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シナリオ詳細

バーデンドルフ・ラインを越えろ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●涙混じりの懇願
「風が、吹いてるねぇ……」
 空のような蒼い髪、蒼い瞳、蒼い軍服の、ボサボサとした頭の男が、蒼穹を見上げながら煙草を吹かしている。この昼行灯と言った印象の、青年と言うより壮年に近い印象の男の名は、シエロ・アズール。新皇帝派の鉄帝軍人であり、階級は少佐。飄々としているが、これでも憤怒の魔種だ。
 シエロの言う風は、現実に吹いている風のことではない。この鉄帝を渦巻く戦乱、その戦況を例えたものだ。鉄帝各地で新皇帝即位により吹き荒れた嵐は、風向きを変えて一気にこの帝都に流れ込もうとしている。
 新皇帝バルナバスに抗わんとする六つの勢力のうち、帝政派と南部戦線はトップ会談を成功させた。となれば、帝都奪還を狙ってくるのは予想に難くない。そうなれば、おそらくラド・バウも呼応するだろう。他の三つに対しても、新皇帝派にとって景気のいい話は聞かない。
「……そうなると、やっぱアイツらを巻き添えにするのはなぁ」
 新皇帝派は、もうさほど長くは持たない。それが、シエロの読みだった。となれば、今まで付いてきてくれた部下達を新皇帝派滅亡の巻き添えにするのは、シエロにとっては忍びない。部下達がこのままシエロに付いてきても、待っているのは帝都の戦いでの戦死か、戦犯としての処断の何れかであろう。
 ボリボリと頭をかきながら、シエロは煙を勢いよく吐き出し、煙草をもみ消した。

「お前達には、ここから、この国から去ってもらう」
「えっ!?」
「何故でありますか!?」
 十人の部下達の前でシエロが告げると、部下達は一様に驚愕し、動揺した。
「――もう、新皇帝派は持たねえよ。お前達まで、それに付き合って死ぬ必要はねえ」
「そんな!! 最後まで一緒に――」
「聞き分けろや、馬鹿野郎!」
 抗弁しかけた部下の一人を、シエロは殴り飛ばした。部下に対して暴力を振るったことのないシエロの鉄拳制裁に、部下達は呆気にとられる。
「お前達がそう言ってくれるのは……わかってたよ。上官として、それはすごくありがてぇ。
 でもなぁ、だからこそ、生き延びてくれや。こないだ、せっかく拾ったばかりの命だろ?
 それをすぐ投げ捨てるのは、もったいねえよ」
 こないだ、とは、先だってのバーデンドルフ・ラインでの航空支援のことを指している。新皇帝派は、ザーバ派の拠点であるバーデンドルフ・ラインを強襲しようとし、シエロの隊にはそれを空から援護する命令が下った。前線を大きく押し上げている敵の、その奥の本拠を強襲すると言う作戦の援護に、シエロは乗り気でなかった。だが、命令は拒否できない。
 やむを得ず出撃したシエロは、イレギュラーズが対空防御のために待ち構えていたこともあり、部下の死は不可避と覚悟していた。だが、天衝種を全滅させたところで、イレギュラーズは撤退を促してきた。戦力の――数だけで言えば、だが――およそ半分を喪失したシエロは、これ幸いとそれに乗った。そのため、部下は誰一人欠けることなく生存している。
 シエロと部下達の付き合いは長いが、その中でシエロは部下達を可愛がり、部下達もまたシエロを敬愛して来た。そんな部下達だけに、シエロには情が湧いている。
「ならば、少佐も一緒に!」
「それは、出来ねえ――俺は、生き延びる気はねえ。
 でもな、俺が死んでも、お前らが生き延びてくれりゃ、俺はお前らの中で生き続けられるだろ?
 なぁ――これは、上官命令だ。だから、頼むよ……」
 そう懇願するシエロの瞳から、涙がボロボロと流れ落ちていく。
(ははっ。何だよ、これ――ダセェな。俺、こんな涙脆かったっけ?
 それに、今言った言葉も赤面モンだしよ……)
 シエロはそう自虐したが、この涙が、部下達がシエロの「命令」を受け入れる決め手となった。

●魔種からの依頼
「こんなところで、魔種とデートとはな」
「本当は、もうちょっと色気のある場所にしたかったんだがね」
 深夜の針葉樹林。極楽院 ことほぎ (p3p002087)とシエロが密会していた。その目的はことほぎの言うようなデートではなく、シエロからローレットへの依頼だ。
 部下達を国外に脱出させるにしても、反新皇帝派が盛り返してきている以上、彼らだけでは心許ない。特に、南部戦線の拠点であるバーデンドルフ・ラインは新皇帝派軍人が通過するには難関だ。
 護衛を付ける必要があると判断したシエロが頼ったのは、ローレットだった。ローレットは魔種とは不倶戴天ではあるが、必ずしも正義の組織と言うわけではなく、時には非道な依頼を受けることがあるのをシエロは識っていた。その中でもシエロが選んだのが、悪名の方が識られていることほぎだ。ことほぎなら、新皇帝派軍人を脱出させる依頼も嫌悪することなく受けてくれるだろう。そう、シエロは考えた。
 部下達の護衛依頼を打診されたことほぎは、シエロの読みどおり、依頼を受けた。その後、報酬や部下達との待ち合わせなど、詳細を二人は詰めていく。
「最後にもう一度確認しておくが、護衛は幻想に入るまででいいんだな?」
「ああ。それ以上は過保護ってモンだろうよ。
 まがりなりにも俺の部下だった奴らだ。この国から出られたなら、後は生き延びられると信じてる」
「なるほど、な」
 ことほぎの問いにニッと笑いながらシエロが返すと、ことほぎもまたニッと笑って返した。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。EXリクエストのご指名、ありがとうございます。
 新皇帝派は長くはもたないと判断した新皇帝派軍人の魔種シエロが、部下達を幻想へと逃すにあたり、その護衛依頼を出してきました。
 鉄帝的には悪である新皇帝派軍人を無事に逃がそうとしているのだから悪依頼、と言うことでよろしくお願いします。
 では、シエロから託された部下達を、無事に幻想まで送り届けて下さい。
 
●成功条件
 部下達とともにバーデンドルフ・ラインを越えて幻想に到達する

●失敗条件
 部下達の誰か一人でも死亡する

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『鉄帝』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●ロケーション
 このシナリオで問題となるのは、以下の2カ所です。皆さんには、この2カ所を越えるためのプレイングをお願いします。
 動く時間を何時にするかは、皆さんが自由に決定できます。天候は、晴天とします。

・バーデンドルフ・ライン周辺
 地平は平坦で、スチールグラードとの街道の周囲は平原。その周囲に木々がまばらに生えている、と言う感じです。
 南部戦線(ザーバ派)の拠点であるバーデンドルフ・ラインに近付くにつれて、巡回の兵士が増えて警戒が厳しくなってきます。この警戒を、何とかして突破しなければなりません。
 力で強引に突破しても良し、非戦スキル等を駆使して戦わずに切り抜けても良しです。

・バーデンドルフ・ライン
 南部戦線(ザーバ派)の拠点であるバーデンドルフ・ラインです。
 堅固な要塞であり、鉄帝自体が混乱の最中にあるとは言え、守りは堅いです。
 何とかして、城門の向こうへ抜ける必要があります。
 ここに至るまで同様、力で強引に突破しても良し、非戦スキル等を駆使して戦わずに切り抜けても良しです。

●ザーバ派軍人 ✕?
 今回の障害です(敢えて、敵とは言いません)。
 能力傾向として、HPと防御技術が高め、回避が低めです。剣や銃で武装しています。
 人数は時間帯や状況により変動します。バーデンドルフ・ライン周辺ではそんなに多くはならないでしょうが、バーデンドルフ・ラインでは人数も多めで、何かあれば援軍がわらわらと現れるでしょう。
 基本的に規律正しく士気も高いため、賄賂等は通じません。

●シエロの部下達 ✕10
 今回の護衛対象です。大きめの馬車に10人まとめて乗っています。
 能力傾向はザーバ派軍人と大体同じ感じですが、武装が貧弱な分やや劣ります。
 タフな方であるため、イレギュラーズ相手でもなければ一撃二撃食らった程度では死んだり戦闘不能になったりしません。が、戦闘不能にまでなれば死亡する可能性はあります。

●シエロ・アズール
 今回の依頼人です。新皇帝派の鉄帝軍人で、憤怒の魔種。階級は少佐。
 新皇帝派はそう長くは持たないと見ており、せっかく前の戦いで命拾いした部下を新皇帝派の滅亡と共に死なせるのは忍びないとして、幻想に脱出させる依頼を出しました。
 本人は後に、『<天牢雪獄>マルク・シリング暗殺計画』でマルクさん暗殺を死に場所とします。

●関連シナリオ(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
・『<ジーフリト計画>航空支援を退けよ』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9094
・『<天牢雪獄>マルク・シリング暗殺計画』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9229
 (OPの時系列は、今回のシナリオがこのシナリオより先となります)

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしています。

  • バーデンドルフ・ラインを越えろ完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年03月11日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談9日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
※参加確定済み※
トカム=レプンカムイ(p3p002363)
天届く懺悔
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
観音打 至東(p3p008495)
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ユー・コンレイ(p3p010183)
雷龍
マイア=クゥ(p3p010961)
雨嫌い

リプレイ

●過日の敵は今日の護衛
(気まず……多分私が、一番新皇帝派殺してまスからね)
 新皇帝派の魔種、シエロ・アズール少佐の部下だった兵士達を、幻想へと逃亡させる。その依頼を受けた『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は、新皇帝派の兵士達と会った時のことについてそう心配したが、それは杞憂だった。
 何故なら、依頼を受けたイレギュラーズ達の中に、以前バーデンドルフ・ラインで直接敵味方として対峙した『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)と『悪縁斬り』観音打 至東(p3p008495)がいたからだ。兵士達との気まずい空気は、寛治や至東との間には流れていたが、美咲との間にはほとんど流れることはなかった。むしろ、気まずそうにする美咲に兵士達が首を傾げていたほどだ。
「これはこれは、先日ぶりですね」
「あ、ああ……」
 寛治の言葉に、戸惑い混じりに兵士達が応じる。もっとも、敵味方であったのは過日の話であり、今は護衛と護衛対象だ。
 兵士達は最初は戸惑った様子を見せたものの、その辺はすぐにあっさりと割り切って受け入れた。現実を現実として認められなければ命を落とすだけであるし、実力を思い知らされた相手である寛治や至東が護衛についてくれると言うのは、兵士達にとっては心強くさえある。
 もっとも、寛治は直接的な実力を用いることなく、兵士達を幻想へと逃がしてみせる気でいた。
「こたびは皆様の命を預からせていただくことと相成りました、観音打至東です。
 サテ加被殺の因果はめぐり、であるからには我が身に差料は不要。
 なので、武装解除して参りました。もちろん、改めて頂いて結構ですヨ」
 この間まで殺そうとしていた相手を、今度は救おうとする。それ自体は『よくあること』なのだが、その温度差に適応できるか心配した至東も、少し話をしておいた方がいいだろうと言うことで兵士達に話しかけた。
「い、いや。それはちょっと……」
 身を改めていいと言う至東の申し出に、兵士達は困惑混じりに応えた。今の兵士達は、至東らイレギュラーズに「護ってもらう」立場である。それなのに、護ってくれる相手の身を改めるなど出来ようはずがない。さらに言えば、至東は女性である。その女性の身を改めること自体が、兵士達の心情的に抵抗を感じさせていた。
 ――かつて敵味方であったことによる気まずい空気は、すぐに立ち消えた。兵士達からすれば、寛治も至東も他のイレギュラーズ達も、涙ながらに鉄帝から逃げるよう訴えてきた敬愛する上官が、自分達の身を託した相手なのだ。ならば、全幅の信頼を置いて身を任せるまでだった。

(正義漢にゃ倦厭されそーな依頼だが、まーオレにゃ関係ねーしなァ)
 兵士達の姿を眺めながら、『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)が煙管をくゆらせた。
 冠位憤怒バルナバスを皇帝とする新皇帝派は、殊更に弱肉強食と言わんばかりに暴れ回った者達が多数いたこともあり、既存の鉄帝の各勢力からは悪と見なされている。ローレットにおいても、新皇帝派の打倒を目指すイレギュラーズは少なくない。
 そうした各勢力やイレギュラーズ達からすれば、新皇帝派の兵士達を国外へと逃亡させるこの依頼は、ことほぎの言うとおり正義感に倦厭されるものではあるだろう。
 だが、そうした依頼に数多く参加してきたことほぎにとって、その辺りのことは関係ない。依頼の性格が如何あれ大事なのは、報酬として受け取る金の分の仕事をキッチリとすることだ。
(依頼主が魔種だとか、そんなのは関係ねぇ)
 ローレットと魔種は不倶戴天、ではある。だが、『天届く懺悔』トカム=レプンカムイ(p3p002363)はこの依頼を聞いた時、一も二も無く参加に名乗りを上げていた。
(上司が部下を逃がしたいって素直な情がそこにあるなら、協力するさ)
 かつて部下を持っていた身として、トカムは依頼人であるシエロに共感さえ抱いていた。故に、過去の自分には出来なかったことをシエロに果たさせてやりたいと考えている。
(ほん、亡命か。ま、イレギュラーズだって宗旨変えする奴が居るんだ。
 新皇帝派だって、そりゃ宗旨変えのひとつもしたくなるわな。クカカ)
 『雷龍』ユー・コンレイ(p3p010183)が、内心で愉快そうに笑う。アンダーグラウンドな色が強い『再現性九龍城』で育った故であろうか、コンレイは兵士達の逃走については頓着していない。
「何、仕事は仕事だ。あんたらが新皇帝派だろうが、このご時世で俺のシマ……サヨナキドリ鉄帝支部が封鎖状態だろうが関係ねえ。
 キッチリ、あんたらを逃すさ」
 自信満々に、コンレイが兵士達に告げる。兵士達はコンレイのその言と態度に心強さを覚え、深く頭を下げた。
 その兵士達に、『雨嫌い』マイア=クゥ(p3p010961)が歩み寄ってきた。
「もし良ければ、治しますよ」
 そして、ポーションを手に、兵士達の細々とした傷を差しながら、治療を提案する。兵士達は最初は遠慮したが、マイアが少し粘ると折れて、感謝しながら治療を受けた。
 この治療によって、兵士達のイレギュラーズへの心証はさらに良いものとなった。

●出発
「皆様は、隊商に扮して国境を超えていただきます」
 寛治が兵士達に告げたとおり、イレギュラーズ達は隊商の一行を装うことにした。兵士達は、五人が護衛、五人が荷役と言う役回りとなる。
 依頼人シエロが用意した大きめの馬車には、美咲がアーカーシュから取り寄せたエリザベスアンガス正純の缶詰が入った木箱が満載となった。
「エリザベスアンガス正純……?」
「アーカーシュに居る、固有の川魚でスね」
 聞き慣れない固有名詞に首を捻る兵士達に、美咲が説明する。なお同じようなやりとりは、南部戦線の兵士達を相手に何度か繰り返されることになる。
「それじゃ、こいつを着てくれ」
 トカムは、兵士達と合流するまでの間に縫っておいた服を配った。促されるまま、兵士達は商人の護衛として、あるいは荷役として、おかしくない服装に着替えていく。
「今日はよろしくお願いします。俺と一緒にがんばってください」
 馬車を牽く馬に、マイアは優しく語りかけつつ人参を差し出した。馬は、ヒヒン、と嬉しそうに軽く啼くと、人参を美味しそうに食べた。これで、この馬はきっと頑張ってくれるだろう。マイアは、そう確信した。
 かくして、様々な準備を整え、イレギュラーズ達は南下を始めた。

 道中、トカムは仲間であるイレギュラーズ達に対しても、気を抜かずに警戒していた。ハイルールを犯してでも、兵士達を手にかけんとする者がいた場合に備えてだ。結果論だけで言えばそう言う者はおらず、トカムの杞憂ではあったのだが、兵士達の立場を考えるとトカムの考えすぎとも言えなかったし、何よりトカムがそれだけ兵士達の安全に心を砕いた証とも言えた。
 それとは対照的に、御者役のマイアは仲間達に全幅の信頼を置いて、程々に力を抜いていた。警戒し続けてばかりでは疲れてしまうし、逆に怪しまれかねないと思ったからだ。馬と楽しそうに会話するマイアの姿は、兵士達の心をほっこりとさせた。
 至東は呑気に――敢えてそういう風に振る舞っているのだが――兵士達と世間話に興じた。その中で、兵士達は幻想や他の国々の話を聞きたがった。
(ああ……未練を振り切ろうと、無理をしているのですネ)
 兵士達の雰囲気に、至東はそう悟った。敬愛する上官と離れ、これまで暮らしてきた国を出るのだ。兵士達に、未練が無いはずはない。幻想や他の国々の話を聞くことで、未来に希望を見出そうとしているのだ。
 ならばと、至東はそれに応えて幻想や他の国々で見聞してきたことを語った。これが、彼らが生きる力になればと思いながら。

(敵から逃げてるように見せるとの事スが……必死さが欲しいんスよね)
 美咲が思案しているのは、偽装が上手くいかずに怪しまれた時についてだ。襲撃されたのを装って、有耶無耶にすると言う方策は予備のプランとしてあった。
「ピリム氏、要塞に入るまでに私の抵抗を掻い潜れたら脚好きにしていいスよ。
 ええ、切断を含んででス。ハイルールも、私から言いますから」
 だが、その前提を飛ばして『夜闇を奔る白』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)にこう言うものだから、ピリム以外の仲間達や兵士達は、頭の中に「!?」の記号を浮かべて驚愕し、困惑した。
「演技ってバレるとまずいみてーですから、本気で来いと? 作戦の内だから、ハイルールギリギリ適応と?
 フッ…フフフフフフ……まさか喉から手が出る程、夢に見る程欲していたイレギュラーズの脚を手に入れるチャンスが訪れるとは……!」
 美咲の脚を好きにしていい、と言われたピリムの方も、前提を飛ばして悦に浸る。
「こういうの、なんて表現したら適切なんでしょーかねー。シンプルに”ハッピー”とでも称しておきますかー。
 美咲たそのムチムチの良き脚は必ず頂きますー。パンドラとローレットの許す限り!」
 あらん限りの手を尽くして美咲の脚を得ようと意気込むピリム。だが、その幸福感も意気込みも、長くは続かなかった。
「……いや、それは偽装が上手く行かなかったときの話ですから。必ず、襲撃を装うとは限りません。
 それに、仮に襲撃を装うにしても、本気で脚まで取りに行くのはNGと判断されるでしょう」
 寛治が、見かねて口を挟んだ。
「え……? じゃあ、美咲たその脚は……?」
 呆然としながら問うピリムに、寛治は黙って首を横に振った。それを見たピリムは、ひどく沈んだ表情をした。

●バーデンドルフ・ライン
 イレギュラーズ達と兵士達の一行は、巡回に出ている南部戦線の兵士達と度々出会うことはあっても、怪しまれることは皆無だった。
 これは、一つにはイレギュラーズ達による偽装が巧みであったこと、一つには寛治と至東が南部戦線に属するイレギュラーズでありその顔が知られていたこと、一つには予め寛治が「イレギュラーズが正純缶の隊商を護衛している」という噂を意図的に広げていたことがあった。

 そして一行は、新皇帝派の兵士達を逃がすにあたって最大にして最後の難所、バーデンドルフ・ラインにまで至った。その城門を越えてしまえば、幻想までは目と鼻の先だ。しかし、これまでと違って、ここの警戒は厳しい。
「そんなにゾロゾロと連れ立って、一体何の目的で何処に行こうというのだ?
 いくら、イレギュラーズが同伴とは言え……すまないが、話を聞きたい。また、積荷も確認させて欲しい」
 城門の守衛のうち、リーダーらしき男がそう声をかけてきた。
「よぉ、軍人さん方。精が出るな」
 すかさず、商人に扮しているコンレイが対応に出た。
「俺達はな、こいつを売りに行くのよ。知ってるか? アーカーシュのエリザベスアンガス正純缶。
 外に興味を持ってくれた奴がいてくれてな」
「エリザベス、アンガス、正純、缶……?」
 手にしたエリザベスアンガス正純の缶詰を、コンレイはリーダーの男に見せた。
「アンタら、正純缶を知らないのか? 日持ちもいいし絶品だぜ!」
 トカムが、話を合わせにかかる。
「そう言えば、何だかイレギュラーズが缶詰を運ぶ護衛についていると噂が……」
「それだ、それ! それが、俺達のことだ」
 寛治が流した噂を思い出したらしいリーダーの男に、トカムが畳みかける。
「幻想の貴族に、買付を頼まれていましてね。これが、その書状です」
 さらに寛治が、エリザベスアンガス正純缶を欲している幻想貴族からの書状を示してみせた。
「なるほど……しかし……少し、待っていてもらえないか」
 寛治の書状を見たリーダーの男は、少し考え込むと、守衛の一人を人を呼びにやらせた。程なくして、筋骨隆々の、徽章からして階級のそれなりに高そうな軍人がやってきた。おそらく、警備の責任者か、それに近い立場の者であろう。
「新田殿、観音打殿、これはこれは……それで、幻想に缶詰を運びたいとか?」
 寛治と至東の顔を知っているその軍人は、先ず二人に深く頭を下げた。そして、本題に入る。
「ええ。今はエリザベスアンガス正純缶の購入を希望する幻想貴族の代理人をしています。
 こちらが、エリザベスアンガス正純缶を売って下さる商人のお二人です」
 寛治は、商人としてコンレイとことほぎを紹介した。
「いつも、お勤めありがとうございます。
 皆様方がこうして立派に職務を果たしてくださるおかげで、わたくしどもも安心して商売ができますもの」
 その紹介に乗って、ことほぎが深々と頭を下げて軍人達の仕事ぶりに感謝を示した。ことほぎは自身の悪名の高さから正体が露見するのを危惧していたが、しっかりとした商人としての雰囲気を纏った上で声まで変えていることほぎに、悪しき魔女の面影はない。軍人は、ことほぎの正体には気が付かないようだった。
「今この国は騒乱の渦中にありますが、そこからいち早く立ち直るためにも、流通を途絶えさせてはならないと考えておりますの」
「それに、国内はこの荒れ様だからな。国内の奴に物売ろうとしても無駄さ。商売にならねえどころか、食い扶持も稼げねえ。
 だからこうして、せっせと国外との取引に勤しんでるってわけさ」
 ふむふむと、軍人はことほぎとコンレイの言い分にいちいち深く頷く。その様子に流れが来ていると判断した寛治は、ここぞとばかりに勝負をかけにきた。
「厳冬で困窮する鉄帝に、国外で外貨を得て物資に換えて持ち帰る。これは商いと同時に、補給作戦でもあるのです!」
「成程! 我が国のために……!」
 感極まった様子で、軍人は完全にイレギュラーズ達の言い分を信じた。
 念のため、と軍人は積荷の確認を求めたが、コンレイもことほぎもそれをあっさりと受け入れた。積荷がエリザベスアンガス正純缶であるのは事実であり、南部戦線の兵士達に調べられても何ら問題は無い。むしろ、護衛と荷役に扮した兵士達から目を逸らせる分、歓迎さえするところだった。

 かくして、イレギュラーズ達を完全に信じたこの軍人によって、一行は無事にバーデンドルフ・ラインを通過した。

●依頼、完遂
 バーデンドルフ・ラインを抜けた後は何の障害もなく、一行は幻想へと入った。これで、依頼は完了だ。
 兵士達との別れ際に、マイアは手持ちの薬や物資を、寛治は人脈を駆使して得た傭兵や用心棒の求人と紹介状を、兵士達に渡した。
「このくらいしか、俺にはできませんから。どうか、あなたの道に、光がありますように」
「ちょっとしたアフターサービスです。せっかく拾った命ですから、どうぞご健勝に」
 兵士達は、マイアと寛治に感謝の意を示すべく、深々と頭を下げる。
「上官の言葉を胸に刻んで、ちゃんと生きろよ。それが最期の命令なんだろ?」
 部下を全員死なせてしまったトカムからすれば、依頼人シエロは優秀だと言えた。だからこそ、彼らにはその遺志を大切にしてもらいたい、とトカムは願う。
 トカムの言に、目に涙を浮かばせた兵士達は、こくこくと深く頷いた。
 楽な道ではないにせよ、精一杯生き抜いてほしい。そう思いながら、イレギュラーズ達は去りゆく兵士達の背を眺め続けた。

「ああ……肩が凝る依頼だったなァ……」
 兵士達の姿が見えなくなると、その凝りを解そうとするかのように、ことほぎは首と肩を回した。賄賂や色仕掛けが使えれば話は早かったのだが、南部戦線の兵士達は堅物と言うことであり、その手が使えなかったのが、ことほぎにはもどかしいところであった。
「せっかく美咲たその脚を頂けると喜んでたのに、がっくりさせられた責任、どう取るのですー?」
「うう……一日、私の脚を好きに出来ると言うことでどうでスか? 切断は無しで……」
「短ぇーですー。七日は欲しいですー」
 ピリムと美咲は、そんなやりとりを始めていた。途中、ピリムがぬか喜びをさせられた責任の取り方についてだ。
 結果、二人の間では三日と言うことで合意が出来た。その三日間の間、ピリムが美咲の脚をどう堪能したかについては……ご想像に、お任せしたい。

成否

成功

MVP

新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

状態異常

なし

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。シエロの部下達は、バーデンドルフ・ラインを越えて幻想に逃れることが出来ました。
 MVPは、新田さんにお贈りします。用意周到ぶりが、流石でした。

 それでは、お疲れ様でした!

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