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シナリオ詳細

BET? FOLD? SHOWDOWN!!

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●そうだ、カジノへ行こう!
 その話は一軒の居酒屋から始まった。
「なぁんか楽しいことねェかな」
 机へと顎を預けた男がそうぼやく。男の目はもうとろりと蕩けており、酒の力で思考能力が落ちていることが伺える。
「何じゃ、嘉六。湿気た顔をしとるのぅ。……って、おんしはいつもそういった顔じゃったか! すまんすまん!」
「あ゛ー?」
「最近、面白いことがないの?」
 溶けかけの男――嘉六(p3p010174)を唯月 清舟(p3p010224)が笑い飛ばす。こちらも酒が入っているから声が大きい。だが、そんな姿にも慣れてしまった劉・雨泽(p3n000218)は特段気にせず首を傾げた。
 豊穣のとある酒家。その店内にある四人掛けの席には、四人の男が集まっていた。机に顎を置いている嘉六、その隣で笑い飛ばす清舟、嘉六の前に座る雨泽、そして雨泽の隣に座る――
「また酒で失敗した、博打で負けた、とかでしょう」
 物部 支佐手(p3p009422)が手酌した熱燗をぺろりと舐めた。四人の中で一番最後に合流した支佐手は、偶然遭遇した三人に飲みに行かない? と誘われて此処に居る。
「いつものことじゃ」
 はんと清舟が鼻で笑うが、嘉六からの反応は薄い。夢の扉が開きかけているのかもしれない。
「楽しいこと、ね……」
 何か嘉六の眠気も覚めること。
 そう考えた雨泽は金のない男に最悪の提案をした。

 ――今度、大きいカジノにでもいってみない?

 勿論嘉六は眠気を吹き飛ばして勢いよく頭を上げ、ふたつ返事。
 遊郭の記憶も新しい清舟は借金のことを考え、支佐手は賭け事ですかと顎を撫でた。
「あ、勿論、すぐにじゃないよ。嘉六が軍資金を調達できたら」
 軍資金を稼ぎたくなるような楽しみがあった方が楽しいでしょう?
 そうして準備が整ったら、シレンツィオ・リゾートへ行こう。
 遊びに行くのなら大勢の方が楽しいから、他の人にも声を掛けてみようか、となるのは自然な流れで、一緒に遊びに行かないかと同行者を募る運びとなった。
「遊ぶ……うん。いい、けど……」
「よかった」
 雨泽に誘われてこくりと顎を引いたチックの視線は、雨泽と嘉六のスーツへ向かう。
 ――そんな姿でどこへ行くのだろう?
「似合ってる?」
「うん……」
 視線の意味を正しく理解しているはずなのにこっと笑ってはぐらかして、雨泽はチックの手を引いた。
 まずは同行者たちの身なりを整えなくてはならないから。

●スチーム・オブ・ドリームス・カジノ
 ざざんと波の音が響く街、シレンツィオ・リゾート。
 リゾート化に力を入れられた三番街(セレニティームーン)。
 沢山のホテルやレジャー施設を有するその街は、夜の帳が下りてもなお明るい。
「思ったよりでけぇな」
 巨大な格子状の発光キューブにも見える芸術的なビルが、スーツやドレスを纏ったイレギュラーズたちの前にそびえ立っている。建物の前には南国の木がリゾート感を演出し、高いビルを照らすように下方から放たれる光は空さえも染め上げている。
 サングラスをずらして見上げた嘉六は大きなカジノ――何と言ってもシレンツィオ・リゾート最大のカジノだ! ――に、好戦的な笑みを浮かべた。清舟も同様だが……支佐手は大陸の物が沢山視界に入ってくるせいか視線が彷徨っている。因みに、中で異国の「かくてる」なる酒が飲めるとは事前に雨泽から告げられていた。
 三人には、此処が何をする場所か解っている。綺羅びやかな雰囲気に、出入り口ではバニーガールがお迎えしているのだ。アレしかない!
 けれども、解らない者とて居る。
「あの……雨泽。何をして遊ぶ、するの?」
 袖を引いたチックへ「ああ」と振り返った雨泽は、悪戯猫のような笑みを浮かべた。
 それは、勿論。
「ワルい大人の遊び、かな?」

 さあ、チップ踊る楽しい夜の始まりだ!

GMコメント

 ようこそいらっしゃいましたお客様。
 私はディーラーを務めさせて頂いております、イチカと申します。
 当店のご利用は初めてですか?
 ああ、お連れ様が詳しいと……失礼致しました。

●目的
 カジノを楽しもう

●シナリオについて
 カジノの説明は……特にいらない、ですよね?
 このシナリオはライトシナリオです。予約時間を超えますと出発します。ほぼアドリブとなり負担が大きいので、お値上げされているためお気をつけください。
 ドレスコードがあり、スーツかドレスを着ています。性別不明さんはお好きなものを。こだわりがあれば記しておいてください。(無くても大丈夫です)
『描写の要望』はPCとしてではなくPLとして書いてくださって大丈夫です。書きやすいように、儚い文字数ちゃんを抱きしめてあげてください

●カジノ!
 ディーラー・イチカがダイスを振って勝敗判定をするのでボロ勝ちの希望は通らないかも知れませんが、ボロ負けして借金の形に働きたい! という希望は叶えられます。
 ……あれ? そういえば何か借金の形にバニー着てる全身絵をお持ちの方が優先者の中に居たような?

●シナリオの値上げについて
 本シナリオでは参加費用が通常時よりも値上げされております。
 参加費用の上昇に伴う獲得経験値・GOLDの比率は50RCごとに3割増となります。
 例:100RC上昇している場合「基礎経験値(基礎GOLD)」×3割増×2倍=6割増


カジノは


【1】初めて


【2】経験者


プレイゲーム
あなたはカジノで何のゲームをしますか?

【1】カード系
 トランプを使ったポーカーやブラックジャック、バカラ等
 コレ! というのがあれば『要望』で指定を。

【2】ルーレット
 くるくるくる~、どこに賭けよう?
 インサイド? オールイン、しちゃう?

【3】スロット
 絵柄が揃うと嬉しい!
 ジャックポット来ないかな!


運の強さ
 勝敗はディーラー・イチカがダイスを振って決まります。

【1】弱い
 FB分出目が弱くなります。

【2】普通
 ダイスの目で判定します。

【3】強い
 CT分出目が強くなります。


場所
 あなたはカジノ内の何処に居ますか?

【1】ゲーム台
 夢中になっているかも知れませんね。

【2】バー
 お洒落なお酒等の提供がされています。

【3】ソファ席
 休憩中? それともチップを全部すっちゃった?


交流
 どの場合でもディーラー等のモブNPCは出ることはあります。
 交流大歓迎でも雨泽だけの時もあります。他の人の選択次第です。

【1】ソロ
 お一人様!

【2】友人と遭遇
 感情活性化している相手までに限り、ゲームが同じならご一緒するかも。

【3】雨泽と遭遇
 雨泽が文字数をもぐもぐしてしまいます。

【4】交流大歓迎!
 知らない人も雨泽もOK!

  • BET? FOLD? SHOWDOWN!!完了
  • GM名壱花
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月24日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談0日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
城火 綾花(p3p007140)
Joker
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
嘉六(p3p010174)
のんべんだらり
唯月 清舟(p3p010224)
天を見上げる無頼

リプレイ

●大人の遊戯
 大きなシャンデリアが出迎える遊戯場は、遊び場で社交場だ。シレンツィオ・リゾートの誇る『ふたつある最大』の内のひとつであるスチーム・オブ・ドリームス・カジノは全てにおいて洗練されていた。
 ひとりならば入るのも尻込みしそうな場所ではあるが、誘い合わせた複数人であればそんな気持ちも起こらなく――なくもないが。
「雨泽」
 そっと摘まれた袖口に雨泽が振り返れば、眉を下げた『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)が一緒に回っても良いかと声を掛けた。応えは『勿論』。そもそも雨泽から誘った手前、彼が望まなければひとりきりにする気もなかった。
 雨泽はチックと色んなゲームを順繰りに遊びつつ、他のイレギュラーズたちの様子も見て回っていく。

 カジノで出来るカードゲームは、いくつかある。
 ここスチーム・オブ・ドリームス・カジノでは、定番のポーカーやブラックジャックやバカラを始めとして、レッドドッグにドラゴンタイガー、インディアンポーカーまでもがあった。
「まずは定番のものから、よね」
 ブラックジャックのゲーム台についた『Joker』城火 綾花(p3p007140)はディーラーや他の挑戦者に軽く挨拶をして店内へと視線を向ける。このスチーム・オブ・ドリームス・カジノはシレンツィオ・リゾート最大のカジノなだけあって、客も従業員の質もいい。カードを操るディーラーの手や客対応の姿を見ても、学ぶべき点が多々あった。
(やっぱり勉強になるわね)
 幻想内のカジノを回っても、時折こうして学んでいる。
 観光方面に力を入れているシレンツィオ・リゾートのことだ。その目玉ともなりうる最大カジノのディーラーは、何処かの有名ディーラーの引き抜き等もしているのだろう。ザッと見渡しただけでも綾花が見たことがあると感じた顔があったから、間違いないだろう。
「スタンドよ」
 手札は悪くはないが、良くもない。
 けれどディーラーが「K」を置いたものだから、ディーラーのバーストに賭けた。
 ディーラーは16以下の場合は引かねばならない。残る一枚は6以下だったのだろう。新しくカードを引いたディーラーがバーストを宣言した。
 プレイヤーの勝ちだ。
「手堅くいくんだね」
 隣の席へついた雨泽に声を掛けられ、綾花は「ええ」と答えた。
 のめり込みすぎるのはスマートではないし、今日は客として楽しむために来ているのだ。
「のんびりと楽しみたいもの」
 夜藍のイブニングドレスのスリットから覗かせた足を組み直し、綾花は楽しげに微笑んだ。

 そう、のめり込みすぎてはいけない。
 いけないのだが――時として人はその判断を誤る。
「今夜の俺はツイてるぜ……」
 こういう時こそが一番危険だ。
『のんべんだらり』嘉六(p3p010174)は不敵な笑みを見せていた。
「……儂はやめちょいた方がええと思う」
「僕も」
 ルーレットへオールインする気満々な様子の嘉六の隣には『天を見上げる無頼』唯月 清舟(p3p010224)と雨泽が並んで座っており、ふたりは手堅くレッドへとチップを賭ける。
 忠告はした。嘉六がその忠告を聞かないだろうことは知っていて。
「お前たち日和ってんじゃねえか」
「手堅いと言ってくれない?」
「おんし遊郭でのことをもう忘れたんか?」
「はっ、ここで日和るのは漢じゃねえ!」
 カジノでは酒が無料で提供されていることが多い。そして嘉六の手元にも酒が既に有り、彼は飲みながらプレイしている――更に、イレギュラーズという最大の担保があるため、派手にやるために嘉六は既に持ち金以上のチップを交換していた。
 そのチップを全て、「0」へストレート・アップした。
 当たれば36倍。しかし負ければ0どころか借りている以上マイナスである。
「来い、来い、っ来た――」
「なんじゃと!?」
 コロコロと転がった球は0へ。
「……んあ!?」
 ――いかなかった。
 最後の一踏ん張りでコロンと枠を超え、球は赤の32へと入ったのだ。
「ち、ちょっと待て、そんな大負け!? クソッ!」
「そういうもんじゃ」
「僕と清舟は赤だから勝ちだね」
「欲を張りすぎるといかんと儂は学んだんじゃ」
 数回一緒にルーレットをプレイして、清舟には解ったことがあった。この雨泽という男、運が強いのだ。一点賭けのような大穴狙いはしないが、赤か黒か等の1/2の確率なら『何となく』で大抵当たる。半数以上当たれば確実にチップは増えていくのだから、雨泽が気まぐれでインサイドに手を出さない場合は追従するのが正しいと知った。
(これが戦場での知恵ってやつよ)
 そして勝負に敗れた嘉六は既に隣には居ない。空いてしまった右隣が寂しい……と思う気持ちも特に無く「阿呆じゃ」くらいの気持ちで、そのまま数回ゲームを楽しんでいる内に黒服の男たちにやんわりと連れて行かれた悪友のこともすっかりと忘れた。
「僕、お酒を貰おうと思うけど、清舟は?」
「酒?」
 見れば歩く度に頭の上でうさ耳を揺らしているバニーガールが酒を配り歩いている。コレと言った飲みたいものがあるのならバニーガールに告げて持ってきて貰うことも出来るのだ。
(……なるほど?)
 酒の注文をする、イコール、バニーさんとお話が出来る。
(儂の巧みな話術で会話を広げていけば……)
 バニーガールと仲良くなるのも夢ではない!
 むふふと妄想に浸って笑った清舟は気づかない。「あ」と声を上げた雨泽が笑いを堪えていることに。
「バニーさん! ちゅちゅちゅちゅ」
 注文を宜しいでしょうか!
「は・ぁ・い♡」
 人が側による気配に勇気を振り絞った清舟に、何だかハスキーな……いや、野太い? 声が返り、緊張のあまりいつの間にかギュッと閉じていた目(間近からバニースーツの胸元を見たら即死することを察した脳による緊急回避)を「ん?」と開くと、そこには――、
「ぎゃはははは! 嘉六! なんじゃその姿は!」
「うるせぇ。じゃなかったわ。うるせぇですよ、お客様」
「あんまり変わっていないと思うよ」
「笑いすぎて死にそうじゃ! せめてすね毛を剃れ!!」
 このカジノにバニーボーイは居ない。働いて借金を返済するには黒服かバニーガールなのだが……黒服の数は足りていた。
 バニーガール姿の嘉六に、清舟は違う意味で瀕死になったのだった。

「え? なんで膝に?」
 難しいルールはいらないからコレにしようかと向かったルーレット台。席についた『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)の膝にちょこんと『この手を貴女に』タイム(p3p007854)が横座りしたものだから夏子は思わず問いかけた。新緑色のイブニングドレスから可愛い膝と銀色の靴が覗いているのが視界に入る。
 しかし。
「え? そういうものじゃないの?」
「え、そういうものなの?」
 返ってくるのは疑問で、更に返すのも疑問。
 タイムも夏子もカジノは初めてで、「だってほら」とタイムが視線を向ける先では、女優のような美しい女性を乗せたスーツの似合うイケおじが居た。なるほど、絵になる。
(いや、でも僕じゃあ絵にはならないでしょ)
 なんて思いはするけれどタイムはそれでいいみたいだし、タイムのお尻も柔らかいし、まぁいいか。
「賭けたいところにチップを置くだけなのよね?」
「そうだね、下の方が確率が高いだけれど当たっても小さい、上の方が確率は低いけど配当が大きいみたいだね」
「うーん、じゃあわたしはここ!」
 タイムは7と22のところへチップを置いた。どちらかが当たれば36倍だが、1/36の確率だ。
「それじゃあ僕はこっちに」
 夏子は「1st」と書かれた場所へとチップを動かす。当たれば3倍、確率も1/3。まずは手堅くね。
(見たところ、品も良いところだしね)
 イカサマで路銀を稼いだこともあるが、今日は稼ぐよりもタイムと遊ぶために来ているのだ。手堅くここだと思うところへ賭けていけば、夏子のチップは増えていくばかり。
 対するタイムは――、
「むぅぅ~~! なんでぇ!?」
 ストレート・アップばかりを狙うから、負け続き。増えていく夏子のチップと減っていく自身のチップを見比べて、ほっぺを大きく膨らませた。
「タイムちゃん。大きいとこ狙わずに手堅くいった方がいいんじゃない?」
「夏子さんと同じとこ賭けてもいい?」
「そりゃ勿論。タイムちゃんみたいな可愛い子ちゃんが勝利の女神様になってくれたら、僕も嬉しいな」
 夏子の言葉ひとつで、タイムのほっぺは凹んで満面の笑みが戻ってくる。
 女の子はどんな顔でも可愛い。けれど笑っている方がタイムには似合うし、むくれ顔よりも好ましい。
「下の方のは1/2か1/3の確率なのよね?」
 そうだねと小さく笑った夏子はハイロー賭けをし、タイムも同じ場所へチップを置いた。
「あ! 当たった! 夏子さん、当たったわ!」
 初めての勝利にタイムが手を合わせて喜んで、夏子は「よかったね」と笑う。
「夏子さん、夏子さん」
「なぁに、タイムちゃん」
「勝ったらパーっと飲も~!」
「おーっ……ってここ、お酒無料らしいよ」
「そうなんだ!?」
 ほら、と指差す先ではバニーガールがお酒を配り歩いている。
 けれどもタイムは酒に弱いから、ゲーム中に飲ませない方がいいかもしれない。程々に勝たせて上げたら切り上げて、程々に飲ませてあげようと夏子は思った。
 その直後、初の勝利に感極まったタイムは夏子の首に手を回して、キャアキャアと大いに喜ぶのだった。

「うーん、もう飲めませ……いえ、わたしはまだ……」
「おっと」
 バーのカウンター・テーブルに角をゴツンと打ち付ける前に、『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)の小さなふわもこ羊『ジーク』が『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)の頭を救った。互いの勝負状況を「どうだった?」と語り合っていたところだったため、さり気なく『ノブレス・オブリージュ』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)も澄恋が指をかけていたグラスを遠ざけた。
「……そんなに飲んでいただろうか」
「澄恋は酒が弱いそうだよ」
「そうなのか」
 報告書で読んだことがあると口にした情報屋の雨泽は、白いもこもこのボレロがずれているのを見つけて直してやる。今日の澄恋は背中の開いた紅いイブニングドレスに白のボレロを合わせており、水色の髪には紅白の椿飾りと金の組紐が結ばれていた。女の子はお洒落させがいがあるよね、なんて雨泽が選んだものだ。
 何故酒に弱い澄恋が潰れているのか?
 答えは簡単だ。彼女は酒も賭け事も弱い。
 実は嘉六よりも先にいきなりオールインをかまして全チップを消してしまった彼女は、こうしてバーでただ酒を煽っていた。しかし、無い袖を振らないだけ嘉六より全然マシである。
「ふたりは勝てているのだっけ?」
「ああ」
「僕は……最初は良かったのだが」
 琥珀色の酒をロックグラスであおったゲオルグがポーカーに興じているのは雨泽も見た。
 シューヴェルトはブラックジャックに興じていた。が、最初は良かったが雲行きが怪しくなってきたため一旦バーへと引いたようだ。引き際を心得ているのは良いことだと、ゲオルグが手の内のグラスをカランと鳴らした。
「でもシューヴェルトはカジノ初めてなんでしょ? 全部擦ってないなら大したものだよ」
「そう、なのか? ……しかし、カジノとは恐ろしいところだな」
「そう?」
「負けるとあのような姿になるとは……」
 あのような、が何を指しているのか察した雨泽は酒に噎せ、ゲオルグが喉奥でクツクツ笑う。
「いや、普通は負けてもああはならないよ」
「そうだな、手持ちの金を越えなければいい」
 カジノでは現金をチップに交換してゲームをプレイする。そうすることで客の『金を使っている』感覚をバグらせることも可能で、普段使わないような大金を使ってしまう者も居る。また、借りて手持ちを膨らませ、更にそれを膨らませて……などと言った思考に陥る者とて多い。良心的なこのカジノでは働いて返させてくれるのだが、バニーか黒服かの二択しかなかった。ただそれだけだ。
「なるほど」
 生真面目に顎を引くシューヴェルトに、ゲオルグと雨泽がまた穏やかに笑みを零した。
「それにしてもゲオルグは格好良かったよね」
「たまたまだ」
「そう? かなり手慣れている様子だったじゃない」
 何せゲオルグは、勝っていたのにバーへと赴いた。勝ち続けることだって出来たのに、「ディーラーを負かせ続けてもいかんだろう」と格好いいことを言っていたのだ。
「この歳になればそれなりに経験があるだけだ」
「でも本当にすごくいい手札だったよね」
 ぐうるりと廻っていた雨泽は少ししか見ていないが、それでもゲオルグの卓は彼が居る間とても盛り上がっていた。
「それは……是非ご教授いただきたいな」
「勝負は時の運だ。必ず勝たせてやれる訳では無いが、ルールを教えることはできるぞ」
 ちょうどゲオルグの手元のグラスが空いた。残った氷が寂しげに残るグラスを置いてゲオルグが席を立てば、同行させてほしいとシューヴェルトも席を立った。ふたりの男の背は、ポーカー台の方へと消えていく。きっと帰る頃にはふたりの前にはチップが山と積まれ、他の客にも、そしてともに来たイレギュラーズたちにも羨ましがられることだろう。
「……はっ、今は何の刻でしょう!」
「起きた? おはよう」
「寝ていましたか、わたし」
 少し頭がすっきりした? と雨泽が訪ねている間に、ずっと雨泽の傍らで大人しく耳を傾けていたチックがバーテンダーから水を受け取ると、澄恋は差し出された水を謝辞とともに両手で受け取った。
「澄恋、飲み過ぎ……気をつける、して」
「はい……。でもですね! 飲まねばやってられないこともあるのですよ!」
 酒を口にしないチックにはわからない。そうなの? と問う視線と、楽しげな灰色が交差した。肯定でもあるのだろう。
「はいはい、澄恋。ナッツも食べようね」
 先刻からチックがポリポリとひと粒ずつ口に運んでいたミックスナッツ。それともアラレ入りの方が君の口には馴染むかなと雨泽が注文する。
「あ、シャーベットもある」
「お酒飲む、何か食べる大事……知ってる」
 うんうんとチックも頷いて、酒を飲んでもいいけどこっちも食べてとあれやこれやと澄恋の前に軽食を並べた。普段の姿も可愛いけれど折角可愛い姿をしているのだから、酔い潰れているよりは美味しそうに何かを食べていた方が可愛いよ、と。
「チックはどう?」
「ん」
「ちゃんと楽しめている?」
 雨泽の問いに、チックはこくこくと頷いた。
「知らない遊び、いっぱい。でも雨泽といっしょ……楽しいよ」
「そ、よかった」
 普段着ない服に、来ない場所。ひとりだったらきっと、此処に来ることがチックの人生には無かったかもしれない。
「雨泽も、楽しい?」
「僕は皆の服を選ぶだけでも楽しかったよ」
 チックの装いはスーツだけれど、琥珀色のネクタイも碧石の嵌ったタイピンも、琥珀色のカフスも、雨泽が選んだし、髪は高い位置でのポニーテール。最近出会ったのだという『ユイ』を結べば、チックは「ユイもいっしょに、初めて……嬉しい」とはにかんでいた。
「チック様も初めて、なんですよね」
 やはりまぶたが重たいのか、レモンシャーベットで頭をすっきりとさせようとしながら澄恋が問いかけた。
「うん、初めて」
「でもチックは澄恋みたいに無茶はしなかったよ」
「……賭け事は大きく賭けるものなのではないのですか?」
「君は根っからのギャンブラーなの?」
 因みに澄恋は一点カ賭けな上にオールインだが、チックは雨泽と同様にアウトサイドメインに賭けている。確率は1/2か1/3だし、外れてもいいようにチップは一枚ずつ使用していた。
「あー、負けじゃ負けじゃ。わしはもうやらん。やらんぞ」
 敗者が増えた。
「やあ支佐手。調子はどう……って聞く前に言っていたね」
「賭け事なんぞ、わしはもうやらんぞ」
 いつもですますを付けることの多い『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)が座った目で雨泽を見る。肩を竦めた雨泽の向こうでは澄恋が敗者仲間が増えたことに密かに喜んでいた。
「何を飲んどるんじゃ?」
「僕はモヒート」
 チックがリンゴジュースで、澄恋はシンデレラを注文し直したところだ。
「わしも同じものを」
 葉っぱが多くて飲みにくい、などど口にしながらもスーッとする酒が一息に消えた。
 酒が無くなったグラスを見れば、無くなったチップの存在をまた思い出す。
 惜しいチップを無くした。あそこで勝てていれば今頃、なんていう気持ちも浮かんでくるし、「どこにいくんじゃ」と問うてきた幼馴染に「おんしのいけん大人の社交場じゃ」なんて格好つけて出てきた手前、情けのない土産話も出来ない。
「蛇神は金運にご利益があるなどと、誰が言うたんじゃろうな」
「へえ、君のとこの祖神は蛇なんだ?」
「……おんしのところは?」
「狐だったかな。家の敷地内に祀ってあったのを見た記憶があるようなないような」
 信心深くもなければ、狐は犬科だ。猫ではない。
「財布に蛇の抜け殻を入れるといいとは聞くけど……ご利益よりも支佐手の勝負運が弱かったのかな」
「おんしが連れてきたんじゃろ」
 誘ったくせに、と思ってしまうのも仕方がない。
 実際、あの酒の席の雨泽を除く三人は、勝負運が悪かった。どう見たって雨泽の人選ミスだが――嘉六が賭博好きなのだから仕方がないし、他の二人までもがこうも弱いだなどと思ってもいなかったのだ。
「まあまあまあまあ。次はベリーニかエメラルドスプリッツァーなんてどう?」
「なんじゃ、それ」
「桃のお酒とマスカットのお酒」
「ますかっと」
「翠の葡萄」
「大陸の酒は洒落ちょりますの」
 少し機嫌が直った――と言うよりも酒に意識を逸らした支佐手は両方飲んでみることにした。
 喧嘩にならないかと少しそわそわとしていたチックは、ホッと息を吐く。
「あ。わたし、ちょっと行ってきますねえ」
「気をつけてね、澄恋」
「はぁい」
 カジノは宿泊施設も備わっていることが多いから、次に眠気が来たら無理せず休むこと。澄恋が見た目に反して強いことは知っていても、悪い男には気をつけてと釘を刺す。シャーベットで少し持ち直した澄恋はおもちゃと清舟を見つけたのだろう。よいこの返事を残し、バニー姿の嘉六をいじりにいった。
「君も飲み過ぎは注意だよ」
「今呑まんでいつ呑むんじゃ」
「それじゃあとっておきの酔い止めをあげようか」
「おん?」
 支佐手の肩に手を掛けて顔を寄せた雨泽が言葉を落として。
「僕たちはもう一巡りしようか」
「うん」
「次はもう少し冒険しよう」
「負けない、範囲……?」
「ふふ、そうだね」
 雨泽はチックを伴い、離れていく。過保護な彼がチックに大敗を覚えさせることはしないだろう。
 ひとりバーのカウンターに残った支佐手は手の内に残った杯をぐいと煽る。
 ――近々、刑部卿からお呼びがかかると思うよ。
 あの日、酒家に誘った雨泽が『何故豊穣に居たのか』を知った。
「……酔えんくなったじゃろうが」
 ええいと独りごち、おかわりをバーテンダーへと頼むのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お金も尊厳も無くしたあなたへ……
と思いましたが、ライトシナリオは出せなかったですね。
なので称号を出しておきますね。

カジノ! スーツ! ドレス! ロマン! でした。
みなさんにとって、楽しい一夜となっていますように。

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