ。
『アレジィ・ワームの捜索はきっと大変だと思います。でも、安心してください。もしもあなたたちの中に、私と同じ花粉症に悩まされている人がいるのなら……その人をセンサーに使ってください。その人の症状が酷くなる方向に、きっとアレジィ・ワームはいます』
もっとも、花粉症の症状が酷くなってしまえば、目や鼻に関連する技能は十全に機能しなくなるだろうが……。
『最後になりますが、どうか皆さん、私たちを救ってください。これ以上、涙と鼻水で苦しみ続けるのはま』
そこで手紙は途切れている。
手紙の最後には、水の染みたような痕跡があった。
- <帰らずの森>あぁ、今年もやつが来た。或いは、涙と鼻水、その名は…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年03月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●花粉の季節
覇竜領域。
ピュニシオンの森の外れに建てられた簡易拠点の入り口で、『生物兵器』アメル・パランズーズ(p3p007069)がギターを弾いていた。激しく6弦を引っ掻いて、ひずんだ音色を奏でているのだ。
アメルが頭を激しく振った。
その度に、アメルの体から花粉が散った。
「去年も花粉サン来たデスが、イレギュラーズのPOWERでやっつけマシタ! 今年も悪い花粉サンから世界をガードする為、皆サン、ファイトデスよ!」
アメルは花の……否、というより花粉の精霊だ。
花粉症に苦しんでいるイフタフは、床に顔を突っ伏して体を痙攣させていた。
「ひゅ……ずび……い、ってっくゅ! はや……し、いっきし! ……ぬ」
訳:行ってください、早く! 死ぬ!
「アメルは花粉症じゃないので良くわかりマセンが、皆サンが苦しんでるならアメルは沢山頑張るデス!」
悲しいかな、イフタフの意思がアメルに伝わることは無かった。
「はっっっくしょん! ズズーッ」
「こっケホッケホッ……目が、痒……うま」
「くぁ〜っくしゅっ!」
「花粉はBS……花粉は毒……花粉はBS……花粉は毒……」
イフタフだけではない。『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)も、『早天』尹 瑠藍(p3p010402)も、『ドラゴンライダー』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)の連れたリトルワイバーン“ロスカ”も、『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)も、皆仲良く花粉症だ。
ただでさえ拠点周辺は花粉が多く目は痒いし、鼻水はあふれ出て来るしで散々だというのに、ここに来てアメルのヘドバンである。
出発前からイレギュラーズは半壊滅状態。こんな惨状を誰が作った。
「花粉症……なんかそういうものがあるってのは効いたことがあるっスけど、まぁ大変なのは見ればなんとなく分かるっス」
『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)がアメルを止めて、拠点の外へと促した。拠点内をこれ以上花粉塗れにするわけにはいかない。
任務を終えて帰還するよりも先に、何人かが息絶えかねない。
まずはアメルを拠点外へと押し出して、次に花粉症で悩む仲間たちを引き摺るように森の方へと移動させる。
森の辺りは一面が黄色い。
細かな花粉が、視界一杯……空間一杯を埋め尽くしているのだ。それこそ、10メートル先の風景さえ霞んで見えるほどである。
「わあ、一面が黄色いや……俺はくしゃみも涙も出ないけど、花粉って怖いんだね」
圧倒された。
目を丸くして琉・玲樹(p3p010481)は黄色い森を凝視していた。
「花粉症じゃなくても、この黄色く霞んでるのヤバいってのはわかるし正直怖い」
『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)の頬にも汗が滲む。
その足元では、花粉症に悩む仲間が蹲って苦しんでいる。花粉症とは、それほどまでにきついのだ。治療が可能という話も聞くが、治療しても改善されなかったという話も聞く。
「さっさと元凶倒しちまおう」
と、そう呟いて飛呂はチラとアメルを見やる。
「ドウシマシタ皆サン! ファイト、ファイト! アメルもロックで応援しマスっ!!!」
まずはアメルから倒すべきか……一瞬だが、飛呂の脳裏にそんな考えがよぎる。
だが、気にしないことにした。
●アレジィ・ワームを追って
風の流れと、木の枝の揺れ、それから花粉の流れを睥睨する飛呂は、チクリとした痛みを感じて目を閉じる。
「平気かい?」
空気を揺らさないように、そっとした足取りで玲樹が飛呂に近づいた。
飛呂は目を開いて首肯する。
「あぁ、花粉症の人だけに負担かけられねぇ……めちゃくちゃキツそうじゃん」
「……まぁ、ねぇ」
花粉症でなくとも、これほど大量の花粉が舞っているのはきつい。花粉が網膜や鼻粘膜に付着すれば、アレルギー反応関係なしに多少な何かの異常に見舞われるのだ。
玲樹と飛呂が目を向けた先には、地面に蹲るようにして虚空へ話しかけているアーマデルの姿があった。
どうかしてしまったのか。
花粉症がきつくて、意識が混濁しているのか。
否、そうではない。
「頼むぞ、霊なら花粉の影響は受けないだろう? 嫌? なに……見てるだけでこみ上げてくる? 生前のトラウマ? いや、そこは耐えろよ」
森を彷徨う何かの霊に調査を依頼しているのだ。だが、これほどの花粉が舞う中を飛び回るのは霊も嫌らしく、交渉は難航しているらしい。
一方、そのころ。
鬱蒼と茂る樹々の間をウテナと相棒、ロスカが移動していた。
「さっさと燃やしちゃいましょう! いくよロスカ!!」
「くぁ〜っくしゅっ!」
ロスカは返事をしようとしたのだろう。
だが、代わりにくしゃみと、鼻から火の粉が漏れ出した。ロスカはリトルワイバーンである。戦時となれば頼りになる業火も、今においてはうっかり森を焼きかねない脅威だ。
「ああ!やばやば! 目とか掻いちゃだめですからね!!」
「っくしゅん!」
負けるな。
花粉に負けるな、ロスカ。
鼻をずるずると啜っていた。
もうずっとだ。
ずっと鼻をすすっているので、ユウェルの鼻は真っ赤であった。
「こ、これが花粉症……どらごんが花粉症なんて恥ずかしー」
「げほっこほっ……うぅ、地底湖暮らしに花粉耐性は無いのよ」
花粉に悩まされているのはユウェルだけではない。瑠藍もだ。
仲間たちと離れ過ぎないよう注意しながら、森の中を西へ東へうろうろしている。会話さえもままならない。くしゃみと咳とでコミュニケーションを取っているような有様だ。
涙と鼻水で顔はぐしゃぐしゃ。
とてもじゃないが、人に見せられる状態じゃない。
「あ、なんかこっち……鼻がムズムズして来たかも」
「ケホッケホッ……こ、えほっ!」
返事をするのもやっとである。
黄色いだけで静かな森だ。
森のモンスターたちも、花粉を嫌ってどこかへ逃げているらしい。
「こう、ここまで他の生物が隠れてると、餌とかに困りそうな気がするんっスけどね」
「デスネ! 花粉で日光が遮られたり自分の花粉が埋もれてしまったりするので、森の植物達も困ってると思うデス!」
ライオリットとアメルの2人は、比較的順調にアレジィ・ワームの調査を進めているようだ。なぜならこの2人、どちらも花粉症に悩まされることは無いからである。
「Howdy! 迷惑の元ドコデスカー? 教えてクダサーイ!」
アメルは近くに生えていた、杉らしき樹木へ向かって語り掛けている。樹々の精霊に、花粉の発生源の居場所を訊いているのだ。
ライオリットとアメルでは、花粉症センサー(※花粉症に苦しむイレギュラーズの意)が使えない。なので、こうして精霊の力を借りるのだ。
ふわり、と木の幹辺りから、薄緑色の燐光が零れた。おそらくそれが、杉の樹の精霊なのだろう。
ふわふわと周囲を漂っていた精霊は、すぃっとアメルに近づいた。
「What's?」
「……迷惑の元」
花粉を撒き散らしているのは、アメルも同じなのである。なんとも苦い顔をして、ライオリットはアメルを見ていた。
掛ける言葉が見つからないのだ。
「ひゅー……ぜぇ、ひゅー」
掠れた呼吸の音がしている。
左右を飛呂と玲樹の2人に支えられているアーマデルである。
「こっちか? こっちがきついのか?」
「ひゅー(こくん)」
もはや言葉を発するだけの余裕も無かった。
だが、アーマデルは任務に忠実だ。
「……申し訳ないけど、もう少し頑張って。大丈夫、方角は覚えているから、帰り道は俺も協力出来ると思う!」
「……ぜひゅー(こくん)」
涙に潤んだアーマデルの目は、きっと碌に機能していない。そもそも花粉だらけなせいで、周囲の景色さえ霞んでいる状態なのだ。
そうして森の中を進んで行く3人の視界で、茂みがガサリと大きく揺れた。
「げほっ……っきし!」
茂みの中から花粉が飛び散る。アーマデルが盛大にくしゃみをした。
「っ……誰だ!」
腰に下げた剣へと片手をかけたアーマデルが、茂みへ向かって問いかけた。
かくして、茂みを揺らして現れたのはアメルである。
「Hey! ロックなギタリストのアメル、デース!」
花粉と共に現れたのはアメルである。
その後ろにはライオリットの姿もある。
「こっちの方角で合ってるッスか? って、うぉ! ひどい顔っスね!」
ヘドバン(ヘッドバンギングの略)を始めたアメルを止めて、ライオリットは目を丸くした。最初に見かけた時よりも、アーマデルの症状が酷くなっていたからだ。
調査の結果、8人の意見は一致した。
森を暫く、西の方向へ進んだ先にアレジィ・ワームがいるはずだ。
「っ……行くしかなーーーい! うおー! はくしょん!」
斧槍を構えたユウェルが駆ける。
「こっケホッケホッ……ゼィあっ……っ! ……! ッしょね?」
もはや言葉を発するだけの余裕もないが、瑠藍もその後ろに続く。体を丸め、肩を痙攣させる姿はあまりにも哀れだ。美しい顔も涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、直視するのも躊躇われる。花粉は瑠藍の大事なものを奪っていきました。それはあなたの尊厳です。
なお、途中まで乗っていた馬車は置いてきた。森の中では十全に走れないからだ。
「ロスカも頑張って! 花粉に負けないで!!」
「くしゅっ! ンギャ!?」
「ロスカぁ!?」
鼻から火の粉を散らしながら、ロスカが木へと激突した。
目を回したロスカを胸に抱きかかえ、ウテナは悲鳴を上げるのだ。
誰か、ロスカを助けてください。
失ったものは多い。
支払った代償は大きかった。
だが、アーマデル、ロスカ、ユウェル、瑠藍の献身は確かに実を結んだのである。
森の奥、樹々を薙ぎ倒して作られた寝床の上に身を横たえる巨大な蛇の姿がった。見上げるほどに巨大な体。濃緑色の鱗に覆われた体の各所から、木の枝や蔦が生えている。枝や蔦の先の方には、成人男性が両手を広げたほどに巨大な色とりどりの花が咲き誇っていた。
ぐるる、と大蛇が……アレジィ・ワームが唸り声を上げた拍子に、身体中の花からは黄色い花粉が溢れ出す。
「ち、近くでみるとデカいなぁ!」
花粉から顔を庇いながら玲樹はアレジィ・ワームを見上げる。髪も衣服も、一瞬で花粉塗れになった。
「いずれにしても、このままだと周囲の生物も困っちゃうっスし、俺達も進めないっスから
申し訳ないっすけど、この場からご退場願うっス!」
見上げていても埒が開かない。
ライオリットは右手に軍刀を構え、魔力光を灯した左の拳を胸へと叩きつける。
飛び散った光がライオリットの体を包んだ。
「OK! アメルはできるだけ前に出てディフェンスしマス!」
真っ先に駆け出したのはアメルだ。
その後を追うようにライオリットも地面を蹴った。
「あの花の部分から花粉がぶわー! と出てるんだよね? だったら凍らせて花粉を出せなくしたら良いかな!」
そう言って、玲樹は両手を左右へ広げる。
その両の手を冷気が包んだ。
形成されるは氷の刃。魔力の流れに気が付いたのは、アレジィ・ワームが目を開ける。
ぎろり、とアレジィ・ワームの爬虫類らしい冷たい瞳が玲樹を捉えた。
背筋に走る悪寒を押さえて、玲樹は前へと走り出す。
と、その時だ。
ごう、と大地が震えるほどの衝撃と共にアレジィ・ワームが再び花粉を撒き散らす。
空気の震えと共に迫る膨大な花粉を、ウテナとロスカが迎え討つ。
「よしロスカ! ブレスですよ! 燃やしちゃってください!!」
「くぁ……くぁっしょん!!」
ロスカは炎を吐き出そうとしたのだろう。
だが、吸い込んだ花粉に着火して、ロスカの口内で炎が弾けた。予想外の出来事に目を丸くしてロスカが地面へ落下する。
「暴発!! ってことはつまり……ロスカがブレスを撃てない!! これはやばやばですよ!!!」
落ちたロスカを拾い上げ、ウテナは慌ててその場を逃げ出す。
花粉の波に飲みこまれては、次の行動もままならないのだ。
「あ……花粉がこっちに飛んできて困るなら翼の羽ばたきで飛ばしちゃえばいいんじゃない?」
「ケホッコホッ……ウ“ェ」
ユウェルの背後に回り込んだ瑠藍が何かを言った。だが、何を言ったのかは分からない。咳が酷くて、瑠藍の声は言葉にならなかったからだ。
ユウェルが背中の翼を広げる。
目の前へと花粉の波が押し寄せる。
「わたし天才! うおー! とんでけー!」
大きな翼を数回ほども羽ばたかせ、ユウェルが花粉を吹き飛ばす。
花粉の被害は甚大だった。
「Oops!皆サン元気がないみたいデース! これはアメルのMusicが必要いうコトデスネー! アメルのパワー、皆サンにわけるデスヨッ!」
Yeah!!!!
と、ギターを構えたアメルが6弦に指を振り下ろす。
弦を押さえた指の先で叩くように……ハンマリングと呼ばれる奏法である。
「きっと皆サン、アメルがヘドバンいっぱいすれば元気でるデス! ほらもうこんなに黄色い声援が! このまま頑張りマショウ!」
Woohoo!
とアメルのテンションが上がる。
アメルが頭を激しく振る度、盛大に花粉が飛び散った。
「ケホッケホッ! エホッ!」
「ひでぇ有様だな。このまま帰ったら被害が広がりかねない……」
咳き込む瑠藍を引き摺るように、飛呂はその場を離れていった。
なお、瑠藍の状態異常は治癒されている。
●花粉症の終焉
空気を切り裂き、力任せにユウェルが斧槍を横に薙ぐ。
「うおー! くっしょん!」
途端、盛大に花粉が散った。
切断された赤い花が、ボトリと地面に落下する。
「ケホッ!」
落下地点にいた瑠藍が咳き込んだ。
振り抜いた刀の軌道がぶれて、アレジィ・ワームの体に浅い裂傷を刻む。
浅くとも傷は傷だ。
アレジィ・ワームが尾を振り回し、瑠藍の体を弾き飛ばす。
「わー、待て待て! 花っぽいところ攻撃したら花粉めちゃくちゃ出てるぞ!」
転がる瑠藍を抱え上げ、飛呂は急いでその場を離れた。
その後を追ってアレジィ・ワームが身をうねらせる。地響きと共に花粉が散って、視界が黄色に埋め尽くされる。
けれど、しかし……。
「ばーん!!!!」
アレジィ・ワームの眉間を目掛けウテナが魔弾を撃ち込んだ。
アレジィ・ワームの背中の上を玲樹が駆け抜ける。
右へ、左へ。
腕を振るうたびに冷気が飛び散って、色とりどりの花弁が次々に凍り付いた。
「今のうちに! 行け、行け! 俺もずっと黄色い景色の中に居るのは何か嫌だし!」
「ッス!」
「くしゅん!」
尻尾の先から背中へ向かって、ライオリットと瑠藍が駆ける。
2人が刀を振るう度に、アレジィ・ワームの背中の花が切断されて、砕け散る。凍り付いているためか、花粉が飛び散ることは無い。
もっとも、周囲に漂う花粉の量は未だに膨大。花粉症に悩まされている面々では、そう長い間、十全に動けはしないだろうが。
例えば、ライオリットの刀はアレジィ・ワームの背中を裂いた。
鱗の隙間から伸びている蔦ごと、幾つもの花を斬り落とす。
だが、アレジィ・ワームは巨大過ぎた。
花粉の悪影響を受けないにせよ、不調を自分で癒せるにせよ、その巨体を止めることは叶わない。
だが、それで問題ない。
「ひとまず花だな。斬るか、濡らすか、焼き払うか……」
「じゃあ俺は目や鼻を狙うわ……いや花が弱点の可能性もあるけど花粉バフっと出るの怖いし、目視難しくなりそうじゃん」
アーマデルと飛呂の2人は、飛ぶようにしてアレジィ・ワームの頭部へ向かう。
縦横に振り回されるアーマデルの鞭剣が、凍った花を次々に叩き割っている。
「あの容赦にない撒き方、ちょっと参考に……」
急停止。
アーマデルの目の前には、まだ凍っていない花がある。
アレジィ・ワームが体を震わせた瞬間、アーマデルの全身が膨大な量の花粉に飲まれた。
「……ならんわ! 暗殺じゃなくて無差別テロだろうあれ!」
アーマデルにしては珍しいことに、感情を爆発させていた。
花粉に飲まれ落下していくアーマデルを助けるためにアメルが走る。進むも花粉、下がるも花粉……あぁ、ここはまさしく花粉地獄。
激しい戦いだった。
涙あり、鼻水ありのあまりにも惨い戦場だった。
だが、イレギュラーズは遂に花粉の脅威に打ち勝ったのだ。
「悪いな……恨みはねぇが、放置もしておけねぇ」
銃声が鳴る。
1発。
たった1発の銃弾が、アレジィ・ワームの眉間を穿った。
最後に1度、盛大に花粉を撒き散らし……。
「ォォォーーーー……」
アレジィ・ワームは地面に倒れ、それっきり動くことは無かった。
「……あっ、そういえば花弁取るんでした!」
落ちた花の幾つかを、ウテナが拾い集めている。
「倒しても鼻水が止まらない……んもー、いつまで続くのこれー! 目も取り出して洗いたい! 我慢できなーい!」
盛大に花粉を浴びたのか、ユウェルは地面に倒れ込んで暴れている。
くしゃみを連発しているが、誰も彼女を助けに向かう余裕はなかった。花粉症に悩まされている者たちは、誰も彼もがユウェルと似た状態だからだ。
そんな中、仲間たちが急ぎ撤収していく中……玲樹だけは、アレジィ・ワームの遺体の方へ近づいていく。
「や、やっぱりどんな味がするのか気になるよね……」
周囲の様子を窺いながら、玲樹はそっとアレジィ・ワームの遺体へ向かって手を伸ばす。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
アレジィ・ワームは討伐され、花粉症の治療役は開発されました。
依頼は成功となります。
この度はご参加ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
※なお、重症は悪化した花粉症です。
GMコメント
●ミッション
アレジィ・ワームの討伐および花弁の採取
●ターゲット
・アレジィ・ワーム(仮称)×1
花粉をばら撒く巨大生物。ワームのようだという証言があったため、アレジィ・ワームと命名された。花粉をばら撒くことから、身体に花のような器官が付いているか、花と共生していることが予想される。
巨体そのものが武器である。
また、広範囲に【懊悩】【崩落】【封印】の性質を備えた花粉をばら撒く能力を持つ。
●フィールド
覇竜領域。ピュニシオンの森。
鬱蒼と樹々の生い茂った森で、道らしいものは存在しない。
危険な魔物が生息しているらしいが、現在はアレジィ・ワームを警戒して姿を隠しているようだ。
アレジィ・ワームの散布した花粉のせいで、花粉症に似た症状で悩まされる者が多数。
花粉の濃い方向へ進めば、アレジィ・ワームがいるだろう。
●その他
状態異常:花粉症
自己申告制。花粉症の方はプレイングに【花粉症】とご記載ください。
花粉症の人は、花粉症の症状に悩まされます。
アレジィ・ワームの居場所を発見しやすくなりますが、鼻や目に関するスキルが十全に機能しなくなります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
P・S
花粉症じゃなくてよかったな、ってこの時期になると思います。
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