PandoraPartyProject

シナリオ詳細

シンデレラの復讐劇

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●灰かぶりと魔女
 身体中の灰を汲み取った水で流しながら、少女エラは悔し涙を浮かべた。
 なぜ、自分がこんな目に遭わなくてはならないのか、貴族の娘であったはずの自分が、と憤る。
「全部、父様と……あの女のせいだ」
 あの女――継母と、その連れ子である二人の姉が原因だと、エラは胸中に渦巻く黒々とした想いを抱え込んだ。
 ――誰か私を救って欲しい。
「……父様も当てにはならない。女の色香に惑わされた馬鹿な人だもの」
 エラは自分を取り巻くすべての環境を憎み、苛立ち、しかしそれを表にだせず心の奥に閉じ込める。徐々に心が壊れていってしまっていることにも気づかずに。
 エラは自分の感情を表に出すのが苦手だった。それが継母達の癇に障ったようだった。
 いつしか、召使い同様の仕事を押しつけられるようになり、今日ついに暖炉の掃除までやらされるようになった。
 汲み取った水に、灰塗れの自分の姿が映る。綺麗に着飾っていた、昔の姿は今はもうない。
 涙が落ちる。
 この胸の内にわだかまる想いを、表に出すことができれば――ハッキリと自分を抑圧する力に抵抗できれば――このような想いをせずにすむのだろうか。
 エラは頭を振り、できもしない幻想を追い払う。
 まだ仕事は残っていた。父と継母達がパーティへと出かけるので、その準備をしなくてはならない。
 ため息すら出ない、重い身体を引きずるようにして屋敷に戻ろうとしたとき、エラは自分の前に立つ黒い影に気づいた。
「……だれ……?」
「私は西の森の魔女。お前があまりにも不憫だったから力になってやろうと思ってねぇ」
 怪しいローブ姿の老婆がそう言って紫の小瓶を取り出した。
 エラは咄嗟に叫びたくなるも、声がでない――否、声をだしてこのチャンスをふいにしてよいのかと、心が制止した。
「力をくれるの……?」
「ああ、お前さんがしたいことをすればええ。それだけの力がこの薬にはあるんじゃよ」
 差し出される小瓶。
 これを飲めば、いつも空想していた理想の自分になれるのか、とエラの心が揺れる。
「わ、私は……」
 震える手を差しのばし、小瓶を受け取る。そうして意を決したように薬を飲み干した。
 すぐに身体が熱くなり、心が解放されるようなそんな気持ちを抱き――。
「ひっひっひっ……どうじゃ気分は?」
「嗚呼……最高だわ。いままでの自分がバカみたいだもの」
 溢れ出る力、解放される気分にエラは爽やかな笑みを浮かべた。
 足取り軽く、エラは屋敷へと戻る。
 いつも空想していた理想の自分。それは、継母と姉達を自分の力で屈服させること。
 今までの復讐をしてやるのだと、溢れ出る魔力をオモチャのように手の上で弄ぶ。
 付きそう西の森の魔女は、これから起こる惨劇を想像し、しわくちゃな顔を邪悪に歪めるのだった。


「シンデレラって知っているかしら?」
 依頼を受けに来たイレギュラーズに、『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が尋ねる。
「一部の旅人さんが知ってる童話ですよね? それがどうかしたんですか?」
 『星翡翠』ラーシア・フェリル(p3n000012)が尋ね返すと、リリィは一つ頷き話はじめた。
「幻想はある貴族の家にエラという娘がいたの。
 彼女は貴族の娘なのだけれど、継母達にいじめられていてね、まさにシンデレラのお話の主人公のようだったのよ」
 しかし、そのエラの前に西の森の魔女を名乗る老婆が現れた。
「そこまではシンデレラのお話通りだけれど……魔女から受け取ったのはドレスやガラスの靴、カボチャの馬車ではなく、人を殺める魔法の力だったわけよ」
 エラは溢れ出る力を意のままに操り、継母達に復讐した。
 パーティーの準備に追われてた継母達を、無残に拷問し、殺害したのだ。
「今回の依頼は、一人殺されなかったエラの父親、貴族のペロー氏からのものよ。
 娘を拐かした西の森の魔女の討伐。あとは一緒に逃亡している娘の殺害ね」
「娘さんは助けないのですか?」
 驚くラーシアにリリィも肩を竦めて、
「説得できるのならば連れてきても構わない、とは言っていたけれど、貴族として殺人を犯した親族がいるのが面子に関わるのか、それとも生きていられると自分もいつか復讐されるのではないかと考えているのか……なんともお茶を濁したような態度だったわね」
 なんとも後味の悪そうな依頼だが、どちらにしてもエラとは一度会話を試みる必要があるだろう。
「エラと魔女はペロー邸か西にある小さな森に逃げ込んでいるわ。恐らく魔女の根城だと思われるから、トラップなどもあるかもしれないわね。
 そう大きくない森だし、ある程度アタリはつけてあるから、容易に見つけられるはずよ」
「今回は私も同行させて貰いますので、森の道案内はお任せくださいね」
 森に精通しているラーシアがいるのは心強いと、イレギュラーズは頷く。
「エラは広域に影響のある状態異常の付与を多く行ってくるわ。そして魔女なんだけど、支援行動を多く取ってくるようね。ただ、強い力を隠し持ってそうな気配もあるわ。
 どう戦うのか、考える必要があると思うわ」
 エラを説得し戦うのをやめさせるか、はたまた、二人を相手取るか。
 戦うのであれば、魔女から倒すのか、エラから対処するのか、いろいろ考える必要がありそうだ。
「それじゃみんな、頑張ってね。気をつけて」
 依頼書を置きポンっと肩を叩くと、リリィは席を立つのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 シンデレラのサクセスストーリー……ではなくリベンジストーリーです。
 積もり積もった恨みは怖いのです。

●依頼達成条件
 ・西の森の魔女の殺害
 ・エラの説得、もしくは殺害

●情報確度
 情報確度はBです。
 魔女の能力に不明点が多く、力を隠し持っていそうです。
 想定外の事態が起こる可能性を考慮しましょう。

●エラについて
 貴族ペロー伯爵の実娘です。
 端正な顔立ちで幼き頃は誰にも好かれる良い娘でした。
 しかし父親の再婚から一変し、綺麗な金髪は薄汚れついには灰かぶりに。
 感情表現も苦手になって、毎日継母達に復讐する空想をする日々でした。
 魔女から力を貰い、その鬱憤を晴らすかのように継母とその娘二人を惨殺しました。
 その後、幼き頃の思い出から父親だけは殺す事ができず、老婆と共に屋敷から逃亡しました。
 積もり積もった恨みの感情をぶつけてきます。

 初歩的な攻撃魔法の他、特殊攻撃として以下を使用します。
 ・恨みの裂傷(神中扇・出血)
 ・恨みの毒素(神中範・猛毒)
 ・恨みの呪詛(神中域・呪い)

●西の森の魔女
 ペロー邸の西の森に住み着く老婆。
 その素性は謎に包まれているが、エラのことを長く観察してきたようだ。
 支援能力に特化した行動を取ってくるが、魔女一人になり追い詰められた場合、その隠し持った力を解放するかもしれません。

 特殊行動として以下いずれかをエラに対して毎ターン使用します。
 再生付与、充填付与、BS回復

 隠された力解放時、一ターンの間以下の状態になります。
 物無、特無、再生、充填

 その他隠された力解放時の行動は不明ですが、神秘よりの行動を多く取ってくる傾向になります。

●同行NPC
 ラーシア・フェリルが同行します。
 戦闘は得意ではありませんが、道案内などはお任せください。
 ガラスの靴にちょっと憧れています。

●戦闘地域
 ペロー邸西の森になります。
 時刻は十六時。薄闇が広がり出しています。
 森の案内は同行するラーシアが行います。迷うことはないでしょう。
 西の森は魔女の住処です。トラップなどには気をつけましょう。
 そのほか、有用そうなスキルには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • シンデレラの復讐劇完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月29日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
O. R. C.(p3p004042)
豚か?オークか?いやORCだ!
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
不動・醒鳴(p3p005513)
特異運命座標
華懿戸 竜祢(p3p006197)
応竜
アマナ・イフェイオン(p3p006592)
復讐姫

リプレイ

●魔女の住処
 薄闇の落ちたその森は、まるで侵入者を拒むかのように忌避の気配を漂わせていた。
「草木は生い茂っていますが、そう険しい森ではありません。
 罠に注意しつつ、奥へと参りましょう」
 ラーシア・フェリルの案内の下、依頼を請け負ったイレギュラーズ達が歩を進める。
 力を手にした灰被りの少女、エラ。
 復讐を果たした少女は、手にした力と共に今、何を思うのか――
「復讐……か」
 元いた世界で復讐に生きた男、『翔黒の死神』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)はその二文字に思う。
 他人は他人、己は己。
 他者の行う復讐にかける言葉などありはしないが、此度の一件魔女と呼ばれる老婆の介入にキナ臭さを覚える。
 用心深く、手にしたカンテラで辺りを照らし、不審な物がないかを確かめた。
 ――なぜ、どうして。
 『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は跳躍で木々の枝へと登り、森を観察しながらも疑問を繰り返す。
 自身の名前である心とは、どうしてこうも分からないことだらけなのか。
 復讐に駆られた少女エラ。何を思い、血の繋がりがないとはいえ家族となった者を殺めたのか。
 ココロには理解ができなかった。――だから、確かめなくてはならない。ココロのその意味を知るために。
「全員停止だ。……不自然な草むら。かき分けてみれば……やはり罠か」
 『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が冒険的知識で罠を発見する。
 わかりやすい罠ではあるが、引っかかってしまえばどれだけの被害がでたかは分からない。危険であることには変わりないのだ。
 罠を解除しながら、マラカイトは或る世界の童話の結末を思う。今回の事件によく似た童話――灰被り姫の結末を。
 灰被り姫は味方をしてくれた小鳥に祝福され、意地悪な継母とその娘達は小鳥に目を潰された。
 此度の事件との相違点は――姫が自身の手で鮮血の復讐を果たしたこと。
 それは道義、道徳的に間違っていると感じた。
 マラカイトは積極的にエラを諫めようとは思わないが――放置しようとも思っていなかった。
「おっとそれ以上はいけねぇな。楽しい事になっちまうぜ」
 ラーシアの胸の前に腕をだすのは『豚か?オークか?いやORCだ!』O. R. C.(p3p004042)だ。決してその豊満な胸を狙ったわけではなく、罠へと踏み込もうとしたラーシアを止めたに過ぎない。
 探索用に調教した犬を用意したO.R.C.の準備は非常に良い物で、方向を見失いがちになる森の探索を容易にしていた。
 それだけであれば、このメンバー内での評価も高まったものだが、このO.R.C.何やら想像して邪悪に顔を歪めていた。
(へへ……いいとこの嬢ちゃんが蕩けた良い表情を浮かべてるんだろうな。
 こりゃ、親玉の魔女も期待できるな。
 どうせ若返り薬とかもあるんだろう? なら一つ楽しませてもらおうじゃねぇか!)
 この思考だけでは完全にイヤらしいこと想像している豚だが、説明不足なだけである。
 そのニヤケ面に危機感を感じ取ったラーシアが一歩引いたのを他のメンバーは見逃すことはなかった。
 桜咲 珠緒(p3p004426)は周囲に存在する植生に注意を向ける。
 ラーシアから聞いた植生との違いを感知し、捜索することで罠を見つけ解除する。
「貴族の娘だから着飾って苦労もなくてあたりまえ――お笑いなのです」
 いくつかの罠を解除しながら、目を細め呟く言葉はエラへの侮蔑に近しい言葉だ。
 本人には直接言えませんねと笑う。
 その脳裏では魔女の存在に注意を向けていた。
 その出自、謎は多いけれど一つの推測は立つ。その推測が正解するかは――後の結果を待つ必要があるだろう。
「エラの母親は気立ての良い女性だったらしいが、エラが感情表現が苦手だったこともあって、子育てには苦労したようだ。
 最悪なことに、ペロー伯爵はその子育ての問題を妻のせいにして婚姻関係を解消してしまったようだな。
 追い出されるように家を追われたエラの母親はその後消息不明となっている」
 事前に調べた情報を伝える『特異運命座標』不動・醒鳴(p3p005513)。噂話にも類する情報もあるが、よく調べ上げたと言えるだろう。
 手にした棒で罠を感知させながら言う醒鳴の言葉に、『応竜』華懿戸 竜祢(p3p006197)が思うところ口にした。
「ともすれば、妻子共々恨み辛みを持っていたというわけだな。
 くくっ、復讐心――その憎悪の念もまた輝きの一つ、あぁ実に素晴らしい!」
 命の輝き――生への執着や、事をなそうとする前向きな精神――をきっと目にすることができるだろうと、竜祢は目を輝かせる。
「そうね。復讐を為した意思は素晴らしいと思うわ」
 そう口にする 『復讐姫』アマナ・イフェイオン(p3p006592)はしかし言葉とは裏腹に苛立たしさを感じていた。
 復讐を志す者として、復讐をなし得たエラに称賛の言葉を贈ることも吝かではない。
 しかし、エラは与えられた力に溺れ、借り物の力で復讐を為した。それはただの『暴力』に他ならない。
 アマナは首を振るう。
 そのような復讐は認められない。同じ復讐者として――そしてどんな思惑があれどエラの復讐を穢した愚か者を断罪するのだと、心に固く誓った。
 時に草木をかき分け、時に、木々に張り巡らされた魔力符を破り、森を進む。
 先頭を往くラーシアが、ぴくりと耳を動かした。歩みを止める。
「人が居ます……二人」
 小さく呟くラーシアの先。小さな小屋の前に立つ二人の人影が見えた。
「ふぇっふぇっふぇっ……追跡者よ潜んでいるのはわかっとるわ。出てくるがええ」
 老婆が邪悪に笑う。老婆の後ろには無表情に立ちすくむエラの姿がある。
「いれぎゅらーず、です。ペロー伯爵の依頼により、魔女討伐に伺いました」
「逃げる気はないようだな」
 クロバが武器を構えると、老婆が杖を構え鼻を鳴らした。
「ふん、イレギュラーズだかなんだか知らないが、あの男の差し金など敵じゃないわ。
 ……エラよ、お前の力を貸しとくれ。あの追っ手どもを殺し、お前が正しいと証明してやるとええ」
「そう、そうよ。私は何も間違ってない。
 アイツらが、全部アイツらがいけないんだもの――!」
 魔力が迸る。
 エラの全身を駆ける魔力の奔流が、薄闇落ちる森に広がっていく。
 予想通り、戦いを避けることはできない。
 イレギュラーズは武器を構え、戦闘へと傾れ込んでいくのだった。

●復讐劇の結末
 魔女の周囲に魔方陣が浮かび上がり、遠術と思わしき魔力が放たれる。
 地面を抉り木々を薙ぐその魔力は、確かな殺傷性をもった一撃だ。魔女の力は本物で、油断一つとることはできない。
 牽制を終えれば魔女はエラへと支援を開始する。魔力的支援を受けたエラは恨みを募らせた魔力を出鱈目に撒き散らした。
 イレギュラーズは魔女とエラの分断を試みる。エラに人の世界へと戻る意思があるのならば連れ戻そうという考えだ。
「オォォ――! いくぜぇ!!」
 咆哮と共に肉体の力を呼び覚ますO.R.C.が魔女へと突撃する。放たれる魔力の奔流を躱しながら肉薄すれば、全力をもった組技で魔女の体勢を崩していく。
 O.R.C.の影に隠れアマナが忍び足を用いて魔女の死角へと回る。
 そうして魔女の認識外から奇襲に移れば、容赦なく手足の急所を狙う。
「……機動力を奪うのは殺し合いの基本よ。容赦するはずないわ」
 魔力障壁を展開しながら、アマナの戦斧を受け流す魔女。老婆とは思えぬ戦い慣れた魔女に対しアマナが言葉を走らせる。
「……貴女が何のつもりでエラに力を与えたのかは知らないし、興味もないわ」
 興味が無いというアマナはしかし言葉に怒りを滲ませる。
 本来復讐者になるべきではなかった者に力を与えて復讐者に堕とした――それはアマナにしてみれば悪以外の何者でもない。
「『復讐』を穢した貴様を私は許さない……故に殺す」
「ふぇっふぇっふぇっ! ドス黒い復讐心の塊のようだねぇ。
 そんな思いを抱えて、生きづらいだろう?」
「――問答無用、死ね」
 傷だらけの美女は悪を断罪しようと戦斧を振るう。
「こっちも忘れて貰っては困るな」
 マラカイトが目まぐるしく立ち位置を変えながら迅速な抜き打ちを持って魔女を牽制する。
 エラと魔女の立ち位置を考えながら、狙い澄ましたように衝術を放ちエラと魔女の距離を取らせた。
 このマラカイトの動きは、エラの説得を行おうと考えていたイレギュラーズにとってみればありがたいもので、説得の最中、魔女が口を挟む機会を減少させることに成功したと言って良いだろう。
 同時に魔女の口出しを封じる動きに貢献したのは竜祢に他ならない。
 戦闘中で有りながら微笑みを絶やさないその表情は戦闘狂のそれに近い。
 魔女が自信に支援魔法を掛けると見れば、嬉々としてその支援を破る強烈な一撃を見舞う。
 私情など一切ないという竜祢。そう彼女の求めるのは命の輝きに他ならない。
「お前に恨みはないが消えてもらおう! なぁに安心しろ、一瞬だ」
 肉薄戦を拒否する魔女に追いすがり、鈍重ながら威力に特化した渾身の一撃を叩き込む。
 構え直した純白の巨大剣が、カンテラの光を浴びて、緑青色に輝いた。
 メンバー間の調整を地味に行うのは醒鳴だ。
 エラへの人数が十分と判断すれば、魔女側へ向かい、仲間を支援しつつ立ち回る。
 奏でる勇猛果敢なリズムに仲間達の士気は向上し、自身もまた地を蹴り疾駆すると魔女へと卓越したコンビネーションを叩き込む。
 肉薄した折り、魔女へと醒鳴が囁く。
「お前がエラの母親かどうか知れないが――今のエラなら一人でも生きていける力があるんじゃないか?」
 その言葉に、魔女が邪悪に顔歪めた。
「ふぇっふぇっふぇっ。お笑いだね。
 あの娘にそんな力はないさ。それに――『魔法は解ける』もんだよ」
「それは――」
 醒鳴が言葉を続けるより早く魔女が魔力を放ち距離を取る。
 魔女の言葉の意味。
 その真意を確かめる間もなくイレギュラーズと魔女との戦いは激化していく。
 一方、エラへと向かったイレギュラーズは、エラへと言葉を投げかける。
「なぜ、いじめられた代償に死を与えるの?」
 いじめられた記憶は人の命と等価になるのか。ココロの素朴な疑問に、エラは頭を振るう。
「価値の問題じゃないわ。アイツらにいいようにされてる間、私は――貴族の娘としての私は死んでいたのよ。
 アイツらにそれを分からせてやっただけよ」
「なら、もう復讐は終わったのに――なぜ魔力を手放さないの?」
 それは核心を突く言葉か。
「そ、それは……だって、この力は私のもので……」
 エラが言葉を濁す。
 ――その魔力は復讐の道具ではなかったのか? 本当はそれを使って人を傷つけたかっただけなのか?
 ココロの言葉がエラの心に突き刺さる。
「自分がされたのと同様に、知らない人を傷つけたい?」
 感情表現が苦手なエラへ、ココロの言葉が投げかけられる。
 抵抗するようにエラは初めて想いのままに言葉を走らせる。
「いじめられるのはイヤ! 誰かに従えられるのもイヤ! 私を攻撃するなら――私は誰だろうとこの力で抵抗するわ!」
 エラが恨みを魔力に乗せて放つ。イレギュラーズの肌に裂傷が生まれ、毒素と呪詛が流れ込む。
「恨み積もって爆発。理解はできますが。一度にやりすぎるから、報復を生むのです」
 珠緒がそれではいけない、とエラに言葉を重ねる。
「このまま続ければ桜咲達も手を下さねばならないのです。それは本意ではないのです」
 エラが戦闘を続けることに意味はないのだと、ゆっくりと伝える。
「憎らしい家からは解放されたのです。抵抗を続け、ここで人生終わることもないと思いますよ?」
「ど、どうして貴女達は向かってくるの! この力があれば、誰も私を縛ることはできないはずなのに!」
 エラの振りまく魔力にイレギュラーズは一歩も引くことはない。
 その事実が、エラの心に楔を穿つ。
 無敵の力はひび割れて、自身の弱さを改めさせる。
 クロバが肉薄し、手にした二刀を振るい力を見せつける。そうして上位の立ち位置をとれば言葉を交わす。
「いまからでも遅くはない。魔力を収めこちら側へ戻ってくるんだ」
「いや、いやよ。戻ったらまたアイツらにいいようにされてしまう!」
 迸る魔力を受け流しながらクロバがもう一度言葉を疑問と共に投げかける。
「憎かったらしい奴はお前が確かに殺した。もう居やしないさ。
 だがな一つ腑に落ちない点がある。
 ――お前は父親が憎くなかったのか?」
 力があるのにどうして殺さなかったのか。哀れに思ったのか。
 クロバの中にある近しい記憶と感情を伝手に、投げかけられた言葉はエラの心を揺り動かす。
 クロバの疑問を反芻しながらエラが口を開こうとして、しかし言葉は出ず。
「一つ聞かせろ。――アンタは父を好きと思った事はあるか?」
 続くクロバの質問に、エラは過去の記憶を呼び起こす。
 父と母と共に過ごした幼い日の出来事を。幸せに満ちあふれていたあの日々を。
 それは、力を手にし、継母達を惨殺した直後、父を前に呼び起きた記憶でもある。
 そう、父は殺せなかった。
 父へと手を掛ける直前、脳裏に過ぎった父と母との想い出。あの日の想い出と、育ててくれた恩を忘れることなどできなかった。そしてその日々はもう二度と戻ってこないのだと知って――
「嗚呼……私は……」
 なんて愚かなのだろうか。
 どんなに憎らしい者達であったとして、人を殺害すると言うことは、もうあの日々のように笑うことはできない。一時の感情に飲まれ、なんと愚かなことをしてしまったのか。
 あの時――その事実から目を背けるように、怯え竦む父を置いて屋敷を飛び出した。そう、この黒き魔法を授けた魔女と共に。
「う、うぅ……うぅぅ……」
 突如溢れ出た罪悪感と、夢散していく幸せの記憶が、感情を封印し涙を流すことのなかったエラに、後悔と共に一筋の雫の跡を付けさせる。
 崩れ落ちるように地に伏せるエラ。その様子を遠巻きに見た魔女がやれやれと首を振って肩を落とした。
「罪悪感に折れたか……それもまたよかろうて。
 じゃが、儂はまだ倒れるわけにはいかぬゆえ、切り札を切らせてもらうぞ」
 エラを一瞥する魔女が手にした薬を飲み、力を解放する。
 とてつもない魔力。だが、傷を再生しながらも、同時に魔女はその口から鮮血を吐き出した。一時的な強化は諸刃の剣だ。この力、そう長くは持たないと感じ取れた。
「さぁ、全員死んでしまいなぁ……!」
 無数の魔方陣から放たれる魔力の塊を前にイレギュラーズは奥歯を噛みしめ耐え凌ぐ。
 暴風のような魔力の流星雨を前に、幾人かはパンドラへ縋ることとなった。
「ば、ばかな……」
 しかし、命を落とすものは誰一人としていない。その事実に魔女が驚愕する。
 傷付きながらも立ち上がったイレギュラーズは、魔女にトドメを刺すべく武器を握り直す。
 魔力の嵐の中をイレギュラーズが駆け武器を振るう。
 熾烈な魔女との戦いは、イレギュラーズが魔女の切り札を耐え凌いだことで決したと言えた。
 無敵を生み出す防御障壁は脅威ではあったが、魔力が霧散し始めた魔女に次の手は残されていなかった。
 その好機、イレギュラーズは逃がすことはない。
 珠緒が仲間を癒やし、ココロが浄化の鎧を召喚しサポートする。
 醒鳴の牽制に合わせ、マラカイト、そしてアマナと竜祢が肉薄し、怒濤の連撃を叩き込んで魔女の体勢を崩す。体勢を崩しながら放たれる魔女の反撃に、幾人かが膝を折った。
「終わりだ――!」
「くたばりなぁ!」
 クロバとO.R.Cの連携による一撃が、魔女に致命傷を与え、魔女はついに地へ倒れ伏した。

●魔法は解ける
「……ああ、エラ、愚かな娘。
 ふん、よく見ればあの女に、母親によう似とる……」
「お母様を知っているの――」
「復讐に駆られ魔女との契約に命を差し出したバカな女だよ。おかげで碌でもない結果になっちまった。
 まったく欲に駆られて契約なんてするんじゃなかったよ……儂もあんたら親子共々愚かしいことだ……」
 醜く歪めた表情にか細い笑いを残して魔女は息を引き取った。
 魔女と母親との関係は要として知れなかったが、母の思惑が魔女をエラの元へと誘ったようにも思えた。
 涙を拭きエラが立ち上がり、頭を下げる。
 そんなエラにアマナが労いの言葉を贈る。それは復讐者としての言葉だ。
「……エラ、復讐おめでとう。辛かったでしょ? もう、貴女を苦しめるモノはない……だからこれから貴女は幸せになりなさい。それが復讐を遂げた者の権利であり、義務なのだから」
「幸せに――」
 瞬間、エラの身体から力が抜ける。
「あぁ……消えて行く。力が……」
 魔女より与えられた力は、シンデレラと同じように刻限を向かえて消失する。
 残るのは幸せを齎すガラスの靴ではなく――罪を苛み心に刺さるガラスの棘だ。
「これで、なにもかも失ってしまったわ。もう何一つ残されていない――」
「けれど、あなたは生きていかねばならないわ。あなたが欲した幸せを掴むためにね」
「掴めるのかしら――」
 肩を落とし呆とした表情で、エラは空を見上げる。
 空に輝く幸せの一番星。その輝きを掴もうと、一人手を伸ばすのだった――。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

澤見夜行です。
依頼成功です。詳細はリプレイをご確認ください。

エラの母親が魔女とどのような契約を結んだかは定かではありませんが、その内容はエラの幸せからはほど遠いものだったと思います。
恨みに目を曇らせた親子は、一番大切なものを見失っていたのかもしれません。

ちなみにラーシアは戦闘開始と共に木陰に隠れて支援したり応援してました。危ないからね。

依頼お疲れ様でした!

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