シナリオ詳細
<鉄と血と>魔種を以て陽動と為す
オープニング
●陽動の指示
「……陽動、ですか?」
「うむ。せっかく魔種がこちらにいるのだからな。大いに目立って、敵の目を引き付けて欲しいのだ」
新皇帝バルナバス即位に伴う鉄帝の混乱も、もうすぐ収束しようとしている。帝都スチールグラードでの決戦は、間もなくだ。
そんな中、足代 理人(あじろ りひと)は革命派の上層部の一人から、革命派に帰順してきた魔種、リアオ・グアンと共に地上での陽動を行うよう指示を受けていた。
魔種の戦闘力は絶大であり、リアオを如何使うかは上層部の中で議論になった。出来ることならば、可能な限り有効に使いたい。その結論は、地下からスチールグラードに進む者達のため、地上で理人と共に強敵の目を引き付ける囮と決まった。
「戦力として、革命軍兵士百、それからイレギュラーズを付ける。君の知り合いにも、是非参加してもらいなさい」
「わかりました。では、そう伝えてきます」
理人は、深く礼をして上層部メンバーの前から辞した。
「……と、言うわけです」
朔(p3p009861)とリアオの前で、理人は帝都決戦に向けて受けた指示を付けた。
「何処か、納得行ってなさそうだな?」
「皆と一緒に、帝都に乗り込みたかったですからね」
指示に対して、反抗はしないが不満と言った様子の理人に、朔が問うた。理人が、口惜しげにその問いに答える。
「ワハハハハハハ! 理人、貴公はまだまだ若いな!」
そんな理人の肩をバンバンと叩きながら、リアオは大笑いした。
「陽動、結構! 名誉なことではないか!」
陽動を任されるのは、それだけの実力があると見なされているからだとリアオは理人に説いた。敵に対して脅威と判断されなければ、陽動に出たところで無視されるか適当な戦力を当てられて終わってしまう。敵にとって無視できず、強者を当てねばならないと判断されなければ、陽動を行う意味が無い。
「それにな、陽動をせよとは言われたが、そのまま帝都に乗り込んではならぬとは言われておらぬのであろう?」
ニヤリ、とリアオが悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「なるほど……確かに、そうですね!」
理人も、リアオの笑みと言葉の意味を理解して破顔する。
(ホント、この二人は気が合うよなぁ……)
リアオの帰順以降、朔は理人とリアオと三人で過ごすことが増えていた。その中で、意気投合する理人とリアオを横から眺める形になることが多くなっている。そうした時間は、朔にとっても悪くないものとなっていた。
「さあ! 存分に暴れて目立ってやろうではないか!」
「はい! そうですね!」
ただ、そろそろ釘を刺しておく必要はあるだろうか。
「二人とも、まだ本調子じゃねぇんだから、無茶するんじゃねぇぞ」
ますます盛り上がる理人とリアオに、朔はそう言った。
●陽動は成功せり
「随分と、手酷くやられたものだな」
グロース師団の拠点。傷だらけの新皇帝派軍人の元を、別の新皇帝派軍人が訪れていた。
「……何の、用だ?」
傷だらけの新皇帝派軍人、ツアオ・トンは不機嫌そうに、訪問してきた相手に問うた。ツアオは、師団から離反したリアオを追って、リアオを受け入れたイレギュラーズと交戦し負傷していた。その傷はなかなかに深く、ツアオの再生能力を以てしても癒えきっていない。
「アンタの隊に入ることになったから、その挨拶だ。それと、命令をかねてな。
ルー・ルー。これよりトン隊の所属となる。よろしく頼むぜ」
「おお、貴様がルー・ルーか。これは心強い」
ツアオは、ルーの噂を聞いたことがある。グロース師団の中でも、相当の強者と言うことだ。おそらく純粋な戦闘力だけなら自分を凌駕するだろうとツアオは見ており、実際にその推測は当たっていた。
「それで、命令とは?」
「おう、そうだ。革命派の部隊が、スチールグラードに向かっている。
その中には、リアオもいるそうだ。それを、食い止めて来いとよ」
「リアオの奴もか……わかった、出るとしよう。貴様がいれば、負けはあるまい」
ルーから命令を伝えられたツアオは、部隊を出撃させる準備を整えた。
――朔、理人、リアオを擁する革命派の部隊は、スチールグラードに至る少し前の雪原で、迎撃に出てきたツアオ、ルーの率いるグロース師団の隊と遭遇。グロース師団の中でも相当の強者であるルーを含むツアオの隊を迎撃に出させた時点で、陽動は成功したと言えた。
- <鉄と血と>魔種を以て陽動と為すLv:30以上完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年03月21日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●開戦前
(協力してくれる魔種も、存在しているのね……。
それを囮に……陽動に使うって言うのは、ちょっと複雑にも思えちゃうけど)
青龍偃月刀を手に敵を見据える魔種、リアオ・グアンを見やりながら、『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は考え込んだ。
リアオは魔種でありながらグロース師団から離反し、革命派に帰順している。革命派はこの魔種リアオを、地下道から帝都スチールグラードへと進行する部隊から目を逸らすための陽動に用いた。
(……彼からは、今まで遭ったことある魔種のような性根の悪さは感じないわ。
イレギュラーズとして、いずれは討たないといけないのでしょうけど……今は頼らせて貰うわね)
そしてセレナは、視線をリアオから、対峙しているグロース師団へと向ける。
「――別に、全部倒しちゃってもいいんでしょう?」
自信満々な様子で、セレナは言い放った。
(魔種との共同戦線……こういう状況に陥ると、可能性を信じたくなってしまいますよね)
『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は、それがあり得ない可能性だとわかっている。何が如何あっても、魔種が存在するだけで世界を滅びに導くことは変えようのない事実だ。
(今だけの、共同戦線としましょう……そしていつか、貴方から血を奪う約束を)
そうマリエッタは、内心で誓う。だが一方で、そんなことをしなくてもすむようにと願ってしまうのも、マリエッタの本心だ。
それにしても、とマリエッタは自嘲を込めた笑みを浮かべた。魔女として生き、血に濡れた罪ばかりを重ねていながら、こんな願いを抱こうとは。
(……魔種がこちらの味方をする、と云うのは奇妙な気分、ですね)
複雑そうな表情を、『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は浮かべた。本来、魔種とイレギュラーズは不倶戴天の存在だ。それが、こうして肩を並べて共に戦っているのだ。
(ですが、今それにとやかく言うコトで、今回の陽動で生まれた好機を潰すのは得策ではないです)
ドラマの中に、割り切れぬものが無いわけではない。だが、状況を弁える分別は、ドラマにはある。
「役に立って貰いますよ!」
「おう、任せておけ!」
パァン! とドラマはリアオの背を掌で叩く。リアオは、ニッと微笑みながらドラマに返した。
(なるほど、ここまでは無事に完遂できていると)
革命派の陽動に対し、グロース師団は魔種二人を将とする部隊を繰り出してきた。魔種を二人もこの場に誘い出せたのだから、現時点では陽動は成功していると言えるのだろう。『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は、この陽動を考えた者の知略に感心していた。
「では、私達も『役目』を果たすこととしましょうか!」
「そうですわね。地下の動きを勘付かれるわけには行きませんものね。
私達を本隊と勘違いしてしまうくらいに派手に暴れて、敵の目を引き付けましょう!」
アリアの声に、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が意気込みながら応じる。あとは、魔種とグロース師団をここに釘付けにして、撃破するまでだ。
「人の上に立つ者として――そして、鉄帝のためにも――戦に、勝たねばらないでありますな」
『キミと、手を繋ぐ』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)が、後ろに続く革命派兵士に、そして対峙するグロース師団に目をやってから、独り言ちた。自身の立場、鉄帝の未来、その二つの理由から、ハイデマリーはこの戦闘に敗れるわけにはいかない。
(理人もリアオも元気なのは大いに結構……なんだけど)
『旅人と魔種の三重奏』朔(p3p009861)は、リアオと足代 理人の二人を見やりつつ、苦笑いを浮かべた。
理人は朔が混沌に転移する以前からの知己で、リアオ率いるグロース師団が革命派の難民キャンプを襲撃せんとした際、呼び声の影響で狂戦士化した結果ではあるが一人リアオらに立ち向かった。それが切っ掛けで朔は理人と再会し、後にリアオがグロース師団から離反することになった。
リアオも理人も戦闘狂な所があり、魔種二人を含むグロース師団の部隊を前にしても、意気揚々としている。だが、リアオはグロース師団からの離反時に、理人はリアオに立ち向かった時に、それぞれ浅からぬ傷を受けており未だ本調子とは言えない。
敵には魔種が二人いる以上、余裕があるのならばリアオと理人には存分に暴れてほしいと朔は考えている。だが、無茶はしないでもらいたいところだった。
「――さて、と」
二人から、グロース師団へと朔は視線を移した。リアオが言うには、陽動は実力を買われたからだとのことだ。ならば。
「しっかりその務めを果たさないとな」
朔もまた、己の身体に戦意を漲らせた。
「父と子と聖霊の御名によって――amen」
『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)は、敬虔で優しいシスターを装いながら、革命派兵士達を鼓舞して回っていた。
「ええ、ええ、この戦いは神に祝福されています……」
そう説いて回るライだったが、その振る舞いには真に敬虔なシスターは持ち得ない妖しさがあった。
「皆さんとの『その後』も、楽しみですね……ふふ♪」
その夜の華を思わせる微笑みは、兵士達の欲望に火を着けた。良い女が「その後」を匂わせたなら、それを期待して格好を付け、生き残ろうとするのが男の性だ。かくして、兵士達の士気は動機が不純ながらも高まった。
――なお、ライと兵士の「その後」については、想像に任せたい。
●まず敵兵に注力
(全く、何とも負担の大きい相手の担当になってしまったモノですが……)
そう思いながらも、ドラマはルーの周囲の空気を魔力で微振動させ、ルーの感情の制御を失わせようとした。だが、ルーにその微振動を歯牙にかける様子はない。
「貴方の相手は、私です! ――私のような少女を前に、逃げ出すのですか?」
やむなく、ドラマはルーの前へと立ちはだかった。
「邪魔だ! どうやら、命が要らないと見える。ならば、貴様から殺してやろう!」
ルーは、戟を振るいドラマを攻撃するが、ドラマは紙一重で回避した。だが、ドラマの回避の技量を以てしてもルーの攻撃は楽に避けられるとは言い難い。
二人いる敵の魔種のうち、ルーの方が実力は上だ。だが。
(私は負けない剣の信奉者、ですから……何とか、保たせてみせましょう!)
不屈の意志を込めて、ドラマはルーを見据えた。
理人が、義足から衝撃波を放ちもう一人の魔種ツアオ・トンを攻撃する。同時に、リアオがツアオとの距離を詰め、青龍偃月刀で斬りかかった。
「リアオ、ツアオの抑えは任せたぜ!」
そうリアオに声をかけている間に、朔は敵が密集していて味方のいない射線を確保。
「個人に怨みはないが、そちらについた以上は負けられねえ。悪いが倒れてもらうぜ!」
朔の構えた白銀のライフルから放たれた断罪の銃弾が、敵兵達を次々と貫き、傷口から血を流させる。
(この魔力の圧に、耐えきれますか?)
「うぬ……!?」
マリエッタは、『死血の呪印』から生み出した魔力を、ルーに叩き付けた。その魔力は、禍の爪牙となってルーに纏わり付く様な圧をかける。この圧によって、ルーの持つ状態異常への耐性は機能しなくなった。
「我こそは『金獅子』ヴァイセンブルクが末娘。ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク! さぁ、立ち上がれ!
――ここで我々が敗れれば、その後の被害を被るのは、貴殿らの家族・友人であります!
気概を見せよ! 意地を見せよ! 意気を見せよ! 金色の獅子の名のもとに!!!
我々に一点の曇りなし! 我々の正義をもって奴らの正義を崩して見せようぞ!」
「うおおおおおおっ!」
敢えて高度を上げて飛行することで、ハイデマリーは自身の姿をよく視認できるようにしながら叫んだ。その檄は、既にライによって高められている革命派兵士達の士気を最高潮にまで至らせる。
さらにハイデマリーは、鋼の雨を敵兵達の上から降らせていく。次々と襲い来る鋼の雨に、敵兵達は傷を負っていった。
「皆さんは、我々が倒しきれなかった相手を無力化するようにしてください!」
「敵の兵士一人につき、必ず複数人で当たって下さいまし」
士気が高まりきった革命派兵士達を実際に指揮するのは、アリアとヴァレーリヤの仕事だ。射撃戦を得意とする者をアリアが、白兵戦を得意とする者をヴァレーリヤが指揮するという分担になっている。アリアとヴァレーリヤは、それぞれ自身が指揮する兵士達に指示を出した。
同時に、アリアが敵兵達の周囲に揺蕩う根源たる力を穢れた泥に変え、その運命を漆黒に塗りつぶす。何が起こったかわからないままに苦悶する敵兵達に、アリアの率いる兵士達が射撃し追撃する。アリアと兵士達の攻撃を受けた敵兵のうち、朔の断罪の銃弾とハイデマリーの鋼の雨を共に受けた者が力尽きた。
「主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。
毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に」
ヴァレーリヤは聖句を詠唱しながら敵兵達へと駆け寄り、メイス『天の王に捧ぐ凱歌』を突き出して衝撃波を発生させ、敵兵達を吹き飛ばす。それに兵士達も続き、さらに何人かの敵兵が倒れた。
「ふふ、わたくし、こんな姿をしておりますけれど、実は――」
ライはヴァレーリヤに続いた兵士達の盾になるかのようにその前に出ると、敵兵達に向けてこっそりと隠している本性を見せた。その本性を見せられた敵兵達は、ライを攻撃することが正義だと言う感覚に囚われた。正義の下で暴力を振るう悦楽を想像し、敵兵達は薄ら笑いを浮かべる。
一方、ライに庇われた形になった兵士達は、そんな敵兵達にライをやらせまいと奮い立つ。
「――わたしが、相手よ! かかってきなさい!」
箒に跨がったセレナは、魔種を迂回する形で敵兵達の後方へと飛行すると、敵兵達の敵意を煽り立てて自分へと向けさせた。素性が良いとは言えない敵兵達の敵意はセレナにゾッとさせるものを感じさせたが、だからと言ってセレナに退く気は無かった。
●迎撃部隊、壊滅
ライやセレナに攻撃を誘引された敵兵達は、ハイデマリー、ヴァレーリヤ、アリア、朔と革命派兵士達によって、程なくして壊滅した。残りの敵が魔種のみとなった時点で、イレギュラーズ達は兵士達を退避させた。あとは、イレギュラーズがやるべき仕事だ。それに、せっかくここまで生き残れたのならば、無事に故郷に帰したいと考えるのは当然だろう。
敵兵達と戦っていた六人がツアオとの戦闘に参戦したことから、ツアオも程なくして斃れた。リアオとツアオは、魔種としての実力はほぼ拮抗しており、互いに受けた傷が癒えきっていないことも共通していた。一対一でほぼ対等であるところに理人が参戦し、さらに六人も参戦したとなれば、ツアオが耐えきれる道理はない。
その間、ドラマはマリエッタの援護を受けつつ、ルーの敵意を自らに向けさせ続けることに成功していた。そこにツアオを撃破した八人が加わり十対一とはなったが、魔種であるリアオを含めた十人を以てしても、ルーは難敵だった。
マリエッタ、アリア、そして自身の回復を以てしても、ドラマが重傷を負わされた。さらに、ドラマのフォローに入ったセレナの結界は大きくひび割れ、ライもまた深手を負う。もっとも、ライについては半ばそうなるよう狙った所はあったが。
一方、ルーの方も流石に魔種を含む十人を相手にしては、生命力を削り取られて傷が深くなっていくばかりとなった。
「うおおおおっ!」
傷だらけになり、全身を紅く染めたルーが、残る力を振り絞って戟を振り回した。だが、ドラマはこれを難なく回避する。
「――そろそろ、終わりにしますよ!」
もうルーは長くは無いと見たドラマが、一気に勝負を決めに出た。ドラマの放つ夢幻の色彩が、四度もルーを包み込む。
「ぐおおおおっ!」
その色彩の中でさらに傷を刻まれたルーが、たまらず苦悶の叫びを上げる。
「私も続くよ! ――これで!」
「うぐああっ!」
アリアは、掌の一点にあらん限りの魔力を集中させる。そして、ルーの背中に掌打の要領で魔力を叩き付けた。その威力に、ルーは背を仰け反らせてガクガクと身体を痙攣させる。
「あなたの血も、生命も、頂きます」
「ぬうううっ!」
ルーが体勢を立て直そうとするより前に、瞳を金色に輝かせたマリエッタの、血によって創り出された無数の武具が放たれた。血の武具は、瞬く間にルーの周囲をずらりと取り囲んだかと思うと、一斉にルーへと襲い掛かかる。ルーの身体は、突き立てられた血の武具によってハリネズミのようになった。
「あはっ……あはは♪ 痛くてムカつく……けど、芋虫のように地面に横たわるのも、もうすぐだなぁ?」
「ぐっ、こいつ……っ!」
深手を負っていながらも高揚感のままに笑うライに、ルーは狂気を感じていた。そのルーの心臓を狙い、ライは魔力で創り出した五十口径の弾丸を放つ。ライの受けた傷が威力に反映された弾丸は、ルーの胸部にその直径よりも大きな穴を穿ち、鮮血を噴き出させた。
「斃れなさい!」
セレナは、自身を守る結界を刃の形に凝縮して手に取った。そして、ルーに斬りかかる。ライと同様に受けた傷が威力に反映されるセレナの、全てを阻む結界からなる剣は、回避しようとしたルーの肩口から下を、ザックリと深く斬り裂いた。よろけたルーは、戟の柄を杖代わりにすることで身体を支えた。
「主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え」
天の王に捧ぐ凱歌を構えながら、ヴァレーリヤは聖句を唱えた。たちまち、吹き上がる炎が、天の王に捧ぐ凱歌を包む。そしてヴァレーリヤは、天の王に捧ぐ凱歌をルーに向けてブン! と振った。炎の濁流が、ルーを押し流そうとするかのように迫る。
「ぐああああっ!」
炎にその身を焼かれたルーが、慌てて炎を消し止めにかかる。
「隙あり、であります」
そのルーを、ハイデマリーが狙撃した。白銀のライフルから放たれた銃弾が、ルーの頭部に突き刺さる。
「ぐおっ……」
銃弾を受けたルーの頭部が、ぐらぐらと不安定に揺れる。それでも、何とかもう一度戟を振るおうとするルーだった、が。
「朔さん、リアオさん、いいですね?」
「ああ、任せておけ」
「うむ。これで、終わらせよう」
理人が、朔とリアオの顔を見ながら問う。朔もリアオも、力強く頷き返す。
それを見た理人が、義足から衝撃波を発生させ、ルーの頭部へと放った。同時に、リアオも青龍偃月刀を振るい、斬撃波を飛ばす。そして、朔も白銀のライフルを構え、一弾一殺を叶える魔弾を撃った。
衝撃波と斬撃波と魔弾は、同時にルーの頭部に命中。三人の攻撃を一度に頭部に受けたルーの身体は、ぐらり、と後ろに倒れ、そのまま動かなくなった。
自分達の側にも魔種がいたとは言え、魔種二人を相手にしての戦闘は、イレギュラーズに多大な損耗を強いていた。そのため、あわよくばスチールグラードまで進撃するつもりだった一行は、進撃を止めて後退した。本命たる地下道からの部隊が、上手くスチールグラードへ乗り込めていることを願いながら。
その途上、リアオからの視線を感じた朔は、リアオの方を見た。リアオは既に理人の方へと視線を移していたため、リアオと目が逢うことはなかった。
理人を見るリアオは、穏やかな笑みを浮かべている。だが、朔はその笑顔に、何故か言いようもなく胸がざわめくのを感じていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍により、迎撃に出てきたグロース師団はツアオやルーともども撃破されました。
MVPは、ルーからの攻撃を一身に受け続け、耐え続けたドラマさんにお贈りします。
それでは、お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。
今回は鉄帝編クライマックス、<鉄と血と>のシナリオをお送りします。
理人、ツアオと共に、地下道を進む革命派を援護するべく陽動として地上で暴れて下さい。
【概略】
●成功条件
ツアオの部隊の撃退
●失敗条件
革命軍兵士が50人以上戦闘不能となる
●【注意】 魔種との共闘について
このシナリオは、『<天牢雪獄>魔将の離反』で革命派に帰順した魔種リアオと共闘するシナリオです。
そのことを予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
帝都スチールグラード付近の雪原。時間は昼間、天候は晴天。
足下が雪であることについては、ペナルティーは受けないものとします。
逆に、飛行状態など足場の影響を受けない状態だとか、プレイングで雪への対策をしているなどあれば、若干プラスの修正を入れて判定します。
●初期配置
ツアオとルーは、グロース師団兵らの最前で二人一緒にいます。
イレギュラーズ側の配置は、ツアオとルーの正面かつ最低40メートル以上離れていれば自由とします。
【敵】
●ツアオ・トン ✕1
グロース師団の部隊長です。憤怒の魔種。
細面の壮年で身体も軍人にしては細い方ですが、その体格には似合わぬ巨大なソードアックスを装備しています。
かつてはリアオの直属の上司で、『<天牢雪獄>魔将の離反』で離反したリアオを追討しようとしましたが、退けられました。その時のダメージは、未だ癒えきっていません。
能力傾向としては、いわゆるパワー型。一撃が重く、守りが堅く、非常にタフなタイプです。
・攻撃能力など
ソードアックス 物至範
ソードモード 【変幻】【邪道】【鬼道】【出血】【流血】
アックスモード 【弱点】【邪道】【鬼道】【出血】【流血】【失血】
大剣と大斧を変形させて切り替えられる武器です。変形には行動は消費しません。
ソードモードが命中重視、アックスモードが威力重視の運用となります。
幻影兵の牌 神/至~超/域 【多重影】【変幻】【スプラッシュ】【邪道】【鬼道】【乱れ】【崩れ】【体勢不利】【崩落】
手にしている牌から、多数の幻影兵を召喚して敵を攻撃させます。
再生能力
【怒り】無効
【封殺】無効
BS無効
ルー・ルー
ツアオを援護させるべく派遣されてきた将です。やはり憤怒の魔種。
筋骨隆々としたとした体格をしており、ツアオ同様のパワー型と想定されます。
戦闘力だけならば、ツアオよりも上を行きます。
・攻撃能力など
戟 物至範 【変幻】【弱点】【鬼道】【出血】【流血】【失血】
衝撃波 物遠範 【変幻】【邪道】【鬼道】【出血】【流血】【失血】
大喝 物遠域 【無】【災厄】【鬼道】【怒り】【恍惚】【重圧】
再生能力
【封殺】無効
BS無効
●グロース師団兵、釈放囚人 ✕各50
能力はピンキリですが、攻撃力、防御技術、生命力が高く、回避、反応は低い傾向にあります。
・攻撃能力など
剣 物至単 【出血】
銃 物遠単
【味方】
●足代 理人 ✕1
朔さんの関係者です。朔さんとは元の世界で交流があり、朔さんより先に混沌に来ました。
基本的な戦闘能力は高い方だとは言えますが、まだ本調子でないため無理の利かない部分があります。
義足による足技を使うことが多く、遠近問わず攻撃可能です。
理人の詳細については、以下の設定委託をご覧頂ければと思います。
『解き放たれし、身体と闇』
https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/4011
●リアオ・グアン ✕1
理人と共に戦うために、『<天牢雪獄>魔将の離反』で革命派に帰順した、憤怒の魔種です。
憤怒の魔種でありながら、感情をコントロールできる冷静な武人肌です。
筋骨隆々の体格の良い男で、顎に流れるような顎髭を生やしています。手には青龍偃月刀を持っており、鉄帝軍人でありながら何処かいわゆる中華風の武将と言った態をしています。
一撃の威力が高く、本来は生命力も魔種相応に高いのですが、『<天牢雪獄>魔将の離反』で受けた傷はまだ癒えきっていません。中華風の鎧は纏っていますが、それにしては動きは機敏で回避が低いと言うこともなく、また青龍偃月刀を攻防一体で使いこなすので、防御技術も高くなっています。
遠近問わず、攻撃可能です。
●革命軍兵士 ✕100
革命派の旗に集まってきた、難民達一般人が蜂起した軍の兵士達です。
元々一般人であるため、基本的に戦力はそれほど高くはありません。
イレギュラーズの誰か、もしくはリアオに指揮させることが出来ます。
誰がどう指揮するかによって、戦力が変わってきます。
剣と銃で武装しています。
【その他】
●サポート参加について
今回、サポート参加を可としています。
シナリオ趣旨・公序良俗等に合致するサポート参加者のみが描写対象となります。
極力の描写を努めますが、条件を満たしている場合でも、サポート参加者が非常に多人数になった場合、描写対象から除外される場合があります。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
●リアオ関連シナリオ(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
『<革命の聖女像>鮮血の狂戦士』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8564
『<クリスタル・ヴァイス>絶望の縦深陣』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9044
『<天牢雪獄>魔将の離反』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9166
それでは、皆さんのご参加をお待ちしています。
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