PandoraPartyProject

シナリオ詳細

寒獄からの脱出

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●護衛の依頼
「は? いない?」
 時刻は正午過ぎ。鉄帝──帝都スチールグラードの郊外。市街地に出入りする多くの人々が行き交う区域に、1件の宿屋があった。
 『強欲情報屋』マギト・カーマイン(p3n000209)は、宿屋の女将に対し、滞在しているはずの客の所在を尋ねた。しかし、中年の女将から返ってきた言葉は、マギトにとって予想外のものだった。
「ついさっき、ここを出たわ。あんたらみたいな従者を何人か連れてね」
 そんなはずはないと食い下がるマギトは、状況を確認しようと女将を問いただす。
 マギトの仲介によって護衛の依頼を引き受け、宿屋まで出向いたイレギュラーズ一同は顔を見合わせる。
「待ち合わせ場所はここのはずなんですが……その方は確かに、ストームグレイ大佐の奥方で間違いないですか?」
 女将は「ストームグレイ大佐? 奥方?」とマギトの言葉を繰り返し、せせら笑うように言った。
「あの女――ララーナが”奥方”だって? ララーナは大佐の愛人さ」
 女将の一言によって、マギトの表情は更に引きつる。
「ただの愛人でメイドのくせに、奥方のリゼラ様を差し置いて、従者まで引き連れて……本妻気取りもいいとこだよ!」
 何やらリゼラ側に肩入れしている女将の言動から、マギトは多くを察した。勘がいい一部のイレギュラーズも、大佐のウソに気づき始めていた。
 ララーナに対して好意的とは言えない女将だったが、マギトは努めて愛想よく尋ねる。
「それはそれは……あれですか? 大佐はララーナ殿に心底惚れ込んでいるということですか?」
 ――本妻よりも、愛人の避難を優先させるほどに。大っぴらに愛人の名前を出したくないからかどうか知らんけど、ウソついてんじゃねぇよあの野郎。
 今回の依頼人であるストームグレイ大佐――彼の依頼は、海洋方面に避難する妻の護衛を要請するものだった。
 昨今の鉄帝の動乱、治安の悪化を考慮した大佐は、比較的情勢も安定している海洋での避難生活を妻、リゼラに打診した。リゼラは避難するために準備を進め、後は宿屋で護衛役であるイレギュラーズとの合流を待つばかり――という状況のはずだった。しかし、宿屋に訪れたところで流れは変わった。
 女将はすこぶる不満げにララーナと大佐の関係を語る。
「……そうよ、リゼラ様が気の毒なほどに、大佐はララーナに入れ込んでるのよ」
 その後も、女将は政略結婚で嫁いだリゼラと、旦那である大佐のことをこんこんと語る。しかし、マギトの興味はすでに別のことに向いていた。
「それで──ララーナ殿はその従者たちとどちらに向かわれたか、ご存知ありませんか?」
 マギトからしつこく尋ねられ、女将はますます不機嫌そうな態度を顕著にする。
「知らないって言ってるじゃないか! あんな女のことを気にかけてどうするんだい?」
 女将を見つめるマギトは、その笑顔の目の奥に一層影を宿してつぶやいた。
「随分奥方と懇意にされているようですね……」
 探るようなマギトの眼差しとその一言から、女将はハッとしたように口をつぐむ。
「あなたが奥方の味方だということは、よ〜くわかりました。で──」
 マギトは一瞬で真顔になり、女将の口を割ろうと語気を強める。
「ララーナ殿たちは、どこに向かったんですか?」
「…………」
 内心は黙り込む女将に苛つくマギトだったが、努めて冷静にララーナの居場所を吐かせようとする。
「あなたがどう思うかなど関係ありません」
 女将を射抜くような鋭い視線を向けるマギトは、情報屋のプライドにかけて女将を追い詰めていく。
「──誰に何を言われようと、(報酬のためにも)情報屋として依頼人の期待に応えるのが俺の正義です。あなたの働きぶりを大佐が知ったら、きっと感心なさるでしょうねぇ……」
 どれだけの者が、( )内に含まれた金欲丸出しの言葉に反応できたかはともかく──マギトは、女将のことを大佐に告げ口する意思をほのめかす。女将は途端に顔色を変えて狼狽える。
 マギトから凄まれた女将は、洗いざらい情報を話す。
「お、お……思い出したよ! ララーナたちは帝都を出て、確か北へ──」
 リゼラに対して忠義を尽くす素振りを見せていた女将だったが、その誓いは呆気なく立ち消えた。

●決死の逃亡
 イレギュラーズがララーナの下を目指して宿屋を出発した頃──。
「おい、まずいぞ! 逃げられた!!」
「はぁあ??!!?」
「このバカッ!!!! 小便くらいで目ェ離してんじゃねえよ!!」
 川岸で留まっていたララーナ一行、護衛として付いてきた男たちは、ララーナの姿が見えなくなったことに慌てていた。
 周辺一帯は雪が降り積もり、どこまでも白銀の世界が続いていた。しかし、その雪の上のどこにもララーナの行方を示す足跡は見当たらない。
 血眼になってララーナを探し回る男の1人は、川岸の向こうに何かを見つけた。
「おい、あそこだ!!!!」
 それは、丁度川を渡り切った直後の狐の姿だった。
 白い狐──獣種のララーナはどうにか男たちの目を掻い潜ろうと、決死の覚悟で川を泳いだ。ララーナ自身を指差す男の存在に気づき、ずぶ濡れの状態で走り去った。その様子を見ていた男はつぶやく。
「こんなクソ寒い中泳いだら、死んでも不思議じゃねえ……」
 ララーナを放置しようという流れになりかけたが、リーダー格の男は他の仲間を怒鳴りつけて行動を促す。
「殺した証拠がなきゃ、リゼラのババアが文句垂れるに決まってるだろうが!! とっとと橋を探せ!!」
 ララーナが走り去った方角には、村らしき影があった。しかし、ララーナがたどり着いた村は閑散としていた。そこはすでに廃村と化し、捨て去られた土地と共に家屋だけが残されていた。
 荒れ果てた廃墟の影に身を潜めるララーナは全身を震わせ、びしょ濡れのまま耐え忍ぶほかなかった。
 降り積もった雪の上に点々と続く狐の足跡をたどり、ララーナを狙う男たちも村へとやって来た。
 男たちはならず者風情ながら武装しており、どこからか盗掘してきたと思しき古代兵器を装備していた。その内の4人は、それぞれ両腕や両脚、胴体を覆う装甲型の兵器を装備している。それに加え、リーダー格の男は魔導器らしい代物も備えている。
「おーい、女狐ちゃーん♪」
「俺たちが暖めてやるから、出ておいで〜」
 下品な笑い声を上げる男たちは、助けを望めないララーナの命運を支配したつもりでいた──。

 イレギュラーズ一同は、橋を渡り始めた男たちの後ろ姿を見つけ、その跡を追った。女将から聞き出した護衛の情報と合致する特徴を見出し、イレギュラーズは男たちの行動を怪しんだ。そして、男たちの言動からララーナを探していること、その目的を察したイレギュラーズは、一層足音を忍ばせた――。

GMコメント

●情報屋からの挨拶
「どうも、マギト・カーマインです。
 大佐(依頼人)がしょうもないウソをついたとは言え、見過ごす訳にもいかないでしょう。ララーナ殿を救うことで、こちらの信用も保たれるというものですからねぇ。(大佐から迷惑料をぶんどるためにも)皆さんの御尽力に期待していますよ」

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●成功条件
 廃村に隠れるララーナの無事を確保すること。
●失敗条件
 ララーナの死亡。

●ララーナについて
 保護対象であり、依頼人の愛人。白狐の獣種。
 人型から獣型に変化し、廃村のどこかに隠れている。狐の成獣と変わらない大きさ。
 寒さにある程度耐性はあるが、川を泳いだことで衰弱している。

●廃村について
 積雪量は数センチほど。
 鉄帝の動乱と共に廃れた土地。無人の家屋が数棟並び、大きな農業用倉庫が目立つ。窓ガラスやドアなどが破壊された痕跡もある。
 ララーナを探す男たちはバラバラに行動しているため、家屋の影などに潜んで不意打ちを狙うこともできるだろう。

●敵について
 依頼人の妻、リゼラに雇われた殺し屋たち、10人。いずれも鉄騎種。内4人は、盗掘したと思われる装備型の古代兵器を身につけている。古代兵器の装備によって両腕を強化した者(以下表記『腕装者』)、両脚を強化した者(以下表記『脚装者』)、胴体を強化した者(以下表記『胴装者』)、魔導器を操る者(以下表記『魔装者』)が戦力の要となっている。
 リーダー格の魔装者は、魔導器からプロジェクターのように魔法陣を投影することで、仲間の強化や治癒(神自域【識別】【治癒】【HP回復】【再生】、神近域【識別】【HP鎧】)、攻撃(神近列【弱点】)を行う。
 腕装者は優れた攻撃力を有し、装甲に覆われた拳から強力な攻撃(物近単【防無】)を繰り出す。
 脚装者は優れた機動力を有し、主に装甲に覆われた脚を利用し蹴り技(物近単【移】【飛】)を放つ。
 胴装者は優れた防御技術、特殊抵抗を有し、率先してリーダー格をかばう。物近単の攻撃以外にも、装甲自体から魔力の波動(神近域【識別】【ショック】)を放つことで周囲の者を攻撃に巻き込む。
 他の6人は、トマホーク型の斧やナイフ(物近単)を用いて攻撃を行う。


 個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。


行動場所
 以下の選択肢の中から、ララーナを探すエリアを選択して下さい。
 それぞれの建物は、1分足らずで行き来できる距離内にある。大きな声や物音を立てればすぐに気づかれるだろう。
 ※選択ミスによって、選択肢とプレイング内容が矛盾した場合は、プレイングを優先します。判定が不利になることはありません。

【1】廃村の西側を探す
 廃墟と化した家屋が、最も荒らされた痕跡が目立つエリア。
 腕装者、脚装者の他にも、軽装の3名がうろついている。

【2】廃村の東側を探す
比較的家屋の損傷が少ないエリア。
軽装の3名がうろついている。

【3】農業用倉庫を探す
 倉庫の大きな扉は解放されたままになっている。
 魔導器を持ったリーダー格と、胴装者が倉庫内を捜索している。

  • 寒獄からの脱出完了
  • GM名夏雨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンティール・リアン(p3p000050)
雲雀
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)
天翔鉱龍
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ぽきゃらざわ すくみ(p3p010967)
SUPER YOIKO

リプレイ


 鉱石の翼を持つ『天翔ける竜神』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)は、高所から敵の動きを窺おうと上空へ飛び立った。
 ララーナを狙う殺し屋たちに悟られないようにしつつ、ェクセレリァスは廃村全体を見渡せる高度を維持する。
 ──誰が暗殺を目論んだのやら……まぁ想像はつくけど。確証が得られたら吊るし上げに行くべきかな、黒幕。
 わずかな間そんな考えを巡らせていたェクセレリァスだったが、一瞬吹き荒んだ寒風に身震いしてつぶやく。
「しかし……鉄帝国の冬は冷え込むねぇ」

 追手を巻くために川を渡り切ったものの、ララーナはすでに追いつかれている状況に危機感を募らせた。倉庫の隅に山積みにされ、放置された農機具や木箱、タルの間に小さな体をねじ込み、ララーナは身を潜める。充満するホコリやカビの臭いにも耐え、ララーナは震えが治まらない体を縮こませていた。
 窮地に追い込まれたララーナを救うため、イレギュラーズは一丸となって索敵を開始する。
 手分けして廃村中を探す男たちに対処しようと、イレギュラーズ8人も各々の配置につき、男たちの隙を窺う。
 『雲雀』サンティール・リアン(p3p000050)、『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の3人は、東側の家屋付近の様子を探る。義弘は研ぎ澄まされた感覚を駆使し、常に周囲の気配に注意を払う。
 イズマは超人的な視野の広さ、聴力を駆使することで、家屋の向こうの対象の動きを把握することに長けた。それに加え、『雲雀』サンティール・リアン(p3p000050)は他者の感情を探知する特殊な力を発揮する。サンティールは、ララーナが最も感じているであろう『恐怖』の感情に焦点を絞った。サンティールがわずかながらに感じた気配は、倉庫がある方角を示していた。
 ──すぐに迎えにいくから、もう少しこらえていてね。
 死を身近に感じ、震えているであろうララーナの心細さを推し量り、サンティールは心中でつぶやいた。

「おい、あそこだ! あそこにいるぞ!!」
 殺し屋の1人、両脚を古代兵器の装甲で固めた男は、茂みの影から顔を出す白い狐に気づいて声を上げた。しかし、その狐はサンティールが生み出した幻影であった。
 大声を上げた仲間に気づき、他の殺し屋もその場に合流しようとする。しかし、イレギュラーズは合流を阻止し、殺し屋たちを分断させるために動き出す。飛行するェクセレリァスは射程圏内まで距離を詰め、大弓型の武器を構える。『ラド・バウA級闘士』サンディ・カルタ(p3p000438)は、倉庫から出てきた男2人の気を引こうとあるものを投げ放った。
 殺し屋たちは潜んでいたイレギュラーズの存在を、ほぼ同時に認識することとなる。5人の男たちが白い狐の幻影に接近する直前、機会を窺っていたイズマは細剣を構えて飛び出した。一方で、ェクセレリァスも大弓型のビーム砲から強烈な一撃を放つ。弓を引くように放たれた光線は、爆砕された地面諸共男の1人を吹き飛ばす。あらゆる方角から荒々しい悲鳴が聞こえ、廃村全体が戦場と化していく。


「ぽきゃらざわがただのぽきゃらざわじゃないってとこ、見せてあげるわ!」
 ェクセレリァスが攻撃を放ったのを皮切りに、『SUPER YOIKO』ぽきゃらざわ すくみ(p3p010967)も攻撃に踏み切る。ェクセレリァスと共に東側の3人を狙い、すくみは瞬時に魔弾を放った。
 上空と地上、両方向からの奇襲に男たちは取り乱す。すくみの魔弾が肩先をかすめた瞬間、男の1人はすくみと視線を交える。その鋭い眼差しに闘志を宿し、すくみは相手に向けて啖呵を切った。
「ララーナさんのことは、諦めてもらうわ! その、この、あなたたち、えー……殺し屋さん??」
 すくみは「名前なんていうの!? 敵にしたってわからないと接しづらいわ!」とぶつぶつと独り言をつぶやき、ころころと変わる表情、その突飛な言動で注意を引いた。
「ジャクソン!? ジャクソンなの!? 名乗らないならジャクソンって呼ぶわね!?」

(せっかくなので、殺し屋のリーダー格をジャクソンAとしよう)
 倉庫から出てきたジャクソンAの足元には、メッセージカードが突き刺さる。そのカードには、「お前たちのターゲットを頂戴する」という一文が刻まれていた。途端に男たちの表情には緊張が走る。
 ジャクソンAに付き従う男、古代兵器の鎧を身につけたジャクソンBは、「おい、誰だ?!」と威勢よく声を張り上げる。その一言に応えるように、カードの主のサンディは続け様に標的へと放った。ジャクソンBの鎧に勢いよく弾かれたカードは、ジャクソンAの頬をかすめ、刃のような切れ味で切傷を刻んだ。
 反射的に後ずさる両名の前に、サンディは姿を見せる。
「かくれんぼも飽きただろ? 俺たちが相手になってやるぜ」
 そう言って不遜な態度で相手を挑発するサンディは、2人が倉庫に引き返さないように立ち回る。
 「てめぇ、誰の差し金だ?!」とジャクソンBがサンディに向かって言いかけたとき、『荒くれ共の統率者』ジェイク・夜乃(p3p001103)は両手にある引き金を引いた。激しい斉射によって、2人は倉庫の前から追いやられていく。
 ジェイクは相手に銃口を向けながら、
「リゼラという女に雇われたのはお前らだな?」
 決して狙いを逸らさない眼差し、相手をすくみ上がらせるような威圧感を放って対峙する。
 只者ではないジェイクの殺気を感じつつも、男たちはがむしゃらに自身を奮い立たせる。瞬時に挑む構えを見せたが、『最期の願いを』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)の攻撃が前触れもなく迫り来る。
 家屋の影から刀を抜き放ったシューヴェルトは、その刃に呪詛の力を宿した一太刀を放った。朽ちた壁を貫くと共に、見えざる刃は疾風のごとくジャクソンBへと到達する。ジャクソンBは、強かな衝撃を受け止めて後方へと滑り込んだ。直後にサンディは攻撃をつなげようとするが、相手は即座に巻き返しを図る。
 魔導器からサンディの足元に向けて魔法陣を照射するジャクソンAの動きを見切り、サンディはその範囲内からすばやく飛び退いた。一瞬の強烈な明滅の直後、魔法陣が照射された地面一帯は爆ぜるように吹き飛んだ。
 魔導器から魔力を引き出すジャクソンAは、サンディをけん制するために、ジャクソンBと共に攻勢を強めていく。しかし、シューヴェルトも戦線へと加わり、その勢いは打ち消されていく。攻め上がるシューヴェルトの剣技は、強靭かつ荒々しくジャクソンAらを翻弄する。振り下ろされたシューヴェルトの太刀筋は、空間そのものに影響を及ぼすかのようにジャクソンAらを捉え、たちまち切創を刻んだ。
 一方で、ジェイクは射撃の腕前を生かしてサンディとシューヴェルトの援護に徹する。その傍ら、ジェイクはネズミの使い魔──ファミリアーにも指示を与えることで、ララーナの居場所を捜索させる。ジェイクと同様、五感を共有するファミリアーを駆使するイズマの協力もあり、すでに倉庫内に目星はつけていた。
 ネズミの大きさならば余裕で通れる隙間の向こう、農具とタルの間から覗く白狐の姿は、ララーナに違いない。
 隙を感じさせない佇まいで刀を構えるシューヴェルトは、
「さて、君たちの動きについても、知る必要があるな……」
 その一言と共に、シューヴェルトの眼光は一挙に冷徹さを増した。


 シューヴェルトらがジャクソンAらと対峙する間にも、義弘、イズマ、サンティールらも殺し屋たちへの猛攻を開始していた。
 イズマは真っ先に、対象を撃退しようと奇襲を仕掛けた。サンティールも即座にその後に続き、流れるような身のこなしで相手の間合いに踏み込む。急速に魔力を高めたこん身の一突きは、瞬く間に男の1人を捉える。イズマとサンティールの動きに反応できず、相手はその場にくずおれた。
 古代兵器で武装したジャクソンCとDを始め、飛び出してきたイズマとサンティールの姿に目を見張り、男たち4人は向き直る。その4人を挟むようにして、義弘はイズマらの向かい側に立ち、堂々と相手を睨みつける。
 ──人死には好きじゃねえ。助けられる奴を助けるだけだぜ。
 ララーナが何者であろうと、人命を優先する意志を貫くため、義弘は殺し屋に対処しようと身構えた。
 両脚に古代兵器の装甲を身に着けた男──ジャクソンCは、その鋭い眼光からも敵意を露わにする。
「よう、精が出るじゃねえか。そろそろ休んどけや」
 そうつぶやいた義弘が1歩踏み出した瞬間、ジャクソンCは一足飛びですでに義弘の目の前に迫っていた。一見丸腰に見える義弘だったが、その強靭な肉体を武器に立ち回る。
 ジャクソンCの身体能力を高める古代兵器は、空気圧を利用した人工筋肉に匹敵するアシスト装甲と呼べる代物だった。その装甲を生かして放たれた蹴撃だったが、横薙ぎにされるかと思われた義弘の体はびくともしない。
 動じることのない義弘の反応に対し、男の動きは一瞬止まる。しかし、そこからは常人離れした技のぶつかり合いが繰り広げられる。
 互いに乱れ打つ技は、空気を貫くほどの力強さを感じさせ、怒涛の攻防が展開される。義弘がジャクソンCの相手に傾注する間にも、イズマとサンティールはジャクソンDらを打ち倒す勢いを加速させていく。
 イズマはまず、斧を手にして向かって来たジャクソンEの動きを確実に見切り、無駄のない動きで体をそらす。自らの間合いにジャクソンEを引き込んだイズマは、相手を容赦なく刺し貫く。その衝撃によってよろめいた相手は、鮮血を流して後ずさる。
 同様に斧を構えたジャクソンFは、ジャクソンEと入れ替わるようにして向かって来た。刺突用の剣を巧みに扱うサンティールは、ガードが甘いジャクソンFの足元を狙う。足首あたりに刃を突き立てられたジャクソンFは勢いを削がれ、大いに隙を見せた。サンティールとの連携でとどめを狙おうとしたイズマだったが、ジャクソンDがそれを阻む。
 腕力を補助するジャクソンDの古代兵器は、その威力を申し分なく発揮した。ジャクソンDの装甲に覆われた拳がイズマの目の前へと迫ったが、その拳は地面を突き砕いた。
 大きく割れた地面が、古代兵器の威力を物語っている。機敏かつ冷静な判断でその一撃を回避したイズマは、
「これ以上、仕事の邪魔をしないでもらえるか?」
 どこか余裕が窺える表情で言った。そんなイズマをわずかな間注視していたジャクソンDは、
「お前……、ローレットの……!」
 イズマの手腕を聞き及んでいる素振りを見せ、表情を曇らせる。だが、殺し屋の自負心にかけて、ジャクソンDは後には引けない思いがあった。

 大弓型の武器を構えるェクセレリァスは、上空から一方的に男たちを仕留めていく。ェクセレリァスに到底太刀打ちできないジャクソンG、Hは、仲間と合流しようとする。その動きを察知したすくみは即座に魔弾を放ち、ジャクソンGの意識を混濁させる。
 ェクセレリァスによって射抜かれるジャクソンGを顧みず、ジャクソンHは立ち塞がるすくみへと、必死の形相で突進する。すくみは、ジャクソンHを身を挺して止めようとした。互いに体当たりを食らわせようと衝突したが、すくみは一方的に突き飛ばされる。
 すくみが稼いだ時間を、ェクセレリァスは決して無駄にすることはなかった。ジャクソンHの足元を狙ってビーム砲を放ち、爆破の威力によってジャクソンHを吹き飛ばす。ジャクソンHは近くの家屋の壁に激突し、地面に倒れ込んだまま動かなくなった。
 ェクセレリァスはジャクソンHの背中を踏みつけ、反応を確かめる。短くうめいたジャクソンHにまだ意識があることを確かめ、ェクセレリァスは言った。
「なんとなく予想はつくけど、誰の依頼?」
 質問に答える気配のないジャクソンHに対し、ェクセレリァスは冷徹に言い放つ。
「――素直に吐くなら殺しはしないよ」


 一方で、倉庫の前でも激しい攻防が繰り広げられていた。炎の力を引き出すサンディは、その苛烈な攻撃によってジャクソンAとBの注意を引きつける。
 ジャクソンBは、炎の力に魅せられたように怒りに支配され、サンディへの猛攻を繰り返す。シューヴェルトは、サンディを仕留めることに夢中になっているジャクソンBの隙を突くように動いた。
 研ぎ澄まされたシューヴェルトの太刀筋は、ジャクソンBを鎧ごと断ち切る勢いが窺えた。ジャクソンBは寸前のところで身をそらし、シューヴェルトの切っ先は顔や胸の辺りを浅くなぞる。ジャクソンBは冷静さを取り戻すように頭を振り、剣を構えてシューヴェルトに対処しようとした。
 ジャクソンBが飛び退いた直後、ジャクソンAは即座に魔法陣を照射する。地上に映し出された魔法陣が一層輝き出した瞬間、魔法陣を形成する光は無数の刃となって飛び出す。激しく瞬く魔法陣は、サンディやシューヴェルトを狙って光の刃を射出し続ける。
 途切れることのないジャクソンAの攻撃が続いたのわずかな間で、ジェイクはジャクソンAの左腕に装着された古代兵器を撃ち抜いた。古代兵器が火花を上げると同時に、ジャクソンAの左腕は鮮血で濡れる。
 顔を歪めるジャクソンAは、痺れを切らしたように他の仲間に向かって叫んだ。
「何してんだ、お前ら!?? こっち来て手伝えよ!!!!」
 家屋のすぐ向こう側からジャクソンAの怒鳴り声が聞こえ、義弘との攻防戦に臨んでいたジャクソンCは気を取られる。そのジャクソンCに対し、義弘の拳は顔面を捉えた。脳震とうを起こすほどの直撃を食らい、ジャクソンCはよろめきながら後ずさる。
 ジャクソンAの声に呼応するように、ジャクソンDも瞬時に動き出した。進路を塞ぐ義弘を背後から引き倒そうと、ジャクソンDはその肩に手をかけようとした。だが、義弘は寸前でジャクソンDの気配を捉え、背負い投げの要領でジャクソンDを投げ飛ばす。意識が朦朧としていたジャクソンCは、投げ飛ばされたジャクソンDを避け切れずに昏倒した。
 ジャクソンDは「クソッ!」と悪態をつきながらも、すばやく倉庫のある方角へと向かう。家屋の影から倉庫側に顔を出した途端、ジャクソンDはジェイクの射撃に晒される。そこへ追い打ちをかけるように、イズマとサンティールが剣を掲げて迫った。装甲で攻撃を受け止めつつ、ジャクソンDはどうにか合流を果たした。
 ジェイクらの下に義弘、イズマ、サンティールも加わり、窮地に追い込まれている状況が明白になる。
「おい、これだけしか残ってねえのかよ?!」
 ジャクソンAは、苛ついた口調でジャクソンDに尋ねた。ところが、ジャクソンDはこれ以上状況を打開できないと判断したのか、下手な命乞いを始めた。
「お、俺は、ララーナの居場所なんか知らねえ! 知ってるのはあいつさ!!!!」
 平静を失ったジャクソンDの言葉を聞き、A、BはジャクソンDを口汚く罵り始めた。倉庫内に隠れるララーナは、その様子に注意深く耳を傾けていた。
 仲間割れをしている隙に、ララーナはその場から人知れず逃げ出そうとしていた。しかし、そんなララーナを止める声があった。
「落ち着いて。俺達はあなたを助けに来た。あなたの味方だ。どうか安心してほしい」
 その声は、ファミリアーを通してララーナに念話を送るイズマのものだった。その場にしばらく留まるように、イズマはララーナを説き伏せる。その間に、サンディはお互いを罵り合うジャクソンたちに向けて、躊躇なく攻撃を走らせる。大きく振り抜いた右腕から紫電を走らせ、サンディは一挙にジャクソンらを払い除ける。
「気概のある奴は、俺の舎弟候補に入れてやってもいいが――」
 そう声を掛けようとしたサンディだったが、すでに3人はその場に伸びていて、感電した体をびくびくさせていた。
 相手が気を失っていることを確認したサンティールは、倉庫内に向けて声を張り上げる。
「ララーナ、きみを助けにきたんだ。僕たちはローレットのイレギュラーズ――」
 すくみは更に威勢よく倉庫の前に躍り出ると、
「ストームグレイ大佐からの依頼で来たぽきゃらざわよ! ローレットよ!」
 自分たちが味方であることを、全身を使って懸命に伝えようとする。
「見てこのダンス! 無害ダンスよ! 無害なひとしか踊れないダンスだと思わない!?」
 左右に腰をひねるすくみの軽妙な動きを見て、ェクセレリァスは笑いが込み上げて来るのをぐっと堪える。
 不意にェクセレリァスは、ジェイクの表情に視線を向けた。終始渋い表情を見せるジェイクは、「大佐の甲斐性がないから、ララーナを危険に晒してるんじゃないのか」と不服に感じていたが、古びたタルの影から顔を出す白狐の姿に気づく。
「こわかったね、もう大丈夫だよ」
 互いにゆっくりと歩み寄ったサンティールは、そう声をかけながらララーナの体に上着をかける。
 ララーナは上着に包まった状態で震え続けていたが、ェクセレリァスは「とりあえず、これで寒さを凌いで」と古めかしい写本を手渡す。不思議な力を持つ写本は、ララーナの周囲の気温を適温に保つように働く。
「それで、君はこれからどうしたいんだ?」
 シューヴェルトはララーナに尋ねたが、サンディはララーナの返事を待たずに協力を申し出る。
「隠ぺい工作なら協力するぜ? 大佐と口裏を合わせて、あんたは死んだことにすればいい――」
 しばらく震えていたララーナだったが、ようやく落ち着いた様子を見せて今後のことを話す。
「あ、ありがとう……予定通り海洋には向かいたいわ。面倒を見てくれる当てはあるから」
 イレギュラーズは当初の予定通り、ララーナを港まで送り届ける務めを遂行した。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。

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