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シナリオ詳細

<被象の正義>世界喰らいの兎たち。或いは、白鉱石に飲まれた街区…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『異言都市(リンバス・シティ)』
 そこはかつての巨大都市。
 天義、テセラ・ニバスは浸食され、『異言都市(リンバス・シティ)』へと変容した。その光景は、かつてROOにて発生した、ワールドイーターの世界食らいにもよく似た現象である。
 リンバス・シティは無数の街区によって区切られた巨大都市である。
 雪山、砂漠、植物に飲み込まれた街、光の届かぬ暗黒街……街区によっては、そのような尋常ならざる光景が広がっているが、なんと不可思議なことに“ごく当たり前に住人たちが暮らしている”。
 もっとも、住人たちは全員が狂化しているが……。なお、彼らは異言(ゼノグロシア)のみを言語として用いることから『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』と呼ばれている。
 リンバス・シティの街区を『切除』し、人類圏に取り戻すこと。
 それが此度、イレギュラーズに与えられた任務である。

 『異言都市(リンバス・シティ)』。
 家屋も道も、植物さえもが白い鉱石と化した区画が存在していた。
 白い鉱石の正体は不明だ。この世界に存在している既知の鉱石の何とも類似していない。白鉱石は非常に頑丈で破損しづらく、炎や冷気、音を吸収する性質があるという。
 白鉱石を作り出しているのは、ワールドイーターという怪物だ。その姿は、人間ほどの大きさをした白と黒の兎に似ている。
 兎たちが空間を食んだ。
 少々巨大に過ぎるが、その食事風景は兎らしく愛らしい。だが、兎が空間を食むに従い、その空間は白鉱石に侵食される。
 ワールドーターは、『世界を構成するデータ』を捕食する。
 そして、ワールドイーターを討伐することで「捕食されたデータ」は解放される。
 白鉱石街区の住人たちは、誰もワールドイーターの存在を気にも留めていない。ワールドイーターの方も、住人たちに興味は無さそうだ。
 ただ、兎らしく食事を続けるばかりである。

●白兎と黒兎
「浸食された街区を人類圏に取り戻すためには、ワールドイーターを討伐する必要があるっす」
 白と黒、2匹の兎はワールドイーターとしてはさほど強力な個体ではないだろう。
 けれど、討伐は容易ではないはず、とイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は予想していた。
「まず兎たちは距離に関係なく空間を捕食する能力を持つっす。人に当たれば【石化】や【ブレイク】【重圧】といった状態異常に見舞われるでしょうね」
 また、兎らしく動きは機敏で、聴力、脚力に優れる。兎と言えば、家兎を思い描く者も多いだろうが、白鉱石街区に現れた兎の姿は野兎に酷似している。
「野兎に蹴られれば、骨折や内臓破裂なんてこともあるそうっすよ。蹴られたら、吹っ【飛】ばされるかもしれないっす」
 何かを警戒するように、イフタフは自分の腹を押さえた。
 筋肉なんてついていないような、薄くて柔らかな腹だ。兎の蹴りなどまともに受ければ、骨も内臓もぐちゃぐちゃになるかもしれない……なんて、想像をしているのだろう。
「まぁ、臆病らしいんで追い詰められないうちは逃げに徹するような気がするっすけど」
 任務内容はワールドイーターの討伐だ。
 そうなってくると、逃げる相手というのはなかなか厄介である。
「『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』の動向も気になるっすからね。あまり派手に仕掛けたり、住人を巻き込むような真似は控えてほしいっす」
 あくまで穏便に。
 そして、被害を拡大しないように白と黒、2匹の兎を討伐すること。
 以上がイフタフの依頼である。

GMコメント

●ミッション
白と黒、2匹の兎の討伐
 
●ターゲット
・白兎&黒兎(ワールドイーター)×2
野兎の形をしたワールドイーター。体長はおよそ1.7メートルほど。
人に興味関心を抱かず、延々と空間(世界を構成するデータ)を捕食している。
捕食された空間や物質は白い鉱石に覆われる。
兎らしく臆病で俊敏。聴力に優れる。

捕食:神近~中単に中ダメージ、石化、ブレイク、重圧
 空間を捕食する能力。捕食された空間および物質は白い鉱石に覆われる。

跳躍:物至単に特大ダメージ、飛
 野兎らしい強力な蹴り。
 
●フィールド
天義。『異言都市(リンバス・シティ)』。
白い鉱石に覆われた街区。住人たちは当たり前の日常を送っている。
白い鉱石には、火炎や冷気、音を吸収する性質がある。
※白い鉱石は火炎や冷気を伴う攻撃の威力を軽減し、足音などを響かなくする。
白兎と黒兎は、基本的には街区の外れの方に居ることが多い。
大通りや路地、背の高い家屋などごく普通の街の景色が広がっている。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。 

  • <被象の正義>世界喰らいの兎たち。或いは、白鉱石に飲まれた街区…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

すずな(p3p005307)
信ず刄
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
赤羽 旭日(p3p008879)
朝日が昇る
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ

●白亜の街
 白い鉱石に覆われた街だ。
 それを成したのは、ワールドイーターと呼ばれる怪物であるという。
「この街区は一見すると普通の都市そのものですね。それ故、白い鉱石が一層異様に見えると言うか」
 『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は、ここまでの道中、見た光景を思い出す。どこもかしこも白い街並みは美しいが、それゆえに不気味でもあった。
「……良いわね、実に良いわ。こう未知の現象は観測し、解析し甲斐があるわ。後でサンプル回収したけど……無理ね」
 鉱石に手を触れ『狐です』長月・イナリ(p3p008096)はそう呟いた。
 温度を感じさせない白い鉱石に手を触れる。
 指の先で鉱石を叩くが、音は響かず、あっという間に石に吸い込まれて消えた。

 白亜の街に兎が2匹。
 その鋭い前歯で空間を齧り、世界を“白”で塗りつぶしている。
「まあ、兎の、ワールドイーター? すがたかたちは、親近感すら、湧いてしまうけれど」
 白い鉱石に覆われた家屋の影から顔を覗かせ、『星に想いを』ネーヴェ(p3p007199)は通りの奥を見やった。そこにいたのは白と黒、2匹の兎だ。
 兎たちは一心不乱に世界を喰らう。背後から様子を見守るネーヴェたちイレギュラーズのことなど、一切気にも留めていない。
「まあ。今回やることは単純明快。さっさとワールドイーターを退治しちゃいま……」
 白い床石を踏み締めて『ふるえた手』すずな(p3p005307)は腰の刀へと手を伸ばす。
 だが、刀を引き抜くすずなの手は震えていた。
「あ、あれ? 兎……? うっ、なんだか分かりませんけど悪寒がします。兎に恐怖心なんてなかった筈なのですけれど……!」
 すずな自身にも理解できぬ根源的な恐怖が、すずなの心を搔き乱したのだ。

「兎か。その容姿を見れば少々、心も痛むが是非も無い」
 『氷狼の封印を求めし者』恋屍・愛無(p3p007296)の声は小さい。否、零した声は白い鉱石に吸い込まれて響かないのだ。
 当然、足音も響かない。
 姿勢を低くして茂みの影に隠れてしまえば、気取られることなく兎たちの正面へと回り込めるというわけだ。
「隠れて……兎を捕まえるの……鬼ごっこみたい……僕達が鬼なんだね」
「なるほど、なるほど……ワールドイーターなどと言いつつ所詮は畜生。こちらは狩りでも楽しませてもらいましょうか」
 愛無の後ろに『玉響』レイン・レイン(p3p010586)と『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)が続く。白い鉱石の上を通る限り、彼らの声や足音が遠くまで響くことは無い。
 だが、鉱石の外へ出れば話は違って来る。
 例えば、兎たちの正面には、“正常な世界”が広がっている。
「……」
 無言のまま、『朝日が昇る』赤羽 旭日(p3p008879)が背中に担いだ銃を降ろした。

●白兎と黒兎
 ワールド・イーターは『世界を構成するデータ』を捕食する。
 天義、『異言都市(リンバス・シティ)』の白い街区に現れた2匹の兎たちがそれだ。
 体長はおよそ1.7メートルほどと、兎にしては異様なほどに大きい。だが、見た目は白と黒の体色をした野兎そのもの……とてもでは無いが、世界を喰らう怪物のようには思えない。
 実際、こうして愛無たちが観察している間も兎たちは延々と世界を喰い続けている。人になど興味が無いのだ。ただ、目の前にある食糧を……つまり、世界を喰らうことにしか興味が無いのだ。
 きっと、世界を喰らい尽くすまで、兎たちは目の前の空間を齧り続ける。
 だから、止めなければいけない。
 ここで討伐しなければいけない。
「なに、兎狩りのやり方ならば、貴族の嗜みとして心得ていますとも」
 ワールド・イーターたちは兎らしく臆病だと聞いている。
 例えば、不用意に物音でも立ててしまえばその長い耳で敏感に察知し、すぐにでも逃走してしまうだろう。
 ハンドサインで仲間たちへ合図を送りながら、ウィルドは建物の裏手へ回り込む。
 兎たちの視界の外から回り込み、逃げ道を塞ぐ算段だ。

 白兎の耳が揺れた。
 次いで、黒兎が顔を上げる。
 2匹が同時に首を傾け見つめる先にはウィルドがいた。凶悪な笑みを浮かべ、いかにも親し気に兎たちへ手を差し伸べる。
 2匹の兎は同時に地面を蹴り飛ばす。
 高く、背後へ跳躍し逃走を図った。
 けれど、しかし……。
「さあさあ、逃げてばかりでは詰まらないですよ?」
 ウィルドの声を聞いた瞬間、兎たちの体が固まる。
 着地し、視線はウィルドへ向けたまま逸らさない。
 否、逸らすことが出来ないのだ。
 心の底から湧き上がる、得体の知れぬ不可思議な怒りが兎2匹を追い立てる。眉間に深い皺を刻んで、鋭い前歯を剥き出しにして、野生の獣の脚力で地面を強く蹴りつけて、兎2匹がウィルドへ向かって襲い掛かった。

 空間ごと、兎の前歯がウィルドの肩の肉を抉った。
 世界が、そしてウィルドの肩が白い鉱石に覆われる。
「うっ……!?」
 硬直したウィルドの顔面に、黒兎の蹴りが叩き込まれた。上体が仰け反り、ウィルドの体が空中を滑るように後方へと飛んでいく。
 その巨体が白い壁に叩きつけられ、全身の骨と内臓が軋む。
 絶え間ない連続攻撃。
 だが、兎たちの攻撃はまだ終わらない。
 さらに1撃、壁に叩きつけられたまま動けないでいるウィルドの腹部を白兎が蹴り飛ばす。骨の折れる音がした。ウィルドの口から血が零れた。
 白と黒の息つく間もない連続攻撃にウィルドは若干押され気味だ。だが、白兎と黒兎の注意はウィルド1人に向いている。
「まずい……すぐに、動けなくさせるね……」
 レインの手繰る気の糸が、黒兎の脚に巻き付いた。
 空中で姿勢を崩した黒兎へ、直上から旭日が迫る。
 ガラス玉のような黒兎の目に、旭日の姿が映りこむ。瞳に浮かぶ感情は怒りと恐怖。ウィルドへ猛攻を叩き込んでいたとはいえ、その本質は臆病な兎のままだ。
「……良くない気がする」
 レインの頬に汗が伝った。
 脳の奥で警鐘が鳴る。直感が働いたのか、レインは気糸を引き絞って、無理矢理に黒兎を地面へ引きずり下ろした。
 引きずり下ろそうとしたのだ。
 けれど、しかし……。
『キュイ!』
 黒兎はレインの手繰る気糸を蹴って、空中で姿勢を立て直した。
 気糸を蹴られた反動で、その先端が繋がっていたレインの指が人体の構造を無視した方向へと曲がる。
 折れたのだ。
「っ……い、っ」
 気糸を手繰る力が弱まる。
 自由になった黒兎は、旭日の腹部へ渾身の蹴りを叩き込む。

 一方、その頃。
 ウィルドの前へ愛無が跳び込む。人の身から、黒い体の怪生物へと姿を変えて、顎を限界まで開け愛無が吠えた。
 白兎の目が愛無を向く。
「僕が誘因しよう。今のうちに回復を」
 白兎の蹴りを側頭部へ受けながら、愛無は告げた。壁から地面へ降りたウィルドが、自身の腹部に手を当てる。腹に当てた手を中心に淡い燐光が飛び散って、損傷した内臓を癒す。
「すいません。少しの間、お願いします」
「心得た」
 二度目の蹴りを受けながら愛無が答えた。
 白兎の蹴りが、愛無の顎から頬にかけてを抉る。だが、愛無とてただ黙って攻撃を受けているわけではない。
 剥き出しにした牙で、白兎の脚の肉を喰い千切ったのである。

 地面に落ちた愛無の腹部は、白い鉱石に覆われていた。
 口の端から、どろどろとした黒い血を吐きながら愛無が立ちあがる。その拍子に、腹部を覆う鉱石が剥がれ、血が滲む。
「これでも、逃げようとするのか」
「最初の位置から……それなりに、移動……したね」
 蹴りを叩き込み、空間ごと獲物を喰らい……そうしながらも、兎たちは逃げようとしていた。その結果、当初接敵した位置から、愛無とレインは幾らか離れた場所にいる。
 2人の背後には、意識を失い倒れ伏した旭日が転がっている。
 旭日を庇うように腕を広げるウィルドとて、既に1度【パンドラ】を消費している状態だ。
 高速で駆けまわる兎に翻弄された結果である。野生の本能と言うべきか……流石はワールド・イーターと言うべきか。油断をしていたつもりは無いが、それにしたって想像以上に戦闘力は高いらしい。
 だが、それでも4人は役目を果たした。
 兎たちを逃がさないで足止めすること。そして、兎たちにダメージを与え、十全な機動力を削ぐこと。
 2匹の兎が同時に地面を蹴って高くへ跳びあがる。
 と、同時に戦場へ駆け込む影が2つ。
「こんにちは、兎様。兎同士、追いかけっこと、いたしましょう?」
 1つは姿勢を低くして、大地を跳ねるように駆け寄るネーヴェの影。
「手数には自信があります故! 一息に仕留めてあげますよ!」
 そしてもう1つは、刀を担ぐようにして兎へ跳びかかるすずなの影だ。

 ネーヴェの放った真空の刃が、黒兎の胴を裂く。
 それと同時に、すずなが刀を一閃させた。
 すれ違いざまに叩き込まれた疾風のような斬撃が、白兎の片耳を落とす。
 空中に足場は無い。
 回避も、防御も出来ないまま兎たちはネーヴェとすすざの攻撃を受けた。そうして、地面に落ちた2匹の兎たちだが……すぐに姿勢を立て直すと、ネーヴェやすずなから距離を取るように後方へと跳び退る。
「逃げるんですか! やはりJ――じゃなかった、兎は憶病ですね!」
「ご注意を。なるべく捕食は、受けないように、したいところ」
 近い距離なら互いの声も届くのだ。
 ネーヴェとすずなは、足並みを揃えて兎を追った。すずなは右から、ネーヴェは左から回り込むようにして駆けていく。
 兎たちは2人を見据えたまま後方へと跳び退った。
 移動速度では兎の方が少し速いか。注意を引きつけている間は逃げられることが無いとはいえ、長期戦となればすずなとネーヴェの方が不利かも知れない。
 もっとも、それはすずなとネーヴェの2人しかいない場合の話だ。
 愛無たちが時間を稼いでいる間に、仲間たちは既に配置についている。
 例えば、イナリだ。
「狙うは脚部! 機動力を削ぎましょう!」
 白い鉱石に覆われた塀の後ろから、短機関銃を手に飛び出した。白兎の背後に素早く回り込むと、その背中に銃口を押し当て、引き金を引く。
 パラララ、と小気味の良い音が響いた。
 一瞬のうちにばら撒かれた小口径の銃弾が、白兎の背から後肢にかけてを抉る。衝撃で白兎の体が前へと跳んだ。白い鉱石に覆われた地面を、音もなく転がっていく。
 さらに、もう1人。
 ルーキスもまた、屋根の上から黒兎の様子を窺っていた。
 黒兎がすずなの刀を回避したのを確認し、ルーキスは肩の位置に構えた2本の刀を下へと振り下ろす。
 距離は遠い。
 だが、問題ない。
 ルーキスの刃は、空気を裂いた。真空の刃……或いは、鎌鼬とも呼ばれる現象を、ルーキスは意図的に引き起こした。
 放たれる真空の刃が、黒兎の右脚に深い裂傷を刻んだ。
「追いかけられる兎の気持ちも分かるので、何とも言えない気分ですけど……!」
 黒兎が地面に落ちた。
 そこへすずなが駆け付ける。
 黒兎は血を流しながら立ち上がる。膝を曲げて、跳ぼうとする。
 それより速く、すずなが刀を薙ぎ払う。
「お待ちなさい! このっ、くそ兎ィ!」
 兎に恨みでもあるのだろうか。
 きっと過去、兎に酷い目に合わされた経験があるのかもしれない。
 情け容赦のない斬撃が、黒兎の首を断ち斬った。

 イナリによって弾き飛ばされた白兎。
 その落下地点にはネーヴェがいる。
「悪い兎には、ここで倒れて頂きます!」
 空気が爆ぜた。
 雷を身に纏ったネーヴェが、白兎へ向け手刀を打ち込む。
 タイミングは完璧だ。
 白兎には、ネーヴェの手刀を回避する術は無い。
 だから、白兎は顎を開いた。
 鋭い前歯で、ネーヴェの手へと食らいついた。
 雷光が爆ぜた。
 肉の焼ける臭いが漂う。
 かくして……。
「っ……!?」
 宙に鮮血が飛び散った。
 踏鞴を踏んでよろめくネーヴェの手から肘にかけてが、白い鉱石に覆われている。

●世界を喰らう
 白兎は逃げ出した。
 地面を蹴って、血の雫を零しながらも逃げ出した。
「野生の本能か。追い詰められて、逃走を選択するか」
 並走する愛無が呟いた。
 白兎の口は、頬の辺りまで裂けている。口の周りは焼け焦げていて、もはやそれでは世界を喰らうことは出来ないだろう。
 白兎の進路を塞ぐように、レインが気糸を展開する。
 白兎は地面を蹴って、宙へと浮いた。虚空を漂う気糸の間を、泳ぐようにすり抜けていく。
「え……うそ?」
「街の方へ逃げていくぞ。止めなきゃ、被害が拡大する!」
 屋根の上からルーキスが跳んだ。兎の視界に入らないよう意識していたこともあり、白兎は未だにルーキスの存在に気付いていないのだ。
 ルーキスが真空の刃を撃った。
 だが、白兎には届かない。
 白兎の走る速度の方が速い。
「止めろ、と言われましてもね」
「こうも……速いと、なかなか、難しいものが」
 ウィルドとネーヴェが、白兎の正面へと回り込む。
 白い鉱石の上では足音なんて響かない。
 確かに不意を突いたはずだった。
 だが、兎は脚を地面に滑らせながら、強引に方向を変えて見せた。野生の勘か、生きたいと願う本能か。
 だが、兎は居住区から離れていく。
 急な方向転換をかけたことで、走る速度は鈍っている。
 元々、大きなダメージを負った体だ。傷口から噴き出した血で、白い体は赤色に濡れているではないか。
 放っておいても、そう長くは持たないだろう。
「……なぜでしょう。長く苦しんでいる姿を見るのは、辛いものがありますね」
 唇をきつく噛み締めて、すずなはそう呟いた。
 姿勢を低く、地面を這うようにして。
 或いは、1匹の獣のようにすずなは兎へ駆け寄っていく。
「捕え……た。鬼ごっこ……僕達の勝ち……だね」
 兎の後ろ脚に糸が巻き付く。
 兎の姿勢が大きく崩れた。
 そして、最後に。
 駆け抜けるすずなの一刀が、うさぎの喉を深く裂いて息の根を止めた。

 兎たちの遺体は、鉱石と化して崩れ去った。
 それと同時に、白亜の街も徐々に元の色を取り戻していく。
「どう……です?」
 と、レインがイナリへ問いかける。
 イナリは色を取り戻していく街を見ながら、足元に転がっていた鉱石の欠片を拾い上げる。まじまじと鉱石に視線を注ぎ、試しとばかりに指でコツンと叩いて見せた。
 音は響かない。
 兎が消滅した後も、音を吸収する性質は損なわれてはいないようだ。
「うぅん。この現象に関係する様な何かが発見出来ればいいけど、設備も無いからどこまで調べられるか……」
「とても、堅そうで……加工できたなら、わたくしの、義足に使えたり、しないかしら」
 ネーヴェが鉱石を拾い上げるが、その手のうえで鉱石は崩れ去っていく。
「サンプルがどれだけ回収できるかにもよりますが……まぁ、物は試し、やってみましょうか♪」
 白い鉱石の正体は知らないが、イナリはそこらの鉱石片を拾い集めた。
 持ち帰るまで残っていれば、少し調べてみるつもりであるようだ。

成否

成功

MVP

恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣

状態異常

ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)[重傷]
微笑みに悪を忍ばせ

あとがき

お疲れ様です。
白兎と黒兎は討伐され、白い鉱石に覆われた街区は解放されました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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