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シナリオ詳細

<天牢雪獄>マルク・シリング暗殺計画

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●アラクランの策謀
 薄暗い部屋の中、長方形のテーブルを囲んで、鉄帝軍人達が会議をしている。彼らは新皇帝派――その中でも、アラクラン(建国勢)に属する将校達だ。その議題は、彼らが主として敵対している独立島アーカーシュの「大使」にしてブレーンである『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)への対処についてだ。
 マルクを排除すれば、アーカーシュは機能不全に陥るはずだ。実際にそうなるかは不明だが、彼らはそう見ていた。アーカーシュが機能不全となれば、アラクランはアーカーシュに対して優位に立てるだろう。
 では、如何にしてマルクを排除するか――将校達が選んだのは、刺客を放っての暗殺だ。その刺客を誰にするか――人選の最中に、一人の女軍人が入ってきた。
「――随分と、面白そうな話をしているな」
「こっ、これは、ミチェーリ大佐!」
 アラクランの将校達が、慌てて椅子から起ち上がり、直立不動で敬礼する。
 部屋に入ってきた女軍人は、エカチェリーナ・ミチェーリ大佐。白く長い髪を自身の周囲で吹く風雪に棚引かせ、白い軍服を纏った、憤怒の魔種だ。
「此奴が、そのマルクか――」
 エカチェリーナは、敬礼する将校達を一瞥すると、テーブルの上の資料に目をやった。その中の写真に写っている男に、エカチェリーナは見覚えがある。ゲヴィド・ウェスタン北方の戦いで自身に重傷を負わせた相手だ。さらに、その傷を癒やすための医者の確保の妨害や、隊の本拠地襲撃にもこの男が関わっていたとエカチェリーナは聞いている。
「その計画、私も乗ろう。ついては、刺客の人選は私に任せてもらえるか? 丁度いい男を、識っている」
 階級的に逆らえないこともあり、将校達は最初はエカチェリーナの提案を訝しんだ。だが、エカチェリーナが刺客の候補について話していくうちにつれ、将校達の目は期待に輝き、明らかに乗り気な様子を見せ始めていた。
「大佐、よろしくお願いします!」
「ああ、任せておくがいい」
 将校達は熱望しつつ、エカチェリーナに刺客の人選を委ねた。エカチェリーナは、軽く唇の端を吊り上げ、満足そうに微笑みながら返した。

●エカチェリーナの憤激
 アラクランの将校達との話を終えたエカチェリーナは、自分の執務室へと向かった。マルクにはさんざ煮え湯を飲まされたが、その暗殺が成功すれば多少は溜飲が下がろうというものだ。氷の表情を崩すことはなかったが、普段よりエカチェリーナは上機嫌ではあった。だが、その上機嫌も執務室に入った直後までだった。
「……貴様、何者だ? 何故、私の部屋にいる?」
「自分は、モーブ・デン・レイヨー少尉であります。ミチェーリ大佐に、お伝えせねばならぬ事があり……」
 泥に汚れた、新時代英雄隊の一人が跪いてエカチェリーナを待っていた。エカチェリーナの脳裏に、嫌な予感が走る。
「まさか……ミハイロフ中佐は、如何した?」
「ここより南の街道にて、イレギュラーズの襲撃を受け戦死! 隊も、戦死や逃亡でほぼ壊滅!」
「……おのれ、イレギュラーズめ!!」
 怒髪天を衝く勢いで、エカチェリーナが激怒した。少なからず苦労して新皇帝派内部で工作し、ようやく認めさせた新時代英雄隊の合流をぶち壊しにしてくれたとは! そこに、普段の冷静さはもう見る影もない。モーブは、ただガタガタ震えて跪くしか出来なかった。
「……ところで、レイヨー少尉。もしかして、イレギュラーズの中にマルク・シリングと言う者はいなかったか?」
 感情を爆発させたためか多少落ち着きを取り戻したエカチェリーナは、そう問いかけると、マルクの風貌や特徴をを語った。
「おりました! 間違いございません!」
 モーブの確信を持った答えに、エカチェリーナは歯ぎしりをした。ギリッ! と言う音が、執務室中に響いたかのようにモーブには思われた。
「……レイヨー少尉と言ったか。一つ、頼まれてくれ。シエロ・アズール少佐を呼んできてくれないか?」
 辛うじて憤怒を抑え込み、冷静に戻ったエカチェリーナが、モーブにそう伝えてシエロの居場所を教える。
「ははっ、かしこまりました!」
 モーブは、一も二も無くエカチェリーナの頼みを受けた。断ればエカチェリーナの憤怒に触れる可能性があるし、何より今のエカチェリーナからは一刻も早く離れたかったからだ。

●風は帝都へ
「アズール少佐。貴官に頼みたい任務がある」
「……一体、何なんです?」
 モーブに呼ばれたシエロは、エカチェリーナの執務室を訪ねた。エカチェリーナは、マルクがアーカーシュの「大使」でありブレーンであること、エカチェリーナ自身も深手を負わされ部隊を削られ、来るはずだった補充戦力も削られたこと、アラクランの将校達の暗殺計画にエカチェリーナも乗ったことを伝えた。
「その刺客を、貴官にやってもらいたい」
「なるほど――ねぇ」
 エカチェリーナの話を黙って聞いていたシエロだったが、刺客の話を振られるとニヤリと笑った。
「受けてくれるか?」
「こないだのつまらない命令よりは、はるかにやり甲斐があると言うものです」
 重ねて問うたエカチェリーナの問いに、シエロは鮫のように獰猛な笑みを浮かべた。
 マルクを暗殺すれば、アーカーシュは機能不全に陥る。少なくとも、アラクランの将校達はそう見ている。そして、直接の上官では無いとは言えエカチェリーナの手腕を識るシエロとしては、マルクがエカチェリーナにここまで苦渋を舐めさせていることも興味深い。
 誘い込まれているのが明らかなバーデンドルフ・ライン攻撃部隊への航空支援などよりは、シエロ自身も言うように余程やり甲斐がある任務だ。自身の働きで戦局を変えうるとなれば、軍人としては誉れとさえ言えた。
(ここが……死に花の咲かせ時かね)
 もう一つ、シエロがこの任務に意欲を見せたのは、軍人としてこれが望ましい死地を得られる機会だと考えたからだ。
 ジーフリト計画の成功以降、鉄帝を覆う戦乱の気配が変わってきているのは、シエロも感じている。情報を集めている限りでは、帝政派と南部戦線は会談に成功し共に帝都に目を向けているようであるし、その他の諸勢力も着々と祖国解放の準備を進めているように思われた。
 シエロは、良くも悪くも先が読めてしまう男だ。故に、新皇帝派はもうさほど長くは持つまいと見ていた。目の前にいるエカチェリーナが、ある意味その傍証ではないか。元々南部戦線を相手に活動していたはずが、いつの間にか帝都に逃れてきている。おそらく、同様の局面は鉄帝中で起こっているのだろう。
 新皇帝派の敗北を想定して、シエロは部下の処遇をはじめとする身辺整理を既に済ませている。あとシエロが迎えられる運命は、来たるべき帝都の決戦での戦死か、戦犯としての処刑であろう。だが、マルクを討てばその流れに楔を打てる可能性がある――となれば、仮に敗死するとしても、死に場所としてこれ以上の機会はないように思われた。
「吉報を、お待ち下さい」
 恭しく、シエロは頭を下げる。そこに、普段の飄々とした様子は欠片も残っていなかった。

●蒼穹より来たる刺客
「次は、いよいよエカチェリーナ自身の討伐でしょうか」
「確かに、そろそろ彼女の討伐も見えてきましたね」
 スチールグラード近郊。街道を北上しながら、水月・鏡禍(p3p008354)とオリーブ・ローレル(p3p004352)がそんな会話をしていた。鏡禍、オリーブ、そしてマルクの三人は、ここから南の方でエカチェリーナ隊に合流せんとするデミトリー・ミハイロフ中佐と彼が率いる新時代英雄隊を撃破してきたばかりであった。
 無辜の民を磔にして寒気に曝し人質とする。そのエカチェリーナ隊の所業を、鏡禍もオリーブもマルクも許せない。「猟犬のように追い詰める」とマルクは言ったが、実際、戦力は削り戦力補充も潰し、次はチェックメイトと行けるのではと言う期待は三人にあった。
 その三人に向かって、五人のイレギュラーズがゼイゼイと息を切らしながら走ってくる。五人は、マルク達三人の姿を見て、ほっと胸を撫で下ろした。
「よかった、間に合ったか。それとも、アレの狙いはマルク達じゃなかったのか?」
 五人は、スチールグラードでコランバイン――紫色の、四メートルのロボットに近いパワードスーツ――が南へと飛び去ったのを目にしていた。そして、その先の街道でデミトリー達新時代英雄隊と戦っているはずのマルク達を案じて大急ぎで街道を南下してきたのだ。
 マルク達が傷を負いつつも街道を北上してきているのを見て、五人は胸を撫で下ろした。どうやら、コランバインはここには来ていないようだ。
 だが、実はこの時、シエロの駆るコランバインはイレギュラーズ達から一キロ以上の上空にいたのだ。
(邪魔が入ってしまったか……)
 相手が増えたのは不運だったが、それで引くわけにも行かない。スチールグラードに入られてしまっては、シエロにとっては襲撃が困難になってしまう。
 コランバインのコクピットで、シエロは気迫に満ちた表情をしつつ、全身から禍々しい紫色のオーラを放った。そのオーラは、機体の外にも拡がり機体を包み込んでいく。
(マルクとやら……この命に替えてでも、仕留めさせてもらう!)
 地面にいるマルクの姿をモニターで捉えると、シエロは全速力で急降下。瞬く間に、マルクの頭上四十メートルまで迫り肩部ビームカノンの砲口を向ける。
「マルク、危ない!」
 はるか上空から猛スピードで迫り来たコランバインの姿を目の当たりにしたイレギュラーズが、マルクに警告を放った。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。今回は<天牢雪獄>のシナリオをお送りします。
 アーカーシュの大使にしてブレーンであるマルクさんに対し、アラクランが暗殺計画を立てました。その計画に、マルクさん達に煮え湯を飲まされ続けているエカチェリーナが乗り、魔種シエロを刺客として送り込んできました。
 シエロは、ここを死に場所と思い定めて、決死の覚悟と気迫でマルクさんの殺害を狙ってきます。そのシエロを撃破し、マルクさんを守って下さい。
 なお、時系列としては『<天牢雪獄>許すべからざる戦力補充』でデミトリーや新時代英雄隊を撃破した直後、スチールグラードへの移動中となります。

●成功条件
 シエロの撃破

●失敗条件
 マルクさんの死亡

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます(特にマルクさん)。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 この状況自体が、不測の事態です。

●ロケーション
 スチールグラード近郊。時間は昼間、天候は晴天。
 環境によって戦闘に影響する要素は無いものとします。

●初期配置
 シエロは、マルクさんの真上40メートル近くを飛行しています。
 鏡禍さん、オリーブさん、他、もし『<天牢雪獄>許すべからざる戦力補充』にも参加された方がいらっしゃれば、その方はマルクさんのすぐ側にいてもよいものとします。
 それ以外のイレギュラーズは、マルクさんからスチールグラード方面に40メートル以上離れた位置にいるものとします。

●シエロ・アズール&コランバイン・フライトカスタム ✕1
 シエロは新皇帝派鉄帝軍少佐にして、憤怒の魔種です。拙作『<ジーフリト計画>航空支援を退けよ』に登場しました。
 普段は憤怒の魔種にしては飄々としていますが、今回はマルクさん暗殺に決死の覚悟を抱いているため、バーデンドルフ・ラインを攻撃した時とは気迫は別物であり、その分能力も向上しています。
 コランバインはシエロが装備――と言うよりも搭乗と言った方が近いのですが――している試作型パワードスーツで、一見すると重装甲のロボのようにも見えます。そのコランバインがシエロに合わせて、かつ空中戦用に調整されたものが、コランバイン・フライトカスタムです。全高は4メートルほどで、カラーは紫。
 魔種の例に漏れず生命力が極めて高く、コランバインに装備している武装の火力も尋常ではありません。また、その装甲により防御技術も非常に高くなっています。コランバインは重量もあって回避は低めなのがネック……だったのですが、フライトカスタムによって機動力を確保し、回避も高くなっています。他、高移動力、高EXA、高反応と言うスピード型です。
 さらに、マルクさん暗殺への執念と気迫もあって、何種類かの攻撃には【必殺】が乗ってくる上、EXFも非常に高くなっています。
 コランバインの各種武装は左右1対となっており、薙ぎ払い以外の攻撃は1回の行動で2回行われます。

 なお、シエロはコランバインに搭乗しての戦闘には拘泥していません。
 もしコランバインから降りた場合、攻撃力はやや、防御技術は大きく落ちますが、回避はむしろ向上します。

 また、シエロは基本的にマルクさんを狙ってくるため、射程の関係もあってマルクさんから40メートル以上離れることは原則としてありません。
 そのため、マルクさんの側からであれば、超遠距離射程の攻撃を用いれば飛行は出来なくてもシエロは攻撃可能です。

・攻撃能力など(コランバイン・フライトカスタム搭乗時)
 隠し腕 神至単 【邪道】【変幻】【必殺】
  普段は装甲内に隠匿しているアームです。その先からは、ビームサーベルが展開されます。
 薙ぎ払い 神至範 【邪道】【変幻】
 肩部ビームカノン 神超貫 【万能】【防無】【必殺】
 腕部ガトリング砲 物/近~超/範~域 【邪道】【変幻】【封殺】【致命】
 腰部・脚部ミサイルポッド 物遠範 【多重影】【変幻】【鬼道】【火炎】【業炎】【炎獄】【紅焔】【必殺】
 自動ポーション投与システム
  自動的に搭乗者にポーションを投与するシステムです。このため、シエロのHPは毎ターンある程度回復します。
 BS耐性
  特殊抵抗にプラスの補正が入ります。
 BS緩和
 【封殺】無効
 【怒り】無効
 【飛行】
 マーク・ブロック不可
  飛行能力と高い移動力で、マーク・ブロックをすり抜けてしまいます。
 禍々しき魔のオーラ
  【防無】【弱点】【邪道】【乱れ】系BSで減算されない防御技術を加算する、禍々しい魔力のオーラです。
  数値はさすがに高くありません。
 自爆装置 【識別】

・攻撃能力など(コランバイン・フライトカスタム非搭乗時)
 ??? ?至? 【必殺】【?】
 ??? ?/近~超/? 【必殺】【?】
 ??? ??? 【必殺】【?】
 BS耐性
  特殊抵抗にプラスの補正が入ります。
 BS緩和
 【封殺】無効
 【怒り】無効
 【飛行】
 マーク・ブロック不可
  飛行能力と高い移動力で、マーク・ブロックをすり抜けてしまいます。
 禍々しき魔のオーラ
  【防無】【弱点】【邪道】【乱れ】系BSで減算されない防御技術を加算する、禍々しい魔力のオーラです。
  数値はさすがに高くありません。

・優先目標:マルク・シリング
 シエロは、何としてもマルクさんを仕留めようとしてきます。そのため、マルクさんへの攻撃を最優先します。
 ただし、状況が見えて判断力も十分有するタイプであるため、マルクさんを仕留めるのに誰かが障害となっていると判断すれば、その障害の排除をまず優先する可能性もあります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●関連シナリオ(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
・『<天牢雪獄>許すべからざる戦力補充』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9154

・『<ジーフリト計画>航空支援を退けよ』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9094

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしています。

  • <天牢雪獄>マルク・シリング暗殺計画Lv:40以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年02月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
鏡禍・A・水月(p3p008354)
夜鏡
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ

●迫る刺客
 キラリ。遥か上空で、紫色のパワードスーツが太陽の光を受けて輝いた。『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)の暗殺を狙うシエロ・アズール少佐が駆るコランバイン・フライトカスタムだ。
(やっぱり、狙われてたのはマルクさんなのね!?)
 その輝きを目にした『この手を貴女に』タイム(p3p007854)が、全力で駆けながら確信した。
 タイム達は、スチールグラードで南へと飛び立ったコランバイン・フライトカスタムを目撃して、南の街道で新時代英雄隊と戦っているはずのマルク達を案じてここまで来たのだ。そして、遠目にマルク達の姿を確認したのとほぼ同じタイミングで、コランバイン・フライトカスタムの輝きを目にしていた。
(一体、どうしてそんなことに!?)
 タイムの中に浮かんだ疑問の答えは、明白だった。一言で言ってしまえば、「新皇帝派を相手に活躍しすぎた」のだ。
「すぐ行くから、どうか耐えていて……!」
 祈りながら、タイムはマルク達と合流するべく駆け続けた。
(暗殺とは、余程マルクさんが邪魔になってきたようで……)
 『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)もまた、マルク達のもとへと全力で駆けている。マルクを殺害させて新皇帝派の希望どおりに事を進めさせるつもりは、ウィルドにはさらさらなかった。
(マルク! 間に合うかしら……)
 『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は危惧を抱いたが、今はその時間すらも惜しい。
(待っていて下さいまし。すぐに駆け付けますわっ!)
 間に合うことを願いながら、ヴァレーリヤは息を切らせて駆けた。
(返り討ちにされる覚悟は、できてるよな?)
 蒼いワイバーン『リオン』を駆りつつ、イズマは遥か上空の刺客に心の中で問うた。
 仲間を狙われて黙ってるつもりはないし、その命を獲りに来たと言うのであれば、守って退けるだけでは生温いとイズマは考えている。
 命を獲りに来るのであれば、逆に獲られる覚悟も必要なはずだ。

 北から駆けつけてくる仲間達にやや遅れて、マルク達も迫り来るシエロのコランバイン・フライトカスタムを発見した。最初に気付いたのは、『玉響』レイン・レイン(p3p010586)だ。
「あれ……何だろ……? こっちに迫ってくるみたい、だから……敵、かな……」
「あれは、飛行型のコランバイン!? ビーム砲、狙いは僕か……!」
 レインの指し示した先を見上げたマルクは、まだコランバイン・フライトカスタムとは距離が遠く離れているにもかかわらず、その肩部ビームカノンの砲口が自分に向けられているのを、マルクは認識していた。
「一仕事終えたばかりだと言うのに、次から次へと……ただ、相手方もこれは焦ってきているのでしょうかね」
「そうだと思いますよ。新皇帝派も、そろそろ後が無くなってきているはずです」
 魔種が率いる新時代英雄隊を攻撃した直後に、襲撃を受けようとは。『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)はウンザリしたようにつぶやいたが、逆にこうまで直接的な手段に出てきていることに、新皇帝派の焦りをも感じていた。
 その鏡禍の言を、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が首肯する。実際、新皇帝派を取り巻く状況は厳しい。帝政派と南部戦線は手を組み、帝都へ進攻する構えを見せている。となれば、ラド・バウも呼応するはずだ。他の派閥もまた、帝都の決戦を見据えているだろう。
(ともあれ、一緒にいる時でよかったです。どんな手を使っても上手くいかないと教えてやります)
 そう思い定めた鏡禍は、仲間を護る不壊の盾として、何時でもマルクを庇える体勢を整えた。

●高度押し下げる大喝
「鉄帝軍少佐、シエロ・アズールだ! マルク・シリング! 恨み辛みは無いが、ここで死んでもらう!」
 マルクとの距離を四十メートル弱まで詰めたシエロは、マルクにそう告げながら、ビームカノンを連射。幾本もの光条が、マルクに突き刺さる――かのように見えた。だが。
「マルクさんの暗殺なんて、させませんよ」
「――ち。まぁ、そうなるよな」
 鏡禍が、マルクの盾となってその光条を受け止める。同時に、鏡禍は危機感を抱いた。
(この攻撃、まずいですね)
 鏡禍は、必殺の気迫を込めた攻撃を受けない限り決して倒れることはない。その特性を活かし、鏡禍は幾度も盾役として敵の攻撃に耐え、味方を勝利に導いてきた。だが、シエロの攻撃には、その気迫が込められている。何時までも受け続けていたら、何時かは力尽き倒れることになるだろう。
「アーカーシュの、マルク・シリング! 僕が相手だ!」
 シエロの名乗りと気迫に、マルクはむしろ暗殺者と言うよりも、武人の趣を感じた。もっとも、だからと言ってむざむざと殺されてやるつもりはないし、そう言うわけにはいかない。
 シエロの気迫に負けない程の気迫を込めて堂々と言い放ちつつ、マルクは福音を紡いで盾となってくれた鏡禍に癒やしを施した。
「上空から一方的に殺すってか? させるかよ、そんな狡い戦い方。地上に墜ちろ!」
 イズマはコランバイン・フライトカスタムに急接近すると、細剣『メロディア・コンダクター』で突きかかり、シエロを牽制した。さらにシエロの隙を衝いてその上を取ると、全身全霊で大喝を放つ。物理的破壊力さえ有するその大喝は、コランバイン・フライトカスタムの高度を十メートルほど押し下げた。
 次いでイズマは、もう一度大喝を放つ。コランバイン・フライトカスタムの高度は、二十メートル弱まで落ちた。
「絶対、無事って信じてたわ!」
 マルク達と合流したタイムは、安堵の表情を浮かべながら、鏡禍の頭上に光輪を顕現させた。その光輪が鏡禍へと降りていくと、鏡禍の傷が癒えていく。マルクの福音による癒やしとも合わせて、鏡禍の受けた傷は軽傷と言えるところまで癒えた。
「僕の……命、遣って……でも……」
 レインは、自身の生命力を代償にしてマルク、鏡禍、オリーブを大きく強化した。
「ありがとうございます、レインさん」
 オリーブはレインに礼を述べると、クロスボウに矢を番え、コランバイン・フライトカスタムを撃った。
 幾度もコランバインと戦ってきたオリーブは、コランバインとの戦い方を理解してきていた。小細工に頼らず、装甲ごと搭乗者を断てば良い。それは、フライトカスタムであっても変わることは無かった。
 はたして、オリーブの撃った矢は、コランバイン・フライトカスタムの装甲を紙のように易々と貫いた。そして、コクピットに座しているシエロの脇腹に突き刺さる。
「……うぐっ! コランバインの装甲を、こうも簡単に貫くとは……!」
 驚愕と苦痛に顔を歪めながら、シエロは呻いた。
(これで、重装備の不利を感じさせて早々にコランバインを捨ててくれればいいのですが)
 オリーブとしては、そうあって欲しかった。コランバインの潤沢な武装による火力で押し切られるのが、オリーブ達にとって最も厳しい展開だからだ。
「チッ……見下ろされるのは、嫌いなんですがね」
 舌打ちをしながら、ウィルドは小さな寸鉄をこっそりと放った。寸鉄は、シエロも気付かないうちにコランバイン・フライトカスタムの機体に突き刺さる。
「うぐっ!?」
 寸鉄からコランバイン・フライトカスタムの機体全体に、致死性の猛毒が浸透。中にいるシエロも、その毒に蝕まれて苦悶の声を上げた。
「主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え」
 マルクの危機に間に合ったことに安堵しながら、ヴァレーリヤはメイスを構えて、聖句を唱える。すると、メイスから炎が吹き上がった。ブン、とヴァレーリヤがメイスをコランバイン・フライトカスタムに向けて振るうと、炎は荒れ狂う奔流となって、コランバイン・フライトカスタムを飲み込んだ。
「くそっ! 熱ぃな! 蒸し焼きにするつもりか!」
 炎に包まれたコランバイン・フライトカスタムの機体の温度は、急上昇。そのコクピットの中も、灼熱地獄と化している。全身を炙る高温によって、シエロは火傷さえ負った。

●コランバイン・フライトカスタム、自爆
 イレギュラーズとシエロの戦闘は、長期戦となった。コランバイン・フライトカスタムの動きは俊敏で、イレギュラーズの側からはなかなか攻撃を直撃させられないでいた。一方、シエロからの熾烈な攻撃も鏡禍、タイム、ウィルド交代で盾になって受け止め、その受け止めた者をマルク、レインが癒やしていく。
 イズマは味方の攻撃圏内までシエロの高度を押し下げ続けていたが、機動力を阻害したにもかかわらずシエロが高度四十メートル弱まで上昇するため、押し下げては上昇され、また押し下げての繰り返しとなっていた。
 そんな中、ダメージは互いに蓄積されていった。特にヴァレーリヤ、オリーブの攻撃は着実にコランバイン・フライトカスタムの機体と、そしてシエロにダメージを与えている。シエロの受けているダメージは不明だが、コランバイン・フライトカスタムの機体はボロボロになり、稼働の限界は近いと思われた。
 一方、コランバイン・フライトカスタムの火力によって、マルクの代わりに攻撃を受け続けた鏡禍、タイム、ウィルドも深手を負った。

(よくここまで働いてくれたな……あばよ)
 コランバイン・フライトカスタムは限界と見たシエロは、バーニアを全開で噴かすと、コクピットから離脱した。搭乗者のいないコランバイン・フライトカスタムは、高速でマルクへと突っ込んでいく。
「――僕は、守護者です。どんな手だろうと、皆さんを傷つけさせるものですか!」
 コランバインには自爆装置が積まれていることを、鏡禍は識っていた。当然、コランバイン・フライトカスタムにも自爆装置が積まれていること、シエロがそれを使ってくる可能性があることは想定し、警戒している。
 そして、コランバイン・フライトカスタムを乗り捨てて突っ込ませてきたこの瞬間は、鏡禍が最も警戒している瞬間でもあった。
 故に、鏡禍はすぐさま鏡の結界を展開。鏡の結界は、コランバイン・フライトカスタムの自爆による爆炎と爆風を、全て鏡禍へと集中させた。
「おいおい……あれを止めちまうのかよ」
 奥の手の一つさえも食い止められたシエロは、呆れ混じりにつぶやいた。やはり、イレギュラーズは底が知れない。
 コランバイン・フライトカスタムから降りたシエロの手には、一本の使い込まれた銃剣があった。その穂は、ビームで形成されている。

 生身となったシエロは、コランバイン・フライトカスタム搭乗時よりも機敏になった。そのため、シエロの高度を押し下げていたイズマは、手数をほぼそれに充てざるを得なくなる。
 イズマに高度を押し下げられながらも、シエロは銃剣からのビームでマルクを狙い撃ち続けた。が、それは盾となった鏡禍、タイム、ウィルドの何れかに阻まれ続けた。コランバイン・フライトカスタムのビームカノンよりは威力はやや落ちるものの、それでも守りの堅い三人の傷をさらに深めるだけの威力が銃剣からのビームにはあり、マルクとレインは変わらず盾役に癒やしを施すのに手一杯だった。
 一方、機敏になって攻撃を当てにくくなったとは言え、オリーブとヴァレーリヤは着実にシエロの生命力を削り取っていた。オリーブは射撃方法を矢をばら撒く掃射に変えてシエロに矢を直撃させ、ヴァレーリヤは味方の攻撃によって隙が大きくなったタイミングを見計らい、メイスから噴き出した炎でシエロを包んだ。

●シエロの最期
 シエロの全身は、最早焼け爛れた上傷だらけとなっていた。如何に魔種と言えども、もう長くはない。そう、イレギュラーズ達は判断していた。
 だが一方で、鏡禍、タイム、ウィルドの三人も何時可能性の力を費やしてもおかしくない程に傷ついていた。

「マルクも……タイムも、倒させない……」
 その意志も固く、レインは仲間を癒やす頌歌を歌う。レインの歌声は、傷ついたタイムの体を幾分か癒やした。
 その間に高度四十メートル弱まで上昇したシエロが、銃剣からビームを放つ。だが。
「マルクさんには、指の一本だって触れさせないんだから!!」
 タイムが、マルクの盾となって身体でそのビームを受ける。
「……うっ!」
 ビームが身体を灼く苦痛に、タイムは呻いた。だが、誰かを喪う怖さに比べれば、この程度の痛みはどうと言うことは無い。
(大切な仲間一人守れなくて、何がイレギュラーズよ)
 毅然とした意志の籠もった瞳で、タイムはシエロを見上げた。この時、タイムは辛うじて可能性の力を費やさずにすんだのだが、それは直前にレインからの癒やしを受けていた故だった。もしレインからの癒やしを受けていなければ、タイムは立ち続けるのに可能性の力を費やさざるを得なかったであろう。
「部下を逃がして、俺達相手に一人で来たんだろう? 安心しろ、ローレットなら多分上手くやる」
 イズマは、シエロが先立ってローレットに出した依頼を識った上で『見逃した』。その依頼とは、部下達を幻想へと逃亡させることだ。
 そうした上で一人で挑んで来た決死の覚悟は、イズマも認めざるを得ない。それを受け止めた上で……シエロを討つと、イズマは決めている。
「――そう、だろうな。そう言ってもらえて、改めて安心したぜ」
 イズマの言に、シエロは安堵したような笑みを浮かべた。
「だから……潔くここで終われ!」
「悪いな。潔さなんて持ち合わせちゃいなくてね」
 次いで、イズマは大喝を放ちシエロの高度を押し下げにかかった。シエロは二十メートルほど高度を押し下げられたが、イズマの言葉には「まだ若いな」と言わんばかりの皮肉っぽい笑みを返した。
 軍人として、死に場所に相応しい任務を得たのだ。ならば、シエロとしては任務遂行のためにあらゆる手段を尽くすまでだ。元々シエロは潔さを重んじるタイプではなかったが、この期に及んで潔さなど無用の長物である。
(これ以上、戦闘は長引かせたくないところです……この辺で、決めてしまいましょう)
 長期戦の末、シエロも深手を負っているが、盾役となっている三人の負傷もまた厳しいものとなっていた。それに加えて、仲間達の気力の消耗の問題もある。
 そろそろ戦闘に終止符を打つべく、オリーブはクロスボウでの掃射を敢行。本来は多数相手に矢をばら撒くように放つ攻撃であるだけに、シエロにとっても避けづらい。
「うぐっ……」
 矢の数本が、シエロの身体に深々と突き刺さった。そのうちの一本は、胸板をしっかり貫いている。だが、シエロの生命力はまだ尽きてはいない。
「そろそろ……だとは思うのですが」
 ウィルドは、シエロに向けて寸鉄を放つ。不可避の寸鉄は、シエロの身体に突き刺さるとシエロの身体を再度致死性の猛毒で蝕んでいった。
「くっ……相変わらず厄介な!」
 残りわずかな生命力をさらに削り取られて、シエロは眉間にしわを寄せた。避けようがない上に確実に毒で身体を蝕んでくる寸鉄は、シエロにとって鬱陶しいものだった。
「僕は倒れませんし、マルクさんも倒させません。いい加減、諦めて下さい」
「……また、この鏡か!」
 鏡禍は、シエロの目の前に鏡を喚んだ。そして、自身の持つ手鏡を介して、鏡の中のシエロを妖力で絡めとる。すると、何も起きていないはずのシエロにもダメージが及んだ。その原理が理解出来ないだけに、シエロは苛立ち、困惑した。
「貴方がこの戦いに賭ける覚悟は伝わりましたわ。でも、だからと言って、そう簡単に譲ってあげるわけにはいきませんの。
 主の御許へ行くなら、貴方だけで行きなさい!」
 そう告げると、ヴァレーリヤは聖句を唱え、メイスから炎を吹き上げさせた。既に度重なる攻撃を受けているシエロに、炎の奔流を回避する余力は無い。
「こっちも……ハイそうですか、とは……言えねえ、んでね」
 炎の奔流に包まれたシエロは、なお倒れずに立ち続けた。もう、シエロの生命力自体はほぼ尽きている。だが、マルク暗殺への執念だけが、シエロを生き存えさせていた。
「貴方の任を解きます……シエロ・アズール少佐」
 その様を見たマルクは、何とも言いようのない表情をすると、急速に飛翔しつつ魔力を剣状に収束。光り輝く魔力の剣を創造し、シエロの胸をその刀身で貫いた。
「まさか、アンタの、方から……来てくれる、とはな……もらった!」
 盾役から離れて接近してきたマルクに、シエロは任務達成を確信してニヤリと笑い、最期の力でしがみつく。そしてシエロが事切れると同時に、周囲の魔力がシエロの鳩尾へと一気に収縮し、ドカーン!! と大爆発した。仲間達はマルクの安否を心配したが、爆風が晴れた後にはマルクの姿がしっかりとそこにあった。
 盾役となった仲間達のおかげで、マルクはこの戦闘の間無傷だった。故に、自爆されようとも可能性の力で耐えきれるとマルクは読んでいたのだ。
「……貴方が魔種で無かったのなら、アーカーシュの空を任せてみたかったよ」
 シエロの任務への執念は、軍人として立派だった。シエロが魔種である以上、敵味方に別れて殺し合わざるを得ない運命だったが――惜別と哀悼の念を込めて、マルクはそう独り言ちたのだった。

成否

成功

MVP

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

状態異常

マルク・シリング(p3p001309)[重傷]
軍師
タイム(p3p007854)[重傷]
女の子は強いから
鏡禍・A・水月(p3p008354)[重傷]
夜鏡
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)[重傷]
微笑みに悪を忍ばせ

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。マルクさん暗殺を狙ったシエロは討たれ、マルクさんの生命は守られました。

 MVPは、豪鬼喝でシエロを地に墜とすとはいかずとも、高度を下げさせたイズマさんにお贈りします。それが無ければ、何人かは射程の関係で攻撃不能に陥っているところでした。

 それでは、お疲れ様でした!

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