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シナリオ詳細

<被象の正義>謳う正義は誰のもの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 こんにちは、偽りだらけの皆さん!

 あたしの名前はカルヴァニヤ!
 ――え? どうせ魔種なのだろう、ですって?
 失礼ね! あたしは『遂行者』! 神のご意志に従って正義を旗めかす一人の戦乙女よ!
 たまたま――そう、たまたまちょっと、“頭を打っちゃった”だけなの。

 さあ、今回は部下と一緒に初陣よ。といっても、あたしは顔見せで戦闘には参加しないけど。
 可愛いプチドラグちゃんたちと一緒に、本当の正義を教えに行くの。
 目指すのは勿論天義――なんて傲慢な名前なのかしら!――の首都よ。本当の正義というものは、頭に教えてあげないといけない。そうは思わない?
 あたしはそう思ってる。手足に教えてあげたって、頭が理解出来なければ意味はない。其れは教示も戦いも同じ。
 サマエルがご丁寧に宣戦布告をしたみたいだから、世界を歪ませている“あいつら”が来る可能性は高いけど……まあいいわ、好都合!
 どうせだから“あいつら”……イレギュラーズの頭にも教えてあげましょう!

 何が本当の正義なのか。
 何が本当の世界なのか。
 本来あるべき歴史をあの子たちがどれだけ歪ませてめちゃくちゃにしているのかをね!

「ねえ、そうよね?」

 薄い色の金髪を一つにまとめた女――カルヴァニヤは異形の言葉が飛び交う街の入り口で、部下である子どもたちへと向き直る。
 彼らはみな一様に白く清らかな服を着ており、しかし其の表情は虚ろであった。

「はい、カルヴァニヤさま」
「このリンバス・シティこそがただしいもの」
「正義はすいこうされるべきなのです」
「カルヴァニヤさま」
「ぼくらの、おかあさま」

「うん! とっても良い答え! じゃあ――偽りの正義ってやつを、ぶっ壊しに行きましょ!」




 リリィリィ・レギオン(p3n000234)は天義とその周辺区域が描かれた地図を広げる。其の傍にはかつてアドラステイアと呼ばれた場所があり……細かな情報が書き込まれていた。どうやら、グレモリーのものを借りてきたようだ。

「僕はさ」

 リリィリィがぽつり、と語る。

「本来あるべき歴史、とか、本来の正義だとか、そういうものに興味はなくて……正義はヒトの数だけあって、歴史だってヒトが変えていくものだと思ってるんだ。……其れが混沌では出来るって思ってたんだけど、どうやらそうじゃないみたいだね」

 ここ。
 トントン、と細い指がさし示したのは、天義国内部の巨大な街、『テセラ・ニバス』だった。

「此処が数日前、突然“占拠された”。……理屈は解明できていないけれど、首謀者は既に声明を出してる。サマエルって奴でさ、曰く『天義の正義は全て偽りであり、白亜の都は虚妄に満ちている。本来あるべき歴史のうちにある、正しく強い正義の都を此処に顕現させよう』だって」

 傲慢だよね。
 リリィリィは珍しく、否定的に断ずるように言った。

「最初にも言ったけど、正義なんて人の数だけあって、歴史だって人の手で幾らでも変わっていくものなんだ。文句を言うだけならいいけど、“本来の正義ではない”って断じる権利は誰にもないし、“本来あるべき歴史”なんてものもないんだ。――ましてや、都市を一つ消し去ったような奴が言っていい事じゃないんだよ」

 唇を尖らせて、赤ペンを取り出すリリィリィ。
 嘗てテセラ・ニバス『だった』都市を囲むように赤ペンで印をつけると……じゃあお仕事の話だ、とイレギュラーズに振り返った。

「此処から一つの群れが出立した、という知らせが調査員から入ったよ。今から急げば……ええと、此処。首都との間にある街道で彼らを迎え撃つ事が出来るはずだ。正直未知の勢力だから交戦はお勧めできないんだけど、一つだけ判る情報があって……ええと、R.O.Oって覚えてる?」

 覚えてるよね、とリリィリィは確認の問いを重ねる。
 あのシステムに以前現れた“ワールドイーター”を知っているだろう、と。

「あれにそっくりな小さな竜みたいなものを沢山連れているんだって。あとは女が一人と、子どもが数人。多分“全員普通じゃない”。情報が少なすぎるから不安もあるだろうけど、取り敢えず其の小さな竜だけは全滅させて欲しいんだ。ワールドイーターと同じだとすれば、彼らが首都に着いた瞬間に始まるのは殲滅だから」

 世界を喰らってどうするんだろうね?
 あるべき歴史とやらに戻すつもりなのかな。

 リリィリィは余程頭に来ているのだろう、ぶつぶつと呟きながらも、イレギュラーズの武運を祈るのだった。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 正義や歴史に限らず「あるべき」を押し付けて来る輩にロクなのはいません。

●目標
 謎の集団と街道にて接敵せよ

●立地
 天義の首都と変貌した都市『テセラ・ニバス』の間にある街道です。
 整備は十分になされており、十分な視界を確保できます。
 遠くからでも判るでしょう。女を先頭に、小さな竜のようなものと小さい人影が巡礼者のように歩いてくるのが。

●エネミー
 竜のようなものx10超
 子どもx3
 女x1

 ただでさえ一夜で掌握されたテセラ・ニバスから出てきた集団です。
 話が通じるかどうかは話してみないと判りませんが、
 戦闘の準備はしておいて損はありません。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。



 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <被象の正義>謳う正義は誰のもの完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
すずな(p3p005307)
信ず刄
シュテルン(p3p006791)
ブルースターは枯れ果てて
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ


 ああ、パレードが進んでゆく。
 異言を語る都市から出立したパレードが、意気揚々と天義へと進んでいく。
 踊り子の黒き竜たちは、戯れに空を形作る“空間”をばくり! ――其処はぽっかりと穴が開いたような空白になって。
 子どもたちは二人一組、仲良く手を繋いで歩いている。

「あれがただの見学ピクニックだったら、どれだけよかったかしらね」

 ――都市から天義首都へと繋がる街道。
 リリィリィが示した場所で無事に彼らを迎撃できそうなのを確認すると、『この手を貴女に』タイム(p3p007854)は7人を振り返った。

「そうねぇ。これで本当に“観光です”って言われたら、ちょっと戸惑っちゃうわねぇ」

 視界がふわふわするのは、蟲じゃなくて酔いの所為だ。そう言い聞かせながら『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は頬に手を当て、軽く首を傾げた。彼女は先手を切って、パレードを先導する女と対話する心積もりでいる。

「正義というものは私にはよく判らないけれど。でも、何だか楽しそうよね、あの人」

 『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は視線でパレードの先頭を示した。淡い金色がふわり、と舞う。気付けば彼らは随分と一向に近付いていて……先頭の女の容姿も良く判る。
 目を閉じていた。恐らく前髪で隠している片方の目で、周囲を把握しているのだろう。閉じた眼に貼り付けたかのように、黒い刻印があった。楽しそうに鼻歌すら歌いながら、女は一行と距離を空けて立ち止まる。

「あら、こんにちは」
「こんにちはぁ。この先は聖都なのだけど、巡礼かしらぁ? 其れとも観光? なんだか物騒な護衛を連れてるわねぇ」

 黒い竜たちはふわりふわり、宙を舞っている。いつ世界を喰らいだすか判らない其の存在に、盾役のタイムと『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)は警戒を強めた。
 其の警戒は女にも、子どもにも伝わっている筈だ。子どもは少し怯えるような所作を見せたが、女は面白いものをみたかのようにあはは! と笑った。

「偽りの正義に巡礼する気なんてないわ! 私たちはね、これから本当の正義って奴を見せてあげにいくの」
「……正義?」

 皆の後ろに控えていた『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)が不思議そうに首を傾げる。正義とは、なんだろう?
 女はメイを閉じた眼で“見る”と、判らないわよね、と明るく言った。

「正義というのはね、澄み切った水のようなもののことよ。でもね、天義の掲げる正義は違うわ。ねえ“イレギュラーズ”さん、あなた達だって解ってるでしょう。天義は澄み切った水ですよと言っておきながら、澄んでいるのは表面だけ。中身はドロドロで、グチャグチャで、酷い色をして濁り切っているわ。――……まあ~、ねえ」

 其処まで言うと、女はちょっとだけ渋い顔をして天を仰ぐ。
 「サマエルのした事は、褒められた事じゃないかも知れないけど」と言った。其の言に、僅かに『あなたへのうた』シュテルン(p3p006791)が目を見開く。

「褒められる……ない?」
「ええ。だって街をぶっ潰して、自分たちの街を立てちゃったんだものねえ。そりゃああの都も偽りで満ちていたけれど、せめて“奪いますよ”くらい言えば……うーん、でも其れで退いてくれる人たちじゃなかったかなぁ……? 私だったら一言くらいは言うわね。だって市民の中には、改心してくれる人もいるかもしれないんだから!」

 ――余りに。

 ――余りに“ポジティブすぎる狂気”を目前にして、シュテルンは訳が分からなくなった。正義に苦しむ人がいる。其れを彼女も知っているからだ。

 『お父様』の正義は、まだ続いているのかな。
 まだ苦しんでいる人はいるのかな。
 ずっと正しいと思っていた事が“間違っている”のだと知った日、シュテルンはとても驚いたけれど……でも、少しだけ安心もしたのだ。ああ、シュテが感じた事は間違いじゃなかったんだって。
 ……目の前の女の人は、正義を信じている。
 そして其の正義の為に、正義を潰すつもりで……でも、問答無用で潰す訳じゃなくって、……あれ…? あれれ……?

「天義の正義、貴方の正義、そして私の正義。――どれが果たして正しいのか、其れは誰にも判る事ではありません」

 シュテルンの迷いを断ち切るかのように述べたのは、『忠犬』すずな(p3p005307)だった。女がさらりと述べたように、彼女もさらりと述べて見せる。
 そうして、「けれど、だから」と続けた。

「貴方は貴方の正義を信じればいい。私は私の正義を信じます。つまり、“そういうこと”です」
「あら! 貴方、話が早くて判りやすいわね! カルちゃんポイントを10点あげるわ」
「カルちゃん? あぁ、私はアーリアっていうのだけどぉ……貴方はぁ?」

 そう言えば名前も知らなかったわね、とアーリアが問うと、女はええ! と快活に頷いた。

「私はカルヴァニヤ! 遂行者カルヴァニヤよ! だから“カルちゃんポイント”なの。ああ、後ろにいる子たちの名前は……えっと……忘れたわ!」
「……おかあさまが忘れたから、ぼくもおなまえ、わすれました」
「ぼくも」
「わたしも」

 子どもは奇妙に追随する。
 何か群体めいた不気味さを感じさせる子どもたちだった。同じ白い服を着て、同じ表情をしている。一人が首を傾げれば、皆が首を傾げて見せる。
 其処に不気味なものを感じた、感じたが――其れでも子どもは子どもだ。コルネリアはぎろりとカルヴァニヤと名乗った女を見た。王冠に剣を意匠した其のタトゥーか何かを見た。

「なあ」
「なにかしら!」
「ガキ共の選択権利まで奪って、てめぇは何がしたい」

 子どもたちは、正義という言葉を理解するにはまだ幼いように見えた。
 つまり其れは、カルヴァニヤが彼女の騙る正義の為に子どもたちを良いように扱っている、という事だ。
 其れがコルネリアには一番許せなかった。二番目に許せなかったのは、軽々と正義を語って見せる其の様。つまりは、全部、気に食わない。

「選択権利? あら! ……そうね。……貴方達は、知らないのね」

 カルヴァニヤは残念そうに「其れが貴方達の傲慢だわ」と溜息を吐く。

「何が言いたい」
「もうお話は終わりという事よ。アーリアさん、だったかしら。其れからカルちゃんポイント10点の貴方」

 カルヴァニヤは閉じた眼で、アーリアとすずなを順繰りに見て。其れからイレギュラーズ8人を覚えるように見渡して、にこり! と笑みを浮かべると。

「貴方がたは重大な運命違反を犯しています! これは情状酌量とかそういう話ではありません。天義にはまだ改心の余地がある人間がいるかもしれないけれど、貴方達はそうではないわ。貴方は徹底的に予言を踏み躙り歪めている。私は神の使徒として其れを赦す訳にはいかないの。だから――ここで死んでもらいます。さあ、子どもちゃんたち! プチドラグちゃんを操縦して、此処にいる人たちを狙ってみよう!」

「嗚呼――やっと、舞台の幕があがる?」

 かつん、かん。
 踏み固められた街道に鋭い音が響き渡る。『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)の“靴”が大地を踏み鳴らし、バレリーヌは幕が上がったと笑みを浮かべる。
 対照的に、コルネリアはち、と盛大に舌打ちをして。

「訳が分からな過ぎて気味が悪ぃな!! タイム! 行くぞ!」
「ええ! さあ、子どもたち! 貴方達は“こっちよ”!」



 子どもたちが掌にひかりを集める。
 其れは清らかで、悲しい程攻撃的。放たれたそれらの光弾を、タイムは一人で受けきる。こっちよ、と誘導した瞬間から、子どもたちはタイムしか見えていないのだ。

「ッ……!」

 見た目は子どもだが、其の攻撃の威力は子どもらしくない。だが、殺したくはない。タイムの内で感情がせめぎ合う。願うなら攻撃できない子どもたちなら、と思っていた。だが、子どもたちはこうして攻撃を仕掛けてきている。反撃をしなければ削られるばかり。けれど――彼らは、天義の片隅で。アドラステイアという穢れた楽園で烙印を押され、渓の底へと墜とされた子らを思い出させて。

「ねえ、こんなところにいたらきっとパパとママが心配するわ」

 だから、タイムは子どもたちに語り掛けるのだ。

「帰ろう? そこは寂しいでしょう?」
「……かえる?」
「……かえる? 僕らがかえるのは、リンバス・シティ」

 子どもたちは風を手元に集める。
 其れは悲しい程清らかで、とても攻撃的。

「ああ、何をしているの?」

 メイが回復を紡ぐけれど、あの風を受ければタイムは小さな奇跡を使わざるを得ない。
 そんな所にに斬り込んできたのは――ああ、麗しのバレリーヌ!

「私もいるわよぉ! 勿論今回は脇役で留まるけどぉ!」

 アーリアが神秘を紡ぐ。だって魔女は、主役にはなれない。でもいいの、酒場で飲んだくれているおねーさんだったり、時に気紛れに魔術を扱う魔女であったり……そんな役どころが、私にはとても気楽なんだもの!
 ふう、と掌に吐息一つ。きらきらと輝く霧のようにはためく銀色の蛾たちは子どもたちに纏わりついて、其の動きを阻害する。
 其処にヴィリスが閃光を放ち、子どもたちの気力を削いでいく。

「あ」

 ふと、子どもの一人が気力を削り切られてぱたり、と斃れた。

「ごめんなさい、カルヴァニヤおかあさま」

 そう呟いたかと思うと、ぶわっ! と……正真正銘光り輝く霧となって、“霧散した”。

「……!?」

 タイムが目を見開く。アーリアもまた目を瞠り、ヴィリスはあら、と意外そうに呟いた。

「良いのよ。貴方にカルちゃんポイントを30点あげるわ! おやすみなさい、子どもちゃん!」
「……どういうことぉ?」
「どういう事も何も、見た通りよ。其の子どもちゃんたちは、“一度死んでいる”の」

 黒い竜――ワールドイーターがコルネリアに群がる。
 コルネリアが彼らを引き付けている間に、すずなが其処に花を咲かせた。剣閃の銀色をした華だ。残念ながら血潮の華はワールドイーターから咲く事はなかったが、黒い霧となって竜はぶわり、とこれまた霧散する。
 ワールドイーターでさえ出所が判らぬのに、……カルヴァニヤは子どもたちを“一度死んでいる”と言った。どういう事だろうか。

「あの子たちはね、アドラステイアで食われた子どもたちよ! 可哀想よね!」
「……!」
「だから、私が“掬い上げた”の。本当の神様の為に働きましょう! って。まあなんていうの? ヘッドハンティングってやつかしら!」

 あまりにあっけらかんというものだから。
 あまりに何でもない事のようにいうから。タイムの目の前は、一瞬で真っ赤になった。

「……お前……お前!!」
「タイム、抑えろ!」
「だって、どうして! あの子たちにどうして此れ以上……!!」

 ヴィリスは余り興味がなさそうに。
 アーリアは静かに今は目を伏せて、考えるのをやめて。ワールドイーターと子どもたちをまとめて巻き込むように攻撃を続ける。

 やめて、とタイムは叫びたかった。

 もうこの子たちを苦しめたくない、と言いたかった。

 でも。
 本当に苦しめたくないなら、此処で斃すべきなのだと――其れもまた、判っていたから。零れそうになる雫を唇を噛み切る程噛み締める事で堪え、子どもたちの攻撃を敢えて受ける。

「……! タイムおねーさん……!」

 シュテルンが回復を紡ぐ。
 けれど小さな奇跡がタイムに輝いて、そして更に子どもたちは猛攻を仕掛ける。
 タイムは斃れる訳にはいかない。けれど……

「――メイが! 出るです!」

 ば、と小さな影が前に出た。
 タイムは思わず目を見開く。其の影は紛れもなく、回復に専念してくれていたメイだったからだ。

「メイさん、貴方!」
「今のうちにシュテルンさんに回復してもらうです! メイは、メイは……! 誰にも、たおれてほしくない!」

 其の幼い眸には、確かにイレギュラーズとしての誇りが輝いていた。
 タイムははっとして……其の間にシュテルンが癒しを紡ぎ、傷を癒していく。

「わあ、貴方! 凄く勇敢ね!」

 カルヴァニヤは喜ぶように手を叩いた。いや、実際に喜んでいた。アーリアとヴィリスによって斃れていく子ども、そしてすずなとコルネリアの連携によって斃れていくワールドイーターの事などもう目に入っていないかのように。

「楽しそうね?」

 フルールが言う。其の手には魔炎。そして、放たれた後。真っ直ぐに其の熱波はカルヴァニアを狙って――

 ――ばちん!!

 風船が弾けたような音がした。
 其れは実際、風が渦巻いた音だ。熱を孕んだ風たちが、フルールが放った破壊の魔術が、カルヴァニヤの一瞥で届く事なく弾けて消えたのだ。

「ええ、楽しいわ。……楽しい、のかな? 良く判らないわね! 私はいつもこうだから。私はただ、預言に従って動くだけ。……誰だったかな? 子どもたちの選択権利を奪って、なんて言ったけど。あの子たちに私は一応訊いたのよ? そうしたら、彼ら、言ったんだもん」

 ――死にたくない、って。

 ヴィリスが舞い踊り、ワールドイーターと子どもを纏めて斬り裂いた。
 其れを止める者は、いなかった。



 ――静寂。

 カルヴァニヤはあの後背を向けて立ち去り、子どもたちもワールドイーターも、世界の塵となって虚空へと還って行った。
 そうして戦いが終わってみれば、メイは傷だらけ。シュテルンが容体を見ているが、決して良くはない様子だった。
 タイムの頭の中で、カルヴァニヤの言葉が回っている。

 あの子たちはアドラステイアの犠牲者。
 死にたくないと言った。
 だから、“本当の神様のために働かせた”。

 吐き気がする。其の暴力的なまでな身勝手さに。
 あの女は神の使徒なんかじゃない。笑顔で何もかもを使い潰す悪魔のような女だ。
 ――そして、私は。あの子たちを、私たちは……

「……タイム」

 同じく傷だらけのコルネリアが声をかける。
 すずなもまた傷だらけだった。相当数のワールドイーターを相手にしたのだ、無傷ではいられない。
 だが、まだ“気は楽”だった。相手は明らかな世界の敵だからだ。

「気にするな、なんて言わねぇけどよ」
「……」
「……憎むなら、あの女にしとけ。自分を責めても何も出ねぇ」
「そうです。彼女はわざわざ“自分が掬い上げた”と言ったのですから。憎むべきは、斃すべきは、あのカルヴァニヤです」



「正義とか悪とか、知った事じゃないわ」

 一方でこう語るバレリーヌがいる。
 ヴィリスはアーリアと戦いを労いあってから、一言そう述べた。

「自分のしている事が正しいとか悪いとか、いちいち考えて生きている人なんてそんなにいないでしょ? わざわざそんな言葉を使う人って、其れを振り翳したい人なんじゃないかしら」
「……強いわねぇ、ヴィリスちゃんは」
「そう?」

 苦笑いするアーリアに、ヴィリスが視線を向ける。
 そうしてバレリーヌは言った。

 私はただ、踊れれば良いもの、と。
 其処に本当の歴史も何もないわ、と。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

タイム(p3p007854)[重傷]
女の子は強いから
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)[重傷]
ひだまりのまもりびと

あとがき

お疲れ様でした。
カルヴァニヤは去り、脅威は排除されました。
……皆さんは、次に彼らにあった時、どうしますか?
ご参加ありがとうございました。

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