シナリオ詳細
イトウ家が食卓
オープニング
●商人の憂鬱
「魚は良い。実にヘルシーだ」
黒い噂で有名なその商人ドン・ブッソーニは、全く説得力のない肥満体を震わせながらうっとりとしてみせた。
「特に、川魚だ……海魚もジューシーな脂で私の舌を蕩けさせてはくれるが、川魚の淡白さと独特の臭みも、自然の息遣いを感じさせてくれてまた味わい深い」
そんな川魚大好き商人の彼が言うことには、彼はその川魚好きが高じて、とある山奥に川魚の養殖場を作ったのだそうな。
「しかも――心して聞きたまえ――そこで養殖するのは幻の魚、『イトウ』なのだよ。魔法による徹底した環境管理と強制成長により、短期間で大型のイトウを養殖できる。この『幻想』広しといえども、おそらくはそんな養殖場は、我がブッソーニ淡水魚パラダイス以外にないのではないかね? ……ああ、もちろん今のが私の養殖場の名前だ、素晴らしいだろう」
しかし、彼が山ほどの金をかけて作った養殖場が……先日、襲撃を受けてしまったそうだ。犯人の目星はついている。養殖場の建設が周辺の河川環境に悪影響を及ぼすとして最後まで反対していた海種の一家、伊当一家に違いない!
「伊当一家は文明を拒絶する愚か者どもでね、完全なイトウ型の海種なのだが人の姿への変化すら好まない。その割に魔法は使ってくるのだが……ブッパラ(もちろんブッソーニ淡水魚パラダイスの略称だよ君たち)の生簀が、彼らの魔法により裂かれた形跡がある。それにより、せっかく1mまで育てた、出荷を間近に控えたイトウが全て逃げだしてしまったのだよ! 全て!!」
しばらく怒りを隠さず息巻いた後……ブッソーニは上がった血圧を落ちつかせるために、黄金の杯で高級ワインを呷った。それから再び悠然と構え、今回の依頼の内容を特異運命座標へと語る。
「実はだね、ブッパラの初出荷の際には記念パーティーが行なわれるのだよ。すでに各界の名士に招待状を送ってあるため、今さら中止にはできない。諸氏にはブッパラの建設が強引すぎてトラブルを起こすのではないかと心配させてしまったので、それを払拭せねばならないからね」
そこで……伊当一家の主だった者を永久に排除する。それから、代わりのイトウを確保する。大型のものが2~3匹もいれば十分だろうか?
「もちろん、前者が成功すれば後者も自ずと成功するだろう……大爆発で彼奴らを消し飛ばしたりしない限りはね。簡単な仕事だ。なぁに、伊当一家とて変に人道やら何やらを掲げられるよりは、弱肉強食の自然の摂理に従うほうをお望みだろうとも」
ちなみにイトウを多めに確保できた場合、ブッソーニは功労者たる特異運命座標たちにもパーティーに参加してもらいたいらしい。もちろん、多彩なイトウ料理が食べ放題だ。
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/5094/358f9e7be09177c17d0d17ff73584307.png)
![](https://rev1.reversion.jp/assets/images//scenario/evil.png?1737016796)
- イトウ家が食卓完了
- GM名るう
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年09月24日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●山奥の悪
渓流は人工的な虹色を帯びていた。ブッパラことブッソーニ淡水魚パラダイスが稼動を休止している今は、その彩りはこれでも落ちついているのであろう。
では……ブッパラが本格稼動したならば? そんな小難しい社会派なあれこれは、『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)のぽやぽや脳味噌で考えるには相応しくない議題なのである!
「でもでも、伊当一家はやっちゃいけないことをしたのであるよ! 大丈夫、土に還れんてことは言わないのである。なにせ行き先は腹の中であるし!」
とは言ってみたものの……彼とてこの渓流に棲む海種を食べるのは、ちょっとご遠慮したいところではあった。一方、どうして『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)や『黒陣白刃』御幣島 戦神 奏(p3p000216)は、こんなにも胃袋の欲望に忠実なのだろう?
「こういう地元住民との揉めごとの最終解決はそこそこにある依頼傾向ですが……」
しかしそのための暴力的解決が食材確保を兼ねるとは珍しい案件だ……などと巡らすヘイゼルの思索は、すぐにまだ見ぬ豪華な食べ放題パーティーへと向いていた。
そりゃそうだ。お魚さんを捌くために襲撃する依頼……なんて言うと確かに珍しいけれど、河上・サフィニア(p3p006171)はそれを表す言葉をよく知っている。
漁。
「僕も海賊のはしくれとはいえ義賊だけど、でも工場破壊なんてやっちゃう人たちには手を差しのべられないよね!」
「いやいや、やっぱり困ってる可哀想なお魚さん相手には、最初は交渉から始めないとねー」
そんなサフィニアと奏のやりとりのどこに、奏がよだれを垂らす要素があったのだろうか? とにかく、相手の境遇なんて奏には関係ないことだ……どうせ、彼らは次はお皿の上で会う相手だー!
そんな仲間たちのために斬る伊当一家とやらは、人の手ごたえかあるいは魚の手ごたえか。『Code187』梯・芒(p3p004532)は思案した。それが彼女の生来の殺人衝動を慰めるに足るものか、それともただ魚料理を作った感があるにすぎないものか……彼女の興味はそれだけだ。かつて魔種をバラした時の、確かに人だという満足を、芒は再び味わえるのだろうか?
そんな好き放題な面々を一瞥しながら、『瓦礫の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は紫煙を口から吐くのだった。
暴食。殺人。その程度の欲望ではこの“魔法少女”は満足しない。そんなもの、さらなる巨悪のための足がかりにすぎぬ。
コネだ。この仕事を通じて貴族サマとの縁を作れば、彼女の悪はより栄えるようになる。そんな未来を計画しながら……彼女は、今度は川面に目を遣った。
●形ばかりの交渉
時は、刻一刻と近づいていた。川原の岩に腰かけた『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の息が大きく吸われ、次の瞬間、渓谷に声がこだまする。
「我々はブッソーニの使者である! 伊当一家との交渉に来た! 貴君らの要求を聞きたい!」
「話すことなど何もない!」
川のあちこちからサケ科な顔がつき出て、そんな答えが返ってきた。同時、魔法の水流が近くの岩肌の上で爆ぜ、特異運命座標らを威嚇する。
大方彼らはとうの昔に、こちらが所詮は実権のない実働部隊にすぎないこともお見通しなのだろう。
それでも彼らには交渉のため、のこのこ近づいてきてもらわねば困る。特異運命座標らにとって、重要なのは交渉の成果ではなく交渉の場を持つことそのものなのだから……元々水中戦も交渉も得意でない司書だが、ここは根気強く説かねばならないらしい。まったく、貧乏くじもあったものだ。
「先日、あなた方がブッパラを破壊したでしょう? あれがかなりの痛手だったみたいでね、メンツを大事にする貴族相手の商売としては、これ以上泥を塗られる前に交渉したい腹積もりなんでしょう」
「我らとて警告はしていたはずだ。それに川がこうも汚れてしまえば、我らでなくとも誰かが同じことをしただろう」
今度は、先ほどよりも野太い声。発したのはひと回り大型のイトウ。
伊当三兄弟筆頭、“アメマス殺し”のイドと名乗った彼は、いまだ特異運命座標らに近づこうとしていない辺り、凶暴そうな面構えに似合わず切れ者らしい。
「ふむ……ゆえに報復がわが身に降りかかることも承知で、率先して自ら手を汚した、というところかの?」
ならば……『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)は彼らを称えねばならぬようだった。一族の全滅を覚悟で主義を貫かんとする者を、ただただ死に追いやるなど惜しい。
「妾たちとて、余計な被害は出したくないのじゃ。そちらには腕に覚えのある三兄弟がおるのじゃろう? その者たちと妾たちが戦いそちらが勝てば、今回の件は諦める……それでどうじゃ?」
……直後!
「何の利もない提案だ!」
敵を油断させるため川に身を浸したデイジーの全身に、幾つもの衝撃が襲いかかった! 彼らはすでに川の深みに、潜水艦のごとく並んで手ぐすね引いている。
それでも……ヘイゼルはもう一度だけ訊いてみるのだ。わざわざ、敵に有利な戦いをしてやる必要はない。
「待ってください。このまま全面戦争になれば、河川環境は荒れるどころではないのではありませんか?」
「養殖場までダメにする覚悟でか?」
彼らも、一歩も譲るつもりはないようだった。敵の有利を嫌うのは、伊当一家とて同じこと。
「では、他の家族には手を出さぬという約束ではどうじゃ……」
デイジーが言いかけんとするならば、拒絶の水槍が飛び来たる!
「ええい、済まぬ! 妾は一度引く!」
堪らず一時撤退したデイジーと入れ替わりに、誰かが深みにとび込み敵の注意を引いた。
「我が名は河上・サフィニア! 義賊『河上快賊団』の副船長であり一人の戦士である!」
すると目の前を泳ぐ巨大なイトウの、ぎらつく瞳が彼女を射抜く。
圧倒的な存在感。ブッパラに与する者全てへの憎悪。陸しか知らぬ身で対峙したならば彼は恐るべき化け物であっただろう……が、海賊サフィニアにとってはただの強敵だ。
「悪いけど、伊当一家には今日をもって廃業してもらおうか! それを拒むというのなら、さあ、構えられよ! 僕ごときに負けるようなら、戦士としては情けないと思うよ?」
●イトウ漁
心地よいざわめきを響かせていた川は、瞬く間に激しい水しぶきに包まれていた。次々に立つ水の柱は、川辺から水中にとび込んだものが半分、川面から岸へととび出したものが半分。
「懐柔に応じぬ我らを悪党と喧伝するつもりであったのだろうが、どちらが悪かは変わらぬぞ!」
「いえーいわるものでーす! ピースピース!」
荒々しく術を使ってくる敵からヘルメットだけは守りつつ、奏がざばざばと流れをかき分けてゆく。薄く虹色にもやがかかる視界を半ば楽しみつつも、奥義……肉体言語による交渉パーンチ!
「ぶちのめして三枚におろしてやるから覚悟しろー!」
だが……相手からの返答はない! 代わりに横あいから同じ言語で返答したのは、強烈な突進をしてくる顎だ。
「兄者ぁ! 今助けるぞい! 女ぁ……“カワズ喰らい”のフッヘンが相手じゃぁ!」
だがそれは、奏を突きとばす直前で真っ赤な霧をまき散らした。
「オレがただ睨みを利かせてただけだと思ったか? ……見えてンだよ」
ことほぎの凶悪な眼差しがこちらを向いていた。魔法のヘルメットが変身魔法杖に入らなくたって問題はない……どうせ、高みの見物と洒落込みながら水中を術で狙い撃つだけなのだから。
とはいえ、水中に隠れられるのは面倒だった。陸地に……とまでは言わずとも、誰かに浅瀬くらいにまではひきずり出してもらいたいものだ。
「自然の摂理に則って、その身を頂くのである! 我輩こそ歌って踊れる竜人のボルカノ=マルゴット!」
「我こそは伊当三兄弟が三男、“カゲロウ落とし”のトシリ! ならば正々堂々と向かって来てみよ……あっ」
「トシリさん! そこ浅くてヤバいっすよ!?」
「トシリさんなら大丈夫に決まってる! あんなトシリさんの顔見て半泣き顔なやつに負けるものか!」
ボルカノの名乗りに応えた三男が、浅瀬にのり上げて座礁した。もっとも、当のボルカノは巨大なお魚の顔に怯えてふるふるしてるが……代わりにさくっと芒がトシリをフルボッコにして去ってゆく。その見事な逃げ足たるや、たとえ敵が万全の状態であったとしても、追いつくだけで精一杯だったろう。
仕方なく変化してボルカノにお礼参りしにゆくトシリだが……再び芒に外道なヒット・アンド・アウェイ戦法をお見舞いされて、早くも全身から血を噴いていた。ちなみに最初は魚っぽい手ごたえだったが、今回は変化中だからちゃんと人を斬った感触だ。
「1匹で2つの手ごたえだなんて、混沌の人たちは不思議だよね。パーティーのご相伴に与かるのなら、魚の状態で捌かなくちゃいけないのかな?」
……うわぁ。
伊当一家は即座に理解したようだった。
三枚におろすとか、自然の摂理に則るだとか、普通、さすがにただの脅し文句だと思うところだ。でもこいつ、明らかに本気でイトウパーティーする気満々で自らの殺人衝動と天秤にかけてるんですが!?
「ヤバいっすよ当主殿……」
「狼狽えるな! 動揺を誘うのが奴らの狙いだ!」
イドの呼びかけにもかかわらず、伊当一家は騒然となり、にわかに統率を乱しはじめた。まさしくその隙を見のがさず、イーリンのオーラの双剣が輝きはじめ……怖気づいた雑魚イトウをさし示す!
「1匹も逃がすな! 弱い奴から殺せ!」
「そうはさせん!」
間に割りこんだイドの体を。あんぐりと口を開けたままの雑魚イトウを。そして川底の岩と苔を灼きながら、強烈な魔力が放出された。
「兄者!?」
「済まぬ、弟たちよ……」
伊当一家の麗しき兄弟愛も、ほんと素直よね、の一言で薄笑みを浮かべて見物するイーリン……その時、不意にフッヘンの姿が深みに消える。
「あっ、待てー!」
それを追おうとして奏がじたばたしたが効果ナシ。だって重くて狭いヘルメットを被って、その上雑魚イトウにも囲まれてたら、どうやれば追えるって言うのさ!?
「ぶっちゃけ格闘しかロクできないんだから、戦闘プレイング難しくない!?」
……とか何とか妄言を吐いても、困ったら体勢を立て直す、みたいな器用なことできないバーサーカーには、できることなど何もない。まあ、とりあえず手近な敵を片っ端から殴りつつ、あらん限りのゲス顔をしてみせるくらいはするけどね。だって、別に三兄弟だけしか傷つけちゃダメって依頼じゃないもんね!
「うっはっはっはっはー、人間サマを甘く見るんじゃねーぜ!」
そして反撃でボコられる奏を横目で眺めつつ、ヘイゼルはパカダクラに跨って川へと入っていった。少しでも高いところから垂直に見おろせば、魚の居場所は一目瞭然……なんて効果を狙ったわけじゃなく、単に虹色の排水の中で泳ぐ気がしなかっただけだ。
けれどもフッヘンの居場所は見えた。
「今ならまだ三兄弟だけの犠牲で済ませられます……さあ、今すぐ出てくるのです」
「黙れ……貴様らの約束など信じたりはしない。清流だけでなく兄までも奪いおって!」
フッヘンはそう返したが、結局は頭に血を上らせて浅瀬まで出てきてくれるのだからヘイゼルの思惑どおりだったと言わざるをえない。サフィニアも容易くフッヘンを追い……本来彼が目論んでいた奇襲攻撃を、代わりに実現してみせる!
「ぐ……え、鰓が……!」
「ここなら料理には使わないし、少しばかり痛めつけても問題ならないからね」
鰓蓋を強く締めて異物を排除せんとする力に対し、サフィニアの拳にも力をみなぎった。ぶちり……という音とともにひき千切られた鰓葉が、バラバラに砕けて辺りを汚す!
「ぐハッ……!?」
一家の反撃の水流が、幾筋もサフィニアを貫いていたが……時すでに遅かった。いや、最初にデイジーを大きく傷つけていなければ回復の猶予を与えていたわけだから、彼らの仕事が不十分であったというわけではあるまい。
それとも、回復術が手遅れと知ったデイジーがフッヘンへのとどめの一撃を放ったことは、伊当一家の自滅と言えたのだろうか? あるいはそれが呼び水になり、今度こそデイジーを集中攻撃で昏倒させたのは……。何事も万事塞翁が馬である。
「何にせよ、後は最後の1匹を貴族への手土産にするだけかしら――」
ちらと向けたことほぎの視線の先に、ぶくぶくと口から泡を吹くボルカノの姿がちらついた。
「お魚の顔も怖かったのであるが、恐ろしい味方も怖いのであるよ……」
トシリに引導を渡そうと迫った芒のナイフの手元が乱れ、ボルカノに夢中だった標的をではなくちょっぴりボルカノの鱗を刻みかけていたらしい。本人は、「一応、依頼仲間は殺さないつもりだよ。私の殺したことのない種族だし、感触は気にはなるけどね」とは言っているけれど。
……ともかく。
「あとは、敵が地上にいるなら簡単ですね」
ヘイゼルがそう分析するとおり、トシリは川に戻るための退路も塞がれ、万事休しているところであった。
「ですが……このまま斃したらどちらの肉になるのでしょうか?」
もっとも、あまり悩んでいるつもりはヘイゼルだけでなく、この場の特異運命座標の誰にもない。何故ならその間にも伊当一家は、トシリだけでも助けだそうと果敢な猛攻を仕掛けてくるのだから。
人の姿のままの伊当家三男の頚動脈を、今度こそ芒のナイフが違わずに裂いた。芒が存分に殺人の感覚を愉しんだ後、男は目を剥きくずれ落ち、伊当一家の他の者も逃げだして……。
「一家といいながら逃げるの?」
……逃げおくれた1匹がイーリンの術を喰らって伸びる。
辺りには、再び静けさが訪れていた。
川岸には2mもの大物イトウが2匹と1m半ほどのものが1匹。あとは筋肉質の壮健そうな男だったもの。
「さーて。新鮮なうちにお届けしないとであるな!」
腕をぶんぶんふり回して力持ちをアピールするボルカノは……最後の獲物だけは視界に入れようとはしなかったそうな。
●レッツ! イトウ・パーティー!
後日――。
「皆々様、ようこそお越しくださいました! 我がブッソーニ淡水魚パラダイスが皆様のご支援のお蔭で無事に初出荷を迎えましたことを……」
主催、ドン・ブッソーニの長々とした挨拶の後、ブッパラ稼動記念パーティーは始まっていた。
この日に至るまで彼がいかなる困難をのり越えてきたのかという苦労話を装った自慢話を、心から喜んで聞く者がいようはずもない。けれどもその話題が特異運命座標へと変わった途端、列席者の目の色が変わった様子が会場のあちこちに見うけられた。
「ほう……貴方も直々にイトウの運搬の手伝いを」
「そうなのであるよ! どうぞ美味しく召しあがれ!」
肝心の料理からは目を逸らしつつ胸を張るボルカノ。
「刺身や味噌焼き、マリネやムニエルもありますよ!」
「ほほう、ローレットの方手ずから料理を作って下さるとは!」
自らその場で調理してみせるサフィニア。まあそれらは、当然のように料理を食べ放題してるヘイゼルに奪われていくのだが。
ローレット自体は中立を保つぶん、そんな特異運命座標らと個人的にお近づきになりたい貴族や豪商も多いようではあった。だが、彼らのうちの多くの視線は……いつしか、そんな彼らの許を一人ひとり回って顔を繋ぐ美女へと釘づけになっている。
「養殖場の成功に貢献なさったとのことですが、いったいどんな手助けを?」
「どうかしら? お蔭でこのイトウを美味しく食べられる。それ以上のことをお知りになる必要がありまして?」
「ほほう、企業秘密というやつですな。ブッソーニ商会さんも中々手ごわい」
ドレス姿で猫を被ることほぎのミステリアスさに騙されて、列席者たちはブッソーニを誉めそやす。真実を知っていても余計なことを洩らすことのないこの美女。ブッソーニもほうと溜め息を洩らすばかりだ。
「秘密は秘密のままで良い……それが商売の秘訣だよ」
まあでも、察しのいい者は薄々感じとっていたかもしれない。
芒はトシリを殺した時の感触を思いだしてイトウに手をつけようか悩みつつつけ合わせの野菜とイトウ以外の料理をつまんでいるし、デイジーは「いらぬ。お主たちで残さず食べるがよい」とあっさりしてるし、イーリンも招待だけで胸いっぱいだからイトウは結構と言いつつ手づくりジャーキーを齧っているし、奏も食べるのはお肉ばっかり……あっ、こっちはイトウの正体云々とか関係なく、単にお魚よりお肉派だからってだけっぽい! ワイルド!
……ともあれそんなことはブッソーニと貴族らの問題であって、特異運命座標らの関知するべきところではないのだろう。
こうして互いに腹を探りあいつつ、煌びやかな貴族社会を築いてみせる。
幻想は、そういった国なのだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
まさか、本当に食べてしまうとは……。
いえ、完全魚型海種は人なのか魚なのか問題もさることながら、『ただちに影響はない虹色の排水』とか絶対蓄積したらヤバいやつじゃないですか。はたして貴族らの健康被害はいかに?
……もっとも、そう思わせておいて本当に何事もない可能性も。まあ、何かあったらその時にはまた依頼が出るでしょう……皆様、その時をごゆっくりとお待ちください。
GMコメント
そんなわけでそんなわけだ。どうも皆様、るうでございます。
★注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
また、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
●成功条件
・伊当一家が二度とブッソーニ淡水魚パラダイスに楯突かなくなること
・かつ、イトウを体長の合計にして4m程度以上確保
●伊当一家
いずれもイトウ型の海種で、10匹程度の集団を作っています。
特に『伊当三兄弟』と呼ばれる3匹が強力で、彼らさえ排除すれば伊当一家は瓦解し、成功条件の1つめは達成できます。他は体長1m半程度ですが三兄弟だけは2mほどあるので、すぐに見分けがつくでしょう。
非戦スキル【食材適性】を持っており、味も成分もイトウそのものです。
全く交渉の余地がない、というわけではありませんが、よほど上手く話を持ってゆかないと決裂するんじゃないのかな……。
●戦場について
最も深いところでは水深3mほどの川の中です。ブッパラの生簀管理魔法装置からの排水により虹色に光っていますが、ブッソーニ曰く、ただちに影響はないそうです。
水中でも呼吸できる魔法のヘルメットくらいならブッソーニが貸し出しますが、かなり重い上に視界も限られるので、使い勝手は【水中行動】等のスキルには及びません。
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