＜カマルへの道程＞紅の烙印、崩されるべき月の王国よ

オープニング

●月の王国の砂漠にて
「フン……連中が此処を嗅ぎつけたか。犬のような鼻を持っている」
　『吸血鬼（ヴァンピーア）』ベリアは、そう吐き捨てる。
　今回の事件の鍵である紅血晶がラサの市場に出回り始めたのは、つい最近のことだ。
　その邪悪な性質が明らかになっていく中で突如としてネフェルストを襲ったのは竜を模したちぐはぐのパッチワーク生物・晶竜（キレスアッライル）であった。
　晶竜や『吸血鬼』達の襲撃を退けたイレギュラーズ達。市場は嵐でも訪れたかのように荒れ果ててしまったが被害は最低限抑えられたといっていい状態だった。
　事実、吸血鬼ベリアの担当区域にありイレギュラーズが防衛に関わった娼館「女神の前足」も人的被害、建物被害もゼロであったのは記憶に新しい。
　……しかし、ラサ傭兵商会連合は実質的指導者であった『赤犬』ディルク・レイス・エッフェンベルグが行方知らずになった事により、決定権を有する者を一人欠いてしまっている。
　敵の手中に収まるような男ではないが、目撃情報によれば彼は『女王』と呼ばれた娘と姿を消したらしい。
　それはネフェルストを襲った吸血鬼達が口にしていた『月の女王』『紅の女王』と呼ばれた女で間違いは無いだろう。
　紅血晶が本来は何であるか、晶竜が何処からやって来たのか。無数の落とし物を辿り、『匂い』を覚えていた『凶』ハウザー達はとある遺跡へと辿り着く。
　広大な遺跡の名は『古宮カーマルーマ』。嘗ては『夜の祭祀』と呼ばれた死と再生を司る儀式が行なわれていたとされる場所である。
　遺跡内部は『夜の祭祀』が行なわれた形跡と、幾つかの転移陣が存在していた。転移陣の先に広がっていたのは――世にも不可思議な『月の王国』、つまりは敵の本拠地か。
　つまるところ「こうなる」のは必然であったのだ。
　もう被害は充分。ならば次は反撃といくべきであるだろう……！

●砂漠を進め
「ついに反撃の時が来たです」
　【旅するグルメ辞典】チーサ・ナコック (p3n000201)は集まった面々にそう切り出した。
　紅血晶事件から始まった一連の事件は、ついに「月の王国」を見つけ出すに至っていた。
　古宮カーマルーマの転移陣の先、月の王国の砂漠。
　まるでラサの砂漠そのものであり、映し鏡のような風景には美しい王宮と月が存在している。
　太陽は昇らぬ夜しかない空間であるようだが、この空間は『夜の祭祀』によって作られた異空間のようなものであると推測されている。
　王宮には未だ近付くことが出来ないが、砂漠には吸血鬼を始め、様々な敵が存在しているようだ。
「ついに連中の拠点を発見したってことだな」
　『残秋』冬越 弾正（p3p007105）も吸血鬼ベリアとの再戦に燃え、色々と調べていたが……あるいは、その機会が訪れたのかもしれない。
　しかし、進軍には障害がある。
　転移陣に連れ込まれようとする拐かされた幻想種、転移陣から姿を現す偽命体（ムーンチャイルド）達。
　月の王国の砂漠で待ち受ける吸血鬼達。
　遠くに見える王宮へは、未だ届かない。
「連中の中に、吸血鬼ベリアの姿も確認できたです」
　逃げ足の速いベリアのことだ。ここで倒せるかは分からないが、倒せなくても月の王国の王宮へ向かって進むことは出来る。
　さあ、反撃だ……！

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●月の王国へ
「紅血晶をばらまいた元締めがここにいるんだね。ラサを混乱させて、色々なヒトたちの……それも、誰かのためにきれいな宝石を求めたヒトたちの運命を狂わせたなんて許せない！　一歩でも確実に歩を進めて、あの王宮に辿り着いて元締めたちをとっちめないとね！」
　そんな『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル（p3p000649）の声が響く。
　月の王国の砂漠。遠くに美しい王宮の見える場所にアクセルたちは辿り着いていた。
　しかし、まだその王宮に辿り着くには至らない。そうするまでにはまだ解決すべきものが多く、それ故に今此処に立っているのだから。
「反撃って意気込まれても、まあ私は例の血晶の作り手にギャフンと言わせたいだけなんですがね。血のように赤い石と吸血の病、そして吸血鬼……まあ、やる気が起きないかといわれたらNOですよ？　このグラムに付けられた私の霊石（しんぞう）とどっちが綺麗か、わからせたいですから♪　それにしてもとっても私好みのオトコノコ。敵であるのが残念ですねえ？　いひひひ……」
　何やら怪しいことを言うのは『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス（p3p001254）だが、動機はどうであれ今回の戦いに勝とうという意志は健在だ。
「王宮への道のりは険しい物となるだろう。それでも歩みを止める訳にはいかない。俺達が奴らを倒さなければ、晶獣にされた人達の魂も浮かばれないだろう」
　『残秋』冬越 弾正（p3p007105）も遠くに見える王宮を見据え、そう呟く。此処だけではなく、散発的に戦闘が行われている砂漠では他の仲間たちが戦闘を続けている。弾正たちもこれから戦闘に飛びこもうというのだ。嫌が応でも気合が入るというものだ。
「烙印を警戒し過ぎて慎重になっていたけれど、理屈がわかれば過度に避ける必要はなさそうだね。ボクの行動原理は変わらない。さあ、食事の時間だよ」
「あー、確かに最近烙印とかいうちょっとやばそうなものをつけたイレギュラーズもおりますし……何か情報を持って帰れるといいのですが……」
　『頂点捕食者』ロロン・ラプス（p3p007992）と『北辰より来たる母神』水天宮 妙見子（p3p010644）の言う「烙印」については、それを受けた者たちがある程度出てきている。
　警戒すべきものなのは確かだが、心構え１つで随分変わってくるのはロロンの言う通りである。
「防戦一方からついに転じることは喜ばしい、が……敵の拠点だ、気を引き締めよう」
　『騎馬崩し』アルトゥライネル（p3p008166）の言う通り、此処は敵の拠点であり防衛戦のど真ん中でもある。
　気をつけすぎるということはないだろう。
「同胞を脅かし、ラサに混乱を齎す者の顔を拝みに行くその第一歩だからな」
「だな。しかしなるほど月の王国ね。随分と規模がでかくなってきやがったな」
　ギフト「MAD TIME」で人間の姿をとっている『Stargazer』ファニー（p3p010255）もアルトゥライネルへ頷きながら月を見つめる。
「というか、それって本物の月なのか？　あの空に浮いてる？　まさか本物なわけはないと思うが……天体好きとしてはちょっと興味はあるんだよなぁ。あーはいはい、お仕事はちゃんとしますよっと」
「うわ！　王宮遠いですねぇ？！　しかもこのとんでもなくだだっ広い砂漠を抜けなければなんて……ひえ～……持ってくださいよ！　妙見子の足！　……反撃するとはいえ、ここ敵の本拠地ですしあまり油断してはいけませんね」
　月を同じように見ていた妙見子に『夜守の魔女』セレナ・夜月（p3p010688）も「そうね」と真面目な表情で返す。
「此処が月の王国……吸血鬼たちの拠点ね。紅血晶の事件も捨て置けないものだったけれど、今はそれ以上に気がかりな事があるの」
　そう、セレナには１つの目的があった。
「吸血鬼に付けられる、烙印。わたしはそれについて調べなきゃいけない。知らなきゃいけない。その吸血鬼がここに居る……これほどの好機は無いわ」
　その為に踏み込むべき先には、吸血鬼ベリアを含む月の王国の砂漠の迎撃部隊。
「さあ、行くぞ皆……！」
　弾正の号令に合わせ、全員が前進していく……！

●月の王国への道
「さあ、いくよ！」
　アクセルが雲海鯨の歌を振るい、『偽命体（ムーンチャイルド）』ウルフガイの群れへと攻撃していく。
　総数３０にも及ぶウルフガイは砂漠狼の身体に人間の上半身が生えたような不気味な姿をしており、どうやらよく統率されているようで素早く陣形らしきものを組んでいるのが見える。
「手間取りそうだね……予定通りに吸血鬼については情報引き出し班にお任せかな」
　当然、負けるつもりはない。ないが……ウルフガイの爪を回避しながら、アクセルは中々簡単にはいきそうにないことを実感する。
「さぁて、道を開けてもらおうか？　まずはでかい亀が邪魔だな。しかし動きの速いウルフガイどもはもっと邪魔だ。まとめて動きを封じてやるよ」
　そしてそこにファニーの降りしきる二番星が炸裂していく。
「遊び回る星屑たちで身動きを取れなくしてやろう」
　そう、これは晶獣＆偽命体とべリア、それぞれの対応に当たるよう手分けして戦う作戦だ。
　だからこそ弾正は、ファニーたちが開けた道を進み吸血鬼ベリアの下へと進んでいく。
「奴が慎重派である事は以前の戦いから理解しているつもりだ。形勢が悪くなれば、すぐに撤退するだろう。であれば俺の役目は、可能な限りべリアを戦場に縫い留め、烙印の情報を求めている仲間がべリアから情報を引き出す時間を稼ぐ事だ！」
　言いながらも弾正はセレナのことを考える。身内に烙印が刻まれたとなれば気が気でない筈だ。支える為にも、冷静に大局を見ながら行動しようと。そう気合を入れ直す。
「俺だって烙印を恐れていない訳じゃない。しかし……戦わずして掴める『救い』など無いのだと知っている……だから此処に来たぞ、ベリア！」
「またお前か。しつこい奴だ」
　ベリアの生み出したブラッドカッターを受けながら、ブレイズハート・ヒートソウルを弾正は放つ。
「貴様らの信望する女王とやらも大した事はないな。晶獣達に命懸けの戦いを任せ、吸血鬼は逃げてばかり。王宮近くまで踏み込まれても部下の命が惜しいだなんて、腰抜け以外の何だというのだ」
「フフッ」
　ベリアを少しでも押し留めるための弾正の挑発に、ベリアはそう笑う。
「たかが晶獣如き。そんなものが私たちと同じに見えたか？　ましてや我とあのお方と同列に語るなど。不遜も過ぎればジョークとして成立するものだな」
　意外に冷静だ。それとも怒りを通り越し冷静になっているだけなのか。ベリアの表情からでは分からない。分からないが……今撤退する様子がないのは事実。
　そんな中、星霊の御座を励起させたロロンがぬるるんまいあーを発動させていく。
　ロロンの狙いはウルフガイとポワン・トルテュ。
　そう、乱戦になろうと敵味方を識別できるローション性質の分身を大量に生成して敵の行動失敗率を跳ね上げようというのだ。
「亀は一応アンデットだったかな？　如何に固くても不吉漬けになればガードに隙ができるはず……！」
　そう、戦場の中心には巨大リクガメのアンデッドであるポワン・トルテュがいる。
　タフで巨大であるということはそれ自体が武器であり、盾役としても非常に優秀だ。
「ところで血抜きしたら食べても平気かな？　捕食者としては味見したくてしかたないんだよね」
「……どうだろうな」
　アンデッドからまだ抜く血が残っているのかは分からないが、ロロンにそう答えながらアルトゥライネルはシムーンケイジを発動させていく。
「……人や生物の成れの果てばかりで、どうにも気が滅入るな」
　そう、ポワン・トルテュにしろウルフガイにしろ、その全ては成れの果てだ。
　それはこれまで紅血晶を巡る事件で戦ってきたモノたちと何ら変わりはない。
　だからこそアルトゥライネルは思うのだ。
　その魂を解放してやるために。
　元凶に辿り着き、新たな犠牲を生まないために。
　言葉は連ねても自分を騙し切るのは難しい。
　それでも、立ち止まるという選択肢は端から無いのだと。
　そしてそれは仲間たちも同じだろう。
「それにしてもとっても私好みのオトコノコ。敵であるのが残念ですねえ？いひひひ……」
　ベイルをチラリと見ながらそんなことを言っているリカも、ウルフガイを多く巻き込める場所に移動し、チャームを行使していく。
「さぁて、私の誘惑から逃れられるでしょうか？」
　チャーミングなウインクと魔眼で性を問わず相手の精神を引き付ける夢魔の十八番だが、今は相手を怒らせるような効果がある。
「その宝石、もっとステキなピンク色に染めてあげますよ♪」
　見据えるのはポワン・トルテュ。リカはこの戦場の要の１つとして動き回っていく。
「依頼書には美少年と書いてあった。白い髪に赤い瞳。ああ、麗しいな。腹が立つほど美しいな。その月の女王とやら、まさか外見で選んで吸血鬼を増やしてるんじゃないだろうな？　それとも吸血鬼になれば美しくなれるのか？　どっちでもいいが、とりあえず劣等感刺激されるからおまえはここで倒す！」
「自前だアホが」
「き、きさまー！」
　ファニーがベリア相手に劣等感を増やしているのはさておいて、エンピリアルアーマーを付与して回っていた妙見子もポワン・トルテュ相手に名乗り口上を響かせていく。
「我慢比べと行きましょうか！鬼さん……いいえ、亀さんこちらってやつですね！」
　その亀さんであるポワン・トルテュは多芸ではないが、その大きさ故に攻撃は酷く重い。
「これだけ図体がでかいんですからね！　攻撃の一撃一撃が重い重い！」
　妙見子もそう叫ぶが、だからといって引くつもりもない。そして……仲間たちが切り拓いた道を抜け、セレナもベリアと相対していた。
「あなた、すぐに逃げるようだけど。吸血鬼らしいプライドとか無いのかしら？」
「プライド？　そのようなもの、目的の為ならゴミのようなものだろう？」
　蝕ム新月を発動させるセレナに、ベリアはどこ吹く風だ。一番やりにくい相手とすらいえるだろう。
　しかし、挑発が効かずともベリアに色々と問い質す方針に変わりはない。
（前回現れた時は早々に逃げてしまったようだけど、今回はそうはいかないわ）
　そう思うからこそ、逃がすまいという心は高まっていく。
「あの『烙印』って何なの……進行したらどうなってしまうの？」
　言われて、ベリアは少し興味を惹かれたような表情になる。まあ、その単語を知っているという事実が興味を引いたのだろう。
「どうしたら治るのかしら。あんた達吸血鬼を根絶やしにでもすればいい？　……烙印を与えられる者には、何か条件が……理由があるの？」
　言われて……ベリアの表情が非常に楽しげなものに変わっていく。楽しくてたまらないとでも言いたげな、嘲笑するような笑みを浮かべて。
「フ、フハハハハ。条件？　条件だと。そうだな、確かに条件はあるのかもしれないな。しかし、そうだな。それを知っているということは……フフ、ハハハ！」
「わたしの大事な……大事な姉妹も、その烙印を付けられてしまったわ。もしそれが原因で彼女がどうにかなってしまうなら、それは絶対に放っておけないの。だから……教えなさいよ吸血鬼！」
「いいとも。これ以上ないくらいに分かりやすく説明してやろう」
　ベリアはそう言い放つと、一気にセレナとの距離を詰める。そして、その手がセレナに触れて。
「知りたいのであれば、自分も同じになってみることだ。これ以上親切な説明は無いだろう？」
「くっ!?」
　素早く離れたベリアは、周囲をチラリと見るとそのまま反転し走り出していく。
「ま、待ちなさい！」
「待たん！　そこの失敗作どもと違い、我には月の王国を支える義務があるのでな！」
　相変わらずの逃げ足。逃げていくベリアは１度だけ振り返り、セレナへと愉悦の笑みを浮かべる。
「確か……セレナとか呼ばれていたか？　フフ、大事な姉妹とやらと揃いにしてやったこと、礼は要らんぞ」
　そんな趣味の悪いジョークを飛ばしながら逃げていくベリアをそのままに、セリアは自分が烙印を刻まれたことを知る。
　大分怪我は負わせたが、あれではまだ生きているだろう。しかし、それよりも。月の王国の女王に対する嫌悪感が僅かながら薄れていることをセリアは感じていた。いや、むしろ本能が女王を「崇高な者だ」と認識しようとしている、ような……？
　やがて襲ってくる晶獣たちが全て倒れた後……妙見子とリカがセレナへと近づいていく。
「どうですか？　何か聞けましたか？」
「ええ。倒すのは叶わなくとも、何かいいコト教えてくれるかもしれないとは思ってましたが♪」
「……分からない。分からないわ。でも、これは……」
　想像した以上に恐ろしい何かであるかもしれない。そうセレナは、僅かな血への衝動と共に感じていた。
　月の王国は未だ遠く。されど、届く日も近いような……そんな気も、していたのだ。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

あとがき

ご参加ありがとうございました！

※セレナ・夜月（p3p010688）さんは『烙印』状態となりました。（ステータスシートの反映には別途行われます）
※特殊判定『烙印』
　時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
　現時点で判明しているのは、
　・傷口から溢れる血は花弁に変化している
　・涙は水晶に変化する
　・吸血衝動を有する
　・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
　またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています。