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シナリオ詳細

<鉄と血と>堕ちた闘士・ハーコン。或いは、号砲は轟く…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●号砲は轟く
 『麗帝』ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズが敗れ、新皇帝バルナバスが誕生して暫く。
 かくして、決戦の火蓋はついに切って落とされたのだ。

 ところはラド・バウ独立区。
 我関せずと政治不干渉を貫いていたラド・バウにさえ新皇帝の暴虐はいともたやすく押し寄せる。そもそもの話、もはや何者さえも此度の争乱と無関係ではいられないのだ。
 家族が、友が、戦友が、明日には路傍に無残な屍を晒すかもしれない。
 妻と、我が子と、或いは親しい友人と、今日を限りに永久に逢えなくなるかもしれない。
 例えば彼、アルカンタリはこの日、戦友を失った。
 轟音を聞きつけ、彼と戦友は闘技場から誰より先に飛び出したからだ。ラド・バウの仲間たちを、避難して来た市民たちを守るために、彼らは今日まで戦い続けた。
 今日も、明日も、彼らは戦い続けるつもりでいたのである。
 だからこそ、死をも恐れず誰より先に外へ飛び出し……そして、彼らは命を落とした。
 一撃だ。
 黒い鎧を身に纏う身の丈3メートルはあろうかという大男の降る大斧が戦友の頭を叩き潰した。頭部を失い、上半身を潰されて、アルカンタリの友は数秒、その場に立ち尽くしていた。
 首があった場所からは、滝のように紅い血が噴き出している。
 どさり、と重たい音を立てて友が倒れた。
 その遺体に再び斧を叩きつけ、黒い鎧の男はいかにも楽しそうに笑って見せた。
 顔の右半分に火傷痕の残った男だ。
 アルカンタリは、その男を知っていた。その男とアルカンタリは、同じ時期にラド・バウを訪れ、数年の間、共に鍛え、何度も闘技場にて拳を交えた戦友だった。
 決して仲がいいとは呼べなかったが、それでもアルカンタリは男を戦友だと思っていた。
 男の名はハーコンと言う。
「もっと強くなりてぇんだよ」
 そう言って、旅に出るハーコンをアルカンタリは見送った。それが今から数年前の話だ。
 そして今日、アルカンタリとハーコンはラド・バウで再開した。
 再会はほんの一時だ。
「お前、なんで……」
 数年前に別れた時より、ハーコンの体は強く逞しく鍛え上げられたように見える。
 たった数年の旅で、人はこれほどに鍛え上げられるものだろうか。そんな疑問が脳裏を過る。
 そして、何も分からないまま、アルカンタリの頭は潰れた。
 かつての友の手によって、アルカンタリはあっさりと、道端の虫をそうするみたいに斧で叩き潰されたのだ。

●ラド・バウに押し寄せる暗雲
「調べによるとハーコンはどうやら、元・囚人のようっすね。一体どうして囚人なんかに身を落としていたのかは知らないっすけど、どうやら捕らわれている間に違法な薬物の投与と、肉体改造を受けていたことが判明したっす」
 ハーコンは、何らかの目的があってラド・バウ独立区へ訪れたようだ。
 そう告げるイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)の顔色は悪い。目的の分からない敵は怖ろしいのだ。目的が分かれば、対策を打つこともできるが、そうじゃない相手はやりづらいのだ。
 だが、このタイミングで……いざや決戦というタイミングで彼がラド・バウへと訪れたのには、何かの意味があるはずだ。何かの目的があるはずだ。
「何て言うか、正気を失っている風には見えないっすけど……理性的な風にも見えないんっすよね。例えば、暴力性とか残虐性とか、そういうのにブレーキをかけている脳の機能が麻痺しているような」
 ハーコンは強い。
 それは間違いないだろう。十分に主戦力を張れるだけの実力がある。
 けれど、決してハーコンは敵の主力ではない。
「その証拠に、少し離れた位置で『アラクラン』が様子を窺っているみたいなんっすよね」
 アクアランとは、新皇帝に従う暗躍組織の名である。その任務の内容は、無辜なる民や、新皇帝に従わない軍人の粛清や、様々な妨害工作と多岐にわたる。
「ハーコンは何て言うか、意思を持った兵器みたいな扱いなんっすかね。本隊はアクアランの方で、ハーコンは使い潰すのを前提として前線に放り出された感じの」
 そうだとすれば話が通る。
 ハーコンが暴れて、暴れて、暴れ尽くして、ラド・バウの防衛網が崩れかけた瞬間に、アクアランが攻め込んでくるつもりなのだと、イフタフはそう予想した。
「つまり、突っ込んでくるハーコンを相手しながら、隠れて様子を窺っているアクアランの連中も警戒してなきゃいけないってことっすね」
 幸いなことに、ハーコンには遠距離攻撃を行う術が備わっていない。
 大斧による攻撃は侮れないし、【致命】や【滂沱】、【ブレイク】、【飛】といった追加効果も備わっているが、射程は決して広くは無いのだ。
 だが、その身に纏う鎧にはどうやら遠距離攻撃の威力を軽減する性質があるらしい。
「まるで歩く要塞ッすね」
 なんて、そんなことを呟いて。
 イフタフは頭を掻きむしる。
 そうして、ハーコンにどう対処するかを思案しているのだろう。
 それから、やがて……。
「ラド・バウの防衛に当たる闘士や、闘技場へのダメージを抑えたままハーコンを討伐する……たぶん、これでいいんじゃないっすかね」

GMコメント

●ミッション
人員および施設への被害を抑えつつ、ハーコンを討伐すること

●ターゲット
・ハーコン×1
身の丈3メートルに迫る大男。
薬物の投与および肉体改造による影響で、理性を保ったまま暴力や殺戮に対するブレーキが損なわれた状態にある。
顔の右半分に火傷があることと、黒い全身鎧を着こんでいるのが特徴。
鎧には遠距離以上のレンジからの攻撃や、神秘攻撃のダメージを軽減する性質がある。
ハーコンは大斧を武器として扱う。射程は近距離、威力は強大。かつ【致命】や【滂沱】、【ブレイク】、【飛】の効果が付与されている。

・アクアラン×?
鉄帝軍、新皇帝派の勅命を受けて作られた特務派閥。
無辜なる民や、新皇帝に従わない軍人の粛清や、六派閥への妨害工作を行うための組織。
どうやらラド・バウ闘技場に避難している市民や、ラド・バウの闘士たちを狙っているようだ。姿を隠したまま、その機会が訪れるのを待っている。
防衛網に穴が開けば、彼らはラド・バウ独立区へ進行を開始するだろう。ハーコンの相手をするのと同時に、アクアランへの警戒も必要かもしれない。


●フィールド
ラド・バウ独立区。
建物の残骸などによるバリケードが築かれた区画。
バリケードの前には10名ほどの闘士がいて、防衛に当たっている。
ハーコンはバリケードや闘士を狙っているようだ。
ある程度、片付け作業が進んでいるため周囲には障害物や、移動の邪魔になるようなものは無い。
戦闘エリア内において、姿を隠せる場所となるとバリケードの後ろぐらいしかなさそうだ。
なお、アクアランは現在、ハーコンの後方、戦闘エリア外から様子を窺っている。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <鉄と血と>堕ちた闘士・ハーコン。或いは、号砲は轟く…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
セララ(p3p000273)
魔法騎士
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

リプレイ

●堕ちた騎士
 大地が砕けた。
 否、そう錯覚するほどの衝撃が、地面に叩きつけられたのだ。
「次の相手はどいつだ! 誰でも、何人でもいいぞ! 誰か出て来て俺と戦え!」
 吠える男の身の丈は3メートルに迫るだろうか。
 黒い鎧に身を包み、大斧を力任せに振り回す。その度に空気が唸り、刃を濡らす血が散った。男の名はハーコン。かつてラド・バウの闘士であった男である。
「さぁ、出て来ないのならこちらから……あん?」
 ハーコンが大斧を振る手を止めた。
 ラド・バウを守る闘士たちの間を抜けて歩み出たのは、白い髪の女性であった。
「捨て駒のように扱われるとは、酷いコトをするモノですね……早急に、眠らせてあげましょう!」
『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)の眼つきは鋭い。苛立っているのか、殺気や怒りが滲んでいるのだ。ハーコンは大斧を握る手に力を籠め、腰を落とした。
 次いで、ハーコンは視線を左右へ巡らせる。
「輝く魔法とみんなの笑顔! 魔法騎士セララ、参上! ラド・バウの闘士として、この場を通すワケにはいかないよ」
「さて……あなたに何があったのかは知らないけれど、手を出すというのであれば抵抗しないといけないわねぇ」
 右から2人。
『魔法騎士』セララ(p3p000273)と『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)が前へ出た。
 セララは「ラド・バウの闘士」と名乗っていたが、ハーコンは彼女の顔に見覚えがなかった。ハーコンがラド・バウを抜けた後に加入した闘士なのだろう。
 2人とも十分に戦えそうだ。
 体を鍛え、大斧の技の磨いたハーコンであるが、筋肉の量や武器の鋭さだけが強さに直結しているわけでは無いことを知っている。事実、ハーコンの顔を焼いたのは砂漠の国で出会った炎の魔術師だった。
「見た目ほどにひ弱じゃねぇな……あぁ、いい糧になりそうだ」
 相対する敵の数は3……否、4人だ。
 女性が3人に、ゴーレムらしき何かが1体。
 ゴーレム……『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は巨大な体を屈めて、ハーコンが斬り殺した数人の闘士の遺体を拾い集めている。
「何してんだ? 死体が転がってちゃ邪魔ってか?」
「我 フリック。我 フリークライ。我 墓守」
「墓守? 墓守が戦場に何の用事だ? 無駄死にした闘士なんて、放っておけばいいんだ」
 唾を吐き捨てハーコンは告げた。
 遺体の中には、ハーコンの戦友……かつての戦友も含まれているというのに。
「無駄 違ウ。アルカンタリ達 コレマデ奮闘 ソシテ最期ノ戦イモ 無駄 違ウ。何度モ 先鋒務メテクレタカラコソ 護レタ命 稼ゲタ 時間アル」
 集めた遺体を一ヶ所に纏め、上から白い布を被せた。
 それから一輪、肩に生えていた花を根から引き抜くと、遺体の前の地面に植えた。風が吹いて、花弁が揺れる。
「後 任セロ。無念 疑問 晴ラソウ」
 祈りの時間は短い。
 立ち上がったフリークライが、ハーコンの方へ振り返る。
 と、その直後。
 フリークライの頭部に、血濡れた斧が叩きつけられたのだった。

「なーんか同情したくても出来ない微妙な相手だな」
 バリケードの上に座した『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が、頬杖をついて地上を見下ろす。
 それから視線を上へと向ける。
 カイトの頭上には箒に乗った少女が1人。
 ハーコンが、フリークライの頭部に向かって大斧を振り下ろす瞬間を、暗い空から『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)が見下ろしていた。
 闇に紛れて鴉が2羽、セレナの傍を飛んでいる。
「あの大きいのは確かに無視できない脅威でもあるけど、きっと敵からすれば囮のようなものなのね」
「あぁ、使い潰される命に意義があるのかと言われたら俺は御高説垂れるような人間じゃねーが……そーいう影でこそこそやってる人間が一番『潰される』べきなんじゃないかな、と思ったりする訳よ」
「ですね。友との再会が戦場、というのは物語ではよく聞きますが……出て行った理由といい顔の火傷といい、お戻りまでの道程がいささか気になりますね」
 そう言って、『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は建物の影を指さした。
 こそこそと、影の中で動く影がある。
 闇に紛れて近づいて来るような連中だ。後ろ暗いことがあるに違いない。
 やはり、イフタフの予想は正解だ。
「あれか。人を、こうも暴虐に満ちた兵器に仕立て上げる――正に外道か、アラクランよ」
 そう呟いて、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が影の中へ姿を消した。
「待っていろ。今から、文字通りに死ぬ程の応報を喰らわせてやるからな」
 そうして、足音の1つも立てないままに駆け出して言った汰磨羈の背中を、瑠璃は黙って見送った。

●2つの戦場
 にゃぁ、と背後で猫が鳴く。
 アラクランの男は、ちらと背後へ視線を向けた。白い猫が1匹。腰に下げた剣に伸ばしていた右腕から力を抜いて、マスクの下で溜め息を零した。
 闇に紛れているとはいえ。
 闘士たちの意識がハーコンに向いているとはいえ。
 それでもここは戦場だ。
 戦場では油断した者から命を落とす。
 今までそうして何人もの同僚を見送って来た。
 今までそうして何人もの敵を葬って来た。
 いつ、自分が“同じような”目に遭うかもわからない。だから、彼は警戒を怠らない。臆病者ほど長く生きるという事実を知っているからだ。
 けれど、しかし……。
「後方にいれば安全だとでも思ったか? 残念だったな」
 するり、と口を塞がれて、次の瞬間、喉を裂かれた。
 悲鳴を零す暇もなく、男はここで息絶える。
 彼は臆病者だった。
 そして、油断もしなかった。
 決して最前線に出張るような真似もしない。後ろにいれば比較的安全に任務を遂行できると理解していたからだ。
「……なんで?」
「警戒が役に立たないこともあると言うだけの話だ。まぁ……」
 血を吐き、息絶えた男の最後の問いに答えを返し、汰磨羈はその目を閉じさせる。
 暗い場所に遺体が1つ。
 汰磨羈の姿は、再び影の中へと消えた。
「教訓が役に立つ機会は、二度とめぐって来ないがな」
 なんて。
 囁くような言葉だけが暗闇に残る。

 暗い空に魔女がいた。
 箒に乗って地上を見下ろすその魔女は、きっと自分たちの存在に気が付いている。
 アラクランの男は、それに気づいた。
 気づいた以上、排除しなければならない。
 見ればまだ年の若い少女のようだ。
 命を奪うのは気が引けるが、戦場に置いて年齢なんて関係ない。若いから、年寄だから、女だから……戦火の前では全てが無意味だ。
 死にたくないのなら、戦場に出て来るべきではないのだ。
 戦場に出たのなら、死を覚悟するべきだ。
 言い訳めいた独り言。内心で言葉を繰り返し、アラクランはナイフを抜いた。
 手にしたナイフを振りかぶり、高い位置にいるセレナへと狙いを定める。
 音を立てないように腰を低くして……。
「っ……!?」
 ナイフを投げる、その直前……男は手首に痛みを感じた。
 男の手首には針で刺したような傷がある。ナイフを取り落とした男は、けれど悲鳴を飲み込んだ。
 咄嗟に転がり、後ろへ下がる。
 直後、さっきまで男の立っていた位置を無数の雨が“撃ち”抜いた。
 地上から空へと振る雨だ。
 血のように紅く、針のように鋭い。
「っと、勘がいいのな。まぁ、もう遅いが」
 男の背後で声がする。
 地面に腰を落とした男を、カイトが見下ろしているのだ。
「どー考えてもこーいうのは単独相手で終わるような話じゃないってのは目に見えてるからな。ネズミみてーに潜り込もうって算段ならもーちょっと賢くやれよ」
 バイザーの奥の瞳は鋭い。
 パチン、とカイトが指を鳴らした。
 男の真下で魔法陣が展開される。数字で形成された魔法陣が、何を意味するのか。それは男には分からない。
 だが、彼はこの瞬間に死を覚悟した。
 
 暗がりの中、白い猫が空を見上げた。
「……なんだ? 耳が痛い?」
 汰磨羈は猫から人の姿へと戻ると、腰の刀へと手を伸ばす。
 音が聴こえたすぐ後に、アラクランたちが一斉に動く始めたのだ。これまで潜伏していた場所を離脱して、ある者は後方へ、ある者はラド・バウへと前進を始めた。
「これは……何が起きているんだ?」
 隠れているアラクランと狩るのが汰磨羈の仕事である。
 だが、こうも急に動かれては、次の行動に移るまでに幾らかの思考が必要となる。
 思案する汰磨羈のすぐ真上に、箒に乗ったセレナが飛んだ。
「セレナか。何が起きている?」
「連中、急に行動を開始したわ! カイトさんが相手をしていたアラクランが、死ぬ前に笛みたいなものを吹いたの!」
「それでか……どう動けばいい?」
 耳を押さえて汰磨羈が問うた。
「わたしが空で囮になるから! 闘士たちにもそう伝えたから、戻って防衛線を引いて! ひとりも通しちゃいけないわ!」
 そう言い残し、セレナは空高くへと飛び上がる。

 セレナの手には黒紫の魔光。
 箒を傾け、地上へ向かって急降下。
 足を止めたアラクランへと、セレナが魔光を投げつける。
 音もなく、夜闇のような魔光が広がる。
 アラクランは後方へ跳んで魔光を回避。それと同時に投擲された黒いナイフがセレナの腹部に突き刺さる。
「っ……!?」
 空中で、セレナが大きく姿勢を崩した。
「おい! 落ちるな!」
 どこかからカイトが叫ぶ声が聞こえた。
 だが、助けに入る余裕は無い。
 さらに数本のナイフがセレナへと襲い掛かる。体勢を崩したセレナが地面に落下する。その背後へ、駆け込むアラクランが1人。
 セレナが箒を飛ばせるが、回避は間に合わないだろう。
 と、その瞬間。
 セレナとアラクランの間を、黒い影が駆け抜けた。
 逆手に握った短剣を一閃。
 アラクランの喉が裂かれる。
「今のうちに体制を立て直すなり、逃げるなりしてください」
 アラクランを蹴り倒し、瑠璃は何処かへ駆け去っていく。その間にセレナは姿勢を立て直すと、箒を掴んでバリケードの裏へ回り込む。
「ありがとう! あなたはどうするの!?」
「このままハーコンの元へ向かいます。本隊が動き出したことを知らせませんと」
 
 空中に魔光が撃ちあがった。
 セレナの影が夜空を泳ぐ。
「なんだか騒がしくなって来たな」
 空を見上げてハーコンは言った。
 空へ視線を向けながら、ハーコンは背後へ斧を掲げる。
 カン、と硬い音が響いて地面に幾つもの黒い苦無が散らばった。
「ラド・バウの闘士……じゃねぇな」
「背中に目が付いているみたいですね」
 瑠璃は着地し、ハーコンの右方向へと駆け出した。

●ハーコンという男
 暖かな燐光が舞っている。
 両腕を地面に付けたフリークライが、ヴァイスの前へ割り込んだ。
 一撃、フリークライの肩に大斧が突き刺さる。
 斧は、かなりの怪力で叩きつけられたのだろう。軋んだ音を立てて、フリークライの肩から石の欠片が零れ落ちる。
 ハーコンが腕を捻ると、フリークライの肩の傷が広がった。
 身体の軋む音がする。
 音を立てて、ひび割れが広がっていく。
「治療役だろ、お前? それとも壁か? まぁ、どっちみち先に潰しとかねぇとな」
 獣のような笑みを浮かべて、ハーコンは斧に両手を添えた。
「残念。ミスディレクション」
 フリークライが両の拳を地面に突き刺す。
 ハーコンの怪力でも、フリークライの体を動かすことは出来ない。
「ちっ……俺より重たい相手は滅多にいねぇからな」
 やりづらい、とハーコンが舌打ちを零した。
 その、直後。
「油断 大敵」
「あ?」
 タン、と微かな足音がした。
 フリークライの背中を蹴って、ヴァイスが宙へ跳んだのだ。
 その手に持つは儀礼用の短剣だ。
 短剣の刃には、複雑な魔力回路が刻まれている。
「ちょこまかと面倒な手合いだな」
 ハーコンの鎧は遠距離からの攻撃を遮断する。
 だが、決して“無敵の鎧”ではないことをハーコンは十分に理解していた。
 斧から片方の手を離し、フリークライの肩を蹴った。
 そうしながら、ハーコンは背後へ身体を傾けヴァイス目掛けて拳を振るう。
 ヴァイスの剣が手甲の隙間に突き刺さる。
 ハーコンの拳が、ヴァイスの腹部を打ち抜いた。
 骨の軋む音がして、ヴァイスの体が地面を転がる。だが、内臓や骨に大きなダメージを与えたはずだ。
「……軽いな。思ったより飛んだ。内臓ぐらい潰せるはずだったんだがな」
 血を吐くヴァイスを見下ろしながらハーコンは告げる。
 立ち上がるのもやっとといったヴァイスの方へ、大斧を下げて歩み寄る。
「お話は出来なさそうね?」
「してんだろ、お話。闘士の会話ってのは、こういうもんだ」
 大斧を高くへ振りかぶる。
 ヴァイスの頭部を斧で叩き潰すつもりだ。
 けれど、しかし……。
「もうちょっと、大人しくしてくれないかしら……!!」
 ヴァイスの短剣が閃いて、ハーコンの爪先を突き刺した。

 ハーコンの体が右へと揺れた。
 軌道のずれた大斧が、ヴァイスの肩を深く裂く。
 ハーコンは咄嗟に後退すると、大斧を右へ振り抜いた。
 斧の先にはセララとドラマ。2人は剣を眼前に構え、大斧の一撃を受け止めた。
 ハーコンの背に、瑠璃が苦無を投げつける。
 ヴァイスを庇うようにフリークライが動いた。
「まぁ、死にぞこないは後でいいか」
 一閃。
 体ごと回転させるようにして、ハーコンが大斧を振り抜いた。
 セララとドラマが地面を転がる。転がった後に血の痕が残る。
 2人の傷も浅くは無い。
「こっちも死にぞこないか?」
 なんて。
 肩を竦めてハーコンは笑う。
 顔いっぱいに汗を浮かべて、呼吸を荒く乱しながらも、まるで疲れなど感じていないかのように、ハーコンは獣のように笑う。

 セララが吠えた。
 空へ向かって吠えながら、傷ついた体で立ち上がった。
 腹部に負った傷からは、滂沱と鮮血が溢れ出す。
 肩を激しく上下させながら、セララは瞳に戦意を燃やす。
「うるせぇなぁ。吠えりゃ強くなるのか?」
「うるさいのはそっちさ! ボクは吠えれば強くなるんだよ!」
 足取りは重い。
 1歩、前へ進む度にセララの口から血が溢れた。
 そんなセララを庇うためか。闘士たちの何人かが、戦場へ向かって走り出す。
 だが、そんな闘士たちをセララが止めた。
「待って! 動ける人は加勢よりも避難誘導をお願い! 誰もいないほうがボク達は本気を出せるんだ!」
 斧を肩から降ろしながら、ハーコンは笑う。
「なんでだよ? 数がいた方がいいだろ? 俺の獲物も増えるしよ」
 ハーコンの顔色は悪い。
 体力が限界に近いのだ。だというのに、本人は疲労を自覚していない風にも見える。
「暴力性のままに周囲に害を与えているだけ……というわけでもなさそうですが」
 ハーコンには確かな理性がある。
 闇雲に破壊を繰り返すだけ……そんな狂暴性は無い。あくまでクレバーに、けれど明確に殺意を持って、彼は暴力を行使している。
 そんな彼が、不気味なようにも、哀れなようにもドラマには思えた。
「ハーコンさん、貴方は何故こんなことをするの?」
 セララが問うた。
「強くなるには、強い相手と戦うのが一番だろ?」
「キミも闘士だったならラドバウへの攻撃を止めて!」
「お嬢ちゃんも闘士なら、実力で止めてみせればいいじゃねぇかよ」
 話にならない。
 会話は成立しているが、まったくもって話しにならない。
「無理ですね。もう……終わらせましょう」
 蒼い剣を両手に構え、ドラマが姿勢を低くする。
 歯を食いしばって、セララが地面を蹴りつけた。

 疾走。
 左右に展開したセララとドラマが、僅かに時間をずらして剣を縦横に振るう。
 ハーコンは斧でセララの剣を受け止めた。
 セララは盾でハーコンの肘を殴りつける。
「っ……なんだ?」
 ハーコンの手から力が抜ける。
 斧を振り下ろす力が、ほんの少しだけ弱まった。
 セララの剣で手首を切り裂かれながら、ハーコンがよろめく。よろめきながら左腕を振るう。裏拳がドラマの側頭部を打った。
 だが、勢いが弱い。
 不安定な姿勢ゆえか。それとも、既に見かけほどには体力が残っていないのか。
 金属鎧で頭部を打たれ、側頭部の皮膚が抉れた。ともすると、頭蓋骨に罅程度は入ったかもしれない。
 顔の半分を血で濡らしながら、ドラマは前へ踏み込んだ。
 短い剣でハーコンの肘を突きさした。
 長い剣はハーコンの首に突き立てた。
「せめて死に往く貴方に、光あれ」
 それで終わり。
 その、はずだった。

「痛くねぇ」
 一閃。
 大斧がドラマの腹部を斬り裂いた。
 首の傷が広がって、ハーコンは滂沱と血を吐いた。腐ったような臭いのする黒い血だ。
「痛くねぇ……けど、なんだ。眠いな。眠い? いつ以来だ……眠いなんて」
 ハーコンがよろめく。
 その手から斧が落ちた。
「……あぁ、眠ったら、また嫌な夢を見ちまう。死にかけた時のこととか、いろいろ……」
「……夢なんて、もう見ませんよ」
 ドラマは告げた。
 ハーコンの前にセララが立った。
 そうして、振り抜かれた剣がハーコンの喉を斬り裂いた。
「そっか。じゃあ、少し……」
 なんて。
 掠れた声が夜闇に消える。

「まだ終わっていないわ」
 そう言ったのはヴァイスである。
 俯いたまま、ドラマは答えた。
「えぇ。……今は少々、機嫌が悪いです。全て、狩り尽くしてしまって構いませんね?」

成否

成功

MVP

セララ(p3p000273)
魔法騎士

状態異常

ドラマ・ゲツク(p3p000172)[重傷]
蒼剣の弟子
セララ(p3p000273)[重傷]
魔法騎士
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)[重傷]
虹色
フリークライ(p3p008595)[重傷]
水月花の墓守
セレナ・夜月(p3p010688)[重傷]
夜守の魔女

あとがき

お疲れさまでした。
ハーコンの討伐は完了しました。
アラクランの半数ほどは討伐、残りは撤退していきました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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