シナリオ詳細
ジェノサイド・カウントダウン(BtS)
オープニング
●
「皆さんに、氷の壁を破壊して欲しいという依頼が来ているのです」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、一枚の手紙を手に、そう話を切り出した。
依頼人は『幻想』王都にそこそこ大きな店をかまえる商人で、貴族とのつながりもある男だ、という。『氷の壁』はもともと、幻想のいち地域にずいぶんと前から、季節を問わず屹立しているもの。壁というより塊、と表現した方が正しいそれは、もはや風景のひとつとして認識されて久しい。
そして、ここからが重要なのだが……壁の中、氷の一部は内側から溶けて水になり、命を育んでいるのだという。『混沌』で分類される種族に満たない生物種、ほぼ本能しかない存在であろうが、その外見は人間種に親しいもの。サイズはせいぜいが手のひら大だが、寄り集まって小集団として世代を紡いでいることが知られている。当然の話だが。『氷の壁』が破壊され、外界に放り出された彼らはたちまちのうちに死滅するだろう。特異な環境で生まれた者は、当たり前の環境では到底生きていけないのだ。
加えて、もう少し実務的な話をすれば。
『氷の壁』の崩壊の余波で、いくつかの小規模集落は氷に呑まれ、不可逆的な被害を被るだろう。要するに、地図にも載らない集落が、文字通り『世界から消える』。
その情報も含めて、ユリーカはつとめて表情を崩さずに説明した。
「商人さんが『氷の壁』を壊したいのは、ただ今よりもちょっとだけ早く荷物が運べるルートを作りたいから、ただそれだけなのです。多分、きっと、多くの人が得をするお話なのです。ただ――」
そこで、ユリーカは言葉を切った。口の端をへら、と笑うように歪ませたのは、努めて平常心を保とうとしたがため。
きっと、得をとってまで、その行いを『善であり慈愛』と説く者は少ないだろう。依頼は依頼だ、その行いが信頼を得るため、ひいては世界を救うためになるのは間違いない。
……だが、その依頼を完遂すれば間違いなく、『幻想』からひとつの種が絶えるだろう。それを『残酷』ととるか『必然』と取るかは各々の自由だが。
イレギュラーズは、その瞬間に立ち会わねばならない。それ以外の選択肢はないのだから。
- ジェノサイド・カウントダウン(BtS)完了
- GM名三白累
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年02月03日 21時25分
- 参加人数8/8人
- 相談4日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●Count:-??/生を尊ぶ者
膨大な質量、圧倒的な威圧感。季節を通じて変化のないその威容は、『壁』というより『塊』を連想したほうがしっくり来る。氷でできたそれは、その地を通る人々の誰もが、一度は見上げるものだ。
内部に出現した水の中に現れた生物達は、しかしその異常性を知らない。外部で異常と囁かれるその現実こそが彼らにとっての日常であるがゆえに。……しかし、今日は違った。
氷の壁に沿ってまっすぐに飛び上がる『cherie』プティ エ ミニョン(p3p001913)の小さな影を、氷で反射した視界の端を捉えたのだ。
彼女のサイズからすれば(否、そうでなくとも)身がすくむほどの高度まで舞い上がり、彼女はやがて頂点へとたどり着く。上空から見た景色は幽玄と現実の冷徹さのあわいにあるだだっぴろい荒野。視界の隅にぽつりと姿を表した家々の集合体は確認できる範囲で3つ。分散しているが、イレギュラーズなら全て回ることは難しくない。
「避難勧告、ねえ。ゴクローさん。オレはオレで氷調べとくわ」
「ああ、君の調査にも期待しておく。お互い、万難を排し事に臨もう」
『瓦礫の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は、地上へ向かってくるプティを見上げながら無関心そうに手を振る。ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は厳かながら薄く笑みを返し、避難勧告に向かう仲間のもとへ向かう。
ことほぎの言葉には多分に皮肉めいたものが混じっていたのだが、ラルフは気にも留めなかった。もとより集落を回って避難勧告を行うのは善意であり必要なことではない。それを為そうとする人間の適不適、個々人の『この依頼』に対するスタンスの違いでもある。ことほぎは肩を竦めると、カラスの使い魔を呼び寄せ、軽く指示を向けて飛び立たせた。
「わたくしも分析に回りましょう。お優しい行動に水を差すよりはこちらのほうがお役に立てるでしょう」
『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)は機械であるがゆえに、迂遠な言い訳や芝居を打つことが出来ない。だが、依頼の影に記録されない人々や種族の帰趨を見届けることはできる。彼らが説得に向かう間、氷の壁の構造や重量バランスを調べ、それを崩す最適解を見出すことも重要な任務だ。……崩落の方向性を制御し、被害を軽減できればもっとよいのだろうが。
「氷の壁が種の繁栄の為か、徐々に肥大化している事が確認されました。私達はこれを調査する為にローレットより派遣されました。皆様には万が一の場合に備え、一時的に避難をして頂きたいのです」
『Dr.』HaL(p3p002142)はもっともらしいことをすらすらと口にし、集落の長に避難の協力を求めた。突然のイレギュラーズの来訪に沸き立つ人々は、しかしHaLの言葉にざわめきを返す。それでも粗暴な態度や排除に動かなかったのは、『千法万狩雪宗』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が傍らで楚々として振る舞っていることや、ラルフ、そして彼の足元をついてまわる『シーナ』7号 C型(p3p004475)が率先して集落の傷病者の有無を確認しに動いたことなどが信頼に足ると判断されたことが大きい。
「種の繁栄……あの氷の民か。貴方達の目的は彼らの排除か?」
集落の長の言葉に、HaLは首を振ることを答えとした。その表情には憂いが浮かび、今こうして手伝うことしかできないのだ、という無力感がありありと滲む。
「きっとアレがその気になれば調査隊の私達ごと……いえ、ここ一帯の集落ごと氷に埋もれさせる事も、訳ないでしょう」
「し、しかしここには動かすこともままならぬ者もおる! 逃げろと言われても」
「私達は貴方達の安全を第一に考えています。どうか御一考の程をお願いします」
うろたえる長に、HaLはぴしゃりと言い放つ。もう少し、厳しい言葉を並べることも考えてはいた。だが、『イレギュラーズでさえ排除できない脅威』を演出したせいか、青ざめた人々の顔からは動揺の色はあっても提案への強い拒絶は感じられない。
「できるだけ避難は手伝うよ! 私も皆に助かって欲しい!」
プティは小さい体を目一杯動かし、人々に訴えかける。小さい体に宿った誠意のほどは、推し量るべくもない。押し黙った長は、ようようと避難を指示する言葉を吐き出した。パニックにならなかったのは、説得の一部始終を多くのものが見ていたことも大きいか。
「……脅威の前に解決の糸口をちらつかせれば、多少の対価は出すモンさ。人間ってのは案外コロっと行く」
「そうまでして救うことを考えたんだろう。私はそれを肯定する。尤も、救われない者がいようと、それは仕方ないことだ」
『ニーマンズ』イース・ライブスシェード(p3p001388)はHaLの言葉に応じると、ゆっくりと集落の中へ足を踏み入れる。『どちらでもいい』とは言ったが。『何もせずに死に行く者をみるだけ』ではないとばかりに、最低限は肩を貸して避難を手伝う心づもりらしい。
素直じゃないのか、他者を助けることも含めて中立的というべきなのか。
「適者生存、弱肉強食。要はそういう事だな」
「俺らがやらなければ代わりに誰かがやるだけだろう。たまたま、人助けが好きなお人好しが多かった。それでいいだろう」
汰磨羈と、仲間の元に戻ってきたラルフがイースの後ろ姿を見つつ、そう評する。あと2箇所回ることを考えれば、のんびりとしてはいられない。
「待っている仲間もいるからね。避難したのを見届けてからは、僕達がやることはひとつだよ」
7号は避難を始めた人々を見ながら、静かに言葉を紡いだ。それなりに距離のあるこの集落で、彼の小さな目でも十分に氷の壁の威容は見て取れる。あの氷があり続けたことの意味。これから壊れ、新たな交易路が生まれるという変化は、果たしてどんな事態を招くのだろうか。
●Count:-500/ただ前を見て
「この辺が他より少しだけ薄いらしーし、楽できるならそうしようぜ」
ことほぎは戻ってきた面々に向かって、氷壁の一部を軽く叩く。神秘による攻撃の気配がないのは、その行為に敵意や害意がなかったからだろう。
もとより容易い依頼である、と彼女は認識している。より簡単に終わらせようとすることは、正しい判断だ。
「確かに強度は他より低そうだ。……準備でき次第始めよう。可能な限り早急に破壊する」
イースは氷の正面に立つと、仲間達の布陣が整うのを待ちながら、得物を構える。氷の合間から見える『水氷子』にいかな感情があるのかは分からない。最後まで理解し合えることはないだろう。
「オレは口だけのチビなんでな、戦いは任せた。その分、手は貸すけどな」
HaLは布陣の中心あたりに陣取り、勇壮な調べで味方の士気を上げんとする。気休めかもしれないが、本人なりの最善を尽くした行動に対し、意味の有無を論ずる必要などあるまい。
「避難は完遂させたいが、やりあう時間で被害が増えるのも惜しい。ままならないものだな」
7号が吐き出した苦々しい言葉は、善意あるイレギュラーズにとっても避けられぬ思考であろう。だが、今から彼らは悪に徹さねばならない。結末を背負わねばならない。その覚悟なき者は、ここにはいない。
全員が等しく自らの間合いに立ち、その目に決然とした光を宿す。悲劇の始まりは淡々と、イースのカウントが0を刻んだ瞬間に開始された。
「はっはァ、この距離なら反撃できねェだろ!」
ことほぎの声とともに、魔術の弾丸が氷壁に突き刺さり、わずかに氷を削り取る。その一撃に触発されたか、内部の『水氷子』がにわかに動きを早め、迎撃すべく敵意をあらわにする。
「弱きは滅びるが定めだ。それは避けられない」
イースはレイピアに術式をこめ、叩き込む。氷壁が光を帯びるより早く距離を取った彼めがけ、氷の礫が飛び、その身を僅かに傷つけた。
「大丈夫かい?!」
「問題ない。確かに、多少なら無視できる力加減だ」
プティの問いかけに、イースは平然と応じた。礫の大きさも数も、想像よりずっと少ない。数を受ければ話は違うが、少しであれば無視できる。無理がきく。
それは翻って、『水氷子』の必死の抵抗、その限界がその程度であることを示唆するものでもある。悲しいほどに僅かな抵抗。それが全てである。
プティは手にした剣を氷壁目掛けて叩きつけ、一気に距離を取る。攻撃の予兆が見えたが、届く距離ではない。あまりに小さい体、繰り出された小ぶりない一撃はしかし、他のイレギュラーズと比較してなんら遜色ない威力をもたらし、彼女の気分の高揚に拍車をかける。仲間がいて、作戦があり、なにより自身の実力がある。勝ち馬に乗れずしてなんとする。
(前衛のみなさんが多少傷を受ける程度ですが、この程度なら巻き返しが効く範疇ですね。狙いが集中している分、やりやすくもある)
エリザベスは淡々と、最長射程からライフル弾を打ち込み、仲間の狙いに合わせて一点を穿ち続ける。表面の氷に亀裂が入り、すぐさま崩れ落ちて僅かに下から無傷の氷が現れる。幾重にも層をなしたそれに致命的な亀裂を生むには、相当奥まで穿たなければ意味がない。畢竟、これは射撃を主とする者の連携と長期戦の集中力を要求する戦いだ。
「『水氷子』の動きが活発化しているように見えるな。……こちらに気付いたか」
汰磨羈は陣営の最後尾、逆V型の陣容の左翼から重火器の引き金を引き、すぐさま視線を上げて『水氷子』を見た。個体同士の動きが連携し、儀式めいたものを始めている……そう認識した直後、遠間に陣取っていた彼女とHaL目掛けて氷が渦を巻いて現れ、2人を巻き込んだ。相互の距離を広めにとった陣容のおかげで巻き込まれた仲間はない。負傷も大したことはない。繰り返し狙われようと、次は避けてみせるという自負がある。だが、同時に感じた必死さに後ろ暗い感情が去来したのを、誰が責められようか。
「まだだ。まだまだ、破壊するには足りない……彼らの痛みに見合う『痛み』が足りない」
7号は小さい身体すべてを叩きつけるように氷壁を殴りつけ、盾を押し込む。捨て身の打撃は正気を失った者を思わせるが、直後に飛び退り、迫る敵意を振り払った動きは冷静そのものでもある。
賢い戦い方は幾通りもあったろう。傷つかない選択肢も然り。だが、彼はそれを良しとしない。プティ同様、小さき姿の戦士として『出せる全て』を吐き出さずして終わることは許されない。終わりゆく命に、自身の得たギフトに誠実であるためにも。
「美しい……潰えることは本当に惜しいものだ」
ラルフは心底口惜しそうに呟くと、弾痕にねじ込むように盾を叩きつける。数歩引いた彼に追いすがるように礫が飛ぶが、彼は傷つく自身を一顧だにせず、『水氷子』を眺めていた。少しずつ砕ける氷に反射する光。『水氷子』の優美だが儚い姿。ほどなくして消えていく命のありかたに、彼は最後まで向き合おうと誓った。
「壊れちまうのは仕方ねえよなぁ、邪魔者なんだから。好き放題ブッ壊して顧客に満足してもらって終わりなら、こんなに楽な仕事はねえな」
ことほぎはただ、構えた杖から術式を展開し、繰り返し打ち付けるのみ。増幅された魔力は着実に氷を穿ち、時計を先へと勧めていく。依頼遂行ただひとつを目指す彼女のあり方は、『イレギュラーズ』として正しい。必要ない事象を削ぎ落とし、私情に拘らず誰に何を強いることもしない。善悪の括りに頓着しない生き方の原動力は只管に『自己愛』ただひとつ。
「んで、ご親切に助けた連中が生きてたらどーすんの? 難癖つけられて依頼にケチついたらゴメンだぜ?」
「考えてあるさ。貴族様にお任せすることになるがね」
ことほぎの問いに、HaLは肩をすくめて応じる。説得した人々がどれほど生き延びるかは未知数だがゼロではあるまい。理想論で世界は動かぬのだから、『その先』を考えるのは義務ですらある。
「……大丈夫だよ。彼らは強い、小さな世界で生きていくには惜しい命だったと思おうじゃないか!」
プティは深い呼吸を繰り返し、身に受けた傷の回復に努めつつ誇らしげに言った。常に最善の調子で『勝ち馬』に乗る彼女は、多少の傷すらも不利を為す。薄氷を歩むがごとき戦い方は、依頼に不確定要素を持ち込むこととも通じるだろう。或いは生存者が禍根になるかもしれない。或いは消える命を知ることで、決意にほころびが生じるかもしれない。その危機感は常に彼女に付きまとう。
だからこそ彼女は、過剰なまでに仲間を信頼して背を預けている。仲間との連携が成功への道筋をつけることならば、その策に『乗じて』よりよい未来を求めることに何のためらいがあるだろう。
「これから命を失う『水氷子』も犠牲となる人々も食らうことはできない。だからそこまで深く理解することはできないかもしれない」
イースは絶え間なく飛ぶ礫と背後で巻き起こる渦を視界に収めながら、レイピアの先に魔力を集中させて撃ち放つ。氷の壁も、『水氷子』も、避難した人々も。目にすることしかできないのだから、今イースができることはそれらを記憶し記録し、己の糧にすることだった。術式を受けた穴はいよいよ深く、少しずつヒビが生まれ始めていた。
「もう少し切り崩せば頃合いというところか。あと一息だ、注意を!」
汰磨羈は上に延びたヒビを狙って銃弾を叩き込み、確実に亀裂を広げていく。繰り返し捨て身の攻撃を行い、消耗した7号はエリザベスとともに自らを治療し、再び前へと駆けていく。
そして、幾度目かの決死の打撃を与えた7号は確かに見た。上方へと広げた亀裂が奥へ奥へと食い込んでいき、ついには『水氷子』の領域に届こうとしていることを。
氷壁の崩壊よりも早く――ひとつの種がこの世界から消えようとする息遣いを聞いた。
●Count:±100/セカイが墜ちていく
「崩壊が始まるぞ! 自壊するには傷が浅いが、皆離れろ!」
汰磨羈は遠巻きに状況を確認すると、声を荒げて指示を飛ばす。そう、崩落するには傷が浅い。滴る水も、一時的なものかもしれない。だが、しかし。一度燃え始めた燎原の火が手の出しようがないものに育つのと同じで、死を前にした『水氷子』の混乱は内部からの圧を生み、さらなる崩壊を促すだろう。
その状況下で、ラルフは前進した。彼だけは、前に進んだ。
「素晴らしい。壊れ行く様すら美しいなど、感激の至りだ」
彼は崩壊する氷壁にあらん限りの力で義手を打ち付け、再生能力を逆転させて亀裂を深める。盾を中心に吹き出す水、降りかかる神秘の氷塊、折り重なって聞こえる声なき悲鳴は彼の内奥に潜む探究心を弥が上にも刺激する。もっと、もっと終わりを間近に。7号やエリザベスの治癒を受けながら、もう一度、義手を押し込む。
「終わりにしよう……美しい幻想よ、さらば!」
彼の言葉が契機になったか、亀裂は決定的な破滅を呼び込み、氷は四方に砕けていく。
プティが静かに敬礼する先で、ただ前を見ていた男は氷に呑まれて消えていく。
「実に美しい、悠久の幻想が散り様は何と美しいのか……この瞬間に立ち会えて良かった、私はこの光景を忘れない、消え逝く君達に感謝する」
姿が完全に隠れる刹那、ラルフはそう口にして、笑った。
「この世界に君達は生まれた、報われぬ最後だが、……せめて来世は幸せであってくれ。我が権能、等しく全てを抱擁せよ、巡れ───涅槃寂滅(ニルヴァーナ)」
崩落のなか、7号は己のギフトを発動させた。生を否定せず、来世に希望をつなぐその権能が正しく巡るかは誰も観測できはしない。これは自己満足だと分かっていながら、彼はそうした。『最悪にあって最善』であった。
崩落の中で天に上る光がある。『地球』で喩えるならダイヤモンドダストに似たそれは、途切れることなく天へと紡がれていく。崩落が終わるまで、果たしてどれだけかかったことか。
氷の中から盾が突き出し、爆ぜるようにその場の氷が吹き飛んだ。そこから現れたラルフは、装備こそボロボロだが肉体に傷はない。パンドラの加護を以て生き延びた彼は、そうまでして最後の瞬間を見届けたのだ。
「で――イイものは、見れたかい?」
「……ああ」
呆れた汰磨羈に、ラルフは小さくうなずきを返す。彼の義手は、知らず手のひら大の球体を握っていた。程なくして千千に砕けたそれ以外の『水氷子』の痕跡はどこにもなかった。
余談だが、HaLはわずかに残った避難民に食い扶持を与えるよう依頼人に提案した。結果は、想定以上の活気を得た新たな交易路が証明している、と述べてこの依頼の結果報告を終えることにしよう。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。悪事であることを堂々と受け入れる姿勢も、否と叫ぶ姿勢も等しく尊いものです。
MVPは、パンドラを使ってまで自らの信念を貫いた貴方にこそ相応しい。
GMコメント
BtSは「バイ・ザ・スノウライト」の略です。おしゃれ。三白累です。
●成功条件
『氷の壁』の完全な破壊
●情報確度
A。表記情報以上のことや『これ以上』の要求はありません。ただしその分、『さらに善い』行動を目指す余地はあまりありません。
●氷の壁
『幻想』の辺境に存在する、氷塊といった方がいいほどの巨大な壁。南極の映像で崩落する氷塊がありますが、崩落するあれと同程度のサイズ感です。
この壁が崩落することで周辺の限界集落に近い地域がいくつか崩壊しますが、氷が溶けて消えた後は有力な交易路を形成するでしょう。
氷の内側、体積にして1/3程度の範囲に『水氷子』(後述)が生息する水の領域が存在します。
非常に頑丈で、攻撃的なイレギュラーズが集まっても破壊するまでには結構な時間を要するでしょう。
●『水氷子』
読みは「スイヒョウシ」でも「ミゴリコ」でもその他でもお好きにどうぞ。『氷の壁』の内部で溶けた水に出現した生命体です。妖精に近い特性を持ち、知性がなく、人間型です。
『氷の壁』が攻撃を受けた場合に反応し、破壊者に攻撃を仕掛けてきます。攻撃射程はすべて『氷の壁』外縁部を起点とします。『氷の壁』崩壊時に死滅します。
個体数は多いですが、ルール上の扱いは『三回行動が可能な一個体』となります。なお、外部から『水氷子』にダメージを通す方法はありません。『氷の壁』破壊のみが撃破手段です。
・氷礫(物中単、小ダメージ)
・氷渦(神遠範、小ダメージ)
・落氷(神至ラ、小~中ダメージ)
以上3通りの攻撃手段があります。基本的な威力はかなり控えめですが、長期戦となる特性上、無視し続けるのはやや危険かと思います。
●注意事項
この依頼は悪属性依頼です。
通常成功時に増加する名声が成功時にマイナスされ、失敗時に減少する名声が0になります。
又、この依頼を受けた場合は特に趣旨や成功に反する行動を取るのはお控え下さい。
また、相談期間は『4日』です。ご注意下さい。
では、どうかおひとつ。
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