シナリオ詳細
<晶惑のアル・イスラー>ナインヘッズ・キレスアッライル
オープニング
●砂漠を進む九頭晶竜
ザスッ! ザスッ! 巨体が砂を踏みしめる大きな音が、夜の砂漠に響く。
あまりにも巨大な――全高にして数十メートルはあろうかと言うそれは、竜種のように見えて歪であった。
何が歪かと言えば、その首と頭が九つあることだ。とても、生物として自然ではない。
もう一つ不自然であるのは、月明かりに照らし出された身体が、結晶のような硬質さを感じさせることだ。
もしそれの巨体が陽光に照らされていれば、多くの者が如何なる犠牲を払ってでも狩ろうとしたことだろう。何故なら、その全身はあたかも紅血晶で形作られたかのような色と姿だったから。
だが、幸か不幸か――今はこの巨体を見る者が、それの色を識ることはない。
この竜種の如き巨体が生物としては自然と思えないのも、無理からぬ事であろう。
この巨体の正体は、晶竜(キレスアッライル)。何者かが何らかの実験を行った末、廃棄された存在だ。
本来、自我もなく、人語も理解しないはずだが、この九頭晶竜と呼ぶべき晶竜は、ラサの首都ネフェルストへと真っ直ぐに向かっていた。
●紅き騎士の蠢動
九頭晶竜が、紅く煌めくブレスを吐く。対峙している傭兵達はブレスを回避しようとしたが、その一人が躱しきれずにわずかに掠ってしまった。それでも、命に別状は無いように見えたが――。
「ぐああっ!」
ブレスが掠った場所から、傭兵の身体が瞬く間に紅い結晶へと変化していく。そして、傭兵の身体は粉々に砕け散った。
傭兵達は、九頭晶竜を迎え撃ちネフェルストを護ると言う依頼を受けていた。が、この依頼は傭兵達にとってはあまりにも無謀なものだった。
「くそっ……俺達じゃ無理なのか! やはり、ローレットを頼るしかないのか!」
明らかな力量差を思い知り、傭兵達は無力感に顔を歪ませた。九頭晶竜にまともに傷を負わせられず、傷を負わせても即座に再生されて無傷に戻り、味方は次々と結晶化されて砕け散る。
それもそのはずで、晶竜は魔種相応の戦力を有する。イレギュラーズならざる者が対抗できる相手ではなかったのだ。
「一人でも生き延びて、このことをローレットへと伝えろ――!」
これ以上戦う無益を悟った傭兵達が、ネフェルストへと退却する。しかし、退却に成功したのは半数に過ぎなかった。残る半数は九頭晶竜の追撃を受け、紅い結晶と化して砕け散った。
「ククク……博士に借りた石の使い心地は、中々よな」
傭兵達が敗走する様子を眺めながら、全身鎧を纏った騎士風の男が満足そうにほくそ笑んだ。男の容貌は端正で、流れるような長髪とも相まって美形と言える。だが、その笑みは、そして醸し出す雰囲気は、溢れんばかりの邪悪さに満ちていた。
さらにその男が異質であるのは、全身鎧のみならず、その肌さえも結晶のような硬質さを感じさせることだ――まるで、九頭晶竜と同様に! そして、陽光の下にあれば、この男の全身もまた九頭晶竜と同様に紅血晶を思わせる色と姿であることがわかっただろう。
その掌には、男が言及したものであろう、丸い石があった。それを、男は弄ぶように掌中で転がしていく。
「さて……此方は、これで良かろうな」
この九頭晶竜以外にも、晶竜は次々とネフェルストに迫っている。それに共鳴するように、ネフェルスト中に流通している紅血晶は人々を晶獣(キレスファルゥ)へと変えているはずだ。
「では、仕上げと行こうか――麗しき我が王の為に。月を君臨せしむる為に」
男はそう言うと、身体を霧へと変えて、周囲に溶け込むように姿を消した。
●最後の護り
グラオ・クローネ。伝承を基に恋人達が、夫婦達が、互いを想い合う者達が愛を伝え合う憩いの日。
だが、この夜、ラサ首都ネフェルストは混乱の最中にあった。何体もの晶竜が迫り、それとタイミングを合わせたかのように人々は次々と晶獣へと変異しているからだ。
(何だい何だい。素敵な夜に無粋なことをしてくれてさ――!)
『夢見る非モテ』ユメーミル・ヒモーテ(p3n000203)は、苦虫をまとめて噛み潰したような表情で、周囲の光景を見やった。良く言えば野性的、悪く言えば粗野なユメーミルだが、その内面は幸せな結婚を夢見る、恋に恋する乙女である。運命の相手には巡り会えていないが、まだ見ぬ相手とこの日に愛を伝え合えたらとは何度夢想しただろうか。
それだけに、恋人達や夫婦達の幸せな瞬間をぶち壊しにする晶竜の襲来をユメーミルは許せない。
だが、ユメーミルはその憤懣に浸ってばかりはいられなかった。晶竜の一体――九頭晶竜の進行を阻む依頼を受けており、目の前に集まったイレギュラーズ達にその説明をしなければならないのだから。
「皆、集まってくれてありがとうね」
ユメーミルは、心からの感謝を込めてイレギュラーズ達に言った。と言うのも、既に九頭晶竜と戦った傭兵達によれば、攻撃が掠っただけで全身が結晶化し、即座に砕け散ったと言うからだ。そんな危険な相手であるにも関わらず、彼らは依頼に参加してくれたのだ。
もっとも、ユメーミルの心配は半ば以上が杞憂ではあった。ユメーミルは知らない事実だが、九頭晶竜の攻撃による結晶化は、可能性の力を持つ者に対しては著しく効果が減衰する。せいぜい、毒同様に身体を蝕み、継続してダメージを与える程度だ。
ともあれ、ユメーミルは傭兵達から聞き出した九頭晶竜の特徴をイレギュラーズに伝えていく。そして最後に、一組のアンクレットを配った。
「……これは?」
「ウィングアンクレット。飛びたいと思ったら、翼が生えて飛行させてくれる魔道具だよ。
奴は巨大だからね。頭を狙いたい時に使えるだろって事で、借りて来れたんだ。
もっとも、頭を潰しても再生してくる可能性は高いから、そこは注意しておくれ」
アンクレットを配り終えたユメーミルは、イレギュラーズ達をまじまじと見つめた。その視線に宿っているのは、心配と懇願。
「九頭晶竜は、もうネフェルストのすぐ近くまで迫っている。アンタ達が、最終防衛ラインだ。
もしアンタ達が抜かれれば――なんてのは、言うまでもなくわかるだろ?
だから――すまないけど、頼んだよ」
ユメーミルはそう告げると、イレギュラーズ達に向かって深く、深く頭を下げた。
- <晶惑のアル・イスラー>ナインヘッズ・キレスアッライルLv:30以上完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年03月05日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●迫る九頭晶竜を前にして
「グラオ・クローネっていうのはあれだ! 皆でチョコプリン食べる日だな!
アイツもプリン食べたくて来たのかな? にしてもやりすぎだから、早く止めないとな!」
ネフェルストへと迫り来る九頭晶竜の姿を見た『リカちゃん認定の強者』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)はそう叫んだ。プリンのグラオ・クローネへの理解に関しては、三文字ほど惜しいところがある。
「いやぁ……さすがにそれは無ぇと思うぜ」
そして、プリンの語る九頭晶竜の目的については、『Stargazer』ファニー(p3p010255)が呆れ混じりにツッコミを入れた。それにしても、とファニーは思う。
「わざわざグラオ・クローネの日に出てこなくてもいいだろうに。
他人の恋路を邪魔する奴はどうなるか、思い知ってもらわねぇとな」
「うむ、何もこんな時期に来ずとも……とも思わなくもあらぬのじゃが、来てしまったものは仕方があるまい。
歓迎してやろう、盛大にのう――プレゼントはチョコではなく、魔弾の雨じゃがな!」
愛し合う者達が愛を伝え合うこの大切な日に、よりによってとぼやくように言ったファニーに、『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)は賛意を示しつつ、紅い八面体の魔法触媒『ルベウス=エテルナーム=ベネデート』をグッ、と握りしめた。
(この世界でのバレンタイン……グラオ・クローネは初めてだけど、素敵な一日と言うのは分かるわ)
だからこそ、その夜にこんな事態が発生したことが『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)にとっては口惜しく、残念でならない。しかし、その感情に囚われてばかりはいられない。
とにかく、九頭晶竜を止めなくてはならない。セレナ達イレギュラーズは、ネフェルストへの九頭晶竜侵入を阻止するための、最終防衛ラインなのだ。もしセレナ達が突破されてしまえば、混乱の最中にあるネフェルストの人々は次々と紅い結晶へと変えられ、砕け散っていくことだろう。
(晶竜……模したものと言えど、竜)
竜種で無いとは言え、脅威ではある。だが、背後にあるものを思えば、怖気づいてなどいられなかった。
(祝い事とか、縁だ愛だ恋だなどは全くもって解りませんが……)
それでも、こう言った闖入者が好かれない者であることは、『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)も理解出来る。
(それに――血晶だなんて名を付けられては、あたしとしては退く訳には行かないんですよ)
血の魔術を操る魔女としての自負が、そこにはあった。
「……ったく。グラオ・クローネの夜に、こんな事態になるなんてなぁ」
『一ノ太刀』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)もまた、ぼやくように独り言ちる。もっとも、エレンシア自身はグラオ・クローネは関係ないのだが、それはさておき。
「ただでさえめんどくせぇ事になってるネフェルストに、こいつを行かせるわけにはいかねぇしな。ここで叩き潰してやるか!」
エレンシアはそう意気込みながら、大太刀『啾鬼四郎片喰』の柄に手をかけた。
「例の紅い結晶の……竜。晶人、晶獣、晶竜……」
九頭晶竜の姿に、まるでヒュドラのようだと思いながら、『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)がつぶやいた。
(この晶竜、流石に元が竜種という事はないだろうけれど、確かに強力な個体であるのは確かなようですね。
他の箇所にも現れている晶竜と呼称すべき個体と言い、特に出来のいい個体群という所か)
アリシスは、迫り来る九頭晶竜を見据えながら晶竜についてそう推察した。
「晶竜……敵は巨大で強力……。でも、ワタシはこんな所で倒れない」
『時には花を』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は、きっぱりとそう言ってのけた。そこまでで止めておけばよかった、のだが。
「何だったら、晶竜の首をアトさんのお土産にしちゃう……!」
「……あたし、そのアトさんと面識ほとんど無いですが、そんな武将みたいな人なんです?」
「……アトは、そんなもんで喜ぶのか?」
続くフラーゴラの言葉に、エレンシアとルトヴィリアが困惑気味に問うた。
「……首のお土産? それよりもチョコプリンの方が良いと思うぞ!」
プリンは、そう主張する。確かに、もらうのならば晶竜の首よりもチョコプリンの方が、普通は嬉しいだろう。
●封じられた再生能力
「効くといいのだけど……ううん。通してみせる……!」
『ライオットシールド』を構えたフラーゴラが、九頭晶竜へと駆ける。そして、その脚へと体当たりをかけた。ライオットシールドを受けた九頭晶竜の脚からは、紅い梅の花弁が舞い散っていく。
フラーゴラの体当たりは、ただのシールドバッシュのように見えた。が、実際には獄門よりの禍の爪牙として、九頭晶竜に状態異常をもたらす糸口となるプレッシャーをかけるものだ。
「重い圧に気を取られたら、そいつぁ致命的な隙だ、ってな!」
そこに、エレンシアが畳みかけた。低空飛行で九頭晶竜へと接近すると、その胴体に次々と斬りつける。啾鬼四郎片喰の刀身が、九頭晶竜の結晶質の身体を易々と斬り裂いた。その刻まれた傷からは、やはり梅の花弁が舞った。
邪道の極みたる殺人剣の剣閃は、ただ九頭晶竜の身体を傷つけるに留まらず、九頭晶竜の再生能力をも阻害する。
「屍山血河を築きし力の一端、馳走してやろう……遠慮はいらぬ、とくと味わえ!」
クラウジアは、混沌に転移する前の、かつての自身の一指を喚んだ。その指からは放たれた魔弾の雨は、九頭晶竜の九つの頭のうち五つを巻き込んだ。蜂の巣のように九頭晶竜の頭に孔が空くと共に、梅の花弁が舞う。
「おいお前! いい加減に止まれよー! 止まらないんなら……じつりょくこーしだ!」
プリンの乗る大型バイク『Caramel★Crunch』が、目にも止まらぬスピードで瞬く間に九頭晶竜に接近する。そして、そのスピードを乗せた拳を、九頭晶竜の胴体へと叩き付けた。バキッ! ビキビキッ! そんな音と共に、プリンの腕は肩の近くまで九頭晶竜の体内にめり込んだ。
ブワッ! プリンの肩の周囲から、梅の花弁が溢れだして飛び散っていく。
「その圧からは、解放させません。この輝きで、呪われなさい」
アリシスは、九頭晶竜の胴体と幾つかの首を、呪いをもたらす堕天の輝きで照らし出した。輝きに照らされた首もまた梅の花弁を散らしながらプレッシャーを受け、胴体と共に状態異常からの回復力を阻害される。
「お前のソレが血晶だと言うのなら──纏めて奪い去ってやりますよ」
アンクレットから翼を生やしながら、ルトヴィリアは九頭晶竜の頭の中へと飛び込んでいく。そして、自身の周囲に紫色の帳を降ろした。終焉をもたらす帳の中で、梅の花弁が舞い散った。
(紅血晶はこんな怪物まで産み出すって言うの? ううん……違う。
結晶化能力と言い、人為的な悪意を感じる……やっぱり、誰かがこうした怪物を創り出してる……?)
そんな思考が、セレナの脳裏を過ぎる。が、それを考えてばかりもいられない。
ランタン『星導』を灯らせて辺りを照らしながら、セレナは箒に跨がり飛翔する。そして、より多くの頭を巻き込める射線を確保してから、貫通力に特化した魔力の砲弾を撃った。魔力の砲弾は九頭晶竜の頭部のうち四つを貫き、その貫通した孔から梅の花弁をブワッと舞い散らせていく。
「いつもなら俺様を止めてみせろと言いたいところだが――今回は、こっちが止める側だ。
ここを通りたければ、俺様の屍を越えていくがいい!」
ファニーはそう九頭晶竜に啖呵を切りつつ、夜空から星屑を墜とした。
こうした防衛戦は、ファニーにとって得意なものではない。それに、ファニーは別にラサに思い入れがあるわけでもない。だが、今日は大事な日なのだ。特別な日なのだ。故に、突破などさせる気は無い。
その意志に応じるように墜ちてきた星屑は、九頭晶竜の頭の一つに命中すると、衝撃波を発して他の首を巻き込んだ。そのうち三つの首が、衝撃波に圧されて動く機を逸することとなった。
●砕け散った九頭晶竜
幾つかの頭がしばしば動きを妨げられたとは言え、九つもの頭と脚の鉤爪、そして尾による九頭晶竜の攻撃は強烈だった。まずファニーとルトヴィリアが深手を負い、その二人を庇いに入ったセレナ、フラーゴラ、プリンも浅からぬ傷を負ってしまう。クラウジアもまた同様だった。
だが一方で、九頭晶竜もその膨大な生命力を大きく削られていた。複数の首が範囲攻撃で一度にダメージを負えばその数の分だけ生命力が削られる上に、強靱な再生能力をイレギュラーズ達によって阻害されたからだ。
もっとも、外見上はすぐに傷が再生したために、イレギュラーズ達もこのままではと焦りを感じはした。だが、その傷の修復が止まった瞬間、イレギュラーズ達は九頭晶竜の生命力が枯渇してきていることを、これまでの攻撃が無駄でなかったことを察する。
そうなるとイレギュラーズ達は、頭を一つずつ確実に潰しにかかっていった。
九頭晶竜の頭もあと一つとなり、その結晶質の身体にも無数の傷が刻まれた。九頭晶竜の撃破は、もう目に見えてきている。最期の力を振り絞るかのように、九頭晶竜はファニーにブレスを吐き、ルトヴィリアを脚の鉤爪で切り裂こうとする。だが。
「ファニーは、やらせないよー!」
「ワタシの得意なのは、こういうこと……! 味方を守って……支援する。それが、勝利への近道!」
プリンがファニーを、フラーゴラがルトヴィリアを、その身を盾にして護る。受けたブレスから、鉤爪から、生命を蝕み結晶に変える力がプリンとフラーゴラの身体を苛む。だが、可能性の力に守られた二人が結晶と化すことはない。
「――全力で、行って!!」
フラーゴラは、自分の分まで頼むと言わんばかりに、ルトヴィリアに言った。ルトヴィリアも、その意を察してコクリと頷く。
「我が刃に、斬れぬものなし!!」
エレンシアの、城すら斬ると言われる武技による剣閃が、九頭晶竜の胴体を斬り裂いていく。啾鬼四郎片喰の刀身が斬った場所だけでなく、その周囲までボロボロと砕け散っていき、多くの梅の花弁が舞う。
「く……これで、何とか削りきれるとよいのじゃが……」
かつての自身の一指を連続で喚んだために、クラウジアの気力は居寤清水による回復を以てしても尽きかけていた。残る気力を振り絞って、クラウジアは再度かつての自身の一指を喚ぶ。この一指を喚べるのも、これで最後だ。
祈るようにつぶやきながら、クラウジアは喚んだ一指から多数の魔弾を放ち、九頭晶竜の胴へと叩き付けた。梅の花弁がブワッ! と舞い散ると共に、魔力の命中した場所に蜂の巣のような孔が空き、その周辺がボロボロと崩れ落ちていく。
(ここは……畳みかけるべきですね)
そう判断したアリシスは、アンクレットから翼を生やして飛翔し九頭晶竜への距離を詰めつつ、その手に擬似的な神殺しの槍を創り出す。そして、飛翔の速度を乗せて九頭晶竜の最後の首の喉元を突いた。神殺しの槍は柄の半ば程まで九頭晶竜の体内に突き刺さり、梅の花弁を舞い散らせながら深く長い孔を穿った。
「あたしこそが瀉血の魔女だ! 血を以て血を制し、終わらせるモノなのだ!」
ルトヴィリアが、咆えると共に九頭晶竜の背に回り込むと、九頭晶竜に悪夢を見せる。その悪夢は現実を侵食し、九頭晶竜の身体を苛んだ。九頭晶竜の身体が、梅の花弁を撒き散らせながらボロボロと徐々に崩れ落ちていく。
「そのまま……滅びなさい!」
セレナは、アリシスが穿った孔を狙って魔力の砲弾を撃った。魔力の砲弾がアリシスの穿った孔に入り、その先を貫き通すと、九頭晶竜の全身に亀裂が入ると共に、梅の花弁の放出が止まらなくなり始めた。
「他人の恋路を邪魔するやつは――星に焼かれてくたばっちまえよ!」
愛し合う者が愛を伝え合えないバッドエンドは御免だ。そんな結末を招く者は許さない。その強い意志と共に、ファニーは星屑を最後の九頭晶竜の頭に墜とした。まず星屑と衝突した九頭晶竜の頭が砕け、衝撃波が首、胴体に伝わると共に、首と胴体も辺り一面に無数の梅の花弁を舞い散らせながら粉々に砕け散る。九頭晶竜は、斃れた。
●暗躍する何者かの存在
「へへ……止められて、良かったぜ」
九頭晶竜の撃破を確信したファニーは、安堵からか身体の力が抜けて、砂の上に膝をついた。愛し合う者達にとって大事で特別なこの日に、こんな怪物を突破させずにすんで良かったと心底思う。
「んー……何か、こいつ……変だったな!
なんか、ただなんか動いてるだけみたいな、『これしたい!』『あれ好き!』」っていうのがなかった様な……」
プリンは、九頭晶竜に生物らしい意志が感じられなかったことに、モヤモヤするものを感じていた。
「……今度があったら、プリンを食べに来いよ! 絶対好きになるからな!」
ともかく、今はもういない九頭晶竜に向けて、プリンは叫んだ。
「どんな理由でココに来るに至った手合じゃったのかがさっぱりわからぬのじゃが、類似の事件とかないと良いのぅ……」
「類似の事件ですか……残念ですが……」
疲れ切った様子のクラウジアがぼやくようにつぶやくと、アリシスが首を横に振って否定した。
既に類似の、晶竜による事件はネフェルスト周辺で同時多発している。その他の場所の様子からしても、九頭晶竜は誰かが意図的に放ったものである可能性が濃厚だ。
(しかし、その放った何者かの姿は無い。性能に自信があるのかもしれませんが、見届けない程度には進軍の結果に興味が無いのでしょう。
この襲撃も、これら晶竜を始めとした戦力も、使い捨ての玩具……か。色宝の時と比べて、中々進歩していますね)
そう思案しつつ、その何者かが暗躍している以上、続く事件は発生するだろうと言う見通しを告げた。
「やっぱり……そうよね」
「こいつを放ったやつ、か……」
「こんな素敵な日に暴れさせるなんて、デリカシーがないなあ……!」
アリシスの言を聞いたセレナは、九頭晶竜に感じた人為的な悪意が間違いではなかったと確信。そしてエレンシアはその何者かについて考え込み、フラーゴラはその何者かがグラオ・クローネを選んで九頭晶竜を放ったことに憤る。
(……晶竜を放った何者か。それに、紅血晶、か……)
その何者かと、ネフェルストで最近出回っている紅血晶。その二つについて、ルトヴィリアは調べる価値を見出していた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍により、九頭晶竜はネフェルストに到達することなく倒されました。
MVPは、獄門・禍凶爪でBS無効を確定で無効化し、【致命】で再生能力を阻害する基礎を作ったのをポイントとして、フラーゴラさんにお贈りします。
それでは、お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。
今回は、<晶惑のアル・イスラー>のシナリオをお送りします。
ネフェルストに迫る、九頭晶竜を撃破して下さい。
●成功条件
九頭晶竜の撃破
●失敗条件
九頭晶竜のネフェルストへの突破
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
ネフェルスト近郊の砂漠。時間は夜間、天候は晴天。
足下が砂であることについては、判定にペナルティーは受けないものとします。
暗視やそれに類するスキルが無い場合、命中や回避に若干のペナルティーを受けます。
このペナルティーは、十分な量の光源を用意することで回避することが出来ます。
●初期配置
イレギュラーズと九頭晶竜とは、最低40メートル以上離れているものとします。
また、イレギュラーズは九頭晶竜から見てネフェルスト側にいるものとします。
●九頭晶竜(ナインヘッズ・キレスアッライル)本体 ✕1
九つの頭を持つ晶竜です。晶竜は魔種相応の実力を持ちますが、この九頭晶竜もその例に漏れません。
処理の便宜上、この敵は九頭晶竜の胴体以下として扱います。
巨体であるため回避は極めて低いのですが、高攻撃力、高防御技術、高生命力と言うパワー&タフネスに特化した能力を持ちます。
後述する九頭晶竜頭部とは、HPを共有しています。頭部含む部位破壊は、次ターンには即座にその部位が再生されるため有効ではありません。
HPが枯渇してくれば、破壊された部位は再生してこなくなります。
なお、九頭晶竜は【怒り】は無効ですが、皆さんが戦場にいる限りは皆さんの殺害を優先します。
・攻撃能力など
鉤爪 物近単 【弱点】【鬼道】【晶化】【出血】【流血】
1回の行動で、左右1回ずつの計2回攻撃してきます。
尾 物近範 【弱点】
再生能力(大)
【封殺】無効
BS無効
マーク・ブロック無効
●九頭晶竜(ナインヘッズ・キレスアッライル)頭部 ✕9
九頭晶竜の、首から上の頭部です。処理の便宜上、個別の敵として扱います。
移動は頭部基準とし、首の付け根から20メートルの範囲で自由に動きます。
攻撃力、命中、回避は本体よりもこちらが上となります。一方、防御技術はさすがに本体に劣ります(それでも、それなりには硬いのですが)。
例え頭部を切断されたり潰されたりしても、本体に十分なHPが残っている場合、翌ターンの最初には即座に再生されます。
・攻撃能力など
牙 物超単 【移】【弱点】【邪道】【鬼道】【晶化】【出血】【流血】【失血】
ブレス 神/至~超/域 【識別】【邪道】【鬼道】【晶化】
再生能力(大):回復するHPは本体と共通
【封殺】耐性(中)
BS無効
マーク・ブロック無効
●吸血鬼(ヴァンピーア)『???』
全身が紅血晶で出来ているような肌の、同じく紅血晶のような輝きを放つ全身鎧を纏った騎士風の吸血鬼です。
OPで姿を消した後、何処かへと去ってしまいました。そのため、今回は皆さんと戦うことはありません。
●BS【晶化】
このシナリオオリジナルのBSです。受けた者の身体を蝕み、紅い結晶へと変えて砕け散らせます。
パンドラを持たない一般人は瞬く間に侵食されて全身が結晶化し、即座に砕け散ってしまいます。が、パンドラを有するイレギュラーズは継続ダメージを受けるだけですみます。
BSであるため、BS無効で無効化出来ます。また、BS緩和を有している場合、そのレベルを問わずダメージを半減させることが出来ます。
●ウィングアンクレット
今回皆さんに貸し出されている、装着者の意志に応じて翼を生やし、装着者を飛翔させてくれるアンクレットです。
【飛行】スキルがなくても、飛行戦闘を行うことが出来ます。また、飛行戦闘のペナルティーを軽減します。
それでは、皆さんのご参加をお待ちしています。
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