シナリオ詳細
鉄帝ふぁんたじー物語<血染めの頭巾編>
オープニング
●物語は逃避行から
樹氷の森と呼ばれる地。そこには少数の集落が身を寄せ合って生きていた。
かつては役立たずの弱者として町を追い出された者達、それが偶然見つけた土地で猛威を振るう環境にもギリギリ耐えてこれまで血を絶やさずに来たのだ。
『血』とは、彼等をこの森へ導いたとされる長の血統を指す。弱者と罵られたかつての一族が受けた屈辱を忘れず、いつかこの土地を抜け出して復讐を遂げる事を夢見ているのである。
森とは名ばかりの、氷の柱が幾つも並んだ過酷な土地でひたすらに彼等は鍛錬と研鑽を積み。自然と戦い、未来に輝く勝利───悲願の達成を目指して。
……だが、そんな生活。人生に、生まれて来た者全てが納得して受け入れるわけではない。
ある集落で生まれ、育てられた少女は少なくともそうだった。
「──おばあさん、どうして私達は毎日氷を殴らないといけないの?」
「それはな。お前達の拳が鉄より硬くなる様にするためじゃ」
「──おばあさん、どうして私達は毎日野生の熊と戦わなければいけないの?」
「それはな。お前達の頭が獣と渡り合えるだけの勘を物にするためじゃ」
「──ねえおばあさん、どうして私は毎日薬を飲まないといけないの?」
「そんな事は気にしなくていい。『聞け、鉄の乙女』……」
募る疑問。疑問を口にする度に増える、薬草を煎じた薬。
頭がぼうっとする時間が増える。心が空虚になっていく感覚も重なって行く。
少女はいつまでこんな事が続くのだろうと思い続け、集落で『オサ』と呼ばれる祖母達の言う事を聞き続ける。そうしなければ怒られるし、薬は苦くて嫌いだった。
物心ついてからそんな生活に何かを思い。数年。
少女は或る日、体調の悪いの祖母の為に隣の集落へお使いに行かされる。酒と薬の入った籠を持たされ、道中で獣に襲われぬように森と同じ純白の頭巾を被らせて……。
急ぎだった。だが少女が樹氷に覆われた地を駆けながら息を切らせていると、突然彼女の前に一人の青年が現れた。青年は樹氷の陰から彼は少女を呼び止めると、彼は告げた。
「いっしょに逃げよう」
大きな耳。円らな瞳。長くてフサフサした尻尾。
狼の獣種である青年は首に着けられた枷と鎖を鳴らし、今ならば集落の者達はきっと気付かないだろうと、少女に逃げ出すという選択肢を提示して見せた。
差し伸べられた手は鉄騎の様な機械仕掛けの肉体程ではないにしろ、ゴツゴツしていた。
それでも少女は目の前に現れた彼の手に、自身の小さな手を重ねて取った。
「連れて行ってくれるの? オオカミさんが私を───」
青年は無言のまま力強く頷き、少女を抱き上げて走り出した。
●分岐運命点
紅茶に氷砂糖らしき物を入れた『黒猫の』ショウ(p3n000005)はイレギュラーズの視線に気付いた。
「やあ。最近の調子はどうだい? 俺は見ての通り近頃は『新しい味』って物を探求するのに少しハマっていてね」
よくあるだろう。何かいつもと一風変わった味を加えると新鮮な物に変わる、そういった挑戦をショウはしているらしい。ちなみに氷砂糖を入れた紅茶の味の程は「まあ甘いよね」らしい。
それはそうと、と彼は懐から書類らしき物を引っ張り出して卓に置いた。
「依頼だよ。特異運命座標に助けに来て欲しいらしい」
数日前、観光のつもりで無名の行商一家が鉄帝国を歩いていた。
しかし樹氷の森と呼ばれる土地へ近付いた際に野盗に襲われて物資や一人息子を奪われてしまったのだという。
本来は吹雪が激しい地域で、人が住める筈の無い地で賊はコロニーを作っているらしかった。
何故そういった内部事情が分かったかと言えば、攫われた行商の息子は獣種でありながら式神の扱いに長け、それで樹氷の森の外へ手文を出せたのだ。
これから更に数日後、様子を見てから彼は賊達の集落で毒を盛り、どうにか他に捕まっている少女と共に森の出口へ向かうつもりらしい。
カシリ、と音を鳴らして砂糖を噛み砕いたショウは言う。中々勇気あるよね、と。
「賊についてだけど、どうやらこれまでにも時折そういう略奪行為はしていたらしいね?
近隣の都市でこれと似た手口で襲われた商人が居たよ。おかげで動き易くなってる、楽な仕事だよね」
敵のステータスは山賊らしい獣皮を纏った装備、無骨な棍棒、或いは徒手。如何にも鉄騎種らしい脳筋装備だが、そこに特別な技量も能力も無い。特徴無き者が鍛えただけの剛腕だ。
決して敗北は無いだろうが、強いて留意すべきなのは救出対象の言だった。
「……気をつけてね。作戦の決行日に合わせてみんなには彼を助けに行って貰うけど、よくある話さ
“二人で逃げる” のと “一人連れて逃げる” は大きく違う。頭は良くても、きっと件の少年はそこに関しては素人だろう。手遅れにならないようにしないとね」
物語に分岐があるとするならば、『彼等』にとっての分岐は君達が間に合うかだろう。そうショウは言った。
- 鉄帝ふぁんたじー物語<血染めの頭巾編>完了
- GM名ちくわブレード(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年09月26日 21時35分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●赤く染まる
土地勘の不足は生来の『直感』と、得手としていた式神による誘導や五感共有によって補われている。
後は体力の問題。だがその点はより自信がある、伊達に行商の旅をして来たわけでは無かった。
……その考えはたった一時間と少しの逃走の間に誤りであったと実感した。
(もう……式神を維持できない。
この娘を抱きかかえて走るのも限界だ、心苦しいけど走って貰うしかない。
っ! 今の怒声は何処から聞こえた? くそ! 僕は何の為にこの娘を連れて逃げ出したんだ!)
全身から噴き出す汗は疲労から来る物ではない。
彼等を追うのは恐るべき未開の地に住まう鉄騎の民族、それも極めて閉鎖的な土地に籠って非人道的な洗脳や薬物で肉体を強化しようとしていた者達だ。
それがつまり、純粋な娯楽や社会的事情から盗賊に堕ちた者達よりどれだけ恐ろしい事か。恐怖から来る異様な疲労は想定外だった。
文明から離れた者の持つ狂気や暴力性は、時に人間らしさを忘れているがゆえに想像を絶する物があるのである。
それを今になって思い出してしまう彼を愚かと誰が言えるのだろう。
「オオカミさん……そっちの木!」
「ッ、っァ!?」
木陰から突如現れた人影に息を飲む間もなく脳天を打たれ、青年の悲鳴が短く響いて散った。
「……おおかみさん?」
飛び散る血潮が少女の頭巾を汚す。
衝撃が彼女の体を揺らし、ずり下がった頭巾が少女の視界を塞いでいた。
「ぅ、あああ……!!」
「こいつまだ動けるか!」
力任せの体当りで至近にいた男を吹き飛ばした青年はその場から全身全霊の疾走を果たす。
息を切らしていた彼の喉と肺は悲鳴を上げて。
恐らくは鉄騎種特有の物か、相当な重量の少女を背負い続けた足腰はミシリと鈍痛を訴えて。
「馬鹿め、ただのガキが我等より足が速いなどあるわけなかろう!」
「八つ裂きにして喰ってやる!」
狂乱の追手。青年は満足に走れず、直ぐに追い付かれてしまう。
(死にたくない! 死にたくない!
でも、でもこの娘があんなイカれた村で薬漬けにされてるなんてのも嫌だ!
だれか……誰か助けて……!!)
青年の耳元で唸る音は鈍器の類だろう。
最早背中に張り付いた暴力の気配から逃れる事は出来ず、彼はもつれる足が宙を離れたのと同時に目を閉じた。
しかし閉じた瞼の外では場違いな甲高い音や、自分ではない物が鈍い音と共に転がる様な音が鳴り響いただけだった。
薄らと瞼に隙間を作る。
「ギルド・ローレット、依頼を受けて参上した」
流れる緋色のマフラーが視界の中を漂う。
次に目に映ったのは青年達の前で大盾を翳して庇う仮面の女騎士。
「──しっかりと助けを呼ぶ声、聞こえたでありますよ。
我が名はティム・グリムゲルデ! 鉄帝の騎士として弱者を守る盾であります!」
●白銀の中で
高度数十メートル、地上の雪面からの照り返しにゴーグル越しに目を細めた『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)はその両翼からヒラリと舞い落ち行く羽根を見送りながら、眼下の景色を眺めていた。
(雪は、嫌い。光も音も遮る。無明の闇より何より、降り積もる白銀がこの世でもっとも寂しい景色。
───降ってない時は単純に眩しい。きらい)
ほう、と。白い吐息が風に消えて行くのを見送り、彼女は仲間達が見えなくなる所まで行かずに少し移動しながら地上を観察し続ける。
落ちて来た羽根をチラと見つつ、いつの間にか傾きつつある陽の向きを思い地上で捜索を続けている一行は僅かに焦りを感じ始めていた。
『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)は足元の雪が半ば凍結していて足跡も残せそうに無い事を確認し、舌打ちを一つして辺りを見回す。
「こりゃ急いだ方が良さそうだな」
「足跡もないからなぁ」
彼の隣にいるのは『ノベルギャザラー』ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)に頼まれて来たダチコー、緑風の猫ジュノーである。
彼等の察知した内容に大凡の見当がついた『仮面の守護者』ティナ・グリムゲルデ(p3p006585)は真剣な表情で首を傾げる。
件の青年が式神によって途中まで誘導していたのも一時間前。その導きは長く続かず、式神となっていた文は崩れてしまっていた。
「……救援要請にはしっかり応えたいねぇ、早いとこ合流と行こうぜ」
その崩れた文をジョゼが手に、読み取ったのは青年が蛮族も同然の村人をただただ恐れ、そして偶然目にしただけの少女を救い出したいという思いだけだった。
疎通としては弱い情報と記憶の断片。
ティナはその話を聞いて故郷である鉄帝でこんな信じられない悪が潜んでいる事に憤慨し、一刻も早く彼等を救出しようと急いでいる。
「貴族であり騎士である自分も皆様と協力して悪を成敗し、救出対象者達を守るでありますよ!」
「略奪と呼ばれる行為を行ったならば、報復を受け止める覚悟は必要でしょう。それが、生き延びるための手段でしかなかったとしても」
パキリとつららを折って観察していた桜咲 珠緒(p3p004426)もそれに同意する。
「早く見つけてあげないとね」
「どうだったっすか?」
其処へ大きな翼を広げ降り立つミニュイ。
『双色の血玉髄』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)は上空からの捜索を頼んでいた彼女へ周囲に何か見つかったか訊ねた。
ミニュイは首を縦に振って応える。
「近くに足跡や痕跡は無かった、けど。
上から見て不自然に樹氷が切り倒されてる部分があったんだ。多分、例の賊が使ってるルートかもしれないね」
「そこだな。それを辿れば連中か救出対象が見つかるだろう」
「でも、急ぎたくなっちゃうけどこういう時こそ落ち着いて行動しないといけないよね。みんな気をつけて行こう」
「ああ」
『GEED』佐山・勇司(p3p001514)がゴーグルを外して樹氷の森を見渡して言った言葉に冷静に頷く『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)。
手近な樹や樹氷の表面に傷や目印となる物を刻む勇司を見つめ、スティアはその手に持つボードへ道中の簡易地図を作製と同時。逐一ミニュイが上空から俯瞰して報告して来る内容を基に森の先に続く想像図も書き記して行った。
時折その地図には珠緒が隠されている道を見つけ出しては書き加えられて行く。
粛々とこなす彼女は物静かな気配を纏ってはいるが、その表情はどこかムズッとしたものになっている。
彼等イレギュラーズは最後尾に飛行しているミニュイを置き、それぞれロープを荷物や装備、あるいは手に持って繋がり共に行動している。
行先がハッキリした以上のんびりと歩くわけにも行かない。
仮にこうして散らばる事を避けた隊形にしていなかったなら、上空から俯瞰する事が出来るミニュイと捜索を共にしていなかったなら。
恐らくは間に合わなくてはならない時に、駆け付ける事は叶わなかったのかもしれない。
眼前に広がる樹氷の森はその並び立つ樹が下地である雪面と合わさり、視界を埋め尽くすのは例え通り過ぎた木々だろうと景色に溶け込んでしまい判別が非常に難しくなるからだった。
間もなくして、彼等はそんな中で必死に助けを請う青年の声を聴いた。
●切り裂く朱い爪
青年に追い着いた大柄な男がその手に持った棍棒(メイス)を振り下ろした瞬間、青年を飛び越えて舞い降りた大盾によって弾き返される。
その身に纏う月の色を有した姿を捉えるや否や、一気に後続の男達が囲もうとする。
まるでその動きに反する様に内側で扇形に躍り出て並んだイレギュラーズ。数は蛮族風の男達が勝る、青年と少女を囲む形で並ぶヴェノム達は互いに目配せして頷く。
場が動きを止める隙を、考える暇を与えぬように。勇司が背中から振り抜いた大盾をティナの隣で並べると同時、その影に隠れ一気に前へ出て跳躍したミニュイが直近の敵の全身を目にも止まらぬ速度で打ち抜いて薙ぎ倒した。
「……!!」
場慣れしている。その匂いを察した男達は精悍な身体つきの男を中心にミニュイや勇司達を中心に広がる。
精悍な身体つきの男は岩を削って作ったらしきナックルを構えて首を傾げた。
「ギルドローレット……何者だ。その娘をなぜ狙う?」
「おいおい、知らないのかよ? どんだけ田舎者なんだ、今や話題の魔種もぶっ倒すツワモノどもって奴だぜ?
鉄帝の奴等なら涎垂らして話を聞いてそうなもんだけどなぁ!」
サンディの軽口が男達の眉を動かす。
「……あの神託がどうとかいう、なるほど暇な連中だ。
そこの小娘は我等一族が『強き者』を討ち滅ぼす為、悲願を成就せんとする為に生まれた子なのだ。
アンゼルネ、こっちへ戻って来い。お前には大事な使命の為にその身を捧げる役目があるだろう? 『オサ』の話を忘れたのか」
男はティナと勇司が背にして護っている、アンゼルネと呼ばれた少女に向かって語りかける。
少女は青年と繋いでいる手を見てから、男の方を見て首を傾げた。
「さあ、早く……お前ならそこの二人など蹴散らす事も容易い筈だ」
「なっ……!?」
イレギュラーズに微かに緊張が走る。
しかし、少女は……青年の手を握って赤く染まった頭巾を深々と被って沈黙した。
それが、彼女の答えだった。
「~~! き、さまァ……!!」
凛、と。
静かに珠緒がその手に独鈷型の聖遺物を揺らし、激昂する男の前に現れる。
「心は消え、魂は消え去り、全ては此処にあり──其は、全てを越えゆくものなり」
そも、話が通じる相手ではない。そう結論付けた彼女はその両手に禍々しくも美しい、赤い爪を有した手甲が形成され顕現する。
完全な戦闘態勢に入ったのは珠緒だけではない。既に他のイレギュラーズも同様に構えている。
誰かが一歩でも動けばそれが合図となる。
その空気の中、不意にジョゼが「なぁ!」と叫んだ。
「オイラはうっすら話は聞いてるぜ! こんなまだ幼い女の子に薬とか洗脳とか、お前ら根本的におかしいぞ!」
「そうだそうだ!」
「あ、ちょっと待った。ダチコーにそっちの人達下がらせて貰うから」
「了解。おいお前らちょっと待ってろよな!」
ダチコーがせっせと青年達を連れて下がること数秒。
何故かその様子をその場に居た全員が見届けて数十秒。
謎の空白の間が場をシンとさせる最中、ハッと気づいた精悍な身体つきの男が眼を血走らせて叫んだ。
「お前達何をボーっとしてるんだ!! 殺せぇッ!!」
慌てて一斉に飛び掛かる男達。
「何だか知らないが今の流れ最高だぜジョゼ!」
「え? 今のオイラ関係なくね?」
軽口を言い合いながらも動いているのは流石だろう。ジョゼは退避する青年の頭から血が滴り落ちているのを見てヒールを飛ばした。
同時に軽快な跳躍で後退したサンディは、退避するダチコー達を狙った敵の攻撃を受け止めに行ったのだ。
早くも鳴り響く甲高い音が辺りの樹氷から伸びる氷柱を揺らす。
「『外』に目を向けなきゃ強くはなれねーとは思うんすけどねぇ。どうした処で変化が無い」
死角から殴りかかって来た賊をヴェノムは軽々と背から一気に突き出された触腕で弾くと、地に突き立てた剣を軸に回転し男の脇腹へ掌底を打ち込む。
肺から空気が押し出され仰け反った男は、ヴェノムを睨みつけて棍棒を振り上げようとする。
だが、その刹那視界を閃光が埋め尽くして紙切れの様に吹き飛んだのだった。
「…… “敵” ちゅーには、まぁ、物足りないすからねぇ」
辛うじて瀕死に留まった男を見やりながら、彼女は続く二撃を躱す。珠緒二人一組での挟撃、背後から駆けて来る気配に彼女は冷ややかな瞳で触腕に剣を噛ませる。
そして。
「じゃ、そっちは任せたっス」
「ええ、ではお任せを」
背中が一度触れ合う。
直後珠緒の衣がはためく、地を蹴り、地を這う様に跳んだ彼女の両爪が朱い一閃を描いて男達を切り裂く。
同時に徒手で棍棒を受け流してから斬りつけ、剣を勢いよく振り下ろした触腕によって高々と飛び上がったヴェノムを見上げた男はその胸元へ爆彩花を受け叩き伏せられる。
「チィィッ!? 何をしてる! 鍛錬を忘れたのか、貴様等はそんなにも軟弱ではないだろうが!!
早く……はやく、あのクソガキを連れ戻さなければぁぁああぁぁ!!!」
精悍な身体つきの男が眼を血走らせ猛然とスティアへ躍りかかる。
「わっ、っと……!」
どうやらこの男だけは妙に技にキレがあるらしい。思いの外、スティアは自身の指輪から展開した結界障壁で防ぎながらジリジリと後退を促されてしまう。
だが、その連撃が途中で止まる。
再び邪魔に入ったその姿に男は再度怒号を上げた。
「また、邪魔をするか下郎が!! あの小僧といい、邪魔ばかりしやがって……貴様らに何の関係がある!」
「あの嬢ちゃんがお前らの何かは知らねーよ。だがな、アイツの手を取ったのは確かだ。
だったら守る理由としてはソレで十分なんだよ……来な、俺がお前達の壁だ」
「ほざけ!!」
勇司が片手でマフラーを一度巻き取ると、眼前に振り下ろされた岩の拳を盾で弾き。次ぐ回し蹴りを曲刀の腹で受けて盾で打つ。
幾度かの火花が散らされた最中に割り込むのはティナだった。
「あの子達は安全圏まで逃げたであります! 助太刀を!」
「心強いッ」
咄嗟に前へ出た勇司が初撃を受け、その盾を踏み台に飛んだティナがシールドバッシュによる打撃を顔面に打ち込んだ。
呻き、ふらつく様子を見せる男がその後反撃に出られる事は無かった。
●血に染まった物
ヴェノムは立ち上がる男達に聞いた。
かつて弱者と罵られ当時の世から、都から追い出された者達が居た事。
その地は今も尚、この閉ざされた地で継がれて力を蓄えようとしている事。
あの少女は自分達『踏み台』となった世代達の悲願、磨けば名のある戦士と並ぶ素質があると言う事。
「……なんとまぁ、傷の舐め合いで己を誤魔化して来たもんすね。
幸か不幸か『外』に目を向ける奴が出たってのは良い機会だと思うんすけどねぇ」
弱い。技量は無く、反応は鈍く、硬くも鋭くも無い。
しかし執念は確かだった。ヴェノムの一撃一撃を全て受けても暫く倒れない我慢強さ、耐久力は相当の物だった。
腕力も相応にあった様に思う。
だが結末は『それだけ』で終わってしまった。
成そうとするばかりに拘った彼等は彼女の言う通り、外の世界が持つ無限の『可能性』を捨て去ってしまっていたのだ。
「うそだ、ろ……ッ!?」
腕が崩れ落ちた瞬間、若い男の悲鳴が響き渡る。
スティアに不用意に近付きすぎた彼は、隙を突いて割り込んだサンディに弾き返され。その刹那に呪術の類を受けたのだ。
初めて見る光景に恐れ戸惑う彼は戦意を喪失し、そのまま背後に踏み込んで来たジョゼに魔力撃で打たれて倒れる。
彼等の視線が移る。
最早残り僅かとなった男達。賊は四人で固まって円陣を組んで応戦していた。
「大人しく投降……しないなら仕方ないね」
しかし、予想だにしない圧倒的さを前にそれも風前の灯火に等しかった。
薙ぎ払われた石造りの棍棒を軽々と飛び越えたミニュイの膝蹴りが顎を打ち上げる。
刹那。一呼吸の間に踏み込んで来た二人の賊が繰り出す暴力を、翼を広げ瞬きの飛翔を見せたミニュイは容易く躱して反転する。
距離感が狂う。
否、そこで男達は眼前に盾を構えている勇司や朱い爪を翼の様に伸ばして駆けて来る珠緒に気付いた。
距離感や視界が狂っていたのは彼等の方だったのだ。
囁くような、甘く、深い冷たい歌が流れて来る。
艶のある唇を動かしミニュイが紡いだ歌。その声に魅了された男達は為す術も無く倒されるのだった。
●
ずるずる、と。
「お疲れ様であります!」
生き残った男達を捕縛して引き摺るティナは小さく敬礼して仲間へ労いの言葉を贈った。
漸く森の出口が見えて来た所で、一行は微かに疲れを覚え始めていた。
「此処までよく頑張ったな。腹は空いてるか? 何か食べるならあるぜ」
「あ、それ私も欲しい……んん! 何でも無いよ!」
勇司が狼の青年と頭巾を被った少女の二人を安心させると懐から軽食を差し出す。
そのシーンを目撃したスティアが何か言いかけるが、何でもないと首を振った。今は先頭に立って皆を出口まで誘導するという重要な役があるのだ。
「放置するわけにも行かないから連れて来ちまったけど、良かったのかな?
一応あいつらの集落の出身なんだろ?」
「おいおい、レディの旅立ちは祝うもんだぜ。そっちの狼さんが面倒みるっぽいしな」
サンディ達の会話に頷くのは今回依頼対象の退避に一役買ってくれたジュノーだ。
「これからあの集落はどうなるんだか」
「やってた事が事っすからね。討伐隊とか、外の人間にボコボコにされれば、自分達のやり方が不味いのに気づくんじゃないすかね。
まぁこの娘っ子とか闘技場につれてきゃ結構、面白いかもすし。『復讐』に一役買うかも知らんすよ?」
未だに何処かきょとんとしている少女をヴェノムは見つめ、直ぐに視線を外す。
本当に戦いの道へ進むのなら血に濡れる事は否めない。
だがそこにあるのがもしも、『それだけ』ではないのだとしたらどうだろうか。
少なくとも少女は妄執に踊らされる事無く運命から脱した。
可能性を掴んだ先にあるものは何か、それはイレギュラーズだからこそ分からない。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
一つの依頼が成功し、また一人の少女が可能性に触れる事が出来ました。
お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
またの機会をお待ちしております。
GMコメント
脳筋物語、第二弾。
☆果たしてイレギュラーズは頭巾の少女と狼の青年を救えるのか……!
以下情報。
●依頼成功条件
青年の救出
●情報精度B
テレパス等の能力で特定の人物に何らかの接触をすると……?
それ以外に不測の事態は絶対に起きません。
●樹氷の森
広大な範囲に枯れ木が吹雪によって凍り付き聳え立つ、とてもまともに人が生きられるとは思えない地。
吹雪が止んでいる時期でも雪は残っており、非常に寒いです(HP-2%)
また、上記の環境もあって景色は一見すると全て同じに見えます。バラバラになり過ぎると合流できなくなる可能性があります。
プレイング内容で捜索判定をします。
●賊達×12
特筆するほどの能力はありませんが、土地勘があり至近攻撃に自信があるようです。
●頭巾を被った少女
青年が連れ出そうとしている鉄騎の少女。彼は捕まっていたと言うが、調べても少女の素性は不明の様です。
最優先は青年ですが、彼女も救出できるならば助けて損は無いでしょう。
以上。
森で獣が敵として出て来る事は無いです。
皆様のご参加をお待ちしております。
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