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シナリオ詳細

<カマルへの道程>宮殿のQuarzo rosa

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●とりあえず生
「ビールいっとくぅ?」
「いっとくわぁ!」
 大ジョッキを渡され、しれっと自分も同じジョッキを手にした店員とカンパーイと言いながら盛り上がる美女がいた。胸はどちらも豊満であった。
 客である女の名はアーリア・スピリッツ(p3p004400)。
 昼からエスニックな料理が食える酒場『7578』に通い、今日も情報収集(&昼飲み)を続ける年中酔いどれのお姉さんである。
 一方店員のほうはオリオン・ドラフト。見てわかるくらい実績を出す7578の看板娘だ。
「それで、ロスカトラ・ベラニモの追加調査は?」
 視線を向けた先はアルトゥライネル(p3p008166)。料理をちまちまつまみながら、飲みの空気に若干はいれずに話しかけられるのを待っていた様子である。
「安心しろ、できている。ロスカトラ・ベラニモはラーガ・カンパニーのラーガからアンガラカを仕入れていたらしい。安価な取引は案外――」
「まって途中からラップみたいになってる」
 酔いがさめかけた顔で手をかざすアーリア。
「そのラーガっていうのは?」
「アンガラカを市場に流通させている黒幕だそうだ。先日、マガキに属するパドラたちが明らかにした情報だな。ヤツの会社だから、ラーガ・カンパニー」
「なるほど?」
「重要なのは、そのラーガは手に入れた幻想種を転移陣によって月の王国へ送っているという所だ」
「転移陣……」
「初めて出るワードじゃん……」
 アーリアとオリオンがテーブルに肘をついて同時に身を乗り出してくるもんだから、アルトゥライネルはその迫力に思わず身を退いた。
 どんな人間でも、そして性別やその性質にかかわらず、この二人が身を乗り出せば誰でもこうなる。あるいはつい凝視し身を乗り出してしまうかだ。
 アルトゥライネルはコホンと咳払いし、もう一つの資料を取り出す。
「古宮カーマルーマという場所に無数に存在する『転移陣』だ。これは月の王国という場所に通じているらしい。
 もしそこへ連れ去られてしまえば『手遅れ』になりかねん。なにせ月の王国と言えば、市場に紅血晶を流してかなりの混乱を招いた吸血鬼たちの住処だからな」

●『晶竜(キレスアッライル)』
 問題となっていたのはヴィバルディー・チキンという名のフライドチキン専門店とその裏倉庫。
 少し前に経営破綻を起こした彼らは幻想種拉致に加担しアンガラカによって幻想種たちをそれなりの数確保したようだが、その時点で彼らはお縄となってしまった。
 ロスカトラ・ベラニモからの二次的な横流しによってアンガラカを得ていたためだ。
 だが問題はここからだった。
 浚った幻想種たちは既に古宮カーマルーマへ送られ、そこから転移陣で月の王国へ送られようとしているのだという。
「先行した調査員が現場を押さえることには成功したが、そこは恐ろしい怪物に守られていたらしい」

 恐ろしい怪物。具体的に言えば、天使めいたシルエットの『晶竜(キレスアッライル)』である。
 二足二腕。翼をもち、全身は紅の結晶体によって覆われている。
 仮にこれが人間を素体にして作られた怪物なのだとしても、元の人間に戻ることは絶望的だろう。
 晶竜とは一度交戦した記録が残っているが、傷付ければ、血の代わりに薔薇の花弁が舞い散るという特徴を持っているようだ。
 戦闘力は非常に高く、両手に持った水晶の剣を自在に操り凄まじい剣技によって戦うという。
 また、周囲をそれなりの数の晶獣(キレスファルゥ)が守っていることから、素直に挑んでたどり着けるとは思えない。まずは晶獣たちをなんとかしなくては話にならないだろう。
「重要なこと聞いてもいーい?」
 話にいつのまにか入っていたオリオンが資料を覗き込みながら言う。
「浚われた幻想種ちゃんたちは、まだその転移陣ってやつで送られてないんだよね?」
「ああ、そのはずだ」
「なら……」
 ちらりとアーリアの方をみて、アーリアはウィンクでそれに応えた。
「大丈夫。その子たちはキッチリ助けてきてあげる。でもって、また打ち上げよぉ!」
「さっすがアーリア話がわかるぅ!」
 イエーイと乾杯しなおし、いつの間にかおかわりされていた大ジョッキがまた飲み干されていく。

GMコメント

 古宮カーマルーマのあちこちに存在する転移陣を押さえ、送られそうになっている幻想種たちをすくうための依頼です。
 幻想種たちはアンガラカによって意識を奪われており、自力で逃げるのは困難な状況です。
 まずは晶竜の攻撃をなんとかギリギリ押さえつつ、周囲を守る晶獣を倒してから晶竜の撃破に挑みましょう。

・晶竜:水晶の天使
 二刀流の天使を思わせる晶竜です。
 凄まじい剣技で戦い、斬り付けると薔薇の花が散るといいます。

・晶獣:サン・ラパース×多数
 晶獣のうち、特にラサに多く生息する大型の猛禽類が変貌したもの。
 血のようなクリスタルに侵食されたフクロウの集団で、出血系の攻撃を得意とします。

・晶獣:サン・エクラ×多数
 小精霊などが、紅血晶に影響されて変貌してしまったものです。
 キラキラと光る、赤い水晶で構成された姿をしており、形状は薔薇の花に近く、空中に軽く浮遊しています。
 花弁を刃のように鋭くして飛ばす物理攻撃を行います。

●打ち上げ会場&相談会場:7578
 エスニック系の料理をだす酒場でビールが美味い。
 元々はレストランだったらしく料理も美味く、昼間っから酒が飲めるのがいいところ。
 前に食べに言ったらパッタイとかグリーンカレーとか柚子肉饅頭とかが出てきた。
 看板娘のオリオン・ドラフトが人気。とりあえずビール(あるいはお茶)から入るのがこの店の楽しみ方。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <カマルへの道程>宮殿のQuarzo rosa完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精

リプレイ


「まったく、酒飲みながら出していい話じゃねぇっつの……」
 『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)はテーブルに肘を突き、ジョッキを手で引き寄せる。
 素面で聞いてらんない話でもある、というわけだ。
 そこからは、よそ行きの顔になって周りの仲間たちを見る。
「あんなのが守ってるっつー事は、相当落とされたくないワケっスね。
 捕まった幻想種も無事とは言いにくいし、尚更やってやらねぇとな」
 葵の言うとおり、幻想種の無事は確認されていない。どころか、晶獣やなにかに変えられている可能性のほうがずっと大きいのだ。
「晶竜に晶獣ね、こいつらがこの騒動の主なターゲットと見て良いのかな?」
 転移陣だの月の王国だのと知らない話が次々と出たことで、『帝国軽騎兵隊客員軍医将校』ヨハン=レーム(p3p001117)は話しをシンプルにたたみ始めた。
「要は人が捕まってるんだろ? そこに助けを必要とする人がいるなら介入するだけさ!」
「そういうことそういうこと」
 『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)はビールジョッキをピンっと爪ではじいてみせた。
「美貌だの妖精郷のエネルギーだの、長生きできると碌なコト無いですねえ。
 その点旅人の私は気楽なモンです。さて、私が来たからにはもう安心ですよ?」
「あ、同じくビール冷やしておいてちょうだいな。ライムと、あと揚げたトルティーヤチップスもね!」
 一方の『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は余裕も余裕。いつもの調子で飲みまくっていた。
「ラーガ・カンパニーのラーガがアンガラカをあーだこーだで、つまり「向こう側」に連れていかれるのを止めればいいのよね?」
「実にシンプルな内容ですね」
 背景を折りたたんでしまえばこんなものである。
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)はビールをちびちびと飲みながら、ラムの串焼きにハリッサソースをつけたものをつまんでいた。
「背後にあるというラーガ・カンパニーの尻尾は?」
「他のチームが掴んでるみたい。こっちはこっちで救出作戦よぉ」
「成程、了解した。転移陣で送られてしまうと厄介だからな」
 『竜殺し』アルトゥライネル(p3p008166)がこくんと頷き、そして店の中をゆっくりと見回した。
「また店で打ち上げをするんだろう? 蟠りなく楽しめるようにしたいからな」
 仕事の後味は良くしておこう、ということだ。
「はい。幻想種を秘密裏に攫い、自分たちの目的のために……。許せることではありませんし、黙って見過ごせません。
 晶竜を早急に撃破し、彼らを救いましょう。
 打ち上げ、ラサのお酒も楽しみですしね」
 にっこりと笑う『明けの明星』小金井・正純(p3p008000)。気持ちは皆、彼女と同じなのだ。
 食事を終え、『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)がコインをテーブルに置いて立ち上がる。
「ロスカトラ・ベラニモを潰したのは良いが、それで万々歳とはいかねえもんだな
 幻想種を攫った黒幕が転移陣なんてもんも用意してるとは」
 衣服を整え、しっかりとした様子で店を出て行くルカ。
「だが幻想種が送られてなかったのは不幸中の幸いだ。邪魔するやつは全部ぶっ潰して助け出す」
 言いながら、彼は自らの手を見下ろしていた。
 自分が少しだけ、自分でなくなっているような感覚。
 これが例の吸血鬼によってつけられた烙印のせいだというのは明らかだ。
「時間は限られている……か」
 さりとて進まねばならぬ。絶望の青を踏破したときのよううに、延長戦があるとは限らないのだから。


 古宮カーマルーマはあまりにも広大だ。
 ルカたちが担当した転移陣のありかは、崩壊しきった廃墟のような場所であった。
 壁はかろうじて残っているものの、天井は崩壊しきっており空には満月がのぼっている。
「あれが転移陣……」
 アルトゥライネルが近づこうと踏み込んだその瞬間、空からビュンと風を切って大きな鳥がかすめていった。
 細かく砕いた水晶に覆われた猛禽類めいたそのシルエットは、間違えようもなく晶獣:サン・ラパースだ。
 フクロウめいたシルエットで翼を広げ、鋭く尖った爪を露出させている。
「早速、か」
 アルトゥライネルは舞うような足さばきで続く爪の攻撃を回避すると、魔力で紡がれた茨を放った。
 ターンし次の攻撃に移ろうとしたサン・ラパースの身体に巻き付いた茨を強く引きつつ、アルトゥライネルは跳躍し強烈な蹴りをサン・ラパースへ叩き込んだ。
 素早く拳銃を構える寛治。
 45口径の銃口から正確に三発の弾が発射され、よろめいたサン・ラパースを撃墜。地面へどさりと落下させる。
 当然寛治は『撃墜した後』にも容赦は無い。素早く銃の狙いを下にさげると、サン・ラパースめがけてトドメの一発を叩き込む。
 サン・ラパースがびくんとけいれんするのを確認し、ちらりと次へ。
「接近されると厄介そうです。遠距離から仕留められますか」
「やってみます」
 サン・ラパースが空中を旋回飛行するのを、正純はきっと睨むように見つめていた。
 弓をひき、矢の狙いを――偏差をつけて放つ。
 見事に矢の突き刺さったサン・ラパースが高度を落とすが、正純が次なる矢を番え弓をひくまでの動作は既に完了していた。
 羽ばたきなんとか墜落を防ごうとするサン・ラパースの頭部を、正純の矢が穿つ。
 が、そうとばかりはやっていられないらしい。
 水晶でできた薔薇のような小精霊の怪物、サン・エクラがぎゅるんと高速回転をかけながら正純めがけ花弁の刃を発射してくる。
 弓を払うことで刃をうちはらうが、全てというわけには行かない。何発かが正純の腕や膝、腰へと命中し服を裂きうっすらと血の筋を流させた。
「正純!」
「大丈夫、軽傷です。それより攻撃を」
 正純の鋭い返しに、葵は手にしていたサッカーボールを放る。
「もっとヤベえ敵の目撃情報もあるんだ。ここで手子摺ってられるかよっ!」
 激しく回転をかけたシュートは紅蓮のオーラを纏い、サンエクラへと一発を直撃させその花弁を粉砕させる。
 ボールはそのまま奇妙なカーブを描き、また別のサン・エクラを粉砕した。
 そうしてバウンドしてきたボールを胸で一度トラップし、つま先にフッと乗せるような柔らかいトラップによって受け止める。
「まだ例の晶竜とやらは出てきてないっスね。今のうちに片付けましょう!」
「ま、何だって構わねえ。全部ぶっ潰せば関係ねえ」
 ルカは『黒犬(偽)』を振りかざすと、距離を取ろうと上昇を始めたサン・ラパースへと突進する。
 跳躍では届かないような高さに至ってこそいたが、ルカはその向こうの壁を駆け上がるような勢いで走ると反動をつけてジャンプ。サン・ラパースの高度までたどり着くと、グレートソードによってサン・ラパースを一刀両断した。
 ガツンと地面にまで叩きつけられる剣。
 ルカは振り返り、アーリアと寛治に声をかける。
「そろそろだろう。準備をしておけ」
「はぁーい」
 アーリアは転移陣へとあえて接近。『例の存在』を挑発する。
 予想通りと言うべきか、転移陣からまっすぐ空に向かって水晶の固まりが飛び出してくる。それは鋭い放物線を描いて『水晶の天使』の形をとると、目の前に落下してきた。
 拳と片膝をついた姿勢で転移陣とアーリアの間に割り込むと、顔のない頭をゆっくりと上げる。
 サン・エクラたちを倒しきるまでの間、この『水晶の天使』を押さえつけておかねばならない。
 両手からジャキンと剣を出現させた天使がアーリアに斬りかかると、アーリアは手袋を翳し魔術障壁を展開させた。
 防ぎきれるような剣技ではない。障壁が破られると直感したアーリアは素早く横っ飛びになり、障壁を使って相手の剣の力を逆向きにそらす。
 ごろんと転がるアーリアとは別に、天使の背中をあえて棒立ちになった寛治が撃ちまくった。
 ゆっくりと振り向く天使。
 その間に、リカは残ったサン・エクラめがけて突撃した。
「ひっさびさに暴れる役ですね! いきますよー!」
 夢幻の魔剣を握りしめ、横一文字にサン・エクラを切り裂き破壊する。
 その間も別方向からサン・エクラの射撃が浴びせられるが、リカは翳した手に魔術障壁を展開して防御した。
「この遺跡に今宵、紅の花びらを散らせましょう。エルス」
 サン・ラパースたちの集中を確認すると、即座に『常夜ノ楽園』を発動。地面から大量に伸び上がる影の手がサン・ラパースたちを掴み引き釣り込もうと地面へと引っ張る。
 動きをとめ隙だらけとなったサン・ラパースたちへ、味方が攻撃を集中させるその一方で、ヨハンは天使の攻撃を受けるアーリアと寛治たちへと集中していた。
「ま、どう考えても晶竜は後回しだなこりゃ。
 知性のない物理特化って感じがするねぇ、まぁせいぜい血が出る程度って読みだ。
 そういえば吸血衝動がどうとか最近は問題になってるんだっけか。アーリアさんの血ってなんか酔いそうだよね。吸って良い?」
 この中で吸血衝動の問題が仮に出るとしたらルカだけだが、そのルカも進行具合から察するにそこまで酷いようには見えない。
 ヨハンは治癒の魔法を唱え、腕や脚を切りつけられるアーリアの傷口へと意識を向ける。
 白く露出した肌に血が流れるが、それが逆再生されたように血がもどり傷口が塞がっていく。
「それで? この天使は何なの?
 キミ喋れるの?そろそろやめてくれない?
 天使の姿してるヤツってたいがいロクなもんじゃないって僕のゼシュテルセンスが反応してるんだけど、これもひっでぇ生い立ちしてそうだよなぁ」
 ヨハンが想像したのはアドラステイアのイコルと聖獣の関係だ。確かに紅血晶を長くもっていた者の慣れはてだと言われているし、変化は不可逆だというのも似ている。この世は怪物の種だらけだ。
「対話不能か? ならやっちまうぞ。幻想種も助けないといけないのでね!」


 リカの剣がついに最後のサン・エクラを粉砕した。
 一方のアーリアたちはといえば、ヨハンの快復力と彼女たちの防御力をもってしてもギリギリといった様子であった。
 ルカが剣を構え治し、寛治の前へと滑り込む。
「待たせたな」
「もっとゆっくりやって戴いてもよかったのですよ?」
 頭から血を流し、血のついた眼鏡を指で乱暴に拭いながら寛治は笑う。
 ルカは「言ってろ」と呟き天使へと構え直した。
 斬りかかる剣の連撃をグレートソードでギリギリ受ける。
「デートの邪魔されて怒ってんのか? 二刀流なんざ器用なもんだ。それに大した剣技ってのもわかる。だがな……」
 ルカはあえて相手の攻撃を『回避せずに』自らの左腕を貫通させた。
 ぶしゅんと散ったのは、血ではなく赤い薔薇。
「運命をぶち壊す為に鍛えてきた俺の力は防げねえ!!」
 ルカは片手で振りかざした剣を、思い切り天使へと叩きつけた。
 チャンスだ。
 アルトゥライネルは素早く長布を放つと、天使の片腕に巻き付け思い切り引っ張る。
 逆側からは、リカが腕に抱きつくように動きを固定すると反発するように引っ張った。
 動きを抑え込まれた天使に打ち込むべきは、当然正純たちだ。
「連れては行かせません」
 正純の放った矢が天使の胸を貫き、凄まじい回転をかけた葵のミドルシュートが天使の顔面に激突する。
 そこへすかさず寛治が銃撃を浴びせ、アーリアへ目で合図した。駆け寄るヨハンが寛治の治療を始める一方で、アーリアが胸の谷間から蝶の形をした小瓶を取り出した。香水瓶の如きそれのキャップを開くと、美しい酒の香りが広がる。
 それを自らの手のひらに垂らし、舌先でそっとなめとった。
「だめよ、他の人なんて見ちゃいや」
 アーリアのしかけた儀式魔術によって意識を釘付けにされた天使が踏み出そうとした、その時。ぼろぼろと指先から順に崩れていった。
 最後はアーリアに手を伸ばそうとした姿勢のまま、地面へと崩れ落ちる。


「ってことでかんぱぁい!」
 助け出した幻想種たちを小脇に抱えてカーマルーマを出たアーリア一行は、そのまま7578へやってきて打ち上げを始めたのだった。
「ビール、冷えてるよん」
 両手に大ジョッキを持って現れたオリオンがテーブルにどんと置くと、それを寛治は迷わず手に取る。ジョッキごと冷やしてくれていたようで、ガラスの持ち手が氷のように冷たい。
 口の端で微笑み、そして一気に飲み干した。
「しかし……あの場面で転移陣を用いたら、敵の本陣ど真ん中に転送されるのでしょうかねえ」
「さあな。死ぬような目にはあいたくねえし、効果範囲やなんかも不明だ。へたに手を出すべきじゃあねえだろう」
 ルカはそう言ってから、カッと効果線つきで振り返った。
「おう、肉だ肉! あと酒だ! とにかく量をじゃんじゃん持ってきてくれ!」
「はーい!」
 オリオンが次々持ってくる中で、アルトゥライネルは圧(圧!)の強い女達を横目にちびちびやっていた。
「同胞たちは救えた。今回は、それでいい」
 アルトゥライネルの言うとおりだ、とでもいうようにヨハンがこくこくと頷いている。
「ふっなんと僕も20歳になっているのでびいるが飲めるのだ。
 子ども扱いしないでくれた――にっが! ヴォエ!」
 初めてのビールにやられているヨハンである。
 葵が苦笑して甘いお茶を差し出し、自分は米と唐揚げをひたっすら食べていた。
「つかご飯にしても唐揚げにしてもなんか一風変わってんな。これがエスニックってやつか……」
「そゆことそゆこと」
 リカが満足そうに酒とつまみをちびちびやっている。スパイスの利き具合が日本食とのデカい違いだ。
 正純はそんな面々を眺めつつ、ビールジョッキに口をつけた。
「ふぅ、ひと仕事終えたあとのビールは再現性東京の野球場で飲む一杯くらい美味しいですね」
「たとえがマニアックすぎる」
「美味しいでしょう?」
「わかるけども」
「お料理も美味しいからお酒が進みます。この美味しいご飯とお酒、守らねばですね」
「わかるけれども」
 などと、宴の時は過ぎて行く。

 保護した幻想種たちは再びの被害に遭わぬようにと、ラサに常駐する幻想種勢力へと預けられた。彼らは今回のことにもかなり憤っているらしく、命に代えても幻想種たちの安全は守ってくれるという。
 となれば、気になるのは転移陣とその先だ。
「奴らは幻想種を連れ込んで何を企んでるんだろうな……」
 誰かの呟きは、しかし全員の抱く疑問でもある。
 いずれにせよ世界平和とは逆を行く何かであることは間違いない。
 これからも、動きを追っていかなくては……。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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