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シナリオ詳細

<蠢く蠍>燃えて逝け偽りの幸福よ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ここは港町ローリンローリン
 にある、町の警備隊の地下牢である。
 日頃は酔っ払いだの麻薬患者だのをおとなしくなるまで突っ込んでおくところだが、その一角の独房に、場へそぐわぬ覇気を放つ隻眼の男がいた。もはや栄華はとうにすぎているだろう老齢だ。だがその精神までは老いていなかった。
 名をブルーフという。
スリたちから金を巻き上げる小悪党だったが、先日イレギュラーズに成敗され、牢に入った。
 その晩、彼はいつものようによっぱらいのどら声を聞きながら薄い毛布にくるまって眠りにつこうとしていた。だが、これが虫の知らせというやつか。神経の何処かがひっかかれた気がしてブルーフは体を起こした。足音、しかも複数だ。それが高速で迫ってくる。侵入者だ。
 侵入者たちは慣れた手付きで牢の中の人間を銃殺してまわり、最後にブルーフの独房へ持てる限りの弾薬をつっこんだ。まるで花火のように、夜の底が明るくなる。だがそれは悪意と殺戮の炎だ。
「撃ち方止め」
 隊長らしい男がそう言うと、身なりも装備もバラバラな侵入者たちが、統率の取れた兵隊のように一斉に攻撃をやめた。感心したような口笛が聞こえる。
「やれやれ、牢屋の中なら安全と踏んでたんだが」
「なにっ、ブルーフ! 生きていたのか!」
 隊長が陳腐なセリフを吐いている間に、天井へ張り付いて難を逃れていたブルーフは飛び蹴りを鉄格子にかました。
「感謝するぜぇ、錠前をぶっ壊してくれてよぉ!」
 ぼろぼろになった鉄格子に巻き込まれて体勢を崩す男達。
「ひるむなおまえら! 撃ち方はじめ!」
 だが侵入者たちが攻撃を再開する頃には、ブルーフは死者にまみれた地下牢を抜け出し、夜の街へ姿をくらましたのだった。


「で、逃げ込んだ先がローレットだった、と」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は夜中にやってきた隻眼の翁をながめた。古びた着衣の上に、長いマフラーを巻いている。
「仕事の匂いがするね」
「話の早いアンチャンで助かるぜ」
 ブルーフだと簡単に自己紹介を済ませると、翁はこう切り出した。
「きもちよくなる薬って知ってるか?」
「……まあ、仕事柄」
「あれには何種類かあるんだが、そのうちのひとつがローリンローリンの郊外にある秘密基地で作られている。もともとはチンピラたちが小銭稼ぎでやっていたしょぼい工場だったんだが、ここ最近基地が大幅に建て増しされてな。大量生産をしているそうだ。末端価格でとんでもない価値になるだろうな」
「なんとなくわかるけど、その工場をたたけと?」
「アンチャン、ほんっとーに話が早いな」
 ブルーフはくつくつと笑った。俺がとっ捕まった理由に関しては聞いてくれるなとも付け足す。
「そこの工場長をやってる奴が、あのお方と通じていてな。法外な税を納付する代わりに目こぼしされてる。アンタたちには工場を焼き討ちしてもらいたい。それが命を狙われた俺のしっぺ返しだ」
「あのお方とやらの素性はここでは聞かないことにして……」
 と、ショウは顎をつまんだ。
「これは別口で聞いた話だけど、ローリンローリンのチンピラたちの動きが怪しいって話もある。もしかして、その工場にも『新生・砂蠍』が噛んでるんじゃないかと思ってね」
「さすがは天下のローレット様だ。そういう噂も確かにある。工場長の名は『小賢しい』アムリタ。きったはったもやるが金勘定のほうが得意なインテリヤクザって奴さ。ま、噂の真偽はともかく悪党だから倒す理由は十分だろ」
 ラサ傭兵商会連合との武力衝突を知るイレギュラーズならば『砂蠍』のおそろしさについては知っていよう。知らなくともその噂は聞いたことがあるはずだ。イレギュラーズに叩かれた『砂蠍』は、幻想へ入り込み、その腹を食い破らんと各地で工作をしている。しかしその拡大スピードには不可思議な点がつきまとっている。人や物を動かすには大量のカネがいる。そのカネの調達方法がわからないのだ。今こうしている間にも『新生・砂蠍』は肥え太っている。いったいどこから吸い上げているかわからない乳を飲みながら。
 工場を潰すことができれば、『新生・砂蠍』へダメージを与えられるだろう。
「ローリンローリンは小さなカジノくらいしか名所がない田舎町だ。『新生・砂蠍』はそういう町を襲って力を蓄えている。放っておけば子猫が虎になるぞ」
「やけに砂蠍を憎んでいるね。理由があるのかい?」
 翁はぐっと顎を引き、やがてつぶやいた。
「くわしく確認してねぇが、あいつら、俺の仲間まで殺しやがった……」
 ショウが動きを止める。
「リンカーはよぉ、馬鹿なやつで戦術ってもんが頭になかった。代わりにどんな敵が相手でもひるまなかった。俺には度胸しかねぇからって笑ってよぉ。ロックはまだまだこれからのやつだった。伸びしろがあって、一日ごとに剣技が冴え渡っていって、こいつはどこまでいくんだろうってひそかに楽しみにしてたってのによぉ。ネビーはいいオンナだった。衝突しがちな俺らをしかって怒鳴ってひとつに束ねてくれた。あいつがいたから俺らはいらない揉め事を起こさずにやってこれたんだ……」
 ブルーフがマフラーをするすると解いた。その内側に縫い込まれていたゴールドが輝く。
「もう俺には戦う力がねぇ。だから想いだけを託す。頼まれてくれるか、アンタ達」

GMコメント

ようこそこんばんは、みどりです。
過去シナリオ「厄介事なら任せなさい」と関係していますが、読まなくてもまったく問題ありません。

●成功条件
きもちよくなる薬工場(以下キモ工場)を全焼させること
EX条件
『小賢しい』アムリタの討伐
※アムリタを討伐しても工場が焼け残ると失敗になります

●キモ工場詳細
山の奥、突然開けた人工の広場に立っている工場
地上1階、地下2階のレンガ造りの建物
 地上がチンピラのたまり場
 地下1が資材置き場
 地下2が精錬工場

●注意点
キモ資材を燃やした煙を吸うと自分たちもウルトラハッピーで行動不能になります。
複数の戦闘が予想され、休憩をとることも必要です。
工夫しだいで休憩結果にボーナスがでます。

  • <蠢く蠍>燃えて逝け偽りの幸福よ完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月23日 13時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リオネル=シュトロゼック(p3p000019)
拳力者
オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)
にんげん
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
星に願いを
九鬼 我那覇(p3p001256)
三面六臂
アーデルトラウト・ローゼンクランツ(p3p004331)
シティー・メイド
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声
サイモン レクター(p3p006329)
吸血鬼を狩る吸血鬼

リプレイ

 走る。走る。ネズミが走る。
 ゆらぐ、ゆらぐ、視界がゆらぐ。
『社会的重傷』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は、彼がクラフトしたネズミを使い、戦場となる工場の下見をしていた。
「隠し通路だの扉だのが多すぎる。ごていねいにダミーまで作らせて、偏執狂の所業だな」
 壁の中を走り尽くし、ネズミは地下二階の部屋へ出た。とたんに踏み潰される。ウィリアムには見えていた。白いスーツを着た神経質そうなメガネの男が。
「衛生班は何をしている。掃除はきちんとしているのかね。ネズミが走り回る不衛生な環境では商品の品質に悪影響がでるだろう!?」
 近くに居た男がひとり、棒のように背筋を伸ばして返事をした。そしてネズミはぐりぐりと踏み潰され、耐えきれず血の代わりに煙を吐いた。
「なに?」
 メガネがきらりと光る。
「ファミリアーか? こんなことをしそうなのはイレギュラーズに違いない。総員警戒態勢! イレギュラーズを抹殺したものにはボーナスを出すぞ!」
 ネズミを完全に踏み砕き、メガネの男は声をあげた。事前に聞いていたのと同じ容貌、アムリタに違いない。
「……参ったな。アムリタは見つけたが、警戒度が上がったぞ」
 ネズミと五感を切り離したウィリアムがため息をつく。
 その傍らで『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)が工場の入口を指差し腕を振る。
「……! ……!」
「カタラァナさん、超音波でしゃべらないで、俺たちの音程まで帰ってきて」
 イルカに似た彼女は金の瞳をしばたかせながらウィリアムたちへ答えた。
「1Fの入り口付近にー♪ チンピラたちが集まってるのがわかるわー♪」
「私の透視能力でもそう見える。血気盛んなのがわらわらと来ているぞ」
『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)もカタラァナの発言に太鼓判を押す。
「意外と敵の抵抗が激しいであるな。まあ我輩たちの仕事は工場の全焼であって、チンピラの相手ではないであろう。邪魔をするなら殴り抜けるだけである」
『三面六臂』九鬼 我那覇(p3p001256)が工場を半眼になり入り口をじっとながめた。
「先手をとられたのは残念だけどなー。チンピラ相手ならまだもちなおせるぜ。話し込んでねえでとっとと突っ込むか」
『拳力者』リオネル=シュトロゼック(p3p000019)が拳を握る。
「ならば我等『物語』の出番。轟く悲鳴をしおりに叙事詩の戦舞台へ赴かん。いざやいざや」
『Eraboonehotep』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)がその巨躯を見せつけるように前のめりになる。
「こうしている間にもアムリタは逃げを打っているかもしれません。なにせ『小賢しい』ですからね。部下を煽っておきながら自分は逃亡、よくある手段です。もっとも彼が抜けたところで手間が一つ減るだけですがね」
『シティー・メイド』アーデルトラウト・ローゼンクランツ(p3p004331)が殺気に満ちた瞳で言う。
「それじゃあみんな、準備はいいか? 開幕の狼煙は派手に行くぜ!? SADボマーGOGO!」
 流線型のおもちゃの車みたいなのが入り口へ向けて走っていく。イレギュラーズはそれを追って駆け出した。
 轟音。悲鳴。罵声。
「曇天を食らいし者。荒天を好みし者。星々の間に遊ぶものよ、いまここへ来たりて猛威をふるいたまえ!」
 ウィリアムがライトニングの呪文を唱えた。黄金の龍がチンピラたちへ突進する。悲鳴がさらにあがり、伝説にある奇跡のように人混みがぱっくりと割れた。もっともここは海ではなく、彼が割ったのは消し炭と化した人間だったが。団子状に集まっていたチンピラの群れが裂け、またそこへ人が寄り集まる。
「しろくて かわいい ふわふわの
 ひとの こころを くすぐるは
 たゆたう くじらの うたごえの
 しじまの うみに とけきえる♪」
 チンピラたちの上へ振りまかれる呪言は耳がとろけるような甘いメロディだ。彼女がただ一つ受け継いだ、決して理解してはならない歌。チンピラたちの間で同士討ちが始まり、人混みの混乱がさらに膨れ上がっていく。
「切り込み隊長、もらうぜ!」
 リオネルが入り口手前でジャンプしてチンピラの海へ躍り込む。チンピラの頭を両足で挟むように踏んづけ、そのまま腰をまわせばごきりとにぶい音がたつ。次から次へ、チンピラの頭の上を飛び交う姿はまるで波に乗っているようだ。時に銃弾や魔法がリオネルをかすめたが、再生付与にリジェネレートを重ねがけしたその身はなまなかな傷では一瞬で消えてしまう。
「戦術もない輩を倒すことなど、赤子の手をひねるがごとく、ですね」
 そんなリオネルへ続いたのはアーデルトラウトだ。組技でひとりひとり確実に落としていく。銃を乱射するチンピラを背後から襲い、気絶させる。棍棒を持ったチンピラを脇から投げ飛ばし、遠慮なく腕をひしぐ。その手際のよさにシティーメイドを称するゆえんが見える。
「力仕事なら吾輩も得意である。我輩に続け! 剛の者たちよ!」
 号令で仲間の士気を上げ、我那覇が前に出る。三面六臂の四肢を存分に振り回し、強引に人混みの奥へと攻め入っていく。ジャブとフックを同時に放ち、反対側ではコークスクリュー。殴打から蹴りへつなぎ、上段蹴りを放つと、きれいな放物線を描いてチンピラの体が飛んでいった。
「ここを抜ければ1階は制覇したも同然だ! 皆思い切り暴れてやれ!」
 メートヒェンが戦いつつも透視で見透かした結果を仲間へ伝える。そして利き手の肘を下げ、盾へ意識を集中する。シールドバッシュはメイドのたしなみ。メイドならば常に優雅たれ。ためをつくり利き腕へこめた力を爆発させ、カウンター気味のラリアット。ぶべらと妙な悲鳴をあげて吹き飛ぶチンピラ。しかしてメートヒェン自身はスカートがささやかに揺れただけ。
 チンピラたちの頭もようやく冷えてきた。最初は熱狂のおもむくままに攻撃をしていたが、そのほとんどがイレギュラーズへ届いていない事実に。さらに正確に言うならば、ただ独りの人影が攻撃を肩代わりしていることに。仲間をかばい、その身を盾とするのはオラボナ。どこまでも伸びる影法師のように、その巨躯を活かしチンピラたちの攻撃を仲間の代わりにくらっている、否、喰らっている。
「殺戮か。何でも好いが静寂こそが相応しい。兎角。火種は火種でも先ずは戦闘だ。我等『物語』を肉壁と見做し、皆は撲り潰せば良い。捕食する玉虫色に絶望せよ」
 宣告のあとににたりと笑みを見せれば、チンピラが悲鳴をあげて武器を投げ捨てる。ようやくおつむが回ってきたようだ。永遠とも思える時間、しかし時刻にすれば15分もかからない間にイレギュラーズは1階を制圧した。

「ふう」
 と、サイモンが壁に背を預けて座り込む。短い時間だったが、集中して曲芸射撃を使ったことで脳に負荷がかかっていたのだ。
 そこへさしだされる一杯のお茶。場違いな陶磁器と香りにサイモンの目がまんまるになる。お茶を差し出したのはメートヒェン。メイドの心づくしだ。
「それは?」
 と、アーデルトラウトがマスクの下から質問する。
「ハーブティーだ。下の階から増援がこないようだから、もう少しゆっくりしていこうか」
「ありがとう、もらうぜ」
 サイモンは薫り高いハーブティーを一口飲み下した。胃の腑がぬくもり、頭痛が緩和されたような気がした。
「こんな時でも心配りができる。それがメイド……。勉強になります」
「ははは、そう言われると照れてしまうな」
 二人のメイドが言葉をかわしているうちに、サイモンはんぐんぐとお茶を飲み干し、満足の吐息をついた。そしてあたりを見回す。
「いい部屋だよな、ここ。仮眠室のベッドなんか、俺の棺桶より寝心地が良い」
 ここは1階の警備員休憩室。チンピラといえど職務はしっかり勤めていたらしく、部屋に荒れた様子はない。下手をすると貴族の警備室のほうが散漫な印象を受けるかもしれない。それはつまり、ここに居たチンピラたちは組織だった行動が得意ということでもある。
「地下で待ち伏せされてる気がするぜ」
「ああ、たしかに」
「確率は高いですね」
「だけどまあ、想いを託すか、そんなこと言われたら気合い入れるしかねぇな。じいさんの無念、引き受けたぜ!」
 サイモンは立ち上がり、両手をぱんと鳴らした。それを合図に思い思いに休憩していた仲間が立ち上がった。
 リオネルがくすりと笑う。
「成敗したヤツからの依頼とはなー。マジで何でも受けるんかね? いずれ、決闘する双方から代理人の依頼とか出たりしてな」
「違いありません」
 と、アーデルトラウトが答えた。
 ウィリアムがつぶやく。
「……裏社会のどうの、ってのは正直興味ねえけど、でも仲間の仇を取りたい、ってなら話は分かるよ。
 にしてもきもちよくなる薬、なあ。……薬はよくない。うん」
 メートヒェンが答えるようにうなずいて顎をつまむ。
「潰したところで蠍の本隊には大したダメージもないけど、放置すれば幻想の力が削がれて蠍はどんどん力を付けるか。嫌らしいやり方をしてくれるね、まったく……。とはいえ、こんな薬を蔓延させるわけにもいかない
今は出来る事から対処していこうか」
「気持ち良くなる薬であるか? 薬がないと気持ち良くすらなれないとは残念であるな。人生に潤いがないであるか? 潤いは大事である。
 で、その薬を燃やし尽くすのであるか。で、守ってる敵が居ると。ならば、敵は殲滅して確実に燃やし尽くさせてもらうである」
「偽りの倖せ。だなんて言わないよ
 本当でも嘘でも倖せには変わりないもの
 あんなに あかく ひかるひは
 さそりが もえて いるんだよ♪」
 カタラァナのメロディにのせて、イレギュラーズは地下への階段へ向かう。オラボナも歌う。
「堕ちる。混ざる。幸福に満ちる――此度の焼却対象は実に人間らしい汚物だ。痛みを殺す薬を用いた、我等『人間』の吐く台詞とは言い難いのだが、危険な幸福は燃やし尽くさねば。さあ。物語を始めよう。何。此処は違う決め台詞を吐け。悪影響を齎す物語を滅ぼそう」
 もういたくないくすりを、オラボナは腕へぶすりと刺した。蠍の毒は薬で正せ。

 階段を降りると案の定待ち伏せされていた。
「撃て!」
 号令とともに弾丸の豪雨が降り注ぐ。撃って撃って、撃ちまくったその後、硝煙の中、彼らは見た。人のような影を、影のような人を。
「Nyahahahahahahaha! デコイの顛末まで含めて我等『物語』の抒情詩。銃弾の雨あられに禁断のくすりが立ち向かうなんたる喜劇」
「撃て撃て! やつにも限界はある!」
 小隊長らしき男が檄を飛ばす。
「隊長! あいつ攻撃を反射しやがる!」
「多少の犠牲はかまうな、でなければ俺たち全員がお陀仏だ!」
 またもオラボナは銃弾の雨に晒された。オラボナはそれを受け止め、彼らを注視する。動きと服装でわかる。チンピラなどではない、れっきとした兵隊だ。練度も高く、反射ダメージを受けた者は後ろへさがり、後列の者が前列へ進み出る。工場の規模に照らし合わせてみれば、よくよく訓練された兵士たちだ。はたしてこれはアムリタの私兵なのか。それとも『新生・砂蠍』から派遣されているのか。疑問は尽きないが、体が限界だった。痛みの代わりにしびれがオラボナを襲う。
「ありがとうオラボナ。あとは俺たちに任せて」
 ウィリアムが射線が通るぎりぎりの位置からライトニングを詠唱した。鮮やかな黄金の龍が兵士の壁を突き崩す。何人かの兵が吹き飛び、別の兵が地べたを這う。
「いつわりのほんとう しんじつのうそ
 どっちもたいせつ きっと おなじもの
 おなじカードの うらとおもてを
 のぞきこんだら なにがみえるの」
 夢見る呼び声がカタラァナからあふれだし、潮騒のように兵士たちを包む。正気をなくした兵士が仲間からボコられて速やかに失神する。
「ほらよ、オラボナの分もお返しだ」
 サイモンが曲芸のような精密さで次々に兵士の足を狙って撃つ。膝を割られた兵士がうめき声を上げた。
 兵隊の壁は後衛たちの力で半分以下に減っていた。あとは前衛が大挙して突っ込めば突破できそうだ。アーデルトラウトはそう判断し、皆へ伝えた。すぐに同意が帰ってきたので、アーデルトラウトを始めとする前衛たちは身を低くして後衛たちの合図を待った。
 そこへ……。
「イレギュラーズの駆除に、いくらかかっているのです。今日の分のノルマが達成できないではありませんか」
 神経質そうな声が響き渡り、兵士たちの壁を割って1人の男が歩いてきた。白いスーツに金のフレームを施したメガネ。
「あなたがアムリタですね?」
 アーデルトラウトの言葉にアムリタはメガネのブリッジをおしあげた。
「……まったく」
 わずかな間のあと、アムリタの顔がひび割れたように見えた。いままでの神経質な表情から、まるで別人のように歪んでいる。
「おまえらみてぇなドブネズミがよぉ! 俺様の邪魔をしてんじゃねぇ! 工場にはノルマってもんがあるんだよぉ! 工員をごっそりおねんねさせやがって! ブチ切れるぞてめぇ!」
 罵声から圧力を感じ、アーデルトラウトは身を固くした。
 リオネルが走り出る。
「上等だ! ここでおまえを倒せば邪魔も入らないし手柄にもなる。一石二鳥だぜ!」
 疾駆する勢いを乗せて跳躍。アムリタの胸へドロップキックを叩き込もうと……だがアムリタの手刀によってリオネルは床へ叩き落とされた。リオネルは鏡のような床の上をすべっていき、資材の山に当たって止まった。反動で薬の材料が入った袋が、どさどさとリオネルの上に落ちてくる。
「う……撃て撃て!」
 兵士たちが反射的にリオネルへ攻撃を集中させる。しかし次の瞬間、小隊長は殴り飛ばされていた。
「おい、材料に手をだすな! ガキでもわかることだろうが! お前の年収の何年分だと思ってんだ! 階段だよ! 階段のイレギュラーズを撃つんだよ!」
「も、もうしわけございません……。総員、階段のイレギュラーズを狙え!」
 弾幕がイレギュラーズを襲った。だが最初の勢いに比べれば格段に薄い。
(いける……!)
 アーデルトラウトとサイモンが仲間の頭を飛び越え、アムリタへ肉薄した。その手刀をぎりぎりでかわし、アムリタの隣へ陣取っていた兵士へブロッキングバッシュ。サイモンが無理やり横入りし、強硬手段で兵士の壁を抜け、奥に見える地下2への階段を目指した。
「皆様、地下2はお任せください!」
「どかんとやってくるから、楽しみにしとけよなー!」
「頼んだぞアーデルトラウト、サイモン! あとでお茶をおごってやる!」
 メートヒェンが続けて走り出し、アムリタへシールドバッシュを食らわす。だが浅い。バッシュに使っていたトレイをアムリタに掴まれ、つばぜり合いになる。
「いいのか? あの子たちを追わなくて、あの子たちは今頃地下の施設を破壊してまわってるはずだぞ」
 ズン。
 同時に腹に響く音がした。サイモンのSADボマーだろう。機械類は手当たりしだい壊してまわっているようだ。
「……ああもう……ほんっと~~~に、ほんっと~~~~~~~に腹が立つぜぇ。ゴミカスどもぉ! 上になんて言い訳すりゃいいんだよぉクソがクソがクソがいっぺん死ね、いや三遍しねぇ!」
 アムリタが手刀で空を切ると、その軌跡がそのまま衝撃波となってメートヒェンを襲った。
「ぐああ!」
 メートヒェンの体が床に叩きつけられる。その身には大太刀でばっさりとやられたような傷をおっていた。
「さすがにこれ以上は吾輩も我慢の限界である」
 我那覇がずいと前に出る。射撃の集中攻撃を無言で受けながら前進し、アムリタと対峙する。アムリタが手刀をはなとうとする直前のタイミングで、我那覇がその腕をつかんだ。もう片方の手で手刀を試みるアムリタ。それを阻む我那覇。膠着しきった状態で、兵士たちも撃っていいのかわからないようだ。
 息を呑む時間が続いた。その間も地下2からはズシンと重い音が聞こえてくる。
「廃棄だ」
 アムリタはもとの神経質な顔つきに戻っていた。
「工場を廃棄する。私は転進する。手伝え」
 意味を飲み込んだ兵士たちが我那覇の腕へ集中砲火を浴びせ、アムリタを自由の身にする。
「さらばだ諸君」
 アムリタが壁を叩くと、壁の一部がスライドし、隠し通路が現れた。闇がアムリタを飲み込んだ。


 助けられるだけの兵士とチンピラを草の上に転がし、イレギュラーズたちは轟々と燃え上がる工場を眺めていた。時折大きな爆発が起きるのは資材が粉塵爆発を起こしているのだろう。煙はキラキラ光る紫色に染まっていた。
 空へ消えていく薬を見送るカタラァナ。
「ねえ。うその倖せでもって自分が倖せになれるなら、それはホンモノだよね。だって、うそを作ればこうして誰かの怒りを買うんだってわかるものね。それでも、そんなものを跳ね除けて倖せになれるなら、間違いなくホンモノだ。それを僕に見せて欲しかったな」
『小賢しい』アムリタへ、ぶつけてみたい言葉だった。
「気分が好い。脳の奥底から星が湧き出るようだ。涌くほどの哄笑に、沸き立つ混沌の粘液。皆にも分け与え」
 近くで煙を吸うとヤバイことになるようだ、というかもうなっている。イレギュラーズたちは肝を冷やして、その場を後にした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569) [重傷]
にんげん

あとがき

おつかれさまでした。
肝心の工場を焼くシーンが薄くなってしまいました。GMも残念です。
中間管理職アムリタくんはまた出てくるかもしれません。
またのご利用をお待ちしております。

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