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シナリオ詳細

<晶惑のアル・イスラー>もうこれ以上奪わないで

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●いってきます
 元気良くそう言って出ていった息子が帰らない。
 ルリーチェは心配のあまり、そっと家を出た。翠に遮られたその家は、ラサの一角にある。住宅こそラサ風であるものの、大樹ファルカウを信仰する幻想種らしい庭がきれいだった。
 乾いた大地を踏みしめ、彼女は息子を探して目くらましの結界範囲外へ。
(どこへ、行ってしまったの? もうこんな時間。外は暗いのに。今日は息子の大好きなシチューの日なのに。もしかして……)
 拐かされたか。噂の奴隷商人に。
 このところラサとアルティオ=エルムでは、奴隷商人が幻想種をさらっていく事件が頻発している。ルリーチェの家にも、近所から注意を促す伝言板がまわってきたばかりだった。まるでザントマン事件の再来だ。
 そんな馬鹿な。ありえない、ただの嫌な予感であってほしい。
 彼女は魔法を使って息子の残した反応をたどり、グラオ・クローネでにぎわう市へ足を向けた。

●ただいまが遠ざかっていく
 空が壊れたのは、ルリーチェが市へついたその時だった。
 本当に、それは巨大で、長大で、醜悪で、キメラもおののくような動物のつぎはぎ、寄せ集められたあべこべなパズルの結果。全体の形状は、どこかしら竜種を思わせる。それが空を横切っていったのはわずかにまばたきほどの間。それでも人々が恐慌へおちいるにはじゅうぶんだった。原始的な恐怖が人々の心をかき乱し、市場は大混乱に陥った。
「いたい、待って、息子の反応が消える、おねがい、通して……!」
 もみあう人々の合間を、ルリーチェは抜けようとした。そして、見てしまった。
 ぐったりとした息子が、怪しげな風体の商人によって担ぎ上げられる現場を。そのぴんと尖った幻想種らしい耳。ラサにおいても日に焼けることのない白い肌、深緑風のグリーンのローブを。まちがいなく息子だ。ルリーチェは声をはりあげた。
「ロウル! ロウル! 目を覚まして! どこへ連れていくの!? 私の息子を返して!」
 商人風の男の周りに、傭兵風の男女が集まり壁を作っている。奴隷商人の一団は、じりじりと人混みを抜けていく。
「行かないで、行かないで、私から夫を奪ったくせに! 息子まで奪うの!? 許さない! 許さないわ!」
 我を忘れて攻撃魔法を詠唱しようとするルリーチェ。その肩をあなたはつかんだ。驚愕する彼女へ、その魔法は罪のない人々を巻き込んでしまうと伝え、あなたは戦場へ立った。
 周囲ではパニックに陥った人々が暴れている。今は静止を叫んでも聞く耳など持たないだろう。
 ルリーチェの身を案じつつも、この人混みを抜けて奴隷商人の一団へ追いつき、かつ無関係な人々を巻き込まずにさらわれた少年、ロウルをたすけださなければならない。
 困難かもしれない。だができる、あなたならば。イレギュラーズならば。

GMコメント

みどりです。救出ミッションです。ラサのとある市場で、幻想種拉致事件が起こりかけています。あなたがたは奴隷商人から少年ロウルを取り戻さなくてはなりません。

やること
1)ロウルの奪還
2)可能な限りの敵部隊の損耗
3)暴徒の被害ゼロ

●戦場 開始時彼我距離 60m
ラサにある、とある市場 道幅3m
 現在、突如現れた『晶竜(キレスアッライル)』の存在により、人々が恐慌に陥り、暴徒となっています。これは解除できない特殊な【混乱】状態で、非常に高い確率でお互いに攻撃し合い、HPを削り合っています。この攻撃はPCへもおよびます。ダメージ自体は少ないのですが、暴徒は元来HPが低いため、混乱による攻撃で死亡者が出る確率が高いです。
 暴徒の存在により、機動力へ-3のペナルティがかかります。同時に、移動・全力移動が、ものすげえ遠回り扱いとなるため、直線距離を進むのが困難な状況です。このペナルティは敵側も受けます。飛行系スキルがあると便利かもしれませんね。

●エネミー 生死不問 暴徒を平気で攻撃へ巻き込んできます 
奴隷商人ラミリオン 1人
 ロウルをかついでいる奴隷商人です 彼我距離が100m以上離れると見失った扱いとなり、問答無用で失敗します
 HPAP・防技・抵抗が高く、正面から戦うとそれなりに善戦してきますが、今回は逃亡へ注力するようです

傭兵・男・4人
 EXAの心得がある傭兵で、至近~近距離の白兵戦が得意です
 命中率は下がりますが、銃による遠~超遠へも対応しています
 副行動でラミリオンの移動・全力移動へボーナスを加えます
 特殊主行動(後述)をとる場合があります

傭兵・女・2人
 CTの心得がある傭兵で、魔法による回復や付与による援護を得意としています
 副行動でラミリオンの移動・全力移動へボーナスを加えます
 特殊主行動(後述)をとる場合があります

●特殊主行動 『アンガラカ』
 昏睡を伴う白い粉状の物質です
 特殊行動で散布され、戦場すべてのPCおよび暴徒の行動へペナルティを与えます この効果は重複し、重篤なものになっていきます 今回使用されるものは、戦闘後じゅうぶんな時間を置けば、自然分解されるようです

●友軍NPC
幻想種ルリーチェ
 神秘攻撃の心得がある占い師の幻想種です
 かつてあったザントマン事件で夫をなくし、数奇な縁を経て因縁あるラサで息子のロウルと二人暮らしをしています
 彼女の攻撃は遠範~超範の射程を持ちますが、識別はついていません
 息子心配のあまり攻撃魔法を撃ちかねません
 一方で、単体回復を用います
 安心していい回復量です

●NPC
幻想種ロウル
 さらわれている少年です実年齢は10才、見た目は6才程度
 昏睡状態にあります
 奴隷商人側は格別に執着しているわけではないようですので、彼を取り戻すと逃げだすでしょう

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <晶惑のアル・イスラー>もうこれ以上奪わないで完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月05日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
狙われた想い
浮舟 帳(p3p010344)
今を写す撮影者
リスェン・マチダ(p3p010493)
救済の視座

リプレイ


「ロウル! ロウル!」
 離れていく、遠くなっていく、暴徒に殴られながらも、ルリーチェは人混みを抜けようとあがく。
「行かないで、連れて行かないで! 私の息子よ、あの人の忘れ形見なの! 奪わないで、これ以上私から奪わないで!」
 悲痛な叫びがかき消されていく。奴隷商人の一味の姿が遠くなっていく。るりーちぇはたまらず最後呪文を詠唱しだした。その背に『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)が抱きついて止める。
「ルリーチェさん! どうか落ち着いてほしいのですよ! とにかく今はルシアたちに任せてほしいのでして!」
 必死の説得に、ルリーチェは動揺した。だけど、どうすればいいの? と、瞳が語っている。
『特異運命座標』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)が真剣な瞳のまま正面からルリーチェの肩へ手を置いた。
「ルリーチェママ、ちゃんと坊やは連れて帰って来るから、ちょっとだけまっててね。大丈夫、みんな強いんだから!」
 確信を持って語りかける。それは仲間への信頼、そして明るい未来を信じて疑わない顔だ。
 いまだ魔術の光くすぶるルリーチェの手を、『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)が包み込んだ。
「ルリーチェさん、待って! ここにいる人たちを巻き込んでしまいますよ。……ロウル君、きっと自分のためにお母さんが人を傷つけたって知ったら悲しみますよ」
 はっとしたようにルリーチェが息を呑む。
「わたしは、ロウル君にルリーチェさんが胸を張っておかえりって言ってほしいんです。大丈夫です。ここに集った人たちはすっごく強いので。ルリーチェさんの大切なロウル君、奪わせやしませんから。その力、貸していただけるなら回復魔法でサポートをお願いしたいです。わたしたちを信じて見守っててください。
「……わかりました。だから、お願いします。息子を、ロウルを」
「ええ、わかっているのです。まかせてほしいのでして!」
「なにもしないのも気が急いてたまらないよね。リスェンの言うとおり、回復をお願いしていい?」
 ルシアとメリーノの言葉に、ルリーチェは固い表情のままうなずいた。だがその目には芽生え始めたばかりの信用が見える。この双葉を大切にしなくてはならないと、ふたりはそう思った。
 リスェンは暴徒から波状攻撃を受けつつも耐える。彼らは晶竜を見て混乱しているだけなのだ。だから大丈夫だ。この騒ぎさえ収まってしまえばもとに戻る。そう心を強く持つ。
「わたしにとっての家族は一緒に暮らしている動物たちですが、攫われたらって考えるだけで苦しくなります。ましてや奴隷商人なんて……」
 彼女のギフトが胸の内で、朝日に照らされた宝石のように輝きを発した。か弱い命を守るため、小さな幸せを謳うため、ほんのすこしのぬくもりを、届けんとするため。……人はそれを勇気と呼ぶ。
 暴徒の拳がリスェンを襲った。ごつい指輪をしたそれが、リスェンの額に当たる。うすく開いた傷から、血がたらり。リスェンはそれをハンカチでぬぐい、暴徒へ微笑みかけてすらみせた。
「あなたがそうなさるのも、すべては晶竜のせいです。戻りましょう、日常へ。歌いましょう、平和を。いまはまだ、できなくとも」
『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は、相棒へ向かってニヤリと笑いかけた。
「家族の絆を守るために、ネット家族が駆けつけるってのも妙な因果だな、弾正。二度と人攫いなんざできねぇぐらい、とっちめてやろうぜ」
「現実にR.O.O.の話を持ち出すと火傷するぞスキャット。……違う、現実ではベルナルド殿だった。ごめんて!」
『残秋』冬越 弾正(p3p007105)はさらっとアカバレしてしまい、ベルナルドが頭を抱えたのを見て、即座に謝った。
「ともあれ、まずはやつらにおいつかなければだな」
「ああ、俺は暴徒の鎮圧に向かう。頼んだぞベルナルド殿」
 弾正はルリーチェに向き直り、拳を握る。
「ロウル殿は無事帰ってくるさ。なんたって俺達、特異運命座標は奇跡を起こす存在だ。……俺の母も、何者かに拉致されてそれっきりだ。奴隷商を許す訳にはいかない。だからこそ、奴らの思惑にはまってはいけないんだ! これからしばらく修羅場が続くが、安心してくれ。俺がルリーチェ殿を守る。即席バディとして共に力を尽くそう」
「……はいっ」
 回復の呪文を唱え始めるルリーチェに安堵し、弾正はベルナルドへ親しみをこめたまなざしを向けた。
「無茶してもいい。俺たちがサポートする。だが、無理はするなよ」
「ふっ、弾正に心配されるようになったらおしまいだな」
「まったくだね」
『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)もからかいを含んだ笑みで同意する。
「奴隷商人ってのは、いつの時代も一定数いて嫌になるね。そりゃあ、大金に目が眩む気持ちも……」
 そこまで言って、ガシガシと水色の頭をかく。
「いや、すまん、わかんねぇや。わかりたくもねぇし。とりま、痛い目見て反省するといいよ。次がある保証はないけど」
「奴隷商人から足を洗わせたいところだけど、今回では無理だろうね。せめてボクがこのカメラで顔写真をとって、ローレットを通して警戒を呼びかけてやるんだから!」
『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)は大切な宝物を抱え、ラミリオンの背を激写した。この犯行は依頼映像を通じて記録されるだろう。
「晶竜現れて大変なことになってる最中に拉致とか本当に勘弁してほしいね! とは言え目の前で起こったことならボクらが助けない訳には行かないね! 暴徒は鎮めて、奴隷商人とその傭兵は逃げる前に捕らえる。困難でも不可能じゃないならやってみせるよ!」
「ああ、不可能を可能にする。それが俺たちだ」
『やさしき愛妻家』黒影 鬼灯(p3p007949)が目をすがめた。腕の中ではやわらかな人形、章姫が市場の地図を広げながら、ぷんぷん怒っている。
「小さい子を誘拐するなんて! 悪い人! 鬼灯くん、ルート確認はだいじょうぶ? もしまだ覚えきれてないのなら……」
「問題ない章殿、海馬へ叩き込んだ。さて、俺もあまり人のことは言えんが実に胸糞悪い。俺達も子どもたちを保護している身、他人事とは思えん。ルリーチェ殿、貴殿のご子息は必ず我々が救い出す故に安心してくれ」
 そして彼はいとしい妻の口元へドールサイズのお手製マスクをつけてあげた。今日はおしゃべりはなしだ。なにせ、あのアンガラカが場へ漂っているのだから。万一にもかわいい妻が昏倒する真似があってはならない。
 準備が終わると、彼はいつもの台詞を口に出した。彼がそれを口にする時、いつだって問題は解決するのだ。
「さぁ、空繰舞台の幕を上げようか」


「《Nine of Swords》冬越弾正、いざ参る!」
 高らかにあげられた名乗り口上が暴徒をひきつける。弾正は、無我の果てへ行き着き、すさまじい攻撃の雪崩をやり過ごしていく。
「まだまだだ、こんなものか!?」
 煽り立てれば煽り立てるほど、暴徒が弾正へ殺到する。押し合いへし合いしながら彼へ伸ばされた手は、まるで助けを求めているかのよう。
「つらいだろうな、だが終わりだ。そのために俺はここに立っている!」
 弾正は負けじと声をはりあげて歌う。そは不殺の奥義。
「がなりたてるよな歌は 夜空
 掻き消えることなく
 闇夜の中
 黒と赤は
 光となり 結ばれていく……」
 弾正の声によって場が圧迫され、気絶した人々が折り重なっていく。
「よし、リスェン殿、頼めるか!?」
「はいっ」
 弾正はドミノ倒しによる二次被害が起きないよう気を配りつつも、勇気を歌い上げていく。その隣でワイバーンに乗り空中へ凛と咲くリスェンは詠唱をはじめた。
「神鳴る気をこれへ。神生る喜をこれへ。障壁は取り払われ、我ら千と八十の軍勢を見ん。そのおだやかなる勇気の徒を見ん」
 閃光がリスェンからほとばしる。光に打たれた人々は次々と倒れていく。
「ルリーチェさんは弾正さんから離れないでいてくださいね」
 うなずくルリーチェをやさしい瞳で見つめたリスェンは、きっと顔をあげた。
「皆さんを傷つけないためなので、ごめんなさいっ!」
 謝りつつも神気を召喚し、これを自在に使役する。彼女がついっと空を飛ぶ。そのたびに暴徒は救われていく。

「とりあえず飛ぶよ!」
 メリーノの掛け声に、弾正を除く全員が空へと舞い上がった。傭兵が驚愕する。あえて暴徒鎮圧に動いた弾正とリスェン以外は、全員がなんらかの飛行能力を有していた。ワイバーンたちが主を支え風を切り、他のイレギュラーズは生身の体で中空を疾駆する。
「お逃げください!」
 傭兵どもがラミリオンを逃がそうとする。
「んー、ざっと見積もってひとりがサポートするたびに、あっちとこっちの距離が15mは開くのでして? これはさっさと追いつかないとヤバヤバなのですよ……? でも!」
 ルシアはにいっと笑う。
「120m以内はルシアの射程圏内でして!」
 ひとっとびだと豪語したとおり、彼女は矢のように飛んでいく。それすら凌駕する勢いで奴隷商人どもへ迫るのは、ベルナルドだ。
「おおおおおっ!」
 制御不能なブリンクスターと化した彼は、一息で彼我距離を食らい飲み干して、腹にたまった大喝を吐き出す。
「燃え上がれ赤よ! 駆け抜けろ黄よ! 吹きつけろ橙よ! やつらの心に焔を放て!」
 傭兵の数人が怒りに目の色を変え、ベルナルドへ向かっていった。
 ラミリオンと傭兵の合間に空隙ができる。メリーノはその間隙へおりたち、女傭兵へ殴りかかった。
「ほいっ!」
 あがる悲鳴、女は苦痛に顔を歪め、回復を詠唱する。
「あ、意外とタフ。もう! 本当は! めんどくさいのはすっごく嫌いなの! あなた達がね! めんどうなのよぉ!」
 腹を立てたメリーノが黒いアギトを召喚。漆黒から生まれいでたどす黒い牙が女へ食らいつく。くずおれる女へ回復が飛ぶが、もはや間に合わない。
「ふん、たんこぶで済ませてほしいならおとなしくするがいいのよ」
 恐れをなした傭兵がラミリオンだけでも逃がそうとする、が。
「やれやれ、欠伸が出るね。逃げる気ある?」
 ラミリオンの前方へ回り込んだのがアルヴァだ。
「あんまり時間を書けるわけにもいかなくてさ、迷惑なんだ」
 正直すぎるくらい正直な言い草は、けれど、どこか突き放した感触。うなるラミリオンを冷徹に見下し、H&C・M7360をかまえる。古来より聖剣と讃えられた輝きを帯びし弾丸が、ラミリオンの肩へ赤い花を咲かせた。悲鳴をあげるラミリオン。
「どうせ、逃がしたらまた同じことやらかすんだろ? なんで改心してまっとうな道を歩まないのかね? 俺にゃわかんねぇな」
 アルヴァの言葉へ耳を貸さず、逃走すべく抜け道を探していたラミリオンの視線が、黒い影をとらえる。それは音もなく近づいてくる。それは右腕に大切な妻を抱えている。それは、鬼灯という名だった。
「地獄に叩き落されても文句は言うなよ? 貴様はそれだけのことをしているのだからな」
 操り人形となったラミリオンが吐血する。呪縛が彼の体を蝕んでいた。ついで鬼灯は魔糸をよりあわせて作り出した鉤縄を投擲する。それはみごとに救出対象であるロウルへとからみついた。
 同時にルシアがラミリオンの体躯を思いっきり殴りつける。
「もっと真っ当で有意義なことをした方がいいと思うのです、よっ!!!」
 ラミリオンが吹き飛ぶ。鬼灯の支援を受けたショウ・ザ・インパクトの絶大な効果は、ルシアの圧倒的魔力を受けて奴隷商人をロウルから引き剥がした。
「よしっ! あとはもうぱぱっと抱えて飛んで逃げるのです!! うさぎは空を飛ばないけども脱兎のごとく、でして!!」
 魔砲少女はぐぬぬと唸る。腕の中のあどけない寝顔は、どこか苦しげだ。
「今日だけはこの子のためにずどーんは我慢ですよ! 本当でしたら殲光砲魔神で跡形も残さずずどーんしたいのですけども……! 今は優先順位ってものがあるのでして!」
 彼女はちゃーんとわかっていた。依頼において、各々が各々のなすべきことをこなすのが任務達成に求められる。その点、目標を見誤らなかった彼女は優秀だった。
「ラミリオンの旦那っ! おんどりゃあ、このビチグソどもがあああ!」
 傭兵が懐から麻袋をとりだし、白い粉末を撒いた。周囲に広がっていくそれに触れた瞬間、帳は意識にもやがかかるのを感じた。
「なにこれっ! ……なるほど、それが、事前情報にあったアンガラカだね?」
 意識がはっきりしているうちにと、帳はダーティピンポイントを放った。さらにスケフィントンの娘でもって包み込む。混迷の闇は、傭兵の体を蝕んでいく。その隙にラミリオンが逃げ出した。追おうとすると、他の傭兵どもが血走った目で立ちふさがる。
「邪魔だね、どいてくれないかなあ?」
 まとう気迫は赤の符牒。Code Redから、さらに極大火力、フルルーンブラスターが叩き込まれる。もはやどんな回復も意味をなさない威力に、傭兵が倒れていく。
 ベルナルドは叫んだ。
「逃げるな! ひきょうもの!」
 だがラミリオンの姿は暴徒の向こうへ消えてしまった。捨て石にされた傭兵どもが降参するまで、イレギュラーズは果敢に戦い続けた。


「救出がすみやかにすんだことを今は喜ぼうか」
 苦々しい表情で、ベルナルドはそう言った。ラミリオンに逃げられたのが相当悔しかったようだ。彼の中の正義が、悪を逃がしてしまったことを悔やんでいる。
 気持ちを切り替えるために、ベルナルドはクロッキー帳と芯の柔らかな鉛筆を取り出した。ささっと筆を走らせる。その視線の先には、目覚めたロウルを腕に大泣きしているルリーチェがいる。
「ああロウル、ロウル、おかえりなさい。おかえりなさい!」
「……まま。ママなの? えっと……」
 ロウルはまだゆめうつつだ。
 アルヴァが皮肉げな笑いを浮かべる。
「いつまでもおねんねしてないで、さっさと起きてやんな。だいすきなママが泣くほど心配してるんだ」
「……ママ、泣かない、で……」
 ロウルは重たげなまぶたを一生懸命開こうとしている。それを見てとった章姫がほっとしたように微笑んだ。
「ご無事で何よりなのだわ。鬼灯くん、がんばったのだわ」
「俺にできる当然のことをしたまでだ、章殿。……ロウル殿、怖かったな。もう大丈夫だ。お母上も心配されていた。今日のご飯はロウル殿の大好きなシチューらしいぞ、良かったな」
「……ママ、ママ」
「その調子なのでして! がんばるのですよ! 負けちゃだめでして!!!」
 ルシアがロウルの手を取って励ます。ロウルはふるえる手でルシアの繊手を握りしめた。
 ラミリオンの行方を調査すべく走り回っていた帳がもどってきた。
「……残念だけど手がかりは得られなかった。でも、まわりのひとは、静かになったよ。そこは安心していい☆」
「手当てを始めましょうか。皆さん、気絶しているだけとはいえ、このまま放置しているとまたよくないことが起こるかもですし……」
 リスェンは人々へ応急処置を施すべく立ち上がった。やさしい彼女らしい気遣いだった。
「目覚ましの歌でも歌おうか? あたらしいあさが来たってな」
 弾正がロウルへ微笑みかけた。ロウルもルリーチェの腕の中から微笑みを返す。ずいぶん意識がはっきりしてきたようだ。
 この調子なら大丈夫だ。小半時もすれば、立ち上がることができるようになるだろう。
「ルリーチェ殿と仲良く、手を繋いで帰るといい」
 弾正はその大きな手で、ロウルの頭を撫でてやった。
「みなさん、ありがとうございます、ありがとうございます、なんとお礼を申せばいいのか」
「泣きなさんな、うっとおしい。……はやく笑顔を息子へ見せてやれよ」
 アルヴァがそっぽをむいた。
 一方、メリーノは。
「この粉なんだったんだろう。アンガラカだっけ、良くない粉だよねえ。持ってかえろ」
 メリーノは傭兵の懐をあさり、革袋を取り出した。開いてのぞくと奥に白い粉状の物質が見えた。なにげなく匂いをかごうとして、ぐらりと視界が揺れる。
「うわっは、なにこれ! あぶないねえ」
 いそいで袋を閉じたメリーノは、いましましげに舌打ちした。

成否

成功

MVP

リスェン・マチダ(p3p010493)
救済の視座

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!
成功条件が複雑な中、たいへんがんばりましたね!
特に暴徒の被害ゼロはむずかしいところでしたが、みなさんたいへんすばらしい連携がとられておりました。成功です。

MVPは小さな勇気を胸に抱くあなたへ。

お付き合いありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。

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