PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<被象の正義>幻灯聖女

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●生きていたい、あなたとともに
 10年前のあの日、家族が死んだ。
 この国を襲った大災で、恋人が死んだ。あの時、家族が帰ってきた。
 そして今に至るまでが、「間違った歴史」だったとしたら――今ここに、家族がいて恋人がいて、「俺達結婚するんだ」なんて伝える機会があって。
 それを、そんな幸せを人々が祝福してくれるなら。
 それはただただ、幸福な日々であることは間違いない。願わくば、正しい歴史の名の下に、新しく人生を謳歌する機会を我に与え給え。私達はただ、幸福になりたくて。幸福であると、認識していたいだけ。
「この国に幸福を、この地の人々に幸福を! 不幸なんてなかった――この国の未来と、ともに!」
 歓声が響く。人々の笑顔が、あたり一面を埋め尽くしていた。

●虚像
 人々の口から、歓声があがる。
 だがそれは、その全てが、混沌の原理を蚕食するかのごとくに『解読不能な言語』であった。
 異言(ゼノグロシア)と称されるそれを、それのみを言語として説き、徘徊する者達。ゼノグラシアンと呼ばれる彼らは、しかし誰も彼もが幸せそうだ。目を凝らせば分かるだろう、彼らの周囲には、それぞれ何名かの――幻が揺蕩っていることに。
 異言都市(リンバス・シティ)南西街区、通称「再会の都」。ごく狭い街区ではあれど、どこから漏れたか噂が広まりつつある。
 ここでは、死んだ人々と再会できると。
 親しい人が死んだという記憶こそが、『誤った歴史に基づく事象』であり、この街区での幸福こそが真実なのだ、と。
 その言葉をどれほど真に受けたものか、家族を、仲間を捨ててその地に向かったものが相当数いるのだという。そして、戻ってこない。
 既に異言都市の異常事態を知り得ていたイレギュラーズにとって、この状況が示す意味は明々白々。かつての『冠位強欲』を思わせる影の天使の出現は、死者の再来までも模倣したというのだろうか。
「これは、困りましたね。再会の都に、あなた達のような遺物を引き入れるつもりはなかったのですが」
 街の異常性を再確認したイレギュラーズ達の耳に、この地で初めての「まともな言葉」が届いた。だが、発した者は到底、まともに類する者ではない。
 遂行者ヘンデル。かつてラメール・シェーラの大鐘楼から音を奪ったワールドイーターを引き連れていた男だ。彼は残念そうに首を振ると、しかし関心を失せたかのように踵を返す。彼を知らぬ者が、明確な殺意を込めて術式を叩き込む。が、それは飛び出してきた青く光る鉄球に弾かれ、些かも届かない。
「ここでは皆、『幻灯聖女(S/P/ヴァージニス)』に生きる活力を与えられています。あなた達のように、幸福を分かち合えない方々には意味のない場所だ。……否、そうでもないのでしょうかね? 幸福を求めるなら、ゆっくりとしていかれたら良い」
 イレギュラーズの前に、光が閃く。
 一同が驚く日まもなく、目の前には……それぞれがかつて失った人々の姿があった。

GMコメント

●成功条件
・『幻灯聖女』の撃破し、「再会の都」をリンバス・シティから切除する

●幻灯聖女
 正式名称は「サンクタ・プロイエクティオ・ヴァージニス」。長いので省略した。
 『再会の都』全体を覆う程度の幻影を投射する力を持つ。映写機のレンズ部分が頭部になったような四足獣タイプの異形なワールドイーター。
 正確には投射しているのではなく、「親しい者が死んだ記憶」を食って、生きている状態を幻視させるというカラクリ。イレギュラーズも例外ではないです。
 また、複数の人格や性質を持っている場合、それぞれからランダムに記憶が奪われる可能性があります。
 シナリオ開始時、参加PCは各人の「過去に死んだ人」の記憶を1~複数名消失し、自らとともにいるような錯覚を受けます。
 代わりに、現在親しい者との記憶が強烈に薄れます。これによりシナリオ内での連携が阻害されたりします(一応「連鎖行動」に支障は来しませんが、「連鎖行動が出来る」という発想自体が失われている可能性があります)。
 この状況を打開する方法としては、記憶上の相手にある僅かな齟齬から「相手を否定すること」にあります。
 これにより打開することで、幻灯聖女の姿を認識することが可能になります。

 幻灯聖女の性能自体はそう高くはありませんが、NORMALボスとしてはCTとHPがやや高めの傾向があります。

●異言話者(ゼノグラシアン)
 リンバス・シティ内に存在する、侵食された人々。異言のみを解すように認識が書き換えられています。
 イレギュラーズが幻灯聖女に向かう場合、体を張って止めに来ます。一般人よりは結構強め。タフネスそこそこあります。
 彼らから幻灯聖女を奪うということは、つまり……。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <被象の正義>幻灯聖女完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
温もりと約束
陰房・一嘉(p3p010848)
特異運命座標

リプレイ

●不可逆の美
 人は失ったものを、得難いものを強く想う傾向にある。
 選ばなかった選択肢、手放した過去、そもそも触れることの出来なかった希望。
 人の命というのは余りに儚く、そして戻ってくることは、如何に不可思議なことが多い混沌であっても有り得ない。
 イレギュラーズの眼前には、数多の異言話者が自らの失ったものと戯れる姿があった。朧げなそれらと語らう姿は、濁った目をして希望を置き去りにした感さえある。
 ――そして、幻灯聖女の光に引き寄せられたイレギュラーズもまた、失われた命の形をそこに見ている。

「貴方は……あの時の。ボクを、ボクなんかを庇って死んでしまった貴方が何故ここに……? ……ああ、だから、再会の都。あの時死んだのではないと」
 『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)は目の前に佇む男性を見た。嘗て、無惨な亡骸を見た男をだ。それも、監獄島に咲く薔薇の傍らで。握りしめたナイフが『彼女』の動揺を反映してか、小刻みに音を立てる。優しげな笑みをたたえた彼は、幾度も彼女に話しかけてくれた。監獄島では塵芥にも等しい命を前にだ。
 再会は彼女の心の奥に隠された過去を引き出し、目の前に並べられた使命感や仲間意識といった感情を薄れさせる。この状況こそが何よりも真実である――そう彼女に思わせようとしていた。
「ボクに話しかけたり、この翼を褒めてくれたり、気遣ってくれたり……貴方があの時居てくれたから、ボクは今まで生きてこられて、今日、ここに来ることが出来ました」
 だから。
 伸びてくる手を振り払うことなど、チェレンチィには出来るはずがないのだ。

「どうしてここに? お体は大丈夫なのですか? ――あぁ、よかったです」
 『星巡る旅の始まり』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)の鼻孔を、そこにないはずのコケモモの香りがくすぐる。眼前にあった少女は、彼が過去に見たどんなときよりも元気で、健康そうに見えた。自分を「ジョシュ君」と呼ぶのは、彼が覚えている限りで彼女ぐらいのものだろう。明るく優しい雰囲気をそのままに、佇む彼女の元気な姿を何度、夢にみたことか。お茶の席を設け、誘う彼女の視線の先にはティーセットとテーブルがあって。
「……独りは嫌です。エリュサ様の側にいたいです」
「私もジョシュ君がいてくれたら嬉しい」
 綺麗に咲いた花を包み込む鉢植えがそこにはあった。幸せでいたい。普通の日々を、彼女と歩めるならどれほどいいだろう? 
「街で新しい服を買ったり、ケーキを食べたり、一緒にピクニックにも行きたいと言っていましたね」
 今から始めましょう。今なら歩めましょう。
 だから、思い出話も沢山しよう。ジョシュアは喉に詰まった感情とともに、問いを投げかけた。

「こうしてまた、酒を酌み交わせるなんてな。『再会』か、悪い気はしない」
 『特異運命座標』陰房・一嘉(p3p010848)は向かいに座った女と酒とを交互に見て、再会の喜びに破顔した。煽った酒の味が広がり、喉を駆け抜ける感触は紛れもない本物のように思える。
 彼にとっても、相手にとっても、つまらない会話、他愛ないやり取り。それは過去にできなかったことの焼き直し、今この状況のやり直し。届かない手を、なし得ない過去を、引き戻すべく指先が手繰った結果。それは彼にとって得難いものであるからこそ、より甘美な味わいと手放し難い重みを伝えてくる。その場に留まりたいという願いの鎖、振り払いたくないという過去の錘が、一嘉のイレギュラーズとしての決意を鈍らせる。
 まるで、決意という鉄に繰り返し吹き付ける幸福という名の潮風のように。浅からぬローレット・イレギュラーズとしての日々を、過去への思慕が錆びつかせようと覆っていく。
(こんな時間が続くのなら……だが、この酒の味は、どこかで……?)
 一嘉は『彼女』へ酒を向けようとし、その酒瓶のラベルを目で追った。その銘柄は、その名は。

「昌? どうしてここに……?」
 『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)の眼前に現れたのは、ルーキスの幼少期の象徴ともいえる相手だった。先程まで平常心を保っていた彼だったが、眼前の相手から伸ばされた腕の細さ、掌の小ささは己のそれも同じくらいに小さくなった錯覚を覚える。
「ルーキス、一緒に遊ぼう!」
 そういって自らを引く昌の手の力はたしかに、子供のそれだ。
 幼い頃の記憶そのままに現れた彼の姿の前に、ルーキスの心は激しく揺さぶられた――ように見えた。過去の記憶そのままの姿には、確かな既視感がある。あるが、ルーキスの直感は警鐘を鳴らし続けている。
「あ、もうすぐ聖女様へのお祈りの時間だ」
 そういって跪く姿に、針の先ほどの違和感が膨れ上がる感触を覚える。現実ならばどれだけいいだろう、そうであってくれとすら願うままに、ルーキスは昌へと「夢」について問いかける。返ってくる答えが望み通りのものと、信じて。

(果たして影の癖に今人間らしく生きようとしている私は、何かの間違いではないのか……今? 今、私は影ではないか……)
 『無鋒剣を掲げて』リースヒース(p3p009207)は立っている。そこに確かに、人の形を得て存在している。だが、彼自身の知覚は己自信の姿を認識できていなかった。彼がいないように振る舞う、眼前の「全く同じ姿の相手」。死霊術師リースは、リースヒース――否、ヒースと全く同じ姿で、しかし明らかに自然な姿でそこにあった。精霊種として、影であり自我がない。ヒースという存在は、そうであるべきなのだ。
 だが、リースという『オリジナル』はヒースが誇れる誰かなのか?
 ヒースの思考を食いつぶすかのような「望み」は、果たされるべきものなのか?
 暗い闇に落ちていくような感覚の果で、ヒースは己の聖印を見た。

「『不死身ノ勇者』さん、わたしを連れてきてくれてありがとう。わたし、勇者様達と一緒に旅ができるだなんて思ってなかったわ」
「そうかい、それは――幸せ、なんだろうねぇ」
 『闇之雲』武器商人(p3p001107)の前を歩く少女は、エイリス・ヴェネツィーエという。未発達であり未成熟な精神と肉体を持った彼女は、外の世界へのあこがれが殊の外強かった。自分ではない何者かになりたい、何者かとして名を残したい、そんな願望を押し込めて自宅に在った彼女が、羨望の象徴である勇者(イレギュラーズ)達と轡を並べるなんてことがあれば、それがどれほどの幸運であるかを武器商人は知っている。何故なら、彼女の親を除けば、否、含めてもなお彼女のことを一番理解しているのがソレだからだ。自らの内側から『眷属』の記憶が薄れていくのを、果たして強欲な武器商人が認容するだろうか? 答えは明白だ。
「さて、此処に来た目的を覚えてるかいエイリス」
「…………」
 武器商人は幸せそうな彼女を見るのも悪くないと一瞬、思ってしまった。けれど次の瞬間、穏やかな声で残酷な問いを投げかけた。エイリスの目から喜色が消えたように見えた。彼女が見せるべき感情は、喜怒哀楽で語るなら――。

「お父様、お母様……」
 『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は仲睦まじく手を組み合う両親の姿を見て、こみ上げる感情そのままに飛びついた。おしどり夫婦という形容詞は、彼等にこそふさわしいとスティアも思う。そして、そんな両親と歩みを進められる自分は幸福なのだろうという自覚がある。
 幸せな家庭、幸せな日常、しかしそこには、築き上げてきた某かが足りない。欠け落ちたという認識すらないままに、当たり前にあると思って伸ばした手が空を切る感覚。『自慢の家族』誰に対して自慢したいのか? 『求めていた未来』ならスティアにとっての今は、求めざる積み重ねだったのか? 彼女の視界にはないものでも、見ていたはずのなにかが、守られているという認識をするなにかが欠けている。
 お父様も、お母様も、私の疑問には応えてくれない。知らないからだ。
 私は知っているはずのそれを、思い出せないそれを、どうしてなのか触れられない感情を。
「……私のブレスレット、お母様のものと一緒だね」
 そうね、と何事もないかのように返す母親の姿を見て、スティアはその瞳に浮かんだ自然な反応に違和感を覚えた。自然すぎるがゆえに、何もかも……不自然。その象徴がブレスレットだった。疑問を抱かないことが、誤りだった。

「……はて、何も起こりませんが」
 歪みきった歓声、懐かしむような表情、困惑の視線、ありもしない酒を交わす手。
 仲間達と、異言話者達の姿はとても似ている。『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)は無感動に幻灯聖女に向き直り、草むらを歩むように前進する。彼女の状態を認識した異言話者達は操られるでなく飛びついてくるが、次の瞬間には力なく崩れ落ちている……『一般人よりは頑丈』らしいが、さりとて前進する茄子子に傷をつけることも、足止めにすらもなっていない。あたかも草を踏みつけるように無感動に、死なせぬようになどと慈悲を持たぬ術式が齎す結果など知れている。
「縋ったところで、帰ってきませんよ。都合のいい幻影なんて見たって何も楽しくないでしょう」
 この国を裏切ったなら慈悲はない。この国を支えてきたあの人から目を背けたなら、生きている価値がない。茄子子は誰よりも冷静で冷酷だったが、その奥の奥に燃え盛っている感情は恐らく、失っていなからこそ通用しない。しっかりとした歩みは、何より明白な感情を湛えていた。
(だからどうせ、皆さんだって帰ってくるでしょう。夢は覚めるものなのですから)

●可逆式加虐行為
「これって無事に帰る誓いの証だよね。どうして同じ物が2つもあるの? 形見の品なんだから、2つあるはずがないのにね」
 スティアはブレスレットを握りしめ、両親を見据えた。彼らは何も言ってはくれない。だって綻びを埋める術を持たないのだから。
 一般的な人間であれば、その綻びを見なかった振りができる。イレギュラーズは運命に愛されたが故に、違和感から逃げ切れない。
「『さくら咲く』は、お前がくれた酒だ。酒好きのお前が、変わった酒を見つけたと、土産にくれた酒だ。毎年、お前の命日に、墓前で一杯だけ傾ける酒だ」
 そんな酒が、『混沌』にあるわけがない。一嘉は酒瓶を手元に手繰ると、そのまま消えていくそれを見た。女の影はもうない。
 剣をとる。絶望の名を冠した大剣、打開した視界の先には既に異言話者達を蹴散らして進む茄子子の姿。ああまで非情でなければ、イレギュラーズではいられないのだろうか――。
「違うな」
「あァ、違うね。でも会長殿はあれでいいんだよ、認めろとはいわないけど、そっとしておいてやってくれないかい」
 一嘉の結論も、茄子子の行いも、武器商人は否定しない。その身を覆う『エイリス』は、自らへの侮辱と武器商人の窮地を悟って煌々と蒼く燃えているように見えた。
「──"火を熾せ、エイリス"」
「ディスペアーよ。これが、お前を使う初陣だが……絶望の大剣の力、希望を掴む為に使わせて貰う」
 得物を、決意を、手にした二人は茄子子になおも群がろうとする異言話者達へと意識を向けた。そして、意識を『向けさせられた』者達は両者へ向かって襲いかかる――淡々と前進する茄子子に先立ち、スティアは幻灯聖女を自らへ引き寄せる。その目にはただ決意の色が濃く浮かんでいた。
「さて、皆様の幸せを踏みにじりに来ましたよ。私はさしずめ悪魔ですかね。ふふ」
 茄子子は悪戯めかして笑う。その評定に張り付いた嘘は、果たして何重に折り重なっているやら。
「エリュサ様、この押し花の栞をくれた時の事を覚えてますか?」
 ジョシュアは掲げた押し花の栞、その時の出来事を問うた。帰ってきた答えは、現実とは似ても似つかぬ偽り。誕生日などと。迎えられなかったものを何故、と。
「……あぁ、そうか。これは幻なのですね。できなかった事ばかりでも僕は、彼女と生きた本当の事を望みます」
 ジョシュアは思考に割って聞こえた武器商人の言葉を反芻しながら、前進する。スティアが惹きつけた幻灯聖女へ、毒粉を叩きつけた彼の表情には恨みも敵意もなかった。感謝や喜びもなかった。ただ、眼前の敵を正しく排斥するために何もさせまいと、決意した無色の殺意である。
「リース、御身は死者だ。私の記憶の中にしかいない。御身と私の邂逅は、私の誕生の瞬間にしかない。だから、御身とはどこまで行っても交わらない」
 『リースヒース』はリースの幻影を踏み越え、アバンロラージュを駆って仲間達を見やる。既に各々が無意識下で幻影を否定し、戦線に戻ってくるフェーズにある。なれば、今自分にできるのは幻灯聖女を撃破する手助け、孤立するものがいれば強引に回収すること。優しい嘘に抱かれるだけの人生などまっぴら御免だ。
「外の世界? 何言ってるんだ? 他の場所なんて行かないさ。だってここは世界一安全なんだから!」
(その姿は、その声は、その思考は。本当にキミが知るモノと同じかい?)
「違うな。昌は外の世界を知ろうとして死んだ。安全の中で全うする命じゃないはずだ」
 ルーキスは武器商人の問いに答え、の手を優しく握った。自分の知る相手ではなかったけれど、その姿を見られたことは幸せだった、と。
「――ええ、夢なんです、これは」
 チェレンチィは優しい顔をする男を、ハウラをまっすぐに見た。彼は幻であるはずなのに、まるで生きていたときと同じ調子で、親指で彼女の視線、その先を指し示す。幻灯聖女が異形なりの咆哮を上げ、抵抗線としている姿を。
 倒す。
 幸せな嘘に置き去りにしようとしたそれを、今の幸福を奪おうとした者を。
 異言話者とて、戻るべき縁を忘れさせられた哀れな存在だ。今だけ、その自由を奪い返してやらねばならない。
「幸せに浸りたい気持ちはわからなくもないけど、死んだ人達の為にも現実と向き合わないといけないんだ!」
「キミたちが偽物の夢に溺れたら、死んだコたちを誰が偲び、誰が弔い、誰が安寧を願うというんだい」
 スティアは叫び、正面から幻灯聖女を受け止める。その叫びは、倒れ込んだ異言話者の思考にも届く。武器商人の問いかけは、そのダメ押しとしても機能する。
「人々の死者への想いを逆手に取り、弄ぶとは外道の極み。ここで斬り捨てる!」
「幻で人を縛るなんて、そんな毒は放置できません」
 ルーキスの猛攻を支えるように、ジョシュアの毒は何度も何度も、念入りに幻灯聖女へ染み入っていく。一度弾かれようと、何度も繰り返されれば、そして何度も動こうとすればそれに比例し動きが鈍っていく。つまりは、もうソレは自由や身勝手とは無縁のところにある。
 最後の抵抗とばかりに首を振ったそれの異形のレンズは、最後に一嘉の、その得物を捉えた。突き込まれた、それを。
 半壊した頭部をイレギュラーズの猛攻が両断し、異形のワールドイーターは幻ごと失われていく。

 死んだ者もいる。生きている者もいる。失われたのは数日か、数十日か、忘れられた人々は己だけで生き延びられたのか、再会の都に消えた家族を待つ間に不幸に遭いはしていないか……或いは愛想を尽かして消えてはいないか。
 真相は、未来は誰にも観測できない。
 だからこそ、今から積み上げていかねばならぬのだと、イレギュラーズ達は十分、この戦いを経ずとも理解している。
「この街、嘘に塗れていて吐き気がします。私、嘘って嫌いなんですよね」
 茄子子の言葉は、これも含めて嘘だらけだったけれど。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 大変おまたせ致しました。
 例外的なアレもありましたが、説得力が凄い……説得力は汎ゆる理不尽に優先される……。

PAGETOPPAGEBOTTOM