PandoraPartyProject

シナリオ詳細

花は褒めて育てる

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●プリースフラワー
 その集落では毎年、春になると催される、ささやかだが誰もが楽しみにしているイベントがあった。
 いつからか周辺で見られるようになった、プリースフラワー。特殊な性質を持つその花は、名前の通り「褒めると育つ」花であった。

 プリースフラワーの種は、この時季になると決まって川のそばに落ちている。一粒が小指の先にも満たないくらい小さいが、水晶片のようにキラキラと光を反射するため、見つけるのは難しくない。
 集落の住民は、事前にこれを拾い集めておく。そしてイベント当日、種をひとつずつ鉢に入れて、各人で「褒める」。すると種はあっという間に発芽して伸び、それぞれの褒め言葉やその言葉のかけ方に応じた、世界にたった一つだけの花を咲かせる。

 この花の出来を皆で比べたり、あるいは花を褒めるその様子を、互いに笑い合ったりはやし立てたり。あるいは思い人への愛の言葉をそっと囁いて、咲いた花をプレゼントしたり。
 褒めるという行為の陽気さや、若干の照れくささも含めて。このイベントは集落の皆に愛されていた。

 しかし今年、問題が起きた。

●転がる巨大イモムシ
「種の採集場所付近で、巨大イモムシが発生したらしくてね……」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)はイレギュラーズたちに、事態を説明する。

 例年通り、当番となった住民数人が種を取りに行ったところ。川へ出る手前あたりで、複数匹の巨大なイモムシが、ぶつかった木々をへし折ったりはね返って弾んだりしながら、ものすごい勢いで転がってきたのだという。
 幸い怪我人は出なかったが、イモムシたちは逃げる住民たちに向かって糸を吐きながら、追いかけてきた。そこには彼らを捕食しようという意図が、在り在りと見て取れた。

「退治が済んだら、お礼ついでに君たちもイベントへ招待したいらしいよ。嫌じゃなかったら、ぜひ行っておいで」
 ショウはひらりと手を振って、イレギュラーズたちを送り出した。

GMコメント

 こんにちは、キャッサバです。小さな農村で暮らしているため、集落みんなで毎年やる行事は結構あります。運動会とか芋煮会とか、お祭りとか草刈りとかとか……

●目的
 巨大イモムシを退治して、住民が今年もイベントを開催できるようにしてあげてください。
 そしてイベントにも参加してあげると、住民たちも喜びます。

●巨大イモムシ
 全長7メートル程度の、派手な色合いのイモムシ。外見的にはマイクロバスくらいの大きさの、キアゲハの幼虫をイメージしていただけると分かりやすいかと思います。計3匹。以下、攻撃方法
・ローリング(ボール状に丸まり、高速で転がってきます。木や障害物にぶつかると、ピンボールのように何度もはね返ります)
・糸吐き(粘着性のある糸を口から吐きます。絡まると身動きが取れなくなります)
・噛みつき(口内の大きな牙で噛んできます。これで肉を割いて捕食します)

●プリースフラワー
 褒めると育つ花。何故か春になると、種が河原に落ちています。
 種むき出しのままでは発芽せず、鉢等に入れて覆土してあげる必要があります。かけた言葉に含まれる「ポジティブな何か」に反応して育ち、その言葉やその発され方に応じて花を変化させます。
 例えば「ファイトー! ナイスー!」などと元気溌剌に声をかけ続けると、スポーティで体育会系っぽい花(って一体どんなだろう……)が咲きます。

●イベント
 花を褒めて咲かせて、みんなでわいわいきゃあきゃあやる催しです。
 せっかく集まるのだから、という感じで住民たちが各家1品ずつ、スープやサンドイッチなどの軽食やお菓子を持ち寄ってきます。こちらもぜひどうぞ。

●フィールド
 巨大イモムシの出現する森、種の採集場である河原、そしてイベントが行われる集落が舞台となります。
 それぞれとくに特別なところはありませんが、森はイモムシが転がれるくらいなので、木々の間隔はそこそこ広く、日差しが届いて明るいです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 花は褒めて育てる完了
  • GM名キャッサバ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月10日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
花榮・しきみ(p3p008719)
お姉様の鮫
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
エドワード・S・アリゼ(p3p009403)
太陽の少年
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
フーガ・リリオ(p3p010595)
君を護る黄金百合
マリオン・エイム(p3p010866)
晴夜の魔法(砲)戦士
ピリア(p3p010939)
欠けない月

リプレイ

●守りたい春
(いもむしってことは、放っておいたらいずれ成虫になるんだよね……)
 巨大な、イモムシ。そしてその成虫とは。『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)は間違いなく厄介そうなそれを想像し、ひとつ溜め息を吐いた。この度はイモムシの段階で、まだ良かったのかもしれない。
「……いこうか、カンちゃん。無理はしないでね」
 顔を上げ、史之は『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)に声をかける。眼鏡の奥で、赤色の瞳が優しげに揺れる。
「集落の人たちの、大切な季節の行事だものね。がんばろうね、しーちゃん」
 そして睦月は史之に応え、微笑んだ。2人は寄り添って森を進む。

『触れたてのひら』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は鋭敏な聴覚を研ぎ澄ませ、巨大イモムシたちの気配を探っていた。進みかけ、不意に立ち止まったジョシュアを、皆が振り返る。周囲には枝が折られ、痛んだ木々が立ち並んでいた。
「来ます。……皆様、ご注意を」
 音のする方向を示し、ジョシュアは警戒を促す。
『彼岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)はジョシュアにひとつ頷くと、その場に保護結界を展開した。これ以上、森を荒らさずに済むように。
 やがて木々の向こうから、異音が近づいてくる。大地は結果をさらに拡張させた。

 そして姿を現した巨大イモムシたち。見た目より軽いのか、地面を転がりながら跳ねている。見ようによってはコミカルな姿である。
 人々の脅威となってしまったとはいえ、彼らもその生態に従い、ただ生きているだけなのだろう。
「お前達にはわりーけど、ちょっと退いてもらうぞ!」
 しかし『ドキドキの躍動』エドワード・S・アリゼ(p3p009403)は一声を発し、武器を構える。出会い方が違っていれば、友達にだってなれたかもしれない。そんな無念を振り払うように、エドワードは威勢よく、高らかに名乗りを上げた。

●巨大イモムシ
(見るだけなら可愛いが、人を食おうとするなら、話は別、だよなあ……)
 目前に迫った巨大イモムシ。心中に複雑な思いを抱きながらも、『雪の花婿』フーガ・リリオ(p3p010595)はその巨体と真正面から対峙した。フーガの勇ましい姿に、皆の士気が高まる。

「全く! 冬が終わった後の、楽しい春の催しなんだから、邪魔しないでよねー!」
 そして最初の1匹が近くの木に激突すると同時に、『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)の放った雷撃がほとばしる。目が痛くなるほどの稲光が、巨大イモムシの動きを止めた。
「……不届き者にはお帰り頂きませう」
 その直後、芯から凍るような冷気が流れ込んだかと思うと、数多の霧氷がイモムシの身体を覆った。『お姉様の鮫』花榮・しきみ(p3p008719)による矢継ぎ早の攻撃である。
 そうして巨大イモムシの動きは完全に封じられた。

「ごめんね、ここで狩らせて貰うね」
 憐れむような、悼むような、どこか優しく切なげな声色。次いで転がり出でた巨大イモムシに、『双影の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)の雷撃がうねりながら突き刺さる。
 巨大イモムシは雷撃の鎖をねじ切ろうとするかのごとく、さらに転がる。マリオンは素早く跳び退くと、巨大イモムシの進行方向に立った。迫る巨体を受け止めようとするように、身構える。
「ごめんなさいだけど、あぶないことする子はめっ! なの!」
 そのマリオンの背後には、『欠けない月』ピリア(p3p010939)がいた。そうして自らを庇い守ろうとするマリオンの背中越しに、ピリアは呪言を投げつけた。呪と呼ぶにはいささか可愛らしい文句ではあったが、歪みの力が巨大イモムシの動きを止めた。

 睦月は最後に姿を現した巨大イモムシに向けて、毒の魔石を射出していた。睦月は普段他メンバーの補助役に回ることが多く、攻撃には不慣れなのだという。
 しかし続くワールドエンド・ルナティックによって不吉と終焉を植え付けていく様など、少しも見劣りするものではなかった。巨大イモムシは恐慌し、無茶苦茶に首を振って襲いかかってきた。
 睦月に届きかけた巨大イモムシの牙はしかし、エドワードによって遮られた。決死の盾。エドワードの身を挺した防御である。痛みにより、わずかに顔をしかめるエドワード。けれど一瞬ののちには歯を食いしばって敵を見据え、口元に笑みさえ浮かべてみせた。
 そして気丈な彼を、フーガの紡ぐ福音が即座に癒す。フーガは戦場全体を見ながら、適宜移動して皆をサポートしていた。

 石化から立ち直り、動きを取り戻した巨大イモムシが糸を吐く。ジョシュアはそれを巧みにかわしながら、巨大イモムシの身体を駆け上っていく。かと思うとジョシュアの姿は忽然と消え失せ、そして巨大イモムシが苦しみもだえ始めた。周囲に糸をまき散らすが、視界を奪われて狙いがつけられないようだ。
「大地様、お願いします」
 地面に降り立ったジョシュアの静かな声。巨大イモムシは釣り上げられた魚のように、じたばたと跳ねる。大地はその巨体が木々を打ちつける前に、呪言によってその動きを封じた。
 そして史之の振るう「秋霖」が巨大イモムシを襲う。目で追えぬほどの速度で繰り出される、無数の斬撃。その衝撃波が巨体を深々と切り裂いた。

 しきみは高く跳び、巨大イモムシの脳天に極擊を叩き込んだ。攻撃を受けたごく小さな一点を中心に、巨大イモムシの頭がひしゃげる。巨大イモムシは反撃しようともがくが、いまだ硬直して動くこともできない。後方に跳び、しきみは離脱する。
 彼女が着地するのと同時に、ユイユによる音速の一撃が巨大イモムシをさらに襲う。恐るべき速度が、鼓膜を圧迫するような感覚。それがとどめとなった。
 そしてマリオンの喚び出した黒く禍々しい大顎が最後の1匹を喰らい、巨大イモムシたちは倒された。静寂の中、ピリアが天使の歌を奏で、皆を癒した。

 戦闘後。ユイユとフーガは、倒した巨大イモムシを森の奥へと転がしにかかった。
 ここは集落の人々も、日頃からよく通るであろう場所で。こんなところに巨大イモムシが、もう動かないとはいえ横たわっていては困るだろう。そう考えての処置である。
 巨大イモムシはその外見よりもかなり軽く、2人だけで十分に片付けることができた。体内がいくらか空洞になっているのかもしれない。

「みんな、だいじょうぶ? こわかったかな? もうあんしんなの! それでね、どこかいたい子いたら、ピリアにおしえてほしいの~」
 そしてピリアは周囲の木々に話しかけ、折れた箇所、痛んだ箇所を聞いて回った。枝先、幹、根元部分…… ぼんやりと伝わってきたイメージを、ピリアはジョシュアに伝える。
 ジョシュアはピリアが示した箇所に、栄養を含んだ薬をかけていった。ピリアは木々の傷口をそっとなで、ハンカチを巻いた。早く治りますようにと、祈りを込めて。

 そうした事後の作業が一通り終わってから、イレギュラーズたちは集落の人々を呼びにいった。待ちわびていた人々は口々にお礼を言って、プリースフラワーの種を採取しに向かった。

●花は褒めて育てる
 集落のあちこちで、人々が花を咲かせている。
 大地は知人に分けてもらったという手作りのぜんざいを、皆に振る舞っていた。お返しにともらったクッキーを食べながら、大地はイベントの様子を見て回る。

 睦月は住民が用意した料理を、せっせと皿に取り寄せていた。史之の分も含まれているのだろう、チーズフォンデュを少し多めにもらって、睦月は丁寧にお辞儀をした。

 しきみは自ら握ったおむすびを、住民たちに差し入れた。具材も様々なそれを、住民たちは物珍しそうに見て、食べて、これはおいしいと感嘆した。人々の手がおむすびへ伸びる。
 一方しきみも住民から焼きたてのパンを受け取り、ひとつちぎって頬張った。ふわりとしてほのかに甘く、そして素朴でどこか懐かしい味がした。パンを焼いた女性にお礼を言って、しきみは微笑んだ。

 マリオンはプリースフラワーの種をまいた鉢を前にして、少し悩んでいた。
 ……もしここで試しに、「おいしそう」「食べ応えがある」などと褒めたとしたら。もしそうしたら、一体どんな花が咲くのだろうか。
 想像し、悩み、しかしマリオンは気を取り直した。そうやって実験したのでは、せっかくの花に悪い気がする。
 そうしてマリオンは青空を讃える言葉を種に聞かせ、澄んだ青色が印象的な、すらりとした花を咲かせた。

 しかし悩んだマリオンのすぐ横で、本当に「そういう」花を咲かせようとしている者がいた。ユイユは種をまく際に灰を一握り、ぱらりとまくと。
「美味しくなぁれ! できれば沢山〜! でりしゃす、はおちー、れかー!」
 手拍子とともに、大変元気よく唱え始めた。すると土の中から茎が何本も、ひょろりひょろりとうねったり丸まったりしながら伸びてきた。そしてその先端に、赤くて丸い、飴玉のようにテカテカした花(?)をつけた。作りたてのジャムのような、みずみずしく甘酸っぱい香りが、辺りに漂う。
 ユイユ、そして好奇心に駆られたマリオンは、その花をひとつずつ口に含んだ。
「……?」
「?????」
 ……全くの無味。それどころか歯触りや舌触りも一切なく、本当に口へ入れたのかどうかと、疑わしくなるくらいであった。
 2人はきょとんとして、それからあまりの奇妙さに笑ってしまった。

「いいこいいこ。一生懸命咲こうとしているがんばりやさん。とってもいいこ。……」
 史之に鉢や肥料を用意してもらって。睦月はごくごく素直に、プリースフラワーを褒め始めた。そんな彼女を史之は目を細めて見つめ、それから自分の鉢に向き直った。
 なんて言って褒めようか。褒めることがあまり得意ではないらしく、史之は悩んだ。悩んで、もう一度睦月を見て、そして頷いた。彼女を想い、彼女を褒めるような言葉をかければ。それならとても、簡単なことだろう。
「ええと……やさしくてかわいくって可憐で儚げで、守ってあげなきゃと思うような、けなげでちょっとわがままで、そんなところもかわ、いい……」
 ちょっとだけ恥ずかしくなってきたけれど。しかし無事、史之の鉢には白い花弁に赤い模様の入った小さな花が咲き。睦月の鉢には、暗い赤から鮮やかな赤へのグラデーションが艶やかな、八重の花が咲いた。

 しきみは目を伏せ、愛しい人物を思い浮かべながら、プリースフラワーに話しかけた。
 愛しく慕わしい、しきみの姉君。その真っ直ぐでいてしなやかな心根。眩いほどに可憐でありつつ、凜として芯が強くて。しきみは雪のように静かな声音で、その姿を語る。
 目を開くと、すっと背の高い純白の花が一輪、見事に咲いていた。しきみはその花に「凜」と名付け、目を細めてそっと呼びかけた。

 ジョシュアは鉢を持ったまま、あちらこちらで皆が花を咲かせる様子を、ただじっと見つめていた。
 植物を育てるのは苦手らしいジョシュアは、迷い、ためらい、けれどようやく自らの鉢に向き直った。
 ……イベントが無事開催できて、良かった。それに自分は今こうして、たくさんの人の輪の中に、自然といられる。
 そのことに思いを馳せ、皆への感謝の気持ちや、もっと仲良くなりたいという願いを込めて、ジョシュアは語りかけた。でもちょっと恥ずかしいので、小声でそおっと。
 やがて小さな黄色の花がたくさん、鉢からこぼれるくらいに咲いた。

「ピリアね、おはなさんすきなの! ピリアはうみのなかにいたから、おはなさんをみるとうきうきしちゃうの♪ きみはどんなおはなになるのかな? どんなおはなでも、ピリアはとってもうれしいの♪」
 ピリアは話しかけながら、ふかふかの土を優しくなでていた。やがて淡い紫色の小ぶりな花が、ぽんぽんっと咲いていく。明るく素直な印象の花を前に、ピリアはにこにこしていた。
 そんな彼女を微笑ましく眺めてから、フーガもプリースフラワーの種に、丁寧に土を被せた。フーガは意識を深く集中させ、けれど優しく、優しく語りかける。少しずつ咲いていく、薄紅色の可愛らしい花。フーガはその花に「ルナ・ジェーナ」と名付けた。そしてその声に、耳を傾け……
「――んんっ?」
 ぽんっ、ぽんっと、「ルナ・ジェーナ」はさらにさらに咲いたけれど。フーガが驚いたのは、そういうことではなくて。フーガはピリアに声をかけ、事の次第を伝えた。2人はもう一度、花に意識を集中させる。
 それはすこやかに伸びることへの喜び。そして地上に出て浴びた、日差しの心地よさ。そういったイメージが曖昧に、漠然と伝わってくる。それは普段と変わらないのだけれど。
「え? あれ?」
「ピリアにも聞こえたか……」
 目を丸くして瞬かせるピリアと、どういうことかと考え込むフーガ。けれどそれはそれとして、2人はわくわくしながら、さらにプリースフラワーへ話しかけることとした。
(――ありがとう。大好きよ)
 愛おしげにそう呼びかける声を、2人は確かに聞いたのだった。

(……お前にだけ、特別に教えんだけど)
 エドワードはにこにこしながら、けれどそっと小声で話しかけていた。
(実はこの世界には、お前みたいにおもしれーことが溢れまくってんだ! 思いも寄らなかったびっくりが、たくさん待ってんだ!)
 これまでに見聞きしたこと、体験してきた数々の冒険を、エドワードは語る。その驚きに満ちた発見や出会い、喜びを語り、プリースフラワーに旅立ちを勧める。花びらとなって、空に舞うように。
(大丈夫! お前なら出来るさ!)
 だってお前は特別な、すごい花なのだから。そう言ってエドワードが褒めると、鉢は静かに光り始めた。
「……?」
 しかし、花は咲かず。蕾のような丸いものが、ぽちょりと土から顔を覗かせたのみであった。

「どんな言葉を聞かせるか、迷ったけど……俺今、小説を書いてる途中なんだ。ちょっと聞いてもらっていいかな?」
「面白いナ、大地クンの処女作を初めて朗読する相手がまさか花の種だなんてサ」
「からかうなよ赤羽」
 ともにある赤羽に、からかわれながら。大地は静かに物語を語り始めた。
 それは成人の儀を迎えた主人公が、相棒である鳥の背に乗って旅をする物語。初恋の人との再会があったり、大好きな人との別れがあったり。ときに雄大な旅路に心躍らせ。ときに胸を押しつぶすような孤独に襲われながら。出会いと別れを繰り返し、主人公は前へと進み、成長していく。
「……今書けてるのは、ここまで。気に入ってくれたかな?」
 そうして語り終える頃には、夕暮れ時となっていた。
「花鳥風月」、この物語と花をそう名付けようと、大地は決めた。そしていまだ芽吹かぬ鉢が眩く輝き、光の波が集落全体を覆った。

●プリースフラワー
 まず変化したのはしきみの「凜」であった。
「凜」は白く清浄な光に転じ、するすると宙へ上っていった。そして集落の中心で静止し、暮れ始めた周囲を、まるで月のように冴え冴えと照らした。
 さらに「凜」は拍子を取るように、鋼の打ち合うような、硬い、しかし清々しい音を、繰り返し響かせ始める。

 その拍子に呼応するように、咲かぬと思われたエドワードの花が、勢いよく上空へと打ち上がった。そして上がりきるとともに弾け、キラキラと輝く花びらとなって空に舞った。
「すっげー! こんなの初めて見た!」
 集落の子供たちがはしゃぎ、駆け回って舞い落ちる花びらに手を伸ばす。

 しかし花びらが地に落ちるより先に。マリオンの花が澄んだ青い光の帯へと転じ、風のように集落を吹き抜けた。
 青い光の帯は花びらを巻き込みながら螺旋を描き、空へと上っていった。
 ユイユの丸い花は次々に咲いてはこぼれ、鈴のような音を立てて転がっていく。そして弾け、集落は甘酸っぱい果実の香りに包まれた。

 ピリアの花は、大きな花びらのような尾ひれの魚に転じ、ピリアの周りを泳ぎ始めた。ピリアは歌い、花と光が舞う。
 ジョシュアの花はほのかに光りながら、鉢からあふれ、こぼれ、集落全体に広がっていく。優しく光る、黄色い花の絨毯が出来上がっていく。
 そしてフーガの「ルナ・ジェーナ」は無数の光の玉となって、シャボン玉のように浮かび上がった。そしてイレギュラーズたちにも、集落の人々にもぶつかって弾け、薄紅色の花冠へと転じて皆の頭上を飾った。

 そうして揃いの花冠を被った睦月と史之は、互いを見つめ、にこりと笑った。その傍らでは2人の花がそれぞれ小さな人型に転じ、双子の妖精のように、手を繋いで飛び回っていた。
「凜」が鳴り、エドワードの花がさらに打ち上がった。何度も上がった。青い光の帯が舞うように吹き抜け、鈴の音とともに丸い花が芳香する。集落の人々は笑い、歌い、踊り始めていた。

 集落の人々の花もまた、変化していく。しかし大地はただ一人、発端となった鉢を抱えて戸惑っていた。光を発した後も、大地のプリースフラワーは芽吹かない。喜びはしゃぐ人々の姿が、少しだけ遠く感じる。
 そのとき赤羽が突然、早く鉢を手放すようにと大地を促した。切迫した様子に驚き、大地は鉢を取り落としてしまった。鉢は無残に割れ、土が足元にこぼれた。
 しかし反応する間もなく、強い光が再び集落を覆う。そして大地のプリースフラワーは、桜の巨木へと姿を変えた。

 満開の桜花を、呆然と見上げる大地。ほどなく彼の元へ歓喜に沸く人々が殺到し、胴上げが始まった。

 夜が更け、プリースフラワーの幻影が、やがて薄らぎ消えるまで。イレギュラーズと人々はともに笑い、踊り、歌い、食べて飲んで、春の催しを大いに楽しんだのであった――

成否

大成功

MVP

赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師

状態異常

なし

あとがき

素敵なプレイングをありがとうございました。とても嬉しく、楽しかったです。
次回もぜひ、よろしくお願いいたします。お疲れ様でした。

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